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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧

(ハーレイ、来てくれなかったよ…)
 今日は来るかと思ってたのに、と小さなブルーが漏らした溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…昨日も来てくれなかったし…)
 会いたかったのに、と思うけれども、ハーレイにも事情があるのだろう。
 放課後に長引く会議があったとか、柔道部の方で指導が長引いたとか。
(…ハーレイだって、忙しいんだし…)
 学校がある日は仕事だもんね、と分かってはいる。
 毎日のように、この家を訪ねて来ることは出来ないのだ、と。
 時にはとても遅い時間に、疲れ果てて「ハーレイの家」に帰る日もあるかもしれない。
 でも…、と思い浮かべる「他の原因」。
 この家を訪ねて来られない日は、仕事だけが「理由」とは限らない。
(学校の先生たちと食事に行っちゃう日だって、あって…)
 そうした時には、もちろん来てはくれない。
 ハーレイは「他の先生たち」と楽しく食事で、酒は飲まないらしいけれども…。
(車で行ってるからだよね?)
 前のハーレイのマントの色をした愛車。
 濃い緑色の車で通勤するから、学校の帰りに食事に行くなら「運転手」。
 他の先生たちを乗せて走って、食事が済んだら順に家まで送ってゆく。
 車に乗せられる定員一杯、それだけの数の先生たちを。
 飲酒運転は禁止なのだし、ハーレイは「酒を飲まない」だけ。
 それを承知で「車に乗って出掛ける」のだから、「酒を飲めない」のは自分で決めたこと。
 「飲みたい」のならば、「車を置いて」出掛けてゆくという道もある。
 学校の駐車場に置いておくなら、まるで要らない駐車料金。
 次の日の帰りまで置いておこうと、追加料金なんかを取られはしない。
 それを知らないわけもないのに、車で行くなら「飲めない」ことは百も千も承知。
(ちっとも可哀相じゃないから!)
 ハーレイだけが、酒を飲めなくても。
 他の先生たちは飲んで騒いで、とても賑やかな食事でも。


 今日は「そっち」の日だったろうか、と考えが「食事」の方に向く。
 会議や部活で忙しかったせいで「来られなかった」日とは、違ったろうか、と。
(ぼくがパパやママと食事をしてた時間に…)
 ハーレイは何処かの店で食事をしていたろうか。
 他の先生たちと出掛けて、美味しいと評判の店などで。
(…それで来られなかったなら…)
 ちょっと酷い、と思わないでもない。
 付き合いは大切なのだけれども、「恋人」だって大切なもの。
 どんなに「チビ」の恋人でも。
 「キスは駄目だ」と言われるくらいに子供扱いされていたって、恋人には違いない自分。
 しかも「普通の恋人」とは違う。
 前の生から恋人同士で、生まれ変わって再び巡り会えたほどの「特別な」人。
 それを放って、食事に行くのは「酷くない?」と。
(…今日は出掛ける所があるから、って…)
 言えば誘いは断れるだろう。
 食事は「楽しく」出掛けるものだし、一種の娯楽。
 それよりも優先すべきことなら、誰にだって幾つもあるというもの。
(うんと昔の友達と約束してるとか…)
 隣町に住むハーレイの両親、そちらの家に用があるだとか。
 「今日は、ちょっと…」と断ったならば、理由まで詳しく訊かれはしない。
 仕事を休むわけではなくて、欠席するのは「食事」なのだから。
 それも大事な「会食」とは違う、ただの「お楽しみ」。
 いくらでも断りようがあるから、なんだか腹が立ってくる。
 「ぼくを放って行っちゃった?」と。
(…今日は違うかもしれないけれど…)
 だけど、と拭えない「疑惑」。
 ハーレイは食事に行ったのでは、と思い始めたら、そんな気がして。
 「今日は違っていた」としたって、今日までに何度もあったのが「食事」。
 放っておかれたことがあるから、「もしかして、今日も?」と。


(ぼくを放って行っちゃうなんて…!)
 酷いんだから、とプウッと膨らませた頬。
 「チビだと思って、馬鹿にしちゃって!」と。
 これが「育ったブルー」だったら、こんなことには、きっと「ならない」。
 前の自分と同じ背丈に育った「ブルー」だったのなら。
(…他の先生たちと、食事に行くような暇があったら…)
 ぼくを誘ってくれる筈だよ、と溢れる絶大な自信。
 夕食を食べに二人で出掛ける、そういうデート。
 「今日は飯でも食いに行こう」と、ハーレイが何処かへ誘ってくれて。
 濃い緑色をしている愛車の、助手席に乗せて貰ってドライブもして。
(食事の後にはドライブだよね?)
 他の先生たちを「順に送ってゆく」のだったら、恋人の場合は軽くドライブ。
 それから家まで送って貰って、「またな」とキスを貰って別れる。
 今日は「そういう日」になった筈で、ハーレイと夕食を食べられた。
 二人きりで出掛けて、ゆっくりと。
(美味しいね、って食べて、それからドライブ…)
 ぼくが子供でなかったら…、と分かっているから、悔しくなる。
 どんどんと腹が立ってくる。
 「どうせチビだよ!」と、「ハーレイのケチ!」と。
 此処にハーレイがいるのだったら、怒鳴るのに。
 思った通りに、心の中身をぶつけてやるのに、「いない」ハーレイ。
 「ケチ!」と叫べたら、スッとするのに。
 「どうせチビだよ!」とプンスカ怒ってやれたら、このイライラは無くなるのに。
 けれども、ハーレイは「此処にはいない」。
 どんなに腹が立っていたって、いない相手に怒鳴れはしない。
(…ハーレイのバカ…!)
 それに酷い、と怒りは増してゆくばかり。
 ぶつける相手が「此処に」いなくて、行き場所がないものだから。
 胸の中でぐんぐん膨らむばかりで、膨らんだ「それ」を放り出してやれはしないから。


(…ハーレイのケチ!)
 ホントに酷い、と足で床を「ドン!」と蹴りたいけれども、それは出来ない。
 この時間ならば、まだ両親がリビング辺りにいるだろうから。
 上から「ドンッ!」と音がしたなら、きっと慌てて見にやって来る。
 「どうしたの?」と母が駆けて来るとか、「どうした!?」と父がドアを開けるとか。
(うー……)
 腹が立つのに床も蹴れない、と思ったはずみに、目に付いたモノ。
 ベッドの上にある枕。
 フカフカで大きな、寝心地のいい枕だけれど…。
(…枕は悪くないんだけれど…!)
 これなら殴れる、と拳を握って、ボスッ! と思い切り殴ってやった。
 ハーレイを殴ったことは一度も無いのだけれども、「そのつもり」で。
 前の自分でさえも「殴らなかった」ハーレイを、「殴ってやる」気になって。
(ハーレイのバカッ!)
 えいっ、と殴り付けた枕は、床と違って、音なんか、まるでしなかった。
 柔らかいだけに、パフッと「柔らかな音」が沈んでいっただけ。
 ちゃんと「手ごたえ」は、あったのに。
 「殴ってやった」と、拳は枕に沈み込んだのに。
(……よーし……)
 サンドバッグと言うのだったか、ボクシングの選手が「殴る」アレ。
 それのつもりで「枕」を殴ってやればいい。
 本物のハーレイは殴れないから、「殴ったつもり」で、この枕を。
 「ハーレイのケチ!」と、「酷いんだから!」と、怒りをこめて。
 力一杯に殴り付けても、枕は「痛い!」と叫びはしない。
 その分、罪の意識も無いから、もう何発でも殴ってやれる。
 「ハーレイのバカ!」と、右手で力の限りに。
 まだ足りないと、左手までもブチ込んで。
 ベッドの上でボカスカ殴って、「ハーレイのバカッ!」。
 バンバン拳で殴り続けて、「ハーレイのケチ!」。


 せっせと殴って、殴りまくって、お次は枕を引っ掴んだ。
 ハーレイを「投げ飛ばす」ことは出来ないけれども、枕だったら「投げられる」。
 ベッドにバスッ! と叩き付けてやって、気分爽快。
 「やってやった」と、「ハーレイにお見舞いしたんだから」と。
 ケチなハーレイにはお似合いの刑で、殴って殴って、投げ飛ばしたい。
 「チビの自分」を放って行ったハーレイなんかは。
 「育ったブルー」ならデートに連れて行っても、「チビ」は放っておく恋人は。
(ハーレイのケチ!)
 でもって、バカッ! と殴り続けて、投げ続けて。
 枕はパンパンに空気を吸い込み、ふと気が付いたら、驚くほどにフカフカだった。
 いつも以上に、ふんわりとして。
 「どうぞ、ゆっくり寝て下さい」と言わんばかりに、膨らんで。
(…えーっと…?)
 思いっ切り当たり散らしたのに、と目を丸くして眺めた枕。
 あんなに酷い目に遭わせていたのに、「いい眠り」を約束してくれそうな「それ」。
(……ハーレイみたいだ……)
 ふと、囚われた、そういう気持ち。
 本物のハーレイに、当たり散らして殴りまくっても、こうだろうか、と。
(…気が済むまで、殴らせてくれて…)
 それから「もういいか?」と優しく微笑むだろうか。
 「それなら、いいな」と、「今夜は、いい夢を見るんだぞ」と。
 腹が立っていたことなど忘れて、「うんとゆっくり眠るといい」と。
(……そうなのかも……)
 ごめんね、と枕を拾い上げて、キュッと抱き締める。
 腹が立っても、あれほどバンバン殴り付けても、枕は「怒らなかった」から。
 怒るどころか、逆に優しくしてくれたから。
 まるで「ハーレイが」そうするように。
 ハーレイだったら、「きっとそうだ」と、怒りなんかは何処かへ消えてしまったから…。

 

          腹が立っても・了


※ハーレイ先生への怒りをこめて、枕に向かって当たり散らしたブルー君。殴って、投げて。
 けれど枕はフカフカになって、まるでハーレイ先生のよう。怒る気持ちも消えますよねv









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(…やってられるか!)
 あの馬鹿野郎、とハーレイがバン! と叩いたテーブル。
 ブルーの家には寄れなかった日、自分の家へと帰って来るなり。
 正確に言えば、「寄り損なった」のがブルーの家。
 今日は行けると思っていたのに、「あの馬鹿野郎」というヤツのせいで。
 もうイライラと腹が立ってくるから、苛立たしい。
 こうして家まで帰って来たって、一向に収まらない「怒り」。
 「やってられるか!」とばかりに、帰る途中で食料品店に寄って来たって。
 「こんな気分で、美味い飯など作れるもんか」と、総菜を山と買い込んだって。
(……まったく……)
 俺の時間をパアにしやがって、とリビングのテーブルに並べてゆく総菜。
 食料品店の袋から出して、次から次へと。
 唐揚げにコロッケ、その辺は量をドカンと多めに。
 ヤケ食いしないと「やっていられない」気分なだけに。
 けれど栄養が偏らないよう、律儀にサラダなんかも買った。これも山ほど。
 ポテトサラダに、生野菜がメインなシーザーサラダ、といった具合に。
(…これだけ自分で作るとなったら…)
 一仕事だからな、と思えるものを端から買い込み、帰って来た家。
 それでも腹立ちが収まらなくて、テーブルを「バン!」と叩いた次第。
 食料品店の袋を置いた所で、平手で、強く。
(だが、収まらん…!)
 もう一発、と今度は拳を握って殴った。
 「あの馬鹿野郎」を殴る代わりに、テーブルを。
 テーブルだったら、どんなに強く殴り付けても痛がらない。
 悲鳴を上げることだって無いし、怪我だって…。
(その怪我ってヤツが問題なんだ!)
 大馬鹿野郎、とこみ上げてくる怒りの感情。
 「やってられるか!」と、怒鳴り付けたくなるほどに。


 此処にはいない、「あの馬鹿野郎」。
 「大馬鹿野郎」とも言ってもいい。
 柔道部員の生徒だけれども、今日の放課後、部活の途中で怪我をした。
 それも「自分が悪い」ケースで、相手の生徒は悪くない。
 「大馬鹿野郎」を投げたというだけ、「正しい技を、正しく使って」。
 ところが、今日は「弛んでいた」のが「大馬鹿野郎」。
 きちんと気合が入っていたなら、直ぐに受け身を取れる筈。
 怪我をしないよう、「正しい姿勢で」、「正しく受け身」。
(何が、今日発売の雑誌なんだ…!)
 帰りに買おうと思ったらしい、何かの雑誌。
 豪華な付録がつくという予告、それを楽しみにしていた「大馬鹿野郎」。
 放課後ともなれば、「部活が終われば」買いに出掛けてゆけるから…。
(…雑誌と付録と、それに本屋と…)
 気が散る要素がドッサリとあって、要は「お留守だった」頭の中身。
 そういう時でも、普段に鍛えてあったなら…。
(身体だけでも勝手に動いて、ちゃんと受け身が取れるんだ!)
 そのレベルまで練習してから、ボーッとしてくれ、と、もう本当に腹が立つ。
 受け身を取れなかった「大馬鹿野郎」は怪我をした。
 怪我をさせてしまった生徒は、自分は少しも悪くないのに「すみません!」と平謝り。
 そして「大馬鹿野郎」の方は、顧問の自分が「病院に連れてゆく」羽目に陥った。
 他の生徒には、「後は各自で運動しておけ」と指示をして。
 目を配れない以上、もう「対戦」はさせられない。
 それぞれの思う「鍛え方」で身体を作っておくよう、言い置いて真っ直ぐ駐車場へと。
 「大馬鹿野郎」を腕に抱えて、大股でズンズン歩いて行って。
 いわゆる「お姫様抱っこ」。
 柔道部員がコレで「運ばれてゆく」のは、「カッコ悪くて」たまらないと知っているだけに。
 「下ろして下さい!」という悲鳴も聞かずに、「お前が悪い!」と容赦なく。
 他の部活で残った生徒が、目を丸くして見ていたけれど。
 「すげー…」と感嘆の声を上げた生徒も、一人や二人ではなかったけれど。


 「大馬鹿野郎」を連れて病院に行って、待合室で待つ間。
 「なんだって、気を抜いていたんだ?」と尋ねてみたら、蚊の鳴くような声が返った。
 今日、発売の雑誌が気になっていたのだと。
 かてて加えて、大馬鹿野郎は、こう言った。
 「家まで送って貰う途中で、本屋に寄って貰えませんか?」と。
 でないと雑誌を買いそびれてしまうかもしれないから、と困り顔で。
 付録が目当てで「その号だけは欲しい」者がとても多そうだから、と「本屋」を希望。
 こちらは「送ってゆかなければいけない」立場だというのに、寄り道なんぞを。
(その雑誌が諸悪の根源だろうが…!)
 知るか、と叫びたかったけれども、生徒の気持ちもよく分かる。
 稽古がおろそかになったくらいに「欲しかった」雑誌。
(買いそびれちまったら、きっとガッカリで…)
 次に似たようなことがあったら、同じ結果を招きかねない。
 「今度こそ買いに行かなければ」と、頭の中身が「お留守」になって。
 またまた怪我して、病院に連れてゆくことになって。
(その方が、遥かに迷惑ってもんだ…!)
 俺としてはな、と思うものだから、生徒の希望を聞き入れてやった。
 病院の診察が済んだ後には、愛車に乗せて。
 本当だったら、生徒の家へと直行なのに、わざわざ本屋に回ってやって。
(何軒も梯子させられたんでは、たまらないしな…)
 確実に「沢山置いている」書店、其処へと車を走らせた。
 売り切れていない、と確信できる大きな書店まで。
(…怪我してるくせに、本屋の中に入った途端に…)
 顔を輝かせて、お目当てのコーナーへと、まっしぐらだった「大馬鹿野郎」。
 もうウキウキと雑誌を抱えて、レジの前に立って。
(…あれで、この次の怪我が防げるなら…)
 いいんだがな、と思いはしたって、「馬鹿野郎めが!」と腹は立つ。
 たかが雑誌の発売日。
 それで怪我などされた挙句に、「家に送る途中で」運転手よろしく「書店行き」だけに。


(…あの馬鹿野郎が、怪我しなければ…)
 ブルーの家に寄れる筈だった。
 けれどブルーの家には行けずに、「大馬鹿野郎」を家まで車で送り届けた。
 大馬鹿野郎の母は「申し訳ありません!」と詫びたけれども、今もって腹が立ったまま。
(あいつのお母さんは悪くないんだ、何処も全く…!)
 だから「雑誌を買いに行かされた」件は、グッと堪えて黙っておいた。
 そういったことは、じきに「バレる」だろうから。
 「家まで送ってくれた先生」が、お茶を御馳走になって「では」と帰った後で。
 なんと言っても、大きな書店の紙袋などが「動かぬ証拠」。
 大馬鹿野郎は、雑誌を袋から出すよりも前に大目玉を食らうことだろう。
 「ハーレイ先生に、そんな御迷惑まで!?」などと。
(…あいつは、それで片が付くんだが…!)
 ブルーの家に寄れなかった件をどうしてくれる、と収まらない怒り。
 部活での怪我は「少なくない」とは分かっていても、今日のは原因が原因だけに。
 しかも「原因になった」雑誌を、「買いに寄らされる」オマケつき。
(やってられるか…!)
 こういう時にはヤケ食いなんだ、と着替えを済ませて、テーブルに着いた。
 「自分で作る」には「時間がかかる」ものを山ほど、端から食べまくるのがいい。
 揚げたてのコロッケや唐揚げなどを、ガツガツと。
 サラダも皿に移しもしないで、店で入っていた器から…。
(行儀悪く食ってこそなんだ…!)
 ラーメンを作った鍋から食べるような気分でな、と頬張るサラダ。
 いつもは「絶対にしない」ようなことを、腹立ちまぎれに「やらかす」のがいい。
 テーブルを平手や拳で殴って、こうしてヤケ食い。
 小さなブルーが目にしたならば、「どうしたの!?」と仰天するようなことを。
(腹が立ったら、こいつが一番…)
 誰かに当たり散らすよりかは、テーブルに当たって、ヤケ食いに走る。
 それが一番「少ない」被害。
 ガツガツ食べれば、栄養にもなって一石二鳥。


 食べて食べまくって、「食った、食った」と思う頃には、許せる気分になっていた。
 大馬鹿野郎も、「雑誌を買いに寄らされた」ことも。
(…あいつも、まだまだ子供なんだし…)
 そういったこともあるだろう、と頷きながら、フウと溜息をつく。
 「次は勘弁してくれよ?」と、「大馬鹿野郎」の顔を思い浮かべて。
 またもブルーに「会い損ねる」のは、御免だから。
 腹が立ったのが落ち着いた後は、ただ残念に思うだけだから。
 「あいつに会いたかったよな」と。
 ヤケ食いするより、テーブルに当たり散らしているより、ブルーと過ごしたかったから…。

 

         腹が立ったら・了


※ブルー君の家に寄り損なった、と腹が立っているハーレイ先生。柔道部員の生徒のせいで。
 そしてヤケ食いに走る所が、温和なハーレイ先生らしい「腹が立った」気分の解消法v









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(ハーレイのケチ…!)
 今日もキスしてくれなかった、と小さなブルーは膨れっ面。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は休日、ハーレイが訪ねて来てくれたけれど。
 午前中から二人で過ごして、夕食の後のお茶まで一緒だったのだけれど…。
(来てくれたのはいいんだけれど…)
 やっぱりキスしてくれないんだから、とプンスカ怒りたくもなる。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 青い地球の上で会えたというのに、再会のキスも出来ないまま。
 ハーレイ曰く、「俺は子供にキスはしない」で、「キスは駄目だ」と叱られるばかり。
 前の自分と同じ背丈に育たない限りは、貰えないキス。
 今のハーレイがしてくれるキスは、いつでも頬と額にだけ。
 子供向けのキスしか貰えないから、あの手この手で強請るのに…。
(キスは駄目だ、って叱るだけじゃなくて、ぼくの頬っぺた…)
 膨れっ面になったら潰すんだから、と唇を尖らせてプウッと膨れる。
 ハーレイがいたら、この顔も「潰される」ことだろう。
 大きな両手で、頬っぺたを両側から押してペッシャンと。
 「フグがハコフグになっちまったな」などと、可笑しそうな顔で。
(…ぼくが大きくならない間は…)
 そういう日々が続いてゆくだけ。
 どんなにキスを強請ってみたって、誘惑したって、全て空振り。
 ハーレイは応えてくれないばかりか、釣られもしない。
 「キスしてもいいよ?」と、前の自分みたいな顔のつもりで誘ってみても。
 この顔だったら大丈夫だよ、と自信たっぷりだった時でも。
(…恋人のぼくが誘ってるのに…!)
 ホントのホントに分からず屋で、うんとケチなんだから、と尽きない怒り。
 一日、一緒に過ごした日だって、この始末だから。
 ハーレイの心はビクともしなくて、キスを貰えなかったから。


 早い話が、チビの間は「駄目な」キス。
 ハーレイはキスをしてくれないし、許してくれるつもりもない。
(…何年、ぼくを待たせるつもり…!?)
 酷いんだから、と思うけれども、育たないものは仕方ない。
 ハーレイと再会した日から何日経っても、一ミリさえも伸びない背丈。
 前の自分に近付く気配も見えないわけだし、ただ溜息が零れるばかり。
 「いつになったら育つんだろう?」と。
 けれども、ものは考えよう。
 いつかは育ち始めるのだから、その時になれば仕返し出来る。
 とってもケチなハーレイに。
 もう最高の復讐が出来て、うんと後悔させられるだろう。
(…前のぼくと同じ背丈になるまでは、キスは駄目なんだものね?)
 前の自分の背丈は、忘れもしない百七十センチ。
 それが目前に迫って来たなら、きっと見た目は「前の自分」にそっくりだろう。
 背丈の方は、百六十九センチにしか伸びていなくても。
 ハーレイが「決めてしまった」背丈に、一センチばかり足りなくても。
(…その頃になったら、ハーレイだって…)
 キスしたい気持ちが湧いて来るのに違いない。
 「前のブルー」に「そっくりなブルー」が、周りをウロウロしていたら。
 毎日のように顔を合わせて、「ハーレイ?」と呼んでいたならば。
(だけど、決まりは絶対だしね?)
 ハーレイが「こうだ」と決めたからには、その約束は守るべき。
 「俺は子供にキスはしない」と言った言葉を、ハーレイは厳守しなければ。
 どんなに「ブルー」が、「前のブルー」にそっくりでも。
 キスしたい気持ちで一杯だろうが、決まりは決まりで、「約束」は「絶対」。
 ある日、ハーレイが「ブルー?」と顔を近付けて来たら、こう言うだけ。
 「ぼくは子供だから、キスは駄目だよ」と。
 まだ身長が足りていない、と「現実」を突き付けてやって。
 「あと一センチも足りていないから」と、大真面目な顔で「だから、まだ駄目」と。


(うんと待たせてやるんだから…)
 チビの自分が「我慢し続ける」年数に比べれば、短い筈の「待ち時間」。
 ハーレイが後悔しながら待つのは、きっと一年にも満たない間。
 「こんなことなら、もうちょっと…」と、「決まり」に幅を持たせるべきだった、という後悔。
 いくら後悔してみた所で、決まりは「変えられない」けれど。
(一年にも足りないなら、待てばいいじゃない…!)
 ぼくだって、復讐のためなら「待てる」、と思いもする。
 本当はキスをしたい気持ちで一杯にしても、それまでの日々の恨みをこめて。
 「フグ」だの「ハコフグ」だのと言われた時代の、チビのブルーのプライドにかけて。
 ほんの一年足らずだったら、余裕たっぷりに復讐するまで。
 「ハーレイが決めた決まりだものね」と、「ぼくは守らなきゃ駄目だから」と。
 それは残念そうな顔をして、悲しそうな表情もしてみせて。
 「まだ身長が足りないんだよ」と、涙を浮かべて、嘘泣きだって。
(……うん、いいかも……)
 やってやろう、と密かに固めた決心。
 いつか「その日」がやって来たなら、「今の自分」の仇を取ろう、と。
 ケチなハーレイに復讐してやる、とチビなりに誓いを立ててゆく。
 その日が来るまでグッと我慢で、今の屈辱に耐えるまで。
 「キスは駄目だ」とか、「フグ」や「ハコフグ」呼ばわりなんかの、惨憺たる「今」に。
 いずれ大きく育ち始めたら、出来る復讐。
 「あと一ミリも足りないんだから」と言える日が来たら、どれほど爽快な気分だろう。
 一ミリなんかは、誰が見ても誤差の範囲だろうに。
 百七十センチに「一ミリ足りない」だけなんて。
 けれど、その時も言い放つ。
 「ぼくは子供だから、キスは駄目だよ」と、顔だけは、とても辛そうに。
 心の中では、「ざまあみろ」と舌を出しても、そんな気配は見せもしないで。
(…ぼくの心の中身は、零れ放題らしいけど…)
 たとえ心が零れていたって、決まりは決まり。
 ハーレイが「それ」を決めた以上は、破ることなど出来ないから。


 楽しみだよね、と笑みを浮かべた「復讐の時」。
 育ち始めてどれほど経ったら、その時がやって来るのだろうか、と。
(前のぼくと、今のぼくは、見た目はそっくりだけど…)
 育つ環境がまるで違うから、前の自分の経験はアテにならないだろう。
 百六十センチを超えた途端にぐんぐんと伸びて、百七十センチになるのはアッと言う間とか。
 それこそ一年も経たない間に、もう「復讐の時」さえ過ぎてしまうほどに。
(たった一年も無いんだったら…)
 復讐したっていいと思うし、充分に我慢できると思う。
 それまでに「ケチなハーレイ」に意地悪をされる期間が、何年もある筈だから。
(ぼくだってキスしたいけど…)
 復讐のためなら、キスも我慢する。
 「キスは駄目だ」って言われ続けた、「今の自分」の仇を取れるなら。
 「ブルーにキスをしたい」ハーレイに向かって、「ざまあみろ」と心で言えるなら。
(…育ち始めたら、何年くらいで言えるのかな…?)
 二年だろうか、それとも三年かかるだろうか。
 ハーレイに心で「ざまあみろ」と舌を出せる日までは。
 とてもケチだったハーレイの前で、悲しそうな顔が出来る時までは。
 「ぼくは子供だから、キスはまだまだ駄目なんだよ」と。
 前の自分と同じ背丈になる日は、もう目の前に来ているのに。
 残りは一センチを切っているのに、とっくに誤差の範囲内なのに。
(どのくらいの間、復讐できるかな…)
 うんと長いといいんだけれど、と思いはしても、前の自分のようにはいかない。
 不器用すぎるサイオンのせいで、「引き延ばす」ことは、とても出来ない。
 「あと一ミリ」の所で「わざと」成長を止めてしまって、何ヶ月も苛め続けるとか。
 「まだ伸びないから」と復讐のために、気が済むまで「成長を止めておく」技は使えない。
(…なんだか残念…)
 前と同じに器用だったら出来たのに、と溜息をついて、気が付いた。
 今の自分には出来ない芸当、「此処で」と「わざと」止める成長。
 それが出来ないなら、もしかして…。


(…ぼくって、成長を止められない…?)
 前の自分と同じ背丈に育った後にも、まだ育つとか。
 もっと背が伸びて大きくなるとか、大人びた顔になるだとか。
(…前のぼくの顔は、充分、大人…)
 それよりも大人になってゆくなら、ハーレイのような年になるかもしれない。
 ハーレイどころか、ゼルやヒルマンくらいになるまで「育つ」とか。
(……それは育つって言うんじゃなくて……)
 老けると表現すべきだろう。
 成長を「自分の意志で止められない」なら、今の自分は「老ける」のだろうか。
(ぼくが老けたら…)
 ハーレイとの恋はおしまいだろうか、ほんの束の間の「復讐の時」が終わったら。
 「老けたブルー」を、ハーレイは捨ててしまうだろうか…?
(…ハーレイだったら、一緒に老けてくれそうだけど…)
 きっとそうだと思うけれども、「苛めた後」なら「苛め返されて」…。
(……ぼくの方が先に老けてしまうまで、わざと成長を止めて……)
 「お前、老けたな」とハーレイは笑うかもしれない。
 「俺の方がまだ若いようだが」などと、「苛められた時」の仕返しで。
(それは困るから…!)
 復讐はやめておこうと思う。
 成長は「止まる」と思いたいけれど、止まらなかったら大変だから。
 ハーレイと一緒に老けてゆく時に、「老けたな」と仕返しされそうだから…。

 

         ぼくが老けたら・了


※育ち始めたら、ハーレイに復讐しようと思ったブルー君。「キスはまだ駄目」と。
 けれど不器用すぎる今のサイオン。万一、老けてしまったら…。心配になったみたいですv









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(今日も、あいつはチビだったわけで…)
 まだまだ当分、チビってもんだ、とハーレイが唇に浮かべた笑み。
 ブルーの家へと出掛けた休日の夜に、いつもの書斎でコーヒー片手に。
 今日も懲りずにキスを強請っていたブルー。
 「ぼくにキスして」と、チビのくせに。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 けれどブルーは、前の姿を「何処かに置いて来てしまった」。
 青い地球の上に生まれ変わる時に、多分、天国の片隅にでも。
 「今のブルーには、まだ要らない」と神が思ったか、それとも神の気まぐれなのか。
 十四歳にしかならないブルーは、前の生で初めて出会った頃と同じに子供。
 中身の方は、前のブルーとは、まるで全く違うのだけれど。
 前のブルーは、心も身体も成長を止めていた姿とはいえ、アルタミラの地獄を過ごした後。
 だから「不幸」を嫌と言うほど味わった子供。
 対して今のチビのブルーは、「幸せ」だけしか知らないような暮らしぶり。
 平和な青い地球に生まれて、血が繋がった本物の両親までがいる。
 暖かな家もあれば、友達と過ごせる学校もあって。
 見た目は同じ姿だとはいえ、あれほど中身が違えば別人。
 そんなブルーが愛おしいけれど、再会した日から、少しも育ちはしない。
 一ミリさえも伸びない背丈。
 顔も愛らしい子供のまま。
(あいつは、それが不満なんだが…)
 何も急いで育たなくても、と何度思ったか分からない。
 今のブルーには「幸せな時間」がたっぷりとあって、子供時代を満喫する日々。
 前の生では「忘れてしまって」、何も記憶が無かった頃を。
 成人検査と過酷な人体実験、それがブルーから「奪い去ったもの」。
 養父母でも「親」はいた筈なのに、育った家もあっただろうに。
 どちらも、前のブルーは「覚えていなかった」。
 その分、今を存分に楽しんで欲しいと思う。
 何十年でもチビの子供でかまわないから、育ち始めるまで気長に待つから。


 俺は何十年でも待てる、と思う「ブルーが育ってくれる日」。
 前のブルーと同じに育って、文字通りに「帰って来てくれる日」を。
 遠く遥かな時の彼方で、メギドへと飛んで二度と戻らなかった人。
 前の自分が失くしたブルーが、いつか帰って来てくれる時を。
(俺はいくらでも待てるんだが…)
 ブルーは不満たらたらだよな、と思い出す、今日の膨れっ面。
 「キスは駄目だ」と額を指で弾いてやったら、毎度のように見事に膨れてしまったブルー。
 こちらも、その度に「フグだ」と可笑しくなっては、膨れた頬を手で潰しもする。
 両手でペシャンと潰してやったら、「ハコフグ」になってしまうから。
(何度やられても、懲りないのがなあ…)
 チビの証拠というヤツだよな、とクックッと漏らす笑い声。
 「いつまでチビの子供なのやら」と、「俺は少しもかまわないが」と。
 今のブルーの、愛らしい姿も気に入っている。
 声変わりしていない高い声だって、「いいじゃないか」と聴いてもいる。
 だから何十年でも「チビのブルー」で育たなくても、きっと困りはしないだろう。
 ブルーの方では、もはや膨れっ面では済まない状態でも。
 キスを断ったら「ハーレイのケチ!」と叫ぶどころか、「ドケチ!」になっていようとも。
(…ドケチの次は何なんだろうな?)
 まさか「ハーレイのバカ!」が「馬鹿野郎!」になりはしないと思う。
 「ボケ」とか「たわけ」にもならないだろう。
(…罵詈雑言を言うにしたって、チビなんだから…)
 自ずと限界があるのだろうし、そうそう酷い言葉は出て来ない筈。
 元は「前のブルー」なのだから。
 「ソルジャー・ブルー」だった頃のブルーは、「ボケ!」と叫びはしなかった。
 「馬鹿野郎!」にしても聞いてはいないし、そういった語彙は「今のブルー」でも…。
(…何処かで調べて来ない限りは…)
 まず言わないから、何とでも罵ってくれればいい。
 育たないせいでキスを断られて、「ハーレイのケチ!」の次は「ドケチ!」と。
 何処かで調べて来たのだったら、精一杯に「たわけ!」とでも。


 それでいいな、と思うのだけれど、いつまで待てばいいのだろう。
 今のブルーが育ち始めたら、後は順調だろうけれども…。
(…前のあいつが、あの姿に育つまでの間を…)
 ハッキリ覚えちゃいないからな、と零れる溜息。
 前の自分は、それどころではなかったから。
 白い鯨ではなかった頃の「シャングリラ」を指揮した、キャプテン・ハーレイ。
 キャプテンの前は厨房だったし、それはそれで忙しくもあった。
 厨房時代は「フライパンで」皆の命を守って、飢え死にしないよう気配りの日々。
 キャプテンになったら「船を」動かし、同じに守った仲間たちの命。
 そんな日々では、ブルーが「育ってゆく」のを見守ってはいても…。
(成長記録をつけちゃいないし、うろ覚えで…)
 何年かかって「あの姿」になったか、まるで根拠がない始末。
 「このくらいだろう」という大雑把なものしか、前の自分は覚えていない。
 それでは全くアテにならない、「ブルーが育つための」年数。
(第一、今度も当て嵌まるのか…)
 其処が分からん、と思いもする。
 前のブルーと今のブルーは、「育つ環境」が違いすぎるから。
 栄養状態はもちろんのことで、ブルーを取り巻く世界だって違う。
 前よりも「早く」育つ可能性もあるし、その逆だということだって。
 「急いで大きくなる」必要など、今のブルーには「無い」だけに。
(…分からんな…)
 育ち始めてみないことには…、と思った所で、ハタと気付いた。
 今のブルーと、前のブルーの「大きな違い」に。
(…今のあいつは、サイオンが酷く不器用で…)
 前と同じにタイプ・ブルーなのに、サイオンなんかは「無い」かのよう。
 思念波もろくに紡げないほど、今のブルーは「ミュウらしくない」。
 今の時代は、人間は全てミュウなのに。
 誰もが自然に成長を止めて、若々しい姿を保つのだけれど…。


(今のあいつは、成長を止めることが出来るのか?)
 あの不器用なサイオンで…、と思い返すブルーの「不器用っぷり」。
 思念波も駄目なら、サイオンで物を動かすことも出来ない。
 もしかしたら、今のブルーのサイオンでは…。
(…前のあいつと同じ姿で、成長を止めておくことは…)
 出来ないのではないだろうな、と背筋がゾクリと寒くなる。
 もしもブルーが育ち始めた時、「成長を止める」サイオンが働かなかったら…。
(前のあいつと同じ姿になった後にも…)
 ブルーは「成長し続けてゆく」。
 前のブルーが成長を止めた、「最もサイオンが強そうな時」を過ぎた後にも。
 もっと背が高く伸びてゆくのか、大人びた顔になってゆくのか。
(そのくらいなら、まだいいんだが…!)
 俺のような年になったりするのか、と愕然とさせられた「恐ろしい未来」。
 ブルーの成長が「止まらなかったら」、どうなるのかと。
 今の自分のような中年、そういう姿を迎えるブルー。
 それを過ぎたら、今度は「老けてゆく」ブルー。
 サイオンで成長を止められないなら、かつての「人類」のような速さで。
 気付けば、ゼルやヒルマンのような外見になってしまうまで。
(アッと言う間に老けちまって…)
 それでもブルーは「ミュウ」なのだから、老けた姿で何百年も生きるのだろう。
 とてもブルーとは思えない姿に成り果てていても、その姿で。
(…あいつが老けるようなことになったら…)
 俺も一緒に老けるまでだが、と思いはしても、それは悲しい。
 ブルーには「ブルーであって欲しい」し、前のブルーのままがいい。
 とはいえ、それが出来ないのなら…。
(…俺も一緒に老けちまって、だ…)
 あいつに似合いのジジイになるさ、と括った腹。
 「ブルーがジジイになると言うなら、俺もジジイになればいいよな」と。
 それで似合いのカップルだろうし、きっと仲良く暮らせそうだけれど…。


(…あいつと俺がジジイになるのか…)
 それよりはチビのあいつと俺の方が…、と思いもする。
 いつまで経ってもブルーがチビでも、罵詈雑言を投げ付けられても。
 「ハーレイのケチ!」が「ドケチ!」に変わって、「たわけ!」と怒鳴り飛ばされても。
 チビのブルーなら、前の自分も知っているから。
 前の自分も「見たことがない」老けたブルーよりは、チビのブルーが良さそうだから…。

 

          あいつが老けたら・了


※ブルー君が「育たない」件はともかく、育ち始めて成長が止まらなかったなら…。
 ハーレイ先生も一緒に老けるそうですけど、ジジイよりは「チビのブルー」がお好みv









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(…美味しいんだけど……)
 あんまり沢山は食べられないよね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は来てくれなかったハーレイ。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 けれど今では教師と生徒で、学校でしか会えない日だって多い。
 「ハーレイ先生!」と呼び掛けて、ペコリと頭を下げるだけの日。
 今日もそうやって過ぎてしまって、夕食のテーブルには無かったハーレイの姿。
 両親と三人で囲んだテーブル、その後に食べた砂糖菓子。
 父が会社の人に貰って帰って、「食べるか?」と出してくれたから。
 「ハーレイ先生がおいでだったら、足りないんだがな」と、「丁度良かった」と。
 会社の人は「家族は三人」と思っているから、砂糖菓子は三つ。
 ハーレイがいたなら、一つ足りない。
(…そうなった時は、パパだから、ちゃんと取っておいてくれて…)
 今日は出さずに、ハーレイが来なかった日に、「ほら」と出して来たことだろう。
 砂糖菓子だけに腐りはしなくて、日持ちだってするものだから。
(でも、ハーレイがいなかったから…)
 テーブルに置かれた砂糖菓子。
 可愛らしくて、美味しそうだった「それ」。
 早速、パクンと頬張った。
 一口で食べるには大きすぎたけれども、齧りついて。
(うんと甘くて…)
 とろけるように口の中でほどけた、砂糖の塊。
 「美味しいね!」と顔を綻ばせたら、「パパのもやるぞ」と言ってくれた父。
 「ホント!?」と嬉しくなったというのに、一個食べただけで…。
(……お腹、一杯……)
 そういう気分になってしまった。
 甘いお菓子は、「もう入らない」と。


 胃袋には多分、まだ空きがあったことだろう。
 母も「ママのもあげるわ」と微笑んだから、あと二つあった砂糖菓子。
 それを二つとも食べてしまっても、胃袋は、きっと…。
(…一杯じゃないと思うんだけどな…)
 いくら食が細い子だと言っても、相手は小さな砂糖菓子。
 量だけだったら、残り二つも入る筈。
 けれど入ってくれそうになくて、「欲しいけど、無理…」と俯いた。
 「パパとママが食べてくれていいよ」と、「お腹、一杯になっちゃった」と。
 そうしたら、「残しておいてあげるわよ」と母が優しい言葉をくれた。
 「残りは明日ね」と、父が貰って来た箱に仕舞って。
(…パパも、食べずにおいてくれたし…)
 とても美味しかった砂糖菓子は、明日も食べられる。
 おやつの時間に一つ食べるか、二個ともペロリと平らげるか。
 それとも二個目は大事に残して、明後日のおやつに食べるのがいいか。
(…どうしようかな…?)
 楽しみだよね、と母が蓋をしていた箱を思い出す。
 明日になったらあの箱を開けて、中から一個、砂糖菓子を出して…。
(美味しいってことが分かっているから…)
 大切に食べてみたいと思う。
 今日は「知らずに」齧りついた分、一口目のが「もったいなかった」気がするから。
 美味しいのだと知っていたなら、「味わうつもりで」齧ったろうから。
(そういう心の準備も大切…)
 あれほど美味しい砂糖菓子なら、それに相応しい心の準備。
 「美味しいんだから」と、味わう時間を楽しみにして。
 口の中でふわりと溶けてゆく時、舌の上で転がす間なんかも考えて。
 そうすれば、うんと値打ちが出る。
 同じ砂糖菓子を食べるにしたって、今日よりも、ずっと。
 残りの二つを食べる時には、そうしなければ。
 「うんと甘くて」美味しいのだと、心を弾ませて箱の蓋を開けて。


(…幾らでも食べられそうなのに…)
 お腹一杯になっちゃうなんて、と不思議な気分。
 胃袋には空きがあると思うのに、「もう、入らない」と訴えたお腹。
 母は笑って、「砂糖菓子だからよ」と教えてくれた。
 甘いお菓子は、「それだけでお腹が一杯になる」ものだとも。
 ケーキやプリンの類だったら、砂糖ばかりで出来ていないから、大きくても平気。
 けれども、砂糖菓子となったら、見かけ以上に「食べごたえ」があるものらしい。
 ほんの小さな砂糖菓子でも、プリン一個と同じくらいに。
 甘さを抑えたケーキだったら、一切れ分と変わらないほどに。
(…そう言われたら、分かるんだけど…)
 それは「理屈の上で」だけ。
 どうにも納得できない気分で、「まだ入りそうなのに…」と思ってしまう。
 実際には「お腹に入らなくって」、残りは箱の中なのだけれど。
 明日か、もしかしたら明後日までもの「お楽しみ」になった砂糖菓子。
 見た目だけの量なら、今日中に、全部食べられたのに。
(……うーん……)
 母が教えてくれた理由は、正しいのだろう。
 甘い砂糖の塊の菓子は、沢山は入らないのだろう。
 お腹の方では、「プリンを一個食べました」というつもりになって。
 あるいは「ケーキを一切れ、食べましたから」と、砂糖の量だけで思い込んで。
(…小さかったんだけどな…)
 プリンなんかより、ずっと。
 ケーキの一切れなどよりも、ずっと。
 なのに、お腹は「一杯」になった。
 父と母が「譲ってくれた」時には、「三つとも食べる」気でいたのに。
 「ハーレイがいなくて、良かったよね」と、チラと思ったほどなのに。
 もしも、ハーレイが来ていたならば、今日は「出会えなかった」砂糖菓子。
 それに出会えて、しかも三つも食べられる。
 「今日は、とってもツイているかも!」などと、心の何処かで。


 けれど、食べ切れなかった三つ。
 一つ目だけでお腹は一杯、残りは置いてくるしかなかった。
 お楽しみは明日に残ったけれども、なんとも解せない。
 あれほど美味しい砂糖菓子なら、幾らでも入りそうなのに。
 父が三つしか貰わなかったことを、残念に思いもしていたのに。
(十個くらい貰って来てくれてたら…)
 パクパクと食べて、大満足な気分だったろう、と。
 ところが「たったの一個」でおしまい、一杯になってしまった「お腹」。
 胃袋には空きがありそうだけれど、残りは入ってくれなくて。
(…甘いお砂糖で出来ているから…)
 そうなるのだ、と母は言ったのだけれど。
 その通りだろうと考えはしても、「どうして?」と首を傾げてしまう。
 甘くて美味しいお菓子だったら、きっと飽きたりしないのに。
 飽きる筈など、ないと思うのに。
(…うんと幸せな気分になれて…)
 おまけに、とっても美味しいんだよ、と思った所で気が付いた。
 幸せになれる「甘いもの」なら、砂糖菓子の他にもあったのだった、と。
(…ハーレイが家に来てくれた日は…)
 とても幸せで、甘い時間を過ごしている。
 ハーレイは、「俺は子供にキスはしない」と、キスを強請ったら断るけれど。
 叱られたりもするのだけれども、それでも甘い時間ではある。
 前の生から愛した人と、二人きりでいられる幸せな時。
(ああいう時間は、幾らあっても…)
 砂糖菓子みたいに「入らなくなる」ことはないだろう。
 「もう一杯」だと、ハーレイを放っておくことも。
 もちろん「帰って」と言いはしないし、何時間でも一緒にいられる。
 ハーレイが「じゃあな」と「帰ってしまいさえ」しなければ。
 もう遅いからと、ハーレイの家へ。
 「またな」と軽く手を振って、帰ってしまわなければ。


(…砂糖菓子みたいに甘いのに…)
 あの時間ならば、お腹一杯には、なったりしない。
 「残りは明日」などと思いはしないし、ある分を全部、味わうだけ。
 きっとそうだ、と考えるけれど、もしかしたら、あれも「今の自分には」無理なのだろうか。
 ハーレイが「キスは駄目だ」と叱る通りに、チビの自分には「今ので充分」。
 「またな」とハーレイが帰ってしまって、甘い時間は「おしまい」なのが。
 もっと、と心で願っていたって、「続きは、またな」と時間切れなのが。
(……ひょっとして、そう……?)
 ぼくが子供だから、砂糖菓子みたいに甘い時間も「期限付き」なの、と悲しい気分。
 「もう充分に味わったろう」と、ハーレイが「終わり」にしてしまうのが。
(……お腹、一杯にはならない筈で……)
 幾らでも入る筈なんだよ、と思うけれども、夕食の後の砂糖菓子。
 三つとも食べられるつもりでいたのが、一個でおしまい。
 残り二つは「明日以降のお楽しみ」なのだから、ハーレイと過ごす甘い時間も…。
(…欲張ったら、入らなくなっちゃう…?)
 「もうハーレイは充分だから!」と思ってしまう時が来るとか。
 「早く帰ってくれないかな?」と、「お腹一杯で」思う日が来るだとか。
 あの時間が「砂糖菓子みたいに甘い」のだったら、そうかもしれない。
 チビの自分には「今のが適量」、それ以上は「入らない」だとか。
(…そうだとしても……)
 もう入らない、と思うくらいに「ハーレイと二人で過ごしてみたい」。
 砂糖菓子みたいに甘い時間を、お腹一杯になるほどに。
 ハーレイが「またな」と帰ってゆく時、「残りは今度で充分だよね」と見送れるほどに…。

 

           砂糖菓子みたいに・了


※甘い砂糖菓子で、お腹一杯になったブルー君。もっと食べられそうだったのに。
 ハーレイ先生と過ごす時間も、砂糖菓子と同じようなものかも。ブルー君には今のが適量v








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