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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧
(今日はハーレイに会えなかったけど…)
 きっと明日には会えるよね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は学校でハーレイに一度も会えなかった上、家にも寄ってはくれないまま。
 会えずに終わってしまったけれども、明日には会えることだろう。
(明日が駄目でも、明後日もあるし…)
 週末になれば家に来てくれるし、待っていたなら必ず会える。
 なんと言っても、同じ町で暮らしているのだから。
(おまけに、青い地球なんだよ)
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が焦がれ続けた水の星。
 其処に、ハーレイと生まれて来られた。
 結婚出来る年になったら、今度はハーレイと一緒に暮らせる。
 誰にも遠慮しなくていいし、二人の仲を隠さすことなく、堂々と。
(今のハーレイ、ケチなんだけど…)
 唇へのキスもくれないけれども、それも背丈が前の自分と同じになるまでの我慢。
 大きくなったらキスが貰えて、デートにも行ける。
(あと、ちょっとだけの間の我慢…)
 うんと長いような気がするけれど、と思いはしても、文句は言えない。
 今の自分が生きているのは、聖痕をくれた神様のお蔭。
 その神様から新しい命と、前とそっくり同じに育つ身体を貰った。
 ハーレイも青い地球の上にいて、同じ町に住んでいるという素晴らしさ。
(文句なんかは言えないよね…)
 こうじゃなかった可能性だってあるんだから、とハタと気付いた。
 同じように地球に生まれて来たって、ハーレイが其処にいないとか。
 あるいは、ハーレイも地球にいたって…。
(人間じゃない、ってこともあったかも…)
 有り得るよね、と顎に手を当てた。
 二人で生まれ変わって来ても、今度は人ではなかった、ということもあるのだ、と。


 前と同じに育つ身体をくれた神様。
 聖痕をくれた神様なのだし、お安い御用だっただろう。
 けれど奇跡が起こらなかったら、ハーレイと二人、奇跡的に生まれ変われても…。
(ちゃんと二人とも地球に来られても、人間じゃなくて…)
 別の種族の生き物だったのかもしれない。
 猫や犬やら、他にも生き物の種類は沢山あるのだから。
(人間以外に生まれて来ても…)
 ハーレイと同じ種族の生き物だったら、まだしもマシと言えるだろう。
 たとえ砂漠のネズミだろうが、もっと過酷な雪と氷の世界で暮らす動物だろうが。
(ハーレイと一緒に生きてゆけるんだったら…)
 砂嵐に追われる日々ばかりでも、きっと幸せだと思う。
 見渡す限り雪と氷で、食べ物を探すのが大変な毎日の繰り返しでも。
(だって、ハーレイと一緒なんだから…)
 どんな所でも天国だよね、と暮らしてゆける自信はある。
 けれども、そうはならなくて…。
(ぼくとハーレイ、別の種族の生き物に生まれて来ちゃったら…)
 厄介なことになりそうだ、と深く考えなくても分かる。
 種族が違えば、巡り会うことは出来たって…。
(ハーレイと一緒に生きてゆくのは…)
 そう簡単なことではない。
 なにしろ別種の生き物なのだし、出会えはしても…。
(ぼくはウサギで、ハーレイは人間だったとか?)
 幼い頃にウサギになりたいと願っていたから、ウサギがポンと頭の中に飛び出した。
 今の自分がウサギだったら、ハーレイとの出会いはどうなるだろう。
(野生のウサギに生まれて来てたら、何処かの山か草原で…)
 リュックを背負ったハーレイを見付けることになるかもしれない。
 「あっ、ハーレイ!」といった具合に、前の自分の記憶が一気に戻って来て。
 そしたら急いで飛び出して行って、ハーレイの周りを跳ね回る。
 「ぼくだよ、ブルーだよ、覚えていない?」と。
 「お願い、ぼくを思い出してよ、ねえ、ハーレイ!」と、懸命に。


(ハーレイだったら、きっと気付いてくれるよね?)
 ピョンピョン必死に跳ねるウサギが、「ブルー」なのだということに。
 時の彼方で愛した人が、ウサギになって戻って来た、と。
(きっとそうだよ、ハーレイだって記憶が戻って…)
 ウサギの姿の「ブルー」を見詰めた後に、ヒョイと抱き上げてくれるだろう。
 「そうか、お前か」と、それは嬉しそうな笑顔になって。
 それからリュックを下ろして座って、お弁当を広げるかもしれない。
 「ウサギでも食えそうなものが入ってたかな?」と、いそいそと。
(ハーレイが作ったお弁当だよね、何処かで買って来たんじゃなくて…)
 今のハーレイも料理が得意なんだから、と想像の翼を羽ばたかせる。
 お弁当の中身は、手の込んだものに違いない。
 出掛けた先でのんびり食べよう、とハーレイが腕を揮った料理。
(だけどウサギは、そんな料理は食べられないから…)
 ハーレイが選んで分けてくれるのは、生の野菜やフルーツなど。
 それでも充分、幸せな気分で食べられそう。
 またハーレイに出会えた上に、お弁当を分けて貰えたのだから。
(シャングリラの厨房で、前のハーレイが試作品を分けてくれたこととか…)
 色々な懐かしいことを思い出して、胸が一杯になってしまいそう。
 そしてモグモグ齧っている間に、ハーレイが優しく語り掛けてくるのだろう。
 「俺と一緒に帰らないか?」と。
 「心配しなくても、家には庭があるんだからな」と、新しい暮らしを提案して。
(もちろん、ハーレイと一緒に行くよ!)
 うんと苦労して掘った巣穴は、捨ててしまって構わない。
 頑張って見付けた美味しい草が生えている場所も、もう要らない。
(新鮮な草なら、きっと庭でも…)
 あるのだろうし、ハーレイだったら「ウサギのブルー」が食べられるように…。
(畑を作って、いろんな野菜を育ててくれて…)
 「どれでも好きに食っていいぞ」と、気前良く言うに違いない。
 「育つ前に、お前が全部食っても、また植えるから」と。
 「足りない分は買って来るから、好きな野菜を選んで食えよ」と胸を叩いて。


 野生のウサギに生まれて来たなら、ハーレイと出会えば一緒に暮らせる。
 家に帰ってゆくハーレイに連れられ、ハーレイの家がある町へ引っ越しして行って。
 ハーレイが一人で住んでいた家の中には、「ウサギのブルー」の寝床も出来ることだろう。
 庭にウサギ小屋を作るのではなくて、きっとハーレイと同じ部屋。
(寝心地のいい籠を用意してくれて…)
 夜はゆっくり其処で眠って、昼間は家の中で好きに過ごして、庭に出るための…。
(扉も作ってくれるよね?)
 ウサギでも簡単に開けられるけれど、意地悪な風や雨などは入って来られないものを。
 「どうだ、お前の身体にピッタリだろう?」と、ハーレイが工夫してくれて。
(うんと幸せ…)
 ウサギでもね、と思うけれども、野生のウサギではなかった場合は…。
(…ハーレイと出会うことは出来ても、家で一緒には暮らせないかも…)
 そうなっちゃうかも、と思い当たるケースは山とある。
 幼稚園だの、ウサギとの触れ合いが売りの牧場だので暮らしているウサギだと…。
(運良く、ハーレイを見付けられても…)
 ハーレイの方でも気付いてくれても、その場で「一緒に帰ろう」と言えるわけがない。
 「ウサギのブルー」には飼い主がいて、まずはその人に頼む所から。
 「このウサギを分けて貰えませんか」と、大の大人のハーレイがペコペコ頭を下げて。
(…なんでウサギが欲しいんですか、って…)
 飼い主はハーレイに尋ねるだろうし、ウサギを飼った経験の有無も訊くだろう。
 挙句に「駄目です」と断られたなら、ハーレイと暮らすどころではない。
 せっかく巡り会えたというのに、人間のハーレイは「ウサギではない」ものだから…。
(お休みの日に、せっせと訪ねて来てくれるだけで…)
 ニンジンを食べさせてくれたりはしても、「またな」と家へ帰ってゆく。
 ハーレイの家は其処ではなくて、「人間のゲスト」の宿泊施設も、其処には無いから。
(それでも、頑張って通っていれば…)
 飼い主の方が根負けをして、譲ってくれる日が来るかもしれない。
 そうなればハーレイの粘り勝ちだけれど、それさえ出来ないケースもある。
 「ウサギのブルー」が、誰かのペットだったなら。
 何処かの子供が大事にしている、とても大切な「小さな友達」。
 そういう場合は譲るどころか、ハーレイは「ブルー」に触れないかもしれないのだから。


(…小さな子供は、うんとペットを可愛がってて、とても大事な友達で…)
 その「友達」を譲るだなんて、とんでもない。
 自分と家族以外の誰かに「触らせる」のも嫌がりそう。
(触っちゃ駄目、って…)
 「ウサギのブルー」をしっかりと抱いて、ハーレイを睨みそうな「飼い主」。
 ウサギになった「ブルー」は、バタバタ暴れるだけ。
 ハーレイの側へ行きたくっても、飼い主が離してくれないから。
 ウサギの言葉は、人間の耳には届くことなど無いのだから。
(ハーレイと一緒に暮らしたいよ、って泣き叫んでも…)
 飼い主も家族も、決して気付くことなどは無くて、代わりに餌を差し出して来る。
 「どうしたの?」と御機嫌を取りに、ウサギの好物のおやつなどを。
(…全然、駄目だよ…)
 ハーレイと暮らせる日なんて来ない、と涙が出そう。
 そうこうする内に、「ウサギのブルー」の寿命は尽きてしまうのだろう。
 何と言ってもウサギなのだし、寿命は人間のハーレイよりも短くて…。
(…ハーレイと一緒に暮らしたかったよ、って…)
 涙ぐみながら死んでゆく時も、ハーレイは側にいられないのに違いない。
 「ウサギのブルー」の飼い主からすれば他人なのだし、いくら仲良くなっていたって…。
(うちのウサギが死にそうなんです、って連絡なんかはしないよね?)
 もしハーレイが「そういう時には知らせて下さい」と頼んでいたとしても、所詮はウサギ。
 ハーレイが仕事に行っている間に、「ウサギのブルー」が倒れても…。
(今はお仕事中だから、って…)
 連絡するのは控えるだろうし、そうなればおしまい。
 「ウサギのブルー」は前と同じに、ハーレイに会えずに死んでゆく。
 メギドで死んだ時と違って、飼い主の一家が側にいたって、一人ぼっちと同じこと。
(ハーレイに会いたかったよね、って…)
 最期に一粒涙を零して、「ウサギのブルー」は死ぬのだろう。
 おまけに「大切なペット」で、「家族の一員」だった「ブルー」は…。
(その家の庭に埋められちゃって、ハーレイは、また…)
 愛した人の亡骸さえも、その手に抱き締めることは出来ない。
 墓標が出来ても、それがある庭を「外から」眺めて、ポロポロと涙を流すだけで。


(…前と同じで、うんと悲しくて寂しいってば…!)
 ペットのウサギだった時は、とブルッと震えて、もっと恐ろしい考えになった。
 「ハーレイが、人間でもウサギでもなくて、別の種族だったら?」と。
 「ブルー」はウサギに生まれて来たのに、「ハーレイ」はウサギでも人間でもない。
 考えたくもないのだけれども、よりにもよって「ウサギの天敵」。
 空からウサギを狩りに来る鷹や、この地域にはいないオオカミといった獣たち。
(…鷹だったら、まだマシなんだけど…)
 きっとハーレイは「獲物」が「ブルー」なのだと気付く。
 そうなれば襲い掛かりはしないで、頭上を舞って、怖がらせないように近付いて…。
(地面に降りて、ぼくをじっと見詰めて…)
 「怖がるな、俺だ、忘れたのか?」と、首を傾げて尋ねてくる。
 「こんな姿になっちまっても、俺は俺だ」と、「お前を食いやしないから」と。
(ぼくも、ギュッと目を瞑ってたのを、恐々と開けて…)
 其処に「鷹になったハーレイ」を見付けて、嬉しくなって飛び付きそう。
 「ハーレイだよね!」と大喜びで、「もう離れない」と、巣穴に案内して。
(鷹のハーレイ、ぼくの巣穴の側で暮らして、番をしてくれて…)
 「ウサギのブルー」は、他の獣に狩られることなく、のびのびと生きてゆけそうな感じ。
 だから鷹なら、まだいいけれど…。
(…オオカミだったら…?)
 オオカミは群れで狩りをするらしいし、「ウサギのブルー」が彼らに見付かったなら…。
(その群れの中に、ハーレイがいても…)
 どうすることも出来ないままに、「ブルー」は狩られるのだろうか。
 「せめて、俺が」と、オオカミになった「ハーレイ」の牙が首に食い込んで。
 「すまん、ブルー」と、泣きそうなハーレイの心の声が聞こえて来て。
(…ぼくを食べなきゃ、ハーレイ、飢えて死んじゃうんだし…)
 そんな最期でも自分は構わないけれど、やっぱりお互い、辛いから…。
(別の種族だったら、とても大変…)
 同じ人間が一番だよね、と大きく頷く。
 今は二人で暮らせなくても、いつか結婚出来るから。
 前のような悲しい別れは来なくて、最後まで、ずっと一緒だから…。



          別の種族だったら・了


※ハーレイ先生と今の自分が、別の種族に生まれていたら…、と考えてみたブルー君。
 ブルー君がウサギだった場合、色々なケースがありそうです。ハーレイ先生が天敵だとかv








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(俺は幸せ者だよなあ…)
 今日はツイてなかったんだが、とハーレイは此処にはいない恋人を想う。
 夜の書斎でコーヒー片手に、寛ぎの時間を過ごしながら。
 生憎と今日は会えずに終わった、小さなブルー。
 前の生から愛した人は、生まれ変わって再び帰って来てくれた。
 まだ十四歳の子供なせいで、一緒には暮らせないけれど。
(学校で会えずに終わっちまって、あいつの家にも寄れなくて…)
 ツイていない、とガッカリだけれど、幸せ者だとも自覚させられる。
 きっと明日にはブルーに会えるし、明日が駄目でも、また明後日といった具合に次がある。
 会える機会は幾らでもあって、いつかは二人で暮らしてゆける。
 前の生では叶わなかった結婚式を挙げて、この家で。
(…そういう幸せが手に入ったのは…)
 神様のお蔭というヤツなんだ、と幸せな今を噛み締める。
 ブルーに聖痕を刻んだ神は、ブルーと自分に、新しい命と身体をくれた。
 しかもブルーが焦がれ続けた、本物の青い地球の上で。
(地球が蘇った時代というのも粋だし、前とそっくりに育つ身体も凄いんだ…)
 流石に神というだけはある、と心から感嘆せざるを得ない。
 今度の人生は、素晴らしいものになるだろう。
 辛い記憶が山ほど詰まった、時の彼方の前の生とは違って。
(俺も、あいつも、幸せ一杯で…)
 時には喧嘩もするだろうけれど、トラブルはきっと、その程度。
 シャングリラで暮らした時代のように、人類に追われる心配も無い。
(なんたって今は、人間はみんな、ミュウなんだしな?)
 忌み嫌われることもないさ、と思った所で、不意に頭を掠めた考え。
 同じ人間に生まれて来たから、ブルーと一緒に暮らしてゆける。
 けれども、これが違っていたなら、どうだろう。
 今の時代の人間は全てミュウなのだから、人間に生まれた場合は同じ人間になる。
(違うとなったら、別の種族ということだよな?)
 あいつと俺が、と顎に手を当てた。
 「そいつは、どんな具合になるんだ?」と首を捻って。


 青い地球の上に生まれ変わった、今の自分と、小さなブルー。
 どちらも同じ人間だけれど、別の種族なら、色々と変わって来るだろう。
(俺は人間に生まれて来たのに、ブルーは人間と違ってだな…)
 ウサギだろうか、と白くて赤い瞳の愛らしい動物を思い描いた。
 なにしろ今のブルーときたら、将来の夢がウサギだった頃があるらしい。
 今度も虚弱に生まれたブルーは、幼稚園にいたウサギたちがとても羨ましくて…。
(あんな風に、元気に跳ね回りたくて…)
 ウサギになりたい、と本気で夢を見ていたという。
 ついでに今の時代ならではの干支もウサギで、正真正銘、ウサギな部分も持っている。
(よし、ブルーがウサギだったってことで…)
 考えてみよう、と想像の翼を羽ばたかせた。
 ブルーがウサギなら、生きている環境は何通りかある。
 大きく分ければ、野生のウサギか、人間に飼われているウサギか。
(野生のウサギだったなら…)
 休日に山にでも出掛けて行ったら、其処でブルーと会うのだろうか。
 歩いている所へヒョッコリ姿を現すだとか、あるいは休んでいる時に…。
(俺が弁当を広げていたら、ウサギのあいつが…)
 ヒョイと顔を出して、その瞬間に、お互い、相手に気付くのだろう。
 遠く遥かな時の彼方で、共に暮らした愛おしい人。
 その人が今、目の前にいるということに。
(ウサギのブルーは、喋れなくても…)
 赤い瞳をクルクルとさせて、弁当を広げる「ハーレイ」の側に寄って来る。
 「ぼくだよ」、「ブルーだよ、覚えていない?」と耳をピクピクさせながら。
(もちろん、ブルーだと分かっているとも…!)
 分からないわけがないだろう、と自信の方はたっぷりとある。
 野生のウサギのブルーに会ったら、まずは弁当の中身を眺め回して…。
(ウサギが食っても、大丈夫なヤツが入っていたら…)
 それを手にして「食うか?」とブルーに差し出してやる。
 生野菜だとか、生のフルーツなどを。
 ブルーが美味しそうに食べる間に、「なあ、ブルー」と優しく呼んで、こう語り掛ける。
 「俺と一緒に家に帰ろう」と、「心配しなくても、家には庭があるからな」と。


 野生のウサギだったブルーは、こうして「家族の一員」になる。
 宝物みたいに大切に抱いて、家まで連れて帰って来て。
 庭には野菜を沢山植えて、ブルーがいつでも食べられるように、日々の手入れを欠かさない。
(しかし、ブルーが暮らす家は、だ…)
 庭に作った小屋ではなくて、ハーレイと同じ家の中。
 「ハーレイの部屋」の居心地の良さそうな場所に、ブルーの寝床を置いてやる。
 夜には其処に入って眠って、昼間は好きに歩き回って、庭に出るための扉も作って貰って…。
(毎日、のびのび暮らすといいさ)
 そんなあいつを見ているだけで幸せだよな、と心の中が温かくなる。
 「別に、ウサギでも構わないんだ」と、「一緒に暮らしていけるんなら」と。
 けれどブルーが、人に飼われているウサギだったら…。
(少しばかり、困ったことになるよなあ…?)
 幼稚園などにいるウサギだったら、頼めば譲って貰えるだろう。
 ウサギとの触れ合いが売りの公園だとか動物園でも、頼み込んだら、なんとかなりそう。
 せっせと通って「ブルー」に会って、うんと仲良く過ごす所を、しっかり印象付けたなら。
(どうしても、こいつがいいんです、と…)
 大の男が頭を下げれば、飼育係も苦笑しながら「いいですよ」と言うしかない。
 あちらにとっては、ブルーはウサギたちの中の一匹なのだし、こだわる理由は何も無いから。
 「ブルー」を譲って一匹減っても、代わりのウサギは直ぐに見付かるから。
(そういう場所で、飼ってるヤツならいいんだが…)
 誰かの家のウサギだったらどうしよう、と考え込む。
 今のブルーが夢に見ていた「いつか、ウサギになるんだよ」が実現していた場合みたいに…。
(通り掛かった家の庭で、白いウサギが跳ねていて…)
 それがこちらに目を向けた途端、互いの記憶が蘇る。
 ウサギのブルーは「ハーレイだ!」と気付くなり、跳ねて来るのだろうけれど…。
(野生のウサギの時と違って、その場で連れて帰るわけには…)
 いかないどころか、果たして譲って貰えるかどうか。
 大人が飼っているウサギだったら、頼めば可能かもしれないけれど…。
(その家の子供が可愛がってる、大切なペットだったなら…)
 どう頑張っても、飼い主の方は「ブルー」を譲ってくれないだろう。
 ウサギのブルーが「ハーレイ」に懐いて、離れたくなくて大騒ぎしても。


(…そいつは困るな…)
 悲恋じゃないか、と頭を抱えたくなるような展開。
 せっかく再び巡り会えても、けして一緒に暮らせはしない。
 ブルーは飼われている家の庭から、外へ出ることは出来なくて。
 ハーレイの方も、何度その家を訪ねて行っても、ブルーを独占出来るどころか…。
(家の人と仲良くなって、お茶を飲んだり、飯を食ったり…)
 時には「ブルーの飼い主」の子供を連れて、遊びに行ったりという羽目に陥るだろう。
 運が良ければ、遊びにゆく時、「ブルー」も一緒かもしれないけれど。
 ただし、ペット専用の籠に入って、飼い主の手で運ばれて。
 ウサギの「ブルー」に餌をやるのも、あくまで飼い主の役目のままで。
(…ごくごくたまに、「おじさんも、やる?」と、ブルー用のおやつを渡されて…)
 ブルーに食べさせてやることは出来ても、それが限界に違いない。
 どんなに足繁く通って行っても、「ウサギのブルー」は手に入らない。
 いつか「ブルー」が寿命を迎えて、神様の許に帰って行ってしまっても…。
(ブルーの墓は、その家の庭に作られて…)
 亡骸さえも、ハーレイの家に来てはくれない。
 前のブルーが、メギドへと飛んで、二度と帰って来なかったように。
 冷たくなったブルーの身体を抱き締め、弔いたくても、それさえ叶わなかったのと同じ。
(その家に行って庭を眺めたら、あいつの墓が…)
 あるってだけでもマシなんだがな、と思うけれども、辛すぎる。
 前のブルーと比べてみたなら、「ブルー」が眠っている墓がある分、マシであっても。
(…別の種族なら、そうなっちまうことも…)
 あるらしいな、と悲しい気分になって来た。
 愛おしい人と再会したって、一緒には暮らせない人生。
(人間とウサギっていう、うんと平和なケースでも…)
 そうなっちまうか、と眉間を指でトントンと叩く。
 「これだと、俺まで人間じゃなければ、もっと厄介になっちまう」と。
 別の種族に生まれて来るなら、ハーレイの方も「人間ではない」ことだってある。
 ブルーは同じに「ウサギ」だけれども、ハーレイは「人間」ではなくて…。
(ウサギを見付けたら、襲い掛かって…)
 食っちまう種族だったとか、というケースも考えられるのだから。


 大人しいウサギの天敵は多い。
 空を舞っている鷹などはもちろん、地域によってはオオカミもいる。
(俺が鷹なら、ブルーを見付けちまっても…)
 狩らずに逃がせばいいだけのことで、上手く運べば、友達にだってなれるだろう。
 「ウサギのブルー」も、「ハーレイ」のことを知っているから。
 今の姿は恐ろしい鷹でも、中身は優しい「ハーレイ」のまま。
 けしてブルーを食べはしないし、鷹のハーレイが側にいたなら、他の鷹には襲われない。
(ウサギのブルーも、安心して野原を跳ね回れて…)
 とても喜んでくれそうだけれど、オオカミだったら、事情が異なるかもしれない。
 野生のオオカミは、群れを作って狩りをする。
 だから「ハーレイ」も群れの一員、ある時、皆と狩りをしていて…。
(ウサギがいるぞ、と誰かが叫んで、一斉に追い掛け始めてから…)
 オオカミの自分が追っている獲物が、「ブルー」なのだと気付いてしまう。
 突然、記憶が戻って来て。
 懸命に逃げる白いウサギが、愛おしい人と重なって。
(そうなっちまったら、オオカミの俺に出来ることはだな…)
 ウサギのブルーを「逃がす」ことだけれど、仲間の獲物を「逃がす」のは野生の掟に反する。
 その上、群れで狩りの最中、他の仲間は怒り狂って「ハーレイ」に襲い掛かるだろう。
 群れから弾き出すために。
 更には「掟を破った」者はどうなるか、若い仲間たちに示すためにも。
(…そうなる前に、俺は必死に駆け抜けて…)
 ウサギのブルーをパッと咥えて、力の続く限りに走る。
 二度と群れには戻れなくても、「ブルー」の方が大切だから。
 「ブルー」を逃がして命を守って、何処かで「ウサギのブルー」と一緒に…。
(ひっそり暮らして、俺はブルーを守り続けて…)
 一生を終えてゆくんだろうな、と大きく頷く。
 「その人生で悔いは無いさ」と、「オオカミだから、オオカミ生だが」と。
 ウサギのブルーは、オオカミに咥えられたショックで、気絶してしまうかもしれない。
 いくら「ハーレイ」だと分かっていたって、オオカミだから。
 咥えて逃げようと開けた口には、鋭い牙が生えているから。


(それでも、俺が咥えて逃げて…)
 洞穴の中か何処かで意識が戻れば、ブルーはきっと大喜びしてくれる。
 「助けてくれたのに、知らずに気絶しちゃってごめんね」と泣き笑いのような表情で。
 「ハーレイがオオカミでも会えて良かった」と、「もう離れない」と。
(ウサギのブルーと、オオカミの俺か…)
 それはそれで素敵なカップルかもな、と笑みを浮かべて、コーヒーのカップを傾ける。
 「別の種族なら、そんな出会いもあったかもしれん」と。
 「そいつもなかなか、いいかもしれん」と、嬉しくもなる。
 どんな出会いになったとしても、ブルーと生きてゆけるなら。
 オオカミなのに肉を食べずに、一生、ブルーと、草を食べて暮らす毎日でも…。




           別の種族なら・了


※ブルー君と自分が別の種族に生まれていたら、と想像してみたハーレイ先生。
 人間とウサギだった場合は、悲恋になってしまう可能性。オオカミとウサギなら幸せかもv








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(今日はハーレイに会えなかったよ…)
 後ろ姿さえ見ていないよね、と小さなブルーが零した溜息。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は古典の授業も無い日だったから、運が悪かったと言えるだろう。
 授業さえあれば、たとえ当てては貰えなくても、ハーレイの顔は見ることが出来た。
 声も聞けたし、姿にしたって見放題なのに、それも無かった。
(仕事の帰りに、寄ってくれるかと思ってたのに…)
 濃い緑色をした車は来なくて、ハーレイには会えず終いの一日。
 残念な限りなのだけれども、あと何年か経ったなら…。
(今日みたいな日は、もう無くなって…)
 ハーレイとは毎日、嫌というほど顔を合わせて、朝から晩まで、何処かで会える。
 同じ家の中で暮らしているから、喧嘩をしたって、まるで会わずに過ごすことなど…。
(…出来ないよね?)
 絶対、何処かで会っちゃうんだよ、とクスクスと笑う。
 「ハーレイのことなんか、もう知らない!」と怒っていたって、廊下や洗面所でバッタリと。
 お互い、プイッと顔を背けても、また直ぐに会ってしまうだろう。
 「何か飲みたいな」とキッチンに行ったら、其処にハーレイがいたりして。
(…ぼくと喧嘩中なのに、のんびりコーヒーなんか淹れてて…)
 鼻歌交じりに、菓子を作っているかもしれない。
 それは美味しそうな匂いが漂う、アップルパイとか、チョコレートの入ったケーキとか。
(…お前には食わせてやらないからな、って…)
 ハーレイの顔には書いてあるから、キッチンの扉をバタンと閉めて、そのまま戻る。
 飲み物が欲しかったのは確かだけれども、あんなハーレイのいる所では…。
(欲しい気持ちも失せるってば!)
 水道の水で充分だよ、とズンズン歩いて、洗面所のカップからゴクゴクと飲む。
 カップは歯磨き用のカップで、水を飲むカップとは違うのに。
 水には味などついていなくて、喉が湿るというだけなのに。


 そういう出会いばかりの日になったって、ハーレイとは、いずれ一緒に暮らせる。
 喧嘩して口も利かなくなっても、それも長くは続かないだろう。
(ぼくが怒って、キッチンの扉を思いっ切り…)
 叩き付けるように閉めて去ったら、ハーレイは笑い転げていそう。
 「大きくなっても、まだまだ子供だ」と、「中身はガキのまんまだよな」と。
 機嫌を取りにはやって来ないで、コーヒーを淹れて味わいながら…。
(お菓子作りを進めていって、合間に、食事の支度とかもして…)
 空いた時間に新聞を広げて読んだりもして、「ブルーがいない」のを逆に楽しむ。
 独身時代に戻ったみたいに、勝手気ままに。
 以前は一人で暮らしていた家、その空間を満喫して。
(…考えただけで、腹が立つけど…)
 喧嘩中の未来の自分もプンスカ怒っていそうだけれども、その内に、声が聞こえるだろう。
 立て籠っている部屋の扉が、ノックされて。
 「おい、ブルー?」と、揶揄うようなハーレイの口調。
 「飯が出来たが、食わないのか?」と。
(…返事をしないで、黙っていたら…)
 ハーレイは「そうか」と踵を返して、スタスタと戻ってゆきそうな感じ。
 「だったら、一人で食うとするかな」と、聞こえよがしに独り言を漏らして。
 「デザートは、アップルパイが出来ているし」と、「アイスも添えると美味いんだよな」と。
(ぼくのことなんか、知るもんか、って…)
 去ったら最後、ハーレイは一人で食事を摂って、アップルパイも食べてしまいそう。
 かなり経った頃に「お腹が空いた…」とダイニングに行っても、既に手遅れ。
 パイは欠片も残っていなくて、テーブルの上には…。
(アップルパイは食っちまった、って書かれたメモと、如何にも残り物っぽい…)
 ブルー用の料理が皿に盛られて、「温めて食え」と書いてある。
 嫌味ったらしく、「出来立てが一番、美味しそうな料理」が、すっかりと冷めて。
 しぼんでしまったスフレオムレツとか、冷えて固まった脂を纏ったハンバーグとか。
(やりそうなんだよ…!)
 ハーレイならね、と分かっているから、喧嘩はサッサと切り上げないと。
 お菓子や食事に釣られてしまって、出て来たことを笑われても。
 「なんだ、来たのか」と、チラと見られても、ハーレイが盛大に噴き出しても。


(…今のハーレイなら、ホントにやりそう…)
 ぼくを苛めて楽しむヤツ、と思いはしても、それも素敵な未来ではある。
 ハーレイと一緒に暮らしているから、喧嘩もするし、仕返しもされる。
 「ハーレイのことなんか、もう知らない!」と言おうものなら、独身生活に戻られて。
 「元々、俺の家なんだしな?」と、「ブルーのいない暮らし」をされてしまって。
(それでも、ぼくが食べる分の食事や、お菓子は…)
 きっと作ってくれるだろうから、さっき考えたようなことも大いに有り得る。
 お菓子は食べ尽くされてしまって、食事は「冷めたら美味しくなくなる」残り物ばかり。
 怒るしかない仕打ちなのだし、ハーレイの所へ怒鳴り込んだら…。
(お前が食いに来なかったんだろ、と鼻で笑われて…)
 グウの音も出なくて、其処へハーレイが追い打ちをかける。
 「第一、喧嘩中なんだぞ、今は」と。
 「喧嘩中なら、仕返しされるのは当然だろうが」と、可笑しそうに。
(…そう言われたら、悔しくても、黙るしか無くて…)
 「降参だよ!」と言わない限りは、ハーレイの仕返しが続いてゆく。
 午後のお茶の時間も、ハーレイは全く呼んでくれずに、一人、ゆっくりコーヒーを飲む。
 「ブルーとお茶」なら、コーヒーではなくて、紅茶なのに。
 喧嘩中のブルーが「何か飲みたい」と出掛けて行っても、キッチンにドッカリ居座り続けて。
 お湯を沸かそうにも、紅茶のポットを用意しようにも、ハーレイがいては、どうにもならない。
 「ぼくも、紅茶を飲みたいんだけど」と声を掛けたら、負けを認めるようなもの。
 「お願いだから、どいて下さい」と、頭を下げるのと同じだから。
(喧嘩してなきゃ、なんでもないことなんだれどね…)
 「ちょっとごめん」と横を通るとか、ハーレイの動きを遮ることは、ごくごく日常。
 それが出来ないのが「喧嘩の最中」、負けを認めるか、紅茶の代わりに…。
(洗面所に行って、水道の水…)
 歯磨き用のカップから飲んで、部屋に立て籠もって、怒り続けて…。
(御飯の時間になったなら…)
 またハーレイが部屋の扉をノックする。
 「飯が出来たが、お前、今度も食わないのか?」と笑いながら。
 「デザートも出来てるんだがな?」と。
 「今なら飯も熱々なんだ」と、「冷めたら、きっと不味いだろうなあ…」などと。


(ホントにありそうなんだよね…)
 そういう未来、と思うけれども、未来の自分は、それでも幸せなことだろう。
 ハーレイと二人で暮らしているから、喧嘩もするし、仕返しもされる。
 盛大に喧嘩をしている時間は、そうそう長くは続かなくても。
 仕返しに懲りた「未来の自分」が、「ごめんなさい…」と詫びる羽目になっても。
(謝らなくても、ハーレイの前へ出ていくだけで…)
 ハーレイは許してくれるよね、という気がする。
 「飯に釣られて出て来たんだな」と、腹を抱えて笑っていたって。
 「色気より食い気というヤツだよな」と、「これに限る」と勝ち誇られても。
(ムカッとしたって、それは、一瞬…)
 ハーレイが「美味いんだぞ?」と料理を盛り付けてゆくのを見たら、怒りは溶けてしまいそう。
 酷い仕返しを受けたことだって、頭から消えてしまうと思う。
 何故なら、「ハーレイが、其処にいる」から。
 つまらないことで喧嘩になって、うんと怒って、立て籠もったりしたけれど…。
(やっぱり、ハーレイがいるのが一番…)
 顔を見られて、一緒に食事のテーブルを囲んで、食後は紅茶やコーヒーを淹れて…。
(ハーレイが作ったお菓子を食べて、昼間にやられた仕返しのことを…)
 二人で話して、ハーレイが一人で食べてしまったアップルパイなどの感想も…。
(聞かせて貰って、食べ損なったのを悔しがって…)
 「分かった、また今度、作ってやるから」と約束を取り付けて、満足する。
 ハーレイの料理も、作るお菓子も、美味しいに決まっているのだから。
 前のハーレイは厨房出身、今のハーレイも料理が好きで、腕を磨いていると聞く。
(何を作らせても、きっと、とっても美味しくて…)
 頬っぺたが落ちそうになるんだよ、と思うものだから、未来の自分が羨ましい。
 そのハーレイが作る料理を、毎日のように食べて暮らして、喧嘩もする。
 仕返しで「冷めたら不味い料理」を食べさせられたり、お菓子を食べ尽くされてしまったり。
 そうして怒って、でも仲直りで、同じ料理を作って貰える。
 「熱々の間に食うのがいいんだ」と、日を改めて、ハーレイがキッチンに立って。
 「お前も、すっかり懲りただろうが」と、「そうは言っても、またやりそうだが」と。
 「次があったら、どんな料理を作るとするかな」と、ハーレイは計画をひけらかしそう。
 冷めたら不味い料理を挙げて、「お前は、どれを作って欲しい?」と聞いたりもして。


(そういう仕返し、たっぷりやられてしまっても…)
 何度、酷い目に遭ってしまっても、未来の自分は、間違いなく幸せ一杯の日々。
 其処に「ハーレイがいる」だけで。
 毎日、ハーレイと顔を合わせて、会えない日などは一日も無くて、時には喧嘩するほどで。
(…だって、前のぼくは…)
 その「ハーレイ」を失くしちゃったから、と右の手をキュッと強く握り締める。
 今はお風呂で温まった後で、部屋も暖かくて、幸せな未来も夢見ていたから、温かい右手。
 その手は、前の生の終わりに、冷たく冷えて凍えてしまった。
 最後まで持っていたいと願った、ハーレイの温もりを落として、失くして。
 「ハーレイとの絆が切れてしまった」と泣きじゃくりながら、前の自分はメギドで死んだ。
 それから長い時が流れて、気付けば、青い地球の上にいた。
 新しい命と身体を貰って、ハーレイまでが戻って来てくれた。
(ぼくよりも先に生まれて来ていて、聖痕を見て記憶が戻って…)
 今では会えなかった日を嘆くくらいに、「ハーレイがいる」のが当たり前の毎日。
 学校で顔を合わせるだけでも、本当は充分だと言えるだろう。
 「二度と会えない」と思いながら死んで、それきりになる筈だったのだから。
(だから、ハーレイさえいれば…)
 それで充分なんだよね、と神様に御礼を言うべきだろうし、そうだと思う。
 未来のハーレイに仕返しされても、怒っている場合などではない。
(立て籠もってプンスカ怒っていたって、心の中では…)
 分かっているから、ハーレイを嫌ってなどはいないし、怒ってもいない。
 「君の他には、何も要らない」と痛感していて、喧嘩中の自分を叱ってもいそう。
 「そのハーレイを失くしてしまった、前のお前を忘れたのか?」と。
 「一人ぼっちになりたいのか」と、「またハーレイを失くしたいのか?」と問い掛けて。
(…そんなことないし、失くしたくもなくて…)
 ハーレイさえいれば、それで充分、他には本当に何も要らない。
 冷めてしまったら不味い料理で仕返しされても、お菓子を食べ尽くされてしまっても…。
(君の他には、ぼくは、なんにも…)
 要らないんだよ、と思うけれども、未来の自分は、きっとやらかすことだろう。
 喧嘩も、仕返しをされた文句を言うのも、思いのままに。
 ハーレイにすっかり甘えてしまって、前の生よりも、うんと我儘になって…。



             君の他には・了


※ハーレイさえいれば、他には何も要らない、と思うブルー君。前の生の最期が悲しすぎて。
 けれど未来には、きっと忘れて、ハーレイ先生と喧嘩するのです。幸せすぎて我儘になってv







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(…あと何年か、待ったなら…)
 あいつと暮らせるんだよな、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
 今日は会えずに終わってしまった、小さなブルー。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた、愛おしい人。
(今日は、一度も会えなかったが…)
 何年か待てば、ブルーに会えない日など、無くなる。
 まだ十四歳にしかならないブルーが、結婚出来る年の十八歳になりさえすれば。
(プロポーズはともかく、その後の、あれやこれやが、だ…)
 多少、厄介かもしれないけれども、ハードルは必ず乗り越えてみせる。
 今度こそ、ブルーを手に入れるために。
 前の生では叶わなかった、「ブルーと二人だけの暮らし」を掴み取らなければ。
(そのために生まれて来たんだからな?)
 あいつも、俺も…、と改めて思う。
 遠く遥かな時の彼方で、何度、ブルーと語り合ったことか。
 「いつか、地球まで辿り着いたら…」と、青い地球で生きてゆく夢を。
 人類に追われ、狩られることなく、ただの「ミュウという種族」になって。
(その日が来たなら、あいつはソルジャーではなくなって…)
 シャングリラという白い箱舟もお役御免で、キャプテンだって要らなくなる。
 船の仲間たちも、それぞれに散ってゆくだろう。
 自分が生きたい道を選んで、暮らしたい場所を見付け出して。
(そうなりゃ、あいつも、前の俺も、だ…)
 肩書などは消えてしまって、「ただのブルー」と、「ただのハーレイ」。
 役目も重荷も、背負う必要などは何処にもないから、二人、気ままな旅に出る。
 地球まで辿り着く前に夢見た、様々なことをするために。
 あちこち巡って、あれこれと食べて、他愛ないことを話したりもして。
 ミュウの未来を憂えなくても、何の心配も要らない世界は、幸せに満ちているだろう。
 「ただのブルー」と「ただのハーレイ」では、誰一人、気に留める者が無くても。


 前の自分と、前のブルーが見ていた夢。
 とても細やかな夢だけれども、それでいて大変な夢でもあった。
(まず、人類との和解ってヤツが問題で…)
 和解が無理なら、戦い、道を開くしかない。
 文字通り茨の道になる上、犠牲も多く出ることだろう。
 その戦いを始めるためには、戦力も要るし、どれほどの準備と覚悟が必要になるか。
(…でもって、それを決断するのは…)
 前のブルーと、前の自分と、長老たちという勘定。
 仲間たちにも諮るけれども、最終的には、その決断は…。
(前のあいつが…)
 下す形になってしまって、ブルーは、その責を負うことになる。
 勝ち戦が続く間は良くても、そうそう上手くゆくわけがない。
 何処かで必ず、負けの一つや二つは来る。
 負ければ仲間が怪我をするとか、命を落とす結果にもなる。
 そうなった時に、ブルーの心は、どれほど傷付き、血を流すことか。
(…ぼくが戦いに出ていれば、と…)
 悔やみ、嘆いて、いつまでも自分を責め続ける。
 青い地球まで辿り着いても、ふとしたはずみに思い出して。
 「あの仲間が、生きていたならば…」と、自分の暮らしに重ねもして。
(…きっと、そうなっていたんだろうなあ…)
 あいつも、俺も…、という気がする。
 地球での暮らしが、満ち足りたものであればあるほど、悔いも大きくなったろう。
 「違う選択をしていれば」と、払った犠牲を、全て自分たちの過ちにして。
 本当のところは違っていたって、「自分のせいだ」と、背負い込んで。
(…前の俺たちの夢ってヤツは…)
 細やかなんかじゃなかったんだ、と今にして思う。
 沢山の夢を描いた時には、二人とも、そういう気でいたけれど。
 「いつか地球まで辿り着いたら」と、子供みたいに無邪気に考え、夢を増やした。
 あれもしようと、これもしたいと、その時が来たら「やりたいこと」を。


(…大それた夢ってヤツだったから…)
 一つも叶わなかったのかもな、と苦笑し、カップを指でカチンと弾いた。
 そもそも、青い地球でさえもが、あの頃は存在していなかった。
 死の星のままで宇宙に転がり、人が住めるような場所などは無くて…。
(青いどころか、赤茶けた星で…)
 辿り着いた仲間は、皆、涙した。
 「こんな星のために、ずっと戦って来たのか」と。
 多くの犠牲を払い続けて、長い道のりを歩んだのか、と呆然として。
(…そして、地球まで辿り着くために…)
 必要だった犠牲の中には、前のブルーも含まれていた。
 命を捨ててメギドを破壊し、シャングリラを逃がして、ブルーは消えた。
(…前の俺の前から、消えてしまって…)
 二度と戻りはしなかった人を、本当は、何処までも追い掛けたかった。
 白いシャングリラも、キャプテンの務めも、何もかも捨てて、ブルーの後を追う。
 それは甘美な夢だったけれど、前のブルーが許さなかった。
 最後の最後に、「ジョミーを頼む」と言い残して。
 決して自分の後を追うな、と前に二人で交わした誓いを、反故にして。
(あいつが死んだら、前の俺も、すぐに…)
 葬儀を済ませて、ブルーの後を追ってゆく。
 そう決めて、ブルーも「そのつもり」でいた。
 決めた時には、まだ船は平和だったから。
 戦いは始まってさえもいなくて、ブルーの寿命が尽きた後にも、そうだと思い込んでいた。
 次のソルジャーが後を継ぐだけで、シャングリラの日々も変わりはしない、と。
(…どうやって地球まで行くつもりだったんだろうなあ…)
 変わり映えのしない日々が続く船で、と可笑しくなる。
 だからこそブルーの寿命が尽きる日が近付き、あんな誓いを立てることに…、とも。
 けれど、戦いは始まった。
 そうして前のブルーも戦い、前の自分の前から消えた。
 一人ぼっちで残された船で、仲間たちを指揮し、地球まで辿り着いたけれども…。


(前の俺の夢は、ただの一つも…)
 叶わないまま終わってしまって、気付けば、今の自分が「いた」。
 おまけに「ブルー」も、今の自分の前にいた。
 生まれ変わって、十四歳の子供になって。
 タイプ・ブルーのサイオンはあっても、それが使えない不器用なブルー。
(俺は、あいつを…)
 もう一度、手に入れたんだ、と感慨深いものがある。
 失くした筈の愛おしい人が、自分の前に帰って来てくれた。
 まだ一緒には暮らせなくても、何年か待てば、前の自分たちが夢見た通りに…。
(…結婚式を挙げて、ただのブルーと、ただのハーレイになって…)
 前の生では叶わなかった、幾つもの夢を叶えてゆく。
 青い地球の上を二人で旅して、様々な場所へ出掛けて行って。
 夢でしかなかった色々なものも、今なら、いくらでも手に入れられる。
 前のブルーの夢の朝食、「ホットケーキ」も、今のブルーには、日常になった。
 血が繋がった本物の「ブルーの母」に頼みさえすれば、毎日だって食べられるだろう。
 地球の草を食んで育った牛のミルクで作った、美味しいバターをたっぷり塗って。
 サトウカエデの森で育まれた、メープルシロップを好きなだけかけて。
(…神様のお蔭ってヤツだよなあ…)
 どんな贅沢な夢も叶うぞ、と実感出来る、今の自分の暮らし。
 前の自分たちには「夢で幻だったこと」の全てが、今では普通で「当たり前」。
 そう考えると、夢を叶えられる世界も嬉しいけれど…。
(それより、何より、大切なものは…)
 あいつなんだ、と思いを深くする。
 時の彼方で失くした「ブルー」が、再び、この手に戻って来たこと。
(…本当の意味では、まだ手に入れてはいないからなあ…)
 今のあいつは子供だからな、と大きく頷く。
 「まだ何年か、待つしか無いが」と。
 ブルーが結婚出来る年になるまで、本当の意味では「手に入らない」愛おしい人。
 けれども、待てば手に入るのだし、焦る必要などは全く無い。
 今のブルーが育ってゆくのを、ただ見守っていればいい。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が、チビのブルーが育ってゆくのを見ていたように。


(…そうさ、あと何年か待てばだな…)
 ブルーは、この手に戻って来る。
 何の犠牲も払うことなく、戦いの日々を経ることもなく。
 ただ平穏な時が流れて、その先に、前の自分たちが夢見た未来が広がる。
 「ただのブルー」と「ただのハーレイ」、そういう二人として生きてゆく。
 この地球の上で、幸せに。
 仲間たちの血が流れることなど、其処までの間に、ありはしなくて。
(…いいもんだよなあ…)
 最高だ、とコーヒーのカップを傾ける。
 なんと素晴らしい未来なんだ、と前の自分の夢が潰えた日と比べてみて。
 ブルーを失い、悲嘆に暮れたあの長い日々も、色鮮やかな未来の前には、どうでも良くなる。
 もう悲しみなど何処にも無くて、ブルーは帰って来てくれたから。
 あと何年か待ちさえすれば、前の自分が夢見た暮らしが、そっくりそのまま始まるから。
(あいつさえ、側にいてくれるんなら…)
 それだけで俺は満足なんだ、と充足感が胸に満ちてゆく。
 今のブルーがいてくれるだけで、もう満足だと言ってもいい。
 本当の意味では、まだ手に入っていなくても。
 結婚出来る時が来るまで、側で見守るだけの日々でも。
(あいつさえいれば、俺は他には、もう何一つ…)
 望まないよな、と前の自分だった頃を今に重ねて、「そうだな」と思う。
 「ブルー」さえいれば、何も要らない。
 失くしてしまった愛おしい人が、この手に戻って来てくれたから。
 その人と生きてゆけるのだったら、それだけで日々は満ち足りていることだろう。
 遠く遥かな時の彼方で夢見た「それ」は、「大それた夢」で、叶わずに終わったのだけれど。


(…何の犠牲も、払いはせずに…)
 待っているだけで、ブルーとの暮らしが手に入る。
 最高の未来で、想像するだけで顔が綻ぶ。
 「あと何年かの辛抱なんだ」と、「今でも、充分、幸せだがな」と。
(…俺は、お前の他には、何も…)
 何一つ無くても、幸せなんだ、とコーヒーを口に含んだけれど。
 「ブルーさえいれば」と思ったけれども、このコーヒーも、今ならでは。
(…青い地球で採れた、本物のコーヒー豆で淹れたヤツで、だ…)
 代用品だったキャロブとは違うんだよな、と白いシャングリラを思い出す。
 自給自足の暮らしに入った後の船では、もう本物のコーヒーは味わえなかった。
 それが今では幾らでも飲めて、おまけに青い地球産のもの。
 他にも色々、前の自分には夢だったことが、当たり前にあるものだから…。
(…お前の他には、何も要らない、と言いたいんだが…)
 実感としてはあるんだがな、と眉間を指でトンと叩いた。
 「すまんが、他にも欲しいようだ」と。
 今の自分の当たり前の日々も、ブルーと二人で暮らす未来には、是非、欲しい。
 「お前の他には、何も要らない」と思う気持ちは本当でも。
 ブルーさえいれば、他には何も要らなくても。
(なんたって、これが日常で、だ…)
 ブルーもホットケーキを食ってるんだし、いいじゃないか、と自分自身に言い訳をする。
 「あいつだって、俺の他にも、あれこれ欲しいと思うだろうさ」と。
 青い地球でやりたいと幾つも夢に見たこと、それも欲しくて当然だよな、と…。



              お前の他には・了


※ブルー君さえいれば他には何も要らない、と思ったハーレイ先生ですけれど…。
 そう思う気持ちは本当ですけど、他にも欲しくなるのです。青い地球にいるんですものねv








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(今日はハーレイに会えなかったよ…)
 後姿だって見ていない、と小さなブルーが零した溜息。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は古典の授業が無かった上に、廊下でさえもハーレイに会えはしなかった。
 何処かに姿が無いだろうか、と窓から見ても、帰りにグラウンドを見渡した時も…。
(ハーレイ、何処にもいなくって…)
 仕事の帰りに来てくれるかも、と待っていたのに、ハーレイの愛車は来なかった。
 ツイていない、と残念だけれど、こういう日だって少なくない。
 別々の家で暮らす以上は、仕方ないとも言えるだろう。
(結婚したら、毎日、一緒に暮らすんだから…)
 それまでの我慢で、結婚した後は、顔を見られない日の方が珍しくなる。
 第一、顔を見られない日など、あるのかどうか。
(泊まりがけの研修とかでも、同じホテルに部屋を取ったら…)
 ハーレイは其処に帰って来るから、昼食はともかく、朝食と夕食は二人で食べる。
 昼休みだって、ハーレイは部屋に来るかもしれない。
 配られた自分のお弁当を持って、ブルー用のも何処かで調達して来て。
(そうなるかもね?)
 名物が入ったお弁当とか…、と大きく頷く。
 「ハーレイだったら、きっとそうだよ」と、「お昼御飯が、お弁当だったら」と。
 そんな具合で、会えない日などは全く無くなるかもしれない。
 いつも、いつでも、どんな時でも、ハーレイと離れる日などは無くて。
(前のぼくたちも、そうだったんだし…)
 今度も似たようなことになりそう、とクスッと笑った。
 「時代も場所も変わっちゃったけど、やってることは同じだよね」と嬉しくなって。
 青い地球まで辿り着いても、二人の暮らしは、遠い昔に夢に見た通り。
 シャングリラという船が無くなり、ソルジャーでも、キャプテンでもなくなっても。
 「ただのハーレイ」と「ブルー」になっても、「いつも一緒」と心が温かくなる。
 本物の地球で生きてゆけるし、ハーレイと離れることなど二度と無いから。


 時の彼方で、メギドで泣きながら死んだ時には、こんな日が来るとは思わなかった。
 それを思えば、今日みたいに会えない日が「たまに」あっても、文句は言えないだろう。
 神様の粋な計らいのお蔭で、あと何年か待てば、ハーレイと結婚出来るのだから。
(そしたら、二度と離れることなんか無くて…)
 ハーレイの顔を見られない日は、ホントのホントに無くなるかも、と気持ちが浮き立つ。
 「あと少しだけの我慢だものね」と、自分自身に言い聞かせて。
(…結婚したら、ハーレイの家で暮らすんだから…)
 ハーレイが家出でもしない限りは、嫌でも顔を合わせる日々。
 前の生では酷い喧嘩はしなかったけれど、今度はするかもしれなくて…。
(ハーレイなんか大嫌いだ、って叫んで、怒って…)
 「自分」が家出することはあっても、ハーレイの方はしないだろう。
 なんと言っても其処は「ハーレイの家」で、ハーレイが出てゆくわけもないから。
(大喧嘩をして、お互い、頭に来たって…)
 家出するのは「ブルー」の方で、ハーレイは家から動かない。
 廊下でブルーと出くわす度に、露骨に顔を顰めても。
 「お前なんか、俺は知らないからな!」とプイと顔を背けて、口さえ利いてくれなくても。
(それでも、ぼくの分の御飯は…)
 ハーレイが「自分のを作るついでに」作ってくれて、テーブルにドンと置いてありそう。
 怒っているから、嫌がらせとばかりに、とんでもない量が盛ってあっても。
(…ぼくが普段に食べてる量の、二倍はあるっていう勢いで…)
 おかずも御飯も、恐ろしいほどの大盛りサイズ。
 スープや味噌汁も、「おかわりは鍋にあるから、温めて食え」とメモがついている。
 だからテーブルの上には、当然のように、こう書かれたメモ。
 「残さずに全部、綺麗に食えよ。残したら、二度と作ってやらないからな!」と大きな字で。
(…ぼく、それだけで降参しそう…)
 一食くらいは何とかなっても、三食は無理、という気がする。
 胃袋が悲鳴を上げてしまって、いくら美味しくても食べ切れなくて。
(早くハーレイに謝らないと…)
 食事を作って貰えなくなるから、降参するしかないだろう。
 「ごめんなさい」と、ハーレイに頭を下げて。
 ハーレイの方が悪いと思っていたって、其処の所は、グッと堪えて。


(……ハーレイ、最強……)
 食事を大盛りにして出すだけで、ぼくが謝りに行くんだから、と可笑しくなる。
 今のハーレイも料理が得意で、作るのも好きで、一人暮らしでも自炊をしているほど。
 料理を作るのが苦になるどころか、楽しみながら毎日やっているのに…。
(ぼくと喧嘩になった時には、ドンと大盛りにするだけで…)
 ブルーが詫びを入れに来るのだから、どう考えても最強だろう。
 武器は「おたま」や「しゃもじ」の類で、自在に操り、ブルーを倒す。
 美味しい料理をドッサリ作って、器にたっぷり盛り付けて。
 「残した時には、二度と作ってやらないからな」と、脅迫めいたメモを隣に添えて。
(…ホントに強すぎ…)
 勝てやしない、と肩を竦めて、未来の自分が気の毒になった。
 ハーレイと派手に喧嘩をやらかし、捨て台詞を吐いて、部屋を出たまではいいけれど…。
(廊下で会っても、プイッて知らん顔をして…)
 無視して得意になっていたのに、ハーレイが「飯だぞ!」とだけ言いに来る。
 ブルーが立てこもっている部屋の前で、扉を叩いて、大きな声で。
 「俺はもう、先に食ったからな」と、「後はお前が好きな時に食え!」とも付け足して。
(…ハーレイの顔なんか、見てやるもんか、って…)
 返事もしないで放っておいて、少し経ってから扉を開けて、ダイニングへ。
 普段はハーレイと食事するテーブル、其処で一人で食べようと。
(…食べ終わったら、お皿も洗わずに放っておこう、って…)
 まだプリプリと怒りながらも、お腹は減るから、食事には行く。
 そうして、其処で目にするものは…。
(大盛りになってる凄い量の食事と、「残すな」ってメモ…)
 「皿はきちんと洗っておけよ」のメモが無くても、大盛りと「残すな」だけで充分。
 未来のブルーは大ダメージで、打ちのめされることだろう。
 「この量を、ぼくが一人で食べるの?」と。
 少しでも残してしまったが最後、ハーレイは二度と作ってくれない。
 そうなったならば、自分で何か作って食べるか…。
(外へ食べに出掛けて行くしかなくって…)
 そういうブルーを横目で見ながら、ハーレイは自分の分の食事を鼻歌交じりに楽しく作る。
 わざとコトコト音を立てたり、長い時間をかけてじっくり料理したり、といった具合に。


(それって、惨めすぎるから…!)
 あんまりだよね、と悲しくなってくるから、未来のブルーは詫びるしかない。
 たとえ「ハーレイの方が悪いんだよ!」と思っていても。
 まだまだ文句を言い足りなくても、白旗を掲げて降参するだけ。
 「ごめんなさい」と、「だから、ぼくにも食べさせてよ」と頭を下げて。
(…まさか料理で、ぼくが謝るしか無いなんて…)
 情けないよね、と悔しいけれども、料理の腕では敵わない。
 ついでに今のチビの自分が、結婚までに料理の腕を磨くというのも難しそう。
(向き不向きっていうのもあるし…)
 前の自分も厨房に立った経験は無いし、せいぜい、前のハーレイの手伝いくらい。
 だから今度の自分にしたって、母の手伝いが精一杯といった所だろう。
(今のハーレイの大好物の、パウンドケーキだけは…)
 なんとか覚えて作りたいけれど、それだって上手くゆくのかどうか。
 今のハーレイの母が作るのと、同じ味だと聞く「今の自分」の母が焼くケーキを…。
(ちゃんと再現出来るようになるには、何年もかかっちゃうのかも…)
 そうなってくると、未来の自分に「料理」という名の武器は無い。
 「パウンドケーキ、二度と作ってあげないからね!」と言い放ったって、武器はそれだけ。
(…ケーキくらい、食べ損なったって…)
 ハーレイは何も困りはしないし、「そうか、それなら俺が焼くかな」と言い出しそう。
 もう早速に、ケーキの材料を量り始めて。
 「今ある材料で作れるヤツは…」と、冷蔵庫や戸棚を覗き込んで。
(でもって、おやつの時間になったら…)
 キッチンの方から、美味しそうな匂いが漂ってくることだろう。
 「ハーレイが自分用に作ったケーキ」が、オーブンの中で焼き上がって。
 それを取り出し、コーヒー党のくせに紅茶まで淹れて、ハーレイが一人でティータイム。
 「よし、なかなかに上手く焼けたな」などと、大きな声で独り言を言いながら。
 「実に美味い」と、「我ながら、これは大傑作だぞ」と自画自賛して。
(…ぼくが謝りに出て行かないと、ハーレイ、美味しいケーキを全部…)
 一人で食べてしまうんだから、と思うものだから、ケーキの場合も降参あるのみ。
 ケーキではなくて、パイが焼けても。
 あるいはホカホカと湯気を立てている、中華饅頭が蒸し上がっても。


(…もう完全に敗北だってば…!)
 食事で来られても、おやつで来ても…、と未来の自分の惨敗が目に見えるよう。
 ハーレイはただ、普段通りにキッチンに立って、調理用の器具を操るだけ。
 それだけで未来のブルーを倒せて、美味しい料理やお菓子も出来る。
 「おたま」や「しゃもじ」やフライパンやら、オーブンなんかも武器に仕立てて。
(……ということは、もっと強烈な最終兵器は……)
 家出じゃないの、と背筋が凍り付いた。
 確かに「ハーレイの家」だけれども、だからといって「家出してはならない」わけではない。
 そんな決まりは何処にも無いし、ハーレイがブルーに最後通牒を突き付けるなら…。
 「俺は、この家を出て行くからな!」と荷物を纏めて、玄関から出て行けばいい。
 大股で庭をズンズン横切り、愛車に乗り込み、エンジンをかけて…。
(ガレージから、車ごと出て行っちゃって…)
 それっきり二度と戻って来なくて、「ブルー」は家に一人きり。
 最初の間は、「好きにしたら?」と舌まで出して、勝ち誇った気でいそうだけれど…。
(…ハーレイが出てった時間によっては…)
 たちまち困るかもしれない。
 お腹が空いて来たというのに、食べられる料理が何処にも無くて。
 冷蔵庫の中にも残り物は無くて、あるのは戸棚のパンくらいで。
(…一食くらいは、パンにバターとか、ジャムだとか…)
 ちょっと工夫して、溶けるチーズを乗っけてみたり、と二食目も乗り切れるかもしれない。
 けれども、多分、其処までが…。
(ぼくの限度で、ママたちの家に御飯を食べに行くとか、外で食べるとか…)
 あるいは何かを買って来るとか、もはや「自分の腕」では無理。
 冷蔵庫に食材が詰まっていたって、どうすることも出来はしなくて…。
(もう駄目だよ、って泣きそうな頃に、ハーレイが…)
 窓を外からコンと叩いて、「冷蔵庫!」という声がするのだろう。
 「中の食材、無駄にするなよ」と、「駄目にしたら、俺は二度と帰って来ないからな!」と。
(…そういう時に限って、うんと難しそうな…)
 食材ばっかり詰まってるんだよ、という気がするから、もう泣きながら謝るしかない。
 「ごめんなさい!」と、「ぼくには無理だから、ハーレイ、作って…!」と。


(…これって、文字通りに、最終兵器…)
 メギドより怖い気がするんだけれど、とブルーは震え上がる。
 「メギドだったら、前のぼく、壊せたんだけど…」と、今の自分をよく考えてみて。
 料理なんかは出来そうになくて、今のハーレイには勝てそうもない腕前では…。
(…ハーレイ、倒せないんだから…!)
 家出されちゃったら、おしまいだよ、と首をブンブンと横に振るしかない。
 ハーレイが家出をしてしまったら、降参するしか無さそうだから。
 「そうか、お前には、やっぱり無理か」と、ハーレイが意地悪そうな顔で嘲笑っても。
 「だったら、謝るしかないよな、お前?」と、偉そうに胸を張りながら、威張られても…。



          家出されちゃったら・了


※ハーレイ先生と喧嘩した場合、食事で困りそうなブルー君。自分では上手く作れなくて。
 その状況でハーレイ先生に家出されたら、大惨事。メギド以上の最終兵器は料理らしいですv









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