(地球に来ちゃった…)
嘘みたい、と小さなブルーが抓ってみた頬。
ふと、それを思い出したから。
此処は地球だと、自分は地球に住んでいるのだと気付いたから。
何度も何度も、思い出しては気付いたけれど。
青い地球の上に生まれ変わったと、生きているのだと思ったけれど。
その度にギュッと抓ってみる頬、それが柔らかな頬だから。
子供の頬の感触だから、余計に素敵な気がする奇跡。
青い地球に来たと、ちゃんと身体もあるのだから、と。
前の自分が焦がれた地球。
いつか行きたいと夢に見た星、恋人と共にゆこうとした星。
その恋人も一緒に地球に生まれた、二人揃って生まれ変わった。
青い地球の上に。
二人でゆこうと夢見た星に。
再び巡り会えたハーレイ、もう会えないと思ったハーレイ。
メギドに向かって飛び立った時に持っていた温もり、それを失くしてしまったから。
ハーレイと自分を繋ぐ絆を、右手に残ったハーレイの温もりを失くしたから。
二度と会えないと泣きながら死んだ、前の自分は。
ハーレイと離れて独りぼっちになってしまったと、右の手が凍えて冷たいと泣いて。
地球へ行けないことよりも辛く、悲しかったハーレイとの別れ。
それでも絆はあると信じて、温もりを抱いて逝こうと思って飛び立ったのに。
白いシャングリラを守り抜くために、一人、メギドへと飛んだのに。
失くしてしまった右手の温もり、切れてしまったハーレイとの絆。
悲しみの中で、死よりも恐ろしい絶望の中で、前の自分の生は終わった。
なのに、どうしたことだろう。
気付けば青い地球に来ていて、ハーレイまでがついて来た。
二度と会えないと思った恋人、そのハーレイとまた巡り会えた。
この地球の上で。
前の自分たちが二人で目指した、行きたいと願った青い星の上で。
少しばかり小さく生まれて来たのが残念だけれど。
あと数年ほど育った身体で、前の自分と同じ姿で恋人と再会したかったけれど。
今の自分は十四歳にしかならない子供で、ハーレイはキスもくれないから。
「キスは駄目だ」と頬と額だけ、唇へのキスは貰えないから。
少々、不満はあるけれど。
小さな身体が悔しいけれども、本物の身体と、貰った命。
前の自分が失くした命。
それを貰った、青い地球の上で。前とそっくり同じ姿で。
頬を抓れば、子供の頬の柔らかな感触、前の自分の頬とは違う。
ソルジャー・ブルーだった自分とは違う、この柔らかな子供の頬は。
新しい命を貰った証拠で、今の自分の生の証で。
不満だけれども嬉しくもある、自分は地球に生まれて来たと。
青い地球の上に生まれ変わって、幸せに生きているのだと。
ハーレイと二人でゆこうとした星、白いシャングリラで目指した星。
前の自分の寿命が尽きると分かった時には涙したけれど、それでも夢見た青い地球。
出来るものなら一目見たいと、ほんの一目でいいのだからと。
メギドへ向かって飛び立つ前にも、それを思わずにはいられなかった。
「地球を見たかった」と、叶わない夢を心で呟いていた。
思いがけずも命永らえて此処まで来たのに、終わるのかと。
長く潜んだアルテメシアを離れて宇宙に出たのに、自分の旅は此処で終わってしまうのかと。
ハーレイとの別れも辛かったけれど、見られない地球。
あとどのくらいの旅を続ければ、青い水の星へ着けるというのか。
分からないままに死んでゆく自分、けして地球へは着けない自分。
此処で自分が犠牲にならねば、シャングリラは地球まで行けないから。
地球へ行けずに沈むだろうから、自分は船を降りねばならない。
白いシャングリラを、船の仲間たちを、青い地球へと送り出すために。
ハーレイが舵を握っている船、それを飛び立たせるために。
そうして一人、後にした船。
メギドに向かって飛んで別れたシャングリラ。
永遠の別れを告げた白い船、それは必ず地球へ着くのだと信じていた。
青い水の星に。
銀河の海に浮かんだ一粒の真珠、青い母なる水の星へと。
自分は見ることは叶わないけれど、あのシャングリラは其処へゆくのだと。
白い鯨は地球を見るのだと、青く美しく輝く星を、と。
前の自分が焦がれた地球。
ハーレイと行こうとしていた星。白いシャングリラできっといつか、と。
夢に見た地球は、青い水の星だと信じていた。
一度は滅びた星だけれども今は青いと、それが宇宙の何処かにあると。
シャングリラは其処へ旅立ってゆくと、自分の命と引き換えにそれを送り出そうと。
ハーレイと共に暮らしていた船、ハーレイとの恋を育んだ船。
自分は此処で降りるけれども、地球への旅は続くようにと。
どうか母なる青い地球へと、あの船が無事に着けるようにと。
祈る気持ちで飛び立った自分、白いシャングリラを離れた自分。
青い水の星があると信じて、仲間たちを其処へと祈り続けて、恋した人とも別れて、一人。
自分は此処で死んでゆくけれど、あの船は地球へ行くのだからと。
ハーレイとの別れは悲しいけれども、地球を見られないことも悲しいけれど。
そうせねば船は旅立てないから、青い地球には行けないから。
白いシャングリラの、仲間たちの未来を拓くためにと一人きりで降りた大切な船。
永遠の別れを告げて自ら後にした船、赤いナスカで降りようと決めたシャングリラ。
振り返りもせずに飛んだ自分は、青い地球があると信じていた。
宇宙の何処かに、青い水の星が。
母なる地球がきっと何処かにある筈なのだと、シャングリラは其処へ飛んでゆくのだと。
ハーレイが船の舵を握って、青い地球への旅が始まる。
自分は此処で降りるけれども、皆と一緒に乗って地球へは行けないけれど。
そう、本当に信じていた。
前の自分は、最後まで。
ハーレイと別れて、シャングリラを離れて飛び立つ時まで、疑いもせずに信じ切っていた。
青い水の星を。
宇宙の何処かにあるに違いない、フィシスの記憶に刻まれた地球を。
(ぼくはホントに信じてたのに…)
だから焦がれた、いつか行こうと。
ハーレイと二人で辿り着こうと、あのシャングリラで地球へ行こうと。
それが叶わないと知った後にも、夢を見ずにはいられなかった。
出来ることなら一目見たいと、青い地球をこの目で捉えてみたいと。
けれど、無かったらしい地球。
白いシャングリラが辿り着いた地球は、青い星ではなかったという。
ハーレイはどれほどショックだったことか、ジョミーや他の仲間たちにしても。
(…前のぼくだって…)
地球がそういう姿なのだと知っていたなら、あの時、メギドに飛べたかどうか。
夢の星だと信じていたから、未来を託して白い船を降りた。
自分の代わりに、どうか地球へ、と。
青い命の星だからこそ、ハーレイとの恋も、地球への思いも、切り捨てて船を降りられた。
地球は希望の星だったから。
ハーレイと二人、夢に見続けた星だったから。
きっと知らなくて良かったのだろう、あの頃の地球の真の姿は。
前の自分が知らなかったことは、神の采配なのだろう。
次の世代に未来を託して、あそこで船を降りられるよう。
青い地球へと、夢の星へと、白いシャングリラを守って送り出せるよう。
前の自分が夢に見た地球、それは何処にも無かったけれど。
青い地球は幻だったけれども、今はある。
小さな自分が生まれて来た地球、ハーレイと二人、また生きてゆける青い星。
まるで奇跡で、前の自分が思いもしないで死んでいった未来。
ハーレイと二人で生きてゆける未来。
(…なんだか不思議…)
聖痕もとても不思議だけれども、青い地球。
前のハーレイと二人、夢に見た地球。
其処で二人で生きてゆく。
いつか自分が大きくなったら、キスを交わして、結婚して。
前の自分が夢に見た地球で、何処までも二人、手を繋ぎ合って…。
夢に見た地球・了
※青い地球に生まれたブルー君。地球は青いと信じて死んでいったソルジャー・ブルー。
ブルー君が青い地球の上に生まれて来たのは、きっと神様の御褒美ですねv