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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧

(ぼくのこと、好きでいてくれるんだけど…)
 愛は確かにあるんだけれど、と小さなブルーが零した溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日も訪ねて来てくれたハーレイ、前の生から愛した人。
 青い地球の上に生まれ変わって、また巡り会えた恋人だけれど。
 とても優しくしてくれるけれど、前よりもケチになってしまった。
 いくら頼んでも、キスをくれない。
 額や頬にはキスしてくれても、唇へのキスが貰えない。
 恋人同士の二人なのに。
 前の生なら、当たり前のようにキスを交わしていたものなのに。
(…だから、作戦…)
 あの手この手で強請ってみるキス、今日も繰り出してみた攻撃。
 「ハーレイはホントに、ぼくが好きなの?」と。
 キスを強請ったら断られた上に、額をピンと弾かれたから。ハーレイの指で。
 「俺は子供にキスはしない」と、決まり文句も飛び出したから。
 いつもハーレイがやることだけれど、やられたらプウッと膨れるけれど。
 「ハーレイのケチ!」と膨れっ面になるのだけれども、今日はオマケをつけてみた。
 この作戦なら、キスが貰えるかもしれないから。
 そう思ったから、ハーレイに訊いた。
 「本当に、ぼくを好きなの?」と。
 「前のぼくじゃなくて、今のぼくだよ」と。
 前の自分を愛したように、今も愛しているのなら。
 愛おしいと思ってくれているなら、キスをくれてもいいだろうと。
 キスをくれないのは、愛が足りないから。
 前の自分を愛したほどには、愛していないというのでは、と。
 小さくなったチビの自分を、前ほど愛していないハーレイ。
 それならキスが無いのも分かると、「愛が足りないなら、キスも無いよね?」と。


 そう言ってやれば、キスが貰えると思ったのに。
 「愛していないわけがないだろう!」と抱き締めてキス、と考えたのに。
 ケチなハーレイは余裕たっぷり、ニヤリと笑ってこちらを眺めた。
 「キスはしないと言ってるよな?」と、「お前の心は丸見えなんだが」と。
 つまりは筒抜けだった作戦、ハーレイは全てお見通し。
 どんなにプンスカ怒ってみたって、バレているなら仕方ない。
 バツが悪いだけで、膨れ続けているだけ損。
 怒っている間も、時間は流れてゆくのだから。
 一分、二分と流れ続けて、その内に終わりが来る逢瀬。
 キスも交わせない二人だけれども、恋人同士で過ごせる時間が終わってしまう。
 「夕食の支度が出来ましたから」と、母が呼びに来て。
 両親も一緒の夕食の時間、それが来たなら、逢瀬はおしまい。
 運が良ければ、夕食の後のお茶の時間に、もう一度部屋に戻れるけれど…。
(ママがコーヒーを用意しちゃったら、パパたちと一緒…)
 自分は苦手なコーヒーの時は、ダイニングでそのまま食後のお茶。
 コーヒーでなくても、両親とハーレイの話が弾んでいた時は…。
(やっぱりそのまま、ダイニング…)
 部屋に戻って来られはしなくて、それっきり。
 ハーレイが「そろそろだな」と、時計を眺めて立ち上がるまで。
 そのまま玄関の方に向かって、「またな」と手を振り、帰るハーレイ。
 恋人同士で話せないままで、車に乗って。
 あるいは歩いて、ハーレイの家へと帰ってしまう。
 自分がプンスカ怒っている間に、近付いてくるのが別れの時間。
 それは困るから、全面降伏。
 ハーレイがキスをくれなくても。
 ケチな上に、額を指で弾かれてしまっても。
 心の欠片が零れていたなら、もうハーレイに怒っても無駄。
 機嫌を直して、お喋りの方がずっといい。
 貰えないキスにこだわるより。
 「ハーレイのケチ!」と膨れっ放しで、時間を無駄にしてしまうより。


 今日も慌てて直した機嫌。
 「失敗しちゃった」と作戦ミスを素直に認めて、ちょっぴり舌も出してみて。
 それから後は楽しく過ごして、幸せな時間だったけど。
 ハーレイとゆっくり出来たのだけれど、こうして一人で考えてみると…。
(…ぼく、愛されてる?)
 前のぼくより、と捻った首。
 どうなんだろうと、ソルジャー・ブルーだった頃と今とは同じかな、と。
(ハーレイ、いつも来てくれるから…)
 キスも出来ないチビの恋人、そんな自分を家まで訪ねて来てくれる。
 週末はもちろん、平日だって仕事が早く終わったら。
 チビの自分と出会う前には、そういう時には…。
(色々なことをやってたよね?)
 平日だったらジムに行くとか、息抜きに少しドライブだとか。
 仕事が無い日はもっと色々、それこそフラリと旅行にも行けた。
 気ままな一人暮らしなのだし、思い立った時に。
 もしかしたら宿さえ予約しないで、行き先さえも決めないままで。
(車で好きに走って行くとか、港から船に乗るだとか…)
 土曜と日曜、それを使えば充分に出来る短い旅行。
 家でのんびりしていてもいいし、得意な料理で一日潰していたっていい。
 朝から市場に仕入れに出掛けて、せっせと仕込んで、食べられるのは夕食だとか。
(過ごし方、幾つもあるんだけれど…)
 ハーレイの父と釣りにも行けるし、隣町の家で「おふくろの味」を堪能することも出来る。
 けれども、それらをしないハーレイ。
 ハーレイ自身のために時間を割くより、チビの自分が最優先。
 待っていることを知っているから、時間さえあれば来てくれる。
 やりたいだろうことがあっても、それは放って。
 「いつか出来るさ」と、旅もしないで。
 隣町の家に出掛けてゆくのも、此処へ来るのに困らない時。
 きっとゆっくりしたいだろうに、そうはしないで戻るハーレイ。
 チビの自分が首を長くして待っているから、急いで車を運転して。


 ハーレイが好きに使える時間を、独占しているのが自分。
 週末も、仕事が早く終わった日も。
(ぼくに会う前なら、その時間、好きに使えていたのに…)
 今は使おうとしないハーレイ。
 それだけ自分は愛されているし、大切にされているのだろう。
 「あいつに会いに行かないとな?」と、ハーレイは思ってくれるのだから。
 ジムに行くより、ドライブに行くより、フラリと一人で旅に出るより。
 チビの自分と過ごしたいから、ハーレイは此処に来てくれる。
 キスも出来ない恋人でも。
 デートにも行けないチビだけれども、ハーレイは愛してくれているから。
 「俺のブルーだ」と抱き締めて。
 膝の上にも座らせてくれて、メギドで凍えた悲しい記憶を秘めた右手も…。
(ちゃんと温めてくれるんだものね?)
 だからチビでも愛されてるよ、と考えてみれば分かること。
 前の自分よりも、ずっと愛されているかもしれない。
 ハーレイの時間を独占できるのが今の自分で、前の自分には無理だったから。
 キャプテン・ハーレイの空き時間を全部、一人占めなど出来なかったから。
(…そんなことをしたら、みんなにバレちゃう…)
 何処か変だ、と気付かれる。
 友達同士というだけのことで、あんなに一緒にいるだろうか、と。
 キャプテンが休憩時間を過ごす時には、いつも隣にソルジャー・ブルー。
 それも青の間から、わざわざ出て来て。
 休憩用の部屋とか、食堂だとかで、ハーレイと微笑み交わしながら。
 恋人同士の時の甘い表情、それをしなくても疑われる筈。
 どうしてソルジャーが頻繁に、と。
 キャプテンに用があるならともかく、いつ見ても一緒なんだが、と。
(…そうなっちゃうから、絶対に無理…)
 疑いの目で見られていたなら、気付く者だって現れるだろう。
 決定的な現場を押さえなくても、「やはり怪しい」と。
 ソルジャーとキャプテンは恋をしていると、きっとそうなのに違いない、と。


 一度そういう噂が立ったら、幾つも出て来るだろう裏付け。
 どんなに懸命に隠していたって、何処からかバレてしまうもの。
 証拠を探そうと、仲間たちが動き始めたら。
 意識していなかったら気付かなかった筈のことまで、端から目に付くだろうから。
(…前のハーレイを一人占めなんか…)
 出来はしなかったし、ハーレイもしようとしなかった。
 「そうしたいですか?」と訊かれもしなくて、ハーレイはいつも仕事が優先。
 前の自分が待ちくたびれて、眠ってしまった夜も少なくなかったほど。
 それに比べたら今の自分は、前よりもずっと愛されている。
 ハーレイが自由に使える時間を、端から貰っているのだから。
 週末も平日も、此処に来られる時間が出来たら、ハーレイは来てくれるのだから。
(…ジムやドライブより、ぼくを選んでくれるんだから…)
 愛されてるよね、と思うのだけれど。
 「前のぼくよりも、ずっと幸せ」と思わないでもないけれど…。
(…だけど、キスして貰えなくって…)
 ハーレイはケチのハーレイのまま。
 今日もやっぱりケチだったのだし、これから先もケチなのだろう。
 前の自分と同じ背丈にならない限りは、「キスは駄目だ」と叱られるだけ。
 デートにだって行けはしないし、チビの自分は子供扱い。
 前と同じに恋人なのに、前よりも愛されているというのに。
(…ハーレイの愛はあるんだけど…)
 溢れちゃうほど愛されてるけど、と複雑な気持ち。
 どうしてキスは駄目なんだろうと、前よりも大事にされてるのに、と。
(愛はあるのに、キスは駄目って…)
 やっぱりケチだからだろうか、と首を傾げて考える。
 ハーレイの時間を一人占めでも、前の自分より愛されていても、キスが貰えないから。
 今日もハーレイに叱られただけで、キスを貰えはしなかったから…。

 

         愛はあるんだけど・了


※ハーレイの愛はあるんだけど、と考え込んでいるブルー君。どうしてキスは駄目なのかと。
 そしてケチだと思われているのがハーレイ先生。愛が通じていないようです、ブルー君にはv





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(あいつへの愛はあるんだが…)
 それはたっぷりとあるつもりなんだが、とハーレイがフウとついた溜息。
 夜の書斎でコーヒー片手に、今日の出来事を思い返して。
 ブルーの家へと出掛けて行ったら、小さな恋人にぶつけられた言葉。
 「ハーレイのケチ!」と、膨れっ面で。
 いつも「駄目だ」と叱っているキス、それを強請ったものだから。
 「ぼくにキスして」と言うものだから、額をピンと弾いてやった。
 指先で、痛くないように。
 「キスは駄目だと言っているよな?」と、「俺は子供にキスはしない」と。
 そう言えばブルーは膨れるけれど、不満たらたらなのだけど。
 十四歳にしかならない恋人、そんな子供にキスは出来ない。
 いくら恋人同士でも。
 前の生から愛し続けて、また巡り会えた恋人でも。
 チビのブルーにはまだ早すぎる「キスを交わす」こと。
 同じキスでも額や頬なら、幾つでも落としてやるけれど。
 「俺のブルーだ」と抱き締めもするし、膝に座らせてもやるのだけれど。
 それでも不満なのがブルーで、今日も見事な膨れっ面。
 お決まりの台詞も飛び出した。「ハーレイのケチ!」と。
 ケチ呼ばわりには慣れているから、余裕たっぷりに返してやった。
 「俺はそんなにケチではないが?」と。
 「こうして訪ねて来てやったぞ」と、「お前に会いに来たんだしな?」と。
 ところが、ブルーが傾げた首。「本当に?」と。
 「ハーレイはホントに、ぼくを恋人だと思ってる?」と。
 それから、こうも続いた台詞。
 「本当にぼくを愛してる?」と、「前のぼくじゃなくて、今のぼくを」と。


 ブルーが言うには、足りない愛。
 キスを断るような恋人、それでは全く足りないらしいものが「愛」。
 もちろん、ブルーの作戦だけれど。
 そうやって危機感を煽ってやったら、キスが貰えるかもしれないと。
 「愛していないわけがないだろう!」と贈られるキス。
 それが狙いで、キラキラと零れた心の欠片。
 「どうなるかな?」と。
 ケチな恋人は大慌てでキスをくれるだろうか、と弾んでいたのがブルーの心。
 今のブルーのサイオンは不器用、零れてしまう心の中身。
 遮蔽なんかは出来もしなくて、転がり出すのがブルーの考え。
 何か企んでいる時は特に酷くて、まるで隠せていないのが心。
(そういう所も含めてだな…)
 小さなブルーが愛おしいから、「愛してるぞ」と微笑んだ。
 「今の小さなお前も好きだ」と、「心の中身が丸見えでもな」と。
 これで機嫌が直る筈だ、と思った通りになったのだけれど。
 「どうせ不器用だよ!」と膨れながらも、ブルーの機嫌は良くなったけれど…。
 たまに訊かれる、今日のようなこと。
 「本当にぼくを愛してるの?」と、「今のぼくだよ?」と。
 何度も念を押すように。
 「前のぼくのことじゃないからね」と。
 ちゃんと愛しているというのに、まるで納得しないのがブルー。
 愛されていると分かっていたって、キスを交わせはしないから。
 いくら強請っても断られるだけ、唇へのキスは貰えないから。
(愛が足りないと来たもんだ…)
 実に心外だ、とコーヒーのカップを傾ける。
 あれはブルーの作戦だけれど、こうして一人で思い出してみると…。
(ちょっぴり心が痛むってな)
 愛が足りないと言われたから。
 誰よりもブルーを愛しているのに、ブルーに詰られてしまったから。


 釣られては駄目だ、と充分に分かっているけれど。
 「馬鹿め」と笑ってサラリと躱して、ブルーの額を小突いてやればいいのだけれど。
 それでおしまい、ブルーの機嫌もその内に直る。
 膨れっ面のままではいないし、いつもの笑顔が弾けるもの。
(しかしだな…)
 俺の愛はそんなに足りないだろうか、と自問してみる。
 前と比べてどうなのだろうかと、キャプテン・ハーレイだった頃は、と。
(…あの頃の俺は、もう間違いなく…)
 ブルーの虜で、ブルーにぞっこん。
 恋人同士になった後には、一緒に夜を過ごしていた。
 青の間で、あるいはキャプテンの部屋で。
 ブルーが寝込んでしまった時とか、遅くなった時は添い寝だけ。
 それでも必ず一緒に眠って、朝は二人で目覚めたもの。
 起きた途端に、恋人同士でいられる時間は終わっても。
 ソルジャーとキャプテン、そういう二人の貌に戻って朝食でも。
 お互い、制服をカッチリ着込んで、青の間で食べていた朝食。
 係の者が作りに来るから、恋がバレないよう、起きたら恋人同士の時間はおしまい。
(そうだっただけに、二人きりで過ごせる時間には…)
 キスを交わして、愛を交わして、ブルーしか見えていなかった。
 キャプテンの自分が何処かにいたって、それは非常時に備えてのこと。
 少しでも長くブルーの側に、と願い続けて、その通りにした。
 愛おしい人が最優先だし、自分のことは後回し。
 キャプテンの仕事で多忙だった時も、ブルーを忘れはしなかった。
 「遅くなります」と思念を飛ばして、いつも気遣い続けた恋人。
 どんな時でも、心を離れはしなかったブルー。
 ソルジャーのブルーに接する時にも、懸命に心を配っていた。
 うっかり漏らした自分の一言、それで恋仲だとバレないように。
 周りの者たちに知られてしまって、ブルーが苦しむことにならないように。
 ソルジャーとキャプテン、そんな二人が恋人同士ではマズイから。
 もしも知れたら、二人とも針の筵だから。


 愛していたから、どんな時でも頭の中にはブルーのこと。
 ブルーがソルジャーとして話していたって、二人で視察に行ったって。
(…ソルジャーなんだが、俺のブルーで…)
 早くブルーに会えないものか、と思ったもの。
 今、接しているソルジャーではなくて、恋人の方の愛おしいブルー。
 夜になったら会えるのだから、あと何時間待てばいいのだろうか、と。
(しかし、そいつを顔に出したら…)
 船の仲間に恋がバレるし、言葉と同じに封じておくしかなかった表情。
 ソルジャーに向けるための笑顔は、あくまでソルジャーに対してのもの。
 前の自分の「一番古い友達」、それ以上であってはならないブルー。
 誰が気付くか分からないから、「ソルジャーとキャプテンは恋をしている」と。
(…そりゃあ頑張って隠し続けて…)
 隠すためには忘れてはならない、ブルーのこと。
 船の中では、何処で出会うか分からない。
 通路でバッタリ会った途端に、「俺のブルーだ」と認識したらマズイから。
 互いの部屋から一歩出たなら、ただの友達同士だから。
(…そういう意味では、前の俺はだな…)
 いつでも意識し続けたブルー。
 けしてブルーを忘れはしないし、愛していたからそうしていた。
 ソルジャーのブルーに出会った時には、きちんと敬意を表しながら。
 甘い言葉を交わすことなく、キャプテンとして話していても…。
(俺のブルーだ、と意識しないと…)
 ボロが出るから、ソルジャーの時もブルーは「恋人」。
 お互いの恋を、愛を守るために「恋人ではない」ふりをしていただけ。
 ブルーが近くにいない時でも、けしてブルーを忘れなかった。
 誰かがブルーの話を持ち出した時に、ちぐはぐなことを言うと大変だから。
 ブルーの名前を耳にしただけで、頬が緩むのも危険すぎるから。
 隠さなければならない恋。
 自分はともかく、愛おしい人を守るには。
ブルーが自分に恋をしたこと、それがバレないようにするには。


(あの頃の俺に比べたらだな…)
 足りないんだろうか、と思うブルーへの愛。
 四六時中、ブルーを想っているか、と問われたら答えられないから。
 前の自分なら、迷わず「はい」と答えたろうに。
 「どんな時でも想っています」と、「でないとブルーを守れませんから」と。
 けれども、今の教師の自分。
 ブルーのクラスへ授業に行ったら、「ブルーがいるな」と思うけれども…。
(愛してるんだ、と思ってるか、と訊かれたら…)
 まるで無いのが「もちろんだとも」と言う自信。
 愛と言うより、ただ愛おしいだけだから。
 「今日もあいつは元気そうだな」と、「後であいつも当ててやるかな」と。
 そして授業が終わった途端に、心は別の方へと飛ぶ。
 「次のクラスは何処だったかな」と、「この前、課題を出しておいたが…」と。
 つまりはブルーを忘れるわけで、酷い時にはそのまま放課後。
 柔道部の指導を始める頃まで、すっかり忘れてしまうのだから…。
(…愛は確かにあるんだが…)
 愛しているのに、どうやら平和すぎる今。
 ブルーは何処へも行きはしないし、望めば会えるものだから。
 会えないままで夜になっても、また次の日があるのだから。
(……愛が足りないってわけじゃないよな?)
 今の時代がそうさせるんだ、と零れた笑み。
 愛はあるんだが、忘れていたって大丈夫なほどに平和な今、と。
 夜は必ず明けるものだし、シャングリラの頃とは違うから。
 ブルーとの恋も、いつか必ずハッピーエンドで、幸せに暮らしてゆけるのだから…。

 

        愛はあるんだが・了


※ブルー君への愛はあるのに、忘れてしまうらしいハーレイ先生。前と違って。
 けれど、そうやって忘れていても大丈夫なのが今の時代。前よりもずっといいですよねv






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(今日はお喋り出来なかったよ…)
 学校でちょっぴり話しただけ、と小さなブルーが零した溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は来てくれなかったハーレイ、前の生から愛した恋人。
 青い地球の上に生まれ変わって、また巡り会えた人なのだけれど。
(学校だと、ハーレイ先生だから…)
 それに自分は教え子だから、恋人同士の会話は無理。
 今朝も立ち話をしたのだけれども、「話せた」というだけのこと。
 ほんのちょっぴり、学校ならではの中身の会話。
(ハーレイと話したかったのに…)
 仕事の帰りに来てくれたならば、色々と話が出来るのに。
 大きな身体に、抱き付いて甘えることだって。
 「キスは駄目だ」と叱られるから、唇へのキスは貰えなくても。
 恋人同士のキスは駄目でも、ハーレイと過ごせる幸せな時。
 そういう時間を待っていたのに、鳴らずに終わった門扉の横にあるチャイム。
 ハーレイは訪ねて来てくれないまま、今日という日はもうおしまい。
 それが残念でたまらない。
 二人きりで色々話せていたなら、きっと幸せだったから。
 他愛ない話ばかりでも。
 前の自分たちの頃の話は、何も出て来ない日だったとしても。
(ぼくにも、今日は何も無いから…)
 話さなければ、と思うこと。
 前世の記憶が絡む何かで、ハーレイに訊いてみたいこと。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ、そう呼ばれていた時代の話。
 あの頃のことを話さないと、と思うわけではない日だから…。
(来てくれなくても、困らないけれど…)
 でも寂しいよ、と見詰めてしまうハーレイの家がある方角。
 ハーレイの家はあっちだよね、と。


 今日は会えずに終わった恋人。
 正確に言うなら、恋人同士の時間を少しも持てなかった日。
 とても残念なのだけれども、明日には会えるといいな、と思う。
 学校ではなくて、この家で。
 この部屋でゆっくりお茶を飲みながら、母が作った美味しいケーキを食べながら。
 けれども、まるで見えない明日。
 予知能力など持っていないし、そうなるかどうかは分からない。
 それでも、明日が駄目だったとしても、また次の日がやって来る。
 週末だったら、ほぼ確実にハーレイは来てくれるのだから…。
(今日だけの我慢…)
 明日も我慢でも、その次も我慢する日でも…、と考えていたら掠めた思い。
 そのハーレイがいなかったなら、と。
 青い地球に生まれて来たのだけれども、其処にハーレイがいなかったなら。
 自分が一人だったなら、と。
(…前にも考えたんだけど…)
 あの時は他のことに紛れて、いつの間にやら忘れてしまった。
 ハーレイは当たり前のようにいるから、学校でも姿を見られるから。
(…ぼくの記憶が戻った時には…)
 もうハーレイが側にいた。
 ハーレイの姿を見たのが切っ掛け、身体に浮かび上がった聖痕。
 溢れ出す血と激しい痛みが、ハーレイを連れて来てくれた。
 前の自分の記憶と一緒に、愛おしい人を。
 遠く遥かな時の彼方で、誰よりも愛していた恋人を。
 そうやって出会って、今でも一緒。
 互いの家は離れていたって、子供だからとキスを断られたって。
 ハーレイは同じ町にいるのだし、同じ時を生きているけれど。
 いつか大きくなった時には、二人で暮らしてゆけるのだけれど…。
 もしも、と今を考えてみる。
 一人だったなら、ハーレイが何処にもいなかったなら、と。


 チビの自分が恋をした人、前の生から愛したハーレイ。
 前の自分たちの恋の続きを、二人で生きているけれど。
 これからも生きてゆくのだけれども、そのハーレイがいなかったなら。
 前世の記憶を取り戻した時、一人だったなら、どうなるのだろう。
 ハーレイの姿は、何処にも無くて。
 自分がポツンと独りぼっちで、見回しても誰もいなかったなら。
(…何処かで転んだはずみとかに…)
 いきなり戻って来る記憶。
 前の自分は誰だったのかを、突然に思い出したとしたなら、一番に考えそうなこと。
(多分、ハーレイのことじゃなくって…)
 自分が転んだ地面を見詰めて、それから見上げるだろう空。
 「此処は地球だ」と。
 夢にまで見た地球に来たのだと、自分は其処に生きているのだ、と。
 転んだ地面に座り込んで。
 自分を転ばせた地面をそうっと撫でて、頬ずりしたくもなるのだろう。
 夢だった星に来られたから。
 身体の下には地球の地面で、其処が自分の生きている場所。
 前の自分は、踏みしめる地面を持たないままで死んでいったのに。
 地球を見ることも叶わないままで、暗い宇宙で命尽きたのに。
(…空も見上げて、うんと幸せ…)
 本物の地球の空だから。
 青い空から降り注ぐ光は、地球の太陽の光だから。
 きっと幸せに酔いしれたままで、地面に座っているのだろう。
 転んだ場所が道路だったら、通る人が眺めてゆくのだろうに。
 「いったい何をしているのだろう」と、それは不思議そうな表情で。
 もしかしたら、訊かれるかもしれない。
 「立てますか?」と、親切な人たちに。
 手を貸してくれる人も、きっといるだろう。
 座り込んでいないで立てるようにと、「車で家まで送りましょうか?」とも。


 けれど怪我などしていないのだし、「大丈夫です」と立ち上がるだろう自分。
 学校の帰り道で転んだのなら、鞄を持って。
 ズボンについてしまった埃も、手でパタパタと払い落して。
 それから、もう一度周りを見回す。
 「地球だよね?」と、きっと幸せ一杯で。
 こんな幸せがあっていいのかと、嬉しさで胸がはち切れそうで。
(ホントに幸せ一杯なんだよ…)
 残りの道を家まで歩いてゆく間にも、家の門扉を開ける時にも。
 庭に入ったら、芝生に転がるかもしれない。
 「ホントに地球だ」と、「ぼくの家が地球の上にあるよ」と、大はしゃぎで。
 緑の芝生に寝そべったままで、庭の木々だって見上げるだろう。
 クローバーの茂みに気が付いたならば、手を突っ込んでもみるのだろう。
 「これ、シャングリラにもあったよね?」と。
 ハーレイと四つ葉を探したりしたと、子供たちから花冠も貰ったっけ、と。
 そうやって夢中で探しそうな四つ葉のクローバー。
 「見付かるかな?」と、覗き込んで。
 幸運の四つ葉が見付かったならば、もう最高に幸せだけれど。
 シャングリラでは一度も探し出せずに終わったのだし、嬉しくてたまらないけれど。
(…その四つ葉…)
 其処でようやく気付くのだろう。
 「あったよ!」と四つ葉を見せたい恋人、ハーレイの姿が無いことに。
 前の生で一緒に四つ葉を探した、愛おしい人が見えないことに。
(…四つ葉、ハーレイに見せたいのに…)
 誰よりも先に教えたいのに、そのハーレイが何処にもいない。
 庭はもちろん、生垣の向こうの道路にも。
 さっき自分が転んだ時にも、ハーレイは何処にもいなかった。
 もしもハーレイが側にいたなら、大慌てで駆けて来る筈だから。
 「ブルー!」と名前を呼びながら。
 怪我はないかと、ちゃんと立てるかと、きっと心配してくれるから。


 ハーレイがいたなら、そうなった筈。
 なのに何処にもいないハーレイ、自分は一人で庭にいるだけ。
 せっかく四つ葉を見付けたのに。
 真っ先にハーレイに知らせたいのに、「地球に来たよ」と話したいのに。
(だけどハーレイ、何処にもいなくて…)
 いくら待っても出会えないまま。
 その日も、次の日も、何日経っても、現れてくれない愛おしい人。
 「此処にいるよ」と教えたくても、いなかったならば、どうにもならない。
 宇宙の何処にも、ハーレイが存在しなかったなら。
 自分が一人で生まれて来ただけ、ハーレイは生まれていなかったなら。
(…尋ね人の広告、出して貰っても…)
 両親には「転んだ時に助けてくれた人」とでも、上手く言い繕って。
 「どうしても御礼を言いたいから」と、それこそ宇宙のあちこちにだって。
 たまにそういう広告を見るし、両親ならきっと探してくれる。
 知り合いの人にも頼んでくれるし、ご近所さんも協力してくれそうだけれど。
(…ハーレイがいないと、探しても駄目…)
 その広告に気付くハーレイは、宇宙の何処にもいないから。
 「お前のことじゃないか?」と、ハーレイに知らせる人もいないから。
 いつまで経っても、ハーレイは会いに来てくれない。
 何年待っても、チビの自分が前と同じに育っても。
 ハーレイを探して旅に出たって、けして出会えはしない恋人。
 宇宙の何処まで出掛けて行っても、「知りませんか?」と尋ねて回っても。
(…そうなっちゃったら…)
 いったい何度泣いたのだろうか、泣くことになってしまったろうか。
 「ハーレイがいない」と、「絆が切れてしまったせいだ」と右手を眺めて。
 メギドで失くしたハーレイの温もり、そのせいで今も会えないまま、と。


(そんなの、嫌だ…)
 悲しすぎるよ、と見詰めた右手。
 ハーレイに会えずに生きるだなんて、地球に生まれても独りぼっちのままなんて。
 それに比べたら、今の自分はずっと幸せ。
 ちゃんとハーレイと一緒なのだし、今日はたまたま二人きりで会い損なっただけ。
 恋人同士で会える日だったら、明日も、明後日も、いくらでもある。
 一人だったなら、いつまで待っても、ハーレイに会えはしないまま。
(寂しいなんて、言っちゃ駄目だよね…)
 ハーレイと一緒なんだから、と浮かべた笑み。
 ぼくはとっても幸せだよねと、ハーレイと二人で地球に生まれて来たんだものね、と…。

 

        一人だったなら・了


※もしもハーレイがいなかったなら、と考えてしまったブルー君。悲しすぎるよ、と。
 けれども、ちゃんとハーレイと一緒。絆は切れていなかったのです、これからも一緒v






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(行き損ねちまった…)
 今日は行けると思ったんだが、とハーレイがついた小さな溜息。
 ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎で。
 コーヒー片手に寛ぎの時間、けれど拭えない残念な気持ち。
 愛おしい人の家に行き損ねたから。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わって再び巡り会えたブルー。
 仕事の帰りに訪ねて行こうと思っていたのに、長引いた会議。
 終わった時には、出掛けてゆくには遅すぎる時間。
 仕方なく家へ帰ったけれども、今頃になって零れる溜息。
 「あいつと話したかったんだが」と。
 十四歳にしかならない恋人、キスも出来ないくらいに子供。
 それでもブルーはブルーなのだし、会えなかったら寂しくもなる。
 会えたところで、ただお喋りをするだけでも。
 ブルーを抱き締めることは出来ても、キスを交わせはしなくても。
(学校でなら、少し話せたんだが…)
 朝に出会って、ほんの短い立ち話。
 今日はそれだけで終わっちまった、と傾ける愛用のマグカップ。
 もっとゆっくり話したかったと、生徒ではなくて恋人のブルーに会いたかったと。
 学校で会えるのは「ブルー君」だから。
 あくまで教え子、自分は教師。
 交わせる話も恋人同士のようにはいかない、それに話題も。
(…前の俺たちのことなんて…)
 まるで話せやしないんだから、と浮かべた苦笑。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ、そんな前世の思い出のことは。
 生まれ変わりだとは誰も知らないし、知られるわけにもいかないから。


 もっとも、今日は特に話題は無かったけれど。
 何を思い出したわけでもないから、前世の話は特に無くてもいいのだけれど。
(あいつと話したかったんだよな…)
 ブルーの家で、誰にも邪魔されずに。
 教師と生徒の会話ではなくて、愛おしい人と過ごすひと時。
 それが欲しかっただけなんだが、と思うけれども、行けなかった今日。
(…明日は行けるといいんだが…)
 どうなるやらなあ、と明日の予定を考えてみる。「運次第か」と。
 多分、時間はあるだろうけれど、何が起こるかは分からない。
 予知能力などありはしないし、明日の自分は見えないから。
(まあ、明日が駄目でも…)
 その次もあるし、と思った所で掠めた思い。
 「もしも、ブルーがいなかったら」と。
 ただ会えないということとは違って、最初からブルーがいない世界。
 こうして地球に生まれて来たって、ブルーが何処にもいなかったら、と。
(…前にも少し考えたんだが…)
 あの時は他の考えのついで。
 直ぐに紛れて忘れてしまった、「ブルーがいない世界」というもの。
 ブルーは「いる」のが当たり前だから。
 前の自分の記憶が戻った、その瞬間にはいたブルー。
 聖痕が現れて、血まみれになって。
(…あれを見るまで、俺はブルーを知らなくて…)
 正確に言えば、忘れていた。
 あの日が来るまで、前の自分がいたことを。
 キャプテン・ハーレイに瓜二つだから、「生まれ変わりか?」と言われはしても。
 自分でも「似てる」と思ってはいても、キャプテン・ハーレイは遠い昔の英雄。
 まさか自分だと思いはしないし、似ているだけだと思っていた。
 それが変わった、小さなブルーと再会した日。
 自分は誰かを思い出したし、ブルーも目の前にいたけれど…。


 あそこでブルーがいなかったならば、自分はどうしていただろう。
 前の自分の記憶が戻る切っ掛け、それがブルーでなかったら。
 聖痕を目にして気付く代わりに、まるで違った何かだったら。
(…宇宙遺産のウサギとかか?)
 博物館にある木彫りのウサギ。
 前の自分がせっせと彫って、トォニィに贈ったナキネズミ。
 何処で誤解をされたものだか、今は立派な宇宙遺産。
 しかもウサギに変わってしまって、貴重だから普段はレプリカの展示。
(博物館なら、たまに行くこともあるからな…)
 あれも見るか、とケースを覗き込んだ途端に、記憶が戻って来るだとか。
 「俺が作ったナキネズミだ」と。
 レプリカでも、本物そっくりだから。
(…これはウサギじゃないんだが、と思うんだろうなあ…)
 何処か間抜けな瞬間だけれど、其処で戻って来る記憶。
 ブルーと再会を果たす代わりに、よりにもよって木彫りのナキネズミ。
 おまけに「ウサギ」と書かれた始末で、前の自分の腕前をコケにされたよう。
(生きてる時から、下手だと評判だったがな…)
 死んだ後にもこうなるのか、と愕然とすることだろう。
 そして「違う」と否定しようにも、きっと笑われてしまっておしまい。
 ケースの周りにいるだろう人、それを捕まえて語ってみても。
 「これはウサギじゃないんですが」と言ってみたって、「そうですか?」と傾げられる首。
 プレートには「ウサギ」と書かれているから、その人の方が正しい世界。
 「ナキネズミです」と言い張ったならば、いったい何と思われることか。
 審美眼とやらを疑われるのか、芸術家と勘違いされるのか。
(芸術家ってのは、勝手なもんだし…)
 そのお仲間だと思われることもあるかもしれない。
 宇宙遺産のウサギを見たって、ナキネズミに見える芸術家。
 まるでいないとも言い切れないから、その可能性もあるけれど…。


(…ナキネズミなんだ、と言える相手は…)
 その場では知らない人ばかり。
 家に帰って両親に通信を入れてみたって、自分の事情は伝わらない。
 「俺はキャプテン・ハーレイだったらしい」と、通信で言えるわけがない。
 大慌てで飛んでくる両親の姿が見えるよう。
 隣町から車を飛ばして、「大丈夫か?」と。
 変な夢でも見てはいないかと、でなければ熱が高いのでは、と。
(…そうなっちまうぞ…)
 両親には未だに内緒のまま。
 自分が本当は誰だったのかを、まだ話してはいないから。
(ブルーみたいに、聖痕でも出たと言うならなあ…)
 実は、と話す切っ掛けになっても、何も起こっていないから。
 自分の見た目は変わらないのだし、慌てて話すこともないな、と。
 ブルーがいてさえ、その有様。
 たかが木彫りのナキネズミのせいで、記憶が戻って来たのなら…。
(話す切っ掛けどころじゃないぞ)
 ウサギを否定したくても。「あれはナキネズミだ」と言いたくても。
 暫くの間は、ナキネズミのことで頭が一杯。
 「なんだってウサギになったんだ」と。
 あれはナキネズミで間違いないのに…、とブツブツ言う間に、気付くこと。
 ナキネズミよりも、もっと大切なこと。
 「ブルーは何処に行ったんだ?」と。
 木彫りのナキネズミがあそこにあるなら、前の自分の恋人は、と。
(ナキネズミの木彫りがあるってことは…)
 ブルーも何処かにいるかもしれない。
 この町にいるか、宇宙の何処かか、きっと、と探し始める恋人。
 新聞に尋ね人を出したり、他にも色々、手を尽くして。
 なんとかブルーを探し出そうと、友人たちにも頭を下げて。
 生まれ変わりの件は伏せつつ、必死になって。
 「こういう人を探しているんだ」と、「一目惚れなんだ」とでも大嘘をついて。


 けれど、見付からないブルー。
 いくら探して貰っても。
 何処にもブルーは生まれていなくて、誰もブルーを見付けられない。
 自分はもちろん、協力してくれた友人だって。
 「息子のためなら」と頑張ってくれた、両親も、両親の知り合いたちも。
 ブルーが生まれていなかったならば、どう探しても無駄だから。
 自分しか宇宙にいないというなら、ブルーに会えはしないのだから。
(…そいつは御免蒙りたいぞ…)
 前の自分の記憶が戻った、その瞬間はブルーを忘れていても。
 木彫りのウサギに憤慨していて、「ナキネズミだぞ!」と睨んでいても。
 やがては思い出すブルー。
 思い出したら、頭にはもう、ブルーしかいない。
 ナキネズミのことは、どうでも良くて。
 木彫りのウサギになっていたって、それを訂正するよりは…。
(…ブルーを探すことが大事で…)
 きっとそれしか考えられない、いつかブルーが見付かるまで。
 見付からなくても、きっと一生、ブルーを探し続ける筈。
 何処を歩く時も、何処に行っても。
 ブルー無しでは寂しすぎるから、一人で生きるのは辛すぎるから。
(…そいつを思えば、今の俺はだ…)
 幸せだよな、と笑みが零れる。
 木彫りのウサギはブルーに何度も笑われたけれど、それはブルーがいる証。
 小さなブルーに出会えたお蔭で、会えない寂しさも味わえる。
(うん、寂しいってだけなんだ…)
 ブルーの家には行き損なっても、行ける日はまたやって来るから。
 もしも自分が一人だったら、そんな日はやって来ないから。
 だからいいんだ、と幸せな気持ち。
 今日はブルーと過ごし損なったけれど、一人だったら、会うことさえも出来ないから、と…。

 

         一人だったら・了


※もしもブルー君がいない世界だったら、と考えてみたハーレイ先生。寂しすぎる、と。
 けれど今いるのは、ブルー君がちゃんといる世界。会えない日だって、少し寂しいだけv






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(今日はハーレイに会えただけ…)
 たったそれだけ、と小さなブルーが零した溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日、学校で会ったハーレイ。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 けれども、今は教師と生徒。
 自分はハーレイが教える学校の生徒で、ハーレイは其処の古典の教師。
 そういう関係になっている二人、何かと制約の多い学校。
 「ハーレイ先生」と呼び掛けなければいけないとか。
 話す時には、必ず敬語を使うだとか。
(でも、そんなのは…)
 大したことじゃないんだよね、と考えてしまう、今日のような日。
 ハーレイとは「会えた」だけだったから。
 廊下ですれ違う時に挨拶、それで終わってしまったから。
 お互い、次の授業があって。
 立ち止まって少し話す時間は、まるで持ち合わせていなくって。
(…あれっきり…)
 話せないままになったハーレイ。
 会ったのは、その一度だけ。
 仕事の帰りに訪ねて来てもくれなかったし、今日はハーレイと話せてはいない。
 ほんの僅かな立ち話さえも。
 他の生徒も通ってゆく場所、廊下や、それに中庭などでの立ち話。
 それも出来ずに終わった今日。
 ハーレイと色々、話したいのに。
 中身は大したことでなくても、教師と生徒の会話でも。
 「元気そうだな」と声を掛けて貰って、それに答えを返すだけでも。
 ハーレイの声が聞けたら充分だから。
 こちらを見詰めて話してくれたら、もうそれだけで嬉しいから。


 そう思うけれど、叶わなかった今日。
 挨拶だけしか交わしていなくて、ハーレイの言葉は貰えないまま。
 「次の授業は何なんだ?」とも。
 「俺はこれから、向こうの校舎で授業でな」とも。
 そんな中身でかまわないのに。
 ハーレイの様子が分かれば充分、それに自分の様子も伝えられたら。
 「ぼくは次の時間、歴史なんだよ」とか。
 「体育だけど、今日は見学」だとか。
 そう言ったならば、ハーレイは訊いてくれるから。
 「歴史か…。今はどの辺なんだ?」とか、「見学って…。お前、大丈夫か?」とか。
 体育の授業を見学するなら、何処か具合が悪いのか、とも。
(…今日の体育、いつもより疲れそうだから…)
 見学するよう、前の授業の時に言われた。
 体育担当の先生から。
 「ブルー君は、次は見学だぞ」と。
 それだけのことで、何処も具合は悪くない。
 ハーレイにそう話をしたなら、「それは良かった」と笑顔だろうに。
 「心配したぞ」と、「そういうことなら、ちゃんと見学するんだぞ?」と。
 ほんの短い立ち話だって、ハーレイと気持ちが通うのに。
 好きでたまらないあの声を聞いて、大好きな笑顔も見られるのに。
(…でも、今日は…)
 その「ちょっぴり」も無かったんだけど、と寂しい気持ち。
 学校では挨拶したというだけ、立ち話は無し。
 それに家にも、訪ねて来てはくれなかったから。
 「ハーレイ、今日は来てくれるかな?」と、何度も窓の方を見たのに。
 窓辺に立って、庭の向こうの門扉も何度か眺めたのに。
 耳を澄ませてチャイムも待った。
 ハーレイが鳴らしてくれるだろうかと、今に聞こえてくるかも、と。


 けれど、鳴らずに終わったチャイム。
 今日は来てくれなかったハーレイ。
 話せないままで夕食が済んで、お風呂に入って、もうこんな時間。
 後はベッドに入って寝るだけ、湯冷めしない内に。
 なんとも寂しい気分だけれども、今日という日は、そういう日。
 ハーレイと同じ地球にいたって、同じ町に家があったって。
(…学校もおんなじ場所なのに…)
 どうしてこうなっちゃうんだろう、と悲しいけれど。
 話せないままで終わるだなんて、と寂しいけれども、会えただけでもマシな方。
 会えずに終わる日もあるから。
 ハーレイは学校にいる筈なのに、自分も学校にいるというのに。
(そんな日、あるよね…)
 どうしたわけだか、すれ違いさえもしないままの日。
 ハーレイの姿を目で探したって、何処にも見付けられない日。
 それに比べたら、今日は遥かにいいのだろう。
 ハーレイに会えて、ちゃんと挨拶出来たから。
 挨拶だけで離れていっても、会うことだけは出来たのだから。
(…だけど、残念…)
 何の話も交わせないまま、今日という日が終わること。
 せっかく二人で地球に生まれて、同じ町で暮らしているというのに。
 ハーレイの職場は、自分が通う学校なのに。
(…ホントに、何か話せたら…)
 それで充分なんだけどな、と思い浮かべる恋人の顔。
 教師の方の顔でいいから、何か話が出来ていたなら、きっと幸せ。
 ハーレイが向けてくれる言葉を聞けるから。
 話す間は、自分の方を見てくれるから。
 恋人を見詰める目ではなくても、ハーレイの瞳。
 それに笑顔もハーレイのもので、声は大好きなあの声だから。


 少しだけでも話せるのならば、話の中身は何でもいい。
 授業のことでも、今日の天気のことだって。
 贅沢を言っていいというなら、出来れば家で話したかった。
 この部屋で二人、色々なことを。
 他愛ないことでかまわないから、まるで中身は無くていいから。
 前の自分たちのことなどは抜きで、シャングリラだって欠片も出ずに。
 遠く遥かな時の彼方を、顧みることさえしないままで。
(それでいいよね?)
 今は地球の上にいるのだから。
 新しい命と身体を貰って、別の人生なのだから。
 前の生のことを忘れていたって、それも間違ってはいないと思う。
 ハーレイのことが好きだったら。
 前の自分の恋の続きでも、恋しているのは今の自分で、今のハーレイは今のハーレイ。
 白いシャングリラの舵を握る代わりに、学校で古典を教える教師。
 今の自分は教え子なのだし、今を幸せに生きればいい。
 ハーレイと話す時にしたって、そのように。
 遠い昔を懐かしむ代わりに、今日、学校であったこと。
 それを話したり、ハーレイからも「今日の柔道部のことなんだが…」と聞いたりして。
 二人揃って今に夢中で、気が付いたらもう、夕食の時間。
 両親も一緒に食べる夕食、二人きりの時間はおしまいだけれど…。
(ちっとも惜しくないと思うよ)
 前の生のことを、一度も話さないままだって。
 シャングリラのことも、ソルジャーのことも、キャプテンだって忘れていても。
 きっと二人で立ち上がるのだろう、母が部屋まで呼びに来たなら。
 「夕食の支度が出来ましたから」と声がしたなら。
 ハーレイが「行くか」と腰を上げて。
 自分も「そうだね」と椅子から立って、二人で階段を下りてゆく。
 両親が待っているダイニングへ。
 温かな空気が満ちた部屋へと。


 そういった風に話したいのに、何も話せなかった今日。
 前の生なら、話さない日は無かったのに。
 ハーレイがどんなに多忙な時でも、必ず飛んで来た思念。
 「今日は仕事が長引きそうです」と、「先にお休みになって下さい」と。
 いつも「待つよ」と返した自分。
 「遅くなっても待っているから」と、「ぼくが眠っていたら起こして」と。
 時には冗談も飛ばしたりした。
 キャプテンの仕事に追われるハーレイ、それを承知で「本当かい?」と。
 「お酒つきの会議じゃないだろうね」と、「ゼルやヒルマンの部屋で仕事?」という質問。
 少し笑いを含んだ思念で。
 ハーレイの苦々しい顔を想像しながら、青の間から茶目っ気たっぷりに。
 それをやったら、「ならば、御覧になりますか?」と思念が返って来たけれど。
 「どうぞ視察にお越し下さい」と、仕事に忙しいハーレイの思念。
 いつも笑って断っていた。
 「御免だよ」と、「ぼくも忙しいから」と。
 夕食もとうに終わった時間に忙しいことなど、ないくせに。
 本当は暇でたまらないくせに、ハーレイもそれを知っているのに。
(…ああいう風に話せたら…)
 それだけで心が通い合うのに、と思うけれども、叶わない今。
 サイオンが不器用になってしまって、思念もろくに紡げはしない。
 そうでなくても、離れている人に連絡するなら、通信を入れるのが社会のマナー。
 今の時代は、サイオンや思念を使わないのがルールだから。
(…マナー違反でも、それも出来ない…)
 ハーレイに思念を送れないよ、と悲しい気分。
 前の自分なら、こんな夜でもハーレイと話が出来たのに。
 「ねえ、ハーレイは今、何してるの?」と訊けたのに。


 だけど出来ない、と残念でたまらないけれど。
 前の自分がそうしたように、ハーレイと少し話せたら、と窓の方向を眺めるけれど。
(…思念波は無理で、こんな時間に通信も無理…)
 もしも通信を入れに行ったら、「まだ起きてるのか?」と叱られそう。
 「早く寝ろよ」と、「明日も学校、あるんだからな」と。
 叱られたって、ハーレイの声が聞けたら満足だけど。
 話が出来た、と心が弾むだろうけれど。
(ほんのちょっぴり、話せたら…)
 そう思ったって、今は出来ない。
 チビの自分は寝る時間だから。
 とはいえ、いつかはハーレイと好きなだけ話せる時が来る。
 二人一緒に暮らし始めたら、「まだ寝ないのか?」と睨まれたって。
 「もうちょっとだけ」と我儘を言って、ハーレイといくらでも続けられる話。
 側にいたなら、ハーレイだって「仕方ないな」と笑うだろうから。
 ハーレイの側にくっついたままで、疲れて眠りに落ちてゆくまで話し続けていいのだから…。

 

        君と話せたら・了


※今日はハーレイと話せなかった、と残念な気持ちのブルー君。挨拶だけの日だったよ、と。
 つまらないことでいいから話したいのに、出来ない今。けれど、いつかはたっぷりお話v






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