(学校に行きたい…)
行きたいのに、とブルーはベッドで悔し涙を零した。
朝、目が覚めたら少し重かった頭。念のために計れば少しだけ、微熱。
それでも無理は出来ないから。
無理が出来るような頑丈な身体は持っていないから、今日は欠席。
母に言われるまでもなく。父に止められるまでもなく。
きちんと早めに治すためにも休まなくては、と自分で決めたことだけれども。
熱があるから今日は休む、と母に自分で言ったけれども。
なのに悔しい、行けなかった学校。休んでしまったハーレイの授業。
(今日は二時間目…)
本当だったら今頃の時間は授業を聞いていただろう。
いつもの自分の席に座って、ハーレイの声を聞けただろう。
もしかしたら運良く当てて貰って、音読だって。
(行きたかったよ…)
ハーレイの授業に出たかったよ、と涙を零しても行けない学校。
言うことを聞いてくれない身体。
まだ熱があると自分でも分かる、微熱だけれど。
ほんの少し熱く感じる頬やら、だるく感じる手足やら。
もっと健康な身体だったら、丈夫に生まれていたならば。
このくらいの微熱は多分なんでもないのだろう。
大事を取って体育を見学したりはしても、休むほどではないのだろう。
友達は笑って言っているから。
熱と言うのはこのくらいからだと、それよりも低ければ熱ではないと。
(ぼくにとっては高熱なのに…)
病院に行かねばならないのに、と思うような熱が普通の発熱。
ようやっと学校を休む気になるレベルの発熱、それ以下だったら行ける学校。
もっとも彼らが登校したがる理由は、授業などではないのだけれど。
学校でしか会えない友達と過ごすための時間や、食堂のランチのメニューやら。
そういったものが目当てで熱を無視する友達、丈夫な友達。
彼らの身体が羨ましい。
自分は授業に出られないのに、出られないと涙を零しているのに。
(ハーレイの古典…)
今日の中身は何だったろう?
教科書のページはどのくらい進んでゆくのだろう?
熱が下がって学校に行けば、友達が教えてくれるけれども。
ノートも貸して貰えるけれども、自分の力で書きたかったノート。
ハーレイの授業を聞いて、教室の前のボードを眺めて、自分で纏めてゆくノート。
友達のノートではそうはいかない、自分が書いたようにはいかない。
どう頑張っても、何処かが違ってしまうもの。
自分の耳で聞いたようには、目で見たようにはならないノート。
ハーレイが何を授業で話していたのか、どう教えたのか。
それが知りたい、聞きたい、見たい。
だから学校に行きたいけれども、今日は一日、ベッドの住人。
ハーレイの授業を聞けはしなくて、自分でノートを取れもしなくて。
もう悲しくてたまらないけれど、授業は今も続いている筈。
ベッドの自分を置き去りにしたまま、クラスの他の生徒たちの前で。
(学校、行きたい…)
行けば良かった、と悔しがっても出来ない相談、無理の出来ない虚弱な身体。
もっと丈夫に生まれたかった、と涙が零れる。
ポロポロと枕に、幾つも、幾つも。
そうやって泣いても行けない学校、今日は休むしかなかった学校。
もっと沢山休みたくなければ、具合を悪くしたくなければ。
(ハーレイの授業…)
聞いている友達が羨ましい。
この瞬間にも前のボードを眺めて、ハーレイの声を聞いているクラスメイトが。
それが出来る幸せなどにも気付かず、居眠ったりもするクラスメイトたちが。
(ぼくなら絶対…)
居眠りはしないし、余所見だってしない。
食らい付くように聞いて聞き続けて、ノートを取って…。
(行きたいんだけどな…)
学校に行きたい、と涙を零す間に時計の針は進んでいって。
二時間目の終わりを示す時刻が過ぎた途端に、零れてしまった大きな溜息。
聞き逃してしまったハーレイの授業、取れなかった今日の授業のノート。
もう悲しくてたまらないから、こんな日は…。
(ハーレイのスープ…)
せめてハーレイのスープが飲みたい、ハーレイが作る野菜スープが。
あの味で心を癒したい。
聞き損なった授業の分まで、枕を濡らした涙の分まで…。
学校に行きたい・了
※学校を休んでしまった日のブルー君。ハーレイ先生の授業がある日は、きっとこう。
行きたかったな、と涙と溜息、「ハーレイ先生」でも会いたいのですv