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小さな躊躇い

 週末、ブルーの家を訪ねたハーレイだったけれど。
 ブルーの部屋でテーブルを挟んで向かい合わせに座ったけれど。
「あっ…!」
 上がった、ブルーの小さな悲鳴。
 フルーツタルトの上を飾っていたベリーがコロンと落っこちた。
 食べようとしていたブルーの手から。
 フォークの上からポロリと零れて、床の上へと。


「やっちゃった…」
 小さなブルーは椅子から屈んで、赤いベリーを拾い上げて。
 そのままカチンと固まった。
 指先でベリーをつまんだままで。
 けれども瞳は動いているから。
 ハーレイを見たり、タルトを見たり。
 指先の赤いベリーを見たりと、忙しい瞳。忙しない瞳。


(ふうむ…)
 ブルーが言いたいことは分かった。
 考えているだろうことも、すっかり分かった。
 心を読むまでもなく、手に取るように。
 固まったブルーと、指先のベリーと、その瞳だけで。
 だから優しく促してやる。
 「食ってもいいぞ」と。
 拾い上げたベリーを食べてもいいと、美味しいベリーなのだから、と。


「ホント!?」
 食べてもいいの、とブルーの瞳が輝いた。
 落っこちてしまったベリーだけれども、食べていいのかと。
「いいさ、お前のベリーだろうが」
「でも…。ぼく、床に…」
 落としちゃったよ、落っことしちゃった。
 拾い上げて食べるの、とてもお行儀が悪いんでしょ?
 パパとママに注意されてるよ。他所の家ではやっちゃ駄目だ、って。


 今はお客様の前なんだし…、と小さなブルーが悩んでいるから。
 本当に食べても大丈夫なのかと、つまんだベリーを眺めているから。
「おいおい、俺がお客様ってか?」
 今更だろうが、と微笑んでやった。俺はお前の何だった? と。
「…ぼくの恋人…」
「ほらな、お客様とは違うだろうが」
 家族並みだ、と笑みを湛える。いつかは家族になる予定だし、と。
 遠慮などしないで食べてしまえと。


「それとも、お前。俺を客扱いしたいのか?」
「ううん、ちっとも!」
 そっか、家族になるんだよね、とブルーはベリーを頬張った。
 パクリと、それは嬉しそうに。
 行儀が悪くても、恋人の前。落ちたベリーでも食べていいんだ、と…。



        小さな躊躇い・了




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