(あんまりだよ…)
どうしてなの、とブルーは膝を抱えて俯いたけれど。
ベッドの上でしょげたけれども、どうしようもない残酷な事実。
「駄目だ」と言われてしまったキス。
ハーレイにキスを断られた。よりにもよって再会のキスを。
ようやっと巡り会えたのに。長い長い時を越えて出会ったというのに、断られたキス。
(せっかくハーレイと会えたのに…)
もう二度と会えないと思った恋人。
メギドに向かって飛び立つ前に、これが最後だと触れたハーレイの腕。
その温もりを覚えておこうと思った。最後まで持っていようと右手に握った。
けれど失くしてしまった温もり。撃たれた痛みが消してしまった温もり。
独りぼっちだと、もうハーレイには会えないのだと泣きながら死んだ。
もう会えないと泣きじゃくりながら。
ところが、気付いたら地球の上に居た。
あんなにも焦がれた青い地球の上に、今の自分の身体があった。
その上、目の前にハーレイの姿。
身体に現れた聖痕の痛みで意識は薄れていったけれども、ハーレイの記憶と交差した記憶。
流れ出し、流れ込んで来た膨大な記憶。
その瞬間に思い出した。全てを、自分が誰であるかを。ハーレイは自分の何だったかを。
痛みのあまりに失った意識。
目覚めた時には病院のベッドで、もうハーレイはいなかった。
学校へ戻ってしまっていた。
其処で仕事が待っているから。ハーレイは教師だったから。
それでも再び会えた事実は、けして揺らぎはしないから。
ハーレイは姿を消しはしないし、自分も消えるわけではないから。
後は待つだけだと思って待った。
二人、再会を喜び合う時を、抱き合って感慨に浸る時を。
それなのに、現実は残酷すぎた。
病院から家に帰して貰って、部屋でハーレイを待っていたのに。
大事を取って寝かされたベッドで待ち続けたのに。
仕事が終わって来てくれたハーレイに「ただいま」と、「帰って来たよ」と告げたのに。
(抱き合えた所までは良かったんだよ…)
やっと会えたと、また会えたのだとハーレイと二人、固く抱き合った。
そうして言葉を交わす間に、来てしまった母。紅茶とクッキーを運んで来た母。
再会のキスを交わすよりも前に、まだそこまでもいかない内に。
逃してしまった再会のキス。唇と唇が重なるキス。
最初のチャンスこそ逃したけれども、仕切り直せばいいと思った。
ハーレイは何処へも行きはしないし、自分だって消えはしないのだから。
(…そういうムードになった時に、って思ったのに…)
ゆっくりとキスを交わせる時間。二人きりの世界。
それさえあればと、再会のキスを今度こそ、とハーレイの首に腕を回したのに。
「駄目だ」と一言、断られたキス。
子供だからと、子供にキスは早すぎるのだと。
(酷いよ、ハーレイ…)
巡り会えたのに、出来ないキス。断られてしまった、唇へのキス。
再会のキスは叶わなかった。夢物語に終わってしまった。
前の生で別れて、また会えたのに。
青い地球の上に生まれ変わって、奇跡のように再会できたのに。
(キス無しだなんて…)
これでは片手落ちだと思う。
神様は酷いと、ハーレイも酷いと、小さなブルーは膝を抱えて蹲る。
して欲しかったキス、再会を互いに喜び合うキス。
とても悔しくて、唇を噛むしかないのだけれど。
(また、きっといつか…)
チャンスはある筈、と思い直した。
巡り会えた恋人、前の生からの絆の続き。
再会のキスを、喜びのキスを交わすチャンスもあるだろう。
だから懲りずに強請ることにしよう。キスしてと、ぼくにキスをして、と…。
断られたキス・了
※ハーレイ先生にキスして貰えないブルー君。禁止されちゃっていますけど…。
再会のキスも出来なかったんだよね、とガッカリな気分を書きましたv