カテゴリー「拍手御礼」の記事一覧
「ねえ、ハーレイ。…足りないんだけど…」
今のぼくには、と小さなブルーが紡いだ言葉。
二人きりで過ごす休日の午後に、何処か不満げな表情で。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 足りないって…。何がだ?」
分からんぞ、とハーレイは返して、テーブルを見回した。
ブルーのカップに入った紅茶は、まだ充分な量がある。
それにポットにおかわりもあるし、足りないわけがない。
(すると、ケーキか?)
俺と同じ大きさだった筈だが、と皿のケーキを眺める。
お互い、食べて減ったけれども、元々の量は…。
(ブルーは、菓子なら食べるから…)
ハーレイの分と同じサイズで、皿に載せられていた筈。
今のブルーは、それに不満があるのだろうか。
(…今頃、腹が減って来たのか?)
昼飯をしっかり食わんからだ、とハーレイは思う。
小食なブルーのための昼食、その量は常にとても少ない。
(……言わんこっちゃない……)
そりゃ、そんな日もあるだろう、と心の中で溜息をつく。
ブルーにしたって、必要な栄養の量は日によって違う。
(同じ言うなら、昼飯の時にして欲しかったな)
俺の分を分けてやったのに、とタイミングが少し悲しい。
今になって空腹を訴えられても、夕食までは時間がある。
分けてやれるのは、皿の上にあるケーキしか無い。
(腹が減った時に、飯の代わりに菓子ってのは、だ…)
あまり褒められたことではないし、相手が生徒なら叱る。
指導している柔道部員が、食事代わりに菓子だったなら。
(…しかしだな…)
ブルーの場合は、それと事情が全く異なる。
「お腹が減った」という言葉など、そうそう言わない。
前の生でも、今の生でも、ブルーが食べる量は少なすぎ。
(そういうヤツが、腹が減ったと言うんだし…)
ここは菓子でも食わせるべきだ、とハーレイは判断した。
夕食まで待たせて、しっかり食べて欲しいけれども…。
(そんな悠長なことをしてたら、また気が変わって…)
食わなくなるし、とブルーの方に皿を押し遣った。
「仕方ないなあ、俺が半分、食っちまったが…」
こっちの方は食ってないから、とケーキを指差す。
「そっち側から食えばいいだろ、食っていいぞ」と。
ハーレイが、半分食べてしまったケーキ。
直ぐに「ありがとう!」と返して、ブルーが食べ始める。
そうだとばかり思っていたのに、ブルーは食べない。
代わりに大きな溜息をついて、ケーキの皿を押し返した。
「違うよ、足りないのは、これじゃなくって…」
紅茶なんかでもないんだからね、とブルーが睨んで来る。
「もっと大事なものなんだよ」と。
「おいおいおい…」
いったい何が足りないんだ、とハーレイは慌てた。
お小遣いでもピンチなのだろうか、それなら有り得る。
(今月の分は使っちまったのに、本が欲しいとか…)
こいつの場合は充分あるな、と思い至った。
(だが、小遣いの援助など…)
してもいいのか、どうだろうか、と悩ましい。
財布を出して「ほら」と渡すのは、容易いけれど…。
(教育者として、どうなんだ?)
逆に指導をすべきでは、という気もする。
「計画的に使わないとな」と教え諭して、援助はしない。
(…そうするべきか?)
ブルーには少し気の毒だが、と思うけれども、仕方ない。
甘すぎるのは、きっとブルーのためにも良くない。
「よし、断るぞ」と決めた所で、ブルーが口を開いた。
「分からない? 足りないのは、ハーレイ成分なんだよ」
「……はあ?」
なんだソレは、とハーレイはポカンとするしかなかった。
『ハーレイ成分』とは、何のことだろう。
この「ハーレイ」を構成している元素などだろうか。
(しかし、そいつが足りないなどと言われても…)
俺を食う気じゃないだろうな、とハーレイは瞬きをする。
「まさかな」と、「肉は硬い筈だぞ」と。
するとブルーは、ハーレイを真っ直ぐ見詰めて言った。
「ハーレイと過ごす時間もそうだし、何もかもだよ!」
前のぼくに比べて足りなさすぎる、とブルーは主張した。
「これじゃ駄目だよ」と、「前と同じに育たないよ」と。
「…それで、俺を丸焼きにして、食おうってか?」
俺の肉は硬いと思うんだが、とハーレイは返す。
「お前じゃ、とても歯が立たん」と、「やめておけ」と。
「分かってるってば、だからその分、唇にキス…」
それで成分を補充出来るよ、とブルーは笑んだ。
「ぼくにハーレイ成分、ちょうだい」と。
「馬鹿野郎!」
だったら俺を丸ごと齧れ、とハーレイは腕を差し出した。
「何処からでもいいから、齧っていいぞ」
ついでにグッと力を入れて、自慢の筋肉を盛り上げる。
「お前ごときで、歯が立つかな?」と。
「さあ、存分に齧ってくれ」と、「好きなだけな」と…。
足りないんだけど・了
今のぼくには、と小さなブルーが紡いだ言葉。
二人きりで過ごす休日の午後に、何処か不満げな表情で。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 足りないって…。何がだ?」
分からんぞ、とハーレイは返して、テーブルを見回した。
ブルーのカップに入った紅茶は、まだ充分な量がある。
それにポットにおかわりもあるし、足りないわけがない。
(すると、ケーキか?)
俺と同じ大きさだった筈だが、と皿のケーキを眺める。
お互い、食べて減ったけれども、元々の量は…。
(ブルーは、菓子なら食べるから…)
ハーレイの分と同じサイズで、皿に載せられていた筈。
今のブルーは、それに不満があるのだろうか。
(…今頃、腹が減って来たのか?)
昼飯をしっかり食わんからだ、とハーレイは思う。
小食なブルーのための昼食、その量は常にとても少ない。
(……言わんこっちゃない……)
そりゃ、そんな日もあるだろう、と心の中で溜息をつく。
ブルーにしたって、必要な栄養の量は日によって違う。
(同じ言うなら、昼飯の時にして欲しかったな)
俺の分を分けてやったのに、とタイミングが少し悲しい。
今になって空腹を訴えられても、夕食までは時間がある。
分けてやれるのは、皿の上にあるケーキしか無い。
(腹が減った時に、飯の代わりに菓子ってのは、だ…)
あまり褒められたことではないし、相手が生徒なら叱る。
指導している柔道部員が、食事代わりに菓子だったなら。
(…しかしだな…)
ブルーの場合は、それと事情が全く異なる。
「お腹が減った」という言葉など、そうそう言わない。
前の生でも、今の生でも、ブルーが食べる量は少なすぎ。
(そういうヤツが、腹が減ったと言うんだし…)
ここは菓子でも食わせるべきだ、とハーレイは判断した。
夕食まで待たせて、しっかり食べて欲しいけれども…。
(そんな悠長なことをしてたら、また気が変わって…)
食わなくなるし、とブルーの方に皿を押し遣った。
「仕方ないなあ、俺が半分、食っちまったが…」
こっちの方は食ってないから、とケーキを指差す。
「そっち側から食えばいいだろ、食っていいぞ」と。
ハーレイが、半分食べてしまったケーキ。
直ぐに「ありがとう!」と返して、ブルーが食べ始める。
そうだとばかり思っていたのに、ブルーは食べない。
代わりに大きな溜息をついて、ケーキの皿を押し返した。
「違うよ、足りないのは、これじゃなくって…」
紅茶なんかでもないんだからね、とブルーが睨んで来る。
「もっと大事なものなんだよ」と。
「おいおいおい…」
いったい何が足りないんだ、とハーレイは慌てた。
お小遣いでもピンチなのだろうか、それなら有り得る。
(今月の分は使っちまったのに、本が欲しいとか…)
こいつの場合は充分あるな、と思い至った。
(だが、小遣いの援助など…)
してもいいのか、どうだろうか、と悩ましい。
財布を出して「ほら」と渡すのは、容易いけれど…。
(教育者として、どうなんだ?)
逆に指導をすべきでは、という気もする。
「計画的に使わないとな」と教え諭して、援助はしない。
(…そうするべきか?)
ブルーには少し気の毒だが、と思うけれども、仕方ない。
甘すぎるのは、きっとブルーのためにも良くない。
「よし、断るぞ」と決めた所で、ブルーが口を開いた。
「分からない? 足りないのは、ハーレイ成分なんだよ」
「……はあ?」
なんだソレは、とハーレイはポカンとするしかなかった。
『ハーレイ成分』とは、何のことだろう。
この「ハーレイ」を構成している元素などだろうか。
(しかし、そいつが足りないなどと言われても…)
俺を食う気じゃないだろうな、とハーレイは瞬きをする。
「まさかな」と、「肉は硬い筈だぞ」と。
するとブルーは、ハーレイを真っ直ぐ見詰めて言った。
「ハーレイと過ごす時間もそうだし、何もかもだよ!」
前のぼくに比べて足りなさすぎる、とブルーは主張した。
「これじゃ駄目だよ」と、「前と同じに育たないよ」と。
「…それで、俺を丸焼きにして、食おうってか?」
俺の肉は硬いと思うんだが、とハーレイは返す。
「お前じゃ、とても歯が立たん」と、「やめておけ」と。
「分かってるってば、だからその分、唇にキス…」
それで成分を補充出来るよ、とブルーは笑んだ。
「ぼくにハーレイ成分、ちょうだい」と。
「馬鹿野郎!」
だったら俺を丸ごと齧れ、とハーレイは腕を差し出した。
「何処からでもいいから、齧っていいぞ」
ついでにグッと力を入れて、自慢の筋肉を盛り上げる。
「お前ごときで、歯が立つかな?」と。
「さあ、存分に齧ってくれ」と、「好きなだけな」と…。
足りないんだけど・了
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「ねえ、ハーレイ。恋の相談…」
してもいいかな、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 恋の相談だって?」
なんだそれは、とハーレイは呆れて、直ぐに笑った。
「お断りだ」とキッパリ断り、ブルーを軽く睨み付ける。
「あのなあ…。俺がその手に乗ると思うか?」
お前との恋の話だなんて、と、睨んだ後は笑いの続き。
可笑しくてたまらないのだけれども、ブルーは違った。
「ハーレイ、何か勘違いをしていない?」
誰がハーレイって言ったわけ、と銀色の眉を吊り上げる。
「ぼくは名前を出してないけど」と、真剣な顔で。
(…なんだって?)
俺の話とは違うのか、とハーレイの笑いが引っ込んだ。
ブルーの恋の相手と言ったら、自分だけだと信じていた。
遠く遥かな時の彼方で、前のブルーと恋をした時から。
運命の相手だと思っていたのに、急に自信が揺らぎ出す。
(…おいおいおい…)
他の誰かの話なのか、とハーレイの背中が冷たくなった。
ブルーは誰かに恋をしていて、その相談をしたいのか。
(……まさかな……?)
そんな馬鹿な、と焦る間に、ブルーは小さな溜息を零す。
「気になる人がいるんだよね」と、赤い瞳を瞬かせて。
(嘘だろう!?)
本当に俺の話じゃないのか、とハーレイは愕然とした。
(ブルーが、他の誰かにだって…?)
有り得ないぞ、と思いたいのに、ブルーは続けた。
「ハーレイ、相談に乗ってくれる?」と、大真面目に。
「だって、人生の先輩でしょ?」
恋についても詳しいよね、とブルーは身を乗り出した。
「どういう風に持っていくのが、いいと思う?」と。
「ど、どういう風って、何をなんだ…?」
ハーレイは、咄嗟にそうとしか返せなかった。
自分でも愚問だと思うけれども、それしか言えない。
ブルーの恋の相談だなんて、考えたことも無い上に…。
(俺がこいつに恋しているのに、何故、そうなるんだ!)
恋敵とブルーを近付ける手伝いなんて、と泣きたい気分。
ブルーの恋の相手と言ったら、自分一人の筈だったのに。
けれどブルーは、何処吹く風といった風情で言葉を紡ぐ。
「やっぱり、教室で声をかけるべき?」
それとも放課後の方がいいかな、と半ば上の空。
「他の誰か」のことを考え、頭が一杯になっている。
(…どうすりゃいいんだ…!)
俺にキューピッドになれと言うのか、と悲鳴が出そう。
恋の相談に乗るというのは、そういうこと。
(俺じゃない誰かと、ブルーとをだな…)
めでたく結び付けてやるのが役目で、恋を見守る。
まずは相手との出会いを作って、次はデートの相談で…。
(あそこなんかどうだ、と勧めてやって…)
食事をする場所や、お茶を飲む場所、それも考えてやる。
なにしろ子供のデートなのだし、お似合いの店を。
(初デートが上手くいったなら…)
ブルーは早速、次のデートの相談をしてくるだろう。
どういった場所を選ぶべきかと、赤い瞳を輝かせて。
「ハーレイのお蔭で上手くいったよ」と、嬉しそうに。
(でもって、デートを何度も重ねて、お次は、だ…)
誕生日などの贈り物の相談、やがてトドメがやって来る。
(…恋ってヤツが順調に運べば、最後はだな…)
プロポーズが来てしまうんだ、と天を仰ぎたくなった。
よりにもよってブルーのために、恋の仕上げのお手伝い。
婚約指輪を選ぶ店やら、プロポーズの場所の相談を…。
(俺がブルーと、膝を突き合わせて…)
熱心にすることになるのか、と絶望の淵に落っこちそう。
「どうして、こうなっちまったんだ」と、頭を抱えて。
(…誰か、嘘だと言ってくれ…!)
でなきゃ悪夢を見ているんだ、と、ぐるぐるしていたら。
悪い夢なら冷めて欲しい、と願っていたら…。
「ね、そういうのは困るでしょ?」
ぼくが他の人に恋をしたら、とブルーが笑んだ。
「は?」
「だから、もしもの話だってば」
それが嫌なら、ぼくにキスを、と出て来た注文。
「ぼくをしっかり繋ぎ止めなきゃ」と、得意そうに。
(……そう来たか……)
そういうことか、とブルーの頭をコツンと叩く。
「馬鹿野郎!」と、お返しに。
散々、恐怖を味わった分の仕返しを、銀色の頭に…。
恋の相談・了
してもいいかな、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 恋の相談だって?」
なんだそれは、とハーレイは呆れて、直ぐに笑った。
「お断りだ」とキッパリ断り、ブルーを軽く睨み付ける。
「あのなあ…。俺がその手に乗ると思うか?」
お前との恋の話だなんて、と、睨んだ後は笑いの続き。
可笑しくてたまらないのだけれども、ブルーは違った。
「ハーレイ、何か勘違いをしていない?」
誰がハーレイって言ったわけ、と銀色の眉を吊り上げる。
「ぼくは名前を出してないけど」と、真剣な顔で。
(…なんだって?)
俺の話とは違うのか、とハーレイの笑いが引っ込んだ。
ブルーの恋の相手と言ったら、自分だけだと信じていた。
遠く遥かな時の彼方で、前のブルーと恋をした時から。
運命の相手だと思っていたのに、急に自信が揺らぎ出す。
(…おいおいおい…)
他の誰かの話なのか、とハーレイの背中が冷たくなった。
ブルーは誰かに恋をしていて、その相談をしたいのか。
(……まさかな……?)
そんな馬鹿な、と焦る間に、ブルーは小さな溜息を零す。
「気になる人がいるんだよね」と、赤い瞳を瞬かせて。
(嘘だろう!?)
本当に俺の話じゃないのか、とハーレイは愕然とした。
(ブルーが、他の誰かにだって…?)
有り得ないぞ、と思いたいのに、ブルーは続けた。
「ハーレイ、相談に乗ってくれる?」と、大真面目に。
「だって、人生の先輩でしょ?」
恋についても詳しいよね、とブルーは身を乗り出した。
「どういう風に持っていくのが、いいと思う?」と。
「ど、どういう風って、何をなんだ…?」
ハーレイは、咄嗟にそうとしか返せなかった。
自分でも愚問だと思うけれども、それしか言えない。
ブルーの恋の相談だなんて、考えたことも無い上に…。
(俺がこいつに恋しているのに、何故、そうなるんだ!)
恋敵とブルーを近付ける手伝いなんて、と泣きたい気分。
ブルーの恋の相手と言ったら、自分一人の筈だったのに。
けれどブルーは、何処吹く風といった風情で言葉を紡ぐ。
「やっぱり、教室で声をかけるべき?」
それとも放課後の方がいいかな、と半ば上の空。
「他の誰か」のことを考え、頭が一杯になっている。
(…どうすりゃいいんだ…!)
俺にキューピッドになれと言うのか、と悲鳴が出そう。
恋の相談に乗るというのは、そういうこと。
(俺じゃない誰かと、ブルーとをだな…)
めでたく結び付けてやるのが役目で、恋を見守る。
まずは相手との出会いを作って、次はデートの相談で…。
(あそこなんかどうだ、と勧めてやって…)
食事をする場所や、お茶を飲む場所、それも考えてやる。
なにしろ子供のデートなのだし、お似合いの店を。
(初デートが上手くいったなら…)
ブルーは早速、次のデートの相談をしてくるだろう。
どういった場所を選ぶべきかと、赤い瞳を輝かせて。
「ハーレイのお蔭で上手くいったよ」と、嬉しそうに。
(でもって、デートを何度も重ねて、お次は、だ…)
誕生日などの贈り物の相談、やがてトドメがやって来る。
(…恋ってヤツが順調に運べば、最後はだな…)
プロポーズが来てしまうんだ、と天を仰ぎたくなった。
よりにもよってブルーのために、恋の仕上げのお手伝い。
婚約指輪を選ぶ店やら、プロポーズの場所の相談を…。
(俺がブルーと、膝を突き合わせて…)
熱心にすることになるのか、と絶望の淵に落っこちそう。
「どうして、こうなっちまったんだ」と、頭を抱えて。
(…誰か、嘘だと言ってくれ…!)
でなきゃ悪夢を見ているんだ、と、ぐるぐるしていたら。
悪い夢なら冷めて欲しい、と願っていたら…。
「ね、そういうのは困るでしょ?」
ぼくが他の人に恋をしたら、とブルーが笑んだ。
「は?」
「だから、もしもの話だってば」
それが嫌なら、ぼくにキスを、と出て来た注文。
「ぼくをしっかり繋ぎ止めなきゃ」と、得意そうに。
(……そう来たか……)
そういうことか、とブルーの頭をコツンと叩く。
「馬鹿野郎!」と、お返しに。
散々、恐怖を味わった分の仕返しを、銀色の頭に…。
恋の相談・了
「ねえ、ハーレイ。予習するのは…」
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
急にどうした、とハーレイは目を丸くする。
たった今まで話していたのは、まるで全く別の内容。
とはいえ中身は他愛ないもので、学校の話でもなかった。
(…何処から予習が出て来たんだ?)
分からんぞ、とハーレイには、ブルーの意図が掴めない。
学校の話をしていたのならば、まだしも分かる。
今のブルーは優秀な生徒で、きちんと予習もしていそう。
自分でも誇りに思っているから、それを口実に…。
(褒めて欲しい、と言い出してだな…)
御褒美にキスを寄越せと言うんだ、と見えてくる手口。
如何にもブルーがやりそうだけれど、それにしても…。
(ちょっと強引すぎやしないか?)
いきなり「褒めろ」はないだろう、とブルーを眺める。
「お前、少々、厚かましいぞ」と、呆れながら。
慣れてしまった、ブルーのやり口。
「今日もそいつだ」と思うからこそ、様子見を選んだ。
もしも本当に予習の話がしたいのならば、ブルーは…。
(改めて質問する筈だしな?)
俺が黙っていた場合…、と沈黙を守る間に、質問が来た。
「無視しないでよ」と、ブルーが頬を膨らませる。
「ぼくは真面目に訊いてるんだよ」と、睨むようにして。
「勉強の話の何処が駄目なの」と、「先生でしょ?」と。
「あのね、生徒の質問を、無視するだなんて…」
先生だとも思えないけれど、とブルーは半ば怒っている。
「どういうつもり?」と、「お休みだから?」と。
ブルーが言うには、休日だろうが、教師は教師。
生徒が質問して来た時には、きちんと答えを返すべき。
でないと生徒も困ってしまう、という主張。
「だって、そうでしょ? お休みの日に予習をしてて…」
分からなかったらどうするわけ、とブルーは詰った。
「教科書を読んでも分からなくって、参考書だって…」
理解出来ない時もあるでしょ、と痛い所を突いて来る。
「なのにハーレイ、無視しちゃうわけ?」と。
「休みの日は、俺も休みなんだ」で済ませちゃうの、と。
「す、すまん…!」
本当に予習の話だったのか、とハーレイは慌てた。
まさかそうとは思わないから、招いてしまった今の状態。
ブルーはすっかり御機嫌斜めで、爆発寸前かもしれない。
これはマズイ、と急いで詫びて、宥めにかかる。
「すまない、俺が悪かった! お前は、とても優秀で…」
予習を欠かしはしないだろ、とブルーを持ち上げた。
「俺の古典の授業もそうだし、他の科目も」と。
「先生たちが揃って褒めているぞ」と「いいことだ」と。
素晴らしい心がけじゃないか、と褒めてやる。
「予習をしてこない生徒も多いが、お前は違う」と。
懸命に詫びたら、ブルーは「当然でしょ」と答えた。
「きちんと予習をしておかないと、自分が困るよ?」
授業が分からなくなって…、とブルーは真剣で大真面目。
「そうなってからでは遅いんだから」と、いうのも正論。
(…しまった、俺としたことが…)
ちょいと深読みしすぎちまった、とハーレイは情けない。
先走って考えすぎたあまりに、生徒のブルーの質問を…。
(無視した上に、よからぬ方向に考えちまって…)
この有様だ、と居たたまれない気分になる。
いつも授業で、予習の大切さを説いているのに。
「予習しないから、こうなるんだぞ」と、叱ったりも。
(……参ったな……)
完全に怒らせちまったかもな、とブルーの顔色を伺う。
赤い瞳は、まだ穏やかになってはいない。
(…どうしたもんだか…)
俺のケーキを分けてやっても無駄だろうし、と心で溜息。
どうすればブルーの機嫌が直るか、頭の中はそれで一杯。
困り果てていたら、ブルーが念を押すように言った。
「ハーレイ、予習は大切だよね?」
そう思うでしょ、と確認されたから、「うむ」と返した。
「予習はとても大事なことだぞ、欠かしちゃいかん」
無理をしすぎない程度に頑張るんだぞ、と励ましてやる。
「今のお前も努力家だから、その調子でな」と。
するとブルーは、嬉しそうに顔を輝かせた。
「ハーレイも、そう思うでしょ? じゃあ、手伝って!」
お休みの日だけど、ぼくの予習を、と身を乗り出す。
「キスの予習もしておかないと」と、「今の間に」と。
「馬鹿野郎!」
そういう魂胆だったか、とハーレイは銀色の頭を叩いた。
コツンと、痛くないように。
「そんな予習は、俺は手伝わないからな!」
第一、必要無いだろうが、とチビのブルーを叱り付ける。
「お前にキスは早すぎるんだ」と、「必要無い」と…。
予習するのは・了
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
急にどうした、とハーレイは目を丸くする。
たった今まで話していたのは、まるで全く別の内容。
とはいえ中身は他愛ないもので、学校の話でもなかった。
(…何処から予習が出て来たんだ?)
分からんぞ、とハーレイには、ブルーの意図が掴めない。
学校の話をしていたのならば、まだしも分かる。
今のブルーは優秀な生徒で、きちんと予習もしていそう。
自分でも誇りに思っているから、それを口実に…。
(褒めて欲しい、と言い出してだな…)
御褒美にキスを寄越せと言うんだ、と見えてくる手口。
如何にもブルーがやりそうだけれど、それにしても…。
(ちょっと強引すぎやしないか?)
いきなり「褒めろ」はないだろう、とブルーを眺める。
「お前、少々、厚かましいぞ」と、呆れながら。
慣れてしまった、ブルーのやり口。
「今日もそいつだ」と思うからこそ、様子見を選んだ。
もしも本当に予習の話がしたいのならば、ブルーは…。
(改めて質問する筈だしな?)
俺が黙っていた場合…、と沈黙を守る間に、質問が来た。
「無視しないでよ」と、ブルーが頬を膨らませる。
「ぼくは真面目に訊いてるんだよ」と、睨むようにして。
「勉強の話の何処が駄目なの」と、「先生でしょ?」と。
「あのね、生徒の質問を、無視するだなんて…」
先生だとも思えないけれど、とブルーは半ば怒っている。
「どういうつもり?」と、「お休みだから?」と。
ブルーが言うには、休日だろうが、教師は教師。
生徒が質問して来た時には、きちんと答えを返すべき。
でないと生徒も困ってしまう、という主張。
「だって、そうでしょ? お休みの日に予習をしてて…」
分からなかったらどうするわけ、とブルーは詰った。
「教科書を読んでも分からなくって、参考書だって…」
理解出来ない時もあるでしょ、と痛い所を突いて来る。
「なのにハーレイ、無視しちゃうわけ?」と。
「休みの日は、俺も休みなんだ」で済ませちゃうの、と。
「す、すまん…!」
本当に予習の話だったのか、とハーレイは慌てた。
まさかそうとは思わないから、招いてしまった今の状態。
ブルーはすっかり御機嫌斜めで、爆発寸前かもしれない。
これはマズイ、と急いで詫びて、宥めにかかる。
「すまない、俺が悪かった! お前は、とても優秀で…」
予習を欠かしはしないだろ、とブルーを持ち上げた。
「俺の古典の授業もそうだし、他の科目も」と。
「先生たちが揃って褒めているぞ」と「いいことだ」と。
素晴らしい心がけじゃないか、と褒めてやる。
「予習をしてこない生徒も多いが、お前は違う」と。
懸命に詫びたら、ブルーは「当然でしょ」と答えた。
「きちんと予習をしておかないと、自分が困るよ?」
授業が分からなくなって…、とブルーは真剣で大真面目。
「そうなってからでは遅いんだから」と、いうのも正論。
(…しまった、俺としたことが…)
ちょいと深読みしすぎちまった、とハーレイは情けない。
先走って考えすぎたあまりに、生徒のブルーの質問を…。
(無視した上に、よからぬ方向に考えちまって…)
この有様だ、と居たたまれない気分になる。
いつも授業で、予習の大切さを説いているのに。
「予習しないから、こうなるんだぞ」と、叱ったりも。
(……参ったな……)
完全に怒らせちまったかもな、とブルーの顔色を伺う。
赤い瞳は、まだ穏やかになってはいない。
(…どうしたもんだか…)
俺のケーキを分けてやっても無駄だろうし、と心で溜息。
どうすればブルーの機嫌が直るか、頭の中はそれで一杯。
困り果てていたら、ブルーが念を押すように言った。
「ハーレイ、予習は大切だよね?」
そう思うでしょ、と確認されたから、「うむ」と返した。
「予習はとても大事なことだぞ、欠かしちゃいかん」
無理をしすぎない程度に頑張るんだぞ、と励ましてやる。
「今のお前も努力家だから、その調子でな」と。
するとブルーは、嬉しそうに顔を輝かせた。
「ハーレイも、そう思うでしょ? じゃあ、手伝って!」
お休みの日だけど、ぼくの予習を、と身を乗り出す。
「キスの予習もしておかないと」と、「今の間に」と。
「馬鹿野郎!」
そういう魂胆だったか、とハーレイは銀色の頭を叩いた。
コツンと、痛くないように。
「そんな予習は、俺は手伝わないからな!」
第一、必要無いだろうが、とチビのブルーを叱り付ける。
「お前にキスは早すぎるんだ」と、「必要無い」と…。
予習するのは・了
「ねえ、ハーレイ。我慢のしすぎは…」
良くないんだよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
(…来たぞ…)
いつものパターンだよな、とハーレイは心で身構えた。
此処でウッカリ同意したなら、ブルーの思う壺になる。
(どうせ、こいつの我慢ってヤツは…)
俺からキスが貰えんことだ、とハーレイは既に学習済み。
何度もブルーの問いに騙され、何度も叱り付けて来た。
「お前にキスは早すぎる」と、軽く拳をお見舞いして。
銀色の頭をコツンとやって、チビのブルーを睨み付けて。
(魂胆が分かっているんだから…)
返事なんかはするもんか、とハーレイはカップを傾けた。
知らん顔をして、熱い紅茶を味わう。
「早く飲まないと、冷めちまうぞ?」とブルーを促して。
ポットの中身は冷めないけれども、カップは冷める、と。
「…ハーレイ、勘違いしてるでしょ?」
ぼくが言ってる我慢のこと、とブルーは頬を膨らませた。
「今の話じゃないんだからね」と、「前のことだよ」と。
「前のことだと?」
いつの話だ、とハーレイはブルーの顔を見詰めた。
ことによっては、考えを改めなければならない。
今のブルーの話だったら、流しておけばいいけれど…。
(違った場合は、真面目に聞かんと…)
駄目なんだ、と時の彼方のことを思った。
前のブルーが過ごした生は、我慢の連続だったのだから。
(そっちでなければいいんだがな?)
お茶の時間には似合わん話題だ、と願ったのに…。
「前って言ったら、前のぼくに決まっているじゃない!」
あの頃は、いつも我慢ばかり、とブルーは言った。
「毎日我慢で、だけど、それでも…」
檻の中よりマシだったから、と赤い瞳が真剣になる。
「だから平気でいられただけ」と、「ホントは駄目」と。
「あんなに我慢ばかりの生活、良くないよね?」と。
(…脱出直後の話だったか…)
後の時代でなくて良かった、とハーレイはホッとした。
そちらだったら、相槌の打ちようもある。
誰もが我慢の時代だったし、苦労話も山とあるから。
「あの頃なあ…。比較対象が酷すぎたんだな」
今だと勘弁願いたいな、と苦笑して指でカップを弾く。
「お茶の時間どころか、飯の心配ばかりだったし…」
「でしょ? 飢え死にはなくても、ジャガイモ地獄…」
キャベツ地獄もあったもんね、とブルーが頷く。
「毎日、ホントに大変だったよ」と「我慢ばかり」と。
確かに我慢ばかりをしていた、あの時代。
ハーレイの記憶に今も鮮やかに残る、ジャガイモ地獄。
前のブルーが人類の船から奪った食材、それだけが全て。
ジャガイモ以外を食べたくなっても、どうしようもない。
他の食材が欲しいのだったら、また奪う他に道は無く…。
(それが出来るのは、前のこいつだけで…)
しかも見た目も中身も子供で、無茶をしそうなブルー。
分かっているから、物資を奪いに出すなど、論外。
何も無いなら仕方ないけれど、船に食材があるのなら。
それがジャガイモばかりだろうと、キャベツだろうと。
「そうだな、あの頃は実に酷かったよな」
毎日が我慢の連続で、とハーレイは厨房時代を思った。
仲間の胃袋を満たすためにと、懸命に工夫していた日々。
皆も分かってくれていたけれど、それでも文句は零れた。
「またジャガイモか」と、「またキャベツか」と。
それでも我慢で、誰もが我慢。
船に食材は他に無いから、ただ、ひたすらに。
前のブルーも黙々と食べて、文句は言わなかったけど…。
「今のぼくだと、絶対、文句を言っちゃうよ」
ジャガイモばかりの食事なんて、とブルーが顔を顰める。
「今だと、心が病気になっちゃう」と「身体もね」と。
「まったくだ。人間、我慢のしすぎは良くない」
心にも、それに身体にもな、とハーレイは笑んだ。
「前の俺たちは頑張りすぎだ」と、「強かったな」と。
そうしたら…。
「ハーレイも、そう思うでしょ? だからね…」
ぼくの心の健康のために、とブルーが強請ったキス。
我慢しすぎて、夜も眠れないから、身体のためにも、と。
「馬鹿野郎!」
それとこれとは別問題だ、とハーレイが軽く落とした拳。
ブルーの小さな銀色の頭に、コツンと痛くないように。
「いいか、ほどほどの我慢ってヤツは、だ…」
心と身体を鍛えるんだぞ、とブルーを叱る。
「お前のは、頑張りすぎとは言わん」と。
「我慢で、強い心を作れ」と、「身体の方も我慢だ」と。
「早寝早起きで強くなれよ」と、「よく眠ってな」と…。
我慢のしすぎは・了
良くないんだよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
(…来たぞ…)
いつものパターンだよな、とハーレイは心で身構えた。
此処でウッカリ同意したなら、ブルーの思う壺になる。
(どうせ、こいつの我慢ってヤツは…)
俺からキスが貰えんことだ、とハーレイは既に学習済み。
何度もブルーの問いに騙され、何度も叱り付けて来た。
「お前にキスは早すぎる」と、軽く拳をお見舞いして。
銀色の頭をコツンとやって、チビのブルーを睨み付けて。
(魂胆が分かっているんだから…)
返事なんかはするもんか、とハーレイはカップを傾けた。
知らん顔をして、熱い紅茶を味わう。
「早く飲まないと、冷めちまうぞ?」とブルーを促して。
ポットの中身は冷めないけれども、カップは冷める、と。
「…ハーレイ、勘違いしてるでしょ?」
ぼくが言ってる我慢のこと、とブルーは頬を膨らませた。
「今の話じゃないんだからね」と、「前のことだよ」と。
「前のことだと?」
いつの話だ、とハーレイはブルーの顔を見詰めた。
ことによっては、考えを改めなければならない。
今のブルーの話だったら、流しておけばいいけれど…。
(違った場合は、真面目に聞かんと…)
駄目なんだ、と時の彼方のことを思った。
前のブルーが過ごした生は、我慢の連続だったのだから。
(そっちでなければいいんだがな?)
お茶の時間には似合わん話題だ、と願ったのに…。
「前って言ったら、前のぼくに決まっているじゃない!」
あの頃は、いつも我慢ばかり、とブルーは言った。
「毎日我慢で、だけど、それでも…」
檻の中よりマシだったから、と赤い瞳が真剣になる。
「だから平気でいられただけ」と、「ホントは駄目」と。
「あんなに我慢ばかりの生活、良くないよね?」と。
(…脱出直後の話だったか…)
後の時代でなくて良かった、とハーレイはホッとした。
そちらだったら、相槌の打ちようもある。
誰もが我慢の時代だったし、苦労話も山とあるから。
「あの頃なあ…。比較対象が酷すぎたんだな」
今だと勘弁願いたいな、と苦笑して指でカップを弾く。
「お茶の時間どころか、飯の心配ばかりだったし…」
「でしょ? 飢え死にはなくても、ジャガイモ地獄…」
キャベツ地獄もあったもんね、とブルーが頷く。
「毎日、ホントに大変だったよ」と「我慢ばかり」と。
確かに我慢ばかりをしていた、あの時代。
ハーレイの記憶に今も鮮やかに残る、ジャガイモ地獄。
前のブルーが人類の船から奪った食材、それだけが全て。
ジャガイモ以外を食べたくなっても、どうしようもない。
他の食材が欲しいのだったら、また奪う他に道は無く…。
(それが出来るのは、前のこいつだけで…)
しかも見た目も中身も子供で、無茶をしそうなブルー。
分かっているから、物資を奪いに出すなど、論外。
何も無いなら仕方ないけれど、船に食材があるのなら。
それがジャガイモばかりだろうと、キャベツだろうと。
「そうだな、あの頃は実に酷かったよな」
毎日が我慢の連続で、とハーレイは厨房時代を思った。
仲間の胃袋を満たすためにと、懸命に工夫していた日々。
皆も分かってくれていたけれど、それでも文句は零れた。
「またジャガイモか」と、「またキャベツか」と。
それでも我慢で、誰もが我慢。
船に食材は他に無いから、ただ、ひたすらに。
前のブルーも黙々と食べて、文句は言わなかったけど…。
「今のぼくだと、絶対、文句を言っちゃうよ」
ジャガイモばかりの食事なんて、とブルーが顔を顰める。
「今だと、心が病気になっちゃう」と「身体もね」と。
「まったくだ。人間、我慢のしすぎは良くない」
心にも、それに身体にもな、とハーレイは笑んだ。
「前の俺たちは頑張りすぎだ」と、「強かったな」と。
そうしたら…。
「ハーレイも、そう思うでしょ? だからね…」
ぼくの心の健康のために、とブルーが強請ったキス。
我慢しすぎて、夜も眠れないから、身体のためにも、と。
「馬鹿野郎!」
それとこれとは別問題だ、とハーレイが軽く落とした拳。
ブルーの小さな銀色の頭に、コツンと痛くないように。
「いいか、ほどほどの我慢ってヤツは、だ…」
心と身体を鍛えるんだぞ、とブルーを叱る。
「お前のは、頑張りすぎとは言わん」と。
「我慢で、強い心を作れ」と、「身体の方も我慢だ」と。
「早寝早起きで強くなれよ」と、「よく眠ってな」と…。
我慢のしすぎは・了
「理不尽だよね…」
ホントのホントに、とブルーがフウと零した溜息。
ハーレイの目の前で、浮かない顔で肩まで落として。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 理不尽って…」
何がだ、とハーレイはテーブルの上を見回した。
少し前に、ブルーの母が運んで来てくれた、午後のお茶。
熱い紅茶がカップに注がれ、ポットにもたっぷり。
ブルーのカップも、ハーレイのカップも、セットの品。
(…紅茶は全く同じだぞ?)
俺だけコーヒーってわけでもないし、とハーレイは悩む。
皿に載せられたケーキにしたって、何処も変わらない。
(お互い、ちょっとは食っちまったから…)
大きさに差が見えるけれども、元は同じな大きさだった。
ハーレイの分だけ大きめだった、ということはない。
なんと言っても、ブルーはケーキや甘いお菓子が大好物。
(たとえ食い切れないにしたって、差があったら、だ…)
機嫌が悪くなるのは確実、だから最初から差はつかない。
ブルーの具合が悪くない限り、いつも大きさは全く同じ。
そういったわけで、見たところ、理不尽な点は無かった。
ブルーが溜息を零す理由も、肩を落としてしまう原因も。
(…弱ったな…)
いったい何が理不尽なんだ、とハーレイには解せない。
ブルーの家に来てからだって、何も起きてはいない筈。
(俺だけ優遇されるようなことは…)
無かったよな、と順に振り返ってみる。
家に着いてブルーの部屋に通され、それから…、と。
午前中に此処で出て来たお茶もお菓子も、ブルーと公平。
昼食は、ブルーの分が少なめだったのだけれど…。
(そいつも、いつもと同じでだな…)
俺と同じな量だった方が理不尽だぞ、とハーレイは思う。
なにしろブルーは食が細くて、少しの量でお腹一杯。
昼食をたっぷり摂ろうものなら、午後のおやつは無理。
(朝飯の時に、お父さんの皿からソーセージを、だ…)
「これも食べろよ」と譲られただけでも苦労するらしい。
たった一本、増えただけなのに。
ハーレイにしてみれば、本当に「たった一本」なのに。
(そんなヤツだし、昼飯は少なくなっていないと…)
逆に困ってしまう筈だが、と謎は深まる。
けれど、昼食の量くらいしか思い付かないものだから…。
「おい。理不尽っていうのは、もしかして、だ…」
昼飯なのか、とハーレイはブルーに問い掛けた。
「俺の方が量が多かったんだが、それなのか?」と。
するとブルーは、「うん…」と小さく頷いた。
「そうなるの、仕方ないけれど…。だってハーレイは…」
ぼくと違って大きいもんね、とブルーは再び溜息をつく。
「大人は身体が大きいんだから、食べられる量も…」と。
「おいおいおい…」
そりゃまあ、俺は大人なんだが、とハーレイは苦笑した。
ブルーの言い分は分かるけれども、指摘したくなる。
「前のお前は…」と、時の彼方でのことを。
「いいか、お前が大人になったところで、大した量は…」
食えんだろうが、とクックッと笑う。
「前のお前も食が細くて、食えなかったぞ」と。
「俺と同じ量の朝飯なんかは、無理だったんだし」と。
そう言ってやると、ブルーは「でも…」と反論して来た。
「それはそうだけど、でも、ハーレイだけ…」
大人だっていうのは、理不尽だよ、と。
こんな差なんかつかなくっても、と頬を膨らませて。
「あのね、ぼくだけチビなんだよ?」
食事も少なくされるくらいの、とブルーは唇を尖らせた。
「ハーレイは、とっくに大人なのに」と、睨み付けて。
「どうしてぼくだけ、まだチビなわけ?」と。
(…そこか…!)
理不尽だと言ってやがるのは、とハーレイも溜息をつく。
「またか」と、「キスが出来ない文句を言う気だ」と。
どうせそうなるに決まっているから、先に口を開いた。
「なるほど、お前も前と同じに大人が良かった、と」
そうなんだな、と確認すると、ブルーは大きく頷く。
「決まってるでしょ、その方が、ずっと…!」
いいんだもの、と言うから、ハーレイは笑って返した。
「そうだな、俺も暇になるしな」と。
「学校でまで、お前と顔を合わせもしないし」と。
仕事帰りにまで寄らなくてよくて、週末だけで、とも。
「ちょ、ちょっと…!」
そうなっちゃうの、とブルーが叫ぶから、ニヤリと笑う。
「当然だろうが」と、「お前は上の学校なんだし」と。
「そうそう会ってはいられないぞ」と。
「困るよ、それは…!」
このままでいい、とブルーは悲鳴を上げ続ける。
「それじゃ、結婚するまで、ずっと離れっ放しだよ」と。
「そんなの嫌だ」と、「チビでなくちゃ困る」と…。
理不尽だよね・了
ホントのホントに、とブルーがフウと零した溜息。
ハーレイの目の前で、浮かない顔で肩まで落として。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 理不尽って…」
何がだ、とハーレイはテーブルの上を見回した。
少し前に、ブルーの母が運んで来てくれた、午後のお茶。
熱い紅茶がカップに注がれ、ポットにもたっぷり。
ブルーのカップも、ハーレイのカップも、セットの品。
(…紅茶は全く同じだぞ?)
俺だけコーヒーってわけでもないし、とハーレイは悩む。
皿に載せられたケーキにしたって、何処も変わらない。
(お互い、ちょっとは食っちまったから…)
大きさに差が見えるけれども、元は同じな大きさだった。
ハーレイの分だけ大きめだった、ということはない。
なんと言っても、ブルーはケーキや甘いお菓子が大好物。
(たとえ食い切れないにしたって、差があったら、だ…)
機嫌が悪くなるのは確実、だから最初から差はつかない。
ブルーの具合が悪くない限り、いつも大きさは全く同じ。
そういったわけで、見たところ、理不尽な点は無かった。
ブルーが溜息を零す理由も、肩を落としてしまう原因も。
(…弱ったな…)
いったい何が理不尽なんだ、とハーレイには解せない。
ブルーの家に来てからだって、何も起きてはいない筈。
(俺だけ優遇されるようなことは…)
無かったよな、と順に振り返ってみる。
家に着いてブルーの部屋に通され、それから…、と。
午前中に此処で出て来たお茶もお菓子も、ブルーと公平。
昼食は、ブルーの分が少なめだったのだけれど…。
(そいつも、いつもと同じでだな…)
俺と同じな量だった方が理不尽だぞ、とハーレイは思う。
なにしろブルーは食が細くて、少しの量でお腹一杯。
昼食をたっぷり摂ろうものなら、午後のおやつは無理。
(朝飯の時に、お父さんの皿からソーセージを、だ…)
「これも食べろよ」と譲られただけでも苦労するらしい。
たった一本、増えただけなのに。
ハーレイにしてみれば、本当に「たった一本」なのに。
(そんなヤツだし、昼飯は少なくなっていないと…)
逆に困ってしまう筈だが、と謎は深まる。
けれど、昼食の量くらいしか思い付かないものだから…。
「おい。理不尽っていうのは、もしかして、だ…」
昼飯なのか、とハーレイはブルーに問い掛けた。
「俺の方が量が多かったんだが、それなのか?」と。
するとブルーは、「うん…」と小さく頷いた。
「そうなるの、仕方ないけれど…。だってハーレイは…」
ぼくと違って大きいもんね、とブルーは再び溜息をつく。
「大人は身体が大きいんだから、食べられる量も…」と。
「おいおいおい…」
そりゃまあ、俺は大人なんだが、とハーレイは苦笑した。
ブルーの言い分は分かるけれども、指摘したくなる。
「前のお前は…」と、時の彼方でのことを。
「いいか、お前が大人になったところで、大した量は…」
食えんだろうが、とクックッと笑う。
「前のお前も食が細くて、食えなかったぞ」と。
「俺と同じ量の朝飯なんかは、無理だったんだし」と。
そう言ってやると、ブルーは「でも…」と反論して来た。
「それはそうだけど、でも、ハーレイだけ…」
大人だっていうのは、理不尽だよ、と。
こんな差なんかつかなくっても、と頬を膨らませて。
「あのね、ぼくだけチビなんだよ?」
食事も少なくされるくらいの、とブルーは唇を尖らせた。
「ハーレイは、とっくに大人なのに」と、睨み付けて。
「どうしてぼくだけ、まだチビなわけ?」と。
(…そこか…!)
理不尽だと言ってやがるのは、とハーレイも溜息をつく。
「またか」と、「キスが出来ない文句を言う気だ」と。
どうせそうなるに決まっているから、先に口を開いた。
「なるほど、お前も前と同じに大人が良かった、と」
そうなんだな、と確認すると、ブルーは大きく頷く。
「決まってるでしょ、その方が、ずっと…!」
いいんだもの、と言うから、ハーレイは笑って返した。
「そうだな、俺も暇になるしな」と。
「学校でまで、お前と顔を合わせもしないし」と。
仕事帰りにまで寄らなくてよくて、週末だけで、とも。
「ちょ、ちょっと…!」
そうなっちゃうの、とブルーが叫ぶから、ニヤリと笑う。
「当然だろうが」と、「お前は上の学校なんだし」と。
「そうそう会ってはいられないぞ」と。
「困るよ、それは…!」
このままでいい、とブルーは悲鳴を上げ続ける。
「それじゃ、結婚するまで、ずっと離れっ放しだよ」と。
「そんなの嫌だ」と、「チビでなくちゃ困る」と…。
理不尽だよね・了
