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みんなと同じ服

(シャツは洗濯…)
 暑かったもんね、とブルーは制服を脱いだ。
 今の季節は上着は無いから、白い半袖シャツだけれども。
 如何にも制服といった感じの襟付きのシャツと、夏物のズボン。
 それで全部で、普段着に着替えたら、ズボンはピシッと畳んで吊るした。
 こうしておいたら皺が伸びるし、明日も気持ち良く着られるから。
 シャツは洗濯、今の季節は二日続けては着られない。


 部屋の掃除は自分でするのがブルーだけれども、洗濯まではしないから。
 母任せだから、脱いだシャツを抱えて階段を下りた。
 おやつの前にと、洗濯用の籠に入れに行ったら。
 軽く畳んで籠に入れたら、通り掛かった母に言われた。
 「おやつを食べたら、昨日のシャツを部屋に持って行ってね」と。
 ダイニングに置いてあるという。
 ブルーの部屋まで届けるつもりが、来客があって行けていないと。
 プレスしてきちんと畳んであるから、持って帰ってと。


(んーと…)
 制服のシャツ、とダイニングを見回し、自分の椅子の上にそれを見付けた。
 上に腰掛けたら皺になってしまうし、隣の椅子へと移動させて。
 それから用意してあったおやつ、母が焼いておいてくれたレモンのケーキ。
 レモネードも自分でグラスに注いだ、氷を入れて。
 外の暑さがスウッと抜けてゆく、心地良さ。
 身体にこもった熱が薄れて、背筋がシャンと伸びてくる。
 今日は一日暑かったけれど、ダウンしないで元気でいられた。
 体育は日陰に逃げていたけれど、グラウンドだったから木陰で見学していたけれども。


 明日も元気に登校せねばと、おやつを食べ終えて立ち上がった。
 二時間目にあるハーレイの授業、それを逃したら大変だから。
 休んでしまったら悲しくなるから、体調管理は抜かりなく。
 冷たいレモネードがいくら美味しくても、飲みすぎたら身体を冷やすから。
 おかわりしたいのをグッと堪えて、空になったグラスとケーキのお皿をキッチンへ。
 母に「御馳走様」と渡して、ダイニングに戻って、さっきの制服。
 椅子に置いてあったシャツを抱えて、自分の部屋へ。
 足取りも軽く階段を上り、部屋の扉をパタンと開けて。


(えーっと、シャツは、と…)
 皺にならないよう先に仕舞っておかなくては、と覗いた引き出し。
 替えのシャツが何枚か入っているから、其処へと入れるだけなのだけれど。
(どれも、おんなじ…)
 洗った順番も分からないくらい、そっくりの顔をして並んだシャツたち。
 襟まできちんとプレスしてある白い半袖シャツの群れ。
 まるでおんなじ、と持って来たシャツを入れたら区別がつかなくなった。
 此処へ入れた、という記憶が無ければ、もうどのシャツだか分からない。
 制服のシャツだけに個性も何もありはしないし、そっくりのシャツが並んでいるだけ。


 ホントに同じ、と眺めている内に可笑しくなった。
 友達のシャツが紛れていたって、きっと分からないことだろう。
 明らかにサイズが違うとなったら分かるけれども、そうでなければ。
(名前でも書かなきゃ分からないよね?)
 一目で分かる襟の内側とか…、と見詰めたけれども、シャツに名前を書くなんて。
 まるで小さな子供みたい、と白いだけのシャツを眺めていたら。
 こんなシャツでは誰のシャツかも分かりやしない、とクスクス笑っていたら…。


(…みんなと同じ?)
 同じ制服、と急に視界がパアッと開けたような感覚。
 クリアに澄んだ意識の向こうで、前の自分の記憶が跳ねた。
 同じ制服だと、他のみんなと同じ制服を着ているのだと。
(そっか、制服…!)
 前の自分も常に制服を着ていたけれど。
 普段着は無くて、いつも制服だったけれども、その制服は自分一人だけ。
 他の仲間とは違った制服、ソルジャーだけが纏った制服。
 服だけを見れば誰でも分かった、それを着ているのが誰なのか。
 前の自分の顔を見ずとも、あの服だけで。
 それが今では…。


(…そっくり同じ…)
 誰の制服も自分と同じで、シャツもズボンもサイズが違うというだけのこと。
 学校の生徒は同じ制服、同学年の生徒はもちろん、それこそ最高学年でも。
 きっと服だけなら誰も分からない、ブルーなのか、他の生徒なのか。
 体格や顔が伴わなければ、きっと誰にも分かりはしない。
(今度の制服、ぼくだけじゃないよ…!)
 もう特別ではなくなったのだ、と嬉しくなった。
 みんな同じだと、誰でも同じ制服なのだと。
 つまりは軽くなった責任、ただ学校の生徒というだけ。
 制服を着ている年に相応しく、自覚を持って振舞えばいいというだけのことで。


(…すっごく自由…)
 同じ制服でも全然違う、とシャツを眺めた、さっき吊るしておいたズボンも。
 今の自分はただの生徒で、制服は学校に通っていることを示すだけのもので。
(なんだか素敵…)
 そっくりのシャツでも、名前が無ければ誰のか分からないような白いシャツでも。
 そういう制服を着てもいいのが今の時代で、今の自分で。
 ソルジャーではなくて、普通の生徒。
 それが最高に幸せな気分。
 名前を書かねば紛れてしまいそうな制服、それが自分の幸せの証。
 今度は制服に縛られはしなくて、みんなのと同じなのだから…。

 

        みんなと同じ服・了


※ブルー君の制服、すっかり平凡になったようです。ソルジャーだった頃と違って。
 みんなと同じデザインの制服で軽い責任、それが幸せなブルー君ですv





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