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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧

(希望なあ…)
 ふうむ、とハーレイが目を落としたプリント。
 夜の書斎で、コーヒー片手に。
 今日の授業で配ったプリント、幾つかのクラスで渡して来た。
 授業が無かったクラスの生徒は、明日以降に受け取るわけだけれども。
 早い話が宿題プリント、「感想文を出せ」というもの。
 教えている古典の教科書の中の、古文の作品。
 どれでもいいから一つ選べと、そして感想を書いて来いと。
(読解力ってヤツが大切なんだ)
 文章だけなら、誰だって読める。
 授業を真面目に聞いていさえすれば、音読は出来て当たり前。
 けれども、其処に落とし穴。
 音読が出来て、文法的なことが分かっていたって…。
(肝心の作品ってヤツが、分かってないのがいるからな)
 書いた作者の心情だとか。
 作者不明の作品にしても、其処にこめられたメッセージ。
 教訓だったり、今の時代も共感できる内容だったり、それは様々。
 其処まで読めて一人前。
 やっと古典の世界が分かるし、「他にも読もう」という気にもなる。
 それを分かって欲しいものだから、感想文の宿題を出した。
 一つ選んで感想を、と。
 短くてもいいから、自分の気持ちを書いて来いと。


 この作品で、と指定しなかったのは、面白みを知って欲しいから。
 教科書に名前が挙がっているなら、本文は其処に無くてもいい。
 手持ちの本を読んだっていいし、図書室でもいい。
 生徒が興味を持てる作品、それが一番だと思うから。
(好き嫌いってヤツは、あるものなんだ)
 今の時代の小説などでも分かれる好み。
 推理小説が好きだと言っても、誰のでもというわけにはいかない。
 この作者のなら大好きだけれど、他のはちょっと、といった具合に。
(まして古典となったらなあ?)
 好きな時代やら、書かれた内容。
 もう本当に好みが分かれる、そういう世界。
 だから「希望の作品を一つ」、プリントにそう書いておいた。
 好きに選べと、短い作品でも長い作品でもかまわない、と。
(そうは書いたんだが…)
 コーヒーを飲みながら、ふと見たプリント。
 明日も配るから、生徒の悲鳴が聞こえそうだな、と軽い気持ちで。
 「宿題ですか!?」と慌てる生徒や、「中止でいいです!」と叫びそうな生徒。
 宿題を出されて喜ぶ生徒は、まずいない。
(今日のクラスには一人だけいたが…)
 あいつの場合は事情が異なる、と思い浮かべた小さな恋人。
 前の生から愛したブルーは、ウキウキとプリントを手にしていたから。
 もう見るからに嬉しそうな顔で、他の生徒とは大違い。
(俺に読んで貰える、と喜びやがって…)
 通り一遍の宿題ではなくて、感想文。
 それも希望の作品を一つ、評価する方も型通りではないのだと分かる。
 一枚一枚、きちんと読んでゆくのだろうと。
 書き込む評価も、中身に応じて変わるだろうと。


 たった一人だけ、宿題を喜んでいたブルー。
 明日以降に配ってゆくクラスにも、喜ぶ生徒はいない筈。
 あいつだけだ、と思った途端に気が付いたこと。
 それが「希望」という言葉。
(軽い気持ちで、「希望」とだな…)
 書き込んだのだった、プリントを作った時の自分は。
 「好みの作品を一つ選べ」では、軽すぎるだろうと考えたから。
 宿題嫌いで悪知恵が働く生徒あたりが、「好みなんです」と選びそうなモノ。
(古典には違いなくてもだ…)
 和歌や俳句といった作品、それも「作品」とは言える。
 長くて三十一文字なモノを選ばれたのでは、たまらない。
 読解力は問えるけれども、あまりに短すぎるから。
(短くても、せめて文章と言えるヤツをだな…)
 選ばなくては、と思わせたいから、「希望」と書いた。
 もしも短歌を選んで来たなら、「お前の希望は、この程度か?」と睨んでやれる。
 ずいぶん小さな希望なんだなと、希望ってヤツはデカイもんだが、と。
 皮肉の一つも言ってやれるから、「好み」ではなくて「希望」の文字。
 好みよりかは、ずっと大きいのが希望だから。
 希望はそういう言葉だから。
(其処までは分かっちゃいたんだが…)
 分かっていたから「希望」なんだが、と眺めるプリント。
 しかし今ではこうなるのかと、宿題プリントに「希望」の文字かと。
 思い付いたから書いたけれども、「好み」よりいいと思ったけれど。
 今は「希望」が宿題らしいと。
 一冊選んで、感想文を書いて出すのが「希望」の世界、と。


 宿題プリントを見ていたブルー。
 今は自分の教え子だけれど、遠い昔はソルジャー・ブルー。
 遠く遥かな時の彼方で、ミュウの長として生きていた。
 前の自分はキャプテン・ハーレイ、ブルーと二人で船を守った。
 箱舟だったシャングリラ。
 人類に追われるミュウたちを乗せて、たった一隻で飛んでいた船。
(あそこじゃ、希望というヤツは…)
 とても大きくて、大きいどころか手が届かないもの。
 人類に追われ続ける身では。
 明日をも知れない船の中では、手など届きはしなかった。
 これを希望、と口にしたって、大抵は無駄。
 あの船で叶った希望というのは、もう本当にささやかなもの。
(せいぜい、食事のメニューってトコで…)
 これが食べたい、とその場で言っても通る程度の。
 厨房の者たちに余裕がある日に、「目玉焼きより、スクランブルエッグ」と頼める程度。
 それくらいしか通りはしなくて、同じ食事でも「シチューを希望」は通らない。
 メニューはきちんと決まっているから、個人の希望で変えられはしない。
(もっと大きな希望となると…)
 船で担当する仕事。
 ブリッジがいいとか、機関部だとか。
 責任の重い仕事は無理だ、と思うのだったら掃除係とか。
(あれは一応、進路ってヤツで…)
 大きな希望と言えただろう。
 必要だったら適性検査で、合格必須のものもあったから。
 今日から念願のブリッジクルー、と張り切った者も多かった。
 けれど、手の届く希望はそこまで。
 シャングリラにあった希望はそこまで、その先はもう…。


 無かったっけな、と指でなぞったプリントの文字。
 今は気軽に「希望」と書いてしまえるけれども、前の自分は違ったんだ、と。
 前のブルーが、前の自分が、皆に与えられた「希望」は、本当に配属先くらい。
 その程度ならば叶えてやれたし、後から変更することも出来た。
 「自分には向いていないようです」と言われたならば、他を探して。
 それが限界、シャングリラでは。
 手が届くような希望はそこまで、もうその先には無かった希望。
(…みんな、持ってはいたんだが…)
 同時に、それを諦めてもいた。
 どうせ無理だと、手に入らないと。
 ミュウが人類に追われる間は、けして自分の手は届かないと。
(いつか自由の身になるってヤツで…)
 箱舟から降りて、地面の上で生きること。
 もう人類には追われないこと。
 そういう世界を手に入れるために地球に行くこと、地球を見ること。
 どれも簡単に叶いはしないと、希望と言っても夢物語。
(夢と夢物語は違って…)
 夢なら、いつか叶いもする。
 希望と同じに手が届く日も来そうだけれども、夢物語は絵空事。
 お伽話のような世界で、ただ夢に見るということだけ。
 そういう世界があればいいなと、何処かにあれば素敵なのに、と。
(前の俺たちが持ってた希望は…)
 叶うことのない夢物語。
 誰もが諦め、夢を描いていたに過ぎない。
 どんなに望んでも、それは無理だと。
 そういう時代が長く続いて、ジョミーを迎えた後も続いた。
 前のブルーがいなくなるまで。
 ナスカを失くして、ジョミーが戦う道を選ぶまで。


(前のあいつが生きてた頃は…)
 元気だった頃には、シャングリラには無かった希望。
 それはあまりに大きすぎたから、手など届きはしなかったから。
 希望したって、せいぜい卵の調理方法、大きな希望が叶う時なら配属先。
 本当に希望と呼べそうなものは、夢物語で絵空事。
 だから無かった、希望などは。
 「希望は大きいものだしな?」などと、考えたりはしなかった。
 大きな希望は叶わないから、持っていたって夢見るだけ。
 今の時代なら、希望は叶うものなのに。
 それに向かって努力したなら、いつか手が届くものなのに。
(…まるで世界が変わっちまった…)
 宿題プリントに書いちまったぞ、と見詰める二文字。
 前の自分なら、軽い気持ちでそれを記せはしなかったのに。
 まして「希望は大きいものだ」と、仲間たちに言えはしなかったのに。
 「希望を大きく持っていろ」と檄を飛ばしても、希望に手など届かないから。
 却って士気が下がるだけだし、とても口には出来なかった言葉。
(そいつが、今では宿題プリント…)
 なんてこった、と苦笑するしかない時代。
 誰もが希望を持てる時代は、希望は必ず手に入るから。
 希望を大きく持てば持つほど、素晴らしい未来を掴み取れるのが今なのだから…。

 

        希望がある今・了


※ハーレイ先生が軽い気持ちで、「希望」と書いた宿題プリントですけれど。
 希望があっても手に入らなかったのがシャングリラ。世界は大きく変わりましたよねv





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(ホントに入っていたなんて…)
 ちょっとビックリ、と小さなブルーが瞬かせた瞳。
 ハーレイと二人で過ごした日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 昨日のハーレイの落とし物。
 「またな」と帰って行った後で床に見付けた、瑠璃色のペン。
 今のハーレイの愛用のペンで、教師になって直ぐに買ったと聞いた。
 ペンの瑠璃色が気に入って。
(あれって、星空みたいだもんね)
 人工のラピスラズリで出来たペン。
 瑠璃色の地には、金色の小さな粒が幾つも。
 鏤められた金色は不揃いなもので、大きさも形も実に様々。
 並び方だって不規則だから、本当に本物の星空のよう。
 そうでなければ、宇宙に散らばる幾つもの星。
 宇宙の色は、瑠璃色ではなくて漆黒だけれど。
 星たちも瞬きはしないけれども、星空と宇宙は兄弟のよう。
 夜空に輝く星の向こうは、宇宙だから。
 薄い大気の層を抜けたら、星たちはもう瞬かないから。
(ハーレイも、宇宙みたいだからって…)
 あの瑠璃色のペンが気に入った。
 いつも持ち歩くペンなのだけれど、昨日、うっかり落として行った。
 それを見付けて、心が躍った。
 「ハーレイのペンだ」と。
 前の生から愛した恋人、今も変わらず愛おしい人。
 子供の自分は連れて帰って貰えないけれど、それでガッカリしていたけれど。
 まるでハーレイの代わりみたいに、愛用のペンが落っこちていた。
 今夜は一緒、と拾い上げたペン。このペンが一緒にいてくれるよ、と。


 ドキドキしながら手に取ったペンは、チビの自分の手には重くて。
 持ち主の手の大きさを示しているようで、もう嬉しくて。
 しげしげと眺めて、其処に探した星座の模様。
 金色の粒が、馴染んだ配置になっていないかと。
(地球の星座とか、アルテメシアとか…)
 今の自分が仰ぐ星座や、前の自分が見ていた星座。
 それが無いかと、子細に調べた。
 もしもあるなら、ハーレイがとうに話していそうな気もしたけれど。
(でも、念のため、って思うよね?)
 せっかくこうして手に取れたのだし、じっくり見ようと。
 ハーレイが気付いていないだけかもと、隅から隅まで探したのに。
(星座、一つも無かったから…)
 やはり無いのか、と残念な気持ち。
 けれども、それもほんの一瞬。
 ハーレイのペンを持っているのだから、こういう時しか出来ないこと。
 どんな書き心地か試してみたくて、早速、紙に向かってみた。
 きっとスラスラ書けるんだよ、と。
 ところが、難しかったペン。
 初めて使った万年筆は、意外に先が引っ掛かるもの。
 普通のペンのようにはいかない、書こうとしても。
(百聞は一見に如かずって言うの?)
 それとも、もっと適切な言葉があるのだろうか。
 ハーレイが使っているのを見ていた時には、如何にも書きやすそうだったのに。
 だから自分も、と意気込んだのに、手ごわかったのが万年筆。
 チビに書かせてたまるものか、と言わんばかりに。
 小さな手にはまだまだ早いと、これは大人のペンなのだから、と。


 万年筆を持つには早すぎたけれど、ハーレイがいつも使っているペン。
 「ブルー」と綴ったことがあるのか、一度も書かないままなのか。
 書いていない、という気がしたから、「ブルー」と自分の名前を書いた。
 「これがぼくの名前」と、「覚えておいて」と。
 いつかハーレイと結婚したなら、このペンも一緒に暮らすのだから。
 ハーレイの側にはこれがあるから、覚えておいて貰おうと。
 それが済んだら、持ってベッドに入りたくなった。
 いつもハーレイと一緒のペンだし、側にいたいよ、と。
(だけど、壊したら大変だから…)
 そうっと枕の下に忍ばせた瑠璃色のペン。
 此処にあったら、ハーレイの夢が見られるかも、と。
 けれど、ハーレイの夢は来なくて、気付いたら朝になっていて。
 残念だけれど、ペンはハーレイに返すしかない。
 きっと捜しているのだろうし、このまま持ってはいられないから。
 案の定、「俺は落とし物をしていなかったか?」と言って訪ねて来たハーレイ。
 瑠璃色のペンを「はい」と渡したら、喜ばれたけれど。
(ぼくの思念、読まれてしまいそうで…)
 ペンに残った残留思念。
 それを読まれたら、ハーレイに全て分かってしまう。
 星座探しは平気だけれども、ペンを使ってみたことだって平気だけれど。
(ブルーって書いて…)
 覚えておいて、と語り掛けた上に、一緒に眠っていた自分。
 枕の下に入れた瑠璃色のペン。
 ハーレイの夢が見られないかと、弾んだ心で眠ったこと。
 全部バレちゃう、と慌てた自分。
 それはあまりに恥ずかしすぎると、ハーレイの気を逸らさなければ、と。


 どうしようか、と焦っていたら、ポンと浮かんだ星座のこと。
 これに限る、とハーレイに向かって切り出した。
 「そのペン、ホントに星空みたいだけれども、星座は一つも無いんだね」と。
 本当に思ったことだから。
 ちゃんと星座を探したのだから、嘘とは違って本当のこと。
 ハーレイは「なんだ、探したのか?」と話に乗って来たから、しめたもの。
 残留思念を読まれないためには、星座の話を続けなければ。
 だから、せっせと星座の話。
 「地球やアルテメシアの星座は無いけど、他の星はあるかもしれないね」と。
 前の自分が知らない星座。…見ていない星座。
 長い眠りに就いていた間に旅をした宇宙や、前の自分がいなくなった後。
 ハーレイは星たちを見ただろうから、そういった星は無いのか、と。
 「ふむ…」とペンに視線を落としたハーレイ。
 どうだろうな、と探しているから、もう安全だと思ったら。
 「おっ…!」とハーレイが上げた声。
 「此処を見てみろ」と、褐色の指がつついた瑠璃色のペン。
 不規則に並んだ七つの金色。
 瑠璃色の地に、ポツリポツリと散っている点。
 ハーレイの目が懐かしそうに細められていて、遠く遥かな時の彼方を見ている瞳。
 そして呟いた、「ナスカでこいつを見ていたな」と。
 いつの星だったかと、ハーレイが遡ってゆく記憶。
 今はもう無い、赤い星。
 その星の夜空を思い浮かべて、遠い記憶を辿っていって。
 「種まきをする季節の星だ」と、ハーレイの記憶が戻って来た。
 ナスカの春に昇った星だと、こういう七つの星があったと。
 特に名前もつけなかったが、と。


 まさか本当にあっただなんて、と驚いた星座。
 今のハーレイが愛用している瑠璃色のペンに、ナスカの星座。
 赤いナスカは、とうに無いのに。
 それよりも前に、ハーレイは気付いていなかったのに。
 瑠璃色のペンに鏤められた、小さな七つの金色の粒。
 幾つも散らばる粒の中の七つが、赤いナスカの星座だなんて。
(あれを買ったのは、ずうっと昔で…)
 ハーレイは知りもしなかった。
 ナスカからどんな星が見えたか、自分がそれを見たことさえも。
 前のハーレイの記憶は戻っていなかったから。
 記憶が無いなら、それだと分かる筈もないから。
(ペンがハーレイを選んだんだ、って…)
 そう思ったから、ハーレイにそれを伝えたけれど。
 ハーレイが言うには、ペンは「選んで買った」もの。
 同じペンを何本も出して貰って、試し書きなどをしてみた後で。
 一番しっくりくるのを買ったと、それを愛用しているのだと。
(ハーレイが選んだペンらしいけど…)
 でも違うよね、という気がする。
 ハーレイが書き心地を試す間に、ペンの方も語り掛けたのだろう。
 まだハーレイが思い出してもいなかった星が、自分の上にあるからと。
 この七粒の金色がそうだと、だから自分を選んでくれと。
 そうやってペンが呼び掛けていたから、ハーレイはナスカの星を選んだ。
 このペンがいいと、手に馴染むからと。
 まるで運命の出会いだったように、その一本を買って帰った。
 「これにします」と差し出して。
 包んで貰って、ハーレイの家へ。


 きっとそうだよ、と考えずにはいられない不思議。
 ハーレイのペンにナスカの星座があったこと。
(あの星、ぼくは知らなかった…)
 どんな星だったの、とハーレイの記憶を見せて貰った七つの星。
 ナスカの春に、種まきの季節に昇った星座。
 誰も名前をつけなかったけれど、愛されていたからハーレイも覚えていたのだろう。
 あの星が昇れば種まきの季節の始まりなのだ、と。
(前のぼくは眠っていたけれど…)
 ナスカには一度も降りはしなくて、種まきの季節の星も知らないままだったけれど。
 それをハーレイが教えてくれた。
 前の自分が守ろうとした星、メギドの炎に砕かれた星の夜空にあった星座を。
 「これだ」と遠い昔の記憶を。
 今のハーレイのペンに隠れていた星座の姿を。
(凄く不思議だけど、きっと他にも…)
 運命だとしか思えないことがあるのだろう。
 今の自分と、今のハーレイとが巡り会えたように。
 沢山の不思議が、運命が、奇跡が、きっとこれから先も幾つも。
 ハーレイのペンにはナスカの星座があるのだから。
 記憶が戻るよりもずっと前から、ハーレイは七つの星と一緒にいたのだから…。

 

        ペンにある星座・了


※ブルー君が言い出したことから、発見されたハーレイ先生のペンにある星座。
 まさか本当にあったなんて、と驚くブルー君ですけど、運命ってそういうものですよねv





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(ふうむ…)
 不思議なことがあるもんだな、とハーレイの唇から漏れた呟き。
 ブルーの家へと出掛けて来た日に、夜の書斎で。
 愛用のマグカップに淹れたコーヒー、それは普段と変わらないけれど。
 机の上にコロンと置いてあるペン。
 白い羽根ペンとは違うペン。
(こいつとは長い付き合いなんだが…)
 教師になった時からだしな、と瑠璃色のペンを手に取った。
 ずいぶんと手に馴染んだ品だし、失くしたことに気付いた時には青ざめたけれど。
(あいつが持っててくれたんだ…)
 小さなブルーの部屋に落としていたらしい自分。
 ブルーと過ごす時間に夢中で、落としたことにも気付かなかった。
 そのまま家まで帰ってしまって、手帳を出す時にようやく気付いた。
 何処かに落として来たことに。
 慌てて玄関まで戻ったけれども、無かったペン。
 此処を歩いた、と庭に出てみて、門扉の所まで辿ってみても。
(失くしちまった、とガックリしたが…)
 今日もブルーの家まで歩く途中に、あちこち見ながら歩いたほど。
 「落とし物です」と書き添えて、何処かの垣根に結び付けられていないかと。
 あるいは小さな籠やケースに入って、「落とし物」の文字。
 今の時代は、落ちていた物を失敬する人間はいないから。
 持ち主の所へ戻るようにと、気を配ってくれる時代だから。
(しかしだな…)
 それはあくまで、落とし物が発見された時。
 見付からない場所に落としたならば、誰も拾ってくれはしないし、気付きもしない。
 溝蓋の下とか、そういった場所。


 落とし物のペンが見付からないか、と捜しながら歩いて行った道。
 けれど何処にも「落とし物です」とは書かれていなくて、無かったペン。
 誰かが拾って届けただろうか、落とし物を扱う所へと。
 そっちだったら、問い合わせれば直ぐに分かるけれども…。
(誰も気付かない所だと…)
 駄目だろうな、と覚悟を決めた。
 見付からなくても仕方ないのだと、あのペンとの御縁はこれまでらしい、と。
 長く愛用して来たとはいえ、別れの時も来るだろう。
 それに、両親に何度も聞かされたこと。
(何かを失くしちまう時には…)
 消えた品物が、災難を持ち去ってくれるのだという。
 持ち主の代わりに、お守りのように。
 転んで怪我をしそうな所を、その怪我と一緒に何処かへ消えて。
 幼い頃から何度も聞いた。
 大切な物を失くしてしまって、見付からないと捜し回っていたら。
 諦め切れずに暗くなっても捜していたとか、そういう時に。
(所詮は子供の宝物だし…)
 今から思えば、ガラクタ同然。
 いいな、と思って拾った石とか、気に入りのガラス玉だとか。
 けれども、今の自分なら分かる。
(何かを失くしちまった時には、災難も一緒に…)
 持って行ってくれるという両親の言葉。
 前の自分は、前のブルーを失くしたから。
 失くしたブルーは、白い鯨の、ミュウの災難を一緒に持って行ったから。


 仕方ないな、と半ば諦めたペン。
 ブルーの家に無かったならば、帰ってから問い合わせてみるけれど。
(届いてません、と言われちまったら、お別れだな)
 あのペンはきっと、災難を持って何処かへ消えて行ったのだから。
 怪我か、それとも他の何かか。
 「ありがとう」とペンを労うべきだろう。
 長い間、お前の世話になったと。
 最後まで世話になってしまったから、後はゆっくり休んでくれと。
(前のあいつも、ゆっくり休めたならいいが…)
 ミュウの災難を持ち去った後。…メギドで逝ってしまった後。
 右手が凍えたことも忘れて、休んでくれていたならいいが、と。
 どうだったのかは、まるで知りようが無いけれど。
 小さなブルーは覚えていないし、今の自分も覚えていない。
 前の生を終えた後には、何処にいたのか。
 青く蘇った地球に来るまでは、何処で過ごしていたのかさえも。
(…あいつが幸せにしていたんなら、いいんだがな…)
 そういったことを考えながら鳴らしたチャイム。
 多分、この家にも瑠璃色のペンは無いのだろう、と。
 災難と一緒に消えてしまって、きっと戻っては来ないだろうな、と。
 なのに…。


 瑠璃色のペンは、小さなブルーが持っていた。
 「これ」とペン立てから取って来てくれた。
 ブルーの部屋に落としていたのか、と再会を喜んだ愛用のペン。
 それを手にしたら、ふわりと感じたブルーの心。
 ペンに残った残留思念。
(あいつ、大事にしてくれてたんだ…)
 持ち主が誰か知っているから、それは大切に。
 ペンが話してくれるかのよう。
 「この家でとても幸せでしたよ」と、「大事にして貰っていたんです」と。
 もう充分だ、と読みはしなかった残留思念。
 ブルーがペンとどう過ごしたのか、どう扱っていたのかは。
(読むのはマナー違反でもあるしな?)
 ブルーの心を感じられただけで満足だ、と思っていたら、言われたこと。
 「そのペン、星座は一つも無いんだね」と。
 唐突な質問だったけれども、直ぐに分かった。
 瑠璃色のペンは、ただの瑠璃色とは違うから。
 金色の粒が鏤められたペンだから。
(…宇宙みたいなペンなんだよなあ…)
 これは、とチョンとつついてみたペン。
 瑠璃色の元は、人工のラピスラズリという石。
 その特徴は、宇宙や夜空を思わせる姿。
 瑠璃色の地に散らばる金色、本当に小さな金色の粒。
 それが星空のように見えるものだから、一目惚れして買ったペン。
 宇宙のようだ、と惹かれたから。
 このペンがいい、と惹き付けられたから。


 同じペンを何本も出して貰って、試し書きをして。
 どれがいいかと何度も比べて、「これにしよう」と選んだ一本。
 手にしっくりと馴染むのがいいと、自分にピッタリのペンに違いないと。
(買って帰って、じっと見ていて…)
 自分も探したのだった。
 金色の粒は夜空の星のようだから、何処かに馴染みの星座は無いかと。
 混じっていたなら面白いのにと、ペンの隅から隅までを。
(しかし、一つも無くてだな…)
 そうそう上手くはいかないものか、と苦笑いしたのを覚えている。
 どのペンも違っていた筈の模様。
 瑠璃色の地に鏤められた金の粒の数、それがある場所も。
 選ばなかったペンの中には、星座つきのもあったかもしれない。
 「此処を見てくれ」と自慢したくなるような、誰にでも分かる星座入り。
 オリオン座だとか、白鳥だとか。
(少し残念には思ったんだが…)
 自分が選んだ一本なのだし、星座は無くても似合いの一本。
 こいつが俺の相棒なんだ、と大切にして来た万年筆。
 小さなブルーも同じに星座を探したのか、と嬉しい気持ちになった瞬間。
 そうしたら…。
 「他の星はあるかもしれないね」と言い出したブルー。
 地球の星座や、前の自分たちが長く暮らしたアルテメシア。
 そういう馴染みの星座は無くても、他の星のが、と。
 前のブルーが長い眠りに就いていた間や、いなくなった後の長い長い旅路。
 その間に見た星があるかもと、星座が隠れていないかと。


(…それは思いもしなかったしな?)
 どうだろうか、とブルーの前で見詰めた瑠璃色。其処に輝く金色の粒。
 ピンと来る模様がありはしないか、と探し始めたら…。
(隠れていたと来たもんだ…)
 前の自分が見上げた星座。
 赤いナスカで仰いでいたから、前のブルーは見ていない星座。
 種まきの季節に、夜空に昇った七つの星たち。
 ペンの中にそれが見付かった。
 今日まで、知りもしなかったのに。…それを探しさえしなかったのに。
(不思議なことがあるもんだよなあ…)
 愛用のペンに、ナスカの星座。前の自分が見ていた星たち。
 小さなブルーに教えてやって、記憶の中の夜空も見せた。
 「これが種まきの季節の星だ」と、「特に名前もつけなかったが」と。
 それを眺めたブルーが言うには、「このペンがハーレイの所に来たかったのかもね」。
 ナスカの星座を宿したペンだし、それを見ていた人の所へ、と。
(俺は選んだつもりだったが…)
 選ばれたのだろうか、このペンに宿るナスカの星に。
 連れて帰ってくれと頼まれたろうか、前の自分の記憶は戻っていなかったのに。
(そういったことも、あるのかもなあ…)
 失くした物が災難を持ってゆくと言うなら、物とは縁があるのだから。
 自分の持ち物に選んだ時から、縁が生まれるものだから。
(こいつも、俺の所に来たのか…)
 いつかブルーと巡り会った時には、きっとお役に立てますから、と。
 ナスカの星座を、見られなかった人に教えてあげて下さいと。
(うん、お前さんは俺の役に立ったぞ)
 ブルーに教えてやれたからな、と撫でてやったペン。
 これからも俺をよろしく頼むと、二度と落としはしないからな、と…。

 

       ペンの中の星座・了

※ハーレイ先生の愛用のペンに隠れていた星座。それもナスカで見ていた星たち。
 不思議なことがあるものですけど、こういうのを御縁と言うんですよねv





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(今日もチビ扱い…)
 ハーレイはホントに酷いんだから、と小さなブルーが零した溜息。
 そのハーレイと過ごした土曜日の夜に、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ぼく、ハーレイの恋人なのに…)
 どうしてキスも貰えないんだろう、と悲しい気持ち。
 前の生から愛し続けた、大好きでたまらないハーレイ。
 けれども、一度も貰えないキス。
 唇へのキスは貰えないまま、どんなに強請っても駄目なまま。
 今日も「キスして」と囁いたのに、キスの代わりにコツンと拳。
 頭を軽く小突かれた。
 「お前、まだまだチビだろうが」と、「俺は子供にキスはしないと言ったよな?」と。
 ホントに酷い、と思う恋人。キスもくれないケチなハーレイ。
 貰えるキスは頬と額だけ、唇にキスはしてくれない。
 「俺のブルーだ」と言ってくれても、恋人扱いして貰えない。
 今の自分はチビだから。
 十四歳にしかならない子供で、ハーレイよりもずっと年下。
 おまけにハーレイは学校の教師、チビの自分は教え子だから。
(…どう転んだって、ハーレイが上…)
 ぼくより立場が強いんだもの、と悔しくてたまならいけれど。
 逆転のチャンスは無いだろうかと思うけれども、あるわけがない。
 この地球の上に生まれて来た時、ハーレイが先に生まれていたから。
 一足どころか何年も先に、ちゃっかりと着いて育ったから。
(いくら頑張っても…)
 追い越せないよ、と溜息しか出ないハーレイの年。
 いつまで経っても自分はチビで、ハーレイの方が年上のまま。
 いつか大きく育っても。前の自分とそっくり同じになれたとしても。


 ハーレイの方が上なんだよね、と零れる溜息。
 前の自分なら、ハーレイよりも上だったのに。
 「チビ」と頭を小突かれたりはしなかったのに、と情けない気分。
 どうして今は子供なのかと、チビに生まれてしまったろうかと。
(前のぼくだって、最初の間は…)
 今の自分と同じにチビ。
 ハーレイもチビだと思い込んだほど、姿も中身もチビだった。
 けれども、本当は最初に発見されたミュウ。
 船の誰よりも年上だったし、ハーレイよりも遥かに年上。
 そして大きく育った後には、皆を導く立場のソルジャー。
 こうと決めたら、ハーレイを説き伏せることだって。
 それなのに今は上手く行かない、見掛け通りにチビだから。
 どう頑張ってもチビの自分は、ハーレイに勝てはしないから。
(きっと、大きくなったって…)
 ハーレイは今と変わらないまま、余裕たっぷりなのだろう。
 無理難題を吹っ掛けてみても、鼻で笑っているのだろう。
 「それで、お前はどうしたいんだ?」と。
 大きくなってもチビはチビだと、もっとしっかり考えてみろと。
 頭だってきっと、今と同じに小突かれる。
 褐色の手でコツンと、痛くないように。
 「痛いよ!」と叫んで抗議したって、「そうだったか?」と笑われるだけ。
 力を入れたつもりは無いがと、軽く触っただけなんだが、と。
 それでも痛いなら重傷なのだし、今日は大人しく寝てたらどうだ、と。
 とても勝てそうにないハーレイ。
 大きくなっても、前の自分と同じ姿に育っても。


 まるで勝てない、と考えるほどに悔しい気分。
 ハーレイの方が先に生まれて、自分よりもずっと年上だから。
 前の自分だった頃のようにはいかないから。
(今もそうだけど、これから先も…)
 負けっ放し、と肩を落とした。
 ハーレイときたら、今の自分の父と変わらない年だから。
 どう考えても勝てるわけがなくて、きっと一生、負けっ放しで。
(チビじゃなくなっても、チビ扱いで…)
 何かと言えば、子供時代のことを持ち出されるのに違いない。
 「お前、あの頃と変わらないよな」と、「やっぱりチビだ」と。
 俺に勝とうなど百年早いと、悔しかったら出直して来いと。
 年上に生まれてみたらどうだと、そしたらお前が勝てるかもな、と。
(…言いそうだものね…)
 きっと言うんだ、と思い浮かべた恋人の顔。
 「キスは駄目だ」と叱るハーレイ、なんともケチで酷い恋人。
 この地球の上に先に生まれただけなのに。
 自分よりも早く生まれ変わったというだけなのに、ハーレイの立場はずっと上。
 年上な上に、教師だから。
 チビの自分は、うんと年下の教え子だから。
 誰が見たって、ハーレイの方が上だと答えるだろう関係。
 いつまで経っても、きっと一生。
 前の自分と同じ背丈に育ったとしても、ハーレイには上がらない頭。
 いつも、いつだって年下だから。
 自分が育てば、ハーレイも一歩先へと進んでしまうから。


 これは困った、と思うけれども、負けっ放しな自分の未来。
 ハーレイに頭が上がりはしなくて、いつもコツンと小突かれる頭。
(今とおんなじ…)
 ケチのハーレイに叱られるのだろう、「キスは駄目だ」と。
 「俺は子供にキスはしない」と、今日と同じに。
 いつまでも勝てはしないから。
 ハーレイの方がずっと年上で、自分はチビのままだから。
(結婚したって、負けっ放しで…)
 勝てないんだよ、と零した所で気が付いた。
 ハーレイと結婚出来る自分なら、とっくにチビではないだろう年。
 前の自分と同じに育って、ハーレイとキスが出来る背丈になっている筈。
 「キスは駄目だ」と言われはしなくて、強請れば貰えるだろうキス。
 強請らなくても、きっと幾つも、唇へのキス。
 ハーレイの方が年上でも。
 少しも頭が上がらなくても、キスは幾つも降って来る。
 顎を取られて、上向かされて。
 鳶色の瞳で見詰められて。
(…ちゃんと、キス…)
 して貰えるのだった、自分が大きく育ったら。
 チビの子供ではなくなったなら。
 ハーレイには負けっ放しのままでも、一生、頭が上がらなくても。
 いつも年下のチビ扱いでも、そう扱われるというだけのこと。
 「チビのくせに」と、今のハーレイと変わらない顔で。
 頭をコツンと小突かれたりして、いつまで経っても子供扱い。
 ずっと年下なのだから。
 ハーレイの年を追い越せはしなくて、追い掛けることしか出来ないから。


(前のぼくだと…)
 見た目はともかく、本当の年は船の誰よりも上だったから。
 それに相応しく振舞わねば、と注意していたし、皆もそのように扱っていた。
 もちろん、前のハーレイだって。
 「お前」ではなくて「あなた」と呼んだし、話す時は敬語。
 今のハーレイとはまるで違った。
 「俺」と言う代わりに「私」だったハーレイ。
 最初の頃には、そんな風ではなかったのに。
 いつの間にやら、ハーレイは敬語。「お前」とも「俺」とも言わなくなって。
(前のハーレイも、好きだったけど…)
 ケチで年上な今のハーレイ、その方がずっと嬉しい気がする。
 普通に話してくれるから。
 チビ扱いでも、ソルジャー扱いより素敵だから。
(だって、ハーレイ、普段通りで…)
 言葉遣いを変えたりはしない。
 特別扱いされるよりかは、チビ扱いの方が近しい距離。
 一生、頭が上がらなくても。
 ハーレイの年を追い越せないまま、追い掛けて歩いてゆくだけでも。
(ぼくがホントに年下だから…)
 チビ扱いをするハーレイ。
 俺の方がずっと年上だから、と余裕たっぷりでケチなハーレイ。
 けれども、きっとその方がいい。
 特別扱いされてしまって、ハーレイに「あなた」と呼ばれるよりも。
 いつも敬語で話されるよりも、チビと呼ばれる方がいい。
 額をコツンとやられても。
 「キスは駄目だ」と叱られても。


 今は悲しいチビ扱いだけれど、いつか幸せになれるのだろう。
 ハーレイは敬語になりはしないし、一生、「お前」と呼んで貰える。
 「俺のブルーだ」と言って貰えて、唇にキスもして貰って。
(うん、きっと…)
 幸せなんだ、と思えてしまう。
 少しも頭が上がらなくても、ハーレイが先を歩いていても。
 我儘を言ったら、「チビのくせに」と叱られても。
(ハーレイだったら、そう言ったって…)
 きっと願いを叶えてくれる。
 今は駄目でも、ちゃんと大きくなったなら。
 前の自分と同じに育って、ハーレイと二人で暮らし始めたら。
 「仕方ないな」という顔をして。
 チビのくせに、と苦笑いしても、きっと許して貰える我儘。
 ハーレイの方が年上なのだし、我慢しなくてはいけない立場。
 前の自分がそうだったように、どんな時でも。
(無茶は言ったりしないけど…)
 ハーレイに甘えて、幾つも、幾つも強請ってみる。
 我儘だってぶつけてみる。
 一生、頭が上がらないけれど、その分、自分は強いから。
 年下な分だけ、きっと優しくして貰えるから。
(…ホントのホントに、年下なんだし…)
 ずっと年下に生まれたのだから、幸せな立場を生かしてみよう。
 いつか大きくなったなら。見た目がチビではなくなったなら。
 聞いて貰えるだろう我儘、困ったような顔をしたって。
 「俺の方が年上だしな…」と、大袈裟な溜息をついたって。
(年下で良かった…)
 ふふっ、と零れてしまった笑み。
 一生、ハーレイよりも年下だけれど、きっと幸せに暮らしてゆける。
 ハーレイの方が年上だから。年下の自分は、ハーレイを追い掛けて歩くのだから…。

 

       年下で良かった・了


※ハーレイ先生よりも年下なのがブルー君。前とは立場がすっかり逆様。
 一生、勝てないみたいですけど、それも幸せらしいです。我儘、言いたい放題ですしねv





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(あいつ、相変わらずチビで…)
 それに本当に子供なんだ、とハーレイが唇に浮かべた笑み。
 ブルーの家で過ごした土曜日の夜に。
 小さなブルーに「またな」と手を振り、帰って来た家。
 いつもの書斎でコーヒー片手に、のんびりと過ごす時間だけれど。
 今日も甘えていたブルー。
 何かと言っては側に来たがって、抱き付いてみたり、膝に座ったり。
(恋人気取りらしいんだがな?)
 キスを強請るから叱ってやった。「まだ早い」と。
 十四歳にしかならないブルーに、唇へのキスは早すぎるから。
 見た目もまだまだ子供なのだから、駄目だと何度も叱るのに。
(諦めないっていうのがなあ…)
 何度頭をコツンとやっても、睨み付けても、諦めないのが小さなブルー。
 一人前の恋人気取りで、誘惑しようとしたりもする。
 桜色の唇で、「キスしてもいいよ?」と。
 両腕を首に絡み付かせて、「ぼくにキスして」と強請ったり。
(いい加減、学習してもいい頃なんだが…)
 強請るだけ無駄だと、誘惑したって通じはしないと。
 大人だったら、とうの昔に気付くのだろうに、まるで諦めないブルー。
 辛抱強く頑張ったならば、キスが貰えると思っているのが愛らしい。
 唇へのキスは、頑張ったって貰えないのに。
 努力するだけ無駄なのに。


 御褒美の類じゃないんだから、とクックッと笑う。
 いい子にしていた子供だったら、御褒美に菓子やオモチャやら。
 ペットがいい子にしていた時でも、おやつをあげたくなってしまうもの。
 「頑張ったな」と、「いい子にしていたな」と。
 どうやらブルーの頭の中では、キスも頑張れば貰えるもの。
 諦めずに努力していたら。
 あの手この手で頑張っていたら、こっちが根負けしてしまって。
(子供やペットが相手だったら、そういうこともあるんだろうが…)
 とっくに御褒美をあげた後でも、その愛らしさにコロリと負けて。
 「頑張ったから」と輝く瞳や、得意げに揺れている尻尾。
 そういったものでクラリと眩む目、気付けば「よし」と差し出す御褒美。
 気に入りの菓子を買ってやったり、「ほら」とおやつを渡したり。
(あいつの頭もそんな感じだ)
 今日もプウッと膨れたブルー。
 「キスは駄目だ」と叱り付けたら、途端に見せた膨れっ面。
 お決まりの台詞も飛び出した。
 「ハーレイのケチ!」と、「キスしてくれてもいいのに」と。
 ぼくはこんなに頑張ったんだから、と書いてあったような気がする顔。
 抱き付いて甘えて、膝にも乗って、恋人気取り。
 これだけ努力したというのに、御褒美が貰えないなんて、と。
 キスくらい御褒美にくれてもいいのに、ケチなんだから、と。


(ああいう所は、本当にチビで…)
 子供なんだよな、と思い浮かべる愛おしい人。
 前の生から愛し続けて、再び巡り会えた人。
 どうしたわけだか、子供になってしまったブルー。
 前の自分が失くした時には、ブルーは大人だったのに。
 それは気高く美しい人で、とうに子供ではなかったのに。
(チビのあいつも、覚えちゃいるが…)
 今と同じにチビだったんだが、と時の彼方のブルーを思う。
 少年の姿をしていたブルー。
 今と少しも変わらないけれど、あのブルーは…。
(俺より年上だったんだ…)
 けれど、そうは見えなかった姿と中身。
 遥かに年上だった事実に驚いたことを覚えている。
 本当なのかと、子供なのにと。
(それがだな…)
 後の時代には、立派に皆を導くソルジャー。
 最年長のミュウで、最強のサイオン。
 ブルーは皆の長として立って、皆を、シャングリラを導き続けた。
 挙句の果てに命まで捨てた、ミュウの未来を守り抜くために。
 白いシャングリラが、無事に地球まで行けるようにと。
(もしも、あいつがチビのままなら…)
 そんな結末ではなかったろうに。
 皆を守って散るよりも前に、きっとキョロキョロしていたろうに。
 いったい自分はどうするべきかと、皆を掴まえては質問して。
 「このくらいだったら出来るんだけど」と、困ったように首を傾げて。


 ソルジャー・ブルーがチビだったならば、全ては変わっていたのだろう。
 強いサイオンを持っていたって、自分一人では道を決めかねる子供。
 「どうしたらいい?」と皆を掴まえては、取るべき手段を尋ねる子供。
 そうなっていたら、ブルーの力は同じでも…。
(俺も、ヒルマンやゼルたちも…)
 懸命にブルーを守っただろう、何が最善かを考えて。
 何度も皆で会議を重ねて、シャングリラの未来を検討して。
(でもって、次はこうしたいんだが、と…)
 ブルーに伝えていただろう進路。
 この方法でやっていけるかと、「お前の力で何とかなるか?」と。
 ブルーが子供だったなら。
 力はあっても、進む道を自分で決めてゆけない子供なら。
(…そっちだったら、俺はあいつを…)
 失くしちゃいない、とハタと気付いた。
 ブルーの進路を決めてゆくのが、キャプテンの仕事だったなら。
 ゼルたちと何度も相談してから、「こうだ」とブルーに伝えたならば。
(…キースがメギドを持って来たって…)
 第一波を防いだ後のブルーは、きっと尋ねて来たのだろう。
 「どうすればいい?」と、「次の攻撃が来そうだけれど」と、思念波で。
 打って出るのか、防御に回るか、どっちの道がいいのかと。
(訊いて来ていたら、あいつを回収…)
 急いで戻れ、と飛ばしたろう指示。
 ナスカに残った仲間たちも回収するからと。
 攻撃が来る前にワープするからと、「お前も急いで戻って来い」と。


 きっと戻って来ただろうブルー。
 自分では道を決められないから、「分かった」と急いでシャングリラに。
 そしてブリッジで周りを見回していたのだろう。
 「本当にいいの?」と、「メギドを放っておいてもいい?」と不安そうな顔で。
 此処から無事に逃げられるだろうかと、次の攻撃が来たらどうしよう、と。
(そうしたら、肩を叩いてやって…)
 大丈夫だ、と安心させてやったろう自分。
 「シャングリラは俺に任せておけ」と。
 これはキャプテンの仕事だからと、ゼルやブラウもいるのだからと。
(あいつを乗せて、そのままワープ…)
 ジョミーがナスカから戻ったら。ワープの指示が下ったら。
 白いシャングリラは逃げ切れただろう、ブルーの犠牲が無かったとしても。
 逃げる方へと道を決めていたら、皆が急いだ筈だから。
 「早くしろ」と何度もナスカに向かって呼び掛け、一刻も早く逃れる方へ。
 力はあっても子供のブルーを、一緒に乗せて。
(…本当に、あいつが子供だったら…)
 全ては違っていたのだろう。
 前の自分も、それにエラたちも、ブルーを補佐して助けただろう。
 見た目通りに年下だったら、サイオンが強いだけの子供だったら。
(いつまでも子供ってことはなくても…)
 最初の印象は強いものだし、築かれてゆく関係だって。
 ブルーが遥かに年上でなければ、きっと変わっていたのだろう。
 「ちょっと待ちな」とブラウが止めに入るとか。
 それを言われたら、ブルーも大人しく意見を聞いていただとか。
(メギドに行っちまう前にしたって…)
 ブルーは「どうしよう?]と訊いて来るのだし、引き止めるだけ。
 「早く戻れ」と、「ナスカを捨てて脱出する」と。


 今となっては夢物語で、ブルーは年上だったのだけれど。
 それに相応しく育ってしまって、命まで捨ててしまったけれど。
(今のあいつは、本当に子供…)
 俺よりもずっと年下なんだ、と零れる笑み。
 「キスは駄目だ」と何度叱っても、学習しないようなチビ。
 見た目通りにチビの子供で、叱られる度に膨れっ面。
 前のブルーは、そんな顔などしなかったのに。
 いつの間にやら、皆を導くソルジャーとして立っていたのに。
(今度のあいつは、俺よりもチビで…)
 ずっと年下で、どう頑張っても追い越せない年。
 ブルーが一歳年を取ったら、自分も一歳先へ進んでゆくのだから。
 外見の年齢は止めていたって、中身はきちんと重ねてゆく年。
 ブルーが一歩成長したなら、自分の方も。
 小さなブルーが前と同じに育ったとしても、遥かに前を行っている自分。
 「ほら」と「手を出せ」と、ブルーの手を引いて歩いてゆける。
 今度は自分が年上だから。
 ずっと年上で、今のブルーの父と近いほどの年なのだから。
(チビのあいつが大きくなるまで、待たされちまうが…)
 キスも出来ずに待ちぼうけだけれど、これで良かった、と笑みが深くなる。
 前のブルーでも、年下だったら、守って、失くさなかった筈。
 だから今度はしっかりと守る、チビのブルーを。自分よりもずっと年下だから。
(年上で良かった…)
 当分はチビに振り回されるが、と思うけれども、幸せな気分。
 ずっと年上に生まれた自分。
 いつまでもブルーの先をゆくから、守って歩いてゆけるのだから…。

 

       年上で良かった・了


※ブルー君よりも、ずっと年上のハーレイ先生。大人の余裕もたっぷりです。
 前のブルーが年下だったら、と考えてみたら幸せな気分。今度は本当に守れますものねv





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