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(今はまだ、あいつの家でしか…)
 デートは出来ないわけなんだが、とハーレイは恋人の顔を思い浮かべた。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
 今日はブルーに会えずに終わった。
 学校でも姿を見掛けていないし、仕事帰りにブルーの家にも行けてはいない。
 残念な気持ちで一杯だけれど、土曜日が来たらデートが出来る。
 ブルーの家の庭で一番大きな木の下、其処で二人でお茶を楽しむ。
(すっかり定番になっちまったなあ…)
 庭でのデート、と白いテーブルと椅子で過ごすティータイムを思い出す。
 天気がいい日の午後の定番、外が駄目ならブルーの部屋で、二人きり。
 今の所は、それが精一杯の恋人同士だけれども、いずれはデートが出来る日が来る。
 ブルーの家の庭の垣根の外の世界へと、繰り出してゆける。
(俺が迎えに行ってだな…)
 出て来たブルーを愛車に乗せて、色々な場所へ出掛けてゆく。
 お茶を飲むのも、喫茶店とか、雄大な景色を眺めながらのテラス席とか。
(遠出するなら、道もあれこれ考えて…)
 ブルーが喜びそうなルートで、目的地まで走ってゆくのがいいだろう。
 休憩場所が豊富にあって、様々なものに出会えるルート。
 店はもちろん、野生の動物や鳥が見られるとか、そういった道を選ばなくては。
(せっかく、俺たちのためだけのシャングリラで…)
 走るんだしな、と愛車でのドライブに思いを馳せる。
 今の自分が乗っている車は、ブルーと二人で乗れる日が来たら、シャングリラになる。
 白い車に買い替えるまでは、濃い緑色の車体だけれども、気分は白いシャングリラ。
(前のあいつを、シャングリラで…)
 青い地球まで連れてゆくのが夢だったのに、それは叶わずに終わってしまった。
 だから今度は、今のブルーを、今ならではのシャングリラに乗せて、地球の上を走ってゆく。
 青く蘇った水の星には、車のための道路が敷かれているのだから。


 待ち遠しいな、と楽しみでたまらない、ブルーとのデート。
 まだ何年も待たされてしまう、ブルーとデートに出掛けられる日。
 なにしろブルーは、十四歳の子供でしかない。
 背丈もまだまだ子供のそれで、デートもキスも、今のブルーとは出来ないけれど…。
(あいつの背丈が、前のあいつと同じになったら…)
 晴れてデートもキスも解禁、そうなれば早速、デートに誘うべきだろう。
 まずは二人で、ブルーの家の垣根の外の世界へ出てゆき、お茶や食事をする所から。
(外の世界を、うんと堪能した後で…)
 ブルーを家まで送り届けて、「おやすみなさい」のキスをする。
 車を降りる前のブルーに、「忘れ物だ」と、唇に。
(…初めてのキスは、そんなトコだな)
 それが一番自然だろうさ、とマグカップの縁を指でカチンと弾く。
 ブルーが欲しがっている唇へのキスは、恋人同士のそれだけれども、初デートでは…。
(贈るのは、ちと早すぎだろう)
 もっと、時間をかけたいよな、と思ってしまう。
 キスを贈る場所も、それに時間も、選び抜いてのキスがいいんだ、と。
(そうは言っても、こればっかりは…)
 その時々で変わりそうだし、最初のデートで贈ってしまう可能性もゼロではない。
 「こんな筈ではなかったんだが…」と思う展開、それが来ないとは限らないから。
 選び抜いたデートのコースなのだし、そういうことも起こり得る。
 あるいは途中でコースが変わって、恋人同士のキスに相応しい場面が来てしまうとか。
(なんたって、俺が一人でドライブするんじゃないんだし…)
 一緒に出掛けるブルー次第で、コースも行先も変化する。
 ブルーが窓から見付けた何かが、コース変更のための標識代わり。
 「あのお店に入ってみたいんだけど」と指差されたなら、その店へ。
 「あっちの道だと、何処に行けるの?」と質問されて、答えた結果がコース変更だとか。
 そうやってルートやコースが変われば、シチュエーションだって変わって来る。
 恋人同士のキスが相応しい雰囲気になったら、それを無視して帰るのは…。
(俺も惜しいし、ブルーも黙っちゃいないだろうしな?)
 予定変更になっちまうんだ、と苦笑する。
 「計画通りにいくかどうかは、分からないよな」と。


 初めてのキスは「おやすみなさい」か、恋人同士のキスなのか。
 今のブルーと過ごす未来は、その辺りからして全く読めない。
 きっと「その時」がやって来たなら、色々なことが起きるのだろう。
 まるで予想もしていなかった、「こんな筈では」と困ってしまうようなことだって。
(はてさて、困るようなヤツとなったら…)
 何があるやら、と首を捻って、その瞬間にハタと気付いた。
 実にとんでもない、困るより他にどうしようもない、未来のデートで起きそうなこと。
(…あいつにデートを申し込んだら…)
 断られちまうこともあるんだよな、と「その可能性」に愕然とする。
 ブルーにも予定などがあるから、どんな時でもデート出来るとは限らない。
(店を予約して、コースの方も練りに練って、だ…)
 自信満々で申し込んだら、「ごめん」と返事が返って来ることもあるだろう。
 「その日は、友達と出掛ける予定になっているから」と、先約の方を優先されて。
(…今現在のあいつだったら、そういう時には、友達の方を断って…)
 恋人を選ぶと思うけれども、未来のブルーとなったら違う。
 「ハーレイとデート」は普通なのだし、断っても、また別の日に行ける未来のブルー。
 ゆえに、定番の「ハーレイとの休日」を過ごすよりかは、友達と何処かに出掛ける方を…。
(選んじまって、俺と一緒に出掛けるデートは、またの機会に…)
 なっちまいそうだ、と容易に想像がつく。
 「ごめんね」と小さく肩を竦めて、「また誘ってよ」と微笑むブルー。
 「その日はダメだから、また今度ね」と。
(…うーむ…)
 本当に有り得る話なんだが、と気付かされたら、その後の自分が気になって来る。
 ブルーにデートを申し込んだのに、断られてしまった未来の自分。
 「断られたら、どうするんだ?」と。
 店を予約し、あれこれ考え抜いたコースも、「また今度ね」と言われた時の自分のこと。
(考え直してくれ、なんて言えるわけが無いし…)
 そこは大人ならではの余裕を見せて、「そうだな、友達と楽しんで来い」と言うべきだろう。
 「その日は、俺も好きにするから」と、「気ままにドライブしてくるかな」とでも。


(……しかしだな……)
 ブルーの前では笑顔で大人の余裕たっぷり、それで済ませて家に帰っても、その後の自分。
 さぞやガッカリしているのだろう、と考えなくても分かってしまう。
 ブルーの喜ぶ顔が見たくて、わざわざ店を予約したのに、それはキャンセルするしかない。
 考え抜いたデートのコースも、一人で回るには、向いてはいない。
(何もかもが、パアというヤツで…)
 肩を落とす自分が、目に見えるよう。
 「ブルーとデートだ」と思っていたのに、デートどころか、一人で過ごす休日になる。
 その上、予約を入れた店には、キャンセルの連絡をしないと駄目で…。
(すみませんが、都合が悪くなりまして、と…)
 係に通信を入れる時にも、声が沈んでいることだろう。
 キャンセル料などはかからなくても、「ブルーと行けなくなってしまった」結果だから。
 ブルーと二人で食事のつもりが、その店に「その日は」縁が無かった。
 「また今度ね」と言われたのだし、次の機会はあるのだけれども、その日は行けない。
(…なんでその日にしちまったんだ、と…)
 予約を入れた自分を詰って、「先にブルーに聞くべきだった」と嘆くことしか出来ない結末。
 その店が「いい店」であればあるほど、ショックは大きくなることだろう。
 なかなか予約が取れない店とか、次の機会では食べられない料理が目当てだったとか。
(先にブルーに聞いておいたら…)
 断られる心配は無いわけなのだし、未来にデートをするとなったら、それが一番とも言える。
 「その日は空けておいてくれよ」と、ブルーに予約を取り付けておけば安心だけれど…。
(…デートの度に、ブルーに予約をするというのも…)
 なんだか大人げない気がする。
 それではブルーを「縛る」わけだし、ブルーも自由が減ることだろう。
 友達同士で出掛けるなどは、ブルーの年なら「思いつき」だけで決まりがち。
 デートに行こうと誘う頃には、ブルーの年は十八歳になっている。
 ブルーは「ハーレイのお嫁さん」が夢だし、上の学校には行かないけれども、友達は違う。
 恐らく全員、上の学校に進学するから、休日ともなれば、本当に「思いつき」だけで…。
(ドライブしようとか、旅行しようとか、当日に思い付いたって…)
 実行しそうな連中だから、ブルーを「予約」で縛れはしない。
 「空けておいてくれ」と言ったばかりに、友達と出掛けるチャンスを逃しそうだから。


(ブルーに予約を入れるとなったら、せいぜい、数日前ってトコで…)
 もう、その日には、友達との予定が入ってしまっているかもしれない。
 前の週から「空けておいてくれ」と頼んでおいたら、入らなかった「何か」が入って。
 友達と何処かに旅行するとか、ドライブに出掛けてゆくだとか。
(…俺がデートを申し込んだら…)
 「ごめんね」と済まなそうな顔のブルーに、デートを断られてしまう。
 そんな未来も有り得るのだ、と気が付いてみても、ブルーを「縛る」わけにはゆかない。
 たとえ自分が打ちのめされても、ションボリする羽目になったとしても。
 「断られちまった…」と溜息しか出なくて、休日を一人で過ごすより他はなくても。
(…ブルーを縛れやしないしなあ…)
 断られたら、大人の余裕で「また今度な」と言うしかない、と溜息が一つ、零れ落ちた。
 「なんてこった」と、「断られることも覚悟しておけってか?」と。
 ブルーと過ごす未来のデートは、全て薔薇色ではないらしい。
 時には赤信号が点って、デート自体がお流れになる。
 どんなに頑張って準備したって、店を予約し、コースを練っておいたって。
(…仕方ないとは、分かっちゃいるが…)
 頼むから、プロポーズの時だけは勘弁してくれ、と祈るような気持ちになって来た。
 「プロポーズの予定で練り上げたプランがパアになったら、どん底だぞ?」と。
 そうならないよう、ブルーに予約を取り付けておけば、安心安全になるのだけれど…。
(…プロポーズってヤツは、サプライズが基本なんだよなあ…?)
 それでこそ感動も大きくなるってモンなんだ、と分かっているから、そうしたい。
 ブルーに予約なんかはしないで、「デートしないか?」と持ち掛けて。
(店を予約して、コースを練って…)
 プロポーズのデートを断られたら、どうしよう、と本当に溜息しか出ない。
 絶対に無いとは言えないから。
 それが嫌なら、ブルーに予約をするしか無くて、サプライズの感動がグンと減るから。
(…そうした結果、断られたら…)
 泣いてしまうかもしれないな、と思うものだから、祈るしかない。
 「その時だけは、上手くいくように」と。
 未来の自分の運がいいことを、それに神様が意地悪な気分にならないことを…。



            断られたら・了

※ブルー君が前と同じに成長したら、ハーレイ先生とデートが出来るわけですけれど。
 そのブルー君の都合によっては、デートを断られてしまう可能性。ハーレイ先生、大丈夫?








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「ねえ、ハーレイ。体調管理は…」
 大切なんだよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、思い付いたように。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「うん? 急にどうした?」
 体力づくりでもするつもりか、とハーレイは笑った。
 今のブルーも身体が弱くて、寝込むことが多い。
 すぐに体調を崩すものだから、ハーレイの方も気を遣う。
 無理をして起きていたりはしないか、尋ねたりもして。
 それだけに、ブルーの口から、体調管理と出て来ると…。
(これはなかなか、いい傾向だぞ)
 三日坊主に終わるにしてもな…、と笑みが零れてしまう。
 ブルーが自分で努力するなら、それが一番なのだから。
(はてさて…)
 何を始めるつもりやら、とブルーの瞳を見詰めて尋ねた。
 「そいつは大いに大切なんだが、何をするんだ?」と。
 「言い出すからには、心づもりがあるんだろ?」とも。


 問われたブルーは、意外にも「うーん…」と首を捻った。
 どうやら、具体的なプランを立てたわけではないらしい。
「えっとね…。それをハーレイに訊こうと思って…」
 大切なのは分かっているんだけれど…、と赤い瞳が瞬く。
 「どうしたらいいのか、分からなくて」と困ったように。
(なるほど、なるほど…)
 初心者と言えば初心者だよな、とハーレイは納得した。
 前のブルーもそうだったけれど、今のブルーも…。
(気力だけで生きている、って部分があるからなあ…)
 身体には無頓着なんだ、と心の中で頷く。
 前のブルーにうるさく言っても、無駄骨だった。
 「無茶をするな」と止めても聞かずに、無茶ばかり。
(今のこいつも、そういう所は全く同じで…)
 ついでに頑固と来たもんだ、と嫌と言うほど知っている。
 熱があろうが、歩けないほどフラフラだろうが…。
(学校に来ようと頑張った挙句に、倒れちまって…)
 何度、病院のお世話になったか分からない。
 それでは、体調管理なるものをしようとしても…。
(分からないのも当然だ、ってな)
 初心者なんだし、と理解したからには、指導しないと。
 どうすればいいのか、初歩の初歩から。


「よし。俺の生徒になったつもりで、よく聞けよ?」
 そう言ってから、ハーレイはプッと吹き出した。
 つもりも何も、今のブルーは本当に教え子なのだから。
「なあに、ぼくの訊き方、変だった?」
 ブルーの問いに、ハーレイは「いや…」と苦笑する。
「すまん、すまん。お前は俺の生徒だっけな、初めから」
「そうだよ、ハーレイの学校の生徒!」
 ハーレイは担任じゃないけれど、とブルーは残念そう。
 「クラス担任なら良かったのに」と、肩を落として。
「おいおい、俺は途中から転任して来たんだし…」
 担任は持っちゃいないだろうが、とハーレイは返した。
 「俺の担当は、今の所は柔道部だけだ」と。
「うん、分かってる。…って、柔道部の生徒のつもり?」
 それは流石に無理なんだけど、とブルーは途惑う。
 「あんな頑丈な部員並みのヤツ、ぼくには無理!」と。
「いや、そこまでは…。俺が言うのは基本だ、基本」
 まずはしっかり寝ることだ、とハーレイは言った。
 それから食事で、きちんと栄養を摂らないと…、と。


 食事と睡眠、これが体力づくりの基本。
 本当は運動も大切だけれど、ブルーには、まだ…。
(ちと早すぎて、下手に言ったら逆効果…)
 無理に運動しちまうからな、とハーレイは先を考慮した。
 ブルーの場合は、食事からして問題がある。
(今のこいつも、小食すぎて…)
 バランスよく食うのも難しいぞ、と分かっている。
 ブルーが真面目に取り組むのならば、メニューの方も…。
(指導した方がいいかもなあ…?)
 理想の朝食はこれ、といった具合に…、と腕組みをする。
 出来ればそのようにしたいけれども、問題は…。
(飯を作るのは、俺じゃなくって…)
 ブルーの母の役目なのだし、口を出してもいいのか否か。
(これが柔道部の生徒だったら、親の方も、だ…)
 心得たもので、言われた通りにするのだけれど…。
(うーむ…)
 考え込んでいると、ブルーが「心は?」と尋ねて来た。
 「心の方も大切だよね」と、ニコニコして。


(…そういうことか…!)
 体力づくりにかこつけて、とハーレイは眉を吊り上げた。
 ブルーが本当に言いたいことは…。
(…俺にキスしろとか、デートしたいとか…)
 その手の注文だったんだな、とピンと来たから突き放す。
 「いやいや、まずは睡眠からだ」と。
 「それから飯をきちんと食うこと、其処からだな」と…。



          体調管理は・了







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(今日はハーレイ、来てくれなかったんだけど…)
 学校でも会えなかったんだけど、と小さなブルーが頭の中に描いた恋人の顔。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は会えずに終わってしまった、前の生から愛した人。
 姿さえも全く見られないままで、下校の時間になってしまった。
(おまけに、家にも来てくれなくって…)
 どんなスーツを着ていたのかも分からないや、と残念だけれど、じきに明日が来る。
 ベッドで一晩ぐっすり眠れば、明日の朝がやって来るのだから…。
(明日には、きっと会えるよね?)
 会えない日はそんなに続かないから、と思考を前向きに切り替えた。
 今日のハーレイは、多分、忙しかったのだろう。
 柔道部の部活が長引いたとか、急な会議が入っただとか。
(…他の先生たちと食事に行った、っていう可能性もゼロじゃないけど…)
 それも仕方のないことだろう。
 ハーレイは「ブルーの恋人」だけれど、ブルーが通う学校の古典の教師でもある。
 先生同士の付き合いの方も、やはり大切にしなくては。
(それに、ハーレイに会えなくっても…)
 他の誰かに盗られちゃうことはないものね、と唇に笑みを湛える。
 なんと言っても、前の生からの恋人同士な二人なのだし、お互い、運命の相手。
 青い地球の上で新しい命を貰って、今度こそ一緒に生きてゆく。
(これが普通の恋人同士、っていうヤツだったら…)
 今日のように会えずに終わった時には、気が気ではないことだろう。
 「ハーレイ、今日は何の用事があったんだろう」と詮索だってするに違いない。
 本当に学校の用事だったのか、他に何かがあったのか、と。
(…ぼくの知らない、他の誰かと…)
 食事に出掛けてしまったのなら、それは由々しき問題と言える。
 「ブルーよりも優先される、誰か」が、ハーレイの周りにいるのだから。
 家で待っている恋人を放って、その人と出掛けてしまうほどに価値のある人が。


(そういうの、確か、恋敵、って…)
 言うんだよね、とブルーは首を竦めた。
 「そんな人がホントにいたら大変」と、「恋敵がいなくて良かったよ」と。
 ハーレイは「ブルー」しか見てはいないし、恋敵などは出て来ない。
 会えない日だって安心、安全、誰かが奪って行ったりはしない。
(ぼくと再会する前だって、恋人なんかはいなかったんだし…)
 この先だって、恋敵などは現れない。
 前の生の記憶が無かった間も、ハーレイは誰にも心を奪われなかったのだから。
(普通の恋人同士じゃなくって、ホントに良かった…)
 でないと心配で堪らないもの、と「今日のハーレイ」について考えてみる。
 「他の誰か」が関わっていたら、心穏やかではいられはしない。
(柔道部の生徒は、ただの教え子だったとしても…)
 教師仲間の中の一人が、ハーレイに夢中になっていたなら、危ないどころの話ではない。
 毎日、学校で顔を合わせる分、「その人」は「ブルー」よりも遥かに優位。
 昼休みだって、「ハーレイ先生、一緒に食事にしませんか?」と声を掛けられる。
 仕事が終わった後は当然、夕食に誘うことだって可能。
 場合によっては家に招いて、手作りの御馳走を出すことさえも。
(…危なすぎるから…!)
 そんな人がいたら、盗られちゃうよ、とブルッと肩を震わせた。
 「待つことしか出来ない」チビの自分は、「ハーレイの同僚」に負けそうな感じ。
 いくらハーレイが「ブルー」に恋をしてくれていても、気持ちが揺らぐことだってある。
 「運命の恋人同士」ではなくて、「普通の恋人同士」なら。
 お互い、相手に恋をしていても、其処に割り込むのが「恋敵」。
 「奪ってやろう」という悪意は無くても、結果的にはそうなってしまう。
 二人の間に「他の誰か」が現れたなら。
 ハーレイの心が「新しい人」の方へと傾いて行って、「ブルー」を放ってゆくのなら。
(…そうなっちゃっても、ぼくには、なんにも出来なくて…)
 ただ泣き暮らすことしか出来そうにないし、「運命の相手」で良かったと思う。
 今日のように会えずに終わった時でも、心配は全く要らないから。
 「明日には、きっと会えるんだから」と、明日を待っていればいいのだから。


 心の底から「良かった」と思える、恋敵が登場しないこと。
 会えない日が何日も続いたとしても、ハーレイを誰かに盗られはしない。
(普通の恋人同士の人って、ホントに大変…)
 きっと心も強いんだよね、と世界中にいる「普通の恋人たち」を思わず尊敬してしまう。
 「ぼくには、そんなの無理だと思う」と、恋敵と戦う戦士たちの雄姿を思い描いて。
(恋人を盗られないようにするには、戦うしか道が無いんだものね…)
 ライバルが登場した時は、と分かっているから、もしも自分が「そうなった」なら…。
(戦うどころか、負けて泣くしか…)
 ホントに出来そうにないんだから、と「チビの自分」の不利さを思う。
 ハーレイとの間に「恋敵」がいたなら、負け戦になることは明らか。
 恋敵が「ハーレイと同じ教師」で同僚だったら、呆気なく勝負がつくことだろう。
 ハーレイの近くで過ごせる時間が、まるで比較にならないから。
 その上、恋敵は「立派な大人」で、ハーレイの心も、そちらに傾いてゆきそうだから。
(…なんにも出来ない、チビのぼくより…)
 デートが出来て、唇へのキスを断る理由も要らない「誰か」は、魅力的なのに違いない。
 普通の恋人同士だった場合は、「前の生」には縛られないから。
 「チビのブルー」とは、たまたま出会って、たまたま恋に落ちただけ。
 一生、一緒に生きてゆこう、と「ハーレイ」が約束していたとしても、それだけのこと。
 「他の誰か」が割って入って、ハーレイの心を奪って行ったら、約束は何の役にも立たない。
 ある日、ハーレイから別れを告げられ、「ブルー」は一人で置いてゆかれる。
 ハーレイには「新しい恋人」が出来て、その人に夢中になってしまって。
 一緒に生きてゆきたい相手も、その人に変更されてしまって。
(そんなの、ホントに困っちゃうから…!)
 恋敵がいたなら、負けちゃうんだ、と背筋がゾクリと冷えた。
 「チビのブルー」では勝負にならない、強力なライバルが「恋敵」。
 どう頑張っても勝てはしなくて、涙を飲んで見送るしかない。
 「すまない」と別れを告げて去ってゆく、大好きだった人の背中を。
 諦めることなど出来はしないのに、「他の誰か」に心を移した「ハーレイ」を。
 そして涙に暮れる間に、結婚式の噂が耳に入って、更に大泣きすることになる。
 友達の誰かが、「ハーレイ先生、今度、結婚式だってさ」と最新ニュースを持って来て。


(…もう、泣くどころじゃなくなっちゃうかも…)
 学校にも行けなくなっちゃいそうだよ、と恐ろしくなる「もしも」の世界。
 ハーレイの教師仲間の誰かが、恋敵だという最悪のケース。
(…学校に行ったらハーレイがいて、恋敵の先生もいるってだけでも…)
 酷いというのに、結婚となったらどうしよう。
 学校を辞めてしまうのは無理だし、転校するしか無いのだろうか。
(だけど、パパとママには、なんて言ったらいいのかも…)
 分からないから、通い続けるしか無いかもしれない。
 結婚したと分かっていても、諦められない「ハーレイ」がいる学校へ。
 「ハーレイ」が「ブルー」を捨てて選んだ、恋敵までが勤務している悲しい場所へ。
(…恋敵の先生の授業があったりしたら、どうしたらいいの…?)
 どんな顔をして行けばいいの、と学校が怖い所になりそう。
 ハーレイと恋人同士だった間は、胸を弾ませて通っていたのに、失恋した後は生き地獄。
 毎日、ハーレイと、恋敵を目にすることになるから。
 二人の間に割って入ろうにも、とうに惨敗、負けた結果を突き付けられる。
 「ハーレイはもう、ぼくの恋人じゃないんだよ」と。
 恋敵が奪い去ってしまって、ハーレイも「ブルー」に目を向けはしない。
 教え子としては、前と同じに接してくれても。
 「元気そうだな」と笑顔を向けてくれても、たったそれだけ。
 もう「恋人」ではないのだから。
 ハーレイが心から愛する相手は、結婚式を挙げた人なのだから。
(でも、恋敵なんか、絶対に…)
 現われやしないから大丈夫、と思った所で、ハタと気付いた。
 「本当に?」と。
 本当に恋敵が出て来ないとは限らないかも、という可能性に。
(可能性ってヤツは、ゼロじゃないよね…)
 有り得ない話とは言い切れないよ、と頭から水を浴びせられたような気分になった。
 ハーレイとの間に、恋敵が割って入って来るという可能性なら、ゼロではない。
 ただし、条件があるけれど。
 それを満たせる人間だけしか、間には入れないのだけれど。


(今のぼくや、今のハーレイみたいに…)
 遠く遥かな時の彼方の、記憶を持っている人間。
 前の自分たちと同じ時間を共有していて、同じ世界を生きていた「誰か」。
 そういう人間が登場したなら、「ハーレイ」が「その人」を見る視線も変わる。
 今は「ブルー」としか語らうことが出来ない、様々な思い出を語り合うことが出来る人。
(…ヒルマンやゼルなら、楽しく喋って、また仲のいい友達になって…)
 ハーレイの親友になりそうだけれど、女性だと違ってくるかもしれない。
 シャングリラの時代と今は違うし、出会いからして全く違う。
 だからこそ、侮ることは出来ない。
(…前のハーレイ、ブラウと馬が合ったんだよね…)
 ブリッジで、食堂で、船のあちこちで、笑い合いながら話していた。
 シャングリラが白い鯨になるよりも前から、二人は「仲のいい友達同士」。
(きっと二人とも、異性だとは意識していなくって…)
 気の合う友達だったように思えるけれども、それが「今」ならどうなるだろう。
 平和になって、もうシャングリラも用済みな時代、そんな世界で出会ったならば。
(ブラウも何処かに生まれ変わっていて、ぼくたちみたいに記憶が戻って…)
 それから「ハーレイ」にバッタリ会ったら、前の生とは別の方へと進みかねない。
 ブラウはもちろん、ハーレイの方も、違う道を歩むかもしれない。
 最初の出会いは、お互い、驚き合っての再会、お茶でも飲みながら話して終わりでも。
 その再会を果たした後で、ハーレイが笑顔で報告してくれても。
 「俺は今日、誰に会ったと思う?」と、「ブラウだ、懐かしいだろう?」と。
 また会う約束もして来たんだ、とハーレイとブラウは連絡先の交換もしていそう。
(いいなあ、ぼくもブラウに会いたいな、って言ったって…)
 ハーレイは「駄目だろ、そいつは俺とのデートになっちまうしな?」と苦笑するだけ。
 それは確かに間違いないから、「そうだね、ぼくはお留守番…」と自分も素直に納得する。
 そして二人は何処かで待ち合わせをして、食事にでも出掛けてゆくのだろう。
(…最初の間は、ホントに食事と思い出話で…)
 全く他意は無かったとしても、いつの間にやら、互いに意識し始めて…。
(お留守番している、チビのぼくは忘れられちゃって…)
 気付けばハーレイは「ブラウ」を見ていて、「ブルー」は置き去りになるかもしれない。
 前の生とは違った世界で、ハーレイは生きているのだから。


(…それって、困る…!)
 とっても困る、と思うけれども、そうなった時には勝ち目など無い。
 「ハーレイの同僚の先生」に負けてしまうのと同じ理屈で、ブラウに敗北することになる。
 なんと言っても立派な大人で、ハーレイを家に食事に招いて、手料理だって作れるブラウ。
(ハーレイも料理が得意なんだし、一緒に料理を作ったりして…)
 どんどん二人の距離が近付き、気持ちの方も近付いてゆく。
 「この人と一緒なら楽しそうだ」と、「きっと最高の人生になる」と思い始めて。
(…駄目だってば…!)
 そんなの嫌だ、と泣きたい気持ちになって来るから、誰も出て来て欲しくはない。
 ハーレイとの間に恋敵がいたなら、負けてしまうのは明らかだから。
 「すまん」と去ってゆくハーレイの背中を、見送るのなんて御免だから…。



             恋敵がいたなら・了


※ハーレイ先生との恋路に恋敵が登場したら困る、と思ったブルー君。敗北は必至。
 恋敵が出て来るわけがない、と考えたものの、可能性はあるかも。ブラウだと負けそうv








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(今日は会えずに終わっちまったが…)
 きっと明日には会える筈だ、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎でコーヒー片手に。
 今日は学校で、一度もブルーを見なかった。
 ブルーの方でも「ハーレイを見てはいない」だろう。
(もしかしたら、俺の知らない間に…)
 窓から見たとか、そういうことはあるかもしれない。
 そうそう余所見はしていられないし、ブルーばかりを探せもしないし…。
(こればかりは、分からないってな)
 姿だけでも見てくれていたらいいんだが、と小さな恋人を思う。
 「ハーレイに会えずに終わった」上に、姿さえも見ていないのなら、今頃、ブルーは…。
(まだ寝てないなら、仏頂面で不満たらたらで…)
 ツキの無さを嘆いているだろうから、姿だけでも見ていて欲しい。
 立派な大人の自分と違って、ブルーはまだ幼いとも言える少年。
 「明日は会えるから、今日は我慢」と、切り替えることは難しい。
(会えない日だって、立派な恋のスパイスで…)
 会えなかった分、互いに想いが募るのだけれど、ブルーに説いても無駄だろう。
 なんと言っても子供なのだし、下手をしたなら怒りかねない。
 「どうして、そんな意地悪を言うの」と、フグみたいに頬っぺたを膨らませて。
(…そうなるよなあ…)
 でもまあ、それも今ならではだ、とコーヒーのカップを傾ける。
 前の生では「ブルーの顔を見ない日」などは一度も無かった。
 それこそ初めて出会った時から、ブルーの命が消えたその日まで。
(あいつの方は、十五年間も眠っちまって…)
 恋人を放って行ったけれども、ハーレイの方は、そうではなかった。
 昏々と眠り続けるブルーの部屋まで、毎晩、足を運んでいた。
 その枕元で、一日の出来事を語ろうと。
 明日こそ目覚めてくれるだろうと、毎夜、心から祈り続けて。


 前の生では一度も無かった、「ブルーと会えないままで終わる」日。
 それがあるのが今の人生、こちらの方が、多分、正しい。
(恋人同士ってヤツは、一緒に暮らし始めるまでは…)
 別の家で暮らしているのが常で、毎日、会えないことだって多い。
(同じ職場で働いてるとか…)
 そういう恋人同士を除けば、普通は「会えない」ものだと思う。
 週末はデートや旅行に行けても、平日は離れ離れになる。
 だからこそ、互いに会えない日だって、恋のスパイス。
 次に会える日を指折り数えて、会えた時には想いが深まる。
 「やっぱり、二人でいるのがいい」と。
 「この人と、ずっと一緒にいたい」と、「早く一緒に暮らしたいのに」と。
 そうやってゴールに向かって走って、結婚式を迎える恋人たちは多いだろう。
 今度の「自分たち」も、彼らに倣うことになる。
 小さなブルーが大きくなったら、プロポーズして。
 「俺の嫁さんになって欲しい」と、最高の舞台でブルーの手を握り締めて。
(まだまだ先の話なんだが…)
 楽しみだよな、と「その日」を頭に描く。
 ブルーが断るわけがないから、プロポーズしたら、次は結婚式だ、と。
(あいつには、俺しか見えていないし…)
 横から攫ってゆくヤツもいないし、とコーヒーのカップを指でカチンと弾く。
 ゴールまでは何年もかかるけれども、ブルーを「盗られる」心配は無い。
 ブルーは「誰にも惚れたりしない」し、口説く人間が現れたって…。
(俺しか見えていないんだから…)
 別の「誰か」について行ったりするわけがない。
 恋敵に盗られる心配など無い、とても安心、安全なブルー。
(その分、チビで待たされるんだが…)
 十八歳までは長いんだがな、と思うけれども、盗られないならいいだろう。
 たまに会えない日があったところで、ブルーが膨れるだけなのだから。


(恋敵がいたら、そういうわけにはいかないんだが…)
 毎日、ハラハラさせられるんだが…、と苦笑する。
 生憎と自分たちの場合は、恋敵など「出来はしない」から。
 前の生から恋人同士で、長い長い時を越えて再び巡り会ったのが「自分たち」。
 青い地球の上で新しい命を貰って、今度こそ共に生きてゆく。
 恋敵などがいるわけもないし、現れるわけもない恋路。
 自分もブルーも、お互い、「相手だけ」しか見えていないから。
 他の誰かが現れたって、目に入るわけもないのだから。
(ブルーに惚れて、ラブレターを渡すヤツがいたって…)
 手紙を貰ったブルーの方は、興味を抱きもしないだろう。
 「なんで?」と首を傾げるだけで、相手の想いに応えはしない。
 返事を下さい、と書いてあったなら、律儀に返事を書くのだと思う。
 「好きな人がいるので、付き合えません」と、大真面目に。
 それで相手が失恋したって、ブルーは「悪かったかな?」と肩を竦める程度。
 付き合えないものは仕方ないのだし、ブルーに勝手に惚れ込んだ方が悪いのだから。
(うんうん、でもって、その一件を…)
 ブルーは「ハーレイ」に話してくれるかもしれない。
 「ちょっぴり悪いことをしたかも」と、「仕方ないよね?」と、ちょっぴり可笑しそうに。
 「だって、ハーレイがいるんだもの」と、赤い瞳を瞬かせて。
(そんなトコだな、ブルーに惚れたヤツの末路は…)
 俺たちの間で話の種になって終わりだ、と容易に分かる。
 ブルーは「他の者など見ない」し、ついて行ったりもしないのだから。
(これがブルーでなかったら…)
 恋敵がいたら大変だよな、と逆の場合を考えてみる。
 普通の恋人同士だったら大いに有り得る、恋敵が登場してくるケース。
 何日か会えずに離れていたら、横から誰かが想いを打ち明け、二人の間に割り込んで来る。
 恋人の方でも、まんざらでもなくて、「ちょっと付き合ってみようかな」と考えもする。
 さっさと一人に決めてしまうより、比べてみるのも良さそうだから。
 せっかく現れた「新しい人」を、よく知るのも悪くないだろう。
 もしかしたら、そちらの方が「自分に合う」人なのかもしれない。
 今まで出会わなかったというだけ、運命の相手は「その人」なのかも、と。


 幸いなことに、ブルーには、その心配が無い。
 誰にも盗られたりはしないし、今日のように会えない日があったって…。
(恋のスパイス、などと言えるんだがなあ…)
 普通の恋だと厄介だぞ、と世界中の「普通の恋人たち」に同情してしまう。
 「会えない日なんて、気が気じゃないよな」と、心の底から。
(…俺たちの場合は、そんな心配は…)
 まるで無いが、と思ったところで、ハタと気付いた。
 無いと思っているのだけれども、可能性なら「ある」ことに。
 「今のブルー」が他の誰かに、恋をしないとは言い切れない。
 ただし、条件があるけれど。
 「前の生の記憶」を持っていること、これが大切なポイントになる。
 前のブルーと同じ時代に、同じ世界に生きていたなら、ブルーの心に入れるだろう。
 「あの頃は、お互い、自分の役目があったけれども、今だったら…」と、想いを打ち明けて。
 ブルーの方では、どんな風に思っていただろうか、と探りを入れることだって。
(…うーむ…)
 そいつはマズイ、とハーレイの肝が冷えてゆく。
 前の生では「自分がブルーの恋人」だったし、ブルーも他など見ていなかった。
 けれど、今度はどうだろう。
 今の生で再び巡り会うようなことがあったら、出会いからして違ってくる。
(…あいつ、変な夢、見てたよなあ…?)
 シリーズになってた結婚モノ、と「キース・アニアン」のことを思い出した。
 前のブルーを撃った男で、殺したと言ってもいい憎い人間。
 ところがブルーは、キースを全く恨んではいない。
(俺が悪口を言う度に…)
 なにかとキースを庇っているし、結婚シリーズの夢も見ていた。
 「キースのお嫁さんにされちゃいそうになるんだよ!」と、ブルーは嘆いていたけれど…。
(嫌っているなら、あんな夢なんか見やしないんだ…)
 むしろキースに惹かれているから、あの夢を見る、と考える方が自然だろう。
 違う出会いをしていたならば、ブルーは「キース」を選んでいたかもしれない。
 残り少ない命であろうと、恋人同士になった二人に、それがどうだと言うのだろう。
 ブルーの寿命が尽きるのであれば、それまでの短い時間を一緒に生き抜いてこそ、と。


(…キースがいたら、とてもマズイぞ…)
 俺はブルーを盗られちまうかも、と思わず身震いしてしまった。
 登場したなら、強敵になるだろう恋敵。
 今も憎くてたまらないけれど、それどころではない騒ぎになる。
(一発殴ってやりたいどころか…)
 殴って蹴って、ブルーの前から追い払ってやりたいくらいだけれども、そうはいかない。
 それをやったら、ブルーに愛想を尽かされてしまう。
 「何をするの!」と、赤い瞳で睨み付けられ、詰られて。
 ブルーにとっては、「キース」も「大事な人」なのだから。
(…違う出会いをするってことは、キースの野郎は、俺と違って…)
 社会人にはなっていなくて、学生だということもある。
 ブルーよりも年上で、自由が利く上の学校の生徒で、運転免許も持っているかもしれない。
(上の学校だと、授業が詰まっていない日だったら…)
 いつでもブルーに会いに来られて、免許と車を持っているなら、送り迎えも可能になる。
 家や学校の前で待ち構えていて、「俺が送ってやる」といった具合に。
(そうなると毎日、デートみたいなモンでだな…)
 学校の帰りに喫茶店に寄ったりするなら、もう文字通りに本物のデート。
 「ハーレイ」は大きく出遅れてしまい、ブルーは「キース」を待つようになって…。
(俺が仕事の帰りに、ブルーの家に寄ったら…)
 ブルーはキースと何処かに行ってしまって、帰っていない日が増えて来る。
 もっと悲しい展開としては、ブルーの家の玄関に…。
(若者向けの靴が揃えられてて、キースの野郎が…)
 先客として、ブルーの部屋でお茶を飲みながら歓談中な日も来るだろう。
 其処でブルーが「ハーレイも一緒に」と誘ってくれたら、まだマシだけれど…。
(キースは憎いが、グッと飲み込んで差し向かいで…)
 茶を飲んだっていいんだがな、と思うけれども、「今日は帰って」と言われかねない。
 「お客さんが来ているから」と、「ハーレイとお茶は、今度にしてね」と。


(最悪じゃないか…!)
 それが続いたら、俺はすっかりお払い箱になっちまう、と泣きそうな気分。
 ブルーに聖痕をくれた神様、その神様が「新しい出会いもいいだろう」と用意をしていたら。
(そりゃ、新しい恋をしたって、新しい恋人が出来たって…)
 ブルーが幸せになれるのだったら「ハーレイ」は黙って身を引くけれども、出来るなら…。
(今度もブルーは、俺だけを見て、俺だけを選んでくれてだな…)
 何処までも一緒に生きてゆきたいから、そのコースは御免蒙りたい。
 恋敵がいたら、大変だから。
 もしも恋敵が「キース」だったら、敗北するかもしれないから…。



           恋敵がいたら・了


※ハーレイ先生とブルー君の恋。間には誰も入れやしない、と思ったハーレイ先生ですけど。
 恋敵としてキースが登場したら、立場が危うくなってしまうかも。お払い箱は御免ですよねv











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「もっと素直になれないのかなあ…」
 ホントに損な性分だよね、と小さなブルーが零した溜息。
 二人きりで過ごす午後のお茶の時間に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 損な性分って…」
 この俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
 いきなりブルーに指摘されても、心当たりが全く無い。
 損な性分だと思ったことも無ければ、言われたことも…。
(…俺の人生、一度も無いと思うんだが…?)
 はて、と首を捻ったけれども、前の人生なら事情は違う。
 厨房時代はともかくとして、キャプテンになった後は…。
(自分を押さえ付けてた部分が、まるで無かったとは…)
 言えないよな、と自分でも自覚している。
 押さえ切れずに、仲間を殴ってしまった経験もあった。
 けれど、あそこで殴らなければ…。
(皆がバラバラになってしまって、大変なことに…)
 なっちまうしな、と分かっているから、後悔は無い。
 とはいえ、それを逆の方から考えたなら…。


(普段の俺は我慢だらけで、自分を押さえ付けていて…)
 何もかも一人で抱えてたんだ、と前の自分の苦労を思う。
 キャプテンという立場と、その職務上、それは仕方ない。
 前の自分が思いのままに振舞ったならば、あの船は…。
(とても地球まで辿り着けなくて、途中で沈んで…)
 おしまいだよな、と肩を竦める。
 「俺がゼルみたいな性分だったら、そうなってたぞ」と。
(…前の俺なら、確かに損な性分なんだが…)
 果たして今の俺はそうか、と自分で自分に問い掛ける。
 我慢ばかりが続く毎日なのか、そうではないのか。
(…強いて我慢と言うんだったら…)
 ブルーの家に寄れない日ならば、我慢している方だろう。
 本当は飛んで帰りたいのに、会議や部活や、会食など。
(…いつもだったら、今頃は、と…)
 溜息をつきたい気持ちになるのを、グッと堪える。
 会議や部活は大事な仕事で、会食も同僚との大切な時間。
(我慢だなんて言えやしないし、正直を言えば…)
 同僚たちと食事の時には、ブルーを忘れていたりもする。
 久々に仲間と過ごす時間が、心地よすぎて、ウッカリと。


 つまり、損とは全く言えない、今の自分の性分なるもの。
 とても自分に正直なわけで、会議を我慢する時も…。
(前の俺とはまるで違って、終わった後の算段を…)
 頭の中でコッソリ組み立て、密かに準備していたりする。
 「終わったら本屋に行くとするか」とか、夕食の計画。
 いつもの店で買い込む食材、時間をかけて作りたい料理。
(ブルーの家に来るようになってから、そういう飯は…)
 滅多に作る機会が無いから、張り切りたくなる。
 たった一人の食卓だけれど、あれこれ並べて食べたくて。
 「こういう時に」と頭にメモしておいた、料理の数々。
 それを端から作るのもいいし、じっくり作る一品もいい。
(…会議の中身を聞いてはいても…)
 発言してメモも取ってはいても、心の方は脱線している。
 キャプテンだった前の生なら、決して許されない姿勢。
(そいつを、何の罪悪感も無く平然と、だ…)
 やってしまえる今の自分は、損な性分などではない。
 自信を持って言い切れるから、ブルーに宣言しなければ。


「おい、ブルー。…お前、勘違いをしているぞ?」
 今の俺は前とは違うんだ、とハーレイはニヤリと笑った。
 損な性分だった頃と違って、今は自由で気ままな人生。
 「我慢ばかりのキャプテン時代は、とうに過去だ」と。
「ぼくには、そうは見えないんだけど…」
 もっと素直になるべきだよ、とブルーは納得しなかった。
 「今のハーレイも我慢ばかり」と、「もっと素直に」と。
「俺は充分、素直で自分に正直なんだが?」
 いったい何処が違うと言うんだ、とハーレイが訊くと…。
「今だって、我慢してるでしょ? ぼくがいるのに」
 もっと欲望に正直に…、と赤い瞳が煌めいた。
「キスしてもいいし、もっと大胆なことも…」
 してくれて構わないんだけれど…、とブルーは微笑む。
 「今の時間ならママは来ないよ」と、「夕食までね」と。


(そういうことか…!)
 ならば、こうする、とハーレイはサッと椅子から立った。
 してやったり、とブルーは嬉しそうだけれども…。
「有難い。だったら、今日は帰らせて貰う」」
「えっ?」
 ブルーの瞳が丸くなるのを、勝ち誇った顔で見詰め返す。
「この間から、作りたいと思っていた料理があってな…」
 ちっと時間がかかるヤツで…、と顎に手を当てた。
「今から帰って買い出しをすれば、今夜には…」
 出来るからな、と告げると、ブルーの顔色が変わる。
「ちょ、待って! そうじゃなくって…!」
 帰らないで、とブルーが上げる悲鳴が面白い。
(自分で蒔いた種なんだがな…?)
 さて、どうするか…、と思うけれども、帰りはしない。
 今の自分は素直だから。
 「ブルーと一緒にいたい」気持ちが、本音だから…。



          もっと素直に・了








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