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カテゴリー「拍手御礼」の記事一覧
「ねえ、ハーレイ。素直になるのは…」
 大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
 お前は素直なんじゃないのか、とハーレイは尋ね返した。
 今のブルーは、子供だけあって、素直だと思う。
 自分の気持ちを隠すよりかは、直接ぶつけて来るタイプ。
(…これ以上、素直になられてもなあ…)
 我儘になってしまうだけでは、と首を傾げるしかない。
 するとブルーは、「ちょっぴり、反省中…」と口籠った。
「今のぼくじゃなくって、前のことなんだけど…」
 後悔先に立たずで、もう遅いけどね、と溜息を零して。


「前のお前だって?」
 確かに素直じゃなかったかもな、とハーレイは大きく頷く。
 前のブルーは「自分に対して」素直とは言えなかった。
 自分さえ我慢していれば、と様々な気持ちを押し殺した。
「それで? 今になってから、反省中だ、と?」
「そう…。失敗しちゃっていたのかも、ってね…」
 もしも素直になっていたなら、とブルーは昔話を始めた。
「アルテメシアから逃げた直後も、そうなんだけど…」
 ジョミーに「頼む」と言えていたら、とブルーは俯く。
「ナスカの時でも、それと同じで…」
 一人で全部しようとしないで、話せば良かった、と。
「メギドに飛んで行っちまったことだな?」
 ジョミーに後を頼んだだけで、とハーレイはブルーを睨む。
 「お前がジョミーを頼っていたら、全て変わった」と。
「…分かってる…」
 ホントに素直じゃなかったよね、とブルーは猛省中らしい。


 ブルーが言うには、メギド以前に素直になるべき。
 目覚めた直後の騒ぎはともかく、その後にあったチャンス。
「ナスカに残った仲間たちだけど、ぼくが目覚めて…」
 地球に行きたいと言ってたらどう、とブルーは問うた。
「みんなを残して行けはしないし、船に乗ってくれ、って」
「なるほどな…。ジョミーの頼みじゃ、誰も聞かんが…」
 ソルジャー・ブルーとなれば違うな、とハーレイも認めた。
 十五年間も眠ったままでも、前のブルーは偉大な指導者。
 目覚めて「行こう」と宣言されたら、逆らう者などいない。
「そうでしょ? ぼくはホントに、地球を見たかったし…」
 寿命が尽きるとしても、行きたかった、とブルーは返した。
「どうしても見たい、って素直になれていたらね…」
「そうかもしれん…」
 時すでに遅しというものだが、とハーレイも嘆きたくなる。
 前のブルーが素直だったら、色々と違っていたのだろう。


 遠く遥かな時の彼方で、素直になれずに生きた前のブルー。
 そう生きるしかなかったとはいえ、反省点は存在する。
 今の平和な時代に振り返ってみれば、間違えていた選択肢。
 「前のブルーが犠牲になる」より、回り道でも選べた進路。
 長い時間がかかったとしても、時代はミュウに味方した筈。
「…お前、失敗しちまったんだな…」
「そうみたい…。だから、とっても思うんだけど…」
 ハーレイにも失敗して欲しくない、とブルーは真剣な口調。
「今のハーレイ、自分に素直になれてないもの…」
「なんだって?」
 俺は自由に生きているが、とハーレイは瞳を瞬かせた。
 仕事をしている時はあっても、自分を殺してなどはいない。
 上手く手抜きをしてみたりもして、前よりも楽だと言える。
 「キャプテン・ハーレイ」だった頃には、不可能だった。
 自分に素直に生きているのに、ブルーの指摘は心外すぎる。


(…はて…?)
 いったい何処が素直じゃないんだ、とハーレイは首を捻る。
 思い当たるような節は無いから、途惑うしかない。
 するとブルーは、「やっぱりね…」と呆れ返った顔をした。
「ハーレイも、前のぼくの場合に似ているのかも…」
 そんな風に生きるしか道が無いから、と赤い瞳に同情の光。
「ごめんね、ぼくの姿が子供だから…」
 ハーレイ、素直になれないんでしょ、とブルーは嘆いた。
「育った姿で出会えていたら、違ってたのに…」
 素直に生きた方がいいと思うよ、とブルーが近付いて来る。
 「キスくらいだったら、してもいいから」と。


(……そう来たか……!)
 その手に乗ってたまるもんか、とハーレイは拳を握った。
「馬鹿野郎!」
 真剣に聞いた俺も馬鹿だったが、とブルーの頭に軽く一発。
 悪戯小僧には、素直に「お仕置き」するべき。
 素直に生きた方がいいなら、心のままに、コッツンと…。



         素直になるのは・了




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「ねえ、ハーレイ。過保護にするのは…」
 良くないよね、と小さなブルーが、ぶつけた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 過保護って…?」
 お前の場合は違うだろう、とハーレイは直ぐに返した。
 今のブルーも、前と同じに虚弱体質。
 必然的に、両親が手を掛けて世話をすることになる。
「お前、身体が弱いんだからな?」
 お母さんたちは過保護ではない、と諭すように説明した。
 束縛されているように感じるとしても、それは違う、と。
「いいか、お母さんたちは、お前のことを考えて…」
「分かってるってば、そうじゃなくって…」
 一般論の話なんだよ、とブルーは少し困った顔をしている。
 「ぼくも確かに、過保護っぽいけれどね」と。


「すまん、別件だったんだな?」
 勘違いをして悪かった、とハーレイは詫びた。
 ブルーの問いが急だっただけに、早とちりした、と潔く。
「きちんと聞いてから、答えるべきだった…」
「ううん、ちっとも。ぼくの方にも、非があるんだし」
 それでね、とブルーは話を元に戻した。
「過保護にする人、少なくないけど、どう思う?」
「うーむ…。前の俺たちの時代とは違うからなあ…」
 マニュアル通りの育児じゃないぞ、とハーレイは首を捻る。
 SD体制の時代だったら、育児は違った。
 機械が教えたマニュアル通りに育てるだけで、子は育った。
 ついでに言うなら、実子ではなくて、養子を育てた世界。
「そうだね…。自分の子供だと、うんと事情が…」
 変わっちゃうよね、とブルーは大きく頷いた。
 「カリナなんかは、そのせいで命を落としちゃった」とも。


 カリナは、過保護だったわけではない。
 ただ、愛情が深くて大きすぎた。
 トォニィを失ったと思い込んだせいで、自分を追い込んだ。
 前のハーレイは、ブルーと違って、現場を見ている。
 だから「そうだったな…」と深い溜息を零すことになった。
「カリナの場合は、少し違うが、過保護すぎて…」
 子供も自分も縛っちまう親は確かにいる、とフウと溜息。
 「その点については、機械も悪くはなかったかもな」とも。
「やっぱり? 相談役で、アドバイザーだったしね…」
 育児についてのプロだったよ、とブルーも頷く。
「もしも機械が今もあったら、過保護、ダメかな?」
「そうなるだろう。ユニバーサルからの、お呼び出しで…」
 子育て方針を指導されるな、とハーレイは苦笑する。
 「もっと手抜きを」と、テラズナンバー直々の仰せだ、と。


「そっか、ハーレイの考え、ぼくと同じなんだね?」
「そうだな、過保護は良くない。事情にもよるんだが…」
 お前の場合は違うわけだし、安心しろ、と太鼓判を押した。
 「大丈夫だから、今まで通りでいていいんだ」と。
「でも…。それは身体が弱いって部分だけでさ…」
 他の部分は普通なんだし、とブルーは真剣な表情になった。
「ぼくに過保護なのは、ハーレイなんだし…」
「はあ? 俺が過保護に扱ってるのも…」
 お母さんたちと同じ事情だ、とハーレイは即座に否定する。
「病気の時に野菜スープを作ってやるのも、その一つだぞ」
「そうじゃなくって、子供扱い…」
 キスをするには早すぎるって、とブルーは唇を尖らせた。
 「過保護だと思う」と、赤い瞳で睨み付けて。
 「ぼくの中身は、前と全く同じなのに」と、恨みがましく。


(そう来やがったか…!)
 今日もやられた、とハーレイは拳を軽く握った。
「馬鹿野郎! その件にしても、過保護ではない!」
 今のお前は子供なんだし、俺は正しい、とブルーを叱る。
「お前に自覚が無いというだけで、充分、子供だ!」
 過保護と違って配慮だしな、と銀色の頭をコツンと叩いた。
 「勘違いするな」と、罠にはめようとした「悪い子供」を。
 計略だけは一人前な「今のブルー」に、お仕置きとして…。


       過保護にするのは・了




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「ねえ、ハーレイ。思い付きって…」
 大切だよね、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、思い付いたように。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? たった今、何か思い付いたのか?」
 まあいいんだが、とハーレイは苦笑しながら返した。
「お前、いきなり思い付くしな」
 それでどうした、とブルーに向かって尋ねてみる。
「俺にして欲しいようなことでも、出来たのか?」
 いつものヤツなら、お断りだぞ、とハーレイは釘を刺した。
 こういった時のブルーは、要注意。
 ろくでもないことを思い付いては、無理なおねだり。
(…キスをしろとか、うるさいんだ…)
 チビのくせに、とブルーを睨んだけれども、違ったらしい。


 ブルーは「違うってば!」と、不満そうに頬を膨らませた。
「ただの質問みたいなものなんだよ」
 思い付きというのは、閃きとかで、とブルーが説明する。
「ほら、色々と思い付くでしょ?」
 何かする時でなくても、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
「いろんなアイデア、そうやって出て来るもので…」
 発明だって、そうじゃないかな、とハーレイを見詰める。
 あれこれ考えて順序立てるだけでは、ダメそうだよ、と。
「ぐるぐるしちゃって、煮詰まってくだけで…」
 頭の中は、それで一杯、とブルーは自分の頭を指差す。
「そうなった時に、お茶とかで休憩していたら…」
 いいアイデアが閃くものじゃないの、と言われれば、そう。
 実際、大発明の切っ掛けになることも多い。


「なるほどなあ…。確かに、思い付きは大切かもな」
 お前の場合は、違う気がするが、とハーレイは慎重になる。
 此処でウッカリ「その通りだ」と同意するのは危険だろう。
「ハーレイ、疑っているんでしょ?」
 よく、そんなので、先生やってるよね、とブルーは膨れる。
「生徒が思い付いたアイデア、否定するわけ?」
「いや、それは…。まずは話を聞いてだな…」
 それから中身を検討なんだ、とハーレイは答えた。
「いいアイデアか、そうでないかは、聞いてみないと…」
「だったら、ぼくのも聞くべきでしょ!」
 初っ端から否定するなんて…、とブルーは眉を吊り上げた。
「生徒の前で同じことをしたら、嫌われちゃうよ?」
「だから、しないと…」
「ぼくだけ、違う枠になるわけなの!?」
 ハーレイの生徒の一人なのに、とブルーは怒り始めた。
 フグみたいに頬を膨らませて、プンスカと。
 「ハーレイ、いつも酷いんだから!」と、睨み付けて。


 とはいえ、ハーレイの方にも言い分はある。
 ブルーは生徒の一人に違いなくても、特別な枠の中にいる。
 ハーレイは「ブルーの守り役」なのだし、学校でも承知。
「お前なあ…。違う枠になっても、当然だろう?」
 毎日のように家庭訪問だぞ、とハーレイは説いた。
 「他の生徒なら、其処まではしない」と、守り役について。
「言わば特別扱いなんだし、向き合い方も変わるよな?」
「うーん…。頭ごなしに否定するのは、違うと思う…」
 いつだって、そういう調子なんだから、とブルーも粘る。
 「もっと、きちんと扱ってよね」と、諦めないで。
「そう言われてもなあ…。ところで、お前の思い付きは…」
 この問答を吹っ掛けることだったのか、とハーレイは訊く。
 どうも、そうとしか思えないから、確認をした方がいい。
「押し問答で終わりそうだし、早い間に切り上げろよ?」
 するとブルーは、更に頬っぺたを膨らませた。
「やっぱり、聞く気なんか無いでしょ!」
 分からず屋だよね、と散々、怒り続けた果てに…。


「ハーレイ、今ので少しは懲りた?」
 ぼくの思い付きを聞くべきだ、って、とブルーが尋ねる。
「否定しないで聞いていたなら、ぼくは怒らないよ?」
「…そうだな、俺が悪かった…」
 すまん、とハーレイは謝ったけれど、次の瞬間、後悔した。
 ブルーの顔が、たちまち笑顔に変わったから。
「懲りたんだったら、謝ってよね!」
 お詫びはキスで充分だから、とブルーは、それは嬉しそう。
 思い付いた通りに、上手く話が転がったらしい。
「馬鹿野郎!」
 お前の思い付きなどは聞かなくていい、とハーレイは叱る。
「どうせ、ろくでもないことなんだしな!」
 現に、たった今、証明されたぞ、とブルーの頭をコツン。
 軽く一発お見舞いするのが、今のブルーに似合いだから…。


          思い付きって・了





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「ねえ、ハーレイ。粘り強さは…」
 大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「粘り強さだって?」
 今の話と繋がらないんだが、とハーレイはブルーを眺めた。
 他愛ないことを話していたから、粘り強さの出番は無い。
「うん。…でも、思い付いた時には、質問でしょ?」
 すっかり忘れてしまう前に、というブルーの言葉は正しい。
 現にハーレイも、生徒たち授業中などに、よく言っている。
 「質問があったら、直ぐに言えよ」と、口を酸っぱくして。
 だから、ブルーにも頷くしかない。
「そうだな。忘れちまったら、駄目だからなあ…」
 それで何を聞きたいんだ、とブルーの瞳を真っ直ぐに見る。
 ブルーの意図が分からないだけに、気を引き締めて。


(…何度も、この手に引っ掛かったし…)
 こいつの質問は、油断出来ん、とハーレイは既に経験済み。
 真面目に答えてやった結果が、とんでもないことも数多い。
「…ハーレイ、ぼくを疑ってるよね…」
 急に質問しちゃったから、とブルーに言われてハッとする。
(先入観ってヤツを、持ち過ぎてたか…)
 疑ってかかるのは良くないよな、とハーレイは反省した。
 経験則は役に立つけれど、頼り過ぎると失敗しがち。
「悪い、ついつい、思い込みでな」
 すまん、と潔く頭を下げたら、ブルーはクスッと笑った。
「そう思われても、仕方ないけど…」
 膨れていないで聞き直すのも、粘り強さ、とブルーは言う。
「粘り強さが皆無だったら、もう聞かないでしょ?」
「そりゃそうだ。馬鹿にされてる、と放り出してな」
 粘り強さに感謝するぞ、とハーレイも大きく頷いた。
 ブルーが投げ出してしまうタイプだったら、話はおしまい。


 というわけで、振り出しに戻って、粘り強さの話になった。
「あのね…。さっきみたいなのも、そうなんだけど…」
 諦めないでコツコツ努力は大事だよね、とブルーが尋ねる。
 投げ出しちゃうより、粘り強さ、と真剣そうな瞳をして。
「うむ。たった今、証明されちまったし…」
 他の面でも大事ではある、とハーレイはブルーを肯定した。
「お前には、あまり関係無さそうなんだが…」
 勉強もスポーツも、粘り強さが重要だぞ、と説く。
「出来やしない、と放り出したら、それっきりだ」
 勉強だったら置いて行かれて、スポーツなら負ける、と。
「そうだよね…。ぼくも毎日、頑張ってるもの」
 まるで駄目だよ、と泣きそうでも、とブルーは苦笑した。
 「諦めないでコツコツやっているよ」と、少し誇らしげに。


「…泣きそうだって?」
 お前がなのか、とハーレイは鳶色の瞳を丸くする。
 ブルーは、スポーツはともかく、優秀な生徒。
 「まるで駄目だよ」と泣きそうになるとは思えない。
「…泣きそうだってば、毎日とまでは言わないけれど…」
 毎日、牛乳、厳しいんだよ、とブルーの答えは奮っていた。
「紅茶に入れて飲んだ程度じゃ、足りないしね…」
 朝御飯でも飲んで、頑張ってる、とブルーは自分を指差す。
「でないと、背丈が伸びないんだもの…」
 だけど、ちっとも伸びてくれない、と深い溜息も零れ出た。
 「一ミリさえも伸びないんだよ」と、ブルーが言う通り。
 青い地球に生まれ変わって再会してから、背丈は同じまま。
 ブルーの成長は止まってしまって、少しも伸びない。
(…なるほど、努力が報われない、というわけか…)
 気の毒だが仕方ないことだな、とハーレイは思う。
 ブルーの背丈を決めているのは、多分、神様だから。


「お前の気持ちは、分からないでもないんだが…」
 子供時代を楽しめるよう、そうなんだろう、と諭してやる。
 「育っちまったら、もう後戻りは出来ないしな」と。
「…粘り強さで、頑張れって?」
 ちっともゴールが見えなくっても、とブルーは半ば諦め顔。
「大切なのは分かってるけど、たまに泣きそう…」
 投げ出しちゃったら、ごめんなさい、と謝られた。
「ハーレイには悪いけど、チビのままかも…」
「投げ出すってか!?」
 それは困る、とハーレイは慌てた。
 もしもブルーが育たなくても、嫌いはならないけれども…。
「お前が育ってくれないことには、この先がだな…!」
 俺も大変になっちまうぞ、と焦ると、ブルーが微笑んだ。
「そうでしょ? だったら、粘り強さを保てるように…」
 励ましのキス、と注文をされたものだから…。


「馬鹿野郎!」
 それとこれとは別件だ、とハーレイは軽く拳を握った。
 ブルーの頭に、コツンとお見舞いするために。
 粘り強さを投げ出されそうだとは、もう思わない。
(どうせ、こいつは、最初から…)
 こうするつもりでいたんだしな、とブルーに、お仕置き。
 「よくも騙してくれやがって」と、コッツンと。
 「同情した分、馬鹿を見ちまった」と、呆れ顔で…。


 
        粘り強さは・了






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「ねえ、ハーレイ。復習するのは…」
 大事だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「復讐だと!?」
 また物騒な話だな、とハーレイは面食らった。
 前のブルーも、そうだったけれど、今のブルーも大人しい。
(…こいつが、復讐するだって…?)
 いったい何が起こったんだ、と鳶色の瞳を見開くしかない。
 友人と喧嘩をしたにしたって、復讐というのは極端すぎる。
「おいおいおい…。そりゃ、大事かもしれないが…」
 黙っていたんじゃダメなんだが…、とハーレイは説いた。
「しかし、仕返しするのは勧めないぞ」
 他の手段を考えてみろ、とブルーの赤い瞳を覗き込む。
「仕返しされたら、相手も腹が立つからな」
 やり返されてヒートアップだ、と諭してやる。
 火に油を注ぐような真似はするな、とブルーを見詰めて。


「えっと…? ハーレイ、勘違いしていない?」
 ぼくが言うのは復習だよ、とブルーは同じ言葉を口にした。
「確かに、響きはソックリだけど、予習の反対」
「…はあ?」
 そっちなのか、とハーレイの目が真ん丸になる。
 予習なら、今のブルーに似合いで、予習するから優等生。
(…しかしだな…)
 復習も当然している筈なのに、思い付きさえしなかった。
(…だから、復讐だとばかり…)
 すっかり勘違いしちまったんだ、とハーレイは苦笑する。
 「復習の方で良かったよな」と、心の底からホッとして。
「悪かった、俺の勘違いだ」
 お前だって復習するだろうに、とブルーに頭を下げる。
「俺が来る前に、宿題とセットで、熱心にな」
「うん。積み残したら、後で困っちゃうしね」
 習って初めて、分かることもあるから、とブルーは笑んだ。
 「予習してても、間違えちゃってる時もあるし」と。
 今のブルーは優秀だけれど、失敗することもあるらしい。
 「古典とかね」と、ペロリと舌を出した。
 「前のぼくだと知らない言葉で、難しいから」と、正直に。


 今のハーレイは、古典の教師。
 ブルーが「予習していても、間違える」のが少し嬉しい。
 前のブルーに教えたものは、生活の知識が多かった。
 いわゆる「勉強」は、教える機会などは無かった。
(…ヒルマンとエラがいたからなあ…)
 俺の知識じゃ敵わなかった、と認めざるを得ない昔のこと。
 それが今度は、「教えてやれる」ものがドッサリ。
 だからブルーに微笑み掛けた。
「なるほど、そっちの復習か…。大事なことだぞ」
 古典は厄介な分野だしな、と脅してもみる。
「今は普通の文字で読めるわけだが、上の学校だと違うぞ」
「えっ?」
 何があるの、と驚くブルーに教えてやった。
「うんと昔の頃は、書いてある文字が今と違うんだ」
 文字は同じでも筆で流れるように書くとか…、と説明する。
「まだ平仮名が無くて、漢字ばかりとかな」
「ええ……」
 そんなの、ぼくじゃ歯が立たないよ、とブルーは嘆いた。
 「予習どころか、復習ばかりになっちゃいそう」と。
「そうなるな。俺も苦労をしたもんだ」
 復習だけで精一杯で、とハーレイは肩を竦めてみせる。
 「柔道と水泳がメインだったし、予習までは無理だ」とも。


「そうなんだ…。だけど、今では先生だよね」
 復習はホントに大事みたい、とブルーは感心している様子。
 「ハーレイ、古典の先生だもの」と尊敬に溢れた眼差しで。
「俺が実例というわけだ」
 復習も大いに頑張れよ、とハーレイはブルーを激励した。
 「予習するのも大事なんだが、復習もだ」と。
「分かった! それじゃ、復習しておかないと…」
 困る前に、とブルーは立ち上がるから、勉強かもしれない。
 帰宅してから時間が足りずに「積み残した」分の復習。
(よしよし、勉強するんだったら…)
 休みの日でも頑張るべきだ、と思ったのだけれど…。
(…何なんだ、俺に質問か?)
 積み残したヤツは古典なのか、と近付くブルーを眺める。
 「教科書を持って来ればいいのに」と考えながら。
 そうしたら…。


「キスの復習、しなくっちゃね!」
 前のぼくしかしてないから、とブルーが顔を近付けて来た。
「いざという時、下手になってたら、困っちゃうでしょ?」
「馬鹿野郎!」
 それが普通だ、とハーレイはブルーの顔を躱して睨んだ。
「いいか、世の中、普通は初心者ばかりなんだぞ!」
 予習しているヤツもいなけりゃ、復習もだ、と叱り付ける。
「 そんな復習、しなくてもいい!」と、拳を軽く握った。
 銀色の頭に一発お見舞いするために。
 どうせブルーは懲りないけれど、けじめだから、と…。



       復習するのは・了





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