(変わってないけど…)
ぼくは変わっていないんだけど、と小さなブルーが覗き込んだ鏡。
其処に映った自分の姿は少しも変わっていないのだけれど。
今日はそのまま昨日の続きで、昨日は一昨日からの続きで、途切れない時間。
お風呂から上がってパジャマ姿で、制服を着てはいないけど。
普段着だって着てはいないけれども、それでも時間は繋がったもの。
生まれた時から一度も途切れず、今日まで流れて、今も流れて。
鏡に映った自分は自分で、今日も、昨日も、その前だって…。
鏡の中には今までと全く変わらない自分、十四歳の子供の自分。
よくよく知っている顔で、間違えようもなくて、もう本当に自分だけれど。
何処も少しも変わったとは思えないけれど。
(…世界が丸ごと変わっちゃった…)
変わってないけど変わっちゃった、とキョロキョロと部屋を見回した。
見慣れた勉強机に本棚、それにベッドといった家具。
窓際に置いてあるテーブルと椅子は、来客用にと買って貰ったもの。
どれもこれも馴染んだものだけれども、少しも変わっていないのだけれど。
部屋の中だって昨日の続きで、昨日は一昨日からの続きで。
時間は一度も途切れていなくて、ずうっと流れているのだけれど…。
まるで変わらない自分の姿と、自分を取り巻く小さな世界と。
何もかも少しも変わっていなくて、この部屋から出てもそれは同じで。
扉を開ければ二階の廊下で、父や母の部屋へも繋がっている廊下。
廊下を歩いて階段を下りれば、ダイニングにリビング、キッチンや客間や。
そういった所を全部通り越して玄関の扉を開けてみたって。
其処から外へと踏み出したって、世界はちっとも変わってはいない。
庭を横切って門扉から出ても、更に外へと歩いて行っても。
何処まで行っても変わらない世界、昨日の続きで繋がった世界。
でも…。
何も変わりはしないけれども、少しも変わっていないのだけれど。
世界は昨日の続きの世界で、自分も昨日の続きの自分で。
本当に何も変わらないけれど、なのに丸ごと変わってしまった。
普段は忘れているけれど。
今の普通の幸せに酔って、それが当たり前で、すっかり忘れているけれど。
(…前のぼくの世界…)
前の自分を、ソルジャー・ブルーだった自分を思い出したら世界は変わる。
何もかもがまるで違って見える。
自分も、自分を取り巻く世界も、途切れずに流れ続ける時間も。
(終わってしまった筈だったんだよ…)
前の自分が生きていた世界。見ていた世界。
それは終わった、あの日、メギドで。
遥かな昔に流れ去ったらしい日、時の彼方に去って行った日。
白いシャングリラを、ミュウの未来を守るためにだけ、メギドへと飛んだ。
沈めなければと、自分の他には誰も出来ないと、たった一人で。
其処で撃たれて失くした温もり、右手に持っていたハーレイの温もり。
それを失くしたと、独りぼっちになってしまったと泣きながら死んだ、前の自分は。
全ては終わって、それで終わりの筈だったのに…。
どうしたわけだか、気付いたら地球の上にいた。
行きたいと焦がれ続けた青い地球の上に、其処にいるのが当たり前の世界に。
メギドで撃たれた傷の痛みの続きに、パチリと地球で目覚めた意識。
周りはメギドでもシャングリラでもなくて、平和な世界に囲まれていた。
父と母がいて、自分の家があって、自分の部屋も。
学校も、制服も、大勢の友達も、何もかもが自分のものだった。
生まれた時から流れ続ける時の流れにストンと落っこち、別の世界を手に入れた。
夢にも思わなかった世界を、血の通った今の身体ごと。
何も変わってはいないのに。
今の自分の目で見る世界は、自分の姿は、何も変わってはいないのに。
(ホントに変わってないんだけどな…)
何処もちっとも、と鏡を眺めるけれど。
自分の姿を覗き込むけれど、昨日までと少しも変わりはしなくて、昨日の続き。
けれど、変わったと分かるから。
前の自分が生きた世界とは、まるで違うと分かるから。
(…ぼくは、幸せ…)
終わらなかった、と前の自分の最期を思う。
世界は其処で終わりはしなくて、ちゃんと続きがあったんだから、と。
しかも続きは本当に奇跡、恋人までがついてきた。
独りぼっちだと泣きながら死んだ前の自分が、最期まで想っていた恋人が。
(うん、ハーレイも変わってないし…!)
先生になっちゃったけれど変わってないし、と頬が緩んだ。
ハーレイの世界も、ハーレイが見ている世界も自分と同じに変わっただろうけれど。
記憶が戻って違う世界を見ただろうけれど、互いに互いを見付けたから。
出会った途端に記憶が戻って、もう一度出会えたのだから。
(なんにも変わってないんだよ、きっと)
自分にはハーレイ、ハーレイには自分。
それが一番大切なこと。何よりも大事な、愛した人。
だから世界は変わっていない。
変わったけれども変わってはいない、ハーレイがいる世界なのだから…。
変わってないけど・了
※十四歳ブルー君の意識が強めに出ている時だと、これで幸せになれるみたいです。
もう少し考え続けた場合は「チビだなんて…!」と膨れてしまうでしょうけどv
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