(ハーレイのケチ!)
いつまで経ってもケチなんだから、と小さなブルーが尖らせた唇。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は土曜日、ハーレイが訪ねて来てくれたけれど。
午前中から一緒に過ごしたけれども、たったそれだけ。
恋人同士の二人でいたのに、部屋では二人きりだったのに…。
(今日も断られちゃったんだよ!)
ハーレイにキスを強請ったら。
「ぼくにキスして」と頼んだら。
鳶色の瞳で睨み付けられて、それはすげなく言われた言葉。
「俺は子供にキスはしない」と、「何度言ったら分かるんだ」と。
嫌というほど聞いた言葉で、ケチのハーレイはキスをくれない。
キスを貰えるのは額と頬だけ、唇へのキスは貰えない。
前の生からの恋人同士で、もう一度巡り会えたのに。
新しい命と身体を貰って、この地球の上で会えたのに。
遠く遥かな時の彼方で、焦がれ続けた水の星。
いつか地球まで辿り着けたら、と幾つもの夢を描いた星。
ハーレイと一緒にあれをしようと、これもしたいと。
その夢の星に来たというのに、ハーレイはケチになってしまった。
(…今でも恋人同士なのに…)
駄目だ、と言われてしまうキス。
何度頼んでも、強請っても。
「キスしてもいいよ?」と誘ってみたって、いつもハーレイに叱られるだけ。
今の自分はチビだから。
十四歳にしかならない子供で、前の自分よりも小さいから。
それは分かっているのだけれども、なんとも腹立たしいケチなハーレイ。
自分を愛してくれているなら、一度くらいキスが欲しいのに。
恋人同士が交わす甘いキス、唇へのキスが欲しいのに。
ホントに一度でいいんだから、と思うけれども、ハーレイはケチ。
どんなに頼んで強請ってみたって、「駄目だ」としか言いはしないのだろう。
「前のお前と同じ背丈になるまでは駄目だ」と、お決まりの台詞。
百五十センチしか無い自分の身長、前の自分だと百七十センチ。
あと二十センチも伸びない限りは、ハーレイはキスをしてくれない。
すっかりケチになったから。
生まれ変わって来たせいだろうか、前のハーレイよりもケチだから。
(…酷いよね…)
ホントに酷い、と零れる溜息。
前のハーレイなら、幾らでもキスをくれたのに。
今でも夢に出て来た時には、優しくキスをくれるのに。
キスをくれるし、キスのその先のことだって。
本物の恋人同士の時間も、夢のハーレイならくれるのに。
(…でも、夢の中だと、ぼくだって…)
前のぼくになってしまうんだよ、と残念な気持ち。
チビの自分は消えてしまって、前の自分になっている夢。
ハーレイとキスを交わしているのは、自分ではなくて前の自分。
恋人同士の甘い時間を過ごすのも。
いつも目覚めてはガッカリする夢、「今日の夢も、ぼくじゃなかったよ」と。
今の自分よりも大きく育った、前の自分でしかなかったと。
(…夢の中のハーレイ、前のぼくが盗ってしまっちゃう…)
ハーレイは自分の恋人なのに。
こんなに好きでたまらないのに、前の自分が奪ってしまう。
育った身体を持っているから、その分、ずっと有利だから。
「キスは駄目だ」と言われはしなくて、ハーレイとキスが出来るから。
同じ自分なのに、夢の後では、いつもちょっぴり悲しい気分。
「ぼくじゃなかった」と。
前のぼくにハーレイを盗られちゃったと、とても幸せな夢だったのに、と。
夢でさえもキスをくれないハーレイ、前の自分の時にしか。
チビの自分の夢を見た時は、「キスは駄目だ」と睨むハーレイ。
夢の中でも現実と同じ、せっかく夢を見ているのに。
起きている時には叶わないこと、それが叶うのが夢なのに。
(…たまには、夢でも優しいハーレイ…)
ぼくにキスしてくれるハーレイがいいな、と考えながら入ったベッド。
今日もハーレイはケチだったのだし、夢でくらいは、と。
(…前のぼくさえ、出て来なかったら…)
きっと貰えるだろうキス。
上手い具合に、入れ替わったら。
チビの自分が前の自分に勝てたなら。
(…サイオン勝負だと、負けてしまうに決まってて…)
背の高さでも負ける、前の自分。
ソルジャー・ブルーと呼ばれた自分。
どうすれば彼に勝てるのだろうか、サイオンはとことん不器用なのに。
思念波もろくに紡げはしなくて、瞬間移動は夢のまた夢。
前の自分と入れ替わろうにも、その方法が見付からない。
それとも夢だと出来るのだろうか、「ぼくにも出来る」と信じたら。
サイオン・タイプは今でもタイプ・ブルーなのだし、潜在的にはある筈の力。
たった一回きりだとはいえ、ハーレイの家へも飛べたから。
(…うんと頑張ったら…)
前の自分に勝てるだろうか、スルリと居場所が変わるだろうか?
ハーレイがキスをくれる立場へ、チビのまんまで。
今の自分よりも育った姿の、前の自分と入れ替わって。
(…上手くいったら…)
ハーレイが唇にくれそうなキス。
チビの自分の背丈に合わせて、腰を屈めて。
それでも強く抱き締めてくれて、「俺のブルーだ」と唇にキス。
夢の中だと、ケチではないかもしれないハーレイ。
そういう夢を見てみたいよね、と前の自分に挑むつもりで考えて…。
ふと気付いたら、笑顔のハーレイ。
「今日はドライブに連れて行ってやろう」と。
行こう、と開けてくれたドア。
今のハーレイの愛車だったから、大喜びで乗り込んだ。
ハーレイもたまには気が変わるんだ、と。
(ドライブも駄目だ、って言ってるくせに…)
今日は機嫌がいいみたい、と眺めた運転席のハーレイ。
「どうしたんだ?」と向けられた笑みは優しくて、ドライブは嘘ではないらしい。
直ぐにハーレイがかけたエンジン、走り出した車。
(何処に行くのかな?)
もしかしたら隣町だろうか、と高鳴った胸。
ハーレイの両親が住んでいる町、庭に夏ミカンの大きな木があると聞いた家。
其処へ連れて行ってくれるのだったら、もう嬉しくてたまらない。
(お父さんたちに、ぼくを紹介してくれて…)
きっと結婚の話も出るから、チビでもハーレイの婚約者。
プロポーズはまだでも、正式な婚約はずっと先でも。
(…ふふっ…)
どんな人たちなんだろう、と膨らむ夢。
ハーレイが顔も教えてくれない、隣町に住む父と母。
(お父さんは、ヒルマンにちょっと似てるって…)
早く会いたいな、と思っていたら、「此処だ」と車を停めたハーレイ。
いつの間にか広い空き地に来ていて、其処にはギブリ。
白いシャングリラにあったシャトルで、どういうわけだか、一機だけ。
「えっと…?」
なんでギブリが、と目を丸くしたら。
「せっかく、お前とドライブだしな?」
うんとでっかくドライブしよう、とハーレイが指差す空の上。
青空に浮かぶシャングリラ。
「あれで行こう」と、「今日は俺たち二人だけだぞ?」と。
今のハーレイには、動かせそうもないギブリ。
それに巨大なシャングリラ。
「ハーレイ、そんなの動かせるの?」と訊いたけれども、「任せておけ」と頼もしい答え。
ドライブなんだと言っただろうが、と。
そして「乗るぞ」と促されたギブリ。
操縦席に座ったハーレイは、見事にそれを動かした。
まるで車を動かすように。
キャプテンの制服を着てもいないのに、ドライブ用の普段着なのに。
アッと言う間に、青い空へと飛び立ったギブリ。
遥か上空に浮かぶシャングリラへ、白い鯨の背中へと向けて。
「今のお前は飛べないしな?」
シャングリラにだって飛べんだろう、と笑ったハーレイ。
「だが、こいつでなら簡単だぞ」と、「もう目の前に見えてるしな?」と。
滑り込むように入った格納庫。
誰も誘導してはいないのに、ハーレイは鮮やかにギブリを停めた。
船に着いたら、「次はこっちだ」と引っ張られた手。
「ドライブするなら、ブリッジの方へ行かんとな?」と。
(…ハーレイ、こんなの動かせるんだ…)
ギブリも、それにシャングリラまで、と真ん丸になってしまった瞳。
今のハーレイにも出来るだなんてと、前のハーレイよりずっと凄い、と。
(…柔道も水泳も、プロの選手に負けない腕で…)
おまけにギブリの操縦が出来て、シャングリラだって動かせる。
誰の助けも借りないで。
航路も何もかも、一人で決めて。
「どうした、ブルー?」
何処へ行きたい、とハーレイがシャングリラの舵を握って訊いたから。
二人きりで何処を飛んでみたい、と尋ねられたから。
「もちろん、地球を一周だよ!」
ぼくは宇宙から一度も見たことないんだから、と膨らませた胸。
応えて笑顔になったハーレイ、「さあ、ドライブだ。シャングリラ、発進!」と。
其処でパチリと開いた瞳。
覚めてしまった、素敵な夢。
(…今の、夢なの?)
夢だったの、と残念だけれど、ケチではなかった夢のハーレイ。
「ぼくにキスして」と強請ることさえ、夢の自分は忘れていたから。
ハーレイの姿に見惚れてしまって、夢のドライブに胸を躍らせていて。
(夢の中だと、ハーレイ、とってもカッコ良くって…)
キスのことさえ忘れていたのが自分なのだし、今日はハーレイに言ってみようか。
「ぼくをドライブに連れてって」と。
車じゃなくってシャングリラがいいよと、シャングリラで地球を見に行くんだよ、と…。
夢の中だと・了
※今のハーレイはケチだから、と膨れていたのがブルー君。夢でくらいはキスが欲しい、と。
そしたらシャングリラでドライブする夢。キスも忘れてしまう所が幸せですよねv
(ハーレイのケチ、なあ…)
あれを言われるのも何度目やらな、とハーレイが浮かべた苦笑い。
夜の書斎で、コーヒー片手に。
今日は土曜日、朝から出掛けてブルーに会って来たけれど。
恋人の家を訪ねたけれども、言われた言葉が「ハーレイのケチ!」。
ケチ呼ばわりの理由は一つで、いつもと同じ。
「ぼくにキスして」と強請るブルーを、「駄目だ」と睨み付けたこと。
「俺は子供にキスはしない」と、「何度言ったら分かるんだ」と。
小さなブルーは膨れてしまって、桜色の唇が紡いだ言葉。
「ハーレイのケチ!」と。
けしてケチではない筈なのに。
ブルーの望みは、何でも叶えてやりたいのに。
(なんたって、俺のブルーだからな)
前の生から愛した恋人、また巡り会えた愛おしい人。
生まれ変わって、この地球の上で。
前のブルーが夢に見た星、焦がれ続けた青い水の星で。
ブルーと二人、新しい身体と命を貰って、これからも生きてゆくけれど。
前の自分たちの恋の続きを生きるのだけれど、子供になってしまったブルー。
十四歳にしかならない子供に、今の自分の教え子に。
時の彼方で失くした時には、ブルーは大人だったのに。
それは気高く美しい人で、背だってずっと高かったのに。
(…どうしたわけだか、今はチビでだ…)
俺のブルーには違いなくても、チビはチビだ、と分かる恋人。
姿と同じに中身も子供で、柔らかで無垢な心のブルー。
「キスしてもいいよ?」と、誘う日だってあるけれど。
一人前の恋人気取りで、キスを強請ってくるのだけれど。
いくらブルーが望むことでも、唇へのキスは贈れない。
子供にはキスは早すぎるから。
頬と額へのキスで充分、それが自分の信条だから。
(なのに、あいつは分かっちゃいなくて…)
ハーレイのケチと来たもんだ、と溜息をついても仕方ないこと。
ブルーにとっては「ケチ」だから。
小さなブルーが望んでいるのに、キスを断るケチな恋人。
きっとまだまだ、ブルーは分かってくれないだろう。
もっと大きく育つまで。
心も身体と同じに育って、ケチな恋人の本当の想いに気付くまで。
(あいつを大事に思っているから、キスは駄目だと言ってるんだが…)
チビのブルーには分からないよな、と自分が可哀相になる。
ブルーのためを思っているのに、「ケチ」呼ばわりをされるから。
「キスは駄目だ」と断る度に、「ハーレイのケチ!」と膨れられるから。
(…あいつがチビでさえなけりゃ…)
幾つでもキスを贈ってやれる。
「もう要らないよ!」と、ブルーが逃げ出すほどに。
「キスもいいけど、ちょっとはのんびりさせて欲しい」と言い出すほどに。
愛おしさのままに、幾つでも。
ブルーが「ハーレイ!」と怒っていたって、ギュッと両腕で抱き締めて。
たとえば、おやつを食べているブルー。
美味しそうにケーキを頬張るブルーに惹かれたら。
唇にちょっぴりついたクリーム、それが羨ましくなったなら。
「クリームのくせに、俺のブルーを」と。
ブルーの唇は俺のものだと、ケーキにくれてやるもんか、と。
捕まえてキスを贈る唇。
ブルーには、いい迷惑だけれど。
「ぼくはケーキを食べてるのに!」と、「ハーレイの馬鹿!」と怒りそうだけれど。
ケチよりは「馬鹿」の方がいいな、と思うけれども、まだ先のこと。
小さなブルーはチビの子供で、結婚出来もしないから。
二人一緒に暮らせはしないし、もちろんキスも贈れない。
こうして夢を見るのがせいぜい、「大きく育ったブルー」のことを。
その日が来たら、と思い描いて、ブルーの言葉を想像して。
(…そいつが俺の限界ってヤツで…)
ぜめて夢では会いたいもんだ、とグイと飲み干したコーヒーの残り。
夢の中なら、前のブルーにも会えるから。
小さなブルーも現れるけれど、育ったブルーも現れる。
「ハーレイ?」と微笑む愛おしい人。
何処へ行こうか、と車の助手席に座っていたり。
(…今夜はそいつで頼みたいもんだ)
ケチと言われてしまったからな、とパジャマに着替えて入ったベッド。
出来れば甘い夢を見たいと、ブルーとドライブ、それからデート。
今は叶わないことだけれども、叶わないからこその夢。
目覚めた時にはガッカリしたって、夢の中では幸せな自分。
ブルーとデートで、ドライブだから。
「美味い飯でも食いに行くか」と、ハンドルを握っていたりするから。
もっとも、小さなブルーが来たなら、そうはいかないのだけれど。
学校の夢やら、今日と変わらない日々の夢。
小さなブルーを抱き締めるだけで、時によっては…。
(夢の中でも「ハーレイのケチ!」だ)
あまりに何度も言われたせいで、すっかり覚えてしまった自分。
プウッと膨れるブルーの顔も。
だから夢でも同じこと。
小さなブルーが現れたならば、現実と同じになる展開。
せっかく夢を見たというのに、得をした気分がまるで無い夢。
ブルーに会えたというだけのことで、夢ならではのことが起こらないから。
それは御免だ、と落ちてゆく眠り。
お得な夢でよろしく頼む、と。
ふと気付いたら、「ハーレイ!」と駆けて来るブルー。
転がるように、懸命に。
一杯に手を振っているけれど、そんなに急いで走ったら…。
「ブルー!」
危ないぞ、と止める間もなく、転んでしまったブルーの身体。
石か何かに躓いて。
上手く手をつくことも出来ずに、地面に叩き付けられて。
「痛いよ…!」
ママ、と大声で泣き出したブルー。
慌てて起こしに走って行った。
ジョギングの途中だったのだけれど、それどころではない状況だから。
(…絆創膏も持っちゃいないぞ…!)
俺は転んだりしないから、と大股で駆け寄り、抱き起こした。
「痛い」と泣き叫ぶ恋人を。
何処から見たって幼稚園児で、とても幼い恋人を。
「大丈夫か、ブルー!?」
ママはどうした、と見回したけれど、姿が見えないブルーの母。
此処は公園、きっと何処かにいる筈なのに。
けれど「いないよ」と答えたブルー。
涙をポロポロ零しながら。
擦り剥いた膝から血が出ているのに、それでも健気に笑顔を作って。
「ぼくは一人」と、「一人で来たよ」と。
ハーレイに会いたかったから、と。
「会えて良かった…。やっぱり、いたね」
ジョギングしてたね、とブルーは笑顔だけれども、痛そうな膝。
傷の手当てをしてやりたいのに、持ってはいない傷薬。
それに絆創膏だって。
「お前なあ…。一人で此処まで来たなんて…」
無茶するなよな、と幼いブルーを抱き上げた。
公園の管理事務所に行こうと、あそこだったら傷の手当てが出来るしな、と。
宝物のように大切に抱いて、管理事務所に連れて行ったブルー。
「転んで怪我をしたんです」と。
傷薬と絆創膏を貰えますかと、手当ては私がやりますから、と。
「ごめんね、ハーレイ…」
ぼく、迷惑をかけちゃった、幼いブルーがしょげているから。
事務所の椅子にチョコンと座って、悲しそうな顔をするものだから。
「気にするな。…お前、頑張ったんだしな?」
一人で家から来たんだろう、と消毒してやるブルーの膝。
「ちょっとしみるぞ」と、「痛けりゃ泣いてもいいからな」と。
けれど、泣いたりしなかったブルー。
消毒されても、傷に薬を塗られても。
キュッと唇を結んで耐えて、「ありがとう」と笑みさえ浮かべたくらい。
「ぼくはホントに平気だから」と、「痛くないよ」と。
本当はとても痛いだろうに。
今だって傷はズキズキ痛んで、きっと泣きたいくらいだろうに。
(…こいつを送って行かないとな?)
ブルーが一人で出て来た家まで、きちんと送り届けなければ。
いつの間にやら消えてしまった一人息子を、きっと探しているだろうから。
まさか公園まで行っているとは思いもしないで、家の近所で。
「ほら、ブルー」
背負ってやるから一緒に帰ろう、と言ってやったら、弾けた笑顔。
「ホント?」と「ハーレイが送ってくれるの?」と。
一緒に帰ってくれるんだね、と。
「ハーレイと一緒に帰りたいから、ぼく、頑張って来たんだよ」と。
其処でパチンと覚めた夢。
あれは夢か、と目覚めたベッド。
(うーむ…)
可愛いじゃないか、と思った恋人。
今よりもずっと小さいけれども、夢の中では可愛かったブルー。
「ハーレイのケチ!」と膨れる代わりに、健気に笑みを浮かべたブルー。
ああいうブルーも悪くないなと、今よりチビでも可愛かった、と。
今日はブルーに話してやろうか、「もっと小さくならないか?」と。
お前よりもずっと可愛げがあって、「ケチ!」とも言わないようだからな、と…。
夢の中では・了
※「ハーレイのケチ!」と言われてしまったハーレイ先生。せめて夢では、と思ったら…。
もっと小さなブルーが出て来て、可愛らしさに参った模様。幼いブルーも素敵かもv
(ハーレイ、来てくれなかったよ…)
待ってたのに、と小さなブルーがついた溜息。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
今日は学校で会えただけのハーレイ、前の生から愛した恋人。
「ハーレイ先生!」と呼び掛けられたし、立ち話も少ししたけれど。
大好きな声は聞けたのだけれど、学校ではあくまで教師と生徒。
恋人同士の話は出来ないまま。
だから寂しくなってくる。
「会えたけれども、ぼくのハーレイじゃなかったよ」と。
中身は同じにハーレイだけれど、やっぱり違う「ハーレイ先生」。
同じ声でも、同じ顔でも。
優しい笑みを浮かべていたって、恋人の顔とは違うもの。
一緒にいたいのは「ハーレイ」の方で、話をしたいのも「ハーレイ」。
「ハーレイ先生」の方ではなくて。
(…来てくれるかと思ってたのに…)
何の根拠も無かったけれども、期待して待っていたのが今日。
来てくれるといいなと、会えるといいな、と。
期待が膨らんでゆけばゆくほど、上手く運びそうな気がしてくるもの。
「きっと来てくれるに違いない」と。
じきに会えると、もう少しだけ待ったなら、と。
(…ホントに会えると思ってたのに…)
何度も窓の方を眺めて、窓から下を見下ろしたりも。
ハーレイの愛車がやって来ないか、門扉の向こうに見慣れた姿が見えないかと。
それと同じでチャイムも待った。
鳴ってくれると、ハーレイが鳴らしてくれるだろうと。
けれど、鳴らずに終わったチャイム。
ついに来てくれなかった恋人、あんなに待っていたというのに。
なんとも残念な気分の今。
「ハーレイ先生」にしか会えなかったから。
恋人のハーレイは来てくれないまま、今日が終わってしまうから。
(…もしもハーレイが来てくれてたら…)
ちゃんと我慢をしたんだけどな、と思い浮かべる夕食の席。
正確には夕食の後のテーブル、「コーヒーにするか」と言った父。
そういうメニューだったから。
食事の後で何か飲むなら、コーヒーが似合いだった夕食。
(…ぼくには違いが分からないけど…)
紅茶でもいいし、ほうじ茶だって。
食後のお茶なんか特に飲まなくても、「御馳走様」と立っても良さそうなのに。
ハーレイが一緒の日ならともかく、家族三人だけなのだから。
それでも父が頼んだコーヒー、母も「そうね」と淹れに出掛けた。
だからコーヒーがピッタリのメニュー、熱いコーヒーで締め括るのが。
(ハーレイも一緒に食べてたら…)
来てくれていたら、食後は間違いなくコーヒー。
父と母と、それにハーレイは。
コーヒーが苦手な自分一人だけが、ポツンと仲間外れにされて。
母に「ブルーは紅茶でしょ?」と別の飲み物を用意されて。
(コーヒーがいいな、って言ったって…)
父も母も変な顔をするだけ。
ハーレイだって、「やめた方がいいと思うがな?」と苦い顔付きになるのだろう。
「お前はコーヒー、駄目だろうが」と。
「前のお前の頃からそうだ」と、「ソルジャー・ブルーも飲めなかった」と。
またコーヒーを無駄にする気か、とお説教されるかもしれない。
美味いコーヒーを台無しにするなと、「お母さんにも迷惑だぞ?」と。
今の自分も前の自分も、コーヒーはまるで駄目だから。
独特の苦味がとても苦手で、甘くしないと飲めないから。
前の自分がしていた飲み方、それが今でも自分の飲み方。
苦いコーヒーに挑むなら。
なんとか飲んでみようとするなら。
(お砂糖たっぷり、ミルクたっぷり…)
甘いホイップクリームもこんもりと入れて、ようやく飲めるコーヒーになる。
何処から見たって、もうコーヒーではないけれど。
ソルジャー・ブルーだった頃から、ハーレイが溜息をついていたけれど。
「それはコーヒーではありませんよ」と。
コーヒー風味の別の飲み物だと、カフェオレですらもなさそうだと。
今だって父も母も呆れた、実にとんでもない飲み方。
(子供だから、まだ笑われないけど…)
ソルジャー・ブルーは充分に大人の姿だったし、驚いていた父と母。
こんな飲み方をする人なのかと、前の自分の好みのことで。
どう見ても子供の飲み方だから。
「苦いのは駄目」と甘くしたがる、子供好みのコーヒーだから。
充分に承知している両親、そのせいで駄目な食後のコーヒー。
淹れて貰っても無駄になるから、コーヒーの味が台無しだから。
(今日の晩御飯だと、ぼくだけ紅茶…)
そういう時には、食後のお茶は両親と一緒。
コーヒーが好きなハーレイがゆっくり味わえるように、食卓で。
紅茶や緑茶やほうじ茶だったら、「部屋でどうぞ」と言われるのに。
二階の部屋まで母が運んでくれるとか。
「ぼくが運ぶよ」とトレイを持つとか、「俺が持とう」とハーレイが持ってくれるとか。
いずれにしたって、食後のお茶は部屋でのんびり、両親は抜きで。
ハーレイが「そろそろ帰らないとな?」と立ち上がるまで。
それがコーヒーでなかったら。
「ハーレイ先生もお好きでしたわね?」と、母が用意をしなかったなら。
今日、ハーレイが来てくれていたら、食後に出ていただろうコーヒー。
そして自分は仲間外れで、食後のお茶の時間も無し。
ハーレイと二人きりの時間は。
もう一度二階の部屋に戻って、あれこれ話が出来る時間は。
(…そうなっちゃっても、我慢したのに…)
ハーレイが来てくれるなら。
夕食の支度が出来るまでの間、部屋で二人で話せるのなら。
苦いコーヒーに二人の仲を裂かれても。
同じ飲み物が出て来ない上に、食後は両親つきになっても。
(…それでも、そうなるまでの時間は…)
ハーレイと恋人同士で過ごせて、幸せ一杯。
「キスは駄目だ」と叱られたって。
唇へのキスは貰えないまま、プウッと膨れる羽目になっても。
(ハーレイと一緒にいられるのにね…)
今日のようにコーヒーが邪魔をしたって。
ハーレイと二人で過ごす時間が減ったって。
そうなってもいいから、ハーレイに来て欲しかった。
もっと贅沢を言っていいなら、ハーレイが来てくれて、コーヒーは無し。
コーヒーが全く合わない夕食、そういうのがいい。
こうして夜に一人きりだと、どんどん我儘が膨らんでゆく。
ハーレイが来てくれていたなら、今頃はきっと満足なのに。
「今日は幸せ」と、「いい日だったよね」と、胸がじんわり温かいのに。
なのに来てくれなかったハーレイ、コーヒーが出ても我慢したのに。
食後のお茶の時間が無くても、両親にハーレイを取られても。
苦くて苦手なコーヒーのせいで、悲しい思いをする食後。
そういう時間が待っていたって、きっと我慢をしただろう。
大好きなハーレイと二人で過ごせて、その後に夕食でコーヒーならば。
それまでの時間は幸せだった、と自分自身に言い聞かせて。
ちゃんと我慢をしたんだよ、と思うコーヒー。
独特の苦味は苦手だけれども、まるで全く飲めないけれど。
飲めないお蔭で仲間外れで、両親にハーレイを持って行かれる。
自分もコーヒーを飲めたとしたなら、食後のお茶は二階へ運んでゆけるのに。
熱いコーヒーを満たしたカップを、「ぼくが運ぶよ」とトレイに載せて。
(…あれはいつまで経っても無理そう…)
前の自分も駄目だったのだし、来年も、そのまた次の年も。
ハーレイと一緒に暮らし始めても、きっと自分は飲めないまま。
どんなに見た目が美味しそうでも、ハーレイが「美味いぞ?」と言ったって。
(ぼくの舌、前とおんなじだから…)
どうせそうなるに決まっているから、大きくなってもコーヒーは駄目。
ハーレイがいそいそ淹れていたって、「またコーヒー?」と横目で見るだけ。
「ぼくには紅茶を淹れてよね」と。
コーヒーなんか飲まないからと、「ハーレイだって知ってるでしょ?」と。
前の生からそうだったのだし、ハーレイに文句は言わせない。
食事は出来るだけコーヒーが似合わないメニューがいいな、と我儘も言って。
今、胸の中で膨らむ我儘、それをハーレイにもぶつけてやって。
(ハーレイと幸せに過ごしたかったら、コーヒーは抜き…)
この家でなら我慢するのだけれども、それでも消えない我儘な気持ち。
出来ればコーヒー抜きがいい、と。
だからハーレイと暮らすのだったら、コーヒーは抜きの方がいい。
あんなに苦い飲み物なんか、と思った所で気が付いた。
(…コーヒーの味…)
それを苦いと思う自分。
嫌だと感じる、今の自分の小さな舌。
前とそっくり同じだけれども、前の自分は、その舌を…。
(…身体ごと失くしちゃったんだ…)
右手に持っていたハーレイの温もり、それを失くした悲しみの中で。
メギドでたった独りぼっちで、前の自分が命尽きた時に。
そうだったんだ、と見開いた瞳。
コーヒーは今も苦手だけれども、「苦い」と感じさせる舌。
それを一度は失くしたのだと、それなのに今は持っているよね、と。
(…ちゃんと舌があって、コーヒーは苦くて…)
前と同じに味がするよ、と思った今。
まるで気付いていなかったけれど、これって凄い、と。
(ハーレイ、今日は会えなかったけど…)
家に来てくれはしなかったけれど、そのハーレイと二人、青い地球の上。
コーヒーの苦さが分かる舌を持っているのも、ぼくが生きてるからなんだ、と。
今日は文句は言わないでおこう、この幸せに気付いたから。
コーヒーの苦い味がする今、それは自分が生きている証なのだから…。
味がする今・了
※ハーレイ先生が来てくれるのなら、苦手なコーヒーを出されたって、と思うブルー君。
そのコーヒーを「苦い」と感じる舌を持っているのは、とても幸せなことですよねv
(今日も一日、終わったってな)
いい日だった、とハーレイが唇に浮かべた笑み。
夜の書斎でコーヒー片手に。
ブルーの家には寄れなかったけれど、いい日ではあった。
恋人のブルーには会えていないけれど、生徒の方なら会えたから。
「ハーレイ先生!」と笑顔のブルーに。
それから少し立ち話だって。
(まるで会えない日もあるからなあ…)
遠目に姿を見られればまだしも、それさえも出来なかったような日。
それに比べれば今日はいい日で、文句を言ったら…。
(罰が当たるぞ)
会えただけでも幸運じゃないか、と前向きに。
話も出来たし、今日は上々、と。
教師と教え子、そういう中身の会話でも。
甘さの欠片も無い話でも。
(…甘さってヤツが欲しければ、だ…)
このコーヒーに砂糖をドッサリ、そうすれば甘くなるわけで、と一人で冗談。
スプーンで何杯も入れてやったら、いくらでも甘くなるコーヒー。
「これは菓子か?」と思うほどにも出来るだろう。
コーヒーではなくてチョコレートでは、というような出来。
(そういう飲み物もあるんだしな?)
正真正銘、本物のチョコレートで出来た飲み物。
ホットチョコレートとか、ショコラショーとか、呼び方の方は色々だけど。
チョコレートを削って、鍋で溶かして、「どうぞ」と出される甘い飲み物。
(…ポットごとなら、固まらないように…)
かき混ぜる棒がついてたっけな、と思い出すホットチョコレートの専用ポット。
母のお供で飲んだから。
あれもなかなか面白いんだ、と。
ホットチョコレートには敵わなくても、コーヒーだって甘くなる。
砂糖をドッサリ入れさえすれば。
ブルーとの会話に足りなかった甘さ、それをコーヒーで補うならば。
(しかし、実際は甘さが違って…)
あいつと話す時とコーヒーじゃ違うよな、と見詰めるカップ。
だから冗談しか言えないんだが、と。
コーヒーを甘くしてみた所で、甘くならない今日のブルーとの立ち話。
とっくに過ぎた時間のことだし、今は一人でコーヒータイム。
小さなブルーはきっとベッドの中だろう。
そうでなければパジャマ姿で、本を読みながら夜更かし中か。
(早く寝ないと風邪を引いちまうぞ?)
なあ、と心で語り掛けても、ブルーの耳には届かない。
やっぱり甘さが足りなかったか、と残念な気持ちはあるけれど。
今日はあいつと恋人同士で話せていない、と思うけれども、それを除けばいい一日。
不満を漏らすなど、とんでもない。
(いっそ砂糖を入れちまうか?)
甘さが足りないと思うんだったら、とカップの中身を覗き込む。
「とてもコーヒーとは言えないぞ」と思うくらいに、砂糖を入れてやろうかと。
キッチンに行って、スプーンで山ほど。
溶けないのでは、と誰が見たって呆れるような量の砂糖を。
(それも一興…)
とてつもなく甘くなっちまったら、俺の目だって覚めるだろうさ、と指で弾いた額。
「いい日」に不満を抱く俺には、ちょいと罰だって必要だよな、と。
とんでもなく甘いコーヒーが。
今は絶妙な苦味と味わい、それが吹っ飛ぶような甘さが。
「しっかりしろよ」と、「目を覚ませ」と。
いい一日を過ごしたろうがと、なのに贅沢を言うんじゃない、と。
きっとガツンと胃袋に効く。
なんて味だ、と舌にも、きっと。
そういう罰を与えようか、と考えないでもない時間。
「いい一日」に文句を言うなら、舌を懲らしめてやろうかと。
いくら好き嫌いが無いと言っても、それとこれとは別問題。
コーヒーはコーヒーらしいのがいいし、ホットチョコレートとは違うから。
「こいつは違う」と受ける衝撃、そこの所は好き嫌いとはまた違う。
例えて言うなら料理の味付け、それを間違うようなもの。
辛さが身上の料理を作って、出来上がったら妙に甘いとか。
甘いケーキを焼いたつもりが、砂糖と塩を間違えたとか。
(鈍いってわけじゃないんだから…)
その辺はちゃんと分かるんだ、と傾ける愛用のマグカップ。
コーヒーの味はこれでこそだと、甘くなりすぎたら台無しなんだ、と。
けれども、今日の自分は不満があるようだから。
「恋人のブルーに会えなかった」と、甘さ不足を感じているようだから…。
入れちまおうか、と思う大量の砂糖。
「そうすりゃ、俺も懲りるさ」と。
甘すぎるコーヒーを飲む間中、反省することになるのだから。
最後の一滴を喉に落とし込むまで、「俺が悪かった」と思うだろうから。
(だが、食べ物で遊ぶってのも…)
どうだかなあ、と自分を叱りたくなるのは躾のせい。
幼い頃から、両親に厳しく言われたから。
「食べ物は感謝して食べるものだ」と、「オモチャにしてはいけない」と。
学生時代には無茶もしたけれど、その無茶をした仲間たちだって…。
(普段はきちんとしてたしな?)
運動部だったから、礼儀作法にうるさい世界。
たとえ食べ物で遊んだとしても、「不味い」と捨てるなど出来ない世界。
最後まできちんと平らげてこそで、それが出来ないなら遊べない。
(…コーヒーを甘くしちまうのもだ…)
やったからには、反省しつつ飲み干すこと。
いい年をした大人がやるのは、どうかという気もするけれど。
さて、どうする、と睨むカップの中身。
甘く仕上げて反省するか、このまま味わい深く飲むのか。
(…俺は充分、今、考えたぞ?)
甘さ不足だと思う自分への、戒めも。
コーヒーを甘くしてしまうことが、如何に大人げないことなのかも。
(そこは、きちんと考えたんだし…)
美味いコーヒーのままで飲むのがいいんだろうな、と出した結論。
でないとコーヒーも可哀相だと、せっかく今は美味いのに、と。
最初から甘く仕上げていたなら、それはそういうコーヒーだけれど。
甘すぎても飲むしかないのだけれども、いい味になっているのだから。
(このままだよな?)
それがコーヒーへの礼儀ってモンだ、と思った途端にポンと頭に浮かんだ恋人。
甘さ不足を感じる原因、立ち話しか出来ずに終わったブルー。
(…あいつ、前から…)
ソルジャー・ブルーだった頃から、コーヒーが苦手なのだった。
今も変わらず苦手なままで、たまに飲もうと挑んでは…。
(砂糖たっぷり、ミルクたっぷり…)
おまけにホイップクリームまでだ、と思い出したブルーが飲むコーヒー。
どんなに美味しく淹れてあっても、ブルーの舌には合わないから。
今も昔も、「苦すぎるよ」と顔を顰めて降参だから。
(ふうむ…)
人それぞれだ、と思うコーヒー。
自分の舌には美味だけれども、ブルーは全く駄目だっけな、と。
生まれ変わっても同じに駄目かと、舌まで前と同じなんだな、と。
(でもって、俺も前と同じな舌だから…)
このコーヒーが美味いんだ、と思ったけれど。
甘くするなど、コーヒーにとても失礼じゃないか、と考えたけれど。
(…待てよ?)
その舌だ、と気付いたこと。
なんの気なしに、「同じ舌だ」と思った舌。
前の俺だった頃と変わっちゃいないと、コーヒーと言えばこれが好きだと。
けれど、そうだと感じる舌。
「この味がいい」と味わえる舌は、まるで奇跡のようなもの。
前の自分は死んでしまって、其処で終わりの筈だったから。
死の星だった地球の地の底、崩れ落ちて来た瓦礫の下敷きになって。
(おいおいおい…)
あそこで舌も無くなったんだ、と分かること。
身体が滅びて死んでしまったら、もう味などは分からない。
暑さも寒さも感じないのだし、コーヒーの苦味が絶妙だろうが、甘すぎようが…。
(…死んじまった俺には分からんぞ?)
死体の上から、ドボドボと注いで貰っても。
「好きだったから」と墓碑に供えて貰っても。
(…魂なりに、味わうことは出来るんだろうが…)
生きた身体とは違うだろうな、と容易に想像出来ること。
どんなに美味しく飲めたとしたって、魂が飲むのと、生きた身体が飲むのは違う、と。
(きっと魂になっちまったら…)
「甘さ不足だ」と砂糖をドッサリ、そんな飲み方はしないだろう。
コーヒーは常に美味しいのだろう、温度も、それに味だって。
なにしろ天国のコーヒーだから。
不味く出来ているわけがないから。
(今だからこそ、甘さ不足で砂糖ドッサリの罰なんぞ…)
思い付いたりするんだな、と零れた笑み。
生きてるからだと、俺もブルーも、と。
自分にはとても美味しいコーヒー、ブルーの舌には苦いコーヒー。
味わえる舌を持っているのも今だからこそだと、味わえる今に感謝しようと。
甘さ不足の日だったなどと言わないで。
今日も一日いい日だったと、いつもの味のコーヒーのままで…。
味わえる今・了
※今日はちょっぴり甘さ不足だった、と考えてしまったハーレイ先生ですけれど。
甘くしようかと思ったコーヒー、その味が分かるのは生きているから。感謝ですよねv
(んー…)
もうちょっとだけ、と小さなブルーが思ったこと。
休日の朝に、ベッドの中で。
さっき目覚ましが鳴ったけれども、今日は休日。
時間通りに飛び起きなくても、学校に遅刻したりはしない。
ほんのちょっぴり、朝御飯が遅くなるだけのこと。
目覚ましできちんと起きた朝より、そういう休日の時間より。
(…ちょっとだけ…)
もう少しだけ寝てもいいよね、と瞑った瞳。
昨夜は少し遅かったから。
夢中で本を読んでいる間に、経ってしまっていた時間。
寝ようと決めている時間より。
次の日も学校に行くのだったら、とうに寝ている時間よりも。
(…今日はお休み…)
そう思ったから、時計を見ないで本の世界に浸って過ごして、すっかり夜更かし。
目覚まし時計に起こされたって、「眠いよ」と訴えている身体。
学校に行かなくていい日なのだし、もう少しくらい寝てたって、と。
こうして一度は目を覚ましたから、眠ってもじきに目が覚めるよ、と。
(…眠い時には、ちょっぴりお昼寝…)
それで眠気がスッキリ取れる、と言っていたのは友達だった。
授業の最中に居眠りしていた言い訳だけれど。
「寝た方が頭が冴えるんです」と。
先生に見付かって叱られた時に、大真面目に。
眠い頭で起きているより、五分ほど寝るのが効率的。
それでシャッキリ目が覚めるのだし、そのために寝ていたのだと。
(先生、呆れていたけれど…)
否定はしない、と苦笑いだってしていたから。
眠い時には無理に起きるより、五分ほど寝た方がいい。
今朝の自分も、それがお似合い。
五分だけだよ、と瞑った瞳。
同じ五分を眠るのだったら、ぐっすりと。
そう思ったから、クルンと身体を丸くした。
眠る時には、いつもこうして丸くなるのが好きだから。
(…五分だけ…)
それで眠気が取れるんだしね、とウトウトと落ちた眠りの淵。
気持ちいいや、と。
五分経ったら目を覚まそうと、目覚まし時計は要らないよね、と。
(おやすみなさい…)
スウッと眠って、五分で起きる筈だったのに。
パッチリと目を覚ますつもりで、心地良く眠りに入ったのに。
「ブルー?」
朝よ、と母に揺り起こされた。
眠い瞼を押し上げてみたら、心配そうな母の顔。
「何処か具合が悪いの?」と。
「…ううん、ちょっぴり眠かっただけ…」
何時、と訊いてビックリ仰天。
五分しか経っていないつもりが、一時間以上も経っていたから。
母が「ほらね」と見せてくれた時計も、そういう時間を指していたから。
(嘘…!)
なんでこうなっちゃったわけ、と慌てたけれども、寝たのは自分。
友達が授業中に言った言い訳、それを自分も言い訳にして。
(五分で眠気が取れる、って…)
だから五分、と思っていたのに、五分どころか一時間以上も眠ってしまった。
母が心配して、部屋まで起こしに来るくらい。
(…でも、お休み…)
学校に遅刻するわけじゃないし、と考えたけれど。
大丈夫だよ、と思ったけれど…。
「大変…!」
どうして起こしてくれなかったの、とベッドの上に飛び起きた。
今日は休みで、いつもより遅くセットしていた目覚まし時計。
其処へ一時間以上の寝坊で、とても早いとは言えない時間。
(…ハーレイが来ちゃう…!)
いい天気だから、きっと歩いて。
母がカーテンを開けた窓から、日が燦々と射してくるから。
この時間だと家を出ているだろうか、こちらに向かって。
今から急いで支度したって、部屋の掃除が間に合わない。
朝御飯を食べていたならば。
いつもの休日、それと同じにのんびり過ごしていたならば。
もうバタバタと慌てているのに、母は「朝御飯、ホットケーキがいい?」と、いつもの調子。
それともトーストにマーマレード、と。
「ブルーは好きでしょ、ホットケーキの朝御飯?」
どっちにするの、と笑顔の母。
「どっちもいいよ…!」
ミルクだけで、と返した返事。
食べている時間は無さそうだから。
ホットケーキも、トーストも。
朝食なんかを食べていたなら、部屋の掃除は絶対に無理。
ハーレイが来る休日の朝は、張り切って掃除しているのに。
二人で使うテーブルだって、綺麗にキュッキュと拭いているのに。
「駄目よ、朝御飯抜きなんて」
「でも、ママ…!」
部屋の掃除が間に合わないよ、と叫んだら。
ハーレイが来ちゃう、と困り顔で部屋を見回したら…。
「ママがするわよ」と可笑しそうな母。
任せなさいなと、ママは掃除のプロなんだから、と。
部屋の掃除は、母が代わってくれるらしい。
それなら、とホッとついた息。
(ハーレイが来ても大丈夫…)
いつもの部屋、と安心したら、「パジャマじゃ駄目よ?」と母に言われた。
きちんと顔を洗って着替え、と。
朝御飯も食べて、ミルクだけにはしないこと、と。
「うん、分かってる…!」
食べるならホットケーキがいいな、と注文してから顔を洗いに。
寝坊したことが分からないよう、念入りに。
(…眠気はちゃんと取れたんだけど…)
さっきまで寝てた顔だもんね、と眺めた鏡に映った自分。
まだ眠そう、と。
しっかりと石鹸で顔を洗って、お湯と、冷たい水だって。
冷たい水だと、シャッキリと目が覚めるから。
鏡の向こうの自分の瞳も、もう眠そうではなくなったから。
(これでハーレイにはバレないよね?)
寝坊したこと、とタオルで拭いた顔。
水気を拭って、髪の毛だって跳ねていないか確かめた。
もしも寝癖がついていたなら、母に頼まないといけないから。
「寝癖、直して」と声を掛けて。
母が掃除に行ってしまう前に、寝癖がきちんと直るように。
(…跳ねてないから…)
そっちは平気、と戻った部屋。
次は着替えで、制服ではなくて家で着る服。
どれにしようか少し悩んで、これがいいな、と引っ張り出して。
(ハーレイが来るから…)
今日はこの服、と選んだ服を身に着けてゆく。
ハーレイも似たような服だといいなと、お揃いだったらいいのに、と。
着替えてダイニングに出掛けて行ったら、ホットケーキが焼き上がった所。
父に「寝坊か?」と笑われたけれど、気にしない。
ハーレイに笑われたわけではないから、寝坊はバレない筈だから。
(部屋の掃除はママがしてくれるし…)
大丈夫だよね、と掃除に行く母を見送りながらの朝御飯。
ホットケーキにメープルシロップ、それに金色のバターも乗せて。
熱で柔らかくとろけるバターと、メープルシロップが奏でるハーモニー。
これが大好き、と頬張っていたら掠めた記憶。
(…ホットケーキ…)
遠く遥かな時の彼方で、前の自分が食べていた。
青い地球を夢見て、いつか地球で、と。
地球に着いたら、ホットケーキを食べてみたいと夢を描いていた自分。
青い地球には、サトウカエデの森があるから。
地球の草をたっぷり食んで育った、牛たちのミルクで作ったバターもあるだろうから。
(いつか、こういう朝御飯…)
食べてみたいと何度思ったことだろう。
白いシャングリラが地球に着いたら、ホットケーキの朝食を、と。
ハーレイと一緒に食べたかったし、それが自分の夢だった。
(…地球には来られたんだけど…)
まだハーレイと朝御飯は食べられないものね、と零れた溜息。
一緒に暮らしていないのだから、二人きりで食べる朝食は無理。
夢のホットケーキは此処にあるのに、足りないハーレイ。
(…ハーレイと二人で暮らせるようにならないと…)
前の自分の夢の朝食、ホットケーキの夢は叶わない。
半分だけしか叶わないまま。
本物のサトウカエデのメープルシロップ、地球で育った牛のバター。
其処までだけしか叶わないよねと、ハーレイと一緒に食べられない、と。
まだ当分は無理なんだけど、とホットケーキを眺めるけれど。
フォークで口へと運ぶのだけれど、いつかは叶うだろう夢。
ホットケーキの朝食をハーレイと二人、そんな朝に自分が寝坊したなら…。
(…ホットケーキは、どうなっちゃうわけ?)
もしもハーレイに起こされたって、「もうちょっと…」と寝ていたら。
一時間以上もそのまま起きずに、ぐっすり眠ってしまっていたら。
(ホットケーキ、すっかり冷めちゃって…)
起きて行ったら、消えているかもしれない。
「冷めちまうから、食っておいたぞ」と、ハーレイがダイニングにいたりして。
二人分のホットケーキを平らげた後に、のんびりコーヒーを飲んだりもして。
(…そんなの、酷い…!)
ぼくのホットケーキはどうなるの、と思ったけれど。
夢の朝御飯が台無しだよ、と寝坊した自分を棚に上げて怒りそうだけど…。
(でも、ハーレイも…)
優しいものね、と浮かんだ考え。
母が寝坊した自分の代わりに、部屋の掃除をしてくれるように、ハーレイだって…。
(冷めるから食べた、って言っていたって…)
きっと自分が起きて行ったら、ホットケーキを新しく焼いてくれるのだろう。
「焼き立てが美味いに決まってるしな?」と、用意してあった材料を出して。
(うん、ハーレイなら、きっとそう…)
寝坊したって、ハーレイはきっと叱らない。
ホットケーキを新しく焼いて、「食えよ?」と渡してくれる筈。
きっとそうだから、ハーレイが来たら訊いてみようか。
「寝坊したって大丈夫?」と。
今朝、本当に寝坊したことは言わないで。
「もしもだよ?」と、笑みを浮かべて、「ぼくは寝坊をしたっていい?」と…。
寝坊したって・了
※休日の朝に寝坊してしまったブルー君。朝御飯も要らない、と大慌てですけど…。
ハーレイ先生と一緒に暮らすようになっても、寝坊するかも。きっと許して貰えますよねv
