(世の中、恋人同士ってのは山ほどいるが…)
広い宇宙に沢山いるわけだが、と考えてしまった夕食の後。
書斎で熱いコーヒーが入ったマグカップを傾けながら、小さなブルーを思い浮かべて。
今の学校に赴任するまで、会ったことも無かった小さなブルー。
存在すらも知らずに生きて来た。
同じ町にいたのに、十四年間も同じ町で過ごしていたというのに。
けれども出会った、五月の三日に。
初めて足を踏み入れた教室、其処でブルーが待っていた。
正確に言えば、ブルーの方でも待っていたわけではないけれど。
授業の始まりを待っていただけで、教師が来るのを待っていただけ。
年度始めに少し遅れて転任して来た、新しい古典の教師の登場を。
ところが、それが自分だったから。
ブルーもブルーだったから。
長い長い時を飛び越えてまた巡り会った、恋人同士だったから。
その瞬間から始まった恋。
互いに一目でそうだと分かった、恋の相手だと。
生まれてくる前から恋人だったと。
そうして再び、始まった恋。
前の生でいつか行きたいと焦がれた青い地球の上で。
奇跡のように生まれ変わってまた巡り会えた、運命の相手に。
(俺はあいつをずっと愛して…)
前のブルーであった頃から、ずっと愛して、愛し続けて。
失くしてしまっても愛していた。
ブルーだけを。
メギドへ飛んで行ってしまって、自分の前から消えてしまった恋人を。
いつかブルーの許へゆこうと、ただそれだけを思って生きた。
死の星だった地球へ辿り着くまで、ブルーの許へと旅立つ日だけを思い描いて。
その時が来たら自由になれると、ブルーに巡り会えるのだと。
今は駄目でも、地球に着いたら、キャプテンの務めを終えたならば、と。
そう、死の瞬間までブルーを想い続けていた。
地球の地の底で崩れ落ちて来た天井と瓦礫、その下敷きになる瞬間まで。
まるで夢見るように思った、これで逝けると。
ブルーの所へ旅立てるのだと、やっとブルーを追ってゆけると。
いつ終わるのかと一人歩んだ、孤独な道はもう終わりだと。
其処で途切れた自分の意識。
それよりも後の記憶は無くて。
気付けばブルーとまた出会っていた、この地球の上で。
前の自分が別れた時よりずっと幼くなったブルーと。
まだ十四歳にしかならないブルーと、何の前触れもなく巡り会った。
足を踏み入れた教室で。
まさかブルーがいるとは思わず、ブルーの存在さえも知らずに。
恋人がいるとも思いもせずに。
(なにしろ、いきなり出会ったからなあ…)
ブルーの姿を認めた瞬間、そのブルーの右目から溢れ出した赤。
それが血なのだと気付いた時には、小さなブルーはもう血まみれで。
てっきり事故だとばかり思った、何か起こったと。
慌てて駆け寄り、倒れたブルーを抱き起こした途端。
前の自分が帰って来た。
ブルーに恋をしていた自分が、前のブルーを愛し続けて逝った自分が。
その瞬間から始まった恋。
前の生の続きの、恋の始まり。
それを始まりと言うのかどうかは分からないけれど。
前のブルーを愛したままで逝った自分の恋の続きで、動き出しただけかもしれないけれど。
遠い遥かな時の彼方で止まってしまっていた恋が。
時が来るまで眠り続けた種子が目覚めて、芽吹いたのかもしれないけれど。
そんなこんなで、出会ったブルー。
また巡り会って、小さなブルーに恋をしている。
まだ十四歳にしかならないブルーに、幼くなってしまったブルーに。
(それでも、あいつは俺のブルーだ)
どんなに小さくて、幼くても。
幼すぎてキスも出来ないけれども、それでもブルー。
前の生から愛し続けた愛おしい人で、大事な恋人。
今でも変わらないままに。
前の自分が愛したとおりに、今もブルーを愛している。
愛の形は少し違うけれど、前と同じにとはゆかないけれど。
キスは出来なくて、愛を交わすことも出来なくて。
小さなブルーはそれが不満で膨れるけれども、そうしないことが愛だから。
幼いブルーが前と同じに育つ時まで、見守ることもまた愛なのだから。
そう、変わらずに愛している。
前の生から、前の生が終わった瞬間の続きに、今もブルーを。
ずっと愛して、愛し続けて、今もブルーだけを。
(こんな恋が幾つあるやらなあ…)
宇宙はとても広いけれども、カップルも沢山いるけれど。
恋人同士の人間の数はそれこそ星の数ほど、まるで見当もつかないけれど。
その中にどれほどいるだろう?
自分たちのような恋をしている人が。
前の生からの恋の続きで、今も変わらず愛し続けている恋人を持っている人間が。
(多分、俺たちくらいなもんだな)
そんな気がする、他にはいないと。
これは奇跡だと、神が起こした奇跡なのだと。
小さなブルーが持っていた聖痕、それと同じに。
きっと何処にもありはしなくて、前の生の続きの恋をしているのは自分たちだけだと。
もしかしたら、いるかもしれないけれど。
広い宇宙に一組くらいは、あるいは二組、三組くらいは。
けれども、多分、他にはいない。
そういう気がする、自分たちの奇跡のような恋。
なんと幸せなことだろう。
ずっと愛して、愛し続けて、今もブルーを愛している。
これからもずっと愛してゆく。
ブルーが育てば愛の形も変わるけれども、ブルーへの愛は変わらない。
前と同じに愛し続けて、これからもずっと。
命ある限り、命尽きても、きっとその先も愛し続ける。
ブルーはブルーなのだから。
前の生から愛し続けた、大切な恋人なのだから。
今の生にしても、運命の恋。
出会った途端に始まった恋で、それを言葉で表すのなら…。
(…一目惚れだってな)
それもお互い、一目惚れ。
自分はブルーに恋をしたのだし、ブルーの方でも恋をしてくれた。
互いに一目で恋に落ちたとは、もうそれだけでドラマのようで。
おまけにそれが前の生の続きに始まった恋で、生まれる前からの愛の続きで。
あまりにも劇的すぎる恋。
前の自分ですら、想像もしなかったブルーとの恋。
失くしたブルーを追ってゆこうと思った頃には。
これでブルーの許にゆけると、笑みすら浮かべて死んだ時には。
誰が続くと思うだろう?
互いに失くした命が続くと。
また命を得て、恋の続きが始まるだなどと。
思いもしなかった恋の始まり、命の続き。
ブルーはこれから大きく育って、恋も愛もまだまだこれからのことで。
今でも充分、恋人だけれど、もっと深く愛して、愛し合えるようになって…。
(うん、何もかもこれからなんだ)
まだ始まったばかりの恋。
それを始まりと言うのかは謎で、続きなのかもしれないけれど。
前の生からの恋の続きで、再び芽吹いた恋の種かもしれないけれど。
(俺はあいつを愛してるってな)
ずっと前から、今の自分が生まれる前から。
前の自分が愛したとおりに、再び巡り会えたブルーを今の自分も愛している。
愛の形はまだ違うけれど、幼いブルーに相応しい形で愛するけれど。
それでもブルーが愛おしいから、ブルーだけしか見えないから。
この先も、ずっと愛してゆく。
命尽きるまで、その先も、ずっと。
ずっと愛してる、と呟かずにはいられない。
今も、この先も、前の生からも。
俺にはお前一人だけだと、俺の恋人はお前だけだと、小さなブルーに。
此処にブルーはいないけれども、それでも呟く。
お前だけだと、ずっとお前一人を愛して、いつまでも愛し続けるからと…。
ずっと愛してる・了
※ハーレイ先生とブルー君の恋。生まれ変わる前から続いているというのが奇跡そのもの。
きっとこの先も、ずっと続く恋。ハーレイ先生の愛も、ずっと続いてゆくのですv
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