(不思議なんだよね…)
ホントに不思議、と首を傾げた、ぼく。
学校を休んでしまった日の夜、ベッドの中で。明かりを消した部屋のベッドで。
明日は学校に行けそうな気がする、魔法のスープを飲んだから。
ハーレイが作りに来てくれたから。
朝、起きようとしたら眩暈がしちゃって、もう駄目だった。
学校になんか行けるわけがなくて、朝御飯だって食べられなかった。
ううん、食べたい気持ちも無くなってたんだ、身体がだるくて、とても重くて。
だから食べずに部屋で寝ていた。ベッドから出る気も起こらなかった。
ママが作ってくれたバナナのジュースも、殆ど飲まずに眠ってた。
なんにも食べたくなかったから。飲みたい気持ちもしなかったから。
お昼になったら、ママがスープを持って来たけれど。
「このくらいは食べておきなさい」って言われたけれども、やっぱり駄目で。
二匙か三匙、それでおしまい。
全部飲むどころか、半分だって無理だった。欲しい気持ちがしなかった。
ママはとっても困っていたけど。困り顔になってしまったけれど…。
(…だけど、食べられないものは無理…)
頑張って飲んでも、身体が疲れてしまうだけ。お腹が空いてはいないんだから。
何も飲みたくならないんだし、食べたい気持ちがしないんだから。
ママが「おやつよ」って運んで来てくれたジュース。
フルーツを何種類か混ぜたんだな、って匂いがしたけど、欲しくなかった。
「飲まなくちゃ駄目よ」とストローと一緒に渡されたけれど、飲めはしなくて。
普段だったら「美味しいね」って笑顔になりそうな味だったけども、飲めないジュース。
身体が欲しがっていなかったジュース。
ママは溜息をついて部屋を出てった。
「水分だけは摂らなきゃ駄目」って、水のボトルをチェックしてから。
ぼくが飲んでいるかを確認してから、ジュースの残りをトレイに乗っけて。
(ごめんね、ママ…)
学校を休んじゃった時のぼくは、大抵、こう。
何も食べたい気持ちがしなくて、飲みたくもなくて、薬と水だけ。
ママがどんなに工夫してくれても、スープもジュースも、ほんの少しだけ。
ちょっぴり飲んだらそれでおしまい、もう欲しいとは思わない。
御馳走様、って返すしかない。
今まで、ずうっと、そうだったけれど…。
(…ハーレイのスープ…)
何故だろう、あれだけは食べられるんだ。
ママが工夫を凝らしたものより、不味い味がする筈なんだけど。
美味しい筈がないんだけれども、ぼくには美味しい魔法のスープ。
何種類もの野菜を細かく細かく刻んで煮るだけ、基本の調味料だけでコトコト煮るだけ。
ただそれだけのハーレイのスープ。
なのに美味しい、まるで魔法がかかったように。
美味しくなる魔法をかけたスープで、食べずにいられなくなるみたいに。
(…前のぼくだった時から、そう…)
ハーレイが作る野菜スープが好きだった。
青の間で何度も作って貰った、何種類もの野菜をコトコト煮込んで。
(きっと魔法のスープなんだよ)
美味しくなる魔法、ハーレイだけがかけられる魔法。
優しい魔法使いのハーレイ、魔法のスープを作れるハーレイ。
(…魔法のスープを飲んだから…)
ハーレイが作りに来てくれたから。
きっと明日には元気が出るんだ、今日よりはずっと。
(学校に行けるほど元気になれるといいな…)
そしたらハーレイと学校で会えるし、挨拶できる。
「ハーレイ」じゃなくて、「ハーレイ先生」って呼ばなきゃいけないけれど。
明日は魔法使いに会いに行きたい、学校まで。
魔法のスープを作りに来てくれた、優しいハーレイの授業を聞きに…。
魔法のスープ・了
※ハーレイが作る野菜のスープ。工夫されたスープより美味しいみたいです。
これを飲んだらすっかり御機嫌、ブルー君。病気でもきっと、幸せ気分で一杯ですv