復習するのは
「ねえ、ハーレイ。復習するのは…」
大事だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「復讐だと!?」
また物騒な話だな、とハーレイは面食らった。
前のブルーも、そうだったけれど、今のブルーも大人しい。
(…こいつが、復讐するだって…?)
いったい何が起こったんだ、と鳶色の瞳を見開くしかない。
友人と喧嘩をしたにしたって、復讐というのは極端すぎる。
「おいおいおい…。そりゃ、大事かもしれないが…」
黙っていたんじゃダメなんだが…、とハーレイは説いた。
「しかし、仕返しするのは勧めないぞ」
他の手段を考えてみろ、とブルーの赤い瞳を覗き込む。
「仕返しされたら、相手も腹が立つからな」
やり返されてヒートアップだ、と諭してやる。
火に油を注ぐような真似はするな、とブルーを見詰めて。
「えっと…? ハーレイ、勘違いしていない?」
ぼくが言うのは復習だよ、とブルーは同じ言葉を口にした。
「確かに、響きはソックリだけど、予習の反対」
「…はあ?」
そっちなのか、とハーレイの目が真ん丸になる。
予習なら、今のブルーに似合いで、予習するから優等生。
(…しかしだな…)
復習も当然している筈なのに、思い付きさえしなかった。
(…だから、復讐だとばかり…)
すっかり勘違いしちまったんだ、とハーレイは苦笑する。
「復習の方で良かったよな」と、心の底からホッとして。
「悪かった、俺の勘違いだ」
お前だって復習するだろうに、とブルーに頭を下げる。
「俺が来る前に、宿題とセットで、熱心にな」
「うん。積み残したら、後で困っちゃうしね」
習って初めて、分かることもあるから、とブルーは笑んだ。
「予習してても、間違えちゃってる時もあるし」と。
今のブルーは優秀だけれど、失敗することもあるらしい。
「古典とかね」と、ペロリと舌を出した。
「前のぼくだと知らない言葉で、難しいから」と、正直に。
今のハーレイは、古典の教師。
ブルーが「予習していても、間違える」のが少し嬉しい。
前のブルーに教えたものは、生活の知識が多かった。
いわゆる「勉強」は、教える機会などは無かった。
(…ヒルマンとエラがいたからなあ…)
俺の知識じゃ敵わなかった、と認めざるを得ない昔のこと。
それが今度は、「教えてやれる」ものがドッサリ。
だからブルーに微笑み掛けた。
「なるほど、そっちの復習か…。大事なことだぞ」
古典は厄介な分野だしな、と脅してもみる。
「今は普通の文字で読めるわけだが、上の学校だと違うぞ」
「えっ?」
何があるの、と驚くブルーに教えてやった。
「うんと昔の頃は、書いてある文字が今と違うんだ」
文字は同じでも筆で流れるように書くとか…、と説明する。
「まだ平仮名が無くて、漢字ばかりとかな」
「ええ……」
そんなの、ぼくじゃ歯が立たないよ、とブルーは嘆いた。
「予習どころか、復習ばかりになっちゃいそう」と。
「そうなるな。俺も苦労をしたもんだ」
復習だけで精一杯で、とハーレイは肩を竦めてみせる。
「柔道と水泳がメインだったし、予習までは無理だ」とも。
「そうなんだ…。だけど、今では先生だよね」
復習はホントに大事みたい、とブルーは感心している様子。
「ハーレイ、古典の先生だもの」と尊敬に溢れた眼差しで。
「俺が実例というわけだ」
復習も大いに頑張れよ、とハーレイはブルーを激励した。
「予習するのも大事なんだが、復習もだ」と。
「分かった! それじゃ、復習しておかないと…」
困る前に、とブルーは立ち上がるから、勉強かもしれない。
帰宅してから時間が足りずに「積み残した」分の復習。
(よしよし、勉強するんだったら…)
休みの日でも頑張るべきだ、と思ったのだけれど…。
(…何なんだ、俺に質問か?)
積み残したヤツは古典なのか、と近付くブルーを眺める。
「教科書を持って来ればいいのに」と考えながら。
そうしたら…。
「キスの復習、しなくっちゃね!」
前のぼくしかしてないから、とブルーが顔を近付けて来た。
「いざという時、下手になってたら、困っちゃうでしょ?」
「馬鹿野郎!」
それが普通だ、とハーレイはブルーの顔を躱して睨んだ。
「いいか、世の中、普通は初心者ばかりなんだぞ!」
予習しているヤツもいなけりゃ、復習もだ、と叱り付ける。
「 そんな復習、しなくてもいい!」と、拳を軽く握った。
銀色の頭に一発お見舞いするために。
どうせブルーは懲りないけれど、けじめだから、と…。
復習するのは・了
大事だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「復讐だと!?」
また物騒な話だな、とハーレイは面食らった。
前のブルーも、そうだったけれど、今のブルーも大人しい。
(…こいつが、復讐するだって…?)
いったい何が起こったんだ、と鳶色の瞳を見開くしかない。
友人と喧嘩をしたにしたって、復讐というのは極端すぎる。
「おいおいおい…。そりゃ、大事かもしれないが…」
黙っていたんじゃダメなんだが…、とハーレイは説いた。
「しかし、仕返しするのは勧めないぞ」
他の手段を考えてみろ、とブルーの赤い瞳を覗き込む。
「仕返しされたら、相手も腹が立つからな」
やり返されてヒートアップだ、と諭してやる。
火に油を注ぐような真似はするな、とブルーを見詰めて。
「えっと…? ハーレイ、勘違いしていない?」
ぼくが言うのは復習だよ、とブルーは同じ言葉を口にした。
「確かに、響きはソックリだけど、予習の反対」
「…はあ?」
そっちなのか、とハーレイの目が真ん丸になる。
予習なら、今のブルーに似合いで、予習するから優等生。
(…しかしだな…)
復習も当然している筈なのに、思い付きさえしなかった。
(…だから、復讐だとばかり…)
すっかり勘違いしちまったんだ、とハーレイは苦笑する。
「復習の方で良かったよな」と、心の底からホッとして。
「悪かった、俺の勘違いだ」
お前だって復習するだろうに、とブルーに頭を下げる。
「俺が来る前に、宿題とセットで、熱心にな」
「うん。積み残したら、後で困っちゃうしね」
習って初めて、分かることもあるから、とブルーは笑んだ。
「予習してても、間違えちゃってる時もあるし」と。
今のブルーは優秀だけれど、失敗することもあるらしい。
「古典とかね」と、ペロリと舌を出した。
「前のぼくだと知らない言葉で、難しいから」と、正直に。
今のハーレイは、古典の教師。
ブルーが「予習していても、間違える」のが少し嬉しい。
前のブルーに教えたものは、生活の知識が多かった。
いわゆる「勉強」は、教える機会などは無かった。
(…ヒルマンとエラがいたからなあ…)
俺の知識じゃ敵わなかった、と認めざるを得ない昔のこと。
それが今度は、「教えてやれる」ものがドッサリ。
だからブルーに微笑み掛けた。
「なるほど、そっちの復習か…。大事なことだぞ」
古典は厄介な分野だしな、と脅してもみる。
「今は普通の文字で読めるわけだが、上の学校だと違うぞ」
「えっ?」
何があるの、と驚くブルーに教えてやった。
「うんと昔の頃は、書いてある文字が今と違うんだ」
文字は同じでも筆で流れるように書くとか…、と説明する。
「まだ平仮名が無くて、漢字ばかりとかな」
「ええ……」
そんなの、ぼくじゃ歯が立たないよ、とブルーは嘆いた。
「予習どころか、復習ばかりになっちゃいそう」と。
「そうなるな。俺も苦労をしたもんだ」
復習だけで精一杯で、とハーレイは肩を竦めてみせる。
「柔道と水泳がメインだったし、予習までは無理だ」とも。
「そうなんだ…。だけど、今では先生だよね」
復習はホントに大事みたい、とブルーは感心している様子。
「ハーレイ、古典の先生だもの」と尊敬に溢れた眼差しで。
「俺が実例というわけだ」
復習も大いに頑張れよ、とハーレイはブルーを激励した。
「予習するのも大事なんだが、復習もだ」と。
「分かった! それじゃ、復習しておかないと…」
困る前に、とブルーは立ち上がるから、勉強かもしれない。
帰宅してから時間が足りずに「積み残した」分の復習。
(よしよし、勉強するんだったら…)
休みの日でも頑張るべきだ、と思ったのだけれど…。
(…何なんだ、俺に質問か?)
積み残したヤツは古典なのか、と近付くブルーを眺める。
「教科書を持って来ればいいのに」と考えながら。
そうしたら…。
「キスの復習、しなくっちゃね!」
前のぼくしかしてないから、とブルーが顔を近付けて来た。
「いざという時、下手になってたら、困っちゃうでしょ?」
「馬鹿野郎!」
それが普通だ、とハーレイはブルーの顔を躱して睨んだ。
「いいか、世の中、普通は初心者ばかりなんだぞ!」
予習しているヤツもいなけりゃ、復習もだ、と叱り付ける。
「 そんな復習、しなくてもいい!」と、拳を軽く握った。
銀色の頭に一発お見舞いするために。
どうせブルーは懲りないけれど、けじめだから、と…。
復習するのは・了
PR
COMMENT
- <<食べたくなったら
- | HOME |
- 焦がしちゃったら>>