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カテゴリー「書き下ろし」の記事一覧

(俺のブルーだ、って言ってくれるけど…)
 それだけだよね、と小さなブルーがついた溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日も訪ねて来てくれたハーレイ。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 逞しい腕にギュッと抱き締められて、貰った言葉が「俺のブルーだ」。
 何度この言葉を聞いただろう。
 青い地球の上で再会してから、何度耳にしたことだろう。
 いつだって、強く抱き締められて。
 ハーレイの想いがこもった言葉を、大好きでたまらない声で。
(……でも……)
 まだまだずっと先のことだよ、と思ってしまう言葉でもある。
 「俺のブルーだ」と言ってくれても、その時限り。
 ハーレイは「またな」と帰ってしまって、ポツンと一人で残される自分。
 一緒に帰ってゆけはしなくて、いつもこうして独りぼっち。
 再会する前とまるで変わらない、自分の部屋に一人きりの夜。
(ハーレイに会う前は、少しも寂しくなかったけれど…)
 一人のんびり過ごしたけれども、今では違う。
 愛おしい人が側にいてくれないから、募る寂しさ。
 この時間ならば、ハーレイは書斎にいるのだろうか。
 何ブロックも離れた家で。
 窓から外を覗いてみたって、見えるわけもないハーレイの家で。
(…ぼくは、ハーレイのブルーだけれど…)
 ホントはそうじゃないんだよね、と分かっていること。
 いつか結婚出来る時まで、一緒に暮らせるようになるまで、この家のブルー。
 両親の大事な一人息子で、「パパとママのブルー」。
 寂しいけれども、それが現実。
 「俺のブルーだ」と言って貰えても、「ハーレイのブルー」にはなれないから。


 なんとも悲しい自分の現状。
 チビの自分は、まだ何年も待つしかない。
 結婚出来る年になるまで、「ハーレイのブルー」になれはしなくて、今のまま。
 「パパとママのブルー」で、この家に住んで、ハーレイが来るのを待っているだけ。
 仕事が早く終わった日だとか、休日とかに。
 二人で過ごして「俺のブルーだ」と、ギュッと抱き締めて貰っても…。
(ハーレイのブルーじゃないんだよ、ぼく…)
 残念だよね、と眺める小さな自分の手足。
 前の自分とそっくり同じに育っていたなら、十八歳になっていたのなら…。
(…ハーレイのブルーになれたのに…)
 再会したら、直ぐに結婚して。
 ハーレイの家で一緒に暮らして、「俺のブルーだ」という言葉通りになったろう。
 そしてハーレイの方だって…。
(…ぼくのハーレイ…)
 ぼくだけのハーレイになってたんだよ、と悔しい気分。
 今みたいに、夕食の席で両親に取られたりせずに。
 いつもハーレイを一人占めだし、幸せ一杯の日々だった筈。
 ハーレイと結婚出来ていたなら、「ハーレイのブルー」になれていたなら。
(…ホントに残念…)
 チビの身体じゃなかったら、と嘆いてみたって、どうにもならない。
 もうこの姿で出会ったのだし、大きくなれる日を待つしかない。
 一ミリさえも伸びてくれない背丈が、伸び始めて前と同じになるまで。
 前の自分とそっくり同じ姿に育って、結婚出来る年になるまで。
(…まだ何年もかかるんだから…)
 十四歳にしかなっていないもの、と指を折ってみる。
 結婚出来る十八歳は、まだまだ先、と。
 来年どころか、もっと先のこと。
 「ハーレイのブルー」になれる日が来るのは、ハーレイが手に入るのは。


 それでも前のぼくよりはマシ、と考え方を変えることにした。
 前の自分は、「ハーレイのブルー」になれないままで終わったから。
 仲を引き裂かれてしまったから。
 ソルジャーとキャプテン、白いシャングリラに欠かせない二人。
 仲間たちを導く長のソルジャー、シャングリラの舵を握るキャプテン。
 恋をしていると知れてしまったら、全てが上手く運ばなくなる。
 シャングリラを私物化しているのだ、と仲間たちは思うだろうから。
 いくら会議で決めたことでも、「本当なのか?」と疑い、信じてくれないから。
 何もかも二人で決めているのだと、恋人同士なら意見が合って当然だろうと、誤解をして。
(…恋がバレたら、大変なことになっちゃうから…)
 最後まで隠して隠し続けて、それきりになってしまった恋。
 仲間たちには明かせないまま、前の自分たちの恋は終わった。
 運命に仲を引き裂かれて。
 前の自分はメギドへと飛んで、命が終わってしまったから。
(…ぼくが地球まで行けていたなら…)
 恋を明かして、二人で暮らす筈だった。
 そういう夢を描き続けた、「地球に着いたら」と。
 けれど、それさえ出来なくなった前の自分たち。
 前の自分の寿命が尽きると分かった時から、もう見られなくなった夢。
(…ハーレイのブルーには、なれなくて…)
 ハーレイも手に入らなかった。
 「何処までも共に」とハーレイは誓ってくれていたのに、連れてはゆけなかったから。
 もしもハーレイを連れて逝ったら、シャングリラは地球まで辿り着けない。
 分かっていたから、ハーレイを一人、船に残した。
 ミュウの未来を守るためにと、「ジョミーを支えてやってくれ」と。
 そう言い残して飛び去ったのが前の自分。
 死が待つメギドへ、たった一人で。
 「ハーレイのブルー」になれもしないで、ハーレイの手さえ離してしまって。


 あの悲しすぎた恋に比べたら、今の自分の恋は幸せな恋。
 まだまだ先のことにしたって、「ハーレイのブルー」になれるのが自分。
 いつか結婚式を挙げたら、ハーレイだけのものになる。
 幸せな誓いのキスを交わして、ハーレイの花嫁になって。
(…ぼくはハーレイだけのブルーで…)
 ハーレイもぼくのものになるんだよ、と微笑んだけれど。
 「今度はハーレイも、ぼくだけのハーレイなんだから」と考えたけれど。
 もうキャプテンじゃないんだものね、と思った、そのハーレイは…。
(えーっと…?)
 一人占めするのは無理だろうか、と瞬かせた瞳。
 今は学校の教師のハーレイ、頼りにしている生徒が大勢いる。
 柔道部員の生徒はもちろん、クラス担任になったなら…。
(…ハーレイを頼って来る生徒…)
 一杯いるよね、と丸くなった目。
 休日はともかく、平日だったら学校の生徒が最優先。
 家に帰って来た後の時間なら、「悪いが、俺も忙しいんでな」と言ってもいいけれど…。
(…学校にいる間は、ぼくより生徒の方が優先…)
 どう考えても、そうなってしまう。
 ハーレイが合宿に行ってしまっても、同じこと。
 自分は家に独りぼっちで、ハーレイは生徒たちのもの。
 みんなでワイワイ食卓を囲んで、夜には花火なんかもして。
(…ハーレイ、ぼくだけのハーレイじゃないの?)
 今度もやっぱり違ったりするの、と思い浮かべた白いシャングリラ。
 あの船でキャプテンだったハーレイ、皆が頼りにしていた人物。
 それと同じで、今度は生徒に頼られる教師。
 柔道部員の指導をしたり、担任の生徒の相談に乗ったり、他にも色々。
 一人占めとはいかないハーレイ、結婚しても。
 「ハーレイのブルー」になった後にも、ハーレイは手に入らない。
 丸ごと、一人占めは無理。


(…ぼくだけのハーレイじゃないなんて…)
 そんな、と前の自分を思う。
 前の自分も、ハーレイに言えはしなかった。
 「君はぼくだけのものだからね」とは、ただの一度も。
 「ぼくだけの君だし、ぼくだけを見てくれなくちゃ」とは言えなかったまま。
 言いたくても、それは叶わないこと。
 いつか地球まで辿り着くまでは、ソルジャーとキャプテンではなくなるまでは。
(…ぼくだけのハーレイ…)
 心の中では思ったけれども、いつも思っていたのだけれど。
 面と向かって言えはしなくて、船の仲間たちに遠慮したまま。
 キャプテン・ハーレイを盗ってしまったら、たちまち困る仲間たち。
 だから言葉にしなかった。
 ただ思うだけで、「ぼくのハーレイ」くらいが精一杯で。
(今度は、ぼくだけのハーレイなんだ、って…)
 思っていたのに、違うのだろうか、と愕然としてしまったけれど。
 「そんなの酷い」と考えたけれど、其処で浮かんで来た言葉。
 今の自分は「ハーレイのブルー」になれはしなくて、「パパとママのブルー」。
 自分が「パパとママの」ものなら、ハーレイだって…。
(…隣町に、ハーレイのお父さんとお母さん…)
 ハーレイは、その人たちのハーレイだっけ、と気が付いた。
 「ぼくのだよ」と一人占めしてしまったならば、ハーレイの両親も困るだろう。
 隣町には行っちゃ駄目、とハーレイを独占してしまったら。
(…ぼくがパパとママのブルーなのと、おんなじ…)
 ハーレイにも大切な人たちがいるよね、と見開いた瞳。
 血の繋がった本物の両親、前の自分たちが生きた時代は「親」は養父母だったのに。


(…今の時代は、誰だってパパもママもいるから…)
 もうそれだけで一人占めするのは無理みたい、と浮かべた笑み。
 だったら、生徒たちがハーレイを持って行ってしまうのも許そうかな、と。
 生徒たちには大事なハーレイ、そのくらいは大目に見たっていい。
 学校がある間だけだし、合宿の時も、その間だけ。
(…普段は、ハーレイ、ぼくと一緒で…)
 ぼくは「ハーレイのブルー」になれるんだから、と考える。
 それだけで充分幸せだよねと、「ぼくだけのハーレイ」は無理でも我慢しよう、と。
 「ハーレイのブルー」になれるから。
 いつか結婚式を挙げたら、前の自分がなれずに終わった「ハーレイのブルー」なのだから…。

 

          ぼくだけの君・了


※今度はハーレイを一人占めだよ、と思ったブルー君ですけれど。どうやらそれは難しそう。
 けれど、今度は「ハーレイのブルー」になれるのがブルー君。一人占めの方は我慢ですv






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(俺のブルーか…)
 確かにそうではあるんだがな、とハーレイが浮かべた苦笑い。
 ブルーの家へと出掛けて来た日に、夜の書斎で。
 愛用のマグカップに淹れたコーヒー、それを片手に。
 今日も会って来た愛おしい人、前の生から愛した恋人。
 十四歳にしかならないブルーをギュッと抱き締め、掛けてやった言葉。
 「俺のブルーだ」と。
 青い地球の上で再会してから、この言葉を何度口にしたろう。
 想いをこめて、心から。
 誰よりも愛しい人のためにだけ紡ぐ言葉を、愛おしさが溢れ出すままに。
(しかしだな…)
 まだ一人占めは出来ないんだ、と分かっているから苦笑した。
 「俺のブルーだ」と強く抱き締めてみても、その時限り。
 この時間ならば、ブルーは眠っているのだろうか。
 何ブロックも離れた所にある家で。…両親と暮らしている家で。
 つまりブルーは此処にいなくて、自分はポツンと一人きり。
 前と変わらない独身生活、傍目には何も変わりはしない。
 ブルーと再会するよりも前と。
 前の自分の記憶が戻って、愛おしい人を取り戻す前と。
(あいつは帰って来てくれたんだが…)
 遠く遥かな時の彼方で、失くしてしまった前のブルー。
 気高く美しかった恋人、ソルジャー・ブルーと呼ばれた人。
 その人は帰って来たのだけれども、まだ幼さが残る子供で結婚出来る年ではない。
 だから一人占め出来はしないし、この家で共に暮らせもしない。
 「俺のブルーだ」と言ってみたって、もう本当に言葉だけ。
 まだまだ手には入らない人、抱き締めることしか出来ない人。
 あまりにも無垢な今のブルーとは、まだキスさえも交わせないから。
 デートに連れて行けはしないし、ドライブにだって行けないから。


 まだ当分は言葉だけだ、とフウと溜息をつくけれど。
 それが残念ではあるのだけれども、今のブルーも愛おしい。
 ゆっくりと子供時代を過ごして欲しいし、急いで育って欲しくはない。
 前のブルーは子供時代の記憶を持っていなかったから。
 成人検査と、繰り返された過酷な人体実験と。
 それが全てを奪ってしまって、アルタミラから脱出した時は何も残っていなかった。
 子供時代の記憶はもちろん、「愛されていた」という思い出さえも。
 養父母が注いだだろう愛情、それの小さな欠片でさえも。
(その分、今のあいつには…)
 両親と暮らす幸せな日々を、子供時代を充分に満喫して欲しい。
 ブルーが幸せでいてくれるならば、何年だって待っていてやる。
 何年どころか、何十年でも。
 チビのブルーが少しも育たないまま、結婚出来ずに待たされたってかまわない。
(いつかは俺だけのブルーだしな?)
 もう文字通りに「俺のブルー」だ、と思ったけれど。
 結婚したなら一人占めだ、とコーヒーのカップを傾けたけれど。
(…待てよ?)
 本当に一人占めなのか、とハタと気付いたブルーの周り。
 結婚式を挙げるとなったら、まずはブルーの両親に…。
(…あいつを下さい、と頼みに行って…)
 お許しが出たら、ブルーがこの家にやって来る。
 結婚式を挙げて、花嫁になって。
(そうすりゃ、俺のブルーなんだが…)
 一人占めとはいかないぞ、と思い浮かべたブルーの両親。
 何ブロックも離れていたって、同じ町に住んでいるのだから。
 まるで放っておけはしないし、下手をしたなら…。
(週末はあいつの家だとか…)
 ドライブの帰りに寄ってみるとか、そんな具合に。
 そして一緒に食べる夕食、あちらも待っているだろうから。


 まずは二人、と折った指。
 今のブルーを育てた両親を抜きで暮らせはしない。
 「俺のブルーだ」と一人占めして、家には行かせないなんて。
 毎週末とは言われなくても、きっと出掛けてゆくことになる。
 ブルーは一人息子なのだし、会えるのを楽しみにしているだろう両親。
 「元気だったか?」と笑顔の父と、「今日はゆっくりしていってね」と優しい母と。
 その人たちを抜きでいられはしないし、返さなくてはならないブルー。
 たまには、ブルーを育てた人に。
 「俺のブルーだ」と独占しないで、「ご無沙汰してます」と出掛けて行って。
 ブルーの方でも、「行かないよ」とは言わない筈。
 「ぼくの家に行くより、デートがいいな」だとか、「旅行しようよ」とは言わないだろう。
 あの家で幸せに育ったのだから、両親を嫌う筈がない。
 ドライブの帰りに「寄るか?」と訊いたら、大喜びで頷くのだろう。
 「うん」と、「行くなら、お土産も持って行きたいな」と。
 そうなるだろうし、二人でドライブに出掛けても…。
(…美味い料理や菓子の類に出会ったら…)
 瞳を煌めかせるブルーの姿が見えるよう。
 「これ、お土産に持って帰れるかな?」と。
 持ち帰れるなら両親に、と。
 「パパとママにも買って行こうよ」と、「ドライブの帰りに持って行こう」と。
 そして帰りに、ブルーの家に寄ることになる。
 お土産を抱えて嬉しそうなブルーと一緒に、「急にお邪魔してすみません」と訪ねる家。
 両親はきっと大歓迎で、そのまま夕食を御馳走になって…。
(…食後のお茶まで、もうゆっくりと…)
 引き止められて過ごすんだな、と思い描いた未来の光景。
 ブルーをドライブに誘った時には、別の予定があっただろうに。
 夕食は何処に食べに行こうかと、あれこれ考えていたのだろうに。
(…全部パアだな)
 ブルーと二人きりで食べる夕食も、その後の夜のドライブだって。


 結婚したって、一人占めには出来ないブルー。
 普段は二人きりの日々でも、けして「俺だけのもの」とはいかない。
 休日ともなれば待っている人、ブルーを育てた両親の他にも…。
(…隣町に二人いるってな)
 俺の親父とおふくろが、と続けて折った指が二本。
 「これで四人になっちまった」と、「親父たちだって待っているんだから」と。
 まだ会わせてもいない内から、ブルーが家にやってくる日を心待ちにしている両親。
 今すぐにだってブルーに会いたい、と言っているのが隣町の二人。
 父はブルーを釣りやキャンプに連れて行きたがるし、母は散歩をしたいらしいし…。
(今からそれだと、あいつが大きくなったなら…)
 もっと膨らんでいそうな両親たちの夢の計画。
 「ブルー君も一緒に旅行に行こう」と言い出すだとか、「泊まりに来い」とか。
 そうなったならば、消し飛んでしまう「ブルーと二人きりの休日」。
 両親も一緒に釣りの旅とか、隣町の家で夜遅くまで…。
(ワイワイ宴会になっちまうんだ…)
 俺のブルーを親父とおふくろに取られちまって、と容易に想像出来ること。
 きっと両親はブルーが大のお気に入り。
(デカく育ちすぎて、可愛げのない俺の代わりに…)
 もうちやほやと可愛がったり、甘やかしたりして過ごすのだろう。
 「これが美味いんだぞ」と勧める父とか、「明日の朝は散歩しましょうね」と誘う母とか。
 ブルーを手に入れた、自分のことは置き去りで。
 「あいつは一人でも平気だからな」と、父がワハハと笑ったりして。
 そうやって持って行かれるブルー。
 せっかく二人で過ごせる休日、本当だったらブルーを一人占めなのに。
 同じ旅行でも二人だったら、ブルーは自分のものなのに。
(…親父たちにも、やられちまうってか…)
 そっちの方も目に浮かぶんだ、と鮮やかに見える未来の休日。
 隣町に住む自分の両親、その二人だって「俺のブルー」を盗っちまうぞ、と。


 ブルーの両親と自分の両親、全部で四人。
 誰にも文句を言えはしなくて、ブルーの方でも…。
(きっと大喜びなんだ…)
 新しく増えた隣町の家族、その両親と旅行するのも、招かれるのも。
 ドライブの時も、「寄って行こうよ」と言いもするのだろう。
 隣町の家に行けるコースでドライブ中なら、素敵なお土産を見付けたならば。
(…俺のブルーの筈なんだが…)
 俺だけのあいつになる筈なのに、と眺める自分の四本の指。
 これだけの人数が揃っていたんじゃ、とても独占出来ないぞ、と。
 ブルーを一人占め出来はしなくて、気前よく配るしかないらしい。
 「お邪魔します」とブルーの家に出掛けてゆくとか、「近くまで来たから」と隣町の家に。
 どうやら一人占めは不可能、「俺のブルーだ」と言えはしたって…。
(…今度も俺だけのあいつじゃないのか…)
 四人もいるぞ、と数える「ブルーを一人占めさせない人」たち。
 とはいえ、今度は皆が家族で、何処に行ってもブルーは大喜びだから…。
(…仕方ないよな、俺だけのあいつじゃなくっても)
 シャングリラだったら、別の意味で「俺だけのあいつ」じゃなかった、と零れた笑み。
 今度のブルーはソルジャーではないし、一人占め出来ないことは同じでも、まるで違うから。
 自分だけのブルーにするのは無理でも、ブルーは幸せ一杯だから…。

 

         俺だけのあいつ・了


※いずれはブルー君を「俺のブルーだ」と一人占めだ、と思ったハーレイ先生ですけれど。
 四人もの人たちが欲しがるらしいブルー君。でも、ブルー君が幸せだったらいいですよねv






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(んーと…)
 そういう歌はあるんだけどな、と小さなブルーが考えたこと。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は来てくれなかったハーレイ、前の生から愛した恋人。
 青い地球の上でまた巡り会えて、恋をしているけれど。
 前の自分たちの恋の続きが始まったけれど、こうして恋をしていられるのは…。
(…ぼくもハーレイも、生まれ変わりで…)
 新しい命と身体を貰って、もう一度巡り会えたからこそ。
 五月の三日に再会するまで、まるで知らなかったハーレイのこと。
 今のハーレイは知りもしないし、前の自分が恋したハーレイの方にしたって…。
(…歴史の授業で教わった人…)
 白いシャングリラを地球まで運んだ、偉大なキャプテン。
 ミュウの時代を築いた英雄、キャプテン・ハーレイはそういう人。
 もちろん写真は知っていたけれど、たったそれだけ。
 「素敵な人だ」と思いもしないし、名前を聞いても「ふうん?」と思っていた程度。
 少しも高鳴らない心臓。
 まるで心を惹かれはしなくて、歴史上の重要人物の一人。
(…前のハーレイ、そうだったのに…)
 何もかもがすっかり変わってしまって、今の自分はハーレイに夢中。
 家を訪ねてくれなかった日は、ションボリとしてしまうくらいに。
(少しでも一緒にいたいものね?)
 前の自分の記憶が戻って、ハーレイのことを思い出したら、そうなった。
 恋の続きを生きているから、恋人の側にいたいから。
(生まれ変わって、また出会うって…)
 恋歌にあったりするのだけれども、本当にある、と今の自分は知っている。
 今だってハーレイに恋をしているし、前の自分もそうだったから。
 生まれ変わってまた巡り会えて、今も恋人同士だから。


 遠く遥かな時の彼方で、恋人同士だった自分たち。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ、そう呼ばれていた恋人同士。
 恋のことは隠し続けたけれど。
 最後まで誰にも明かすことなく、恋は宇宙に消えたのだけれど。
(…だけど、今でも恋人同士…)
 ハーレイと二人、長い長い時を越えて来た。
 死の星だった地球が蘇るほどに、青い水の星が宇宙に戻って来るほどに。
 それほどの時が流れたけれども、消えてしまいはしなかった恋。
 こうしてハーレイと巡り会えたし、これからも恋をしてゆける。
 前の自分は泣きながら死んでいったのに。
 「もうハーレイには二度と会えない」と、「絆が切れてしまったから」と。
 最後まで持っていたいと願った、ハーレイの温もりを失くしてしまって。
 銃で撃たれた痛みで落として、それきり消えてしまった温もり。
 右手が冷たいと泣きじゃくりながら、メギドで死んだソルジャー・ブルー。
(…あれでおしまいだと思ったのに…)
 どうしたわけだか、気付けば目の前にハーレイがいた。
 聖痕が身体に現れたせいで、意識は薄れていったのだけれど。
 溢れ出す血と激しい痛みに、勝つことは出来なかったのだけれど。
 けれど、ハーレイに会えたことは分かった。
 また会えたのだと、愛おしい人の許に自分は帰って来られたと。
 この人が自分の愛した人だと、ずっと前からハーレイのことが好きだったと。
(…ちゃんと会えたし、前のぼくのことも…)
 忘れていない、とキュッと握った小さな右手。
 ずいぶん小さくなったけれども、これがメギドで凍えた右手。
 ハーレイが何度も大きな両手で包み込んでは、そっと温もりを移してくれた。
 「大丈夫か?」と、「もう冷たいのは治ったか?」と。
 そうして温もりが戻って来るのも、生まれ変わって出会えたから。
 前の自分たちの恋の続きを、ハーレイと二人で生きているから。


 ハーレイに恋して、幸せな自分。
 会えない時でも、ハーレイのことを想わないではいられない。
(ハーレイに会えなくて、寂しくなってしまうのも…)
 また巡り会えて恋をしたからで、ハーレイがいてくれるから。
 前の自分が焦がれた地球に、二人一緒に生まれ変わって。
 同じ町に住んで、ちゃんと出会えて、恋の続きを生きてゆくことが出来るから。
(…ハーレイがいるから、とても幸せ…)
 ホントに幸せ、と思うけれども、自分たちのように「生まれ変わる」こと。
 「生まれ変わって、また恋をする」と歌う恋歌はあるけれど。
 チビの自分でも知っているくらい、人気のテーマになっているけれど。
(…本当に生まれ変わって、出会える人って…)
 そうはいない、とチビでも分かる。
 本当に歌の通りになるなら、そういうカップルたちで溢れ返った世界の筈。
 けれども「生まれ変わり」の実例、そんなケースを自分は知らない。
 ただの一つも。
 それに普通のことだったならば、恋歌になって歌われたって…。
(…当たり前でしょ、って思われちゃって…)
 誰も歌ってくれないだろう。
 人気は出ないし、流れていたって聞き流されてしまっておしまい。
 「今の歌は誰の歌だろう?」とも思われないで。
 気に入ったから、と欲しがる人もいなくて。
(…歌のようにはいかないから…)
 恋人たちが憧れる。
 永遠に続く、終わらない恋。
 どちらかが死んでしまった後にも、恋は何処までも続いてゆく。
 ほんの少しの間のお別れ、もう一人の命も尽きたなら…。
(ちゃんと出会えて、また恋をして…)
 恋の続きを生きてゆけるし、また死が来たって、少しお別れするだけだから。
 何年か経ったら、必ず巡り会えるから。


 何度生まれても、巡り会う二人。
 いつまでも切れない、恋人同士を結んだ絆。
 そんな恋をしたいと誰もが願って、恋歌も人気なのだけど。
 色々な人が歌うけれども、実際には上手くいかないもの。
 巡り会える人たちが少ないからこそ、今の時代も人気の恋歌。
 「生まれ変わっても、また巡り会おう」と、「何度でも出会って、また恋をする」と。
 そう出来たなら、と皆が夢見るから。
 ずっと恋人同士でいようと、恋人たちが誓い合うから。
(…前のぼくたちも、そうだったけど…)
 何処までも二人一緒なのだと、何度も絆を確かめたけれど。
 そうはいかなくて、前の自分はハーレイの手から離れて飛んだ。
 死が待つメギドへ、たった一人で。
 前のハーレイを一人残して、二度と戻れはしない場所へと。
(…それに、ハーレイの温もりだって…)
 落として失くして、切れたと思った前のハーレイとの絆。
 なのに、切れてはいなかった絆。
 青い地球の上に生まれ変わって、またハーレイと恋をしている。
(…歌の世界なら、そんな恋だってあるんだけれど…)
 恋歌みたいに会えたけれど、と見回す世界。
 今の自分が住んでいるお城、両親に貰った子供部屋。
 それの外には、まず地球があって、地球の向こうには広い広い宇宙。
 前の自分がシャングリラで旅をしていた宇宙が、幾つもの星が散らばるけれど…。
(…生まれ変わって、また会える人は…)
 きっと本当に、ほんの少ししかいないのだろう。
 今この瞬間に何組いるのか、もしかしたら自分たちだけかもしれない。
 広い宇宙を探してみたって、一組しかいない奇跡のような組み合わせ。
 前の生からの恋の続きを、そのまま生きてゆけるカップル。
 恋歌には幾つも歌われていても、本物は宇宙に一組だけしかいないとか。


 どうなんだろう、と傾げた首。
 ハーレイと自分しかいないというのか、他にも少しはいるものなのか。
(…分かんないよね?)
 そんな調査はされてもいないし、していると聞いたことも無い。
 調査するほど例があるなら、きっと誰かが色々調べているだろうから…。
(…ぼくとハーレイだけなのかも…)
 聖痕だって奇跡だもの、と眺めた身体。
 前の自分がメギドで撃たれた時の傷痕、それを再現したような傷。
 大量の血が溢れ出したというのに、何の傷痕も残らなかった。
 それと同じに、ハーレイと二人で生まれ変わって来たことも奇跡。
 巡り会えて恋をしていることも。
 前の自分たちの恋の続きを、二人で生きてゆくことも。
(…本当に、恋の歌みたい…)
 こうして此処に生きていること、ハーレイと恋をしていること。
 切れてしまったと思った絆が、切れずに続いていたことも。
(前のぼく、恋の歌なんか…)
 歌っていたのか、どうだったのか。
 記憶はハッキリしないけれども、生まれ変わっても続いてゆく恋の歌などは…。
(歌ったとしても、きっと…)
 憧れただけで、本当になると夢を見たりはしなかったろう。
 ハーレイと二人で生まれ変わるなど、恋の続きを生きてゆくなど。
(…二人一緒に、天国だったら…)
 考えたけれど、死んだ後も一緒だと思ったけれど。
 また生きようとは思わなかったし、生きられるとも思っていなかった筈。


(…なんだか凄い…)
 ぼくもハーレイも生きているよ、と瞬かせた瞳。
 生まれ変わりを歌う恋歌のように、恋の続きがやって来た。
 そんな未来があるとも思っていなかったのに。
 泣きじゃくりながら死んだ時には、絆が切れたと思ったのに。
(…ぼくもハーレイも、ホントのホントに…)
 運命の恋人同士なんだよ、と誇らしい気持ち。
 恋歌みたいに、生まれ変わって巡り会えたから。
 前の自分たちの恋の続きを、ハーレイと二人、幸せに生きてゆけるのだから…。

 

         恋歌みたいに・了


※ブルー君が思う、ハーレイ先生と二人で生まれ変わったこと。恋歌みたい、と。
 歌には色々歌われていても、実例を知らないブルー君。運命の恋人同士、と得意そうですv






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(ふうむ…)
 咄嗟には何も思い付かんな、とハーレイが浮かべた苦笑い。
 夜の書斎で、愛用のマグカップに淹れたコーヒー片手に。
 今日は寄れなかったブルーの家。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 十四歳にしかならないブルーを想っていたら、ふと頭の中に浮かんだこと。
 「俺たちは生まれ変わりだよな?」と。
 五月の三日に再会するまで、お互い、気付いていなかったけれど。
 それぞれ別の人生を生きて、思い出しさえしなかったけれど。
(なのに、劇的に出会っちまって…)
 今はお互いしか見えない。
 遠く遥かな時の彼方でそうだったように、いつも互いを見ていたように。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ、そういう二人が恋をしたように。
(生まれ変わって、また巡り会うというのは、だ…)
 物語の世界では人気のテーマで、恋歌にだって歌われるもの。
 「何度生まれ変わっても、また巡り会う」といった具合に。
 けれど、今の自分が学校で教える古典の世界。
 遠い昔にこの辺りの地域に在った島国、日本と呼ばれた小さな国。
 其処で生まれた和歌も教えているのだけれども、直ぐに思い付く和歌の中には…。
(…一つも無いと来たもんだ…)
 忘れてるかもしれないがな、とコツンと叩いた自分の額。
 有名どころの和歌にあるかもしれない、と。
 後から気付いて「あれだ!」と思うような歌。
 まるで無いとは言い切れない。
 人の記憶は曖昧なもので、一足、前へと踏み出した途端に…。
(忘れちまうってのも、ありがちなんだ…)
 何をしようとして歩き出したのか、綺麗サッパリ。
 それと同じに、得意な筈の和歌だって。


 自分が忘れているだけなのか、最初から知られていないのか。
 思い付かない、生まれ変わりを詠んだ和歌。
 「生まれ変わっても、また巡り会おう」と誓う恋歌、そういう和歌。
 日本だったら、ありそうなのに。
 今の時代に歌われる歌も、それを歌っていたりするのに。
(…古典の世界じゃ、定番なんだが…)
 来世を誓う仲というもの。
 次の世でもきっと巡り会おう、と誓いを交わす恋人たちは多いのに。
(なんだって、和歌は無いんだか…)
 忘れてるなら俺のせいなんだがな、とも考えるけれど。
 記憶からストンと抜けていることも、全く無いとは言えないけれど。
(しかし、幾つもあるんだったら…)
 一つくらいは引っ掛かっても良さそうなのに、浮かんでくれない和歌というもの。
 生まれ変わっても巡り会おうと、ずっと一緒だと詠まれた恋歌。
 思い出せたら、それを詠んだ人に…。
(自慢出来るってものなんだがな?)
 その歌の通りに、俺とブルーは再会したぞ、と。
 自分が詠んだ歌ではなくても、「また巡り会おう」と想いをこめた恋の歌。
 歌そのままに巡り会ったと、時を越えて再び巡り会えたのだと。
(俺も、ブルーも…)
 気が遠くなりそうな長い時を飛び越え、青い地球の上でまた会うことが出来た。
 前の自分たちとそっくり同じに、少しも変わらない姿で。
(…ブルーは小さすぎるんだが…)
 まだチビなんだが、と思いはしたって、ブルーはブルー。
 アルタミラで初めて出会った時には、今と同じにチビだったブルー。
 だからいずれは、今のブルーも…。
(前のあいつと、全く同じに育つってな)
 そうなることが分かっているから、もう幸せでたまらない。
 恋歌のように巡り会えたと、そういう和歌を誰かが詠んでいたなら、と。


 遠い昔に在った島国、小さな日本。
 其処でいったい、どれほどの数の恋人たちが誓い合ったろう。
 「次の世でもまた巡り会おう」と、「生まれ変わっても、ずっと恋人同士だ」と。
 それを詠んだ和歌を、今は一つも思い出せないことが残念だけれど…。
(思い出した時は、思い切り自慢してやるぞ)
 あるいは「こいつだ」と思う、来世を誓った恋の和歌を何処かで見付けた時。
 自分もブルーもそれを果たしたと、生まれ変わって今も一緒だと、歌を詠んだ人に。
(…そうそういない筈なんだしな?)
 生まれ変わりも、巡り会うことが出来た恋人たちも。
 伝説や昔語りの中では語られていても、それでもやはり珍しいこと。
 よほど絆が深くなければ、生まれ変わって出会えはしない。
 恋歌ではよく歌われていても。
 そういう歌詞が人気を呼んでも、実際に巡り会う人は…。
(…少ないからこそ、人気なんだ)
 ついでに有名な和歌も、咄嗟に一つも思い出せないのだろう、と考える。
 これがありふれた現象だったら、大勢の人たちが歌を詠んでいた筈だから。
 「必ず会おう」と、「また次の世で」と。
 まるで挨拶代わりのように、「巡り会おう」と恋の歌を詠んで交わしただろう。
(でもって、歌う方の歌の世界では、だ…)
 きっと人気が出はしない。
 当たり前のことを歌ってみたって、聞き流されるだけだから。
 「この歌のように素敵な恋をしたい」と思う代わりに、「誰だってそうだ」と思うだけ。
 同じ恋歌を歌うのだったら、もっと気の利いた歌詞の方がいいに決まっている、と。
 ちょっと捻って、魂に響く歌にしてくれれば、と。
 ありふれたことを歌うにしたって、言葉次第で人を惹き付けることは出来るもの。
 そっちの方でお願いしたいと、「こんなつまらない歌詞は駄目だ」と。
 けれども、今も人気の恋歌。
 「生まれ変わってまた巡り会おう」と、「いつまでも恋人同士だから」と。


 自分とブルーは巡り会えたけれど、恋歌のように出会ったけれど。
 和歌が詠まれた遠い昔から、それほどはいない、「生まれ変わって巡り会う」二人。
 だから有名な和歌は少なくて、今の時代も恋歌で人気のテーマ。
 それほどにロマンチックな出来事、誰もが出来はしないこと。
(出来るってことは、俺とブルーが生き証人だが…)
 自分たちがやってのけたことだし、出来ないことではない「生まれ変わり」。
 そうやって生まれて、もう一度巡り会うことも。
 前の自分たちの恋の続きを、二人で生きてゆくことも。
(…どういう条件が必要なんだか…)
 まるで謎だな、と思うけれども、歌の通りにやってのけたのが自分たち。
 時の彼方で引き裂かれたのに、また巡り会えて恋人同士。
 どう考えても奇跡そのもの、ブルーが持っている聖痕と同じ。
 神が起こしてくれた奇跡で、前と同じに恋してゆける。
(…ずっと離れない、と誓っちゃいたが…)
 前のブルーに何度も誓った。
 いつまでも側を離れないからと、何処までも恋人同士だと。
 けして離れないと誓っていたのに、その手を離して飛び去ったブルー。
 前の自分を一人残して、メギドへと。
 そしてブルーも一人きりで宇宙に散ってしまって、恋も宇宙に砕けて散った。
(俺があいつを忘れなくても…)
 どんなにブルーを想い続けても、周りにあったのは孤独と絶望。
 一目会いたいと願うだけ無駄で、ブルーは二度と船に戻りはしないから。
 逝ってしまった人は戻らないから、側に戻って来てくれないから。
(…あいつの魂が、俺の隣にいたとしたって…)
 ブルーの姿が見えないのならば、いないのとまるで変わりはしない。
 思念も届かず、言葉も交わせないならば。
 其処にいるだろうブルーの存在、それに気付けはしないなら。


(その辺の所が謎なんだよなあ…)
 ブルーがメギドに飛び去った後も、前の自分の命が地球で潰えた後も。
 魂があるのは確かだけれども、お互い、何も覚えてはいない。
 青い地球の上に生まれる前には、何処にいたのか、その欠片さえも。
(きっと一緒にいたんだろうが…)
 そうは思っても、いつからブルーと一緒だったのか。
 何処で出会って、どういう風に過ごしていたのか、二人揃って思い出せない。
 なんとも頼りない話だけれども、覚えていないのは残念だけれど…。
(…だが、俺たちは巡り会えたってな)
 恋歌のように、生まれ変わって。
 前の姿と全く同じに、前の自分たちが夢見た地球で。
 青い水の星で再び出会って、今度こそ共に生きてゆく。
 恋を隠さずに済む場所で。
 堂々と共に生きられる場所で、ブルーとしっかり手を繋ぎ合って。
(…二度と離しやしないんだ…)
 今度こそな、と思うブルーの手。
 前の自分は止めることさえ出来なかったけれど、メギドに行かせてしまったけれど。
(奇跡みたいに出会えたんだし…)
 二度とあいつを離しやしない、と浮かべた笑み。
 いつかブルーが大きくなったら、もう本当に離さない。
 恋歌のように生まれ変わって、また巡り会えた恋人だから。
 前の自分たちの恋の続きを、幸せな時を生きてゆけるのが今なのだから…。

 

         恋歌のように・了


※自分もブルーも生まれ変わりだ、と考えてみたハーレイ先生。恋歌の歌詞そのままに。
 そう簡単に出来ないからこそ、人気の恋歌。生まれ変わってまた出会えたのは幸せですよねv






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(ぼくのこと、好きでいてくれるんだけど…)
 愛は確かにあるんだけれど、と小さなブルーが零した溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日も訪ねて来てくれたハーレイ、前の生から愛した人。
 青い地球の上に生まれ変わって、また巡り会えた恋人だけれど。
 とても優しくしてくれるけれど、前よりもケチになってしまった。
 いくら頼んでも、キスをくれない。
 額や頬にはキスしてくれても、唇へのキスが貰えない。
 恋人同士の二人なのに。
 前の生なら、当たり前のようにキスを交わしていたものなのに。
(…だから、作戦…)
 あの手この手で強請ってみるキス、今日も繰り出してみた攻撃。
 「ハーレイはホントに、ぼくが好きなの?」と。
 キスを強請ったら断られた上に、額をピンと弾かれたから。ハーレイの指で。
 「俺は子供にキスはしない」と、決まり文句も飛び出したから。
 いつもハーレイがやることだけれど、やられたらプウッと膨れるけれど。
 「ハーレイのケチ!」と膨れっ面になるのだけれども、今日はオマケをつけてみた。
 この作戦なら、キスが貰えるかもしれないから。
 そう思ったから、ハーレイに訊いた。
 「本当に、ぼくを好きなの?」と。
 「前のぼくじゃなくて、今のぼくだよ」と。
 前の自分を愛したように、今も愛しているのなら。
 愛おしいと思ってくれているなら、キスをくれてもいいだろうと。
 キスをくれないのは、愛が足りないから。
 前の自分を愛したほどには、愛していないというのでは、と。
 小さくなったチビの自分を、前ほど愛していないハーレイ。
 それならキスが無いのも分かると、「愛が足りないなら、キスも無いよね?」と。


 そう言ってやれば、キスが貰えると思ったのに。
 「愛していないわけがないだろう!」と抱き締めてキス、と考えたのに。
 ケチなハーレイは余裕たっぷり、ニヤリと笑ってこちらを眺めた。
 「キスはしないと言ってるよな?」と、「お前の心は丸見えなんだが」と。
 つまりは筒抜けだった作戦、ハーレイは全てお見通し。
 どんなにプンスカ怒ってみたって、バレているなら仕方ない。
 バツが悪いだけで、膨れ続けているだけ損。
 怒っている間も、時間は流れてゆくのだから。
 一分、二分と流れ続けて、その内に終わりが来る逢瀬。
 キスも交わせない二人だけれども、恋人同士で過ごせる時間が終わってしまう。
 「夕食の支度が出来ましたから」と、母が呼びに来て。
 両親も一緒の夕食の時間、それが来たなら、逢瀬はおしまい。
 運が良ければ、夕食の後のお茶の時間に、もう一度部屋に戻れるけれど…。
(ママがコーヒーを用意しちゃったら、パパたちと一緒…)
 自分は苦手なコーヒーの時は、ダイニングでそのまま食後のお茶。
 コーヒーでなくても、両親とハーレイの話が弾んでいた時は…。
(やっぱりそのまま、ダイニング…)
 部屋に戻って来られはしなくて、それっきり。
 ハーレイが「そろそろだな」と、時計を眺めて立ち上がるまで。
 そのまま玄関の方に向かって、「またな」と手を振り、帰るハーレイ。
 恋人同士で話せないままで、車に乗って。
 あるいは歩いて、ハーレイの家へと帰ってしまう。
 自分がプンスカ怒っている間に、近付いてくるのが別れの時間。
 それは困るから、全面降伏。
 ハーレイがキスをくれなくても。
 ケチな上に、額を指で弾かれてしまっても。
 心の欠片が零れていたなら、もうハーレイに怒っても無駄。
 機嫌を直して、お喋りの方がずっといい。
 貰えないキスにこだわるより。
 「ハーレイのケチ!」と膨れっ放しで、時間を無駄にしてしまうより。


 今日も慌てて直した機嫌。
 「失敗しちゃった」と作戦ミスを素直に認めて、ちょっぴり舌も出してみて。
 それから後は楽しく過ごして、幸せな時間だったけど。
 ハーレイとゆっくり出来たのだけれど、こうして一人で考えてみると…。
(…ぼく、愛されてる?)
 前のぼくより、と捻った首。
 どうなんだろうと、ソルジャー・ブルーだった頃と今とは同じかな、と。
(ハーレイ、いつも来てくれるから…)
 キスも出来ないチビの恋人、そんな自分を家まで訪ねて来てくれる。
 週末はもちろん、平日だって仕事が早く終わったら。
 チビの自分と出会う前には、そういう時には…。
(色々なことをやってたよね?)
 平日だったらジムに行くとか、息抜きに少しドライブだとか。
 仕事が無い日はもっと色々、それこそフラリと旅行にも行けた。
 気ままな一人暮らしなのだし、思い立った時に。
 もしかしたら宿さえ予約しないで、行き先さえも決めないままで。
(車で好きに走って行くとか、港から船に乗るだとか…)
 土曜と日曜、それを使えば充分に出来る短い旅行。
 家でのんびりしていてもいいし、得意な料理で一日潰していたっていい。
 朝から市場に仕入れに出掛けて、せっせと仕込んで、食べられるのは夕食だとか。
(過ごし方、幾つもあるんだけれど…)
 ハーレイの父と釣りにも行けるし、隣町の家で「おふくろの味」を堪能することも出来る。
 けれども、それらをしないハーレイ。
 ハーレイ自身のために時間を割くより、チビの自分が最優先。
 待っていることを知っているから、時間さえあれば来てくれる。
 やりたいだろうことがあっても、それは放って。
 「いつか出来るさ」と、旅もしないで。
 隣町の家に出掛けてゆくのも、此処へ来るのに困らない時。
 きっとゆっくりしたいだろうに、そうはしないで戻るハーレイ。
 チビの自分が首を長くして待っているから、急いで車を運転して。


 ハーレイが好きに使える時間を、独占しているのが自分。
 週末も、仕事が早く終わった日も。
(ぼくに会う前なら、その時間、好きに使えていたのに…)
 今は使おうとしないハーレイ。
 それだけ自分は愛されているし、大切にされているのだろう。
 「あいつに会いに行かないとな?」と、ハーレイは思ってくれるのだから。
 ジムに行くより、ドライブに行くより、フラリと一人で旅に出るより。
 チビの自分と過ごしたいから、ハーレイは此処に来てくれる。
 キスも出来ない恋人でも。
 デートにも行けないチビだけれども、ハーレイは愛してくれているから。
 「俺のブルーだ」と抱き締めて。
 膝の上にも座らせてくれて、メギドで凍えた悲しい記憶を秘めた右手も…。
(ちゃんと温めてくれるんだものね?)
 だからチビでも愛されてるよ、と考えてみれば分かること。
 前の自分よりも、ずっと愛されているかもしれない。
 ハーレイの時間を独占できるのが今の自分で、前の自分には無理だったから。
 キャプテン・ハーレイの空き時間を全部、一人占めなど出来なかったから。
(…そんなことをしたら、みんなにバレちゃう…)
 何処か変だ、と気付かれる。
 友達同士というだけのことで、あんなに一緒にいるだろうか、と。
 キャプテンが休憩時間を過ごす時には、いつも隣にソルジャー・ブルー。
 それも青の間から、わざわざ出て来て。
 休憩用の部屋とか、食堂だとかで、ハーレイと微笑み交わしながら。
 恋人同士の時の甘い表情、それをしなくても疑われる筈。
 どうしてソルジャーが頻繁に、と。
 キャプテンに用があるならともかく、いつ見ても一緒なんだが、と。
(…そうなっちゃうから、絶対に無理…)
 疑いの目で見られていたなら、気付く者だって現れるだろう。
 決定的な現場を押さえなくても、「やはり怪しい」と。
 ソルジャーとキャプテンは恋をしていると、きっとそうなのに違いない、と。


 一度そういう噂が立ったら、幾つも出て来るだろう裏付け。
 どんなに懸命に隠していたって、何処からかバレてしまうもの。
 証拠を探そうと、仲間たちが動き始めたら。
 意識していなかったら気付かなかった筈のことまで、端から目に付くだろうから。
(…前のハーレイを一人占めなんか…)
 出来はしなかったし、ハーレイもしようとしなかった。
 「そうしたいですか?」と訊かれもしなくて、ハーレイはいつも仕事が優先。
 前の自分が待ちくたびれて、眠ってしまった夜も少なくなかったほど。
 それに比べたら今の自分は、前よりもずっと愛されている。
 ハーレイが自由に使える時間を、端から貰っているのだから。
 週末も平日も、此処に来られる時間が出来たら、ハーレイは来てくれるのだから。
(…ジムやドライブより、ぼくを選んでくれるんだから…)
 愛されてるよね、と思うのだけれど。
 「前のぼくよりも、ずっと幸せ」と思わないでもないけれど…。
(…だけど、キスして貰えなくって…)
 ハーレイはケチのハーレイのまま。
 今日もやっぱりケチだったのだし、これから先もケチなのだろう。
 前の自分と同じ背丈にならない限りは、「キスは駄目だ」と叱られるだけ。
 デートにだって行けはしないし、チビの自分は子供扱い。
 前と同じに恋人なのに、前よりも愛されているというのに。
(…ハーレイの愛はあるんだけど…)
 溢れちゃうほど愛されてるけど、と複雑な気持ち。
 どうしてキスは駄目なんだろうと、前よりも大事にされてるのに、と。
(愛はあるのに、キスは駄目って…)
 やっぱりケチだからだろうか、と首を傾げて考える。
 ハーレイの時間を一人占めでも、前の自分より愛されていても、キスが貰えないから。
 今日もハーレイに叱られただけで、キスを貰えはしなかったから…。

 

         愛はあるんだけど・了


※ハーレイの愛はあるんだけど、と考え込んでいるブルー君。どうしてキスは駄目なのかと。
 そしてケチだと思われているのがハーレイ先生。愛が通じていないようです、ブルー君にはv





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