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「ねえ、ハーレイ。挑戦するのは…」
 大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「挑戦だって? いったい何だ?」
 何に挑戦したいんだ、とハーレイはブルーに問い返した。
 あまりに急な質問な上に、ブルーには似合わない言葉。
 今のブルーも身体が弱くて、守りの姿勢が似合っている。
 そんなブルーが挑戦するなら、頭脳系の何かに違いない。
「えっとね…。例えば、パズルとか…」
 数学の問題とかもそうかな、とブルーは答えた。
「出来そうにない、って諦めるよりは、挑戦でしょ?」
「なんだ、やっぱり、そういうヤツか」
 案の定だな、とハーレイは笑んで、大きく頷く。
「お前のことだし、頭脳系だと思ったが…」
「うん。スポーツとかだと、挑戦は、ちょっと…」
 大切なのは分かってるけど、とブルーは肩を竦めた。
 弱い身体で挑むのは無理で、利口とも思えないから、と。


「まあなあ…。お前の身体じゃ、スポーツ系の挑戦は…」
 やらない方が賢明だよな、とハーレイも肯定するしかない。
 今も虚弱なブルーの身体は、その方面には不向きと言える。
 無理をしてまで挑戦したなら、倒れてしまうことだろう。
 元気な子供だった場合は、無理をする価値もあるけれど。
「普通だったら、其処も挑戦すべきだが…」
 お前だと、ろくなことにはならん、とハーレイにも分かる。
 寝込んでしまって学校も欠席、勉強にだって差し支える。
「でしょ? だから、ぼくならパズルとかだよ」
 でも、挑戦するのは大切だよね、とブルーは繰り返した。
 最初から無理だと投げ出すよりかは、挑戦の方、と。
「そりゃそうだ。でなきゃ力がつかんしな」
 スポーツの方が分かりやすいが、とハーレイも再び頷く。
 さっき頷いたのとは違うポイントでも、此処は頷くべきだ。
「パズルとかだと、実力がついたと分かるまでには…」
 けっこう時間がかかるからな、と苦笑する。
 答えが出るまで挑むしかなくて、途中の力は見えにくい。
 けれど、スポーツの場合は違う。
 日に日に腕が上がるものだし、客観的にも掴みやすいから。


 昨日よりは今日、今日よりは明日、と何でも上達する。
 挑んだ成果は上がるけれども、頭脳系だと分かるのは遅い。
 その点、スポーツは結果が出るのが早いものだから…。
「頭脳系で頑張る生徒よりかは、スポーツ系の方がだな…」
 挑戦する生徒は多くなるな、とハーレイは溜息をついた。
 勉強だったら投げ出す生徒も、部活だと頑張ったりもする。
 朝早くから登校して来て練習、放課後も遅くまで残ったり。
「教師としては、勉強にも挑んで欲しいんだがなあ…」
「ハーレイ、自分で言ったじゃないの」
 結果が見えにくいんだから、仕方ないよ、とブルーも笑う。
 「そんなの、誰でも投げ出すよね」と、可笑しそうに。
「分かってるんだが、やっぱりなあ…」
「投げずに挑んで欲しい、って?」
「当然だろう? お前も自分で言ったじゃないか」
 挑戦するのは大切だ、とな、とハーレイはブルーに返した。
 「俺だって挑戦して欲しいんだ」と、教師の立場で。


 実際、投げ出す生徒は多くて、教師にとっては困りもの。
 スポーツを頑張る力があるなら、勉強も努力して欲しい。
 投げ出さないで挑戦あるのみ、日々、実力を磨いてこそだ。
 聞いたブルーも、「そうだよねえ…」と相槌を打つ。
「だったら、ぼくも挑戦するのが大切だよね?」
「その通りだ。パズルに勉強、どれも挑戦が大切だよな」
 頑張れよ、とハーレイは、ブルーにエールを送った。
 スポーツ系の挑戦でなければ、ブルーの努力は喜ばしい。
 実力もつくし、やる気だって湧いてくるだろう。
 挑戦したいことがあるなら、是非、頑張って欲しいと思う。
「ありがとう! それじゃ早速、挑戦するね!」
 キスを頂戴、とブルーはニコッと笑みを浮かべた。
 「唇にキスして欲しいんだけど」と、勝ち誇った顔で。
「なんだって!?」
 何故、そうなるんだ、とハーレイの目が真ん丸になる。
 挑戦には違いないのだけれども、挑む対象が違うだろう。



「そんな挑戦、俺は絶対、認めんぞ!」
 挑まなくていい、とハーレイはブルーを叱り付けた。
 唇へのキスを贈ってやるには、今のブルーは幼すぎる。
 前のブルーと同じ背丈に育つ時まで、キスはお預け。
「だけど、ハーレイ、言ったよね!」
 挑戦するのは大切だ、って…、とブルーは引かない。
 「諦めないよ」と、「ぼくの挑戦、これなんだから!」と。
「中身によるとも言ったぞ、俺は!」
 スポーツ系だと控えた方がいいってな、とハーレイは返す。
 弱い身体で無理をするのは良くない、と確かに言ったから。
「キスはスポーツじゃないってば!」
「スポーツは例えだ、中身によるんだ!」
 認められない挑戦もある、とハーレイは軽く拳を握った。
 「分からないなら、お見舞いするぞ」とブルーを睨んで。
 「頭をコツンとやって欲しいか」と、苦い顔をして。
 妙な挑戦など、要らないから。
 挑戦するのは大切だけれど、挑む中身によるのだから…。


         挑戦するのは・了







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(ぼくもハーレイも、新しい命なんだよね…)
 それに身体も新しい身体、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ついつい、忘れちゃうんだけれど…)
 あまりにも前の身体と似ていて、現実を忘れそうになる。
 ハーレイは「前のハーレイ」にそっくりそのまま、それに自分も前と同じに生まれて来た。
 自分の場合は、少し小さくなったけれども、前の自分の記憶の最初は、今の姿と同じ。
(成長を止めてしまっていたから、十四歳になった時の身体のままで…)
 前の自分は長く過ごして、まだ若かった前のハーレイと出会った。
 メギドの炎で燃えるアルタミラで、閉じ込められていたシェルターを破壊した時に。
(あの時は、ハーレイも若かったけど…)
 今度のぼくは、その時期を知らないんだよね、と苦笑する。
 生まれ変わって、またハーレイと出会った時には、ハーレイは育ち切っていた。
 白いシャングリラのブリッジに立っていた頃と、何処も変わりはないものだから…。
(ちょっぴり残念…)
 若いハーレイも見たかったのに、と悔しがっても仕方ない。
 神様に細かい注文なんて、出来るほど偉い立場でもない。
(新しい命と身体を貰って、おまけにハーレイと一緒に、青い地球まで…)
 来させてくれたのが神様なのだし、感謝すべきで、文句は言えない。
 若かった頃の「今のハーレイ」に会えなかったことは、諦めるしか無いだろう。
(ホントに惜しくて、残念だけど…)
 仕方ないよね、と自分に言い聞かせながら、今のハーレイの若い時代に思いを馳せる。
 「プロの選手にならないか」と誘いが来たほど、柔道と水泳では凄かったらしい。
 今も柔道部で指導しているし、学校によっては水泳部を担当することもあるという。
 若かった頃は、数々の大会で名を轟かせて、花束も沢山貰ったと聞いた。
 女性のファンたちも大勢いたのに、ハーレイは誰も好きにはならずに過ごして来て…。
(ぼくと出会って、また恋をして…)
 今度は結婚するんだよ、と頬を緩める。
 前の自分たちには許されなかった、結婚して二人で生きてゆくこと。
 それが今度は当たり前のように、人生の先に待っている。
 今の自分が結婚出来る年になったら、もう、すぐにでも結婚式で…。
(ハーレイの家で、一緒に暮らしていくんだよ)
 あと何年かの我慢だものね、と胸を弾ませて、残りの期間を数えてゆく。
 十八歳になれば、結婚出来る年だから。


 考えただけで嬉しくなるのが、ハーレイと暮らす未来のこと。
 前の自分には叶わなかった、沢山の夢を二人で叶える。
 青い地球の上で旅に出掛けて、高山に咲く青いケシを見て、サトウカエデの森にも行く。
 他にも夢はドッサリ山ほど、どれから叶えてゆくのがいいのか、悩んでしまう。
(ハーレイと毎日、相談かもね?)
 仕事が休みの時しか旅は出来ないのだから、ガイドブックを買い込んで来て、検討する。
 一度の旅行で何ヶ所か回ることが出来るなら、そういうコースを組むために。
(ハーレイはコーヒーを飲みながら読んで、ぼくはココアかホットミルクかな?)
 相談する時間は夕食後が多くなるのだろうし、紅茶を飲むには遅すぎる。
 よほど薄めに淹れない限りは、目が冴えてしまって眠れなくなる。
(…ハーレイはコーヒーを飲んだ後でも、寝られるのにね…)
 やっぱりキャプテンだったせいかな、と思うけれども、違うだろう。
 前の生での習慣や体質、そういったものは、生まれ変わった以上は、引き継がれない。
 新しい命と新しい身体で、新しい人生を歩む以上は、全てを一から築いてゆく。
 見た目の姿は、そっくり同じになっているけれど、そこだけが例外中の例外。
 聖痕をくれた神様の粋な計らいなだけで、他の部分は全く違う。
(ぼくだって、うんと甘えん坊になっちゃった上に、サイオンだって不器用で…)
 誰が見たって、今の時代は大英雄の「ソルジャー・ブルー」と同じとは思えないだろう。
 自分自身でも「違うよね…」と自覚があるから、他人から見れば、もっと評価は厳しくなる。
 今のハーレイが見ている「ブルー」も、甘えん坊で我儘なチビなものだから…。
(唇へのキスはしてくれなくて、代わりに、ぼくが膨れていたら…)
 頬っぺたを大きな両手で包んで、ペシャンと潰して笑っている。
 「フグがハコフグになっちまったな」と、さも可笑しそうに。
(…うーん…)
 でも、恋人には違いないし、と考え直して、ハタと気付いた。
 確かに今は「恋人」だけれど、これから先はどうだろう。
 今のハーレイが歩んでいるのは、前のハーレイとは違う人生。
 新しい人生を一から始めて、今の姿まで育つ間には、幸い、出会っていなかっただけで…。
(この先、ぼくより素敵な誰かに…)
 出会ってしまって、そちらの方を好きにならないとは限らない。
 なんと言っても、新しい人生を生きている上、この先も前とは違う人生を生きてゆく。
 今のハーレイの人生に白いシャングリラは関係無くて、キャプテンの務めも背負っていない。
 「ブルー」と出会う前も同じで、自由気ままに生きて来た。
 当然、前のハーレイとは…。


(好みも変わって来ちゃうんだよね…?)
 それが自然で当然だもの、と恐ろしい考えが膨らんでゆく。
 ハーレイの好みが「違う」のだったら、好みのタイプの人間も違うかもしれない。
 前のハーレイの目には、「前のブルー」が魅力的に映っていたのだけれど…。
(…今のハーレイも、今のぼくを好きでいてくれるけど…)
 聖痕で記憶が戻った今だけ、「ブルー」を好きになっている、という可能性だって…。
(……ゼロじゃないんだ……)
 今まで気付いていなかったけど、と愕然とする。
 前のハーレイの記憶が戻って来たなら、「ブルー」に恋をするのは不思議ではない。
 記憶の中に「昔の恋人」がいて、その人が目の前に現れたならば、惚れるだろう。
 今のハーレイに、「今ならではの恋人」が、まだ、いないのならば。
(…俺が好きなのは、ブルーなんだ、って…)
 一目で恋に落ちそうだけれど、そうして出会って、新しい人生を生きてゆく内に…。
(今のハーレイの好みにピッタリで、ぼくより魅力的に見える誰かが…)
 ハーレイの前に現れないとは言い切れない。
 新しい人生を生きているなら、むしろ「無い」方が変だとも言える。
 違う人生を生きる間に、好みも変わってゆくのが自然で、変わらない方が不自然だから…。
(ぼくとハーレイ、聖痕の奇跡で出会えたお蔭で…)
 奇跡のように「前と同じに」恋に落ちたけれど、それは一時のことかもしれない。
 この先、人生を歩む間に、二人の道は分かれてしまって…。
(…ハーレイは違う誰かに恋して、その人と…)
 結婚して去ってしまうのだろうか、「すまん」と謝り、頭を下げて。
 「悪いが、この人が好きなんだ」と、新しい恋人の名前を挙げて。
(…そんなの、酷い…!)
 酷すぎるよ、と思うけれども、まるで無いとは言えないわけで、自信も無い。
 今のハーレイにとっても、「今のブルー」が魅力的だと思って貰えるかどうか。
(…前のぼくと違って、何も出来なくて…)
 おまけに前より甘えん坊で、我儘になってしまった「ブルー」。
 ソルジャー・ブルーだった頃とは、中身が全く違っている。
 前のハーレイは、「ソルジャー・ブルー」の右腕だったけれども、今のブルーには…。
(…ハーレイを右腕だなんて言えるくらいの、凄い部分は、なんにも無くて…)
 ただハーレイに甘えるだけの、厄介な「お荷物」になってしまいそう。
 現に将来、結婚したら、毎日の食事を作るのも…。
(今のハーレイってことになってて、ぼくは留守番するだけで…)
 何もやらないし、出来そうにないし、本当に何の役にも立たない。
 魅力的どころか「ただのお荷物」、見た目だけが「綺麗」というだけで。


 どうしよう、とブルーの身体が震え出す。
 何の魅力も持たない「ブルー」は、いつか振られるかもしれない。
 「ブルー」よりも素敵で魅力的な誰かが、ハーレイの前に現れて。
 ハーレイが惹かれてしまうタイプが、ハーレイの新しい人生の先に舞い降りて。
(…違う人生を生きてるんなら、違うタイプにも…)
 恋をするよね、と足元が崩れ落ちてゆきそう。
 考えたことさえ無かったけれども、どうして「無い」と言えるだろう。
 今のハーレイの「好みのタイプ」は、「ブルーではない」という、自然な成り行き。
 そちらの方が「前と同じで、ブルーが好み」よりも、充分、有り得ること。
(前のハーレイより、ずっと自由に生きて来て…)
 広い世界を見て来たのだから、好みのタイプも違っていそう。
 ハーレイ自身も気付いていなくて、ついでに「出会ってはいない」だけの「好みのタイプ」。
 それがどういうタイプなのかは、想像したくもないけれど…。
(…ぼくと違って、うんと元気な人なのかな…?)
 活動的なハーレイと一緒に、何処へでも出掛けてゆける人。
 前と同じに弱く生まれた「ブルー」とは違う、健康な身体を持っている誰か。
(……ジョミーみたいに……)
 太陽のような命の輝きが溢れる、活発なサッカー少年だとか…。
(サッカーでなくても、柔道だとか、水泳だとか…)
 今のハーレイと同じスポーツが得意だったら、それだけで魅力的だろう。
 「ブルー」と違って、同じ世界を二人で楽しんでゆけるから。
 柔道や水泳ではないスポーツにしても、それが得意だというだけで…。
(ぼくよりは、うんと今のハーレイに…)
 近い要素を持つわけなのだし、「ブルー」では、とても敵わない。
 そういう人間が、今のハーレイの前に現れたなら。
 今のハーレイの心を惹き付け、ハーレイの心を奪って行ってしまったら。
(…巻き返そうにも、ぼくはなんにも…)
 出来やしないよ、と涙が出そう。
 今のハーレイが好きなスポーツには付き合えないし、身体が持たない。
 山登りも、プールも、海水浴も、「ブルー」だと、体調と相談だけれど…。
(ジョミーみたいに元気だったら、朝に突然、誘いに来られて…)
 海に行くか、と聞かれたとしても、「うんっ!」と即答、直ぐに支度も出来ると思う。
 その辺のバッグにタオルや水着をササッと詰めて、玄関からダッと飛び出して。
 ハーレイが乗って来た車に駆け寄り、助手席のドアを自分で開けて。


(よし、行くぞ、って、ハーレイ、お弁当も二人分…)
 用意しているのは間違いないよね、と悲しくなって来た。
 今の自分は絶対に勝てない、「今のハーレイ」の好みのタイプの元気な「誰か」。
 ハーレイの心は、そちらに傾いて行ってしまって、どうすることも出来ないまま。
 取り戻すために何かしたくても、「今のブルー」は何の取柄も持っていないし、仕方ない。
(せめて料理、って思っても…)
 もう手遅れで、ハーレイの心を掴む道など残ってはいない。
 慌てて料理の腕を磨いても、披露出来る頃には、ハーレイは、とっくに…。
(新しい恋人にすっかり夢中で、招待しても…)
 断られてしまって、それでおしまい。
 「招待しても、駄目なんだったら…」と、作って、家に届けても…。
(すまんな、って受け取ってはくれるだろうけど…)
 下手にお菓子でも届けようものなら、新しい恋人と一緒に食べるのかもしれない。
 沢山作って、持って行ったら。
 「一人で食うより、あいつと食うのが一番だよな」と、取っておかれて。
(…今のハーレイの大好物の、パウンドケーキ…)
 それを頑張ってマスターしたなら、本当に、「新しい恋人」と食べられてしまうかも。
 ハーレイが、いそいそ、切り分けて。
 「美味いんだぞ」と、「俺のおふくろの味と同じなんだ」と、お揃いの皿に乗っけて。
(…あんまりだから…!)
 でも、本当にありそうだよね、と怖くなるから、それだけは勘弁して欲しい。
 今のハーレイなら、違うタイプにも惚れて不思議は無いのだけれど…。
(……神様、お願い……!)
 ぼくだけが好みにしておいて、と懸命に祈る。
 今のハーレイに違うタイプの「恋人」が出来たら、「ブルー」では勝てはしないから。
 どう頑張っても「最初から駄目」で、どうにもなりはしないから。
 出来るのは神に祈ることだけ、「今のハーレイも、ぼくが好みでありますように」と…。



            違うタイプにも・了


※前のハーレイとは違う人生を歩んでいるのが、ハーレイ先生。前とは違う部分も沢山。
 もしかしたら好みのタイプも、ブルー君ではないのかも。それは勘弁して欲しいですよねv









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(俺とあいつは、生まれ変わって…)
 うんと幸せになるんだよな、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
 遠く遥かな時の彼方では、ブルーとの恋は成就しなかった。
 二人だけの間の秘密で終わって、おまけにブルーを失くしてしまった。
(しかし今度は、何の支障も無いわけで…)
 チビのブルーが結婚出来る年になったら、この家で一緒に暮らしてゆける。
 あと何年かの間の辛抱、それからは幸せ一杯の日々が続いてゆく。
 家に帰ればブルーがいるし、朝もブルーに送り出されて仕事に行ける。
 休みの時には、ドライブに行ったり、旅行したりと、この青い地球を満喫する。
 前の生でブルーと交わした約束、それを叶えてゆくために。
(約束、山ほどしたからなあ…)
 どれを最初にすればいいやら、と可笑しくなってしまうけれども、それも楽しい。
 ブルーと色々相談しながら、夢だったことを現実にする。
 高山に咲く青いケシを見るとか、本物のサトウカエデの森を訪ねるとか。
(忙しくなるぞ、結婚したら)
 休みは全部、あちこち飛び回る間に終わりそうだ、と苦笑する。
 とはいえ、今のブルーも身体が弱いし、休みも取らねばならないだろう。
 休養する間が、実質上の休みという勘定になりそうだ。
(あいつは家でのんびり過ごして、俺はジョギングに出掛けて行って…)
 ジムのプールで軽く泳いで、それから家に帰って来る。
 帰る頃には、ちょうど昼前くらいだろうか。
(そこから俺が飯を作って、二人で食べて…)
 ブルーは午後もゆっくり昼寝で、ハーレイの方も自分だけの時間を過ごせそう。
 書斎で本を広げて読むとか、リビングの床で昼寝だとか。
(きっと、そういう未来だよなあ…)
 結婚したら、と頬を緩めて、早く時間が経って欲しい、と願ってしまう。
 待つのは苦にはならないけれども、ブルーと一緒に暮らす日だって、待ち遠しい。
(あいつの前では、ゆったり構えているんだが…)
 実は一日千秋かもな、とコーヒーのカップを傾ける。
 「俺だって、早く結婚したいんだ」と。
 せっかく生まれ変わって来たのに、ブルーとの恋が成就するのは、何年も先になるのだから。


 そうは言っても、この待ち時間も、生まれ変わって来たからこそ。
 前のブルーとの恋の続きを、青い地球の上で、という神様の粋な計らい。
(新しい命と身体を貰って、新しい人生を生きてるわけで…)
 いわば白紙のようにまっさら、真っ白な上に新しい恋を描いてゆく。
 今のブルーと、あれこれ夢を叶えて、旅行をして。
 時には喧嘩をしてしまったりと、様々なことが起きるのだろう。
 前の生では、夢にも思いはしなかったことが、ヒョッコリと降って来たりもして。
(…なんたって、平和な世界なんだし…)
 何が起きても知れてはいるが…、と考えてみる。
 「ヒョッコリと起きる」何かについて、「例えば、どんな?」と首を捻って。
(…ペットなんかは、あるかもなあ…)
 今のブルーは、今のハーレイが子供の頃に飼っていた猫に興味がある。
 本当の飼い主はハーレイの母だったけれど、ブルーにとっては、大事なことではない。
 「ハーレイの家には、猫がいた」という所がポイントと言えるだろう。
(ミーシャの話をしてやると、いつも嬉しそうだし…)
 もしかしたら「ぼくもペットを飼ってみたい」と、ある日、強請ってくるかもしれない。
 「飼っていいなら猫がいいな」と、「ミーシャみたいに、真っ白なのを」と。
(…そう強請られたら、反対する理由は無いからなあ…)
 ペットの寿命は長くはないし、いずれ別れの時が来る。
 ブルーがそれを承知で言うなら、ペットを飼うのを許してやって…。
(家に真っ白な猫が一匹…)
 新しい家族になって加わり、ブルーの愛を奪ってゆく。
 ハーレイが「ただいま」と帰宅したって、ブルーは猫をしっかりと抱いて…。
(おかえりなさい、と出て来るだけで、下手をしたなら…)
 出て来る代わりに、猫と遊んでいるかもしれない。
 あるいは毛皮の手入れに夢中で、ハーレイが家に帰ったことにも気が付かないとか。
(……うーむ……)
 そいつはキツイ、と泣きそうだけれど、仕方ない。
 ブルーには新しい人生を楽しむ権利があって、ペットとの日々も、その一つ。
 前の生からの恋人がいても、新しい家族がいるのなら…。
(そっちに愛情、移っちまっても…)
 何も文句は言えないよな、と溜息が一つ零れてしまった。
 「ヒョッコリ降って来るのは、コレか」と、新しい人生ならではの試練を思って。
 「他にも何かありそうだよな」と、こめかみを軽く揉んだりもして。


 新しい命を貰ったブルーは、新しい人生を歩んでゆく。
 前のブルーとは違う人生になって当然、それが自然なことだろう。
(ペットと暮らして、うんと可愛がって…)
 ハーレイのことがお留守になるのも、おかしくはないし、責められもしない。
(むしろ喜ぶべきことで…)
 温かく見守ってやるべきなんだよな、と分かってはいる。
 前のブルーには、ペットを飼うことは不可能だった。
 「青い鳥が欲しい」という細やかな夢も、白いシャングリラでは叶わなかった。
(だから、あいつは…)
 青い鳥の代わりに、青い毛皮のナキネズミで我慢するしかなくて、そのナキネズミも…。
(ペットには出来なかったんだ…)
 色々と事情があったからな、と時の彼方を思い出す。
 それを鮮やかに覚えているから、ブルーの愛をペットに奪われたって、耐えるしかない。
 前のブルーには出来なかったことを、今のブルーがするというなら、それだって…。
(約束したことを叶えてゆくのと同じで、前のあいつの夢だから…)
 仕方ないさ、とフウと溜息、ペットが来た時は諦めるしかないだろう。
 ブルーを盗られてしまっても。
 「あれっ、ハーレイ、帰っていたの?」と、かなり経つまで気付かれなくても。
(…俺は晩飯の支度をしながら、ブルーが気付いてくれるまで…)
 待つしか道は無いんだよな、と情けないけれど、我慢しなければ。
 今のブルーが歩む人生、それを横から邪魔してはいけない。
 何故なら、ブルーの人生だから。
 新しい命と身体を貰って、生きているのは「ブルー」だから。
(…俺だって、ブルーに出会うまで…)
 好き放題に生きて来たわけなのだし、ブルーにしても同じこと。
 「ハーレイ」が現れるのが早かっただけで、もっと遅くに出会うのならば…。
(あいつも人生を満喫してから、俺と再会出来たんだしな…)
 俺の勝手で縛っちゃ駄目だ、と自分自身に言い聞かせる。
 ペットにブルーを盗られようとも、グッと我慢で、見守るべきだ、と。
(俺の方が年上なんだしなあ…)
 しかし、ペットはキツイよな、と肩を竦める。
 ブルーの愛を、横から奪ってゆくなんて。
 よりにもよって白い猫なんかに、大事なブルーを盗られるなんて。


(猫だぞ、猫…!)
 おまけに名前はミーシャかもな、と頭の中がクラクラしそう。
 相手が同じ人間だったら、此処は一発、勝負を挑んで、ブルーの心を…。
(取り戻す、ってことも出来るんだろうが、猫ではなあ…)
 そもそも勝負になりやしない、と頭を抱えたくもなる。
 同じ土俵に立てない猫には、どう頑張っても敵いはしない。
 ついでに、同じ家で暮らしているわけなのだし、分が悪すぎる。
(ブルーが「今夜は、ミーシャと寝るよ」と抱いてベッドに行っちまったら…)
 俺はベッドでも一人じゃないか、と軽くショックを受けてしまった。
 なんという手強い恋敵だろう、ペットを飼われてしまったら。
(…だが、飼いたいと言われたら…)
 許してやるしかないんだよな、と悲しい気持ちがこみ上げてくる。
 「なんてこった」と、「しかし、あいつの人生なんだ」と、泣きたい気分になって来た。
(頼むから、ペットを飼いたいだなんて…)
 言ってくれるなよ、と祈りたいけれど、ブルーの人生の邪魔は出来ない。
 新しい人生の邪魔をするなど、絶対にしてはいけないこと。
(…相手が人間様じゃなかった分だけ、マシだと思って…)
 猫は我慢だ、と自分の心を宥め、懇々と諭した所で、ハタと気付いた。
 今のブルーが新しい人生を歩んでゆくなら、前のブルーとは色々な部分が違って来る。
 本物の両親から生まれた上に、幸せ一杯に育ったのだから…。
(もしかしなくても、好みも前とは違うってわけで…)
 人間様の好みの方でも、そうなるのかも、とクラリと来た。
 今のブルーは、たまたま「ハーレイと再会した」から、今はハーレイに「惚れている」。
 前の生からの恋人に夢中で、ハーレイしか見えていないのだけれど…。
(…ひょっとしたら、俺とは違うタイプの人間が…)
 今のあいつの好みなのかも、と恐ろしい考えに背筋がゾクリと冷えてゆく。
 これから人生を歩んでゆく間に、ブルーは「出会う」のかもしれない。
 今のブルーの好みにピッタリ、そういうタイプの人間に。
 「ハーレイよりも、カッコよくない?」と、思わず惹かれてしまう「誰か」に。
(…俺とは全く、違うタイプに…)
 目を向けないとは言い切れないぞ、と本当に怖くなって来た。
 違う人生を歩んでいるなら、好みだって変わりもするだろう。
 前のブルーが生きた人生の場合だったら、「ハーレイが一番」なのだけれども…。
(…今のあいつだと、違うタイプに…)
 惚れちまうこともあるんだよな、と足元が崩れ落ちてゆきそう。
 ペットどころか、自分以外の「人間様」に、ブルーを盗られてしまうのかも、と。


 それだけは無い、と思いたい。
 今の自分には「ブルーだけ」だし、ブルーもきっと、そうなるように…。
(神様が計らって下さったからこそ、聖痕があって…)
 俺たちは出会えたんだしな、と思いはしても、確証があるわけではない。
 神から「そうだ」と聞いてはいないし、証文だって貰っていない。
(…まさか、まさか…な…?)
 今のブルーは違うタイプに惚れちまうとか、と怖い考えが止まらない。
 「そうではない」とは、誰も言ってはくれないから。
 新しい人生を歩むブルーが、「違うタイプに」惚れない保証は何処にも無くて…。
(そうなった時は、俺は一人で…)
 ポツンと残されちまうのか、と身体が震え出しそう。
 ある日、ブルーが、違うタイプに惚れたなら。
 まだ結婚もしていないのなら、ブルーは新しく「惚れた」相手に心を移して去ってゆく。
 前の生からの恋人のことは、もはや、どうでもよくなって。
 新しく見付けた恋に夢中になって、「ハーレイ」は頭から消えてしまって。
(そいつは困る…!)
 大いに困る、と思うものだから、今のブルーには、ペットで済ませて貰いたい。
 新しく愛情を注ぐ相手を作るのだったら、人間様ではなくて、ペットで。
(…あいつの人生、縛っちゃ駄目だと思いはするが…)
 違うタイプに惚れるのだけは勘弁してくれ、と強く目を閉じ、神に祈らずにはいられない。
 青い地球の上で、ブルーと生きてゆきたいから。
 ペットにブルーを盗られようとも、同じ家で暮らしてゆきたいから…。



           違うタイプに・了


※ブルー君の好みが「ハーレイ」とは違うタイプかも、と思ってしまったハーレイ先生。
 違う人生を生きているなら、そういうことも有り得そう。それは勘弁して欲しいですよねv







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「ねえ、ハーレイ。難しくっても…」
 諦めちゃったらダメだよね、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後の、お茶の時間に唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「難しいって…。そいつは、宿題なのか?」
 珍しいな、とハーレイは鳶色の瞳を軽く見開いた。
 ブルーはいわゆる「優等生」で、成績優秀で頭がいい。
 運動の類は駄目だけれども、苦手科目は無かった筈だ。
 それが宿題で行き詰まるとは…、と少し可笑しい。
 けれどブルーは、「ううん」と、即座に首を横に振った。
「今日は違うよ、そりゃ、ぼくだって、ごくたまに…」
 宿題で詰まることもあるけれど、とブルーが首を竦める。
 「ホントに、たまに」と、滅多に無いのを強調して。
「分かった、分かった。要は、今回は違うんだな?」
 今回は、とハーレイは、わざと繰り返してやった。
 意地になって否定するブルーが、とても面白かったから。


「笑わないでよ! でも、本当に違うんだって!」
 今回はね、とブルーも「今回は」と其処に力を入れて来た。
「宿題じゃなくって、パズルだってば!」
「パズル…?」
「そう! ハーレイ、こんなの解けるわけ?」
 コレなんだけど、とブルーが出して来たのは新聞だった。
 丸ごとではなくて「切り抜いた」もので、確かにパズルだ。
 数字を入れてゆくらしいけれども、解けないらしい。
「ああ、コレか…。こいつは、ちょいと厄介かもな」
 お前の鉛筆、貸してくれるか、とハーレイは戦闘開始した。
 この類ならば、学生の頃に流行っていたから、何とかなる。
 ただし、時間はそれなりにかかる。
 見た瞬間に「こうだ」と閃くものとは違って、根気が必要。
「うーむ…。ここにこう、と…。いや、こっちだな」
 でもって次は…、と升目を埋めてゆくのをブルーが見守る。
「そっか、そうやって解いていくんだ…?」
「お前、知らずにやっていたのか?」
「そうだよ、だって解き方、何処にも載ってなくって…」
 上級者向けってあっただけ、とブルーは苦笑した。
 「だけど、ぼくには無理だったんだよ」とパズルを指して。


 どうやらブルーは、「上級者向け」に挑戦しただけらしい。
 解き方も分かっていないというのに、出来る気になって。
「お前なあ…。まずは自分の力量ってヤツを、だ…」
 把握しないとダメだろうが、とハーレイは呆れ顔になる。
 「難しい以前の問題だろう」と、無理なものは無理、と。
「そう思う? ぼくがあそこで諦めてたら…」
 コレは解けないままなんだよね、とブルーは鉛筆を出した。
「もしかしなくても、ここ、コレじゃない?」
 合ってるかな、とブルーが書いた数字は正解だった。
「ほう…。だったら、ここも分かるのか?」
「んーとね、多分なんだけど…。コレでいいかな?]
 あんまり自信が無いんだけれど、と書き込んだ数字は正解。
 ブルーはパズルの「解き方」を理解したのに違いない。
「なるほどなあ…。俺が解くのを見て覚えた、と」
「うん。でも、諦めていたら、解けないままだよね?」
 新聞を切り抜いて来なかったら、というのは正しい。
 まるで間違ってはいないのだから、正論だった。
 ついでに言うなら、諦めないのが大切なのも、また正しい。
 だからハーレイは笑顔で言った。
 「その通りだな」と、ブルーの言葉を肯定して。


「お前が言うのも、間違っちゃいない。正しいことだ」
 諦めたらゲームオーバーだしな、とハーレイは笑う。
 「試合だったら終わっちまう」と、柔道を少し説明して。
 柔道の試合には、決まりが色々あるのだけれど…。
「相手に技をかけられた時に、技によっては、だ…」
 かけられただけで試合終了にはならん、と教えてやる。
 試合時間がまだあるのならば、チャンスはある。
 相手の技から逃れられたら、一転、攻撃に移れもする。
 そうなった時は一発逆転、勝利を掴むことだって出来る。
「もう完全に負けだろうな、と誰もが思うくらいでも…」
「勝てちゃうんだ?」
「そういうことだな、まさに劇的な勝利ってヤツだ」
 何度も実際、見て来たんだぞ、とハーレイは大きく頷く。
 「今の学校に来てからだって、あったんだしな」と。
「そうなんだ…。だったら、やっぱり、難しくっても…」
「諦めちゃダメだ、ってことだな、うん」
 お前の場合は頭で勝負になるんだろうが、と相槌を打つ。
 「柔道なんかは出来やしないし、パズルくらいだな」と。

「まあ、そうだけど…」
 そうなんだけど、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
 「他にも諦めちゃダメなことがね」と、難しい顔で。
「まだあるのか?」
 お次は何だ、とハーレイの目が丸くなる。
 「上級者向け」のパズルは他にもあったのだろうか。
(…俺の手に負えるヤツならいいが…)
 解けなかったら、今日は一日パズルなのか、と悲しくなる。
 せっかくブルーと過ごせる日なのに、パズルだなんて。
 そうしたら…。
「あのね、どうしたらハーレイにキスを貰えるか…」
 諦めちゃったらダメだもんね、とブルーが微笑む。
 「頑張らないと」と、「難しくっても、諦めないで」と。
「馬鹿野郎!」
 それは違う、とハーレイは軽く拳を握った。
 銀色の頭をコツンと叩いて、その挑戦を阻止するために。
 そんな難問には挑むことなく、諦めるのが正解だから…。



          難しくっても・了






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(……お昼寝かあ……)
 なんだか縁が遠くなったよね、と小さなブルーは、ふと考えた。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…お昼寝するより、ハーレイと話していたいから…)
 すっかり御無沙汰になっちゃった、と昼寝というものを思い返してみる。
  昼寝をしなくなった、とは言わないけれども、時間は減った。
 ハーレイと再会する前だったら、昼寝をするなら、ぐっすり、たっぷりだったのに。
(…今だと、ハーレイが来ない時しか…)
 そういう昼寝は出来ないわけで、ついでにハーレイが来ないとなると、落ち着かない。
 ハーレイが来ない休日となったら、頭の中がぐるぐる回って、昼寝するような気分には…。
(全然、なって来ないんだってば!)
 ホントにダメ、と自分の頭をポカポカと叩く。
 なんとも子供じみた幼い感情、独占欲とも言うかもしれない。
 それが昼寝の邪魔をするせいで、ハーレイが来ない日は起きたまま。
 「今、ハーレイはどうしてるかな?」と気になって。
 研修だったら、まだマシだけれど、柔道部の活動で来ないとなったら酷くなる。
 柔道部員が「ハーレイ先生」を独占していて、寄越してくれないわけだから。
 ハーレイの方も、柔道部の生徒にかかりっきりで、面倒を見ているに違いない。
 練習や試合を熱心に指導し、終わった後には、食事にだって連れて行く。
 「よく頑張ったな」と、ブルーも好きでたまらない笑顔を、柔道部員たちに振り撒いて。
 一人一人に言葉を掛けて、肩を叩いてやったりもして。
(それから、みんなでお店に入って…)
 ハーレイが「何でも好きに注文しろよ」と、気前よく皆に言うのだろう。
 「支払いのことは気にするなよな」と、「食べ盛りなんだから、好きなだけ食え」と。
(…きっとそうだ、って考え始めてしまったら…)
 眠気なんかは消えてしまって、昼寝をしているどころではない。
 逆に目が冴え、窓の外に何度も視線をやっては、苛立つばかりで昼寝なんかしていられない。
 窓からの風が気持ち良くても、昼寝にピッタリの天気でも。
 ハーレイと再会する前だったら、「ちょっとお昼寝」と、横になっていたのは確実でも。
(……ぼくって、心が狭いわけ?)
 そうじゃないよね、と自分自身を振り返ってみて、「違うと思う」と結論を出す。
 前の自分の頃と違って、ハーレイを独占出来ないせいで、そうなるのだろう。
 ソルジャー・ブルーだった頃なら、ハーレイは「当たり前に」側にいたのだから。


 そうだったよね、と時の彼方を思うけれども、果たして本当に「そう」だったのか。
 ハーレイは常に側にいたのか、違ったのか。
(…ずっと側にいたなんてことは、なかったっけ…)
 だってキャプテンだったんだしね、と答えは簡単にポンと出て来た。
 前のハーレイは白いシャングリラを預かるキャプテン、今よりも遥かに多忙だった。
 それこそ昼寝をする時間も無く、いつもブリッジにいたと言ってもいいだろう。
(…前のハーレイが昼間に寝たのは、仮眠くらいで…)
 昼寝などしていなかったのだし、暇だったという筈がない。
 当然、「ソルジャー・ブルーの側にいる」のは、空き時間か、報告などの用がある時。
 それ以外は、仕事が終わる時間まで、青の間には来ないで、ブリッジにいた。
(…そうなんだけど、でも…)
 前のハーレイが何処にいようと、前の自分には「安心出来る」理由があった。
 文字通りに最強のタイプ・ブルーで、強大なサイオンを誇っていたからこその裏技。
(…シャングリラ中に、サイオンの糸を張っていたほど…)
 前の自分はサイオンの扱いに優れていたから、何の心配もしていなかった。
 ハーレイが船の何処にいたって、知ろうと思えば直ぐに分かったし、姿も見られた。
 「今はブリッジにいるんだよね」とか、「食堂なんだ」といった具合に。
(…そういうの、出来なくなっちゃったから…)
 今のぼくは、気になりすぎて昼寝も出来ないんだよ、と溜息をつく。
 もっとも、人間が全てミュウになっている、今の時代だと…。
(知りたくっても、サイオンで調べたりするのは、マナー違反で…)
 やったら駄目だと言われちゃう、と思いはしても、やっている人はいる気がする。
 恋人が来てくれなかった日に、つい探ってしまう人は、この世の中に…。
(絶対いない、ってわけがないって!)
 人間、そこまで立派じゃないし、と自分自身に言い訳してから気が付いた。
 「そういう人は、きっといるから」と真似をしようにも、今の自分には出来ないらしい。
 不器用になってしまったサイオン、それを使って探ろうとしても…。
(努力するだけ、無駄なんだってば…!)
 ハーレイの姿も見えて来ないよ、と悔しくなって涙が出そう。
 「これじゃ昼寝は出来やしない」と、「ハーレイがいないと、落ち着かなくて」と。
 更に言うなら、ハーレイが訪ねて来てくれた日は…。
(どんなに具合が悪い時でも、頑張って起きていたいほど…)
 時間が惜しくて寝たくないから、「寝ろ」と言われて、渋々眠ることになる。
 ハーレイが「俺が起こしてやるから」と言ってくれても、ベッドの側にいてくれても。
 そっと手を握って「ぐっすり眠れ」と、優しい声で告げてくれても。


(……うーん……)
 そうなってくると、昼寝は当分、出来ないらしい。
 まるで出来ないわけではなくても、ハーレイが来てくれている時に限定で…。
(ちゃんと早めに起こしてよね、って念を押すから、寝てる時間も…)
 ぐっすり、たっぷりとはいかない勘定。
 ハーレイの声で起こされるまでの、限られた時間しか昼寝は出来ない。
(じゃあ、どうしたら…)
 前みたいにゆっくり、お昼寝出来るの、と「これから先」を考えてみたら、長かった。
 結婚出来る年を迎えて、ハーレイと一緒に暮らし始めるまで無理だろう。
 それまではきっと、今と同じで、「ハーレイのことが気になりすぎて」眠れない。
 たとえ婚約したとしたって、ハーレイには仕事があるのだから。
(…柔道部の活動でお出掛けしちゃう日も、きっとあるよね…?)
 そういった時は、今の自分と同じ状態になってしまって、気に掛かるのに違いない。
 「ハーレイは、今、何をしてるの?」と、「部員のみんなと、食事なのかな?」などと。
 なんとも心が狭いけれども、こればかりは自分でも、どうにもならない。
 気にしないでいられる強さは無いし、マナー違反をしてでも探るサイオンも持ってはいない。
(お昼寝、うんと先まで、お預け…)
 ハーレイと結婚するまでは…、と悲しい気分で、その一方で楽しみでもある。
 前の生では、ハーレイは昼寝が出来ない仕事に就いていた。
 シャングリラのキャプテンに昼寝は無理で、昼間に寝たのは「仮眠」だけ。
(…前のぼくは、お昼寝していたけれど…)
 身体が弱るよりも前から、昼寝は好きな時間にしていた。
 「ちょっと寝よう」とベッドに入って、ぐっすり、たっぷり、気が向くままに。
(でも、ハーレイには…)
 そんな余暇など無かったのだし、今度はゆっくり眠って欲しい。
 好きな時間に、好きなだけ。
 気が向いた時にベッドに出掛けて、自然に目が覚める時間まで。
(うん、いいよね…)
 前のハーレイには出来なかったんだもの、と頬を緩めて嬉しくなる。
 青い地球まで二人で来たから、「昼寝するハーレイ」を見ることが出来る。
 今はまだ、ずっと先の話で、結婚するまで、目にすることは出来ないけれど。
 ハーレイと一緒に暮らす家でしか、その光景は見られないけれど。
(…よく寝てるよね、って側で眺めて…)
 ぼくは本でも読んでいようかな、と幸せな気持ちで一杯になった。
 今は「ハーレイがやってくれている」立場を、「今度は、ぼくがやるんだよ」と。
 ハーレイの寝顔を見守りながら、読書をしたり、お茶を飲んだりといった具合に。


 とても素敵な未来の時間。
 前の生では見られなかった「ハーレイの昼寝」を、ベッドの側に座って眺める。
 顔立ちをよくよく観察したり、寝息に耳を傾けたりと、飽きもしないで、のんびりと。
(…ホントに幸せ…)
 うんと幸せ、と思ったけれども、どうだろう。
 一緒に暮らし始めて直ぐなら、確かに飽きずに、幸せたっぷりだろうけれども…。
(ハーレイのお昼寝、その内、当たり前のことになっちゃうんだよね…?)
 もう珍しくもなくなって…、と「それ」は容易に想像がついた。
 最初の間は新鮮な時間で、驚きも発見も、きっと沢山。
 けれども、当たり前になったら、飽きてしまうのは時間の問題かもしれない。
 そして飽きたら、ブルーを待っているものは…。
(…なんでいつまでも寝ているの、って…)
 ハーレイの横でイライラしながら、「まだ起きないの?」と腹を立て始めるという現象。
 「起きたら一緒に散歩に行こう、って寝る前に約束していなかった?」と。
 あるいは「おやつの時間で、お茶の支度も出来てるのに!」などと、眉を吊り上げて。
(…ホントにありそう…)
 二人で朝からケーキを焼いて、「おやつに食べよう」という時だってあるだろう。
 ハーレイが昼寝をしている間に、ケーキを切って、お茶の支度も整えたのに…。
(起きてこなくて、気持ちよさそうに寝ちゃってて…)
 ぼくだけケーキを食べるわけにも…、と思うものだから、困った事態になりそうではある。
 寝ているハーレイを叩き起こすか、ケーキを食べるのは諦めるか。
(…二人で作ったケーキだったら、まだいいんだけど…!)
 今のハーレイの大好物は、パウンドケーキというヤツだった。
 それも「ブルーの母が焼いたケーキ」で、ハーレイの母のと全く同じ味らしい。
 いわゆる「おふくろの味」だと聞いて、それをブルーも作りたくなった。
 ハーレイに喜んで食べて欲しくて、「ぼくも作れるようになるんだ」と決意している。
 いずれ母からレシピと作り方を教わり、上手に焼くために練習をして…。
(ハーレイのために焼くんだから、って…)
 大きな夢を描いているわけで、結婚する頃には、作れるようになっているだろう。
 だから二人で暮らす家では、何度も焼いて、ハーレイと食べて…。
(ハーレイが「やっぱり、これが最高だよな」って…)
 褒めてくれるのが嬉しくて、その日も朝から頑張って焼いて、お茶の時間になったのに…。
(…そのハーレイが、お昼寝中で…)
 起きて来ないなんて最悪だから、と涙が出そう。
 せっかく作ったパウンドケーキが、テーブルの上で待ちぼうけなんて。
 ケーキどころか、ケーキを焼いたブルー自身も、一人きりで放っておかれるなんて。


(あんまりだってば…!)
 それって酷い、と思いはしても、昼寝するのはハーレイの自由。
 現に自分も、ついさっきまで「当分、縁が無さそうだよね」と昼寝を懐かしんでいた。
 「ハーレイと結婚するまでは無理」と、「それまでは時間限定みたい」と。
(…じゃあ、どうしたら…?)
 どうすればいいの、と悩んでしまう。
 昼寝の時間は、どうすれば戻って来るのだろうか。
 思い付いた時にベッドに入って、好きなだけ、ぐっすり、たっぷり眠れる昼寝。
 今の自分には出来ない昼寝を取り戻すには、結婚するしか無さそうではある。
 ところがどっこい、結婚したら、ハーレイにも「昼寝する権利」があって…。
(…前のハーレイには出来なかったこと、ぼくは誰よりも知っているから…)
 ハーレイに向かって「昼寝しちゃダメ!」などと言えはしないし、叩き起こすのも…。
(なんだか悪いし、昼寝するんなら、どうするのが…)
 いいのかな、と頭を抱えてしまったけれども、閃きが天から降って来た。
 「一緒に寝ればいいんだよ!」と。
 ハーレイと一緒に昼寝するなら、お互い様になるだろう。
 どっちが後まで寝ていたとしても、それは「その時の条件次第」。
 時によっては、ハーレイの方が先に目覚めて、夕方になっても起きないブルーを…。
(よく寝てるよな、ってクスクス笑って…)
 何度も寝顔を覗いたりしながら、夕食の支度をするかもしれない。
 「今日のおやつは、デザートになってしまいそうだな」などと、鼻歌交じりに。
 「自分でケーキを焼いてたくせに」と、「まあ、いいんだが」と、可笑しそうに。
(…ぼくの方が先に起きちゃった時も…)
 たまにはこういう時もあるよね、とハーレイの鼻をつまんだりして、のんびりと待つ。
 「パウンドケーキは日持ちするから」と、「明日の方が美味しいくらいかもね」と。
(味が馴染んで、うんと美味しく…)
 食べられる類のケーキもあるから、二人でケーキを焼いた時でも、ゆったり待てそう。
 二人で昼寝を始めたのなら、一緒に昼寝していたのなら。
(うん、ハーレイと昼寝するんなら…)
 一緒が一番、と答えは出たから、もう困らない。
 ハーレイと二人で暮らし始めたら、ゆっくり昼寝で、ハーレイも一緒に昼寝だから…。



           昼寝するんなら・了


※ハーレイ先生と暮らし始めるまで、ゆっくり昼寝は出来そうにないブルー君ですけど。
 結婚したら、ハーレイ先生にも昼寝の権利があるのです。一緒に昼寝をするのが良さそうv








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