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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧
(寝ている間に、小人がだな…)
 色々なことをやってくれるって話があるんだよな、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(生憎と俺は、小人の手助けが必要なほどには…)
 仕事を溜め込みはしないんだがな、と苦笑しながら、机の上を眺め回した。
 「片付けの必要も無さそうだぞ」と。
 ブルーに貰った白い羽根ペン、夏休みにブルーと一緒に写した写真。
 本なども置いてあるのだけれども、雑然としてはいない其処。
 たとえ小人がやって来たって、片付けて貰う物などは無い。
 書斎に並んだ本にしたって、整理してあるものだから…。
(小人の用事は、何も無いなあ…)
 他の部屋でも同じことだな、と考えてみるリビングやダイニング。
 それにキッチン、何処にも小人の出番などは無い。
 家事も雑事も、日頃からマメにやっているものだから。
(…こんな家には、小人なんかは…)
 来てくれないな、と改めて見渡していたら、ポンと頭に浮かんだこと。
 「あいつだったら?」と。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が恋をした人。
 今ではチビに生まれ変わって、同じ町に住んでいるのだけれど…。
(…前のあいつが、生まれ変わって来る代わりにだな…)
 小人になって現れたなら、と思い付いた「もしも」。
 再会出来ることは間違いないから、そういう出会いもアリかもしれない。
 神様の粋な計らいなのか、遊び心かは知らないけれど。
(……小人の、あいつなあ……)
 そいつも、ちょいといいかもしれん、と顎に当てた手。
 前のブルーは、強大なサイオンを誇っていたから、小さな小人になったって…。
(充分、手伝いが出来そうじゃないか)
 サイオンでやればいいんだからな、と考える。
 「小人のブルーが、俺の目の前に現れるってのも、素敵じゃないか」と。


 手伝いをしてくれる小人というのは、本来、姿を見せないもの。
 家の持ち主が眠っている間に、様々なことを手伝ってくれて、姿を消す。
 だから、手伝って貰った人間の方は、目が覚めてから…。
(昨夜は有難うございました、と…)
 お礼の品物を置いておくわけで、それも知らない間に消える。
 小人はコッソリ持って帰って、姿を見せたりしないから。
(…しかし、あいつが小人になるなら…)
 神様が巡り会わせてくれるわけだし、事情は全く違ってくる。
 小人のブルーは、最初から姿を見せるのだろう。
 ある日、いきなり、この書斎にでも。
 懐かしい声で、「ハーレイ?」と呼び掛けて。
 「ただいま」と、「ちゃんと帰って来たよ」と。
(…途端に、俺の記憶も戻って…)
 小人の正体も、時の彼方で恋をしたことも、何もかも思い出すのだろう。
 「俺のブルーが帰って来た」と。
 とても小さくなったけれども、「俺のブルーだ」と。
(小人だからなあ…)
 今のあいつどころじゃないチビだよな、と鳶色の瞳を瞬かせる。
 小人になってしまったブルーは、どのくらいのサイズなのだろう、と。
(俺の手のひらに乗るくらいなのか、もっと小さいか…)
 親指サイズじゃ小さすぎだぞ、と思いはしても、そう大きくもなさそうなブルー。
 なんと言っても小人なのだし、やはり親指くらいだろうか。
(…俺の親指サイズなら…)
 こんなものか、と右手を軽く開いて、「よし」と大きく頷いた。
 親指サイズのブルーだったら、手のひらに丁度いい具合。
 チョコンと座らせてやるにしたって、乗っけて移動するにしたって。
(うん、そのくらいのブルーってことで…)
 考えてみるか、と想像の翼を広げてゆく。
 小人になってしまったブルーと、どんな暮らしが始まるか。
 どういう日々が待っているのか、この思い付きを追ってみよう、と。


(…あいつのことだし、小人になって現れたって…)
 メギドで何が起こったのかは、きっと話しはしないだろう。
 「もういいだろう?」と、「ぼくは帰って来たんだから」と言うだけで。
 何もかも自分の胸に隠して、ニッコリ笑うに違いない。
 「ぼくは充分、幸せだから」と。
 「ちゃんとハーレイに会えたんだから」と、「それに地球にも来られたしね」と。
(…そう言われたら、俺も聞くわけにはいかないし…)
 メギドのことは、それっきり。
 「また会えたのだし、それだけでいい」と。
(でもって、あいつの寿命もだな…)
 小人の姿になった時点で、新しく貰った命なのだし、尽きたりはしない。
 前のブルーの姿のままでも、「ハーレイ」と一緒に生きてゆける命。
 先に燃え尽きてしまいはしないで、「ハーレイ」の命が終わる時まで。
(…ちと、小さすぎて…)
 キスをするのも難しいんだが、と思うけれども、それでも嬉しい。
 ブルーが戻って来たのだから。
 今度こそ一緒に生きてゆけるし、住んでいる場所も、青く蘇った地球の上。
 時の彼方で前のブルーと描いた幾つもの夢を、二人で叶えてゆくことが出来る。
 「いつか地球まで辿り着いたら」と、青い水の星に託した夢を。
(…なんたって、此処は地球なんだしな?)
 いくらでも夢は叶えられるさ、と自信はたっぷり。
 チビの子供になったブルーとも、沢山、約束しているけれど…。
(前のあいつが、小人になって現れるんなら…)
 待ち時間などは必要無い。
 チビのブルーに、「お前が大きく育ったらな」としか言えないのとは違う。
 最初から二人で暮らしてゆけるだけでも、大きな違い。
 小人のブルーなら、そのまま家に住み付けるから。
 結婚式を挙げていなくても、現れた日から、何の支障も無く。
 家の持ち主で恋人の「ハーレイ」、つまり「自分」が許可すればいい。
 「今日から、此処で暮らすんだろう?」と、「俺の家だし」と。


 もちろんブルーも、現れた時から、そのつもりだろう。
 「ハーレイの家で暮らしてゆこう」と、「地球で暮らせる」と。
 だから意見は一致しているし、ブルーが住む家は「ハーレイの家」。
(姿を見せずに暮らすんじゃなくて…)
 真昼間でも、小人のブルーは気にしない。
 来客があれば別だけれども、そうでない時は、姿を隠しはしない。
(そして、サイオンで…)
 俺の手伝いをするんだよな、と思ったけれども、それに関しては如何なものか。
 手伝うことが無いというのも、問題の一つではあるけれど…。
(…前のあいつは、裁縫の腕はからっきしで…)
 ボタンの一つも満足につけられはしなかった。
 キャプテンの制服の袖を直そうとして、直す前よりも酷くなったほど。
(それが可笑しくて、スカボローフェアを教えてやったら…)
 前のブルーはサイオンを使って、歌に出て来る無理難題をやり遂げた。
 「縫い目も針跡も無い、亜麻のシャツ」を作って、誇らしげに持って来たブルー。
 もっとも、難題は果たせたものの…。
(あのシャツ、着られなかったんだよなあ…)
 サイズぴったりの亜麻のシャツじゃな、とクックッと笑う。
 ボタンもファスナーも無かったシャツでは、頭から被って着るしかない。
 なのに、そのための「余裕」が無かった、奇跡のシャツ。
 被ろうとしたら、ビリビリと破れてしまうしかない、身体にぴったり過ぎたシャツ。
(…ああいうヤツだし、俺の手伝いは…)
 まるっきり期待出来そうにない、と天井を仰ぐ。
 サイオンで出来そうな手伝いと言えば…。
(…米も研げないし、包丁をサイオンで使われても…)
 なんだかなあ、と思うものだから、卵を割って貰うくらいだろうか。
 朝、オムレツをこしらえる前に、「ちょっと頼む」と。
 「卵を割っておいてくれるか」と、「今日は二個だな」と。
(……その程度だな)
 まあ、いいんだが、とマグカップを指でカチンと弾く。
 小人の手伝いは要らない家だし、特に何かをしてくれなくても、と。


(そもそも、あいつがいてくれるだけで…)
 俺は充分に幸せなんだ、と「小人のブルー」との暮らしを追ってゆく。
 ブルーに手伝いをして貰うよりは、自分がブルーの役に立ちたい方だよな、と。
(小人なんだし、いくらサイオンが使えても…)
 この家で暮らしてゆこうとしたなら、前の生のようにはいかないだろう。
 「ハーレイ」のサイズに合わせて出来ている家は、小人のブルーには大きすぎるから。
 階段の上り下りにしたって、「えいっ!」と飛ばないと、一段さえも…。
(上れないよな、親指サイズじゃ…)
 ちと愉快だが、と階段を上ろうと頑張るブルーを想像してみる。
 サイオンを使って飛べばいいのに、断崖を登る登山家みたいに、ロープをかけているブルー。
(…でなきゃ、小さな箱でも積んで…)
 せっせと上っていくのだろうか、「やっと一段、上ることが出来た」と、二階に向けて。
 一段、上に上がることが出来たら、ロープや箱を引き上げながら。
(大仕事だよな、二階まで行くというだけで)
 それでも頑張って上りそうだ、と「前のブルー」の頑固さを思う。
 こうと決めたら、けして譲らなかったから。
 そのせいでメギドに行ってしまって、二度と戻りはしなかったから。
(だが、それは…)
 分かっちゃいるんだが、今度は俺が手助けするんだ、と思う「小人のブルー」との暮らし。
 ブルーが「一人で出来る」と言っても、手伝えることは手助わなくては。
(階段を一人で上ってる所を俺が見たなら、ヒョイと掴んで…)
 手のひらに乗せて、スタスタと二階へ上ってゆく。
 ブルーが使っていたロープや箱も、「置いておいたら、踏んじまうしな?」と一緒に持って。
 「お前は頑張らなくていいんだ」と、「今度は俺に頼ってくれ」と。
 帰って来てくれた愛おしい人に、二度と苦労をさせたくはない。
 どんな些細なことであろうと、ブルーに頑張らせるよりは…。
(俺が代わりに、あれこれやって…)
 あいつに楽をさせてやるさ、とコーヒーのカップを傾ける。
 「小人なんだし、何も頑張らなくてもな?」と。
 「俺の家には、小人の手伝いは要らないんだから」と。


 小人のブルーと暮らしてゆくなら、ブルーにも幸せでいて欲しい。
 青い地球の上をあちこち旅して、見せてやるのもいいけれど…。
(まずは、あいつの夢の朝食…)
 そいつを、うんと豪華にやるか、と広がる夢。
 前のブルーが夢見た朝食、本物の砂糖カエデから採れたメープルシロップと…。
(地球の草を食んで育った牛のミルクで作った、美味いバターと…)
 それを添えて食べるホットケーキが、前のブルーが地球に描いていた夢の一つ。
(小人のブルーじゃ、普通サイズのホットケーキでも…)
 ベッドよりデカいサイズだからな、と浮かぶ笑み。
 「帰って来たブルーが小人だったら、豪華なベッドをプレゼントだ」と。
 ホットケーキのベッドに転がり、好きなだけ食べてくれればいい。
 「食べ切れないよ」と言うだろうけれど、毎朝だってプレゼントする。
 ブルーと暮らしてゆけるのならば、もうそれだけで幸せだから。
 小人の姿で、キスさえ難しいようなブルーでも、いてくれるだけで充分だから…。



            小人だったら・了


※戻って来たブルーが小人だったら、と考えてみるハーレイ先生。ブルー君より小さな小人。
 キスをするのも難しいくらいに小さいですけど、それでも一緒に暮らせたら、幸せv








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(ぼくは、ハーレイに一目惚れ…)
 前のぼくの記憶が戻ったものね、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 十四歳にしかならないチビだけれども、もう恋人がいる自分。
 結婚出来る年になったら、結婚すると決めている人が。
(…ぼくの人生、あの瞬間に決まっちゃったよね)
 ふふっ、と零れた幸せな笑み。
 忘れもしない五月の三日に、今のハーレイと再会した時、決まった人生。
 「ハーレイと生きてゆくんだ」と。
 前の生では叶わなかった、愛おしい人と一緒に生きてゆくこと。
 それが叶うのが、今の人生。
 「今度こそ、共に生きてゆける」と、「ハーレイと一緒に、何処までもゆこう」と。
(…再会した瞬間は、まだ、そこまでは…)
 全く考えていなかったけれど、恋に落ちたというのは確か。
 青い地球の上に生まれ変わって、「今」を生きているハーレイに。
 前の生から愛し続けた、愛おしい人に。
(ホントのホントに、一目惚れだよ)
 あの瞬間から、ハーレイしか見えていないものね、と運命の不思議さを思う。
 恋さえ知らなかった自分が、あの日を境に、ガラリと変わった。
 気付けば視線がハーレイを追って、ハーレイの姿を探している。
 いつも、学校に行く度に。
 「今日はハーレイに会えるといいな」と、胸をときめかせて登校して。
 会えなかった日はガッカリだけれど、それでも、こうしてハーレイのことを考えたりする。
 一目で恋に落ちてしまった、今の時代に生きているハーレイ。
 その人は何をしているだろう、と家がある方角に視線を向けて。
 「明日は会えるといいんだけれど」と、期待に胸を膨らませもして。
 なにしろ、一目惚れだから。
 ハーレイがいない人生なんかは、考えられもしないのだから。


 出会った時から、今の自分は、もう「ハーレイ」のことばかり。
 ハーレイと再会出来た幸せ、それを噛み締める時間が過ぎたら、出て来た欲。
 「早くハーレイと暮らしたいよ」と、「ぼくは、ハーレイの恋人なのに」と、溢れるように。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が夢に見ていた未来のこと。
(…ハーレイと一緒に、やりたかったこと…)
 とても沢山あるというのに、まだチビだから叶わない。
 ハーレイと一緒に暮らせはしなくて、旅行にさえも行けないから。
(……せっかく、一目惚れなのに……)
 つまらないよね、と不満だけれども、こればかりは我慢するしかない。
 今の自分が大きく育って、結婚出来る年になるまで。
 プロポーズをして貰える時が、やって来るまで。
(…前のぼくたちの、恋の続きを生きてるのにね…)
 なんだか、ずいぶん遠回りだよ、と残念な気持ち。
 もっと自分が大きかったら、再会して直ぐに、恋の続きが始まったのに。
 その場でハーレイにプロポーズされて、アッと言う間に結婚式で。
(…今だって、恋の続きだけれど…)
 ずっと足踏みしているみたい、と考える内に、頭を掠めたこと。
 「もしも、記憶が消えちゃったら?」と。
 今のハーレイに一目惚れしたのは、前の自分の記憶のお蔭。
 聖痕が思い出させてくれた、時の彼方で恋をしていた人のこと。
(…前のぼくの記憶が戻って来たから…)
 ハーレイに恋をしたわけなのだし、その記憶が消えてしまったとしたら、どうなるだろう。
 チビの自分に、あの日、突然、戻った記憶。
 それがすっかり消えてしまって、「ただのブルー」になったなら。
 「ソルジャー・ブルー」の記憶など無い、チビのブルーに戻ったら。
(…そんなこと、絶対、起こらないよね…?)
 神様がくれた聖痕だもの、とキュッと握り締めた小さな右手。
 前の生の終わりに冷たく凍えた、悲しい記憶が今も残っているけれど…。
(あの時、切れてしまったと思った絆…)
 ハーレイとの絆を、神様は結び直してくれた。
 こうして再び出会えるようにと、今度こそ、共に生きられるように。


(…聖痕を下さった、神様なんだし…)
 記憶が消えてしまうようなことは、けして起こりはしないだろう。
 事故で頭を打ったとしたって、ハーレイのことを忘れはしない。
 時の彼方で生きた記憶も、欠片も損なわれはせずに残る筈。
(…うん、絶対に大丈夫…)
 消えやしないよ、と安心したら、湧き上がって来た好奇心。
 「もしも、記憶が消えちゃったら?」と、「ぼくたち、どうなっちゃうのかな?」と。
 自分の記憶が消えるのならば、ハーレイの記憶も消え失せるだろう。
 聖痕で戻った記憶なのだし、お互い、綺麗サッパリ忘れて…。
(…赤の他人になっちゃうんだよね?)
 ハーレイ先生と、教え子のブルー、と考えてみると、面白そう。
 そんな二人は、どんな具合になるのだろう。
 赤の他人になってしまえば、ハーレイに恋をしている自分は、それも忘れてしまうのだから…。
(…ただのハーレイ先生、ってこと?)
 古典の教師の「ハーレイ先生」。
 記憶が消えてしまった後には、そういうハーレイが残る勘定。
 聖痕の記憶も無くなるからには、もう、守り役ではなくなって、普通の教師として。
(…そうなっちゃうと、一目惚れなんか…)
 出来る理由は無さそうだよね、と赤い瞳を瞬かせた。
 「やっぱり、赤の他人なのかな」と。
 一目惚れなどしないのだったら、「ただのハーレイ先生だよ」と。
(…でも…)
 だけど、と時の彼方を思った。
 前の自分も、「ハーレイに、一目惚れだっけ」と。
 そういう自覚は無かったけれども、出会った時から恋をしていた、前の自分。
(…燃えるアルタミラで、ハーレイに声を掛けられて…)
 其処から始まった、二人の関係。
 会ったばかりなのに、息がピッタリ合ったハーレイ。
 他の仲間たちを助け出すために、二人で走った。
 燃えて崩れてゆく星の地面を、渦巻く激しい炎の中を。


(ハーレイだったから、上手くいったんだよ)
 最初からね、と後になってから気が付いた。
 誰でも良かったわけではなくて、ハーレイがパートナーだったからこそ、出来たこと。
 そう、ハーレイは「特別」だった。
 前の自分の大切な人で、他の誰かには代えられない人。
(…気が付いたのは、うんと後だったけれど…)
 呆れるほど後のことだったけれど、前の自分は、前のハーレイに一目惚れ。
 アルタミラの地獄で初めて出会った、その瞬間に恋をした。
 自分では恋だと気付かないまま、長い長い時が流れたけれど。
 「とても大切な友達なのだ」と思い込んだまま、宇宙を旅していたのだけれど。
(…前のぼくが、一目惚れだったんだから…)
 今のぼくだって、そうなるんじゃあ…、と顎に当てた手。
 「だって、中身はおんなじだよ?」と。
 たとえ記憶が消えてしまっても、「ブルー」の中身は変わらない。
(成人検査とか、人体実験とかは無くって…)
 まだ十四年しか生きていないけれども、「ブルー」の魂は「ブルー」のもの。
 サイオンが不器用になっていようと、子供だろうと、「ブルー」は「ブルー」なのだから…。
(…ハーレイに会ったら、恋をしそうだよ)
 一目惚れで、と想像の翼を広げてゆく。
 「今のぼくだって、きっと、恋だと気が付かないんだよ」と。
 「記憶が消えてしまってるんだし、前とおんなじ」と。
 つまり、最初から「やり直し」。
 振り出しに戻った恋の始まり、それが恋へと育つのだけれど…。
(……うんと時間がかかるんだよね?)
 前のぼくだって、そうだったから、と苦笑する。
 「結婚出来る年になっても、結婚式は無理みたい」と。
 「そんなの、考えてもいやしないよね」と。
 十八歳を迎える頃になっても、自分は気付いていないのだろう。
 「ハーレイ先生」が恋の相手だとは、まるで全く。
 もちろん相手のハーレイの方も、「ブルー」のことを恋人だなんて、思っていなくて。


 きっとそうだよ、とクスクスと笑う。
 前の自分がそうだったように、今の自分も気が付かない。
 「ハーレイ先生」のことは大好きだけれど、そう思う気持ちが恋だとは。
(…ぼくの記憶が消えちゃったら…)
 やり直しになる、ハーレイとの恋。
 ハーレイの記憶も同じに消えているから、「はじめまして」のようなもの。
 とうに出会って、「ハーレイ先生」と「教え子のブルー」な関係だけが残っていて。
(えーっと…?)
 それでも、ハーレイは優しいんだし…、と考えてみる「特別」になる切っ掛け。
 記憶が無いなら、何か無ければ、ハーレイの「特別」にはなれないけれど…。
(…今のぼくも、身体が弱いから…)
 その辺りかな、と見当をつけた。
 ハーレイの授業の真っ最中に、気分が悪くなってしまうとか。
(どうしたんだ、って、慌てて走って来てくれて…)
 保健委員に任せる代わりに、保健室まで背負って連れて行ってくれそう。
 「俺が行った方が早いからな」と、他の生徒には自習をさせて。
(…うんと広い背中で、頼もしくって…)
 保健室に着いたら、優しく額を撫でてくれたりもして。
 「後で様子を見に来るからな」と、「無理せずに、此処でゆっくり寝てろ」と。
(…授業が終わって、ハーレイが来る頃になっても…)
 具合が悪いままだったならば、とても面倒見のいいハーレイだから…。
(時間が空いてるなら、ぼくの家まで…)
 「俺の車で送ってやろう」と、言ってくれるに違いない。
 「待ってろよ」と、教室に戻って、鞄とかを取って来てくれて。
 ベッドから下りても、足がふらつくようだったなら…。
(無理するな、って…)
 ヒョイと抱き上げて、車まで運んでくれるのだろう。
 手には鞄も持っているのに、軽々と。
 柔道と水泳で鍛えた逞しい腕には、「ブルー」なんて、軽いものだから。


 そうやって大股でスタスタ歩いて、車に乗せたら、真っ直ぐ家まで。
 母はビックリするだろうけれど、ハーレイに何度もお礼を言って…。
(ハーレイに、時間があるのなら…)
 お茶とお菓子でおもてなしして、それから帰って貰う筈。
 時間が無いなら、「学校で召し上がって下さいね」と、お菓子のお土産。
(うん、きっと…)
 そんな感じで、「ハーレイ」との仲が始まるのだろう。
 いつの間にやら、「特別」になって。
 「あいつ、しょっちゅう倒れるからな」と、ハーレイが気を配ってくれるようになって。
(そうなったら、家まで送ってくれる日も増えて…)
 何度も家までやって来る内に、ハーレイはすっかり、父や母とも顔馴染み。
 一人暮らしをしていることも、その内に伝わるだろうから…。
(週末とかに、食事においでになりませんか、って…)
 両親が招いて、和やかに囲む夕食の席。
 きっと自分も、心が弾むことだろう。
 「今日は、ハーレイ先生が来てくれるんだよ」と、朝からはしゃいで。
 夕食のメニューは何になるのか、母に何度も尋ねたりして。
(恋だと思っていないから…)
 ハーレイの方も、今と違って、家に招いてくれると思う。
 「今度は、お前が遊びに来ないか?」と、「俺も、料理には自信があるんだ」と。
(家に行けるし、柔道部の試合を見に行ってもいいし…)
 きっとドライブにも行けるんだよね、と緩んだ頬。
 「今のぼくだと、そんなの、許して貰えないけど」と、「楽しそうだよ」と。
 互いに恋だと気が付かないから、結婚出来るまでに、何年かかってしまうのかは…。
(…ホントに謎で、二百年くらいかかるかもだけど…)
 きっと、ハーレイに恋をするよね、と大きく頷く。
 「だって、一目惚れしちゃうんだから」と。
 前の自分の記憶が消えても、きっとハーレイに恋をする。
 それが恋だと気が付かないまま、長い時が流れてしまったとしても。
 結婚式を挙げる日がやって来るまで、何百年もかかってしまう恋でも…。



          記憶が消えちゃったら・了


※前の自分の記憶が消えたら、ハーレイ先生とはどうなるんだろう、と想像してみたブルー君。
 記憶が消えても、やっぱり一目惚れしそうな感じ。恋だと気付くまでが長いですけどねv









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(俺はあいつに一目惚れで、だな…)
 出会った途端に恋に落ちたんだ、とハーレイが思い浮かべた恋人の顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(ああなるとは、思いもしなかったよなあ…)
 それまでの俺の人生ではな、と可笑しくなる。
 学校の教室で初めて出会ったその瞬間に、教え子に恋をするなんて。
 しかも女の子とは全く違って、男の生徒だっただなんて。
(ついでに、たったの十四歳のチビで…)
 同い年の子よりもチビだと来たぞ、と考えるほどに笑い出しそうになる。
(こうなるんだぞ、と一年ほど前の俺に言ったって…)
 絶対、信じやしないだろうな、と一年前の自分を振り返って。
 もっと年齢を遡ってゆけば、ますます「信じない」自分がいそう。
 将来はプロの選手になるかも、と自分も周りも思っていた学生時代とか。
(お前は将来、チビの男の子に一目惚れして…)
 そいつが育つのを、じっと待つんだ、と言おうものなら、「自分」は笑い出すだろう。
 「まさか」と、「そんな馬鹿なことが」と。
 「俺は将来、うんと美人の嫁さんを貰う予定だしな?」などと。
 なにしろ、前の生とは違って、若かった頃は、よくモテた。
 彼女なんかは選び放題、そう言えるくらい、ファンの女性も多かったけれど…。
(…何故だか、誰もピンと来なくて…)
 付き合おうとさえしなかった。
 教師の仕事に就いてからでも、機会は何度もあったのに…。
(今の年まで独り身で来て、あいつに一目惚れをして…)
 あいつしか目に入らないのが今なんだよな、と不思議だけれども、それは運命。
 遠く遥かな時の彼方で、前のブルーに恋をしたから。
 生まれ変わって再び巡り会えるくらいに、深い絆があったから。
 チビのブルーが、聖痕を持って生まれたように。
 その聖痕を目にした自分も、前の生の記憶が戻ったように。


 全ては、其処から始まった恋。
 前の生での記憶が戻って、チビのブルーに恋をした。
 「あいつなんだ」と、気が付いたから。
 失くしてしまった愛おしい人が、チビの姿で帰って来た、と。
(…そんなわけだから、昔の俺に言ったって…)
 信じる筈が無いんだよな、と苦笑する。
 いくら「キャプテン・ハーレイ」に似ていようとも、自分でも他人だと思っていたから。
 「生まれ変わりか?」と尋ねられる度、「赤の他人だ」と答えた自分。
 ところが、記憶が戻ってみれば…。
(俺はキャプテン・ハーレイだった上に、ソルジャー・ブルーが恋人だったと来たもんだ)
 いったい誰が気付くというんだ、と思う、前の生での自分の恋。
 時の彼方で隠し通して、死ぬまで黙っていたものだから…。
(研究者たちにも見抜けないままで、今の時代も、誰も知らないままなんだよな)
 キャプテン・ハーレイとソルジャー・ブルーの関係は、とクックッと笑う。
 「そんな恋では、記憶が戻って来ない限りは、俺にも分からん」と。
(…そうやって、あいつに恋しちまって…)
 今ではチビのブルーにぞっこん、そういう自分が此処にいる。
 ブルーに会えずに終わった今日という日を、とても残念に思う自分が。
 「明日は、あいつに会えるといいな」と、心の底から願う男が。
(…前の俺の記憶が、運んで来た恋というヤツか…)
 そして運命の恋なんだよな、とコーヒーを傾けたはずみに、掠めた考え。
 「記憶が消えたら、どうなるんだ?」と。
 前の自分だった頃の記憶が、すっかり消えてしまったならば。
(……いや、有り得ないことなんだが……)
 神様がいらっしゃるんだからな、と首を左右に振って、即座に打ち消す。
 自分もブルーも、記憶が消えることなどは無い、と。
 ブルーが神から貰った聖痕、それが起こした素晴らしい奇跡。
 青く蘇った水の星の上で、幸せに生きてゆくために。
 前の生では叶わなかった幾つもの夢を、二人で叶えてゆけるように、と。
 だから記憶は消えはしないし、消える筈など無いのだけれど…。


(…もしも消えたら、どうなるだろうな?)
 せっかくだから、ちょいと想像してみるか、と心の中に生まれた余裕。
 「有り得ないしな」と確信しているからこそ、「もしも」の世界を覗いてみたい。
 聖痕を目にして戻った記憶が、自分の中から失われたら、と。
 そうなったならば何が起こるか、どんな具合になるのだろうか、と。
(…俺の記憶が消えるってことは、あいつの記憶も…)
 恐らく同時に、ブルーの中から消えてしまうに違いない。
 互いに一目惚れだけれども、その恋をブルーに運んだ記憶が。
(……ということは、消えた途端に、あいつとの恋も……)
 消えてしまって、他人同士になるということ。
 前の生から続いた絆が、記憶と一緒に消えてしまうから。
 自分は「ただのハーレイ」になって、ブルーも「ただのブルー」になって。
(そうなったら、教師と教え子だよなあ?)
 聖痕とか、守り役とかも無しになるんだ、という考えは、多分、正しいだろう。
 記憶が消えてしまうとなったら、神が起こした奇跡も消える。
 チビのブルーと「出会った」現実、それは消えてはしまわなくても。
 今の学校の教師と教え子、その関係は残っていても。
(…ただのハーレイ先生、ってことか…)
 あいつから見た今の俺はな、と顎に当てた手。
 「でもって、あいつも、俺から見れば、生徒の一人になるってことだ」と。
 柔道部員などではないから、本当に「ただの生徒」の一人。
 そういうブルーを、記憶が消えてしまった自分は、どう見るだろう、と。
(……さてな?)
 可愛い子なのは確かなんだが、とチビのブルーの顔立ちを思う。
 小さなソルジャー・ブルーそのもの、赤い瞳のアルビノも印象的だけれども…。
(…ただそれだけのことだよなあ?)
 惹かれる理由は何も無いぞ、とマグカップの縁を指でカチンと弾いた。
 「確かに人目を惹く顔なんだが、だからって、惚れるわけがないよな」と。
 そう、顔だけで惚れはしないから、ピンとくる女性もいなかった。
 だから「ブルー」でも同じことだし、一目惚れなどするわけがない、と。


 その上、チビのブルーの場合は、可愛い顔でも「男の子」。
 「惚れはしないな」と思ったけれども、其処で蘇った、遥かな時の彼方の記憶。
(…今、考えてる設定の場合、前の俺の記憶は無しなんだが…)
 消えちまってるわけなんだしな、と頷きはしても、それとこれとは別件だ、と思うこと。
 時の彼方で、前のブルーと初めて顔を合わせた時に…。
(……俺は、一目惚れしちまったんだ……)
 自分じゃ気付いていなかったがな、と後になってから分かった事実。
 「あの瞬間から、あいつは、俺の特別だった」と。
 だからこそ、最初から息が合ったし、アルタミラの地獄で、大勢の仲間を助けられた、と。
(…ということはだ、俺の記憶が消えちまっても…)
 もう一度、そいつが起こりそうだぞ、という気がする。
 自分も、ブルーも、前の生の記憶が無くなっても。
 「ただの教師と、ただの教え子」、そんな二人になったとしても。
(…何故だか、あいつが気になっちまって…)
 何かと世話を焼きそうだよな、と想像の翼が広がってゆく。
 今のブルーも身体が弱くて、直ぐに具合が悪くなったりするものだから…。
(大丈夫か、って、顔を合わせる度に尋ねるかもなあ…)
 柔道部の部員じゃなくっても、と思うくらいに、今の自分も面倒見がいい。
 もうキャプテンではないというのに、何かと周囲に気を配って。
 同僚だろうと、生徒だろうと、分け隔てなく。
(だから、あいつの具合が悪けりゃ…)
 時間さえあれば、車で家まで送るのだろう。
 「ちょっと待ってろ」と、「俺が送ってやるから」と。
 保健室に行く途中のブルーを、見掛けたりしたら。
 付き添っている保健委員の生徒を、「俺がついてくから、帰っていいぞ」と教室に帰して。
(…放っておけずに、そうやってだな…)
 何度も家まで送る間に、いつの間にか、恋をしていそう。
 自分でもそれと気付かないまま、「ブルー」が特別な存在になって。
 学校に行く度、ついつい、ブルーを探してしまう。
 ブルーのクラスでの授業が無くても、廊下や、中庭や、グラウンドなどで。


(…恋だと気付いちゃいないんだがな…)
 そいつを一目惚れと言うんだ、と前の自分の記憶と重ねる。
 恋だと全く気付かないまま、長い年月、とても大切な友人なのだと思い込んでいた。
 「ブルー」を誰より大事に思って、特別に扱っていたというのに。
 後から振り返って考えてみれば、確かに一目惚れだったのに。
(今の俺だって、記憶が消えたら…)
 そのコースでブルーに恋をするんだ、と傾けるコーヒーのカップ。
 「ただの教師と、ただの教え子」、そんな関係になってしまっても。
 前の生での記憶が消えても、二人とも忘れてしまっていても。
(…あいつの方でも、一目惚れだったと聞いてるしな?)
 やはり自覚は無かったようだが、と時の彼方でのブルーの言葉を思い出す。
 「ハーレイは最初から、ぼくの特別だったんだよ」と、何度も語っていた人を。
 前のブルーも、恋だと気付いていなかったけれど、同じに一目惚れだったという。
 アルタミラの地獄で初めて出会った、その場で恋に落ちていたのだ、と。
(つまり、今のあいつも、記憶が消えても…)
 ただの「先生」になってしまった「ハーレイ」、面倒見のいい教師に惚れるのだろう。
 自分では、恋だと思いもせずに。
 とても優しい「ハーレイ先生」、担任でも無いのに、気のいい教師に。
(…身体が弱いから、心配をしてくれるんだ、って…)
 ブルーは思って、疑いもせずに、無防備に甘えてくるのだろう。
 車で家まで送ってやったり、保健室まで背負って行ったりする度に。
 「ごめんなさい、先生…」と申し訳なさそうに言いはしたって、断りはせずに。
(俺の方でも、せっせとブルーの世話を焼いて、だ…)
 ブルーの家へと通う間に、ブルーの家族とも顔馴染み。
 最初の間は、お茶を出して貰っていた程度なのに、いつの間にやら、夕食の誘い。
 一人暮らしだと分かっているから、「今日は夕食を御一緒に」と。
 そしてブルーも大喜びで、楽しい夕食になるのだろう。
 何度も夕食に招いて貰って、その内に、休日なんかにも…。
(食事にいらっしゃいませんか、と…)
 誘われて、まるで家族の一員。
 記憶が消える前の自分が、そうして過ごしていたのと同じに。


(…そうなるんだろうなあ…)
 恋だと気付くのに、うんと時間はかかりそうだが、と思うけれども、一目惚れ。
 いつか互いに恋だと知るまで、ゆっくりと時が流れるのだろう。
 前の生での記憶が消えても、きっと二人の行く道は同じ。
 自分は、ブルーに恋をするから。
 ブルーの方でも、きっと「ハーレイ」に恋をするから…。



           記憶が消えたら・了


※もしも前の生での記憶が消えてしまったら、と想像してみたハーレイ先生。どうなるか、と。
 結果は、きっと前の生での恋と同じで、また一目惚れ。記憶が消えても、運命の恋v






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(ちゃんと、ハーレイと会えたんだよね…)
 今日は会い損なっちゃったけれど、と小さなブルーが浮かべた笑み。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は会えずに終わったハーレイ。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…学校でも、全然、会えなかったけど…)
 でも、ハーレイは、ちゃんといるから、と視線を窓の方へと向けた。
 何ブロックも離れた所だけれども、同じこの町に住んでいるハーレイ。
 忘れもしない五月の三日に、学校の教室で再会出来た。
 時の彼方で「ソルジャー・ブルー」の生を終えた時には、絶望の淵の底だったのに。
 もうハーレイには二度と会えないと、「絆が切れてしまったから」と。
(…最後まで持っていたかった、ハーレイの温もり…)
 それをキースに撃たれた痛みで失くしてしまって、泣きじゃくりながら死んだ前の自分。
 なのに、気付いたら、ハーレイがいた。
 前とそっくり同じ姿で、青い地球の上に生まれ変わったハーレイが。
(ぼくの方は、チビになっちゃったけれど…)
 やはり同じに前の自分の姿ではある。
 ちょっぴりチビだというだけで。
 メギドで死んだ時と違って、アルタミラから逃れた頃の姿になってしまっただけで。
(神様が、会わせてくれたんだよね)
 もうずっと一緒なんだから、と分かっているから、今日は会えなくても文句は言わない。
 二度と会えないと思った恋人、その人が同じ町にいるから。
 青い地球の上に二人で生まれて、一緒に生きてゆけるのだから。
(…ついつい、忘れちゃうんだけれど…)
 そして文句を言っちゃうけどね、と肩を竦めて苦笑する。
 「仕方ないよね」と、「子供だもの」と。
 子供は何かと欲張りなのだし、我慢も出来ないものなんだから、と。


 此処にいるのが前の自分なら、文句は言わないことだろう。
 ハーレイと再び出会えただけでも、思いがけない幸運だから。
 ほんの一日、会えない程度で、頬っぺたを膨らませたりはしない。
(…だって、あっちは大人だものね)
 今のぼくとは違うんだよ、と思ったはずみに、気が付いたこと。
 「大人だった頃の自分」は、長い間、何処にいたのだろうか、と。
(……今のハーレイ、今のぼくより、二十四歳も年上だから……)
 そのハーレイを追い掛けて生まれた自分は、二十四年も待った勘定になる。
 青い地球の上に生まれて来る前、母の胎内に宿った時まで。
(…だけど、なんにも覚えてないよ…)
 気が付いたら、学校の教室だったし、と自分の記憶が情けない。
 生まれて来るより前のことなど、まるで覚えていないから。
(二十四年も待ってたんなら、今のハーレイが育っていくのを…)
 側で見ていたかもしれないのにね、と思うけれども、そんな記憶は何処にも無い。
 覚えていたなら、今のハーレイと思い出話が出来るのに。
 「ハーレイ、ホントに、凄い悪ガキだったよね」と、自分が見ていた光景を。
(…そういうのも、楽しそうなのに…)
 ちょっと残念、と思う間に、別の方へと向かった思考。
 「身体があるとは限らないんだ」と。
 今のハーレイと巡り会えた時、この肉体を持っているとは限らない。
 魂だけだった頃の自分が、子供の頃のハーレイを眺めていたかもしれないように…。
(…ハーレイの方が、魂だけだ、ってことも…)
 有り得たかもね、と考え付いた。
 前の自分は、前のハーレイよりも遥かに年上。
 神様が、それを忠実になぞっていたなら、十四歳の、今の自分が出会えるハーレイは…。
(……生まれてなくって、魂だけ……)
 そんなハーレイになっちゃうんだ、と大きく頷く。
 神様の粋な計らいのお蔭で、逆さになってしまっただけ。
 前の生の通りになるのだったら、ハーレイは、「まだまだ、魂だけだよ」と。


 もしも、再び出会えたハーレイが、肉体を持っていなかったら。
 生まれ変わる前で、魂だけだったなら、どんな出会いになるのだろうか。
(…聖痕なんかは、出ないだろうし…)
 ある日、突然、ハーレイが現れるのかもしれない。
 魂だけだし、思念体のような姿で、この部屋にでも。
(探しましたよ、って…)
 ハーレイに呼び掛けられる声を待たずに、記憶が戻って来るのだと思う。
 現れた人が、誰なのか。
 どんなに会いたい人だったのかも、会えるとは思っていなかったことも。
(…きっと、涙がポロポロ出ちゃって…)
 ハーレイに縋り付きたくなるだろうけれど、生憎と、魂だけだから…。
(すり抜けちゃって、触れなくって…)
 懐かしい声も、耳で聞き取ることは出来ない。
 今の生では、もう補聴器は要らないのに。
 自分の鼓膜で、ハーレイの声を受け止めることが出来るのに。
(…残念だけど…)
 うんとサイオンが不器用な自分が、「ハーレイ」の姿を見られるだけでも奇跡だろう。
 思念の声を聞き取れることも、神様に感謝しなくては。
(…前のぼくなら、そんなの、朝飯前なんだけどね…)
 今のぼくだと、ホントに不器用なんだから、と可笑しくなる。
 「きっと、ハーレイも笑うよね」と。
 不器用になってしまった恋人、それが「ソルジャー・ブルー」だなんて、と。
(…だけど、笑われちゃったって…)
 会えただけで幸せなんだから、と「ハーレイ」との再会に思いを馳せる。
 「魂だけでも、嬉しいよね」と。
 ハーレイは、どんな姿だろうかと、「やっぱり、キャプテンの制服だよね?」と。
(…だって、ハーレイ、生まれ変わっていないんだから…)
 今の時代の服を着ているわけがない。
 キャプテンだった頃と全く同じに、濃い緑色だったマントまで着けて。


 ついでに、言葉遣いの方も、当時と変わっていないのだろう。
(敬語のままで、きっとソルジャー・ブルー向け…)
 なんだか色々と違うみたい、と思う新鮮な出会い。
 今の自分が教室で再会した「ハーレイ」とは違うようだと、「面白いかも」と。
 十四歳にしかならないチビに向かって、律義に敬語で話すハーレイ。
 「あちこち探したのですよ」と、「会えて良かった」と。
 前のハーレイは、ずっと敬語を使っていたから、その通りに。
(…敬語で話さなくていいよ、って言ったって…)
 そう簡単には直りそうにもない敬語。
 いくら相手がチビになっても、十四歳の子供でも。
(なんだか、くすぐったい感じ…)
 ハーレイの方が、うんと年上なのに、と魂の年齢を数えてみる。
 時の彼方での年に加えて、今の時代までの長い長い時間。
 それを加えた分まであるのに、チビに敬語で話さなくても、と。
(だけど、ハーレイなんだしね?)
 直らないかも、とクスクス笑った。
 「いつまで経っても、敬語で話し続けるんだよ」と、「習慣になっていますから、って」と。
(…敬語で喋って、キャプテンの服で…)
 そういうハーレイが側にいる日々。
 魂だけの姿なのだし、他の人には見えないけれど。
(…何処に行くのも、ハーレイと一緒…)
 学校にだって、魂だけのハーレイと一緒に出掛けてゆく。
 家からバス停までを歩いて、路線バスに二人で乗り込んで。
(バスの中でも、思念でお喋り…)
 ハーレイとなら大丈夫、と自分の思念の不器用さは心配していない。
 魂だけのハーレイだったら、ちゃんと「ブルー」の思念を捉えてくれるだろう。
 不器用になったブルーにも届く、思念を紡いでくれるのだから。
(初めて学校に一緒に行く日は、ガイドさんみたいになっちゃいそう!)
 あそこに見える建物はね、などと説明して。
 お店や公園、窓から見えるものを次々、初めて眺めるハーレイに教えて。


 そうやって学校に辿り着いても、観光ガイドは続くのだろう。
 グラウンドや中庭、今の自分の教室がある校舎など。
(友達に会ったら、お喋り、中断しちゃうけど…)
 ハーレイは笑顔で待っていてくれて、授業の間は、まるで参観日の保護者みたいに…。
(教室の一番後ろに立って、授業を眺めてるんだよね?)
 今の時代は、どんな授業をしているのかと、興味津々で。
 SD体制が無くなった世界で、他の子供と変わらない暮らしをする恋人を。
(ハーレイに、いいトコ、見せなくっちゃ…!)
 うんと張り切って、手を挙げて、それから質問だって。
 先生に褒めて貰えるように、いつも以上に頑張って。
(…お昼休みになったら、食堂…)
 友達と出掛けてゆくのだけれども、ハーレイも一緒。
 ランチプレートは、前の自分たちの頃のと、大して変わっていないから…。
(ぼく、食堂では、注文したことないけれど…)
 注文するなら、うどんか蕎麦か、ラーメンだろうか。
 どれも、ハーレイは知らないから。
 前の自分たちが生きた時代は、麺と言ったら、パスタだったから。
(…どうせだったら、天麩羅うどん?)
 天麩羅も無かった時代だもんね、と遥かな時の彼方を思う。
 多様な文化を消してしまった、機械が統治していた世界。
(これは、日本のフライなんだよ、って…)
 元は厨房出身だった、ハーレイに指差して教えてあげたい。
 友達に変に思われないよう、注意しながら。
 「その内、ママが作るだろうから、作り方は、その時、見るといいよ」と。
(…ハーレイ、それまで我慢出来るかな?)
 食堂の厨房を見に行っちゃいそう、と思わないでもない。
 研究熱心なキャプテンだったし、厨房時代も、あれこれと試作していたから。
 天麩羅の作り方にしたって、知りたくなったら、頑張りそうで。


(…ふふっ…)
 魂だけのハーレイでも、充分、幸せだよね、と笑みが零れる。
 触れ合えなくても、キスさえ贈って貰えなくても。
(…魂だけだったなら、ぼくにキスしてくれなくっても…)
 どうせ元から、触れないんだし…、と納得出来そう。
 守護天使みたいに側にいるだけ、そういうハーレイ。
(何処に行くにも、二人一緒で…)
 他の人には見えないだけで、ハーレイは側にいてくれる。
 どんな時でも、何があっても、恋人の「ブルー」を気遣って。
 熱が出て寝込んでしまっていたって、ベッドの側で見守ってくれて。
(……うんと幸せ……)
 それでもいいや、と思ったけれど。
 ちゃんとハーレイに出会えたのだし、幸せな日々、と考えたけれど…。
(…ちょっと待ってよ?)
 ハーレイと再会出来たからには、いずれハーレイも生まれ変わって来るのだろう。
 同じ青い地球の上に生まれて、ブルーと暮らしてゆくために。
 時の彼方で二人で描いた、幾つもの夢を叶えるために。
(…前のぼくとハーレイの年の差の分、時が過ぎたら…)
 ハーレイは微笑んで、お別れを告げに来ることになる。
 「少し待っていて下さいね」と。
 「もうすぐ、生まれ変わりますから」と、「急いで育って、直ぐにあなたを迎えに来ます」と。
(…そう言われたって、直ぐじゃないから…!)
 一年や二年じゃないんだから、と背中がたちまち冷たくなる。
 「ぼくは何年待てばいいの」と、「独りぼっちになっちゃうじゃない!」と。


(…ハーレイが、ちゃんと育って迎えに来るまで…)
 待つなんて、とても出来そうにない。
 毎日、寂しくて、泣いて、泣きじゃくって、辛い日々が続くに決まっている。
 「戻って来るよ」と分かっていたって、「また会えるから」と、確信していたって。
(…ハーレイが、魂だけだったなら…)
 そうなっちゃいそう、と思うものだから、そんな出会いはしたくない。
 魂だけのハーレイと出会えば、楽しい日々を送れそうでも。
 今より新鮮な出会いだとしても、その後に来るのは、長く待たされる日々なのだから…。



            魂だけだったなら・了


※再会したハーレイが魂だけの存在だったら、と想像してみたブルー君。面白いかも、と。
 楽しくて幸せそうですけれど、ハーレイが生まれ変わって来るまでが大変。辛すぎますよねv








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(今日は会い損なっちまったが…)
 ちゃんと再会出来たんだよな、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(…まさに運命の恋人ってヤツだ)
 すっかりチビになっちまったが、と少し可笑しくなる。
 前の生で愛した愛おしい人は、生まれ変わって戻って来てくれた。
 遠く遥かな時の彼方で別れた時には、絶望だけしか残らなかったのに。
(……俺が死んだら、会えるだろうとは思ったが……)
 その日は、見えはしなかった。
 他ならぬブルーが遺した言葉が、「ハーレイ」の命を縛ったから。
 白いシャングリラが地球に着くまで、ジョミーを支えてやってくれ、と。
(お蔭で、俺は生ける屍でしかなくなって…)
 ただ地球だけを目指したけれども、旅路の果てで、地球の地の底で命尽きた後。
(あいつに会えたか、とんと記憶が無いんだよなあ…)
 知ってるのは今のあいつだけだ、と苦笑する。
 忘れもしない五月の三日に、小さなブルーと再会した。
 今の学校に赴任して来て、初めて入ったブルーのクラスの教室で。
(其処で記憶が戻ったわけだが、それまで、どうしていたんだろうな?)
 俺もあいつも、と全く分からない、地球に生まれて来るまでの時間。
 ブルーの方が二十四歳も年下なのだし、二十四年間、ブルーは何処かで…。
(…生まれ変わるのを待っていたってことになるのか?)
 独りぼっちで、と思う一方、「違うだろうな」という気もする。
 聖痕という奇跡を起こした神なら、二十四年も一瞬の内に飛び越えさせる筈だ、と。
(そうでなければ、あいつが寂しすぎるってな)
 生まれ変わる前なら、記憶も前の通りだろうし、と大きく頷く。
 先に生まれて行った「ハーレイ」、その魂を見送った後が、寂しいだろう、と。
 運命の恋人同士なのだし、それまで一緒にいただろうから。
 何処にいたかは分からなくても、片時も離れたりはしないで。


(…二十四年も、独りぼっちで待つのはなあ…)
 いくらなんでも辛いじゃないか、と白いシャングリラの頃を思い出す。
 前のブルーを失くした後に、孤独の中で生きた歳月。
 途轍もなく長く感じたけれども、二十四年も生きてはいない。
 その前に船は地球に辿り着き、自分の命も終わったから。
(生まれ変われば、俺に会えると分かってたって…)
 二十四年だぞ、と指を折ってみる。
 両手の指では足りやしないと、足の指を足しても、まだ足りない、と。
(もしも、あいつが待ってたんなら…)
 寂しすぎるぞ、と思ったはずみに、考えたこと。
 「あいつが、魂だけだったら?」と。
 この地球で再会出来たブルーが、魂だけの姿だったなら、と。
(……今の年の差だと、魂だけのあいつと俺が出会うのは……)
 ずいぶんと前になっちまうから、と「今」とは切り離すことにした。
 今のブルーは十四歳だし、母の胎内に宿ったのは十五年前になる。
 それまで「ハーレイ」を見ていたとしても、その頃の「ハーレイ」はと言えば…。
(十五年前なら、辛うじて新米教師なんだが…)
 もっと前だと学生時代で、更に前だと悪ガキだった時代まである。
 そんな時代に「ブルー」と会っても、なんだかきまりが悪い気がするし、それは駄目だ、と。
(…今、ってことで考えるかな)
 魂だけのあいつに会うのは、と決めた設定。
 こうして書斎にいる時にでも、「ブルー」がヒョイと現れるんだ、と。
 魂だけの姿なのだし、今のようなチビのブルーではない。
 メギドに向かって飛び去った時と、何処も変わっていない「ブルー」。
 あの日のままの、気高く美しい姿だろう、と。
(…キースに撃たれた傷とか、血とかも…)
 すっかりと消えて、生きていた時の姿そのまま。
 そういう「ブルー」が来るのだろうと、「きっと微笑んでいるんだろうな」と。


 生まれ変わって来たチビのブルーは、心に傷を抱えている。
 メギドで味わった深い絶望、その時の記憶が癒えないままで。
(…右手が冷たくなった時には…)
 それを思い出して苦しむけれども、魂だけの「ブルー」の方は、深い傷など…。
(俺の前にヒョイと出て来る前に、心の底に埋めてしまって…)
 まるで何事も無かったかのように、「ハーレイ!」と微笑み掛けるのだろう。
 「やっと会えた」と、「ずっと君に会いたかったんだ」と。
 「君は青い地球に生まれたんだね」と、「地球の暮らしは気に入ってるかい?」と。
(…きっと、そうだな…)
 右手のことなど、言いやしないな、と確信に満ちた思いがある。
 前のブルーの魂だったら、そうなるだろう、と。
 「あれから何があったんだ?」と問い掛けてみても、「知ってるだろう?」と笑みが返るだけ。
 「ぼくがメギドを沈めたんだよ」と、「ちょっと大変だったけれどね」と。
(…そう聞かされたら、俺も安心しちまって…)
 前のブルーを見舞った悲劇に、気付くことさえ無いだろう。
 「ブルー」はメギドを道連れに逝って、其処から「此処」へ飛んで来たのだ、と考えて。
 魂だけでも「やっと会えた」と、心が喜びに満たされて。
(俺の記憶もすっかり戻って、もう幸せで…)
 愛おしい人を眺め回して、何度も瞬きすることだろう。
 「夢じゃないよな」と、「ブルーだよな?」と。
 こうして目の前に現れたからには、これからは、ずっと…。
(…ブルーと一緒で、うんと幸せな毎日が…)
 訪れるのだ、と嬉しくて堪らない気持ちで一杯。
 たとえ魂だけであろうと、「ブルー」だから。
 手を伸ばしても触れられなくても、まるで全く構いはしない。
 「ブルー」が其処にいてくれるなら。
 呼べばきちんと声が返って、ちゃんと話が出来るなら。
 「ブルー」の声が思念だろうと、ほんの些細なことでしかない。
 また巡り会えて、ブルーと過ごしてゆけるなら。
 愛おしい人の姿を見ながら、この地球で生きてゆけるのならば。


(……そうだよなあ……)
 魂でも構いやしないんだ、と改めて思う。
 前の生から愛した「ブルー」に、生まれ変わって再び出会えるのなら。
 「ブルー」の方は魂だけでも、間違いなく「ブルー」なのだから。
(…俺が気を付けないといけない点は、だ…)
 他の人には見えないだろう、ブルーの姿。
 どんなにブルーが愛おしかろうと、人の目がある所では…。
(話し掛けるなら、きちんと思念の方にして…)
 肉声は使わないで話して、視線を向けるのも、不審がられないよう注意が必要。
 でないと、心配されるから。
 「気は確かか?」とまでは言われなくても、何処か変だと感づかれて。
(他のヤツらにも見えるんだったら、安心なんだが…)
 それはそれで厄介なことになるんだ、と分かっている。
 前のブルーは知られ過ぎていて、誰が見たって一目で「ソルジャー・ブルー」だと気付く。
 どうして「ソルジャー・ブルー」が「ハーレイ」の側にいるのか、誰でも気になる。
(…そうなっちまうと、前の俺たちの二の舞で…)
 恋人同士だと知られないよう、あれこれと気を配らねば。
 今の自分は「キャプテン・ハーレイ」に瓜二つだから、そっちの方も問題だろう。
 「やっぱり生まれ変わりなんだな」と、誰もが自然に考えるから。
 そうなってくると、気ままな今の暮らしは出来ない。
 取材に追われて、ついでに「ブルー」も追い掛け回されることになる。
 伝説にも等しい大英雄が、この世に現れたのだから。
 魂だけの姿とはいえ、出来るものなら取材をしようと、大勢の記者が追い掛ける。
 二人きりでの平穏な日々は、得られはしない。
 何処へ行っても、記者やカメラに追い回されて。
(…シャングリラの時代以上に、大変な苦労になっちまうぞ…)
 恋人同士だと隠すのはな、と竦めた肩。
 きっと、そうなってしまわないよう、「ブルー」の魂は、「ハーレイ」にしか見えないだろう。
 「ハーレイ」の目にだけ映る恋人、声も「ハーレイ」にしか聞こえない。
 「そういう姿で現れるんだ」と、「そうに違いない」と。


 自分にしか見えない、声も聞こえはしない「ブルー」。
 けれど、最高に幸せだろう。
 愛おしい人が帰って来たのだから。
 二度と離れず、二人で生きてゆけるのだから。
(…あいつの方は、生きちゃいないんだがな)
 だが、そんなのは細かいことだ、と心から思う。
 「ブルー」が側にいてくれる日々は、幸せに満ちているだろうから。
 触れることさえ出来はしなくても、「ブルー」」は確かに「居る」のだから。
(毎日、いろんなことを話して、いろんな所に連れてってやって…)
 前のブルーが焦がれ続けた、青い水の星を案内せねば。
 最初は海へのドライブだろうか、魂だけのブルーを助手席に乗せて。
 海への道でも、様々な場所に立ち寄って…。
(こんな食べ物があるんだぞ、と…)
 今ならではの名物料理や菓子を教えて、「食うか?」と訊く。
 魂だけの姿であっても、食べられるだろうと思うから。
(供え物とかがあるんだからな?)
 そして美味そうに食うんだろうな、と想像しながら傾けるコーヒーのカップ。
 「あいつはコーヒーは苦手だったが、地球のコーヒーなら、飲みたがるだろう」と。
(…苦い所は変わらないね、と顔を顰めるだろうがな)
 うん、充分に幸せだよな、と笑みが零れる「ブルー」との暮らし。
 「魂だけでも、俺は構わん」と、「うんと幸せな暮らしじゃないか」と。


(…そういう暮らしに慣れちまったら…)
 ある日、ブルーが「もうじき、生まれ変わるんだ」と言おうものなら、どうなることか。
 「急いで育って戻って来るから、十四年ほど待っていてくれる?」と。
(…おいおいおい…)
 今更、置いて行かないでくれ、と慌てる自分が目に見えるよう。
 そして「ブルー」が行ってしまったら、「十四年だ」と分かっていたって…。
(泣きの涙で、毎日、ブルーに会いたくて…)
 寂しいなんてもんじゃないぞ、と思うものだから、「ブルー」が魂だけだったら…。
(そのまま、ずっと俺の側にいてくれた方が…)
 いいのかもな、という気がする。
 きっと、自分は「待てない」から。
 生まれ変わったブルーと再び出会える時まで、泣かずに待てるわけがないから…。



            魂だけだったら・了


※地球に生まれた自分の前に、魂だけのブルーが現れたなら、と想像してみたハーレイ先生。
 幸せな日々を送れそうですけど、「生まれ変わって来るから、待っていて」は困りますよねv









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