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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧
(シャングリラか……)
 あの船は、もう無いんだよな、とハーレイが、ふと思い出した船。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それをお供に。
 船と言っても、水に浮かべる船ではない。
 遠く遥かな時の彼方に、消えてしまった宇宙船。
 前のブルーと旅をした船、楽園という意味の名前を持った、ミュウの箱舟。
(…ずいぶん早くに、無くなっちまって…)
 その姿はもう、写真などでしか残ってはいない。
 ジョミーの跡を継いだソルジャー、トォニィが解体を命じたから。
 「もう、箱舟は要らないから」と。
(お蔭で、宇宙の何処を探しても…)
 あの船は、二度と見られはしない。
 せっかく記憶を取り戻したのに、懐かしい船には会いに行けない。
(…まあ、これだけの時が流れちまったら…)
 シャングリラが残っていたとしたって、中身はすっかり変わっただろう。
 船の設備は変わらないにしても、見学者向けの仕様になって。
 人間が全て、ミュウになっている今の時代は、とても平和な世界だから。
(博物館にでも行ったみたいに、見学コースが出来ちまってて…)
 船に乗り込んだら、矢印でも付いていたのだろうか。
 見て回るのに最適な順路が、誰でも一目で分かるようにと。
(…ついでに、立ち入り禁止のロープも…)
 場所によっては、きちんと張られていることだろう。
 例えば、前のブルーが長く暮らした、青の間。
 ベッドの周りにあったスペース、其処は歩いて見て回れても…。
(あいつが使ったベッドには、触れないように…)
 ロープで囲んで、「手を触れないで下さい」の注意書き。
 ブリッジも、似たようなものだと思う。
 前の自分が握った舵輪は、「手を触れないで」と、ロープの向こうで。


 見学者のための船になったら、そんな所だ、と容易に分かる白い箱舟。
 長い歳月、キャプテンとして眺めていたから、なおのこと。
(…見学者向けに開放するなら、食堂なんかはレストランだな)
 メニューは今風になるんだろうが、と顎に当てる手。
 「当時のままだと、美味くはないだろうからな」と。
(いや、不味いってことはないんだが…)
 今でも、充分、通用するが、と、その点については自信がある。
 元は厨房出身なだけに、食堂で出されていたメニューには…。
(口を出したりしなかっただけで、新作なんかは、いつもきちんと…)
 味わって食べて、心の中で及第点を出していた。
 「これなら、良し」と。
 あの船は箱舟だったのだから、食事といえども、手抜きは不可。
 皆が「美味しい」と食べてこそだし、そうでなければ「楽園」ではない。
(…そうは言っても、自給自足の船ではなあ…)
 食材に限りがあるってモンだ、と今も鮮やかに思い出せる。
 肉も魚もあったけれども、種類は豊富ではなかった、と。
 スパイスにしても、ごくごく基本のものしか無かった。
 それらを使って作るのだから、平和な時代に生まれ育った人々には…。
(何処か、物足りないってな)
 美味くてもだ、と苦笑する。
 「再現メニュー」と謳わない限り、当時のままのメニューは出せない、と。
 もっとも、今の時代だったら…。
(それはそれで、人気を呼びそうだがな)
 前の俺たちが食わされた餌も、今では人気なんだから、と可笑しくなった。
 そういうイベントに、出くわしたから。
(なんとも洒落た感じになってて…)
 目玉メニューになっていた「餌」。
 アルタミラの研究所の檻で与えられていた「餌」を、喜んで食べていたレストランの客たち。
 ヘルシーで、とても美味しい、と。
 イベントが開催されている間に、「また食べに来たい」と。


(所変われば、品変わる、とは言うんだが…)
 それにしてもな、と思うけれども、平和な時代は、そんなもの。
 代用品だった、キャロブで作ったコーヒーだって…。
(見学者用に出すんだったら、やっぱり、喜ばれちまうんだろうな)
 ヘルシーなのも間違っちゃいない、と眺めるマグカップのコーヒー。
 「こいつと違って、キャロブなんだしな」と。
 白いシャングリラの見学者たちには、きっと好評なのだろう。
 だから、レストランだけに限らず、公園などでも提供されるのかもしれない。
 あの船は、とても広かったのだし、短時間で全て見られはしないし、休憩場所も必要だろう。
 船に幾つも鏤められていた公園たちは、格好の憩いのスペースになる。
(元々、そのための場所だったしな?)
 だから、いい具合に散らばってたぞ、と指を折ってゆく。
 居住区に多くあったけれども、他の場所にも「まるで無かったわけじゃない」と。
(……あの船が、今も残っていればな……)
 是非、見学に行きたかった、と残念だけれど、仕方ない。
 トォニィが決めて、この宇宙から消えたなら。
 箱舟としての役目を終えて、時の彼方に去ったのならば。
(…俺が、あの船に行く方法は…)
 どう考えても無いのだけれども、あったとしたら、どうだろう。
 神様の気まぐれで、ほんの数時間、あの船にヒョイと行けるとか。
(タイムスリップみたいなモンで…)
 キャプテン・ハーレイとしてではなくて、今の自分のままで「行く」船。
 ただ、懐かしく見て回るために。
 「こういう船で暮らしたっけな」と、あちこち歩いて、触ったりして。
(…出来やしないとは思うんだが…)
 いくら神様でも、そんな願いは聞いちゃくれない、と分かってはいても…。
(考えてみるのは、自由だしな?)
 ちょいと、心で旅をするか、とコーヒーのカップを傾けた。
 「俺が、あの船に行けたら」と。
 どんな具合か、何をしたいか、心だけ、船に飛ばせてみよう、と。


 あの船に行けたら、白いシャングリラに「今の自分」が行けたなら。
 何をしようかと考える前に、「何処に行くのか」を、まず決めなければ。
 その「行き先」とは、場所ではなくて…。
(…俺が出掛けてゆく先の…)
 時間とか、時代というヤツだよな、と大きく頷く。
 「そいつが大事だ」と。
 白いシャングリラは、ミュウの箱舟だった船。
 元の船から改造した後、アルテメシアに長く潜んで、其処を逃れて…。
(何年も宇宙を彷徨い続けて、ナスカに着いて…)
 ナスカで四年、それから後は地球を目指しての戦いの日々。
 長くあの船で過ごしたけれども、出掛けてゆくなら、どの時代なのか。
(…何処でもいい、なんてことを言ったら…)
 前のブルーがいなくなった後の、戦いばかりの船になるかもしれない。
 戦いはともかく、前のブルーがいない船では…。
(わざわざ、落ち込みに行くようなモンだ)
 生ける屍みたいな「前の俺」もいるし、と、それだけは御免蒙りたい。
 それに、選んでいいのだったら…。
(前のあいつが、ちゃんと元気で…)
 地球への夢もあった時代だ、と決めた行き先。
 「其処にしよう」と。
 もっとも、自分が行ったところで、何も起こりはしないのだけれど。
 「今の自分」が、ただ「見学」に訪れるだけ。
 あちこち歩いて触っていようと、誰にも姿は見えない存在。
(…前のあいつの力でも…)
 全く捉えることは不可能、つまりブルーも「気付きはしない」。
 其処に、「ハーレイが居る」ことに。
 たとえ目の前に立ちはだかろうと、気付きはせずに「すり抜けてゆく」。
(…少し寂しい気もするんだが…)
 そうでなければ、歴史が狂っちまうしな、とフウと溜息。
 「仕方ないんだ」と、「俺がベラベラ喋っちまったら、大変だから」と。


 出掛けて行っても、何も出来ない「見学者」。
 けれど、それでも「行けたら」と思う。
 あの白い船が、懐かしくて。
 青い地球に来た「今の自分」の目で、もう一度、船を見て回りたくて。
(…あの船に行けたら、真っ先に…)
 ブリッジだろうな、と決めた見学先。
 前の自分が馴染んだ場所だし、其処から始めるのが一番、と。
(…前のあいつが元気な頃なら…)
 シャングリラの舵を握っているのは、間違いなく「前の自分」の筈。
 その側に立って、お手並み拝見。
(…なんたって、俺は、あの頃の俺よりも、遥かにだな…)
 経験値ってヤツを積んでるわけで、と自画自賛する。
 「あの頃の俺は、充分に自信たっぷりだったが、まだまだだぞ」と。
 「今の俺が見りゃ、あらも見えるさ」と、「横から、指導したいほどだな」と。
(そうじゃないぞ、と叱るトコまではいかないだろうが…)
 経験豊かな「今の自分」なら、「自分」の操舵が危なっかしく見えることだろう。
 横で見ていて、ちょっぴり恥ずかしくなったりもして。
(この程度の腕で、自信満々だったのか、と…)
 とてもシドには言えやしないぞ、と呆れるような腕かもしれない。
 シドを後継者に指名した後は、かなり厳しく仕込んだから。
 操舵の腕も、キャプテンとしての心構えも、およそ自分の知ることは、全部。
(…ブルーの寿命が尽きちまった時は、俺もブルーの後を追うんだ、と…)
 シドを育てておいたのだけれど、結局、それは叶わなかった。
 前の自分は、地球の地の底で命尽きるまで、「キャプテン」のまま。
 とはいえ、シドを育成していたお蔭で、白いシャングリラは…。
(ジョミーも俺も、長老たちまでいなくなっても…)
 混乱しないで、トォニィの指揮で、燃え上がる地球を後にして去った。
 トォニィだけでは、それは難しかったろう。
 船を纏める者がいないと、指揮系統も乱れるから。


(…前の俺は、本当にいい仕事をしたな)
 結果的に、と褒めたくなる。
 けれど、その頃の自分がいる時代よりは、未熟な腕だった時代でいい。
 ブリッジを充分に堪能したら、次は艦内を見て回ろうか。
 公園や農場、ずっと昔は所属していた厨房もいい。
(今日のメニューは、何だろうな、と…)
 覗きに出掛けて、鍋などの中身も覗き込む。
 「ほほう」と、「なかなか美味そうじゃないか」と。
 それに機関部も見に行きたいし、子供たちの勉強風景なども。
(一通り見たら、青の間に行って…)
 前のブルーが其処に居たなら、静かに立って眺めていよう。
 今はもういない、美しい人を。
 チビのブルーになってしまって、とても「気高い」とは言えなくなってしまった人を。
(…これも、ブルーには言えやしないぞ)
 前のブルーにも、今のブルーにも…、と肩を竦める。
 どうしてブルーが「そうなる」のかを、前のブルーには言えないから。
 今のブルーに「前のブルーを見ていた」だなんて、口が裂けても言えやしないから。
(あいつ、自分に嫉妬するしな)
 怖い、怖い、と大袈裟に震えて、心の中で、爪先立ちで青の間を後にする。
 「くわばら、くわばら」と、「長居は無用」と。
 そして最後に訪れたい場所は、前の自分が使っていた部屋。
 棚に並べた航宙日誌や、沢山の本を眺め回して…。
(あの懐かしい椅子に座って、御自慢だった木の机を撫でて…)
 うんとゆっくり出来ればいいな、と心での旅は終わらない。
 「もしも、あの船に行けたら」と。
 「あの部屋も、いい居心地だった」と、「この書斎にも、負けちゃいなかったぞ」と…。



          あの船に行けたら・了


※今の自分がシャングリラに行けたら、と考えてみたハーレイ先生。誰にも見えない見学者。
 あちこち回って、前の自分の操舵を見たり、自分の部屋で寛いだり。楽しいですよねv








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(ハーレイと一緒に、地球まで来られたんだよね…)
 身体は新しくなっちゃったけど、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は会えずに終わったけれども、ハーレイは同じ町にいる。
 青く蘇った地球の上にある、ごくごく普通の町の一つに。
(…夢がホントになっちゃった…)
 前のぼくの、と遠く遥かな時の彼方に思いを馳せる。
 白いシャングリラで、どれほど地球に焦がれたことか。
 いつか行きたいと夢を描いて、前のハーレイと交わした約束。
 「いつか地球まで辿り着いたら」と、数え切れないほどの夢を託して。
(でも、前のぼくは…)
 地球への夢を、諦めざるを得なかった。
 寿命が足りなくなってしまって、行けないと悟った夢の星。
(…もしも、メギドで死ななかったら…)
 あるいは行けていたのかも、と考えて、直ぐに首をブンブンと左右に振った。
 「そんなのは、無理」と。
 前の自分が命を捨ててメギドを止めなかったら、ミュウは滅びていただろう。
 白い箱舟も焼かれてしまって、宇宙の藻屑。
(…ハーレイと地球まで行けるどころか、ハーレイだって…)
 ナスカで死んでしまっておしまい、と分かっているから、後悔は無い。
 前の生の終わりに、泣きじゃくりながら死んでいったことも、後悔なんかは…。
(多分、していなかったよね?)
 あまり自信が無いのだけれども、恐らく、してはいないと思う。
 ハーレイとの絆は切れてしまっても、ミュウの未来は守れたから。
 大勢の仲間を乗せた箱舟を、ハーレイが地球まで、きっと運んでくれるから。
(…だから、それでいい、って…)
 前の自分は納得していて、其処で終わりの筈だった。
 ハーレイと過ごした幸せな日々も、最後まで持っていたかった恋も。


 ところが、終わらなかった恋。
 気付けば自分は青い地球にいて、ハーレイまでがついて来た。
(ちょっぴりチビなのが、残念だけど…)
 育つまで結婚はお預けどころか、キスさえ、お預け。
 それでも、前の自分の夢は…。
(ちゃんと叶っているんだよ)
 ハーレイと地球に来られたものね、と今の幸せを噛み締める。
 前の生でハーレイと交わした沢山の約束、「地球に着いたら」と描いた夢が叶う人生。
 チビの自分が大きくなったら、今のハーレイが叶えてくれる。
 旅行に行ったり、ドライブしたりと、計画を立てて。
(生まれて来た星が、地球で良かった…)
 夢を叶えるには一番の場所、と嬉しくなる。
 他の星に二人で生まれていたなら、前の生での約束を果たそうと思ったら…。
(…地球まで、出掛けて行かないと…)
 地球での夢は叶わないから、とても大変だったろう。
 ハーレイの仕事が休みになる度、長期の旅行。
 夏休みくらいしか、無理かもしれない。
(そうなると、年に一回だけしか…)
 地球への旅は出来ないわけだし、旅行の時は予定がビッシリ。
 叶えたい約束をギュウギュウ詰め込み、あちこちの地域を駆け回って。
(考えただけでも、忙しそう…)
 バテちゃいそうだよ、と思うけれども、ハーレイと一緒に暮らせるのなら…。
(地球でなくても、気にならないよね?)
 だって、ハーレイがいるんだもの、と大きく頷く。
 前の生の終わりに切れたと思った、ハーレイとの絆。
 それが切れずに繋がっていたら、もう、それだけで充分だろう。
 地球からは遠い星に生まれてしまって、地球まで行くのが一苦労でも。
 前の生での夢を叶えるのが、ハードスケジュールな旅になっても。


(…ハーレイさえ、一緒にいてくれるなら…)
 ぼくは何処でも構わないや、と心から思うし、今の生でも、その点は同じ。
 ハーレイの仕事に、転勤なんかは無いのだけれど…。
(同じ町にある学校の中で、勤める学校が変わるだけだし…)
 他所の町には行かないけれども、仕事によっては、別の地域への転勤もある。
 違う町どころか、海を渡った遥か遠くの、全く違う文化の地域へ。
(もしも、そういう仕事だったら…)
 この町を離れて、引っ越す日がやって来たかもしれない。
 「そんなに遠いの?」と思う地域へ、もしかしたら砂漠があるような所。
 うんと暑くて、今の生でも弱い身体には、強い日差しが堪えるくらいに過酷な地域。
(住めば都だから、そういうトコにも…)
 好きで暮らしている人は多いし、ハーレイが転勤するのだったら、一緒に行く。
 毎日、「暑いよ」と、へばっていても。
 ちょっと散歩に出掛けることさえ、昼間は暑くて無理な場所でも。
(…ハーレイが一緒なら、ぼくは幸せ…)
 そのハーレイが行くと言うなら、何処へだってついて行くだろう。
 「今度の転勤、お前には、ちょっとキツそうだから」と、残るようにと勧められても。
 転勤が終わって帰って来るまで、両親の家で暮らすようにと、提案されても。
(ハーレイと離れるなんて、二度と嫌だよ)
 メギドの時だけで充分だから、と決意をこめて握った右手。
 前の生の終わりに、ハーレイの温もりを失くしてしまって、冷たく凍えてしまったから…。
(今度は、ハーレイの手を離さないってば)
 どんな場所でも、ついて行くよ、と右手を見詰める。
 「ハーレイが行くなら、何処だって行くよ」と。
(…君が行くなら、ぼくは必ず…)
 一緒に行くって言うからね、と。
 たとえハーレイが「駄目だ」と言おうが、絶対に「うん」と頷きはしない。
 「お前の身体には、良くないから」と、難しい顔をされたって。
 しょっちゅう寝込む羽目になろうが、ハーレイと離れるよりはいい。
 ハーレイが仕事に行っている間は、一人きりでベッドの住人でも。
 用意して行ってくれた食事を、食べる元気も出ない日々でも。


 そう、ハーレイが行くと言うなら、何処であろうと一緒に行く。
 「お前には無理だ」と説得されても、喧嘩になっても、諦めはしない。
 「ぼくも一緒に行くんだから」と、言い張るだけ。
 「でなきゃ、ハーレイも行かせやしないよ」と、まるで幼い子供みたいに駄々をこねて。
(…ハーレイが許してくれなくっても…)
 なんとかして、ついて行くんだもんね、と決心は固い。
 ハーレイが転勤して行った後で、自分もコッソリ纏めておいた荷物を送って…。
(其処へ行く便に乗って追い掛けて行けば、ハーレイだって…)
 諦めるしかないだろう。
 「ブルーの荷物」がドカンと届いて、本人もやって来たならば。
 「今日から、此処で暮らすからね」と、悪びれもせずに、上がり込まれたならば。
(…ハーレイが、ぼくを置いて行くほどの場所だから…)
 とても暑いとか、酷く寒いとか、とんでもない気候の場所だろう。
 ハーレイを追い掛けて着いた途端に、「こんなトコなの?」と後悔しそうなほどに。
 「ぼくの身体、ホントに大丈夫かな」と、クラリと眩暈を起こすくらいに。
(…路線バスとかで、ハーレイの家まで行こうとしてても…)
 その計画を立てて来ていても、たちまち挫折する自分がいそう。
 「そんなの無理だよ」と、手荷物さえも、もう重すぎて。
 ヨロヨロしながらタクシーに乗るのが、精一杯で。
(だけど、ハーレイがいる場所なんだし…)
 きっと心は幸せ一杯、「やっと来られた」と弾んでいることだろう。
 前の自分が、憧れの地球に着いたみたいな気分になって。
 どんなに過酷な気候の場所でも、ハーレイと一緒に暮らせるから。
(前のぼくにとっての、地球とおんなじ…)
 ハーレイさえいれば、それで充分、と自信はある。
 「ぼくは絶対、後悔しない」と。
 寝込んでばかりの日々になっても、身体が悲鳴を上げ続けても。
 ハーレイに「やっぱり、お前は帰った方がいい」と心配されても、「嫌だよ」と言うだけ。
 快適な暮らしが待っていたって、其処にハーレイはいないから。
 毎日、通信を入れてくれても、慰めになりはしないから。


(…君が行くなら、ホントに、どんな所へだって…)
 ぼくは必ずついて行くよ、と思ったはずみに、ハタと気付いた。
 今の自分が生まれて来たのは、青い地球。
 ハーレイも一緒について来たわけで、聖痕をくれた神様が起こした奇跡のお蔭。
 二人で地球に生まれる前には、きっと天国にいたのだろう。
 何処にも生まれ変わりはしないで、長い長い時を待っていた。
 青く蘇った水の星の上に、前の自分たちとそっくりに育つ身体が用意されるまで。
 神様がそれを創り出すまで、天国でずっと待ち続けて…。
(やっと生まれて来て、此処で暮らして…)
 生を終えたら、ハーレイと一緒に天国へ帰る。
 今度はけして離れることなく、呼吸も鼓動も、同時に止めて。
 二人一緒に身体を離れて、神の許へと戻ってゆく。
 問題は、それから後のこと。
 ずっと天国で暮らしてゆくのか、また青い地球に生まれて来るか。
 あるいは他の星に生まれて、心機一転、新しい暮らしをしてみるだとか。
(どうするにしても、ハーレイと一緒…)
 それは絶対、譲らないからね、と思うけれども、ハーレイはどれを選ぶだろうか。
 のんびり天国で暮らしてゆくのか、地球に行くのか。
(…今度はスポーツ選手もいいな、って…)
 言い出すかもね、と平和な暮らししか浮かばないけれど、なにしろ、天国なのだから…。
(…他の世界も見えちゃうのかな?)
 平和になってはいない世界、と心配になる。
 神様が見ている世界の中には、そういう場所もあるかもしれない。
 前の自分たちが生きた世界みたいに、虐げられる人々が今もいる世界。
 ミュウが迫害されていたように、容赦なく殺されてゆくような。
(…もしも、そういう世界があったら…)
 ハーレイが、それに気が付いたならば、其処へ行こうと考え始めることだろう。
 とても放ってはおけないから。
 前のハーレイが、そうだったように。
 燃えるアルタミラで、他の仲間を助けなければ、と口にしたのはハーレイだから。


(…前のぼくには、そんな考えなんかは無くって…)
 ただぼんやりと座り込んでいたのに、前のハーレイの言葉で、二人一緒に駆け出した。
 他のシェルターに閉じ込められた仲間を、一人でも多く助け出そうと。
 燃え上がる地面を二人で走って、崩れ落ちて来る瓦礫なんかは気にもしないで。
(…だから、ハーレイなら、きっと…)
 今も苦しんでいる人々を放っておけずに、「俺は、あそこに行って来る」と言うのだろう。
 「なあに、その内に帰って来るさ」と笑みを浮かべて。
 「あそこのヤツらを助け出せたら、大急ぎで此処に戻るから」と。
 それまで天国で待っているよう、とても優しい笑顔を向けて。
 「ほんの少しの間だしな」と、「お前には危険すぎるから」と。
(…転勤先の気候が、ぼくには厳しすぎるから、って…)
 両親の家で暮らした方がいい、と提案するのと、全く変わらない顔をして。
 「俺なら一人で大丈夫だから」と、「一人暮らしは得意だってな」と。
(…だけど、そんなの、嫌だから…!)
 ハーレイだけが危険な場所に行くなど、我慢が出来るわけがない。
 自分はのんびり天国暮らしで、ハーレイだけ苦労するなんて。
 危ない目に遭ったり、怪我をするのを、天国から見ているだけだなんて。
(…君が行くなら、ぼくだって行くよ!)
 もう一度、メギドみたいなことになっても…、と握り締める右手。
 ハーレイの側から離れてしまって、一人きりで死ぬ羽目になろうと…。
(……安全な場所から、見ているだけの暮らしなんかは……)
 ぼくには絶対、出来やしない、と分かっているから、ついて行く。
 ハーレイが、その道を選ぶなら。
(…絶対、ついて来るんじゃないぞ、って言われるに決まっているけれど…)
 コッソリついて行くんだもんね、とニコリと微笑む。
 「君が行くなら、ぼくも行くから」と。
 「前みたいな地獄が待っていたって、君と一緒なら、天国だから」と…。



           君が行くなら・了


※ハーレイ先生が行くのだったら、砂漠だろうと、ついて行くのがブルー君。反対されても。
 前の生のような世界だろうと、やはり一緒に行くのです。止められても、コッソリとv








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(あいつと、地球に来られたんだが…)
 それも蘇った青い地球に、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(青い地球といえば、前のあいつの憧れの星で…)
 前の俺だって憧れたんだ、と今もハッキリと覚えている。
 遠く遥かな時の彼方で、前のブルーと描いた夢を。
 「いつか、地球まで辿り着いたら」と、青い水の星に焦がれたことを。
 なのに、青い地球は何処にも無かった。
 白いシャングリラから目にしたものは、毒素を含んだ海と砂漠に覆われた星。
 死に絶えたままの赤茶けた星が、前の自分たちの時代の地球。
(そいつが青く蘇ってくれて、今の俺たちが暮らしてるんだが…)
 実に素晴らしいことなんだが、と頬を緩めて、「しかし…」と思考を元へと戻す。
 「あいつと生まれ変われるんだったら、地球でなくても良かったよな」と。
 前の生から恋をしていた、愛おしい人。
 生まれ変わって、また巡り会えた、大切なブルー。
 今ではチビの子供だけれども、ブルーと一緒に暮らせるのならば、別の星でも構わない。
 地球からは遠く離れ過ぎていて、そう簡単には行けない星でも。
(…今は平和な時代なんだし、うんと離れていたってだな…)
 長い人生を生きる間には、地球へ行ける日も来るだろう。
 伴侶になったブルーを連れて、憧れの地球を見に行くために旅をする。
 シャングリラの舵輪を握る代わりに、快適な宇宙船の乗客になって。
(それであいつが、地球をすっかり気に入っちまって…)
 地球に住みたいと言い出したならば、迷うことなく地球に引っ越す。
 それまで暮らした星での仕事も、住み慣れた家も、あっさりと捨てて。
 地球で新しい仕事を探して、ブルーの望みの地域に住んで。
(…今の時代なら、そう厄介なことじゃないしな?)
 仕事探しも、引っ越しだって…、と大きく頷く。
 「あいつが望むなら、お安い御用だ」と、「地球で一から、また始めるさ」と。


 今の自分でも、同じ選択は出来ると思う。
 地球とは違った何処か別の星で、ブルーが暮らしたいのなら。
 「あの星で暮らせたらいいな」と、前の生で地球に焦がれていたのと、同じ瞳をするのなら。
(…絶対、有り得ないんだが…)
 あいつの憧れは青い地球だし、と分かってはいても、「俺にだって出来るさ」と溢れる自信。
 ブルーが行きたいと言うのだったら、どんな星にでも、一緒に引っ越してゆく。
 古典の教師の仕事は捨てて、長く暮らした家さえも捨てて。
(…親父とおふくろも、置いてっちまうことになるんだが…)
 マメに連絡すればいいさ、と思い浮かべる、隣町に住む両親の顔。
 「遠くへ引っ越すことにしたんだ」と言っても、きっと許してくれる、と。
(俺の親父と、おふくろだしな?)
 引っ越す理由を口にしたなら、「頑張れ」と励ますことだろう。
 伴侶になったブルーの望みを、ちゃんと叶えてやるべきだ、と。
(幸せにしてやるんだぞ、と…)
 父にバンバン背中を叩かれ、母からも貰う励ましの言葉。
 「しっかり仕事を探しなさいよ」と、「ブルー君を幸せにしてあげなさいね」と。
(…引っ越し先には、古典の教師の仕事なんかは無くっても…)
 なんとかなるさ、と眺める両手。
 「力仕事も充分出来るし、料理も、そこそこ出来るんだしな」と。
 ブルーを食べさせてゆける仕事を見付けて、家も見付けて、二人で暮らす。
 地球からは遠く離れた星でも、其処でブルーが暮らしたいなら。
 今のブルーの夢の星なら、たとえ砂漠の星であろうと。
(…そうさ、あいつが行くと言うなら…)
 何処へだって行くさ、とマグカップの縁をカチンと弾く。
 「あいつが行くなら、何処へだって」と。
 地球でなくても、どんな場所でも、ブルーが行くなら、一緒にゆく。
 迷うことなく、瞬時に決めて。
 「お前が行くなら、俺も行くさ」と、とびきりの笑顔をブルーに向けて。


(…行った先で、少々、苦労しようが…)
 苦労の内にも入らないよな、と心から思う。
 ブルーの望みを叶えるためなら、どんな苦労も厭いはしない。
 前の生からそうだったのだし、今の生でも同じこと。
(砂漠で暮らして、毎日、水汲みから始まるようになってもだな…)
 水場が遠くて大変だろうと、其処がブルーの望みの場所なら、気にしない。
 ブルーは、其処がいいのだから。
 砂まみれになって暮らす日々でも、幸せ一杯でいてくれるなら。
(…まあ、あいつだって、そんな人生は…)
 望まないだろうし、一生、地球で平和に行くさ、と思ったところで、ハタと気付いた。
 「じゃあ、この次はどうなんだ?」と。
 青い地球の上で共に暮らして、此処での生を終えた後。
 ブルーの望みは、「ハーレイが死ぬ時は、ぼくも一緒」で、同時に逝くこと。
 二人揃って、この青い星に別れを告げるのだけれど、そうして身体を離れた後は…。
(…まずは天国に戻って行って…)
 それから先は、どうするのだろう。
 ずっと天国で暮らしてゆくのか、また青い地球に戻るのか。
 あるいは別の星に行くのか、そういったことは、どうなるのだろう、と。
(俺たちは多分、地球に来るまで…)
 一度も、何処にも生まれちゃいない、と確信に満ちた思いがある。
 前の自分たちと同じ姿に育つ肉体、それを得られる時が来るまで待っていたのだ、と。
(…神様が、そのように計らって下さって…)
 長い時間を天国で待って、今の時代に生まれて来たのに違いない。
 ブルーと二人で、今度こそ幸せに生きられるよう。
 前の生で夢を描いていた星、青く蘇った水の星の上で。
(…俺たちの望みは、叶ったんだし…)
 ブルーだって、きっと大満足の人生を送ってゆける。
 前の生で地球に抱いていた夢、それを端から叶えていって。
 今ならではの沢山の夢も、全て叶えて、幸せ一杯。
 最高の人生を送ったブルーは、また天国に戻った後は、どんな選択をするのだろう。
 もう一度、地球に行こうとするのか、天国でのんびり暮らしてゆくか。


(…さてな…?)
 こればっかりは、俺には分からん、とコーヒーのカップを傾ける。
 いくらブルーのことが好きでも、自分は「ブルー」ではないのだから。
 ブルーが何を考えているか、どう望むのかは、ブルー自身にしか分からない。
(…心を読むのとは、別問題で…)
 あいつにしか分かりはしないしな、と思うけれども、ブルーが選んだ道ならば…。
(俺は一緒について行くだけで、ずっと一緒だ)
 さっきも考えていた通りにな、と迷いなどは無い。
 ブルーが、また地球に生まれたいなら、自分も地球に生まれて来る。
 のんびり天国暮らしをするなら、ブルーと一緒にのんびり暮らす。
(…あいつが行くなら、何処だって行くさ)
 砂漠の星でも気にしないぞ、と脳裏に描いた、死の星だった地球。
 「ああいう星でも、行ってやるさ」と、「あいつが行きたいと言うんならな」と。
(…今の時代じゃ、あんな星なんか…)
 何処にも無いと思うんだがな、と分かるけれども、ブルーが「次」を決める所は…。
(天国って所で、此処とは違って…)
 ありとあらゆる様々な世界、それを見渡せる場所かもしれない。
 平和などとは縁遠い星や、前の自分たちが生きていた頃の世界みたいに…。
(…迫害されて、片っ端から殺されていく人間たちが…)
 いる世界だって、もしかしたら、今もあるかもしれない。
 全く違った別の世界なら、それも有り得る。
 天国という場所から広く見渡せば、目に入る世界の中の一つに。
(あいつが、それを見付けちまったら…)
 行こうとするかもしれないな、と零れた溜息。
 「なにしろ、あいつなんだから」と。
 今は我儘な甘えん坊のチビで、サイオンも不器用な子供であっても、中身は「ブルー」。
 遠く遥かな時の彼方で、「ソルジャー・ブルー」と呼ばれた人。
(…うんと幸せに暮らした後だと…)
 きっと放っておけないだろうな、と容易に分かる。
 「次に選ぶのは、その世界だろう」と。
 恐ろしい世界に生まれ変わって、迫害されている人々を助けようとするのだろう、と。


 平和な青い地球があるのに、のんびり天国にいてもいいのに、違う世界へ行くブルー。
 かつて背負って生きた重荷を、また背負うために。
 苦しむ人々を救って、逃がして、生きられる道へ導くために。
(…そうするために、あいつが行くなら…)
 俺も一緒に行くまでだ、とカップに入ったコーヒーを見詰める。
 「またコーヒーとも、おさらばかもな」と。
 時の彼方で暮らした船には、本物のコーヒーは無かったから。
 キャロブから作った代用品だけ、そんな暮らしが長かったから。
(そうなったとしても、本望ってヤツだ)
 ブルーと一緒に行けるのならな、と後悔しない自信はある。
 「次の人生でも、あいつの側にいられるんなら、コーヒーなんぞは、要りはしないさ」と。
 どうせブルーはコーヒーが苦手、次の生でも同じことだろう。
 それなら、コーヒーなどは無用の長物、代用品さえ無くてもいい。
(次は、ブルーもコーヒーが好きになってりゃ、別なんだがな)
 きっと必死にコーヒーを探す俺がいるさ、と思うくらいに、ブルーのことが、まずは第一。
 わざわざ重荷を背負いに行くなら、なおのこと。
 次は少しでも、重荷を軽くしてやりたい。
 最初から二人で行く世界だから、ブルーが背負うのだろう荷物を…。
(俺が半分、いや、俺の方が身体がデカい分だけ、余計にだ…)
 ブルーの肩から、背中から、ヒョイと取り上げて代わりに背負う。
 「このくらい、俺に任せておけ」と。
 「お前の身体は小さいんだから、無理をするな」と。
 とはいえ、相手は「ブルー」なのだし…。
(そうもいかん、という気もするが…)
 ついでに、俺の能力不足ということも…、と思っても決意は変わりはしない。
 「次こそは、俺が背負ってやる」と。
 ブルーにしか背負えないというのだったら、ブルーを背負う。
 「ブルー」を丸ごと背負ってやったら、重荷も一緒についてくる筈。
 「ハーレイ」の手には余るものでも、ブルーの心の重荷なら…。
(背負えるんだし、そうすりゃいいっていうだけのことだ)
 丸ごと広い背中に背負って、ブルーの辛い人生までをも、自分が背負ってやったなら。


(うん、それでいいな)
 それなら、あいつも辛くないさ、と固めた決心。
 今の平和な、地球での暮らしもいいけれど…。
(あいつが行くなら、前みたいな地獄に逆戻りでも…)
 次こそ、上手く生きてみせる、と一気に飲み干したコーヒーの残り。
 「またコーヒーとは、おさらばでもな」と。
 嗜好品などまるで無くても、ブルーと一緒にいられればいい。
 地獄のような世界でも。
 ブルーが重荷を背負ってゆくなら、それをブルーごと背負ってやって…。



         あいつが行くなら・了


※ブルー君が行くと言うなら、どんな場所でも一緒に行くのがハーレイ先生。砂漠の星でも。
 次の生でブルーが辛い人生を選び取っても、やはり一緒に行くのです。何処までも、二人でv








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(夜、寝てる間に小人が出て来て、ぼくの代わりに…)
 いろんなことをしてくれる、って話があったっけ、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…小人さんの、お手伝い…)
 作りかけだった靴を仕上げたり、掃除をしたり、小人がしてくれる仕事は色々。
 この部屋にも、小人が住んでいたなら…。
(…ぼくの代わりに、何をしてくれるわけ?)
 ぼくは仕事をしていないから、と首を捻った。
 大人ではないから、仕事というものは全く無い。
 あえて言うなら勉強が仕事、今の自分は十四歳の子供に過ぎないから。
(でも、勉強は…)
 自分でやらないと身につかないし、小人に任せるわけにはいかない。
 宿題を代わりにやって貰うなど、言語道断。
 もっとも、その前に、自分の場合は…。
(夏休みとかの宿題だって、早めにやってしまうタイプで…)
 小人の助けが必要なほどに、溜め込むような子供ではない。
 つまり、小人がこの部屋に住んでいたって…。
(小人のお仕事、何も無いよね?)
 ちょっぴり残念、とガッカリと床に視線を落として、其処に見付けた小人の仕事。
 何かを床に落っことした時、拾える場所ならいいけれど…。
(ベッドの下とかに入ってしまって…)
 うんと奥の方に行ってしまったら、チビの自分の手は届かない。
 物差しを使って、精一杯に手を伸ばしたって、駄目な時にはどうしようもないから…。
(夜の間に、小人に拾って来て貰ったら…)
 いいわけだよね、と大きく頷く。
 今までにも、何度も代わりに拾って貰った、自分では取れなくなったもの。
 ハーレイに拾って貰ったことも、何度かあって…。


(…ハーレイ…?)
 もしも、ハーレイが小人だったら、とポンと頭に浮かんだ考え。
 今のハーレイは、小人などではないけれど…。
(神様だったら、そういうことも…)
 出来ちゃうよね、と閃いた。
 聖痕をくれて、ハーレイを生まれ変わらせてくれた凄い神様。
 青く蘇った水の星の上に、二人揃って連れて来てくれた力の持ち主。
(だったら、ハーレイを小人にするのも…)
 きっと簡単なんだから、と自信を持って言い切れる。
 「神様だったら、出来る筈だよ」と。
 チビの子供に生まれ変わった自分の部屋に、小人のハーレイを連れて来ることだって、と。
(小人だったなら、今のハーレイとは違うよね?)
 そもそも小人なんだから、と素敵な思い付きを追い掛けてみることにした。
 どんな出会いになるのだろうかと、二人の日々はどうなるのか、と。
(えーっと…?)
 小人のハーレイには、今のハーレイのような家族はいないのだろう。
 前のハーレイが小さくなって、そのまま部屋に現れる。
 それが一番、自然な形になるだろうから。
(小人の家族を作るよりかは、ハーレイだけを…)
 小人の姿に生まれ変わらせる方が、神様も楽に違いない。
 燃え上がる地球の深い地の底、其処で命尽きたという、前のハーレイ。
 その魂をそっと拾って、新しく与える小人の身体。
 ただし、記憶はそのままで。
 見た目もキャプテン・ハーレイそのまま、何処も全く変わることなく。
(最初から大人で、前の命の続きを新しく貰ったハーレイ…)
 そういう小人のハーレイなんだよ、と決めた設定。
 キャプテンの制服を着込んだ小人で、「前のハーレイが小さくなっただけ」と。
 そんなハーレイが、この部屋にやって来るのなら…。
(ぼくが寝ている間じゃないよね?)
 再会出来ないと駄目なんだもの、と眺め回した自分の部屋。
 「小人のハーレイが最初に現れる場所は、何処がいいかな?」と。


 前のハーレイの記憶を持った、小人のハーレイ。
 キャプテン・ハーレイの姿で出て来て、「ブルー!」と呼んでくれるのだろう。
 現れる場所は、読書をしている机の上が良さそうな感じ。
 読書中だし、勉強の邪魔にはならない時間。
 しかも机の上だったならば、床と違って、知らずに踏んでしまう心配などは要らないから。
 小人だから、声は小さいけれども、呼び掛ける声は、ちゃんと耳まで届く筈。
 ハーレイの声を聞いた瞬間、チビの自分の記憶が戻って来るのだと思う。
 聖痕の代わりに、ハーレイの声が切っ掛けになって。
 遠く遥かな時の彼方で、恋をしていた人の懐かしい声で。
(…それもいいかも…)
 聖痕と違って痛くないし、とキュッと握った小さな右手。
 前の生の終わりに冷たく凍えた、悲しい思い出を秘めた手なのだけれど…。
(小人のハーレイが、来てくれたなら…)
 メギドのことなんか、どうでもいいや、という気がする。
 ハーレイと再び出会えたのなら、もうそれだけで充分だろう。
 たとえハーレイが小人だろうが、今の自分が十四歳の子供だろうが。
(…小人だったなら、恋は出来ても…)
 キスは無理そう、と苦笑する。
 なにしろハーレイは小さすぎるし、再会のキスも出来そうにない。
 会えて、どれほど嬉しくても。
 小人のハーレイを手のひらに乗せて、「会いたかったよ」と顔の側まで持って来たって。
(…キスは駄目だ、って叱られなくても…)
 とても小さいハーレイだしね、とハーレイのサイズを考えてみる。
 手伝いをしてくれる小人のサイズは、どのくらいだろう、と絵本なんかを思い出して。
(……ぼくの親指くらいかな?)
 十四歳の子供の手だから、もう少しくらい大きいだろうか。
 手のひらに乗せるには、多分、そのサイズが一番、お似合い。
 小さすぎもせず、大きすぎもしない、親指より少し大きいハーレイ。
 キャプテンの制服を着込んでいたって、小さな小人。
 けれど誰よりも愛していた人、小人になっても愛おしい人。
 キスも出来ないサイズになっても、手のひらに乗っかる恋人でも。


(…ぼくの手のひらに、小人のハーレイ…)
 再会したなら、手のひらに乗っけて、懐かしみながら眺め回すことになるだろう。
 「うんと小さいけど、ハーレイなんだ」と。
 「また会えるなんて思わなかった」と、「絆は切れていなかったんだ」と。
(……きっと、泣いちゃう……)
 瞳から涙がポロポロ零れて、止まらなくなってしまいそう。
 メギドで泣いた時とは違って、嬉しくて、懐かしくて、幸せ過ぎて。
(ぼくが泣いてたら、小人のハーレイが…)
 どうしたんです、と優しく尋ねてくれるだろうから、ますます止まらない涙。
 「ホントに本物のハーレイなんだ」と、心が一杯になってしまって。
(…メギドで、キースに撃たれちゃったこと…)
 ハーレイを心配させたくなくても、話さずには、きっといられない。
 今の自分はチビの子供で、前の自分とは違うから。
 何もかも胸に秘めておくには、あまりにも幼すぎるから。
(……ぼくの右手、凍えちゃったんだよ、って……)
 打ち明けたならば、小人のハーレイは怒り心頭、キースを憎むだろうけれど…。
(キース、何処にもいないしね?)
 だから安心、とホッと息をつく。
 もしもキースが、今の時代に、何処かに生まれていたならば…。
(小人のハーレイ、仇を討ちに行きそうだから…)
 うんと怒って、と可笑しくなる。
 今は平和な時代なのだし、仇を討ちに出掛けたところで、キースを殺しはしない筈。
 日頃、今のハーレイが言っているように、一発、お見舞いする程度。
(でも、小人だから…)
 渾身の一撃をお見舞いしたって、キースには堪えないだろう。
 虫に刺された程度くらいの、小人のハーレイに殴られたダメージ。
 顔の真ん中に食らったとしても、ちょっぴり赤くなるだけで。
 ガツンと鈍い音もしなくて、せいぜい「パチン」か「ピシャン」くらいで。
(…キースがいたなら、面白いかもね?)
 そういうのも、楽しそうだから、と思うけれども、キースはいない。
 小人のハーレイがキースを殴りたくても、今の世界の、何処を探しても。


 キースを一発殴りたいのに、殴れないのが小人のハーレイ。
 そうする代わりに、右手を温めてくれるのだろう。
 小人の手だから、ギュッと握って包み込むことは出来なくても。
 右手をすっぽり包みたくても、自分の身体が親指サイズのハーレイでも。
(手のひらの上で、せっせと擦ってくれそうな感じ…)
 小さな両手で、マッサージして。
 「少し温かくなりましたか?」と、「一番冷たい所は、何処です?」と。
(…ハーレイ、汗だくになっちゃいそう…)
 ぼくの右手は大きいものね、と右手を広げて眺めてみる。
 小人には、とても大きそうだと、「ハーレイを乗っけられるくらいだもの」と。
 それほど大きな右手の持ち主、けれどもチビで幼い子供。
 前の生の終わりに凍えた右手は、やっぱりハーレイに温めて欲しい。
 ハーレイが小人になっていたって、小さな身体でマッサージくらいしか出来なくても。
(…うんと甘えん坊な、ぼく…)
 だけどハーレイなんだもの、と欲張りな気持ちは止められない。
 メギドのことも話してしまうし、右手が凍えたことも喋ってしまう。
 前の生から愛した人には、どうしても甘えてしまうから。
 ソルジャー・ブルーだった頃のようには、今の自分は振る舞えないから。
(…そうだ、ハーレイの敬語…!)
 それは直させなくっちゃね、と気が付いた点。
 いくらキャプテンの制服姿で、前のハーレイの命の続きを生きていたって…。
(小人のハーレイは、新しく生まれて来たんだから…)
 新しい命と身体を持っているのだし、敬語は直すべきだと思う。
 チビの自分は、「ソルジャー・ブルー」ではないのだから。
 敬語を使って話す必要など、欠片もありはしない今。
 ハーレイが敬語で話し掛けたら、「違うよ」と、即座に直さなければ。
 小人のハーレイが使う言葉が、今のハーレイのようになるまで。
 自分のことを「俺」と言うようになって、「ブルー」を「お前」と呼び始めるまで。
 でないと、きっと嬉しさ、半減。
 敬語を話すハーレイのままでは、お手伝いの小人と変わらないから。


(…お手伝いをしてくれる小人だったら、敬語でも…)
 いいんだけどね、と思う反面、小人のハーレイと暮らすのならば…。
(…お手伝いだって、してくれるよね?)
 落っことした物を拾うだけでも、とベッドの下を覗いてみる。
 小人のハーレイがヒョイと入って、「ほら」と渡してくれる鉛筆や消しゴム。
 「けっこう重いな」と、「今の俺には、これでも充分、重労働だ」と笑いながら。
(…もっと身体を鍛えないと、ってトレーニングとかするのかな?)
 この部屋の中を走り回ったり、あちこち、登って下りたりして。
 落とし物を軽々と拾えるようにと、身体を鍛える姿が目に浮かぶよう。
 今も昔も、ハーレイは、とても努力家だから。
(…そうやって鍛えた身体を使って、本のページも…)
 ぼくの代わりに捲ってくれそう、と広がる想像の翼。
 灯りなどを点けるスイッチの類も、小人のハーレイに頼んだならば…。
(お安い御用だ、って小さな身体で…)
 点けたり、消したり、お手伝いしてくれると思う。
 「俺のブルーのためなんだしな」と、小人に出来ることなら、何でも。
(…それも楽しそう…)
 唇にキスは貰えないけど、と夢を見たくなる、小人になったハーレイとの日々。
 「もしもハーレイが小人だったなら、こんな風かな?」と。
 「小人でも、きっと幸せだよ」と、「小人でも、ハーレイはハーレイだもの」と…。



           小人だったなら・了


※再会したハーレイが小人だったなら、と想像してみたブルー君。親指サイズのハーレイ。
 キスも出来ない恋人ですけど、それはそれで幸せな日々になりそう。ハーレイは、ハーレイv










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(寝ている間に、小人がだな…)
 色々なことをやってくれるって話があるんだよな、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(生憎と俺は、小人の手助けが必要なほどには…)
 仕事を溜め込みはしないんだがな、と苦笑しながら、机の上を眺め回した。
 「片付けの必要も無さそうだぞ」と。
 ブルーに貰った白い羽根ペン、夏休みにブルーと一緒に写した写真。
 本なども置いてあるのだけれども、雑然としてはいない其処。
 たとえ小人がやって来たって、片付けて貰う物などは無い。
 書斎に並んだ本にしたって、整理してあるものだから…。
(小人の用事は、何も無いなあ…)
 他の部屋でも同じことだな、と考えてみるリビングやダイニング。
 それにキッチン、何処にも小人の出番などは無い。
 家事も雑事も、日頃からマメにやっているものだから。
(…こんな家には、小人なんかは…)
 来てくれないな、と改めて見渡していたら、ポンと頭に浮かんだこと。
 「あいつだったら?」と。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が恋をした人。
 今ではチビに生まれ変わって、同じ町に住んでいるのだけれど…。
(…前のあいつが、生まれ変わって来る代わりにだな…)
 小人になって現れたなら、と思い付いた「もしも」。
 再会出来ることは間違いないから、そういう出会いもアリかもしれない。
 神様の粋な計らいなのか、遊び心かは知らないけれど。
(……小人の、あいつなあ……)
 そいつも、ちょいといいかもしれん、と顎に当てた手。
 前のブルーは、強大なサイオンを誇っていたから、小さな小人になったって…。
(充分、手伝いが出来そうじゃないか)
 サイオンでやればいいんだからな、と考える。
 「小人のブルーが、俺の目の前に現れるってのも、素敵じゃないか」と。


 手伝いをしてくれる小人というのは、本来、姿を見せないもの。
 家の持ち主が眠っている間に、様々なことを手伝ってくれて、姿を消す。
 だから、手伝って貰った人間の方は、目が覚めてから…。
(昨夜は有難うございました、と…)
 お礼の品物を置いておくわけで、それも知らない間に消える。
 小人はコッソリ持って帰って、姿を見せたりしないから。
(…しかし、あいつが小人になるなら…)
 神様が巡り会わせてくれるわけだし、事情は全く違ってくる。
 小人のブルーは、最初から姿を見せるのだろう。
 ある日、いきなり、この書斎にでも。
 懐かしい声で、「ハーレイ?」と呼び掛けて。
 「ただいま」と、「ちゃんと帰って来たよ」と。
(…途端に、俺の記憶も戻って…)
 小人の正体も、時の彼方で恋をしたことも、何もかも思い出すのだろう。
 「俺のブルーが帰って来た」と。
 とても小さくなったけれども、「俺のブルーだ」と。
(小人だからなあ…)
 今のあいつどころじゃないチビだよな、と鳶色の瞳を瞬かせる。
 小人になってしまったブルーは、どのくらいのサイズなのだろう、と。
(俺の手のひらに乗るくらいなのか、もっと小さいか…)
 親指サイズじゃ小さすぎだぞ、と思いはしても、そう大きくもなさそうなブルー。
 なんと言っても小人なのだし、やはり親指くらいだろうか。
(…俺の親指サイズなら…)
 こんなものか、と右手を軽く開いて、「よし」と大きく頷いた。
 親指サイズのブルーだったら、手のひらに丁度いい具合。
 チョコンと座らせてやるにしたって、乗っけて移動するにしたって。
(うん、そのくらいのブルーってことで…)
 考えてみるか、と想像の翼を広げてゆく。
 小人になってしまったブルーと、どんな暮らしが始まるか。
 どういう日々が待っているのか、この思い付きを追ってみよう、と。


(…あいつのことだし、小人になって現れたって…)
 メギドで何が起こったのかは、きっと話しはしないだろう。
 「もういいだろう?」と、「ぼくは帰って来たんだから」と言うだけで。
 何もかも自分の胸に隠して、ニッコリ笑うに違いない。
 「ぼくは充分、幸せだから」と。
 「ちゃんとハーレイに会えたんだから」と、「それに地球にも来られたしね」と。
(…そう言われたら、俺も聞くわけにはいかないし…)
 メギドのことは、それっきり。
 「また会えたのだし、それだけでいい」と。
(でもって、あいつの寿命もだな…)
 小人の姿になった時点で、新しく貰った命なのだし、尽きたりはしない。
 前のブルーの姿のままでも、「ハーレイ」と一緒に生きてゆける命。
 先に燃え尽きてしまいはしないで、「ハーレイ」の命が終わる時まで。
(…ちと、小さすぎて…)
 キスをするのも難しいんだが、と思うけれども、それでも嬉しい。
 ブルーが戻って来たのだから。
 今度こそ一緒に生きてゆけるし、住んでいる場所も、青く蘇った地球の上。
 時の彼方で前のブルーと描いた幾つもの夢を、二人で叶えてゆくことが出来る。
 「いつか地球まで辿り着いたら」と、青い水の星に託した夢を。
(…なんたって、此処は地球なんだしな?)
 いくらでも夢は叶えられるさ、と自信はたっぷり。
 チビの子供になったブルーとも、沢山、約束しているけれど…。
(前のあいつが、小人になって現れるんなら…)
 待ち時間などは必要無い。
 チビのブルーに、「お前が大きく育ったらな」としか言えないのとは違う。
 最初から二人で暮らしてゆけるだけでも、大きな違い。
 小人のブルーなら、そのまま家に住み付けるから。
 結婚式を挙げていなくても、現れた日から、何の支障も無く。
 家の持ち主で恋人の「ハーレイ」、つまり「自分」が許可すればいい。
 「今日から、此処で暮らすんだろう?」と、「俺の家だし」と。


 もちろんブルーも、現れた時から、そのつもりだろう。
 「ハーレイの家で暮らしてゆこう」と、「地球で暮らせる」と。
 だから意見は一致しているし、ブルーが住む家は「ハーレイの家」。
(姿を見せずに暮らすんじゃなくて…)
 真昼間でも、小人のブルーは気にしない。
 来客があれば別だけれども、そうでない時は、姿を隠しはしない。
(そして、サイオンで…)
 俺の手伝いをするんだよな、と思ったけれども、それに関しては如何なものか。
 手伝うことが無いというのも、問題の一つではあるけれど…。
(…前のあいつは、裁縫の腕はからっきしで…)
 ボタンの一つも満足につけられはしなかった。
 キャプテンの制服の袖を直そうとして、直す前よりも酷くなったほど。
(それが可笑しくて、スカボローフェアを教えてやったら…)
 前のブルーはサイオンを使って、歌に出て来る無理難題をやり遂げた。
 「縫い目も針跡も無い、亜麻のシャツ」を作って、誇らしげに持って来たブルー。
 もっとも、難題は果たせたものの…。
(あのシャツ、着られなかったんだよなあ…)
 サイズぴったりの亜麻のシャツじゃな、とクックッと笑う。
 ボタンもファスナーも無かったシャツでは、頭から被って着るしかない。
 なのに、そのための「余裕」が無かった、奇跡のシャツ。
 被ろうとしたら、ビリビリと破れてしまうしかない、身体にぴったり過ぎたシャツ。
(…ああいうヤツだし、俺の手伝いは…)
 まるっきり期待出来そうにない、と天井を仰ぐ。
 サイオンで出来そうな手伝いと言えば…。
(…米も研げないし、包丁をサイオンで使われても…)
 なんだかなあ、と思うものだから、卵を割って貰うくらいだろうか。
 朝、オムレツをこしらえる前に、「ちょっと頼む」と。
 「卵を割っておいてくれるか」と、「今日は二個だな」と。
(……その程度だな)
 まあ、いいんだが、とマグカップを指でカチンと弾く。
 小人の手伝いは要らない家だし、特に何かをしてくれなくても、と。


(そもそも、あいつがいてくれるだけで…)
 俺は充分に幸せなんだ、と「小人のブルー」との暮らしを追ってゆく。
 ブルーに手伝いをして貰うよりは、自分がブルーの役に立ちたい方だよな、と。
(小人なんだし、いくらサイオンが使えても…)
 この家で暮らしてゆこうとしたなら、前の生のようにはいかないだろう。
 「ハーレイ」のサイズに合わせて出来ている家は、小人のブルーには大きすぎるから。
 階段の上り下りにしたって、「えいっ!」と飛ばないと、一段さえも…。
(上れないよな、親指サイズじゃ…)
 ちと愉快だが、と階段を上ろうと頑張るブルーを想像してみる。
 サイオンを使って飛べばいいのに、断崖を登る登山家みたいに、ロープをかけているブルー。
(…でなきゃ、小さな箱でも積んで…)
 せっせと上っていくのだろうか、「やっと一段、上ることが出来た」と、二階に向けて。
 一段、上に上がることが出来たら、ロープや箱を引き上げながら。
(大仕事だよな、二階まで行くというだけで)
 それでも頑張って上りそうだ、と「前のブルー」の頑固さを思う。
 こうと決めたら、けして譲らなかったから。
 そのせいでメギドに行ってしまって、二度と戻りはしなかったから。
(だが、それは…)
 分かっちゃいるんだが、今度は俺が手助けするんだ、と思う「小人のブルー」との暮らし。
 ブルーが「一人で出来る」と言っても、手伝えることは手助わなくては。
(階段を一人で上ってる所を俺が見たなら、ヒョイと掴んで…)
 手のひらに乗せて、スタスタと二階へ上ってゆく。
 ブルーが使っていたロープや箱も、「置いておいたら、踏んじまうしな?」と一緒に持って。
 「お前は頑張らなくていいんだ」と、「今度は俺に頼ってくれ」と。
 帰って来てくれた愛おしい人に、二度と苦労をさせたくはない。
 どんな些細なことであろうと、ブルーに頑張らせるよりは…。
(俺が代わりに、あれこれやって…)
 あいつに楽をさせてやるさ、とコーヒーのカップを傾ける。
 「小人なんだし、何も頑張らなくてもな?」と。
 「俺の家には、小人の手伝いは要らないんだから」と。


 小人のブルーと暮らしてゆくなら、ブルーにも幸せでいて欲しい。
 青い地球の上をあちこち旅して、見せてやるのもいいけれど…。
(まずは、あいつの夢の朝食…)
 そいつを、うんと豪華にやるか、と広がる夢。
 前のブルーが夢見た朝食、本物の砂糖カエデから採れたメープルシロップと…。
(地球の草を食んで育った牛のミルクで作った、美味いバターと…)
 それを添えて食べるホットケーキが、前のブルーが地球に描いていた夢の一つ。
(小人のブルーじゃ、普通サイズのホットケーキでも…)
 ベッドよりデカいサイズだからな、と浮かぶ笑み。
 「帰って来たブルーが小人だったら、豪華なベッドをプレゼントだ」と。
 ホットケーキのベッドに転がり、好きなだけ食べてくれればいい。
 「食べ切れないよ」と言うだろうけれど、毎朝だってプレゼントする。
 ブルーと暮らしてゆけるのならば、もうそれだけで幸せだから。
 小人の姿で、キスさえ難しいようなブルーでも、いてくれるだけで充分だから…。



            小人だったら・了


※戻って来たブルーが小人だったら、と考えてみるハーレイ先生。ブルー君より小さな小人。
 キスをするのも難しいくらいに小さいですけど、それでも一緒に暮らせたら、幸せv








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