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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧

(前とちっとも変わってないよね…)
 ホントに同じ、と小さなブルーが思い浮かべたハーレイの顔。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドの端にチョコンと座って。
 今日も見詰めた鳶色の瞳。
 前のハーレイとそっくり同じで、何処も変わっていはしない。
 アルタミラで初めて出会った時から、ずっと変わらない優しい瞳。
 たまに怒りで色を変えても、直ぐに穏やかな瞳に戻った。
 誰もが安心するような色に。
 この鳶色の瞳さえあれば、何も心配要らないのだと。
(ハーレイ、いつでも落ち着いていて…)
 怒る時にも、ハーレイ自身のために怒りはしなかった。
 必ず何か理由があっての怒りだったし、そうすることが船の仲間のためになる怒り。
 仲間たちもそれが分かっていたから、ハーレイの怒りはよく効いた。
 感情が先に立ちやすいゼルや、小言ばかりのエラとは違うものだから。
(うんと怒って、叱り付けたら…)
 サッと切り替えていたハーレイ。
 いつもの穏やかな瞳の色に。
 温かい鳶色の瞳の色に。
 怒鳴られた者も、叱られた者も、その鳶色に癒された。
 「すみませんでした」と素直に謝り、ハーレイと同じに穏やかな顔。
 不平や不満を抱えたままではなかった、叱られた者たち。
 時には、そのままハーレイと話し込んだりもして。
 楽しげに笑って、相槌を打って。


 前のハーレイの鳶色の瞳。
 キャプテンに打ってつけだった色の瞳だと思う、あの鳶色は。
 誰が眺めても優しい鳶色、温かな印象を抱かせる色。
 その持ち主の心そのままに、心を瞳に映し出したように。
 いつも穏やかな光を湛えて、時には怒りに燃えたりもして。
(怒った時にも、あの色だったから…)
 無駄に怯えることはなかった仲間たち。
 何故ハーレイが怒っているのか、それを考える余裕があった。
 怖くてブルブル震えていたなら、考えは上手く纏まらない。
 「怒らせた」という事実だけで頭の中はパニック、混乱して回らない思考。
 そうなってしまえば、逃げ口上だけを並べ立てるか、食ってかかってゆくことになるか。
 いずれにしたって、ロクな結果を招きはしない。
 ハーレイの怒りは上手く伝わらず、叱った言葉は意味を持たずに砕けてしまう。
 叱られ、怒鳴られた者たちの中で。
 「自分は叱られている」という分かりやすい事実、それだけが先に立ってしまって。
 どうすれば其処から逃れられるか、そのことばかりに気を取られて。
 「すみません」と口では謝っていても、きっと頭では分かっていない。
 どうして自分が詫びているのか、自分の何が悪かったのかは。
(…そういう風になっちゃうもんね?)
 相手を怖いと思っていれば。
 怖い人だと恐れていたなら、それしか考えられなくなるから。
 早く其処から逃れたくて。
 一刻も早く逃げ出したいから、自分が逃げる方法ばかりを。


 そうはならなかった、前のハーレイの鳶色の瞳。
 どんなに厳しく睨み付けても、瞳の色が冷たくなっても、鳶色だから。
 温かい印象を与える鳶色、怒りに燃えても、相手を委縮させたりはしない。
 ハーレイ自身に、そういう意図があったとしたなら別だけれども。
(視線だけで睨み殺してやる、ってことになったら、怖いよね…?)
 きっと、とブルッと震わせた肩。
 今のハーレイなら出来るのだろう、と。
 キャプテンではない、今のハーレイ。
 ただの古典の教師のハーレイ、生徒を叱る時には叱る。
 「こらあっ!」と怒鳴って、教科書ではない本などを没収していることも。
 そうは言っても、授業中に見せるハーレイの怒りは昔と同じ。
 明らかに生徒の方が悪くて、シャングリラで叱られていた仲間たちと同じ。
 鳶色の瞳は恐ろしい色を湛えはしなくて、生徒は怯え上がりはしない。
 「すみませんでした」と謝るとは限らないけれど。
 シャングリラの頃と今とは違って、謝らなくても困るのは叱られた生徒だけだから。
 他の生徒に迷惑はかからず、一人だけの問題なのだから。
 ウッカリ素直に謝り損ねて、後で困っている子も多い。
 「あの本、返して貰えるかな?」だとか、「今度の成績、大丈夫かな…」だとか。
 命が懸かったシャングリラとは違う、教室ならではの愉快な結末。
 鳶色の瞳は今も変わらず、「分かっているか?」と尋ねているのだろうに。
 何故叱られたか分かっているかと、分かっているなら謝るんだぞ、と。
(ハーレイ、今でもキャプテンの頃とおんなじなのに…)
 教室だからこそ、叱られた生徒が迎えてしまう悲惨な結末。
 鳶色の瞳が優しい色を帯びているから、ついつい、ウッカリ。
 「先生は本気で怒らないだろう」と高を括って、大切な本を没収されたりしてしまうオチ。


 今のハーレイはそうだけれども、教室ではそんな具合だけれど。
 他へ行ったら、前とは違った恐ろしい目も出来るのだろう。
 鳶色の瞳は変わらないのに、見た者が心底、怯え上がるような。
 とてもハーレイに勝てはしないと、下手をしたなら殺されるかも、と後ずさるような。
(…水泳は、そうでもないだろうけど…)
 幾つも並んだコースを泳いで勝負するのだし、対戦相手と向き合いはしない。
 向き合う相手は自分自身で、自分の限界との戦い。
 鳶色の瞳が睨む先には、きっとハーレイ自身の心。
 力の限りを尽くして泳げと、それが出来ないようでは駄目だと。
 けれど、もう一つ、ハーレイが得意な柔道の方。
 そちらは試合の相手がいる。
 戦う相手は別の誰かで、油断したなら負けるだけ。
(…きっと、最初が肝心だよね?)
 負けはしないぞ、と対戦相手にぶつける視線。
 試合のためにと向かい合った時には、勝負はついているかもしれない。
 相手の視線で怯んでしまえば、実力を出せはしないから。
 鋭い視線に飲まれたら最後、自分のペースに持ち込めないから。
(ハーレイの凄く怖い目が見られそう…)
 対戦相手になったなら。
 柔道で勝負を挑みに行ったら、前の自分が知らない瞳に出会うのだろう。
 同じ鳶色でも、穏やかさの欠片も無い瞳。
 睨まれただけでも射殺されそうな、それは恐ろしい色の瞳に。


(なんだか不思議…)
 おんなじ鳶色なんだけどな、と今のハーレイの瞳を思う。
 前のハーレイと変わらないのに、違った色も見られるらしい。
 キャプテンだった頃に見せていたなら、仲間たちが震え上がっていただろう色。
 それで相手を睨むのだから、今の時代は面白い。
(今はハーレイと、ぼくが逆様…?)
 立場が逆になっちゃったかも、とクスクス零れてしまった笑い。
 今の自分はチビの子供で、とてもソルジャーにはなれないけれど。
 戦士はとても無理だけれども、今のハーレイは柔道だったら戦士になれる。
 前のハーレイだった頃には見せなかったような、恐ろしい色の瞳の戦士。
 同じ鳶色の瞳のままでも、相手が戦意を失うほどの。
(…そういう目をしたハーレイだったら…)
 格納庫でキースといい勝負かも、と可笑しくなった。
 メギドはともかく、シャングリラから逃げようとしていたキース相手なら。
 「何処へ行くんだ?」と呼び止めただけで、もう充分な抑止力。
 他の仲間が駆け付けるまで、続いたかもしれない睨み合い。
 アイスブルーの瞳のキースと、鳶色の瞳のハーレイと。
 どちらも譲らず、火花がバチバチと飛び散りそうな。
 あのキースでさえ、「ただ者ではない」と考えそうなキャプテン・ハーレイ。
 残念ながら、前のハーレイだった頃には、無理な瞳の色なのだけれど。
 今のハーレイも、柔道の試合に臨んだ時しか、怖い瞳はしないのだけれど。


 なんとも不思議な鳶色の瞳。
 前のハーレイと今のハーレイ、姿はもちろん、瞳もそっくり同じまま。
 少しも変わっていないというのに、違う色にもなるらしい瞳。
 相手を射殺せそうな瞳が出来るハーレイ、すっかり平和な今の時代に。
 何処にも敵は隠れていなくて、命の心配も要らない時代。
 青く蘇った地球に来たのに、ハーレイは怖い瞳が出来る。
 鳶色の瞳は変わらないのに、前の自分が出会ったキースに負けないような。
 誰が見たって冷たい印象、アイスブルーの瞳をしていたメンバーズにも負けないような。
(ハーレイは変わっていないんだけどね?)
 姿も中身も、いつも穏やかだった瞳も。
 そっくりそのまま今のハーレイになっているのに、場面によって切り替わる。
 負けるわけにはいかない柔道の試合、それに挑むだろう時は。
 キャプテン・ハーレイは決して見せなかった瞳、睨むだけで相手が怯える瞳。
(それだけ平和になったってこと…)
 鳶色の瞳が怖い光を帯びていたって、何も不都合はない時代。
 ハーレイが試合に勝つというだけ、輝かしい戦果を挙げるだけ。
(怖い目をしたハーレイ、見たいな…)
 それには大きく育たないと、と夢を見る。
 柔道の試合を見に行きたければ、前の自分と同じ背丈が必要だから。
 きっといつかは、怖い瞳のハーレイの試合を応援しよう。
 前の自分が知らない瞳。
 睨んだだけでも相手が竦んで動けなくなる、鳶色の瞳をしたハーレイを…。

 

       ハーレイの瞳・了


※ブルー君が思うに、ハーレイ先生の瞳はキャプテン・ハーレイの瞳と同じ。
 けれど、柔道の試合の時には違うようです。ブルー君でなくても、見たいですよねv



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(…今も昔も赤なんだがな?)
 あいつの瞳、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
 コーヒー片手に、夜の書斎で。
 出会った時から赤かったっけな、と。
 青く蘇った地球に生まれて来る前、遠く遥かな時の彼方で出会ったブルー。
 アルタミラがメギドに滅ぼされた日に。
 空が炎の色だったせいか、地面まで燃えていたせいか。
 赤い瞳を見ても驚きは無くて、そういうものだと思っただけ。
 ブルーの瞳はこういう色だ、と。
(脱出騒ぎが落ち着いた後も…)
 まじまじと見詰めはしなかった。
 何度も瞳を覗き込んでは、ブルーと向き合っていたけれど。
 赤い瞳を見詰めていたのは、ブルーの心を見ていたから。
 心を読もうとするのとは違う、瞳は心を映し出す鏡。
 それを通して心を知ろうと、じっと覗いていただけのこと。
(…あいつ、我慢をするもんだから…)
 もっと我儘を言ってもいいのに、ブルーはそれをしなかったから。
 自分のことより船の仲間の方が優先、黙って我慢をしてしまうから。
 ブルーが何か隠していないか、身体や心に苦痛は無いか。
 それを探りに瞳を覗いた、「お前、隠していないだろうな?」と。


 何度も覗いた、ブルーの瞳。
 ブルーの心を映し出す鏡。
 赤い瞳を持った仲間は、他に一人もいなかった。
 珍しい色だと誰に聞いたか、ヒルマンか、それともエラだったのか。
 ブルーの身体には色素が無いから、瞳の色は赤いのだと。
 瞳の奥を流れる血の色が透けて、ああいう赤になるのだと。
(…アルビノなあ…)
 今の自分も知っている言葉、色素を失くしてしまった個体。
 鳥や動物にも起こる現象、真っ白な羽根や毛皮が特徴。
 けれど、それだけでは決め手にならない。
 アルビノとは別に、単に白くなる白化というのがあるものだから。
 そちらは色素が減少するだけ、真っ白になった白変種。
 瞳の色まで赤くはならない、黒い瞳の動物だったら黒いまま。
 つまりアルビノの特徴は瞳、瞳の色でそれと見分ける。
 赤かったならば、色素を失くしてしまったアルビノ。
 本来の色なら、白変種。


 ブルーの瞳は今も昔も変わらずに赤で、アルビノの瞳。
 ただし、今のは生まれつき。
 前のブルーは、成人検査が引き金になって色素を失くした。
(なんだって、そうなっちまったんだか…)
 よほど抵抗が大きかったのか、成人検査に対する心の。
 記憶を消そうとしていた機械に、激しく反発したのだろうか。
 身体から色が抜け落ちるほどに、瞳が血の赤になってしまうほどに。
(…俺だって、逆らった筈なんだがな?)
 ゼルもブラウも、ヒルマンも、エラも。
 他の仲間も同じに逆らい、ミュウの力が目覚めた筈。
 ハタと気付けば、それまでの自分は何処にもいなくなっていた。
 記憶をすっかり失くしてしまった、ミュウになってしまった自分がいただけ。
 それでも色は失くさなかったし、瞳の色は変わらなかった。
 ブルーの赤い瞳を見る度、ブルーが受けた苦痛を思った。
 色素が抜け落ちるほどに辛かったのかと、苦しい思いをしたのかと。
 ブルー自身は「そうでもないよ」と微笑んだけれど。
 「ぼくも、みんなと同じだったよ」と。
 たまたまアルビノになっただけだと、理由は分からないけれど、と。


(あの色なあ…)
 今も謎だな、と前のブルーの瞳を思う。
 長い年月を共に暮らす内に、いつしか惹かれていた瞳。
 この世で一番綺麗な赤だ、と何度も見詰めて、見惚れた瞳。
 赤く美しく輝く瞳を覗き込んだら、其処に映っていた自分の姿。
 それに気付いて笑みを浮かべては、前のブルーに贈っていたキス。
 キスを贈る度に、赤い瞳は瞼に隠れてしまったけれど。
 銀色の睫毛が伏せられてしまって、赤い瞳を隠したけれど。
(…あの赤が俺には、何よりも綺麗だったんだ…)
 シャングリラにあったどんな赤より、トォニィたちが生まれた星より。
 赤いナスカを、「赤き乙女」とフィシスは呼んだ。
 あの赤い星に、ミュウだけの名を与える時に。
 ナスカに魅せられた若いミュウたちが、「ルビーのようだ」と讃えた赤。
(…ルビーなんぞは、誰も見たことが無かったんだが…)
 ミュウの世界に宝石は無くて、誰も持ってはいなかった。
 赤い宝石、ルビーは知識を持っていただけ。
 そういう色をした宝石があると、赤く美しく輝くらしいと。
(…あいつの瞳をルビーのようだと思ったことは…)
 多分、一度も無いんだろうな、とクッと笑った。
 ルビーよりも先に、ブルーの瞳を知ったから。
 美しく赤く輝く瞳を、あの赤い色を。
 ルビーが後からやって来たから、前の自分はルビーも覚えていなかったから。


 赤い宝石を知らない頃から、綺麗だと思って見ていた瞳。
 ブルーと恋人同士になるよりも前から、赤い瞳が好きだった。
 強い意志を宿して輝く瞳。
 苦しみや辛さを隠していてさえ、その美しさを失わない赤。
 何度も何度も覗き込んでは、ブルーの心を知ろうとした。
 何か悲しみを抱えていないか、我慢しすぎていはしないかと。
(…そのせいで捕まっちまった、ってこともないんだが…)
 赤い瞳に、その美しさに。
 囚われたわけではないのだと思う、強いて言うなら一目惚れ。
 赤い瞳を変だと思わず、「こいつの瞳はこの色なんだ」と眺めた時から。
 ただの一度も、奇妙に思いはしなかったから。
 血の色を透かしているという赤、その色の瞳は「ブルーの瞳」。
 他に一人もいない色でも、不思議だとさえ思わなかった。
 なんと綺麗な瞳なのかと、いつも見詰めていただけで。
 ブルーに似合うと思っただけで。


 元の瞳の色は違った、と前のブルーに聞かされた時。
 成人検査でこうなったのだ、と辛うじて残った微かな記憶を見せられた時。
 ブルーを襲った苦痛を思った、色素を失うほどだったのか、と。
 他の者たちは誰も失くしていないのに。
 自分はもちろん、ヒルマンもエラも、ブラウもゼルも。
(…あいつが特別、苦しかったに違いないと…)
 思ったのだった、前の自分は。
 記憶を失くしたくない気持ちが強くて、機械と激しく戦ったのだと。
 それでも記憶を消されてしまって、ショックで失くしてしまった色素。
 水色の瞳は赤く変わって、金色の髪は銀になったと。
(そう思い込んだままで、三百年で…)
 白い鯨に姿を変えたシャングリラ。
 隠れ住んでいた雲海の星で、ブルーが見付けた次のソルジャー。
 緑の瞳に金髪のジョミー、彼はブルーと同じ目に遭った。
 一度はシャングリラに来たというのに、両親の家に帰ろうとして。
 ユニバーサルに捕まり、心を機械に掻き回されて。
(…あの時の爆発は、ブルー以上で…)
 とんでもなかった、ジョミーの強いサイオンの目覚め。
 成人検査用の機械を壊したブルーの比ではなかった、ジョミーの爆発。
 ユニバーサルの建物は壊れ、ジョミーは空へと飛び出して行った。
 成層圏まで駆け上がったほどの勢いで。
(それだけやっても、ジョミーは元の姿で戻って…)
 アルビノになってはいなかったジョミー。
 あれで自分の仮説は崩れた、ブルーの瞳が赤くなった理由。
 苦痛のせいではなかったらしいと、それならジョミーもアルビノだから、と。


(振り出しに戻る、というヤツで…)
 謎になってしまった、ブルーの瞳。
 どうして美しい赤をしているのか、その色の瞳になったのか。
 ブルー自身にも理由は分かっていなかった上に、前の自分の仮説も崩れた。
(…あいつが我慢強かっただけで、苦しかったんだろうと思っていたのに…)
 同じ目に遭っても、色素を失くしはしなかったジョミー。
 緑色の瞳でジョミーは戻って、髪も明るい金髪のまま。
(あれですっかり分からなくなって…)
 もういいだろうと思ったのだった、あれはブルーの色なんだから、と。
 赤い瞳が美しかったら充分なのだと、理由は謎のままでもいいと。
 そうして、前のブルーは逝った。
 赤い瞳の謎は解かれないまま、たった一人でメギドへと飛んで。
 前の自分はブルーを失くして、白いシャングリラを地球まで運んで、其処で命尽きて…。
(もう一度、あいつに出会ったってな)
 チビなんだが、と頭に描いた今の小さなブルーの顔。
 愛くるしい顔に輝く瞳は、前の自分が出会った時と変わらずに赤。
 今度は生まれつきのアルビノ、瞳が赤い理由は明らか。
(…永遠の謎になっちまったなあ…)
 前のあいつの赤い瞳、と思うけれども、あの赤をまた手に入れたから。
 失くしたブルーは帰って来たから、謎のままでもいいだろう。
 何よりも綺麗だと前の自分が思った赤。
 美しく赤く輝く瞳は、小さなブルーの愛らしい顔に、前と同じにあるのだから…。

 

        ブルーの瞳・了


※前のブルーの瞳が赤かった理由は永遠の謎で、成人検査が引き金だとしか分からない模様。
 けれども、何よりも綺麗な赤だと思ったハーレイ。また取り戻せて良かったですよねv





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(一緒だったと思うんだけど…)
 ずっと一緒にいたと思うんだけど、と小さなブルーが思い浮かべた恋人の顔。
 お風呂上がりに、パジャマ姿で。
 ベッドの端にチョコンと腰を下ろして、ハーレイを想う。
 今は離れているけれど。
 ハーレイの家は何ブロックも離れた所で、一緒にはいられないのだけれど。
 前の自分が愛したハーレイ、今も愛しているハーレイ。
 遠く遥かな時の彼方で、二人一緒に暮らしていた。
 白い鯨で、ミュウの箱舟だった楽園、シャングリラと呼ばれていた船で。
 あの船で恋をして、長い年月をハーレイと過ごしていたけれど。
 いつか地球まで一緒に行こうと、夢を描いていたのだけれど。
(…ぼく、死んじゃった…)
 地球へは行けずに、赤いナスカが在った宇宙で。
 白いシャングリラが無事に地球へと旅立てるように、メギドを沈めて死んでしまった。
 ジルベスター星系の第八惑星、ジルベスター・エイトから近い所で。
 第七惑星のナスカからは遠く離れた所で。
 其処で自分の命は終わった、悲しみの中で。
 白い鯨は守れたけれども、大切なものを失ったから。
 最後まで持っていたいと願った、右の手にあったハーレイの温もり。
 撃たれた痛みでそれを失くして、独りぼっちになったから。
 もうハーレイには二度と会えないのだと、泣きじゃくりながら。
 死よりも恐ろしい絶望の中で、救いなど来ない悲しみの中で。


 けれども、今は地球にいる自分。
 前の自分が焦がれ続けた、青い地球の上に。
 ハーレイといつか行こうと夢見た、行けずに終わった水の星の上に。
 ふと気が付いたら、ハーレイと二人で地球に来ていた。
 前とそっくり同じ姿に生まれ変わって、また巡り会えた。
 自分は少々チビだったけれど。
 十四歳にしかならない子供で、ハーレイとキスも出来ないけれど。
 それでも再会出来た恋人、前の生から愛したハーレイ。
 死の星だった地球が蘇るほどの時が流れて、白いシャングリラが消え去った後に。
 前の自分たちが恋をした船、あの船がとっくに無くなった後に。
(…ホントに長すぎ…)
 巡り会えるまでに流れた時間。
 メギドで命尽きた時から、ハーレイと再会を遂げた日までに流れた時間。
 あまりにも長い歳月が経っていたから、最初の頃には不安になった。
 もしかしたら、と。
 こうして再会するよりも前は、別の人生があったのでは、と。
 自分もハーレイも別の人生、それを歩んでいたのではと。
 別の誰かに恋をして。
 結婚して同じ家で暮らして、子供も生まれていたかもしれない。
 かつて愛した人を忘れて、恋をしていた人を忘れて。
 自分が誰かも忘れてしまって、別の誰かと生きたのでは、と。


 何度も心配になったのだけれど、今では「違う」という気がする。
 この地球の上で巡り会う前も、きっとハーレイと一緒にいたと。
(…きっとそうだよ…)
 そう思うから、と浮かべた笑み。
 何の根拠も無いけれど。
 手掛かりになるような記憶も戻って来ないけれども、きっと一緒にいたのだと思う。
 何処かも分からない場所で。
 今の自分には思い出すことさえ叶わない場所で、二人、離れずにいたのだろうと。
 別の誰かと過ごす代わりに、別の人生を歩む代わりに。
 地球が蘇るほどの時を二人で、きっと片時も離れはせずに。
(…ハーレイがぼくを見付けてくれた?)
 それとも会いに来てくれたろうか、ハーレイの命が終わった時に。
 「此処にいたのか」と、別れた時と同じ姿で。
 キャプテンらしい丁寧な口調、それはすっかり捨ててしまって。
 なんとなく、そう思えるから。
 もうキャプテンではなくなったから、とゼルたちと話す口調になって。
 前の自分も、もうソルジャーではないのだから。
 死んでしまったら、ただのハーレイの恋人だから。
(うん、きっと…)
 そういうハーレイに出会えたのだろう、遠く遥かな時の彼方で。
 見付けてくれたか、会いに来てくれたか、きっとハーレイが自分の所に来てくれた。
 やっとキャプテンの務めが終わったと、これからは二人で過ごしてゆこうと。


(ハーレイと会えて、二人一緒で…)
 仲良く暮らしていたのだと思う、地球に生まれて来るまでは。
 きっと何処かで二人一緒に、それは幸せだったろう時を。
 自分も今のようなチビとは違って、前の自分のままだったろう。
 前の自分と同じ背丈で、キスだって交わせたのだろう。
(それに、本物の恋人同士…)
 キスよりも先のことだって、と考えた所でハタと気付いた。
 何処かの星に生まれ変わっていたならともかく、魂だけでいたのなら。
 ハーレイも自分も、身体を持たずにいたのなら…。
(…キスは出来るの?)
 どうなんだろう、と首を捻って考え込んだ。
 魂だけなら、思念体のようなものなのだろうか。
 前の自分は何度も身体を抜け出したけれど、思念体になっていたけれど。
(…あれだと、一応…)
 腰掛けたりは出来たと思う。
 二階の床に立っていたって、床を突き抜けて落ちてゆくことも無かった筈。
(思念体同士だったら、キス出来るよね…?)
 よし、と大きく頷いた。
 ハーレイとキスは出来た筈、と。
 お互い、身体は失くしていても。
 魂だけの姿でも。


 けれど、分からない、その先のこと。
 キスよりも先は無理かもしれない、身体を持っていないなら。
(…だって、服とか…)
 脱げるのかどうか、一度も試していなかったから。
 思念体になって身体を抜け出した時は、いつも、いつでもソルジャー・ブルー。
 ソルジャーの務めで抜け出したのだし、ソルジャーの衣装は着けておくもの。
 マントさえも外そうとしたことはなくて、襟元も緩めていなかった。
(…ひょっとして、無理?)
 抜け出して来た身体が着けている服、それはセットのものかもしれない。
 考えたことさえ無かったけれど。
(…元の身体が着てる間は、どう頑張っても無理だとか…?)
 どうもそういう気がしてくる。
 前の自分は、常にソルジャーの衣装を纏って抜け出したから。
 思念体で外へ出掛ける時には、いつもカッチリ纏っていたから。
(思い通りになるんだったら、着ていなくても…)
 大丈夫だろう、と思わないでもない。
 単に自分が几帳面だった、それだけのことかもしれないけれど。
 本当はお風呂から飛び出して行っても、ソルジャーの衣装は着られたのかもしれないけれど。
(…分かんないしね…?)
 前の自分が経験していないことは分からない。
 サイオンが不器用な今の自分は、ちょっと試しも出来ないから。
 思念体で身体を抜け出す感覚、それさえも掴めないのだから。


(…もしも服とか、着たままだったら…)
 キスしか交わせはしないだろう。
 その先のことは無理で、抱き合うことが精一杯。
(…魂だと、服はどうなってるわけ?)
 着ていないのなら望みはあるかも、と考えたけれど、相手は魂。
 キスはともかく、その先のことは、魂はしないものかもしれない。
 なにしろ身体が無いのだから。
 その先のことをしたいなどとは思いもしなくて、もしかしたら…。
(くっついているだけで充分だとか?)
 身体に隔てられないのだから、溶けてしまえるかもしれない。
 二人仲良くくっついていれば、もうそれだけで。
 お互いの姿は見えるとしたって、二人で一つなのかもしれない。
 身体を繋ごうとしなくても。
 手を握るだけで、キスをするだけで、溶け合ってしまえるものかもしれない。
 まるで一つの身体のように。
 心まで一つになったかのように、ハーレイは自分で、自分はハーレイ。
(…そうなのかも…)
 お互いに服を着ていたとしても、何の障害にもならない服。
 二人、溶け合ってしまうためには。
 繋ぎ合った手だとか、交わしたキスから、そのまま溶けてしまうためには。


 それって凄い、と思ったけれど。
 地球が蘇るほどの長い年月、ずっとハーレイと二人で一つだったのかも、と夢見るけれど。
(でも、何処で…?)
 それが何処だか分からない。
 キスのその先のことをしようとするより、深く繋がっていられたのかもしれない場所。
 二人、溶け合ったままでいられたのかもしれない場所。
(…分からないし、何も覚えていないし…)
 本当に二人、そうしていたかも分からないまま。
 魂だけで過ごしていたなら、どうなるか見当もつかないから。
 きっとこうだと考えただけで、思い出したわけではないのだから。
(…ずっと、くっついていたんだったら…)
 今の自分が置かれた状況、それがなんとも嘆かわしい。
 キスのその先のことは無理だし、キスさえも出来はしないのだから。
 ハーレイと深く溶け合いたくても、けして叶いはしないのだから。
(…チビだから、無理…)
 前の自分と同じ背丈に育つまで。
 その日が来るまでキスさえお預け、本物の恋人同士になれない自分。
(…どうしてチビになっちゃったわけ…?)
 悲しいけれども、前の自分が長い年月、ハーレイと二人で一つの時間を過ごしたのなら。
 溶け合ったままで、ずっと過ごしていたのなら…。


(…その時のツケ?)
 神様に言われたのかもしれない、「少しは待て」と。
 ずっと一緒にいただろうが、と。
(酷いんだけど…!)
 あんまりだけど、と思うけれども、これがツケなら仕方ない。
 長い長い時をハーレイと二人、一つに溶けていたのなら。
 くっついただけで溶けてしまえる幸せな時を、二人きりで過ごしていたのなら。
 其処が何処かは分からないけれど、きっと何処かで二人で一つ。
 そういう時間を二人でたっぷり過ごしたのなら、ツケが来たって仕方ないから…。

 

         一緒にいた所・了


※ブルー君が夢見る、前の自分がハーレイと一緒に過ごした所。二人で一つ、と。
 そういう風に過ごしていたなら、ツケが来たって諦めるしかないですねv





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(あいつと別々だった筈がないんだ…)
 きっと一緒にいた筈なんだ、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
 夜の書斎で、淹れたばかりの熱いコーヒーを飲みながら。
 愛用のマグカップに満たしたコーヒー、小さなブルーの苦手な飲み物。
 それを思って微笑んでいたら、前のブルーもくっついて来た。
 前のブルーもコーヒーは苦手だったから。
 「この飲み物の何処が美味しいんだい?」と何度も顔を顰めていたから。
 ソルジャー・ブルーと呼ばれたブルー。
 気高く美しかった恋人。
 その恋人は生まれ変わって、今の小さなブルーになった。
 十四歳にしかならないブルーに、コーヒーが苦手なチビのブルーに。
 遠く遥かな時の彼方で焦がれ続けた、青い地球の上で。
 前のブルーは行けずに終わった、母なる青い水の星の上で。
(…あの頃には何処にも無かったんだがな…)
 青く輝く水の星は。
 前のブルーが焦がれた星は。
 遠い昔にこの目で見たから知っている。
 あの時代の地球の真の姿を、死の星だったままの姿を。
 それを見ないで終わったブルーは、もしかしたら幸せだったのかもしれない。
 あんな星だと知っていたなら、悲しみの中で逝っただろうから。
 メギドを沈めて白いシャングリラを守り抜いても、夢の星は何処にも無いのだから。


 そうはならずに、青い地球はあると信じたままで逝ってしまったブルー。
 前の自分の温もりを失くして、右手が冷たく凍えたけれど。
 泣きじゃくりながら最期を迎えたけれども、ブルーは青い地球まで来られた。
 長い年月を経て蘇った星、今、住んでいる青い地球まで。
(…とんでもない時間が流れちまったが…)
 ブルーは自分に巡り会えたし、自分もブルーと再び出会えた。
 学校の教師と教え子だけれど、もうキャプテンでも、ソルジャーでもない二人だけれど。
 小さなブルーと再会してまだ間もない頃には、お互い、少し不安もあった。
 こうして再会するよりも前に、別の人生があったのでは、と。
 地球が蘇るほどの長い歳月、それが流れてゆく間。
 お互い、何処かの星に生まれて、別の人生を生きたのでは、と。
 違う誰かと恋をして、同じ家で暮らして、子供も何人か生まれたりして。
 小さなブルーがそれを口にしたことだってあった。
 もしかしたら、と。
 けれども、今では「違う」と思える。
 何を思い出したわけでもないのだけれども、「違う筈だ」と。
 ブルーと別々だった筈がないと、きっと離れずに一緒にいたと。
 それが何処かは知らないけれど。
 何一つ思い出せないけれど。


(はてさて、いったい何処だったんだか…)
 自分たちは何処で過ごしていたろう、青い地球の上に来るまでは。
 まるで手掛かりさえも無いから、本当に何も分からない。
 前の自分は「一日も早くブルーの許へ」と最後まで願い続けたけれども、それさえも…。
(具体的なイメージってヤツが無かったからなあ…)
 ブルーを追い掛けて逝こうと思った、それだけのこと。
 どんな所へ辿り着くのか、何も考えてはいなかった。
 ブルーに会えれば良かったから。
 それだけが望みだったから。
(天国だろうが、地獄だろうが…)
 もう一度ブルーに巡り会えるなら、最高の場所に決まっているから。
 二人で過ごしてゆける場所なら、どんな所でも良かったから。
 漆黒の宇宙空間だろうが、神の玉座がある場所だろうが。
 たとえ地獄の底であっても、ブルーに会えればそれで良かった。
 もっともブルーは地獄などには、けして堕ちてはいないだろうけれど。
 白いシャングリラを守ろうとして散った命を、神は見落としたりしないだろうから。
 SD体制が始まるよりも遠い昔の童話さながらに、天使を遣わすだろうから。
 「あの魂を拾うように」と、「天国へ連れて来るように」と。
 前のブルーの魂はきっと、天国に迎えられたと思う。
 ブルーにはそれが相応しいから。
 天使のように白い衣を纏って、天国に住むのが似合うのだから。


 真っ白に輝く衣のブルー。
 天使の翼は無いだろうけれど、足首まで届く衣を身に着けたブルー。
(きっと天国でも、最高に目立つ美人だろうなあ…)
 誰もがハッと振り返るような。
 あの美しい人は誰かと、気高くて、まるで天使のようだと。
 神に祝福された聖人、その中の一人に違いないと。
 きっと名のある素晴らしい人で、命ある間に数え切れない徳を積み重ねた聖なる人だと。
(…そりゃあ、とてつもない徳ってヤツをだ…)
 前のブルーは積んだのだと思う、聖人にはなっていないけれども。
 人間が聖人を決めるシステム、それは失われて久しいから。
 誰も聖人に選ばれたりはしないから。
(だが、神様には選ばれたかもな…)
 前のブルーなら、聖人に。
 メギドを沈めてミュウの未来を守ったのがブルー、白いシャングリラを守ったブルー。
 あそこでメギドが沈まなかったら、無かったかもしれないミュウたちの未来。
 今の平和な時代になるのも、きっと遅れたに違いない。
 メギドではなくてシャングリラの方が、宇宙に沈んでいたのなら。
(あいつが未来を守ったんだ…)
 命を捨てて、たった一人で。
 きっと神には愛されただろう、聖人に選んで貰えるほどに。
 白く輝く殉教者たちの衣、それさえも与えて貰えそうなほどに。


 純白の衣の前のブルーを思い描いて、零れた笑み。
 なんと美しい人だろうかと、この人が自分の恋人なのかと。
 誇らしい気持ちになったけれども、ハタと気付いた自分の立場。
 前の自分はどうなるのだろう、天国に行っていたならば。
 地球の地の底で命尽きた後、ブルーの許へと旅立ったならば。
(…俺だって、きっと真っ直ぐに…)
 ブルーを探して飛んで行ったろう、魂が身体を離れた後は。
 生きていた間に望み続けた、その時がついに来たのだから。
 逝ってしまったブルーの許へと、真っ直ぐに飛んでゆけるのだから。
(…前のあいつほど、徳ってヤツを積んじゃいないが…)
 地獄に落とされるようなこともしていないのだし、天国には入れて貰えただろう。
 ブルーを追い掛けて飛んで行ったら、天国の門に辿り着いたら。
 きっと開けては貰えたと思う、其処の扉を。
 「どうぞ」と、「入っていいですよ」と。
 そうして目出度く天国の住人、ブルーにもきっと会えそうだけれど。
 間違いなく会えたと思うけれども、なんとも違いすぎそうな立場。
(あいつは聖人になっちまっていて…)
 輝くような純白の衣、それは美しくて気高い姿。
 ところが自分は、そうはいかない。
 どう考えても、ブルーのようには気高くも神々しくもない。
 聖人などには選ばれそうもないし、おまけに持って生まれた姿も地味だから。
 足首まで届く白い衣を貰って纏ったとしても…。
(……仮装パーティー……)
 それしか浮かんでこなかった。
 何処から見たってそれでしかないと、ブルーとは月とスッポンなのだと。


(…月とスッポン…)
 仮装パーティーも酷いけれども、月とスッポン。
 自分で思い浮かべた言葉に、自分の心を抉られたよう。
(…それで間違いないんだが…)
 ブルーが月なら俺はスッポン、と自覚するほどに情けなくなった天国での出会い。
 前のブルーが自分を迎えに現れたならば、きっと大勢、見物人たちがいることだろう。
 誰もが振り返るほどの聖人、その人が再会を待っていた人は誰だろうと。
 どんなに素晴らしい人が来るのかと、それは期待に満ちた瞳で。
(…其処へスッポンの俺がノコノコと…)
 想像するだに恐ろしくなった、どれほどの溜息が零れるのかと。
 なんと似合わない人が来たのかと、あれではまるで絵にならないと。
(…ブルーは気にもしないんだろうが…)
 前の自分も再会の喜びに酔ってしまって、きっと気付きもしないだろうけれど。
 再会した後は、ブルーと二人で仲良く暮らしていそうだけれど。
(…傍から見たなら、月とスッポン…)
 何処へ行っても悪目立ちしそうな、ブルーの隣にいる自分。
 光り輝く衣を纏った気高いブルーと、白い衣の地味な自分と。
(しかも、身体は俺の方がずっと…)
 大きいだけに、きっと余計に目立つのだろう。
 広い天国の何処へ行っても、「またスッポンがやって来た」と。
 幸せなことに、自分はきっと気付きもしないで、ブルーの隣に居ただろうけれど。
 ブルーと二人でいられる幸せ、それに満たされていただろうけど。


 これは酷いと、自分でもついてしまった溜息。
 ブルーと二人で天国にいたなら、恥を晒していそうな自分。
(…天国の住人の良心ってヤツに…)
 賭けておくしかないだろう。
 月とスッポンな恋人同士で歩いていたって、笑ったりはしない住人たち。
(ブルーの名誉のためにもだな…)
 笑われていないと思いたい。
 二人一緒にいた筈の場所が、もしも天国だったなら。
 前のブルーが真っ白に輝く衣を纏って、神に選ばれた場所だったならば…。

 

         一緒にいた場所・了


※前のブルーとハーレイが二人で過ごしていた場所。本編では明らかになってますけど…。
 御存知ないのがハーレイ先生、月とスッポンだとお悩み中。二人一緒なら幸せですよねv





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(んーと…)
 もうちょっと、とブルーが一杯に伸ばしてみた手。
 勉強机の前に座ったままで、無精して。
 立ち上がらないで、そのまま横の棚の方へと。
 学校から帰って宿題を終えて、白いシャングリラの姿を見ようと。
 ハーレイとお揃いの写真集。
 それを取りたくて、精一杯に手を伸ばしてみて…。
(うん、届いた!)
 やった、と棚から取った途端に崩したバランス。
 写真集は大きくて重かったから。
 豪華版だけにズシリと重くて、片手で取るには不向きだった本。
(ぼくの本…!)
 駄目になっちゃう、と懸命に掴んで本を守って、自分が床に落っこちた。
 バランスを崩して椅子から床へ。
 見事にドスンと転がったけれど、写真集の方は無事だった。
(…失敗しちゃった…)
 ちゃんと取れると思ったのに、と床に転がったままでついた溜息。
 次からは無精しないでおこうと、ぼくの大事な本なんだから、と。
 お小遣いでは買えない値段の豪華版。
 ハーレイに教えて貰ったその日に、父に「買ってよ」と強請った本。
 自分の不注意で傷んだりしたら、きっと悲しくなるだろうから。
 少しへこんだだけであっても、表紙に微かな傷がついても。


 無事で良かった、と床の上で本を確かめていたら、ノックの音。
「ブルー? どうしたの、倒れちゃったの?」
 音がしたわ、と母が扉の向こうで訊くから、ドキンと跳ね上がってしまった心臓。
 無精して椅子から落っこちたなんて、みっともなくて言えないから…。
「…平気。足を引っかけて転んじゃった…」
 怪我はしてないから大丈夫、と誤魔化した。
 扉を開けたら嘘がバレそうだから、開けないままで。「ぼくは平気」と。
「それならいいけど…。あまりビックリさせないでね」
 ブルーは身体が弱いんだから、と声を残して、階段を下りてゆく母の足音。
 それが消えても、まだドキドキと激しく打っている鼓動。
(…椅子から落ちて、ママでビックリして…)
 驚きの連続、こうならない方がおかしいだろう。
 ゆっくり写真を眺めるつもりが、落ち着いてくれない心臓の音。
 起き上がって椅子に戻っても。
 白いシャングリラの写真集を見ようと腰掛けても。


(…全然ダメ…)
 止まってくれないドキドキの音。
 これじゃ駄目だ、とスウッと大きく吸い込んだ息。
 こんな時には深呼吸、と。
 椅子に座って、胸一杯に空気を吸い込んでみて。
 吐き出したけれど、まだドキドキが止まらないから、もっとゆっくり。
(…吸って、吐いて…)
 落ち着かなくちゃ、と心臓にせっせと言い聞かせながら深呼吸。
 胸一杯に吸って、ゆっくりと吐いて。
 またゆっくりと吸い込んで吐いて、何度もそれの繰り返し。
(…やっと止まった…?)
 まだ少し鼓動が速いけれども、胸から心臓が飛び出しそうではなくなった。
 このくらいならば、もうその内に落ち着くだろう。
 深呼吸はもう充分だよ、と本を開いた。
 ぼくが守ったシャングリラ、と。


 前の自分が守った船。ハーレイが舵を握っていた船。
 白いシャングリラの写真が沢山、この写真集は懐かしい気持ちがこみ上げる本。
 前の自分は命まで捨てて、この白い船を守り抜いた。
 たった一人でメギドを沈めて、とても悲しい思いまでして。
(…ハーレイの温もり、失くしちゃった…)
 メギドで冷たく凍えた右手。
 もうハーレイには二度と会えないと、独りぼっちだと泣きじゃくりながら。
 それでも自分は船を守った、ミュウの未来を乗せていた船を。
 楽園という名の白いシャングリラ、ミュウの箱舟だったあの船を。
(…前のぼくだと、本物の船で…)
 今の自分は写真集の中の船を守った、椅子から落ちてしまったけれど。
 元はと言えば自分が悪くて、無精したのが原因だけれど。
(でも、守ったしね?)
 傷もつけずに、角も表紙もへこまずに。
 写真集になった白いシャングリラを、懐かしい船を。
 今の自分の精一杯。
 サイオンもすっかり不器用になって、本を宙では止められないから。
 身体ごと落っこちて本を守った、本の中身のシャングリラを。
 今のぼくでも頑張ったんだ、と思ったけれど。
 ぼくのシャングリラは守ったから、と誇らしい気持ちになったのだけれど。
(…さっきのドキドキ…)
 情けないかも、と肩を落とした。
 前のぼくだとドキドキは無し、と。


 椅子から床へと落っこちただけで、もうビックリして激しく脈を打った心臓。
 そこへ母までやって来たから、もっと驚いて止まらなくなってしまったドキドキ。
 これでは本も読めやしない、と何度もしていた深呼吸。
 吸って、吐いて、と、ゆっくり、ゆっくり。
 落ち着けと自分に言い聞かせながら、何度も息を吸っては吐いて。
(…前のぼくだと、あんなのは…)
 やっていない、と情けなくなった。
 椅子から落ちたくらいでは。
 母に不意打ちされたくらいでは。
(…椅子から落ちてはいないだろうけど…)
 あんな無精はしていないから。
 手を一杯に伸ばさなくても、サイオンでヒョイと取れただろうから。
(ママも来ないし…)
 不意打ちする母もいなかった。
 ソルジャー・ブルーに母はいなくて、仲間たちだって不意打ちはしない。
 前の自分はソルジャーなのだし、そんな無礼な真似などは。
 自分は気にしなかったけれども、仲間たちは礼儀を気にしていたから。
(だけど、不意打ちなら、もっと凄いのが…)
 キースに何度もやられちゃったし、と零れた溜息。
 メギドはともかく、シャングリラからのキースの逃亡騒ぎ。
 前の自分は察知して目覚め、先回りをして待っていた。
 ドキドキもせずに、平然と。
 キースがトォニィを投げた時にも、咄嗟に飛び出して受け止めた。
 さっきの自分と全く同じに床に落っこちてしまったけれど。
 其処で動けなくなったけれども、ドキドキどころか落ち着いたもの。
 ナキネズミに力を貸して貰って、連絡までして。


(…なんで、ぼくだとこうなるわけ?)
 同じシャングリラを守っても。
 本物と本の違いはあっても、今の自分の精一杯。
 全力を尽くして守った結果は酷いドキドキ、前の自分とは比較にならない。
(…敵わないのは分かっているけど…)
 今の自分はただの子供で、ソルジャー・ブルーではないのだから。
 サイオンだって不器用になって、まるで敵いはしないのだから。
 それでも悔しい、床に落ちただけでドキドキの自分。
 前の自分はそうはならなくて、深呼吸などしていないのに。
 キースに不意打ちされた時にも、悠然と座っていたほどなのに。
(…身体、ボロボロだったのに…)
 格納庫まで先回りしようと歩く間に、何度倒れたことだろう。
 息は荒くて、心臓も激しく脈打っていたのに、前の自分はそれを鎮めた。
 ソルジャーとしての意志の強さで、深呼吸もせずに。
 ほんの数回、フウと長い息を吐き出しただけで、それでおしまい。
 ビックリしたせいでドキドキなどはしなかったから。
 身体が辛くてドキドキしただけ、時間が経ったら収まるから。


 それに引き替え、今のちっぽけな自分ときたら。
 椅子から落ちたと言ってドキドキ、母に不意打ちされてドキドキ。
 これでは本も読めやしない、と深呼吸までしていた始末。
 前の自分は、深呼吸などしなくても平気だったのに。
(…前のぼくが凄すぎるんだってば…!)
 深呼吸とか以前の問題、と写真集の向こうを睨み付けた。
 宇宙空間を飛ぶシャングリラ。
 写真を撮ったカメラマンは宇宙船の中だろうけれど、前の自分は…
(宇宙船なんか、要らなかったし…!)
 いつでもシャングリラの外に出られた、生身のままで。
 宇宙服など着けもしないで、ヒョイとそのまま。
 メギドまで飛んだ時も同じで、宇宙船など使ってはいない。
 今の自分には出来ない芸当、酸素も無い所に出てはゆけない。
(息が出来なくて死んじゃうってば…!)
 もっと他にも色々と問題がありそうだけれど、一番は空気。
 宇宙空間では息が出来ない、今の自分はアッと言う間に死んでしまうのに違いない。
 だって酸素が無いんだから、と思った所で気が付いた。
 今の自分が何度もしていた深呼吸。
 それで補給をしていた酸素。


(…全部、地球のだよ…)
 なんとも思わずに吸っていたけれど、何度も吸っては吐き出したけれど。
 前の自分が吸った酸素や空気とは違ったそれ。
 白いシャングリラの中の空気は、あった酸素は人工的に作られたもの。
 船の中だけで全てを賄う宇宙船だから、当然のこと。
 アルテメシアに降りた時には外の空気を吸ったけれども、雲海の星と地球とは違う。
 その上、前の自分が生身で宇宙を駆けていた時。
 身体の周りに集めた空気は、多分、サイオンで循環させたのだろう。
 吸って酸素が無くなった分は、サイオンを使って酸素へと変えて。
 難しい仕組みは考えもせずに、自分の身体を生かすためだけに。
(…深呼吸、要らなかったのかも…)
 そんな気までがしてくるほど。
 わざわざ息を吸い込まなくても、必要な酸素を取り込めたのかと。
 前の自分は凄かったのだし、もしかしたら、と。
 けれども、そんな前の自分が胸一杯に息を吸い込んでいても…。
(…地球の空気は吸えないんだよ…)
 地球は何処にも無かったから。
 辿り着けずに終わってしまって、深呼吸だって出来なかったから。


 それを思えば、今の自分はきっと幸せなのだろう。
 前の自分には敵わないけれど、椅子から落ちたらドキドキだけれど。
(…深呼吸したら、地球の空気で…)
 前の自分が焦がれ続けた青い水の星の空気が一杯。
 いくら吸っても消えはしないし、それがドキドキを鎮めてくれる。
 胸一杯に吸い込んだならば、ゆっくりと吸って吐いたなら。
 何度も何度も繰り返していたら、ドキドキは自然に収まってくれる。
(…椅子から落ちてもドキドキだけど…)
 きっと幸せ、と深呼吸した。
 前のぼくには出来なかったと、地球の空気は無かったから、と。
 今は好きなだけ吸ってもいい。
 地球の空気を、地球の酸素を胸一杯に。
 ハーレイと二人で地球に来たから、夢だった星に来られたから…。

 

         深呼吸したら・了


※ソルジャー・ブルーだった頃と違って、椅子から落ちたらドキドキなのがブルー君。
 せっせと深呼吸していた空気が地球のだった、と気付いて幸せらしいですv






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