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扉が開いたら

(ちょっと残念…)
 今日はハーレイが来てくれなかった、待ってたのに。
 もしかしたら、って思っていたのに、チャイムが鳴るのを待っていたのに。
 いつもハーレイが鳴らしてるチャイム、門扉の脇にあるチャイム。
 それが鳴ったら、学校があった日もハーレイと家で会えるのに。
 晩御飯も一緒に食べられるのに。
 パパとママもいる食卓だけれど、それでもハーレイと一緒に御飯。
 恋人同士の話は絶対出来ないけれども、ハーレイと御飯。


 だけど、今夜は駄目みたい。
 この時間になっても鳴ってないチャイム、もうハーレイは来てくれない。
 今から来たんじゃ遅すぎる、ってハーレイが決めてる時間だから。
 ぼくはちっともかまわないのに、ママだって「どうぞ」って言っているのに。
 「晩御飯は直ぐに作れますから、来て下さいね」って。
 でも、ハーレイは来ないんだ。
 「お母さんに迷惑かけちまうだろうが」って。
 自分で料理をするハーレイだから、その辺は譲れないみたい。
 簡単に作れる御飯にしたって、遅い時間に訪ねて来るのはマナー違反だ、って。


 ハーレイが来ないと分かってしまうと、つまらない。
 まだまだ外は明るいのに。
 今の季節は日が沈むのが遅いから。お日様がゆっくり沈んでゆくから。
 だから余計にガッカリしちゃう。
 真っ暗だったら諦めもつくけど、明るいんだから。
 まだ充分に庭の木の色も、芝生の色も見えるんだから。


(…でも、時間…)
 時計の針が指してる時間は、冬だったらもう真っ暗な時間。
 そうでなくても、ハーレイが来てはくれない時間。
 こんな時に部屋に一人でいたって、ぐるぐる考えちゃうだけだから。
 ハーレイが来ない、って落ち込んでしまうだけだから。
(気分転換…)
 晩御飯にはまだ早いから、ちょっぴりおやつ。
 でなきゃ、飲み物。
 それがいいな、と思った、ぼく。
 ハーレイが来てくれた日には、お茶とお菓子が出て来るんだし…。
 晩御飯に差し支えない量のを、ママが運んでくれるんだし。


 何か食べよう、って部屋を出て。
 階段を下りて、覗き込んだキッチン。
 ママに訊いたら何か出て来るに決まっているから。
 ケーキが少しとか、クッキーだとか。
 飲み物だったら、冷たいものとか、温かいのとか。
「ママ、何かおやつ…」
 ちょうだい、ってお料理しているママに言ったら、「そうねえ…」って。
「そこのケーキを少し食べるか、クッキーくらいね」
 ちょっと待ってね、って笑顔を向けてくれたママ。
 用意するから少し待ってて、って。


 ケーキか、それともクッキーにするか。
 ちょっぴり悩んでクッキーに決めた。小さな器に、幾つかクッキー。
 丸いクッキーに四角いクッキー、味も色々。
 ほんの少ししか食べられないなら、ケーキよりお得な感じだから。
 一個ずつつまんで口に入れては、いろんな味を楽しめるから。
 口どけだって、種類が違えば変わってくるし…。


 クッキーを食べたら紛れた気分。
 部屋にいるより良かったよね、って気持ちになった。
 食べるってことは幸せだから。
 それがお菓子なら、尚更だから。
(前のぼくだと…)
 お菓子なんかは食べられなかった時代もあるから、とっても幸せ。
 今のぼくは晩御飯の前におやつを食べられるくらいに幸せだよ、って。


 幸せ気分で食べ終わったクッキー、ママに器を返しに行った。
 「御馳走様」って。
 美味しかった、って、「ちゃんと御飯も食べるから」って。
 それから部屋に帰ろうとしたら、玄関の方でドアが開いた音。
 「ただいま」っていうパパの声も。
 これは迎えに行かなくちゃ。
 ぼくの大好きなパパが帰って来たんだもの。
 ハーレイのことも大好きだけれど、パパだって大好きなんだもの。


「おかえりなさい、パパ!」
 急いでパタパタ走って行ったら、パパが「おっ?」ってビックリしてる。
「なんだ、いたのか?」
「うん、おやつを食べに下りて来てたんだよ」
「ほほう…。ただいま、ブルー」
 大きな手でクシャッと撫でられた頭。
 ハーレイにやられたら「酷いよ、子供扱いなんて!」って怒るけれども、パパは別。
 ちっちゃな頃から撫でて貰っているから、これが普通で、ぼくは大好き。


 パパの鞄をリビングに運んで、部屋まで着替えに行くパパと一緒に上った階段。
 学校の話とかをしながら、ぼくが先に上って。
 二階に着いてもまだ立ち話で、パパが「おいおい、パパも着替えないとな」って笑うまで。
 確かにパパが着替えをしないと、晩御飯にはならないから。
 まだもう暫く時間はあるけど、パパだって早く着替えをしたいだろうから…。
「じゃあ、また後でね!」
「ああ、続きは晩御飯の時に聞かせて貰うとしよう」
 それまでに忘れていなければな、って、またまたクシャリと撫でられた頭。
 「おやつもいいんだが、晩御飯もきちんと食べるんだぞ?」って。


 軽く手を振って、部屋の方へと行っちゃったパパ。
 ぼくも自分の部屋に戻ったけれども、何度も撫でて貰った頭。
(ふふっ、パパの手…)
 ハーレイと同じで大きな手。とても優しく撫でてくれる手。
 気持ち良かった、って目を細めた。
 パパも大好き、って。


 おやつを食べに下りて正解、パパに「おかえりなさい」を言えた。
 いつも言うけど、玄関先で言えるチャンスは滅多に無いから。
 パパの鞄も運んで行けたし、とっても幸せ。
(重たかったけど…)
 でも、パパの鞄。
 あれを軽々と提げるのがパパで、ハーレイと同じくらいに背が高いパパ。
 重たい鞄も平気で持てちゃう、頼もしいパパ。
 ぼくが病気で寝込んだ時には、パパが抱き上げて運んでくれるくらいなんだから。


 大好きなパパに「おかえりなさい」で、鞄も運んで、一緒に上がって来た階段。
 こんな日もいいよね、ハーレイは来てくれなかったけど。
 ハーレイの代わりにパパが帰って来ちゃったけれど。
(…あれ?)
 間違いだから、って頭をコツンと叩いた。
 ハーレイはこの家に帰って来るってわけじゃなくって、お客さん。
 パパが帰るよりも早い時間にやって来るだけ、帰って来るのはパパだけだよ、って。


(ハーレイは帰って来ないんだから…!)
 パパより早めに来るだけだから、って思ったけれど。
 ハーレイは「ただいま」って入って来ないし、「おかえりなさい」じゃないんだけれど。
(…でも、ハーレイ…)
 今は、ぼくの家のお客さん。
 晩御飯も一緒に食べて行くけど、お客さん。
 「ただいま」って家には入って来なくて、「おかえりなさい」も言えないけれど…。


 いつかハーレイと結婚したら。
 一緒に暮らすようになったら、その家はハーレイの家だから。
 ハーレイが「ただいま」って帰って来るのが当たり前の家になるんだから…。
(さっきみたいに扉が開いたら…)
 パパが「ただいま」って開けたみたいに、玄関の扉が開いたら。
 入って来るのはハーレイなわけで、「ただいま」って声が聞こえて来るんだ。
 ぼくが迎えに駆けて行ったら、きっとハーレイの鞄だって…。


(…持たせて貰える?)
 ぼくが「持つよ」って言ったなら。
 パパにそう言って運んだみたいに、ハーレイの鞄を持ったなら。
(重たいぞ、って言われそうだけど…)
 本当に重いかもしれないけれども、ぼくが持ってもかまわない鞄。
 「おかえりなさい」って、「ぼくが持つよ」って、運んで行ってもいい鞄。
 ちゃんと鞄を運んだ後には、ハーレイが着替えに行ったりして…。


 着替えが済んだら、二人で御飯。
 ハーレイは料理が得意らしいから、自分で料理をしそうだけれど。
 「すぐ出来るからな」って作り始めそうだけど、たまにはぼくが作ってもいい。
 だって、ハーレイと二人で暮らすんだから。
 ママが料理をしているみたいに、ぼくがやってもいいんだから。
(…お鍋、焦げちゃうかもだけど…)
 調理実習しかやってないから、自信は全く無いんだけれど。


 だけど、せっかくの「おかえりなさい」が言える家。
 ハーレイが「ただいま」って帰って来る家。
 そんな幸せな家に住むんだから、ちょっぴり料理もしてみたい。
 お鍋やフライパンと大格闘でも、派手に失敗しちゃっても。
 そうやってキッチンで頑張っていたら、玄関の扉が開くんだから。
 扉が開いたら、ハーレイが「ただいま」って帰って来るんだから。
 もしもお鍋が焦げちゃっていても、ぼくは玄関まで走っていくんだ、扉が開いたら。
 ハーレイに「おかえりなさい!」って言いに大急ぎで、全速力で…。

 

        扉が開いたら・了


※ハーレイ先生に「おかえりなさい」は、ちょっと言うわけにはいきませんけど。
 いつかは「おかえりなさい」が言えるんですよね、出迎えて「おかえりなさい」ってv





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