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(いい天気…!)
 今日も晴れてる、とブルーが開けた窓のカーテン。
 とうに昇った真夏の太陽、抜けるような青空が広がる朝。
 こんな日はきっと…。
(ハーレイ、歩いて来てくれるんだよ)
 何ブロックも離れた場所から、ブルーの足では歩けそうもない遠くから。
 ハーレイの家は其処にあるから、其処で暮らしているのだから。


 夏休みに入って会える日が増えた、平日でもハーレイと会えるようになった。
 それが嬉しくて早く覚める目、目覚まし時計の出番が無くなるほどに。
 鳴るよりも前に起きてしまって、もう要らないと止めるくらいに。
 今朝も早くにパチリと覚めた目、一番に眺めた窓の方。
 カーテンの向こうの明るさからして、多分、晴れだと思ったけれど。
 隙間から射した光の筋にも気付いたけれども、確かめたいから。
 ベッドから下りてカーテンを開けた、晴れているかと。
 空は青いかと、雲など湧いてはいないだろうかと。


 そうして開けてみたカーテンの向こう、眩しい太陽があったから。
 爽やかに晴れた夏空だったから、大満足で。
(ハーレイと庭でお茶が飲めるよ)
 庭で一番大きな木の下、其処に置かれたテーブルと椅子でデートが出来る。
 ハーレイが作ってくれた場所。
 見付けてくれた素敵な場所。
 此処でデートだと、持って来てくれたキャンプ用のテーブルと椅子が気に入ったから。
 ハーレイと初めてデートが出来たと嬉しかったから、今も好きな場所。
 キャンプ用だったテーブルと椅子は、別の物に変わってしまったけれど。
 父が買ってくれた白いテーブルと椅子が、いつも置かれているのだけれど。


 今日もデートだと、ハーレイと庭でお茶にしようと浮き立つ心。
 ハーレイに意外にも似合う白い椅子、それからテーブル。
 前の生で暮らした白いシャングリラと同じに白いからなのだろうか。
 ハーレイには白が似合うのだろうか、褐色の肌を引き立てるから。
 学校で着ていた白いワイシャツも良く似合っていた、今から思えば。
 夏休みの今はワイシャツを着ては来ないけれども、白い半袖シャツの日もあって。
 そういうシャツも似合っていたな、と庭を見ながら考えていて…。


(ハーレイ、夏が似合うんだよね)
 似合うといえば、と思い浮かべる、夏の日射しが似合う恋人を。
 木漏れ日が射す木陰の白い椅子も似合うけれども、それよりも夏。
 テーブルと椅子が置かれた場所まで歩く途中の夏の庭。
 眩い陽の光を浴びて其処を歩いてゆくハーレイの肌も、大きな身体も夏そのもので。
 そんな気がする、ハーレイは夏だと。


 前に誕生日を尋ねてみた時、「当ててみろ」などと言われたけれど。
 その時も夏が似合う気がして、そう答えたら正解で。
 八月の二十八日に生まれたハーレイ、夏の日射しが似合うハーレイ。
 じりじりと肌を焦がす熱さも、痛いくらいに強い日射しも。
 夏だと思ってしまうハーレイ、夏の暑さにも負けないハーレイ。


 今日のように午前中からやって来るなら、暑さも酷くはないけれど。
 歩いて来たって負担は少なくなりそうだけれど、そうでない日も歩くハーレイ。
 柔道部の指導に学校へ行って、午後から訪ねて来る時も。
 学校から此処まで日盛りの道を、帽子の一つも被りもせずに。
 照り付ける真夏の太陽の下をハーレイは歩く、苦にもしないで。
 ちっとも大したことなどはないと、夏は暑くて当然だろうと。


 夏でも雨は降るけれど。
 曇りの日だってあるのだけれども、ハーレイには明るい太陽が似合う。
 晴れた日が似合う、今日みたいに。
 朝からカラリと晴れている日が、雨とも雲とも縁の無い日が。
(白い雲なら似合うんだけどね?)
 夏空に浮かぶ白い雲。
 むくむくと聳え立つ入道雲でも、ずっと遠くで湧いたものなら似合うと思う。
 雨を運んで来られない場所に聳えた雲なら、空の青さを引き立てるから。
 夏ならではの力強さを感じさせてくれる雲だから。


(ハーレイ日和…)
 ふっと心を言葉が掠めた、「ハーレイ日和」と。
 晴れた日を指す言葉が「日和」で、色々なものに繋がる言葉で。
 小春日和に、行楽日和。
 他にも幾つも、いろんな日和。
 今日のような日は「ハーレイ日和」だと思ってしまった、ハーレイに似合う晴れた夏の日。
 こんな日がきっとハーレイ日和、と。


 ハーレイが歩いて来てくれるだろう、雨など少しも降りそうにない日。
 入道雲が湧いたとしたって、遠くで夕立になるだけで。
 今日はそういう日なのだと思う、ハーレイに似合いの夏の一日、と。
 そんな予感がしてくる青空、雲の欠片も見当たらない空。
(うん、きっとハーレイ日和なんだよ)
 今日はそういうお天気の日、と心で呟く、「ハーレイ日和」と。
 ハーレイにとても似合う夏の日、こういう日はきっとハーレイ日和、と。


 もう少ししたら、朝食が済んだら、ハーレイが歩いてやって来る。
 何ブロックも離れた場所から、ハーレイ日和の夏空の下を。
 自分の足では歩けそうもない距離を、ものともせずに。
 「今日は暑いな」と口で言いはしても、汗の一つも浮かべもせずに。
 だからハーレイには夏が良く似合う、暑い夏はハーレイの季節だと思う。
 ハーレイ日和はこんな夏の日、晴れ渡って雲の欠片も無い日。
 雲が湧くならずっと遠くに高い入道雲、むくむくと盛り上がる力強い雲。
 それがハーレイ日和だと思う、ハーレイに似合う晴れた夏の日。


(今日はハーレイ日和だよね?)
 きっとそうだ、と窓の向こうの空を見上げて、声に出してみる。
 「ハーレイ日和」と。
 そうしたらドキンと跳ね上がった心、素敵な響きの「ハーレイ日和」。
 ハーレイが歩いてやって来るのにピッタリの晴れの日、夏の日射しが眩しい日。
 空までがハーレイのような気がした、「ハーレイ日和」と言ってみただけで。
 世界の全部が丸ごとハーレイ、まるですっぽりと包まれたように。
 今日は丸ごとハーレイの日だと、ハーレイみたいな天気だから、と。


 ハーレイに似合う日、ハーレイ日和。
 真夏の太陽が明るく射す日で、雲の一つも無い青空。
 雲を浮かべるなら遠い所に高い入道雲、この辺りに雨を運ばない場所に。
 抜けるような空と、力強い雲と、そんな天気がハーレイ日和。
 きっとそうだと、とても素敵な思い付きだと、窓の向こうを眺めるけれど。
 いい言葉だと思うけれども、それをハーレイに言ったなら…。


(…笑われちゃう?)
 ハーレイは古典の教師だから。
 言わば言葉のプロのようなもので、「日和」にも詳しそうだから。
 「なんだ、そいつは」と呆れられそうで、訂正なんかもされそうで。
(…ありそうだよね…)
 ハーレイ日和などありはしないと、日和という言葉はそういう風には使わないと。
 お前の使い方は間違っていると、その場で授業が始まりそうで。
 せっかく二人でデートをしようと思っているのに、庭のテーブルにも出られそうになくて。
(そこの辞典を持って来い、って言われるんだよ)
 辞典で日和を調べてみろと、使用例もきちんとチェックしろと。
 古典の教師のハーレイが登場、恋人のハーレイは何処かへ引っ込んでしまいそうだから。


(ハーレイ日和は内緒にしなくちゃ…)
 ぼくだけの言葉、と胸に仕舞った、こっそり一人で使っておこうと。
 授業は御免蒙りたいから、ハーレイと楽しく過ごしたいから。
 今日はハーレイ日和なのだし、庭のテーブルと椅子とでデート。
 そうするためにも内緒にせねば、と「ハーレイ日和」を仕舞い込む。
 ぼくだけの秘密のハーレイ日和、と…。

 

         ハーレイ日和・了


※ブルー君が考えた「ハーレイ日和」。よく晴れた夏の日がハーレイ日和ですけれど…。
 内緒にしておくブルー君です、「ブルー日和」があると知ったらビックリでしょうねv

※当サイトのペットのウィリアム君。本日で生後801日になりました!
 「801」です、「ハーレイの日」です。
 お祝いにショートを上げました。ブルー君のお話ですけどねv






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(よし!)
 いい天気だな、と開けた窓のカーテン。
 昨夜は星が沢山見えたし、明日は晴れだと確信してはいたけれど。
 天気予報も同じく晴れで、快晴だと告げていたけれど。
 それでも読めない地球の天候、予報もたまには外れたりする。
 人間がコントロールをしていない証拠、前の自分が生きていた頃と違って機械も無い。
 死に絶えた地球を死んだままにしていた、グランド・マザーはもういない。
 ユグドラシルなんぞを地球に造って管理していたような憎い機械は。


 朝の光が射し込む寝室、そこで大きく伸びをした。
 今日は土曜日、ブルーの家へと出掛けてゆく日。
 雨なら車で出掛けるけれども、それでは少しつまらない。
 短い時間で着けるとはいえ、その分、早くブルーに会えるわけではないから。
 他所の家を訪ねてゆくとなったら、気にせねばならない訪問の時間。
 あまりにも早くチャイムを鳴らせば迷惑だろうし、避けねばならない。
 いくらブルーの守り役とはいえ、朝早くから押し掛けて行って、朝食の席に着くのは論外。
(きっと歓迎されるんだろうが…)
 どうぞ、とダイニングに案内されて、小さなブルーも一緒の朝食になりそうだけど。
 ブルーの両親も笑顔だろうけれど、やはり、あまりに厚かましすぎて。


 だから早くには訪ねてゆけない、この時間だと自分が作ったルールよりも早い時間には。
 車で行くなら普段よりも遅く、そういう時間まで家を出られない。
 雨が降ったらそうなってしまう、車だと直ぐに着いてしまうから。
 ほんの僅かな距離のドライブ、それで到着してしまうから。
 エンジンをかけてガレージから出て、暫く走ってゆくだけで着いて、土産話もろくに拾えない。
 「来る途中で面白いものを見たぞ」と話してやりたい、様々なことが拾えない。
 ハンドルを握って走る時間が短すぎるから、アッと言う間に目的地に着いてしまうから。


 そんな車も、普段は頼もしいけれど。
 仕事の帰りにブルーの家に寄るのだったら、車の速さが嬉しいけれど。
 休日にブルーの家へゆくなら歩くのがいい、自分の足で歩いてゆきたい。
 この道をゆこうと決めた道筋、それを歩いてゆくのがいい。
 そうしたいなら晴れた日がいい、今日のように。
 明るい日射しが眩しい日がいい、青空の下をのんびりと歩いてゆける日が。


(ブルー日和というヤツだな)
 うん、と自分が作った言葉に頷いてみる。
 何かをするのに絶好の天気、それが「日和」というものだから。
 ブルーの家を訪ねてゆくのにピッタリの晴れなら、「ブルー日和」になるだろう。
 爽やかに晴れて、午後には些か暑くなるかもしれないけれど。
 それでも今日はブルー日和で、小さなブルーと過ごせる日で。
 ブルー日和だと跳ねている心、この青空の下を歩いてゆこうと。
 何が見付かるかと、何を話そうかと、ワクワクしながら歩いてゆこうと。


 顔を洗って着替えを済ませて、朝食の支度。
 小さなブルーなら「食べ切れないよ!」と叫びそうな分厚いトーストなども。
 食べるものは普段と変わらないけれど、仕事にゆく日と同じだけれど。
 今日は要らない仕事用の服、もうそれだけで心が浮き立つ。
 その上、ブルー日和だから。
 歩いてゆくのが似合いの日だから、食べ終えたら直ぐに家を出られる。
 後片付けさえすれば、戸締りをして。
 車で出掛ける雨の日のような待ち時間などは全く要らない、直ぐにブルーの家に向かえる。


 そうして玄関の扉を閉ざして、歩き始めた青空の下。
 今日は絶好のブルー日和だと笑みが零れる、いい天気だと。
 午後には暑くなりそうな日射し、それを浴びながら歩いてゆく。
 ブルー日和に相応しい道を、ブルーの家へと繋がる道を。
 今日はどちらの道をゆこうか、この先の角を曲がろうか?
 それとも曲がらずに真っ直ぐゆこうか、もう一つ先の角を目指して。


 車が沢山走ってゆく道、大きな道路は避けての散歩道だから。
 住宅街の中を歩いてゆくから、ブルーの家へと繋がる道は幾つもあって。
 どれを行くのも自分の自由で、その日の気分で選べる道で。
(…今日はミーシャの方に行くかな)
 気まぐれに決めた、ミーシャのいる道。
 運が良ければ白い猫に会える、日向ぼっこをしている猫に。
 子供だった頃に隣町の家で一緒に暮らした、白いミーシャにそっくりな猫に。


 選んだ道は今日は正解、日向ぼっこのミーシャに会えた。
 家の前の芝生、其処に座った真っ白な猫。
 本当は撫でてやりたいけれども、ちょっと遊んでやりたいけれど。
「すまんな、先を急ぐんでな」
「…ミャア?」
 なあに、と猫が見上げて来るから。
「お前さんみたいなチビが待っているのさ」
 銀色の毛皮の可愛いのがな、とミーシャに手を振り、また歩いてゆく。
 猫の名前がミーシャかどうかは知らないけれど。
 飼い主の人が出て来るまで待って名前を訊く暇があれば、もっと先へと進みたいから。


 ミーシャには「急ぐ」と言ったけれども、急ぎ足にはならない散歩。
 自分のペースでのんびりゆっくり、ブルー日和の空の下。
 あまりにも早く着きすぎないよう、丁度いい時間に着けるよう。
 次の角ではどちらにゆこうか、曲がるか、真っ直ぐ進んでゆくか。
 最短距離など考えはしない、こんな素晴らしいブルー日和に無粋なことは考えない。
 歩く道々、目に入ったものをブルーに話してやれるから。
 こんな花があったと、こんなことがあったと、小さなブルーに披露出来るから。


(急がば回れとも言うんだしな?)
 ただ真っ直ぐに進んでゆくより、土産話が拾える時間。
 車で走れば早く着くけれど、土産話を拾える時間が少ない上に楽しめない。
 これからブルーの家に行くのだと、ブルーに会えると心がときめく時間も好きで。
 その時間を長く味わいたいなら、こういうブルー日和がいい。
 ブルーの家へと歩いてゆくためだけにあるような天気、カラリと晴れたブルー日和が。
 もうすぐ会えると、もう少しだと歩きながらも、最短距離は選ばない。
 少し回り道するくらいがいい、弾む心で、浮き立つ心で。
 早くブルーに会いたいものだと、あいつに会えると、足取りも軽く。


 今日は絶好のブルー日和で、きっとブルーも待っているから。
 早く来ないかと首を長くして待っているから、余計に嬉しい散歩道。
 ブルーに会ったら何を話そうか、どの話から始めてみようか。
 さっき目を留めた庭の話か、香しい匂いに惹き付けられた生垣に咲いていた花か。
 土産話は幾つも拾って、心に仕舞ってあるけれど。
 どれから話してやるのがいいかと、幾つも持っているのだけれど。


(…ブルー日和は内緒だな…)
 素敵な言葉が生まれたけれども、今日の天気に似合いだけれど。
 自分の心に仕舞っておきたい、幸せに満ちた響きだから。
 ブルーの家へと向かう途中で思い浮かべるのが幸せだから。
 小さなブルーに話してしまえば、「ブルー日和」はきっと連発されるから。
 それは嬉しそうに、得意そうに何度も言うだろうから、ブルーには内緒。
 ブルー日和の心地良さは一人、噛み締めながら歩くのがいい。
 今日は絶好のブルー日和だと、良く晴れてとても気持ちがいいと。
 もうすぐブルーに会いにゆけると、弾む足取りでブルー日和の青空の下を…。

 

         ブルー日和・了


※いいお天気の休日だったら「ブルー日和」になるんでしょうねえ、ハーレイ先生。
 ブルー君に会いに出掛ける休日、ハーレイ先生は朝からウキウキなのですv

※当サイトのペットのウィリアム君、明日の午後に生後801日目を迎えます。
 「やおい?」と思われそうですけど、「801」で「ハーレイ」です。
 こんな機会は二度と無いので、明日もショートを上げますですv






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(ちっとも伸びてくれないんだけど…)
 ホントに少しも伸びないんだけど、と呟いたブルー。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、クローゼットのすぐ側に立って。
 見上げた所に微かな印。
 何も知らない人が見たなら気付かないだろう、鉛筆で引かれた薄い線。
 両親は全く知りもしなくて、其処に印があろうなどとは夢にも思いはしないのだけれど。
 気付かれないように引いた線だけれども、ブルーにとっては重要なもので。


 床から測って、百七十センチの所にある印。
 小さなブルーの頭の天辺、そこから二十センチも上に書かれた印。
 たったの百五十センチしか無い今の背丈では、二十センチは僅かとはとても言えないもの。
 百五十センチと百七十センチの間を隔てる、それは高い壁。
 そこに印をつけた時には、高い壁でも乗り越えられる筈だったのに。
 少しずつでも日進月歩で、壁を越えられる筈だったのに。


 まるで縮まない、二十センチという長さ。
 自分の頭と、クローゼットにつけた印の間の距離。
 小さなブルーには高い高い壁、越えられるという望みも潰えてしまいそうになる。
 こうして印を見上げてみる度、印までの高さを確かめる度に。
(…一ミリも伸びてくれないだなんて…)
 酷すぎるよ、と頭の高さと印の高さを比べて溜息、もう幾つ目かも分からない。
 今夜だけでも五つか六つはついたろうと思う、大きくて深い溜息を。
 それまでの分を足していったら、きっと百では済まないと思う。
 一日に五つ溜息をつけば、たったの二十日で百になるから。
 クローゼットの印を見上げて溜息を幾つも零していた日は、二十日よりもっと多いのだから。


 青い地球の上に生まれ変わる前、メギドで生を終えた時。
 自分の背丈は今より高くて、手足もスラリと長かった。
 顔立ちだって大人の顔立ち、今の小さな自分の顔とはまるで違ったソルジャー・ブルー。
 赤い瞳と銀色の髪は同じだけれども、その他が違う。
 まだ幼くて丸みの残った十四歳の子供の顔と、前の自分の大人の輪郭。
 キュッと唇を結んでみたって、凛とした表情を作ってみたって、前の自分の顔にはならない。
 鏡を覗いてどう頑張っても子供は子供の顔でしかない。
 いつもハーレイが言う通りに「チビ」、そんな顔にしかなってはくれない。


 前の自分と同じ背丈に育てば全ては変わるのだろう。
 ハーレイはキスを許してくれるし、キスのその先のことだって、きっと。
 前の自分と同じに育てば、そっくり同じ姿になれば。
 だからクローゼットに目標を書いた、床からきちんと高さを測って。
 ここまで育てば前の自分だと、前の自分の背丈はこれだけ、と。


 それが床から百七十センチ、鉛筆で印をつけた時には縮まる予定だった距離。
 今の自分の背がぐんぐんと伸びて、二十センチの差が十センチに縮んで、いずれはゼロに。
 十四歳の自分は育ち盛りで、きっと伸び盛り。
 そうだと思った、自分くらいの年の頃には一番伸びると聞いたから。
 「夏休みの間にグンと伸びるぜ」などと目標を語るクラスメイトも多かったから。


 草木が大きく育つのが夏、子供も例外ではなくて。
 下の学校に通っていた頃にも、背が伸びる時期は圧倒的に夏。
 ブルー自身の感覚でもそうで、春から夏にかけての季節が育つ時期。
 寒い冬にはあまり育たない、葉を落としてしまう木々と同じで。
 冬の間にエネルギーを溜めて伸びてゆくのが春から夏だと、そういうものだと思っていた。
 今年の夏もきっとそうだと、大きくなれると。
 育ち盛りで伸び盛りな分、今までの夏より大きく育つに違いないと。


 なのに全く伸びなかった背丈、終わってしまった夏休み。
 ほんの一ミリも背丈は伸びずに、一ミリさえも伸びてはくれずに。
(…なんで?)
 夏という季節が、背が伸びてくれる筈の季節が来たというのに、まるで反映されなかった背丈。
 伸びる季節など無かったかのように、変わらないままの自分の背丈。
 クローゼットにつけた印は前と同じに見上げねばならず、少しも近付いてくれなくて。
 ただの一ミリも差は縮まなくて、背丈は百五十センチのままで。


(…こんなことって…)
 あんまりだと思う、自分は努力をしているのに。
 背丈を伸ばそうとミルクを毎朝欠かさずに飲んで、結果が出るのを待っているのに。
 「ミルクで背が伸びた」という話は幾つも聞いたし、両親だってミルクを勧める。
 ミルクを飲めば背が伸びるからと、骨も丈夫になるのだからと。
 そう言われずとも、今なら進んでいくらでも飲む、背丈を伸ばしたいのだから。
 前の自分と同じ背丈に、クローゼットに書いた印と同じ高さになるように。


 けれど背丈は伸びてくれなくて、二十センチの差は縮まらない。
 前の自分と今の自分の間を隔てる高い高い壁、それが少しも低くならない。
 乗り越えたくても越えられない壁、越えられる日さえ見えもしない壁。
 どうにもこうにもなりはしなくて、溜息を零すしかなくて。
(…ミルクは絶対、効く筈なのに…)
 それとも自分には合わないのだろうか、ミルクの効き目が出ないのだろうか?
 誰に尋ねても「ミルクを飲んだら背が伸びる」という答えが返ってくるけれど。
 世間の常識というものだけれど、ミルクは効かないのだろうか?


 そうは思っても、ミルク以外の方法を思い付かないから。
 学校で「しっかり栄養を摂りましょう」という話が出る時もミルクが定番なのだから。
(…ぼくの背、伸びなくても何も言われないし…)
 病院で検査を受けるべきだとも、栄養相談に来るようにとも学校からは言われない。
 何の問題も無いという証拠、誰も心配していない証拠。
 背が伸びなくても、それも自分の個性の一つ。
 心に見合った成長のためで、今はまだ伸びる時期が来ていないのだと周りの大人は考える。
 学校の先生たちはもちろん、かかりつけの医師も、それに両親も。


 誰も指導をしてくれないなら、治療などもしてくれないのなら。
 頼りになるのはミルクしか無くて、それでいつかは伸びてくれると思うしかなくて。
(ホントに毎朝、飲んでるのに…)
 具合が悪くて食欲の無い日も、ミルクが喉を通るようなら。
 喉を通ってくれるようなら、食事は出来ずともミルクだけは飲む。
 きっと背丈を伸ばしてくれると、今日は駄目でも明日にはきっと、と。


 こんなに頑張って飲んでいるのに、効かないミルク。
 他の子供なら背が伸びる筈の、頼もしい飲み物がミルクなのに。
 きちんと毎朝飲んでいるのに、効果が現れないミルク。
(…本当に効くの?)
 効く筈だけれど、効いたという話も幾つも聞いているけれど…。
 ただの一ミリも伸びてくれない背丈はそのまま、夏休みも終わってしまったから。
 後は背が伸びにくい季節へ向かうだけだから、またも零してしまう溜息。
 どうして背丈が伸びないのだろうと、ぼくにはミルクが効かないのだろうと。


(だけど、他には…)
 思い付かない、背を伸ばすための方法なるもの。
 ミルクの代わりにこれを、といった話は聞かない、耳寄りな噂も、背を伸ばす秘訣も。
 大きくなりたいと願っているのに、何度も何度もクローゼットを見上げるのに。
 床から百七十センチの高さにつけた印に届かないかと、まだ駄目なのかと。
 仕方ないから、ミルクを飲もうと今日も決意する、背丈のために。
 前の自分と同じ背丈に育ちたいから、少しでも早く背を伸ばしたいから…。

 

        ぼくの背丈・了


※背が一ミリも伸びてくれないことが悩みのブルー君。努力はしているようですが…。
 毎朝、せっせと飲んでいるミルク。骨が丈夫になりそうですよねv






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(伸びないなあ…)
 面白いほどに伸びないんだよな、と可笑しくなった。
 小さな恋人の背丈のこと。
 五月の三日に再会したブルー、前の生から愛し続けた愛おしいブルー。
 赤い瞳も銀色の髪も、記憶そのままで。
 白く透き通るような肌もブルーだけれども、前とは違ったその柔らかさ。
 前のブルーが白磁の肌なら、今のブルーは白桃だろうかと思ってしまうほどに。


 つまりは柔らかすぎるほどの肌、赤ん坊ほどではないけれど。
 それほど薄くはないのだけれども、今のブルーの肌は子供の肌で。
 肌が子供なら背丈も子供で、ブルーはすっかり小さくなった。
 最後に別れた時より遥かに、前の自分が去りゆく背中を見送った時より、ずっと小さく。
 まだ十四歳にしかならないブルー。
 今の学校では一番下の学年、小さくて当たり前だけど。
 背丈が縮んだというわけではなく、これから育ってゆくのだけれど。
 前のブルーと同じ背丈に、ソルジャー・ブルーだった頃とそっくり同じ姿に。


 まるで記憶に無いわけではない、今のブルーのようなブルーも。
 前の生で初めて出会った時には今と変わらない少年だった。
 燃えるアルタミラで出会い、共に宇宙へ旅立った時は。
(あの頃のあいつは、俺よりもずっと年上で…)
 ただ成長を止めていただけ、育たずに子供の姿でいただけ。
 けれどアルタミラを離れた後には、普通に育っていったから。
 細っこかったチビから、気高く美しかった前のブルーへと育ったから。
 きっと今度も同じだと思った、直ぐに育つと。
 今が一番の成長期だろうし、見る間に背が伸びてゆくのだろうと。


 自分の記憶でもそうだけれども、夏休みの間に育つ子供の多いこと。
 前の自分は共に育った仲間を覚えていないとはいえ、今の自分は違うから。
 大勢の友達と一緒に育って、夏が来る度、グンと育つ子が多かったから。
 きっとブルーもそうだと思った、夏休みが終わる頃にはかなり大きくなるだろうと。
 流石に十センチも伸びはしなくても、一目で分かるくらいには、と。
(あの年頃は伸び盛りなんだ…)
 教師という仕事をしていれば分かる、夏休みの前と後とで違う。
 制服のサイズが合わなくなるほど育つ子供も珍しくはない、夏休みの間、会わない内に。
 なんと大きく育ったものだと驚かされることも度々で…。


 だからブルーも育つと思った、夏の日射しですくすくと伸びる青草のように。
 枝葉を広げて空へと伸びゆく木々たちのように。
 幼い顔立ちも少し大人びて、澄ました顔も似合う少年になって。
 手足もスラリとしてくるだろうと、幼さが抜けてくるのだろうと考えたのに。
(…見事に育たなかったんだ…)
 ほんの一ミリさえも伸びなかった背丈、出会ったあの日と変わらないまま。
 そのままでブルーの夏は終わった、育ち盛りの筈の夏休みは。
 夏の日射しはブルーの背丈を育ててはくれず、制服も小さくなりはしなくて…。


(俺にしてみりゃ、可愛いんだがな?)
 小さなブルーの姿は可愛い、目を細めたくなる愛らしさ。
 いつまでもこのまま眺めていたいと思うくらいに愛くるしい。
 笑顔も、それに仏頂面も。
 機嫌を損ねてプウッと膨れてしまった時でも、もう本当に可愛らしくて。
 そんなブルーも愛おしいから、今のブルーで充分満足、小さいままでもかまわない。
 まさか一生、子供のままでもないだろうから。
 いつかはきっと育つのだろうし、それまではチビで子供のブルーを見ていたいから。


 そういう自分の視点からすれば、育たないブルーも可愛いけれど。
 まるで全く伸びない背丈も、微笑ましく思えるのだけれど。
 当のブルーはそうはいかない、「これじゃ困るよ!」と何度叫んだことだろう。
 毎朝ミルクを飲んでいるのにと、どうして育たないんだろうと。
 ブルーの涙ぐましい努力を聞いているから余計に可笑しい、伸びない背丈が面白い。
 いつまで育たずにいるのだろうかと、飲んだミルクは何処に消えたかと。


(ミルクは定番なんだがなあ…)
 背丈を伸ばしたいなら牛乳、そう考える子供は少なくなくて。
 大人の方でも「骨が丈夫になって背が伸びるから」と牛乳嫌いの子を諭すもので。
 小さなブルーは間違ってはいない、毎朝ミルクを飲んでいることは。
 早く育とうと、背を伸ばそうと頑張って飲んでいるらしいことは。
 なのに効果は少しも出なくて、小さなブルーは小さいままで。
 再会した頃から一ミリも伸びない百五十センチ、ミルクの効き目は現れない。
 それを思うと笑いが零れる、ミルクと相性が悪いのだろうかと。
 ブルーの努力は報われないまま、ミルクだけが減ってゆくのだろうかと。


 もっとも、今の世の中の事情。
 人間が全てミュウになった世界、ブルーくらいの年頃になれば育ち方も変わる。
 普通にぐんぐん育つ子もいれば、ゆっくり、のんびり育つ子供も。
 小さなブルーがそうであるように、まるで育たない子もいくらでもいる。
 要は心と身体の兼ね合い、幼い子供はそれに相応しく。
 そんなわけだから、ブルーがどんなに膨れても。
 育ちたいのに背が伸びない、と文句を言っても、特効薬などありはしなくて。
 特別な栄養指導も無ければ、もちろん病院の出番も無くて。
 「個人差ですよ」の一言で終わり、背が伸びないのも子供の個性。
 誰も育てと急かしはしないし、育てるための薬も無いし…。


(…まあ、当分はあのままだろうな)
 チビのあいつを見られるんだな、と笑みを浮かべずにはいられない。
 いくらブルーが不本意だろうが、ミルクが効かないと怒っていようが、愛らしいから。
 気高く美しかったブルーは忘れられないし、今もたまらなく愛しいけれど。
 会いたいと涙する夜もあるけれど、ブルーはブルー。
 前のブルーと今のブルーは同じブルーで、同じ魂。
 ただ幼いというだけのことで、持っている記憶は前のブルーのものだから。
 メギドで冷たく凍えた右手を覚えているのがブルーだから。


 悲しすぎる最期を迎えたブルーが、幸せそうに笑うなら。
 むくれて膨れっ面になるなら、それはブルーが今を生きている証拠なのだから。
 背丈が少しも伸びないチビでも、ブルーは帰って来たのだから。
 幸せな時を、前のブルーが失くしてしまった子供時代を楽しんで欲しい、この地球の上で。
 急いで大きく育たなくても、前と同じに急いで成長しなくても。
(ゆっくり育って欲しいもんだな…)
 心から思う、チビのブルーを幸せに育ててやりたいと。
 焦ることなく、ただ幸せに。


 膨れて、むくれて、「早く大きくなりたいのに!」と嘆けるのも今の内だから。
 育ってしまえばもう言えないから、今の内。
 毎朝ミルクを頑張って飲んで、まだ育たないと溜息をついて。
 そんなブルーが愛おしいけれど、やっぱり可笑しさもこみ上げてくる。
 少しも背丈が伸びないブルー。
 今日もむくれているかと思うと、膨れっ面だろうかと思うと。
(ミルク、飲みすぎたら腹を壊すぞ?)
 過ぎたるは猶及ばざるが如しだからな、とクックッと喉で小さく笑う。
 あいつはそんなに飲めはしないがと、飲みすぎるという心配だけは無さそうだがな、と…。

 

         あいつの背丈・了


※少しも伸びないブルー君の背丈。ハーレイ先生から見れば、それも可愛いのです。
 大人ならではの余裕ですけど、ブルー君が聞いたら間違いなく膨れっ面ですねv





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(ハーレイ、もしかしてガッカリしちゃった…?)
 どうなんだろう、と小さなブルーは心配になった、ハーレイが帰って行った後。
 「またな」と手を振り、車で帰って行ったハーレイ、今日は雨ではないけれど。
 晴れた日は歩いて来るのがハーレイだけれど、今日は車で来てくれた。
 素敵な荷物を積んでいたから、トランクに入れてやって来たから。


 前のハーレイのマントの色をした車。濃い緑色の、ハーレイの愛車。
 そのトランクから魔法が始まる、バタンと開けたら魔法の始まり。
 今日が二回目、折り畳み式のテーブルと椅子が出て来た、キャンプ用の。
 庭で一番大きな木の下、ハーレイがそれを据え付けてゆく。
 二人きりのデートのための場所。
 いつものブルーの部屋とは違った所で食事をするためのテーブル、それと椅子が二つ。
 まだ食事とはいかないけれど。
 一度目も今日も、お茶とお菓子で、食事をしてはいないけれども。


 家の中にいる両親からも見える庭の一角、ハーレイには甘えられなくて。
 抱き付くことも、膝の上にチョコンと乗っかることも出来ないけれど。
 それでも普段と違う場所で二人、充分にデートの気分だから。
 デートをしている気分がするから、今日も御機嫌でテーブルに着いた、椅子に腰掛けた。
 母が運んで来てくれたお茶とお菓子と、木漏れ日が描く光のレース模様と。
 最高に幸せな時間の始まり、デートなのだと嬉しくなった。
 ハーレイにはくっつけないけれど。
 甘えたくても抱き付けはしなくて、膝の上に座りも出来ないけれど。


 そうして二人でデートしていたら、ハーレイが気付いた雲間から漏れてくる光。
 雲の間から射した光の輝き、「天使の梯子」だと教えて貰った。
 あれを天使が昇り降りすると、ヤコブの梯子とも呼ぶものなのだ、と。
 天使の梯子が出来ている時、雲の端っこを見上げてみたなら天使が見えるとも聞いた。
 そこから天使が顔を出していると、そういう姿が見えるらしいと。
 天使は見付からなかったけれども、天使が使うという梯子。
 そう呼ばれるとは知らなかった、と雲間から射す光を仰いだ、とても綺麗だと。


 ところが話はそれで終わらなくて、ハーレイが口にした言葉。
 「お前なら綺麗に飛ぶんだろうな」と鳶色の瞳が柔らかく笑んだ。
 空を飛ぶお前を見てみたい、と。
 きっと天使のようなのだろうと、そんな姿をいつか見せて欲しいと。
 途端にドキリと跳ねた心臓、喜びではなくて逆様の意味で。
 ハーレイの望みを叶えたくても、今の自分には出来ないから。
 空を飛ぶことなど出来はしなくて、天使の梯子を昇る姿をハーレイに見せられはしないから。


 ごめん、と仕方なく謝った自分。
 「今のぼくは空を飛べないみたい」と、ハーレイには見せてあげられないと。
 ハーレイは酷く驚いたけれど、失望したという風でもなくて。
 そのままでいいと、飛べなくていいと言って貰えた、「お前は飛ばなくていいんだ」と。
 前のお前はメギドにまで飛んでしまったのだし、もう充分に飛んだのだから、と。
 それでも重ねて尋ねてみたら、やはり飛ぶ姿も見たいらしいから。
 まるで見たくないわけでもなかったようだから…。


(…やっぱり、ホントはガッカリしちゃった…?)
 今の自分が飛べないと知って、天使の梯子を昇る姿を見ることは出来ないと知らされて。
 飛ぶのを見たいと言ったハーレイは、本当に見たかったようだから。
 そうでなくても前の自分が飛んでゆく姿を、前のハーレイはのんびりと見てはいないから。
 ソルジャーだった自分とキャプテンだったハーレイ、飛ぶ姿を見せる暇など無かった。
 ハーレイは何度も見ていたけれども、前の自分も飛んでいたけれど。
 互いの立場が立場だったから、披露も見物もまるで無縁で。
 きっとハーレイは見惚れたことさえ無かったのだろう、ただの一度も。
 だから見たいと望んだのだろう、今の平和なこの地球の上で。
 空を飛んでゆくお前を見たいと、きっと綺麗に飛ぶのだろうと。


 「飛ばなくていい」と言ったハーレイの言葉は、けして嘘ではないけれど。
 本心だろうと思うけれども、前の自分には出来なかったこと。
 ハーレイがゆっくり眺められる場所で、ハーレイのためにだけ空を飛ぶこと。
 それが出来たら、と考えてしまう、空を飛べたら、と。
(…ハーレイ、ガッカリしちゃってるよね…?)
 今の自分は飛べないから。
 ハーレイのためだけに舞い上がれなくて、天使の梯子を昇れないから。


 きっとそうだと、ガッカリさせたと、溜息が零れて落ちてしまう。
 ハーレイは「飛ばなくていい」と言ったし、それが本心だと分かっていても。
 そう考えてしまう辺りが子供で、考えすぎだと分かっていても。
(…だって、ハーレイ…)
 本当に見たかったのだろうと思う、自分が空を舞う姿を。
 前のハーレイには決して叶わなかったことを、今の時代に叶えたいのだと。
 キャプテンとしての務めではなくて、自由な一人の人間として。
 ソルジャーではない恋人の自分が空を飛ぶ姿を、心ゆくまできっと眺めたかったのだと。


 もう本当に申し訳なくて、どう謝ればいいのか分からなくて。
 頭がぐるぐるしそうだけれども、これは自分の考えすぎで。
 ハーレイはとっくに分かってくれていて、飛べない自分を許してくれて。
 許すどころか喜んでくれて、「飛ばなくていい」と優しく受け止めてくれて。
 そんなハーレイの懐の広さが、自分への想いが分かるからこそ、気にかかること。
(…本当はきっと、ちょっぴりガッカリ…)
 しちゃったよね、と呟いてしまう、心の中で。
 ハーレイがガッカリしたことはきっと間違いないから、ほんの少しの間だけでも。


(飛びたいよ、ぼく…)
 ハーレイが「飛ばなくていい」と言ってくれても、許してくれても。
 昼間も決意したのだけれども、ハーレイの望みを叶えたいから。
 天使の梯子を昇る姿を、ハーレイに見せてあげたいから。
 どうすれば空を飛んでゆけるのか、舞い上がれるのか、まるで全く分からないけれど。
 手掛かりさえも見付からないのが今の自分で、もう見当もつかないけれど。
 それでも飛びたい、天使の梯子を昇ってみたい。
 飛べない自分でも空を飛びたい、ハーレイのために。


 きっとハーレイは「飛ばなくていいぞ」と微笑むだろうし、それでいいと思いそうだけど。
 もう「飛べない」と決めてしまって、見たい気持ちも何処かへ仕舞っているだろうけれど。
 けれど飛びたい、ハーレイが「見たい」と言ったのだから。
 飛ぶためのコツを「プールで一緒に掴んでみるか?」とも誘ってくれたハーレイだから。
 ハーレイにプールで水に浮く所から教えて貰って、いつかは空へ。
 飛べない自分でも、コツを掴んで舞い上がりたい。


(飛べないぼくでも、ハーレイは許してくれそうだけど…)
 許してくれているのだけれども、「飛ばなくていい」と言われたけども。
 ハーレイがそうして許してくれたように、ハーレイの優しい想いと同じように。
 自分もハーレイの夢を叶えたい、天使の梯子を昇りたい。
 今は飛べなくても、きっといつか。
 そんな思いを捨て切れないから、ブルーは願う。
 飛べないぼくでも飛べますようにと、ハーレイのために空を飛べますようにと…。

 

        飛べないぼく・了


※空を飛べない、ブルー君。「飛ばなくていい」と言って貰えたのに、気にしてます。
 ハーレイ先生のために飛びたい健気さ、ハーレイ先生、愛されてますねv





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