カテゴリー「拍手御礼」の記事一覧
「ねえ、ハーレイ。不満があったら…」
言うべきかな、と小さなブルーが、ぶつけた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 不満…?」
どうしたんだ、急に、とハーレイは鳶色の目を丸くした。
今の今まで、ごくごく普通に話していたのに、突然すぎる。
(それとも、話の中身でだな…)
思い出すことがあったのかも、という気がしないでもない。
学校の話などもしていたわけだし、充分、有り得る。
「おい。お前が言ってる、不満ってヤツは…」
学校で何かあったのか、とハーレイはブルーに問い返した。
ブルーのクラスで、最近、席替えなどは無かった筈。
けれど、前の席替えで今の席になって、不満だとかは…。
(まるで無いとは言えないし…)
もっと後ろの席がいいとか、前がいいとか、そういう不満。
言わなかったら、次の席替えまでは、そのままになる。
(とはいえ、こいつの性格では…)
先生に直訴は出来やしないぞ、と分かってもいる。
ブルーの不満が「ソレ」だった時は、助言すべきだろう。
(席替えまで我慢するよりは…)
言うべきだしな、と思ったけれども、ブルーは首を振った。
「えっと…。学校のことじゃなくって…」
人間関係っていう方かな、と少し口調がぎこちない。
言いにくそうな話題らしくて、口が重いといった感じで。
「なるほどなあ…。そいつは確かに、難しそうだ…」
普通の子でも難しいのに、お前ではな、とハーレイは頷く。
今のブルーは、チビで我儘、子供らしくはあるけれど…。
(生憎、前のあいつだった頃の記憶も、たっぷりと…)
持っているから、ややこしくなる。
今はともかく、前のブルーは「ソルジャー・ブルー」。
不満があっても「何も言わずに」秘めていた立場。
ソルジャーまでが「好きに言ったら」、船は持たない。
命に係わるようなことでも、前のブルーは言わなかった。
前のブルーが「それ」をしたなら、船は沈んでいただろう。
(…前のあいつは、地球を見たくて…)
命ある限り、夢は捨てたくなかったと思う。
なのに「黙って」メギドへと飛んで、船を救った。
ブルーだけが「我慢をしたなら」、皆の未来が開けるから。
そんなブルーの魂を持って、今のブルーは生きている。
「我慢すべき」と思う気持ちは、今の年には相応しくない。
(…もっと、吐き出すべきでだな…)
友達相手に喧嘩になっても、それがお似合い。
せっかく「新しい命」を貰ったのだし、子供らしくていい。
(断然、そっちがオススメだぞ!)
チビの間は子供らしく、とハーレイは改めて、口を開いた。
「いいか、人間関係の不満ってヤツはだな…」
抱え込むには、まだ早いぞ、とブルーの赤い瞳を見詰める。
「今のお前は、十四歳にしかなっていない子供で、だ…」
三百年以上も生きた記憶は、アテにするな、と断じた。
「役に立つ時には使うべきだが、今は違う」と。
「前のお前は、我慢しすぎた人生だったが、今のお前は…」
もっと自由に生きていいんだ、と言い聞かせる。
友達と派手に喧嘩したって、世界が壊れはしないのだから。
「お前と友達の間の世界ってヤツは、軋むだろうが…」
外の世界は壊れないぞ、と微笑んでやる。
学校のクラスはもちろん、建物もグラウンドも、全て無傷。
「壊れる世界」は小さすぎるし、小さいからこそ…。
「壊れても、元に戻せるってな!」
消えて無くなるわけじゃないから、とウインクした。
「周りの世界が無事な以上は、戻すチャンスも充分だ」と。
ブルーは黙って聞いていたけれど、やっとコクリと頷いた。
「そっか、我慢して抱え込むより、言うべきなんだね」
「ああ。不満なんぞを我慢するのは、もっと先だな」
大人ってヤツになってからだ、とハーレイは親指を立てる。
「もっとも、お前は、俺と一緒に暮らすわけだし…」
俺にだったら、好きにぶつけろ、と太鼓判も押してやった。
「お前の我儘、いくらでも聞いてやるからな」とも。
そうしたら…。
「ありがとう! じゃあ、遠慮なく…」
ぶつけちゃうね、とブルーは笑んだ。
「今のハーレイ、ぼくに厳しすぎて、キスもくれなくて…」
ぼくは毎日、不満だらけで…、と飛び出した「不満」。
「だからキスして」と、「我儘を言っていいんでしょ」と。
(そう来たか…!)
騙されたぞ、とハーレイは、チビのブルーを睨み付けた。
(俺が真面目に聞いていたのに、よくもまあ…)
お仕置きするしかないだろうな、と軽く拳を握り締める。
ブルーの頭に、コツンと一発、お見舞いしないと…。
(俺の不満が募るってな!)
不満ってヤツは、言うべきだぞ、と銀色の頭をコツン。
「馬鹿野郎!」
反省しろよ、と諭すけれども、きっと効果はゼロだろう。
今のブルーはチビで我儘、こんな部分は、立派に子供。
(悪知恵にまで、前のあいつの記憶をだな…)
使い回していそうなんだが…、と溜息が出そう。
(俺は当分、振り回されてしまいそうだ…)
頼むから、早く育ってくれよ、と祈るしかない。
ブルーが育ってくれない限りは、攻防戦が続くのだから…。
不満があったら・了
言うべきかな、と小さなブルーが、ぶつけた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 不満…?」
どうしたんだ、急に、とハーレイは鳶色の目を丸くした。
今の今まで、ごくごく普通に話していたのに、突然すぎる。
(それとも、話の中身でだな…)
思い出すことがあったのかも、という気がしないでもない。
学校の話などもしていたわけだし、充分、有り得る。
「おい。お前が言ってる、不満ってヤツは…」
学校で何かあったのか、とハーレイはブルーに問い返した。
ブルーのクラスで、最近、席替えなどは無かった筈。
けれど、前の席替えで今の席になって、不満だとかは…。
(まるで無いとは言えないし…)
もっと後ろの席がいいとか、前がいいとか、そういう不満。
言わなかったら、次の席替えまでは、そのままになる。
(とはいえ、こいつの性格では…)
先生に直訴は出来やしないぞ、と分かってもいる。
ブルーの不満が「ソレ」だった時は、助言すべきだろう。
(席替えまで我慢するよりは…)
言うべきだしな、と思ったけれども、ブルーは首を振った。
「えっと…。学校のことじゃなくって…」
人間関係っていう方かな、と少し口調がぎこちない。
言いにくそうな話題らしくて、口が重いといった感じで。
「なるほどなあ…。そいつは確かに、難しそうだ…」
普通の子でも難しいのに、お前ではな、とハーレイは頷く。
今のブルーは、チビで我儘、子供らしくはあるけれど…。
(生憎、前のあいつだった頃の記憶も、たっぷりと…)
持っているから、ややこしくなる。
今はともかく、前のブルーは「ソルジャー・ブルー」。
不満があっても「何も言わずに」秘めていた立場。
ソルジャーまでが「好きに言ったら」、船は持たない。
命に係わるようなことでも、前のブルーは言わなかった。
前のブルーが「それ」をしたなら、船は沈んでいただろう。
(…前のあいつは、地球を見たくて…)
命ある限り、夢は捨てたくなかったと思う。
なのに「黙って」メギドへと飛んで、船を救った。
ブルーだけが「我慢をしたなら」、皆の未来が開けるから。
そんなブルーの魂を持って、今のブルーは生きている。
「我慢すべき」と思う気持ちは、今の年には相応しくない。
(…もっと、吐き出すべきでだな…)
友達相手に喧嘩になっても、それがお似合い。
せっかく「新しい命」を貰ったのだし、子供らしくていい。
(断然、そっちがオススメだぞ!)
チビの間は子供らしく、とハーレイは改めて、口を開いた。
「いいか、人間関係の不満ってヤツはだな…」
抱え込むには、まだ早いぞ、とブルーの赤い瞳を見詰める。
「今のお前は、十四歳にしかなっていない子供で、だ…」
三百年以上も生きた記憶は、アテにするな、と断じた。
「役に立つ時には使うべきだが、今は違う」と。
「前のお前は、我慢しすぎた人生だったが、今のお前は…」
もっと自由に生きていいんだ、と言い聞かせる。
友達と派手に喧嘩したって、世界が壊れはしないのだから。
「お前と友達の間の世界ってヤツは、軋むだろうが…」
外の世界は壊れないぞ、と微笑んでやる。
学校のクラスはもちろん、建物もグラウンドも、全て無傷。
「壊れる世界」は小さすぎるし、小さいからこそ…。
「壊れても、元に戻せるってな!」
消えて無くなるわけじゃないから、とウインクした。
「周りの世界が無事な以上は、戻すチャンスも充分だ」と。
ブルーは黙って聞いていたけれど、やっとコクリと頷いた。
「そっか、我慢して抱え込むより、言うべきなんだね」
「ああ。不満なんぞを我慢するのは、もっと先だな」
大人ってヤツになってからだ、とハーレイは親指を立てる。
「もっとも、お前は、俺と一緒に暮らすわけだし…」
俺にだったら、好きにぶつけろ、と太鼓判も押してやった。
「お前の我儘、いくらでも聞いてやるからな」とも。
そうしたら…。
「ありがとう! じゃあ、遠慮なく…」
ぶつけちゃうね、とブルーは笑んだ。
「今のハーレイ、ぼくに厳しすぎて、キスもくれなくて…」
ぼくは毎日、不満だらけで…、と飛び出した「不満」。
「だからキスして」と、「我儘を言っていいんでしょ」と。
(そう来たか…!)
騙されたぞ、とハーレイは、チビのブルーを睨み付けた。
(俺が真面目に聞いていたのに、よくもまあ…)
お仕置きするしかないだろうな、と軽く拳を握り締める。
ブルーの頭に、コツンと一発、お見舞いしないと…。
(俺の不満が募るってな!)
不満ってヤツは、言うべきだぞ、と銀色の頭をコツン。
「馬鹿野郎!」
反省しろよ、と諭すけれども、きっと効果はゼロだろう。
今のブルーはチビで我儘、こんな部分は、立派に子供。
(悪知恵にまで、前のあいつの記憶をだな…)
使い回していそうなんだが…、と溜息が出そう。
(俺は当分、振り回されてしまいそうだ…)
頼むから、早く育ってくれよ、と祈るしかない。
ブルーが育ってくれない限りは、攻防戦が続くのだから…。
不満があったら・了
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「ねえ、ハーレイって…」
偉そうだよね、と小さなブルーが口を開いた。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 俺が?」
急にどうした、とハーレイは鳶色の瞳を丸くする。
たった今まで話していたのは、他愛ないことに過ぎない。
ハーレイが「偉そう」な口を利くような、中身でもない。
何が起きたか思い当たらず、ハーレイは首を捻るしかない。
(…しかしだな…)
ブルーが「偉そう」と指摘するなら、そうなのだろう。
ハーレイ自身に覚えが無くても、傍から見れば違うとか。
(こういったヤツは、自分じゃ気付きにくいしなあ…)
いったい何処が悪かったのか、ブルーに尋ねてみなくては。
(でもって、俺が悪かったなら…)
同じ過ちを繰り返さないよう、今後は注意してゆくべき。
ブルーに何度も、不快な思いをさせてはいけない。
そうすべきだ、と判断したから、聞くことにした。
回りくどいことを言っているより、真っ直ぐに。
「すまんが、何処が偉そうなんだ?」
俺には見当がつかなくてってな、と詫びの言葉も添えて。
「うーん…。そういう所も含めて…かな?」
とにかく偉そうなんだよね、とブルーは小さな溜息をつく。
「自分で気付いていないんだったら、ダメだってば」と。
(…おいおいおい…)
そこまで言われるほどなのか、とハーレイは冷汗が出そう。
今の生での仕事は教師で、生徒との対話にも気を配る。
「偉そうに上から言っている」などと、嫌われないように。
それだけに、ブルーの言葉はショックが大きい。
生徒と話す以上に気配り、そのつもりで接しているだけに。
(…マズイ、マズイぞ…)
俺は怒らせちまったらしい、と胸に焦りが込み上げてくる。
いつから「偉そう」と思われていたか、それが恐ろしい。
堪忍袋の緒が切れたのなら、一大事だと言えるだろう。
(ハーレイなんか、大嫌いだ、と…)
言われちまったら、おしまいだぞ、と泣きたい気分。
一時的な怒りだったら、いつかは解ける日も来るけれど…。
(積もり積もって爆発したなら、俺はだな…)
お払い箱だ、と放り出されて、ブルーに愛想を尽かされる。
今のブルーと前のブルーは、違うのだから。
(…前のあいつには、俺しかいなかったんだがな…)
幸運だっただけかもしれん、と頭の中がグルグルしそう。
前のブルーでも、一つピースが違っていたら…。
(…他の誰かと行ってしまって、俺は一人で…)
寂しくキャプテンだったかもな、と怖い思考が降って来た。
「もしかして、俺は捨てられるのか?」と。
(…シャングリラみたいな狭い船でも、他の誰かを…)
選ぶ自由はあったわけだし、今の時代なら、なおのこと。
ブルーが「偉そう」なハーレイを捨てて、他の誰かと…。
(…行っちまうってか!?)
そいつは困る、と思いはしても、ブルーに選ぶ権利がある。
ならば「選んで貰える」ように努力するしかないだろう。
「偉そう」に見える態度を直して、反省して。
ブルーに捨てられてからでは、もう、やり直しは遅すぎる。
とにかく急いで直して反省、ブルーに詫びて仕切り直し。
(…どう考えても、それ以外には…)
道が無いぞ、と分かっているから、恥を承知で聞き直した。
「悪いが、本当に分からないんだ、教えてくれ!」
そうしたら、直ぐに直すから、とブルーに深く頭を下げる。
「偉そうにしているトコというのは、何処なんだ?」
「全部だってば!」
直すんだったら、全部だよね、とブルーは赤い瞳で睨む。
「何もかもだよ」と、唇までも尖らせて。
「……全部って……」
俺の態度は全部ダメか、とハーレイは言葉を失った。
これは本当に「大嫌いだ!」と放り出されてしまいそう。
(…全部だなんて…)
直す方法さえも無いぞ、と絶望的な気持ちになる。
次にブルーを怒らせた時は、叩き出されて…。
(…お別れだってか…?)
寂しい独身人生なのか、と肩を落とすしかないけれど…。
「ハーレイ、分かった?」
分かったんなら、直してよね、とブルーが言った。
「子ども扱いするのは、おしまいだよ!」と。
「なんだって?」
「ぼくをチビだと言うヤツだってば!」
前のぼくと同じに扱ってよね、とブルーは威張り返った。
「上から見下ろすのは、今日でおしまい」と、繰り返して。
(そう来たか…!)
偉そうと言うのは、ソレだったか、と腑に落ちた。
いつものブルーの良からぬ企み、それの一つに違いない。
(…こいつが、そういうつもりなら…)
そうしてやるさ、とハーレイは心でニヤッと笑う。
前のブルーと同じにするなら、望み通りにするまでで…。
「承知しました。では、本日から…」
前と同じにさせて頂きます、と口調を敬語に切り替えた。
「ご両親の前と、学校だけでは、無理ですが…」
皆さんに不審がられますし、と丁重に詫びるのも忘れない。
「そこはお許し願えますよう」と、キャプテン風に。
「えっ、ちょっと…!」
ぼくが言うのは、そうじゃなくて、とブルーは慌てた。
「違うんだってば、ぼくが直して欲しいのは…」
「何処でしょう?」
前と同じにしたのですが…、とハーレイの方も譲らない。
「仰せとあらば従いますから、ご命令を」
どうぞ、とハーレイは「キャプテンごっこ」を続けてゆく。
ブルーが懲りて詫びて来るまで、これでいこう、と。
(うん、なかなかに面白いしな?)
今日は一日キャプテンだぞ、と愉快な体験が出来そうだ。
白いシャングリラに戻ったつもりで、ブルーをからかって。
ソルジャー・ブルーは、からかうなどは無理だったし…。
(今ならではの、お楽しみってな!)
最高じゃないか、と今日は「一日キャプテン・ハーレイ」。
前の自分と同じ態度で「ブルー」に接し続ける。
悪だくみをした悪戯小僧が懲りるまで。
ブルーが「やめて!」と泣きそうな顔で叫び出すまで…。
偉そうだよね・了
偉そうだよね、と小さなブルーが口を開いた。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 俺が?」
急にどうした、とハーレイは鳶色の瞳を丸くする。
たった今まで話していたのは、他愛ないことに過ぎない。
ハーレイが「偉そう」な口を利くような、中身でもない。
何が起きたか思い当たらず、ハーレイは首を捻るしかない。
(…しかしだな…)
ブルーが「偉そう」と指摘するなら、そうなのだろう。
ハーレイ自身に覚えが無くても、傍から見れば違うとか。
(こういったヤツは、自分じゃ気付きにくいしなあ…)
いったい何処が悪かったのか、ブルーに尋ねてみなくては。
(でもって、俺が悪かったなら…)
同じ過ちを繰り返さないよう、今後は注意してゆくべき。
ブルーに何度も、不快な思いをさせてはいけない。
そうすべきだ、と判断したから、聞くことにした。
回りくどいことを言っているより、真っ直ぐに。
「すまんが、何処が偉そうなんだ?」
俺には見当がつかなくてってな、と詫びの言葉も添えて。
「うーん…。そういう所も含めて…かな?」
とにかく偉そうなんだよね、とブルーは小さな溜息をつく。
「自分で気付いていないんだったら、ダメだってば」と。
(…おいおいおい…)
そこまで言われるほどなのか、とハーレイは冷汗が出そう。
今の生での仕事は教師で、生徒との対話にも気を配る。
「偉そうに上から言っている」などと、嫌われないように。
それだけに、ブルーの言葉はショックが大きい。
生徒と話す以上に気配り、そのつもりで接しているだけに。
(…マズイ、マズイぞ…)
俺は怒らせちまったらしい、と胸に焦りが込み上げてくる。
いつから「偉そう」と思われていたか、それが恐ろしい。
堪忍袋の緒が切れたのなら、一大事だと言えるだろう。
(ハーレイなんか、大嫌いだ、と…)
言われちまったら、おしまいだぞ、と泣きたい気分。
一時的な怒りだったら、いつかは解ける日も来るけれど…。
(積もり積もって爆発したなら、俺はだな…)
お払い箱だ、と放り出されて、ブルーに愛想を尽かされる。
今のブルーと前のブルーは、違うのだから。
(…前のあいつには、俺しかいなかったんだがな…)
幸運だっただけかもしれん、と頭の中がグルグルしそう。
前のブルーでも、一つピースが違っていたら…。
(…他の誰かと行ってしまって、俺は一人で…)
寂しくキャプテンだったかもな、と怖い思考が降って来た。
「もしかして、俺は捨てられるのか?」と。
(…シャングリラみたいな狭い船でも、他の誰かを…)
選ぶ自由はあったわけだし、今の時代なら、なおのこと。
ブルーが「偉そう」なハーレイを捨てて、他の誰かと…。
(…行っちまうってか!?)
そいつは困る、と思いはしても、ブルーに選ぶ権利がある。
ならば「選んで貰える」ように努力するしかないだろう。
「偉そう」に見える態度を直して、反省して。
ブルーに捨てられてからでは、もう、やり直しは遅すぎる。
とにかく急いで直して反省、ブルーに詫びて仕切り直し。
(…どう考えても、それ以外には…)
道が無いぞ、と分かっているから、恥を承知で聞き直した。
「悪いが、本当に分からないんだ、教えてくれ!」
そうしたら、直ぐに直すから、とブルーに深く頭を下げる。
「偉そうにしているトコというのは、何処なんだ?」
「全部だってば!」
直すんだったら、全部だよね、とブルーは赤い瞳で睨む。
「何もかもだよ」と、唇までも尖らせて。
「……全部って……」
俺の態度は全部ダメか、とハーレイは言葉を失った。
これは本当に「大嫌いだ!」と放り出されてしまいそう。
(…全部だなんて…)
直す方法さえも無いぞ、と絶望的な気持ちになる。
次にブルーを怒らせた時は、叩き出されて…。
(…お別れだってか…?)
寂しい独身人生なのか、と肩を落とすしかないけれど…。
「ハーレイ、分かった?」
分かったんなら、直してよね、とブルーが言った。
「子ども扱いするのは、おしまいだよ!」と。
「なんだって?」
「ぼくをチビだと言うヤツだってば!」
前のぼくと同じに扱ってよね、とブルーは威張り返った。
「上から見下ろすのは、今日でおしまい」と、繰り返して。
(そう来たか…!)
偉そうと言うのは、ソレだったか、と腑に落ちた。
いつものブルーの良からぬ企み、それの一つに違いない。
(…こいつが、そういうつもりなら…)
そうしてやるさ、とハーレイは心でニヤッと笑う。
前のブルーと同じにするなら、望み通りにするまでで…。
「承知しました。では、本日から…」
前と同じにさせて頂きます、と口調を敬語に切り替えた。
「ご両親の前と、学校だけでは、無理ですが…」
皆さんに不審がられますし、と丁重に詫びるのも忘れない。
「そこはお許し願えますよう」と、キャプテン風に。
「えっ、ちょっと…!」
ぼくが言うのは、そうじゃなくて、とブルーは慌てた。
「違うんだってば、ぼくが直して欲しいのは…」
「何処でしょう?」
前と同じにしたのですが…、とハーレイの方も譲らない。
「仰せとあらば従いますから、ご命令を」
どうぞ、とハーレイは「キャプテンごっこ」を続けてゆく。
ブルーが懲りて詫びて来るまで、これでいこう、と。
(うん、なかなかに面白いしな?)
今日は一日キャプテンだぞ、と愉快な体験が出来そうだ。
白いシャングリラに戻ったつもりで、ブルーをからかって。
ソルジャー・ブルーは、からかうなどは無理だったし…。
(今ならではの、お楽しみってな!)
最高じゃないか、と今日は「一日キャプテン・ハーレイ」。
前の自分と同じ態度で「ブルー」に接し続ける。
悪だくみをした悪戯小僧が懲りるまで。
ブルーが「やめて!」と泣きそうな顔で叫び出すまで…。
偉そうだよね・了
「…最低だよね…」
ハーレイって、とブルーの唇から飛び出した言葉。
二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
なんだ、どうした、とハーレイは鳶色の瞳を見開いた。
今はティータイムの真っ最中で、楽しく二人で話していた。
話題は色々だったけれども、直前にしても…。
(最低だよね、と言われるようなことなど…)
言っていないぞ、とハーレイは会話の中身を振り返る。
ショックで記憶が飛んでいなければ、さっきの話題は…。
(昨日、ブルーとは別のクラスで起きた事件で…)
ちょっとした笑い話だった筈だ、と確信がある。
授業中に漫画を読んだ男子生徒が、本を没収された出来事。
叱られて没収されるまでの間に、彼は必死に言い訳をした。
その言い訳が傑作だったから、ブルーに披露したわけで…。
(ブルーは授業の真っ最中に、漫画や本を読んだりは…)
絶対にしないタイプなのだし、逆鱗に触れはしないだろう。
「ソレ、ぼくだってやるんだからね」なら、最低だけれど。
(……うーむ……)
何処が最低だったんだ、と懸命に考えてみても分からない。
本や漫画の没収にしても、ブルーのクラスでも起きること。
没収される生徒が言い訳するのも、ブルーは何度も…。
(見てるわけだし、今更、目くじら立てたりは…)
しない筈だが、と首を捻る間に、ハタと気付いた。
事件の現場は、ブルーとは違うクラスの教室。
とはいえ、ブルーの友達が全て、同じクラスとは限らない。
もしかしたら、昨日、ハーレイが叱った男子生徒は…。
(…ブルーの友達だったのか!?)
俺が全く知らなかっただけで、と少し血の気が引いてゆく。
そういうことなら、ブルーが怒って当然だろう。
友人を見舞った災難のことを、笑い話にされたのだから。
(…今の今まで、我慢して聞いていたものの…)
ついに限界突破したか、とハーレイの額に浮かぶ冷汗。
それならば、事態は非常にまずい。
「最低だよね」と詰られるのも、自然の流れ。
(…いわば、友達の悪口を…)
延々と聞かされていたようなものだし、誰だって怒る。
その友達と親しくしているのならば、尚更だ。
(まずい、まずいぞ…!)
最低とまで言われちまったなんて、とハーレイは焦る。
どうして途中で、ブルーの様子に…。
(注意を払っていなかったんだ…!)
教師失格、と自分で自分を殴りたくなった。
これが授業の真っ最中なら、他の生徒にも目を配る。
没収して叱るまでは良くても、不快感を与えてはいけない。
当の生徒にも、見ている他の生徒たちにも。
(やりすぎってヤツは、良くなくて…)
ここまでだ、と線をキッチリと引いて、終わりにすべき。
どんなに言い訳が面白かろうが、他の生徒も爆笑だろうが。
(それが過ぎると、吊るし上げみたいになるからな…)
学校なら気を付けているのに、と嘆いても遅い。
ブルーは怒ってしまった後だし、謝るより他はないだろう。
此処は「すまん」と、潔く。
「気が付かなくて悪かった」と、深く頭を下げて。
そう思ったから、ハーレイは、即、ブルーに詫びた。
「すまん」と、赤い瞳を真っ直ぐに見て。
「…最低だったな、俺ってヤツは…」
申し訳ない、と頭を深々と下げる。
「俺のせいで不快にさせちまった」と、心の底から。
「…うーん…。ハーレイ、ホントに分かってる?」
ちゃんと分かって謝ってるの、とブルーの機嫌は直らない。
不信感に溢れた瞳で、ハーレイをじっと見上げて来る。
「だから、本当に済まなかった、と…」
思ってるから謝っている、とハーレイは再び頭を下げた。
「誤って済むようなことじゃないが」と、付け加えて。
「……本当に?」
「本当だ! 本当に俺が悪かった!」
最低と言われて当然だよな、と謝るより他に道は無い。
ブルーの怒りが解ける時まで、ひたすら真摯に。
何度も「すまん」と詫びて詫び続けて、どれほど経ったか。
ようやくブルーは、フウと大きな溜息をついた。
「…いいけどね…。そこまで言うなら、許してあげても…」
まあいいかな、と赤い瞳が瞬く。
「ホントに最低最悪だけど」と、最悪とまで言い足して。
「怒るのは分かるが、悪かった、と…!」
最悪でも仕方ないんだが、とハーレイは詫びる。
もう一度、機嫌を悪くしたなら、ブルーは激怒するだろう。
「ハーレイなんか大嫌いだ!」と、思いっ切り。
(最悪過ぎだ…!)
なんとか許して欲しいんだが、と詫びを繰り返したら…。
「自覚したんなら、許すけど…」
必死に謝ってくれてるしね、とブルーは言った。
「本当か!?」
「うん。だけど、自覚があるんなら…」
態度で示して欲しいんだよ、とブルーは笑んだ。
「最低最悪な恋人なんかじゃありません、ってね!」
「なんだって!?」
最低と言うのはソレだったのか、とハーレイは愕然とした。
勘違いをして謝り続けていたのに、実際は…。
(ただの、こいつの我儘で…)
キスをしろとか、そういうヤツだ、と思い至って情けない。
(…やられちまった…!)
俺としたことが騙された、と軽く拳を握り締める。
無駄に謝り続けた分まで、ブルーをコツンとやるために。
勘違いしたのをいいことにして、ブルーは沈黙だったから。
都合のいい方に転びそうだ、と心で笑っていたのだから…。
最低だよね・了
ハーレイって、とブルーの唇から飛び出した言葉。
二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
なんだ、どうした、とハーレイは鳶色の瞳を見開いた。
今はティータイムの真っ最中で、楽しく二人で話していた。
話題は色々だったけれども、直前にしても…。
(最低だよね、と言われるようなことなど…)
言っていないぞ、とハーレイは会話の中身を振り返る。
ショックで記憶が飛んでいなければ、さっきの話題は…。
(昨日、ブルーとは別のクラスで起きた事件で…)
ちょっとした笑い話だった筈だ、と確信がある。
授業中に漫画を読んだ男子生徒が、本を没収された出来事。
叱られて没収されるまでの間に、彼は必死に言い訳をした。
その言い訳が傑作だったから、ブルーに披露したわけで…。
(ブルーは授業の真っ最中に、漫画や本を読んだりは…)
絶対にしないタイプなのだし、逆鱗に触れはしないだろう。
「ソレ、ぼくだってやるんだからね」なら、最低だけれど。
(……うーむ……)
何処が最低だったんだ、と懸命に考えてみても分からない。
本や漫画の没収にしても、ブルーのクラスでも起きること。
没収される生徒が言い訳するのも、ブルーは何度も…。
(見てるわけだし、今更、目くじら立てたりは…)
しない筈だが、と首を捻る間に、ハタと気付いた。
事件の現場は、ブルーとは違うクラスの教室。
とはいえ、ブルーの友達が全て、同じクラスとは限らない。
もしかしたら、昨日、ハーレイが叱った男子生徒は…。
(…ブルーの友達だったのか!?)
俺が全く知らなかっただけで、と少し血の気が引いてゆく。
そういうことなら、ブルーが怒って当然だろう。
友人を見舞った災難のことを、笑い話にされたのだから。
(…今の今まで、我慢して聞いていたものの…)
ついに限界突破したか、とハーレイの額に浮かぶ冷汗。
それならば、事態は非常にまずい。
「最低だよね」と詰られるのも、自然の流れ。
(…いわば、友達の悪口を…)
延々と聞かされていたようなものだし、誰だって怒る。
その友達と親しくしているのならば、尚更だ。
(まずい、まずいぞ…!)
最低とまで言われちまったなんて、とハーレイは焦る。
どうして途中で、ブルーの様子に…。
(注意を払っていなかったんだ…!)
教師失格、と自分で自分を殴りたくなった。
これが授業の真っ最中なら、他の生徒にも目を配る。
没収して叱るまでは良くても、不快感を与えてはいけない。
当の生徒にも、見ている他の生徒たちにも。
(やりすぎってヤツは、良くなくて…)
ここまでだ、と線をキッチリと引いて、終わりにすべき。
どんなに言い訳が面白かろうが、他の生徒も爆笑だろうが。
(それが過ぎると、吊るし上げみたいになるからな…)
学校なら気を付けているのに、と嘆いても遅い。
ブルーは怒ってしまった後だし、謝るより他はないだろう。
此処は「すまん」と、潔く。
「気が付かなくて悪かった」と、深く頭を下げて。
そう思ったから、ハーレイは、即、ブルーに詫びた。
「すまん」と、赤い瞳を真っ直ぐに見て。
「…最低だったな、俺ってヤツは…」
申し訳ない、と頭を深々と下げる。
「俺のせいで不快にさせちまった」と、心の底から。
「…うーん…。ハーレイ、ホントに分かってる?」
ちゃんと分かって謝ってるの、とブルーの機嫌は直らない。
不信感に溢れた瞳で、ハーレイをじっと見上げて来る。
「だから、本当に済まなかった、と…」
思ってるから謝っている、とハーレイは再び頭を下げた。
「誤って済むようなことじゃないが」と、付け加えて。
「……本当に?」
「本当だ! 本当に俺が悪かった!」
最低と言われて当然だよな、と謝るより他に道は無い。
ブルーの怒りが解ける時まで、ひたすら真摯に。
何度も「すまん」と詫びて詫び続けて、どれほど経ったか。
ようやくブルーは、フウと大きな溜息をついた。
「…いいけどね…。そこまで言うなら、許してあげても…」
まあいいかな、と赤い瞳が瞬く。
「ホントに最低最悪だけど」と、最悪とまで言い足して。
「怒るのは分かるが、悪かった、と…!」
最悪でも仕方ないんだが、とハーレイは詫びる。
もう一度、機嫌を悪くしたなら、ブルーは激怒するだろう。
「ハーレイなんか大嫌いだ!」と、思いっ切り。
(最悪過ぎだ…!)
なんとか許して欲しいんだが、と詫びを繰り返したら…。
「自覚したんなら、許すけど…」
必死に謝ってくれてるしね、とブルーは言った。
「本当か!?」
「うん。だけど、自覚があるんなら…」
態度で示して欲しいんだよ、とブルーは笑んだ。
「最低最悪な恋人なんかじゃありません、ってね!」
「なんだって!?」
最低と言うのはソレだったのか、とハーレイは愕然とした。
勘違いをして謝り続けていたのに、実際は…。
(ただの、こいつの我儘で…)
キスをしろとか、そういうヤツだ、と思い至って情けない。
(…やられちまった…!)
俺としたことが騙された、と軽く拳を握り締める。
無駄に謝り続けた分まで、ブルーをコツンとやるために。
勘違いしたのをいいことにして、ブルーは沈黙だったから。
都合のいい方に転びそうだ、と心で笑っていたのだから…。
最低だよね・了
「ねえ、ハーレイ。遠回しよりも…」
ハッキリ言う方がいいのかな、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
友達と何かあったのか、とハーレイはブルーに問い掛けた。
ブルーの質問の内容からして、何かトラブルかもしれない。
仲のいい友達同士だけれども、行き違いでもあったとか。
「そうなんだけど…」
ちょっと困ってるんだよね、とブルーは歯切れが悪い。
表情からして、相手というのは、本当に仲良しなのだろう。
ハーレイにさえも、話していいのか、ためらうほどに。
(分からないでもないんだよなあ…)
まるで告げ口するようで…、とハーレイは心の中で頷く。
子供時代の自分にだって、そういう事件は何度もあった。
なまじ仲のいい友達だけに、出来れば自分で片付けたい。
大人の力を借りたりはせずに、他の友達にも言わないで。
(でもって、当時ってヤツを思い返すと…)
ブルーの問いに対する答えは、自ずと出て来る。
子供時代のハーレイ自身は、どう対応していたのかを。
(大人に言うのは悪いよなあ、って…)
子供心に思うものだから、懸命に一人で頑張った。
他の友達にも相談はせずに、毎日、あれこれ考えてみて。
(…ハッキリ言ったらダメだよな、って思うわけでだ…)
我慢したことも多いけれども、我慢の結果は失敗だった。
元々、行き違いがあったわけだし、黙っていても通じない。
相手も、そうとは気付かないから、そのままになる。
(最終的には、ズレが大きくなりすぎちまって…)
ハーレイの方では我慢していても、相手がそれを感じ取る。
「お前、最近、何か変だぜ?」といった具合に。
(…なまじ我慢と決めてるだけに、そう言われても…)
実は、と即答出来はしないし、行き違いは解消しないまま。
相手も「あいつ、なんだか変だしなあ…」と思い始める。
(そうなっちまうと、遊んでいても…)
前ほど楽しくないものだから、自然と距離が開いてゆく。
何をするにも一緒だったのが、別行動になったりして。
気付けば、「とても仲が良かった」友は、もういない。
別の友達と置き換わっていて、相手にも別の友人が出来て。
何度か、そういう失敗をした。
その失敗から学んだことは、「ハッキリ言う」こと。
相手も、まだまだ子供なのだし、頭に来ても直ぐに忘れる。
「何だよ、お前!」と激怒したって、何日か経てば…。
(…あの時は、つい、カッとしちゃって、と…)
詫びに来てくれて、「ハッキリ言われた」件にも、お詫び。
「ごめん、ちっとも気付いてなかった」と、潔く。
(悪気があって、やってたわけじゃないんだし…)
自分のすることが「気に障るんだ」と分かれば、話は早い。
「これは、しちゃダメ」と二度としないし、円満解決。
友情の方も壊れはしなくて、その後も、ずっと続いてゆく。
とうに大人になった今でも、会ったりもして。
(…しかし、こいつは、今だからこそ…)
ハーレイは「承知している」わけで、当時は「知らない」。
そのせいで何度も失敗した上、その相手だって…。
(同窓会とかで会った時には、「久しぶりだ」と…)
楽しく歓談出来るけれども、それでおしまい。
「またな」と手を振り、別れてゆく。
連絡先を交換したとしたって、そう頻繁には…。
(…連絡しないし、知り合いと変わらないんだよなあ…)
残念だが、と今でも、たまに悔しくなる。
子供時代の失敗を思い返して、「いいヤツなのに」と。
経験を積んだ「ハーレイ」だからこそ、分かること。
ならば、勇気を出して「相談して来た」ブルーにも…。
(此処は教えてやるべきだよな?)
俺を信じてくれているから質問だし、と分かっている。
子供時代の自分にしても、相談しないで済ませたから。
(…ブルーの場合は、前の記憶があるからなあ…)
前の生での相談相手は、相談しやすいことだろう。
キャプテンだったハーレイにしても、恋人にしても。
(よし、お望み通り、アドバイスだ)
今の生での大先輩の立場から、とハーレイは決めた。
ブルーの瞳を真っ直ぐ見詰めて、「いいか?」と微笑む。
「お前の質問の、答えなんだが…」
「えっと…。もしかして、ぼく、間違ってる?」
言わない方がいいのかな、とブルーは心配そうな顔。
「いや、逆だ。お前が言ってる方が正しい」
俺の経験からしても、とハーレイは肯定してやった。
「ハッキリ言った方がいいぞ」と、自信を持って。
「遠回しだと通じないしな、相手には」と。
「そっか…。だったら、困っているよりも…」
「これは困る、と相手に伝えてやるべきだ」
それで喧嘩になっちまっても、元に戻るぞ、と片目を瞑る。
「遠回しに言って我慢の日々より、ずっといいさ」と。
そうしたら…。
「分かった、それじゃ、ハッキリ言うね!」
前のぼくと同じに扱ってよ、とブルーは笑んだ。
「唇にキスだけじゃなくって、前の通りに!」
ハーレイは「うっ」と言葉に詰まって、我に返って…。
「馬鹿野郎!」
それとコレとは話が違う、と拳を軽くキュッと握った。
ブルーの頭に、一発お見舞いするために。
痛くないようコツンと一発、「お断りだ」とハッキリと…。
遠回しよりも・了
ハッキリ言う方がいいのかな、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
友達と何かあったのか、とハーレイはブルーに問い掛けた。
ブルーの質問の内容からして、何かトラブルかもしれない。
仲のいい友達同士だけれども、行き違いでもあったとか。
「そうなんだけど…」
ちょっと困ってるんだよね、とブルーは歯切れが悪い。
表情からして、相手というのは、本当に仲良しなのだろう。
ハーレイにさえも、話していいのか、ためらうほどに。
(分からないでもないんだよなあ…)
まるで告げ口するようで…、とハーレイは心の中で頷く。
子供時代の自分にだって、そういう事件は何度もあった。
なまじ仲のいい友達だけに、出来れば自分で片付けたい。
大人の力を借りたりはせずに、他の友達にも言わないで。
(でもって、当時ってヤツを思い返すと…)
ブルーの問いに対する答えは、自ずと出て来る。
子供時代のハーレイ自身は、どう対応していたのかを。
(大人に言うのは悪いよなあ、って…)
子供心に思うものだから、懸命に一人で頑張った。
他の友達にも相談はせずに、毎日、あれこれ考えてみて。
(…ハッキリ言ったらダメだよな、って思うわけでだ…)
我慢したことも多いけれども、我慢の結果は失敗だった。
元々、行き違いがあったわけだし、黙っていても通じない。
相手も、そうとは気付かないから、そのままになる。
(最終的には、ズレが大きくなりすぎちまって…)
ハーレイの方では我慢していても、相手がそれを感じ取る。
「お前、最近、何か変だぜ?」といった具合に。
(…なまじ我慢と決めてるだけに、そう言われても…)
実は、と即答出来はしないし、行き違いは解消しないまま。
相手も「あいつ、なんだか変だしなあ…」と思い始める。
(そうなっちまうと、遊んでいても…)
前ほど楽しくないものだから、自然と距離が開いてゆく。
何をするにも一緒だったのが、別行動になったりして。
気付けば、「とても仲が良かった」友は、もういない。
別の友達と置き換わっていて、相手にも別の友人が出来て。
何度か、そういう失敗をした。
その失敗から学んだことは、「ハッキリ言う」こと。
相手も、まだまだ子供なのだし、頭に来ても直ぐに忘れる。
「何だよ、お前!」と激怒したって、何日か経てば…。
(…あの時は、つい、カッとしちゃって、と…)
詫びに来てくれて、「ハッキリ言われた」件にも、お詫び。
「ごめん、ちっとも気付いてなかった」と、潔く。
(悪気があって、やってたわけじゃないんだし…)
自分のすることが「気に障るんだ」と分かれば、話は早い。
「これは、しちゃダメ」と二度としないし、円満解決。
友情の方も壊れはしなくて、その後も、ずっと続いてゆく。
とうに大人になった今でも、会ったりもして。
(…しかし、こいつは、今だからこそ…)
ハーレイは「承知している」わけで、当時は「知らない」。
そのせいで何度も失敗した上、その相手だって…。
(同窓会とかで会った時には、「久しぶりだ」と…)
楽しく歓談出来るけれども、それでおしまい。
「またな」と手を振り、別れてゆく。
連絡先を交換したとしたって、そう頻繁には…。
(…連絡しないし、知り合いと変わらないんだよなあ…)
残念だが、と今でも、たまに悔しくなる。
子供時代の失敗を思い返して、「いいヤツなのに」と。
経験を積んだ「ハーレイ」だからこそ、分かること。
ならば、勇気を出して「相談して来た」ブルーにも…。
(此処は教えてやるべきだよな?)
俺を信じてくれているから質問だし、と分かっている。
子供時代の自分にしても、相談しないで済ませたから。
(…ブルーの場合は、前の記憶があるからなあ…)
前の生での相談相手は、相談しやすいことだろう。
キャプテンだったハーレイにしても、恋人にしても。
(よし、お望み通り、アドバイスだ)
今の生での大先輩の立場から、とハーレイは決めた。
ブルーの瞳を真っ直ぐ見詰めて、「いいか?」と微笑む。
「お前の質問の、答えなんだが…」
「えっと…。もしかして、ぼく、間違ってる?」
言わない方がいいのかな、とブルーは心配そうな顔。
「いや、逆だ。お前が言ってる方が正しい」
俺の経験からしても、とハーレイは肯定してやった。
「ハッキリ言った方がいいぞ」と、自信を持って。
「遠回しだと通じないしな、相手には」と。
「そっか…。だったら、困っているよりも…」
「これは困る、と相手に伝えてやるべきだ」
それで喧嘩になっちまっても、元に戻るぞ、と片目を瞑る。
「遠回しに言って我慢の日々より、ずっといいさ」と。
そうしたら…。
「分かった、それじゃ、ハッキリ言うね!」
前のぼくと同じに扱ってよ、とブルーは笑んだ。
「唇にキスだけじゃなくって、前の通りに!」
ハーレイは「うっ」と言葉に詰まって、我に返って…。
「馬鹿野郎!」
それとコレとは話が違う、と拳を軽くキュッと握った。
ブルーの頭に、一発お見舞いするために。
痛くないようコツンと一発、「お断りだ」とハッキリと…。
遠回しよりも・了
「ねえ、ハーレイ。嫌なことって…」
抱え込まずに話すべきかな、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 嫌なことって…」
友達と何かあったのか、とハーレイはブルーに問い返した。
抱え込むほどの嫌なことなら、恐らく人間関係だろう。
それも身近な人が相手で、下手に話せば角が立つこと。
「その言い方は、あんまりじゃない?」などと思ったとか。
そんな所だ、と見当をつけたわけだけれども、正解らしい。
ブルーは、「まあね…」と、歯切れが悪い。
(こういう時こそ、教師の出番ってヤツだよなあ?)
俺はブルーの担任じゃないが、とハーレイは心で苦笑する。
ブルーのクラス担任よりも、遥かに近しい立場だよな、と。
ともあれ、此処は聞いてやらねば。
ブルーが現在、抱え込んでいる「嫌なこと」とは何なのか。
友人と何かあったのならば、まずは吐き出してしまうべき。
一人でクヨクヨ悩んでいたって、悪い方にしか転ばない。
人の思考は、そういったもの。
(楽天家だったら、そもそも、悩まないモンで…)
嫌なことなど、すぐに忘れて、健康的な心を保てる。
ところが、普通は、そうはいかない。
(なんだかんだと考えちまって、思い出しては…)
後悔したり、自分を責めたり、マイナス思考に傾いてゆく。
その内に、夜も眠れなくなって、悩みが心を蝕んでしまう。
寝ても覚めても、そのことばかりで、溜息ばかり。
「あの時、どうすればよかったのか」と、ぐるぐるして。
(ブルーの場合は、そのタイプだから…)
吐き出すだけでも、相当に楽になるだろう。
心の中の澱みが外に流れて、悩みの水位も低下するから。
そう思ったから、ハーレイは、ブルーに頷いてみせた。
「嫌なことなぞ抱え込んでも、ろくなことにはならないぞ」
お前が辛いだけじゃないか、と赤い瞳を覗き込む。
「いいか、お前は引き摺っているが、相手の方は、だ…」
とうに忘れているかもしれん、とカップの縁を指で弾いた。
お茶のカップが、カチン、と一瞬、澄んだ音を立てる。
「ほら、今、音がしただろう? しかしだな…」
紅茶は全く揺れちゃいないぞ、とハーレイは中を指差した。
「ついでに弾いた音の方もだ、ほんの一瞬、一秒も無い」
秒で言うならコンマだよな、と音の長さを表してみせる。
「お前の言ってる嫌なことにしても、相手にしてみれば…」
こんな具合に、軽く弾いて終わりかもな、と説いてやった。
カップの紅茶も揺れないくらいに、些細なこと。
「ただし、正式なお茶の席だと、カップの縁を弾くのは…」
マナー違反になっちまうんだ、と苦笑する。
「知らなかったら、ウッカリやってしまいそうだが…」
「そっか、知らずにやっちゃったとか?」
ぼくは嫌だと知らないで…、とブルーが尋ねる。
「だから相手は忘れてしまって、ぼくだけが…」
「そうだ、引き摺っちまってるとか、ありそうだろう?」
うんと馬鹿々々しい悩みかもな、とハーレイは笑んだ。
「抱えていないで俺に話してみろ」と、ドッシリ構えて。
ハーレイが例を挙げたお蔭で、ブルーも納得したのだろう。
「えっとね…」と、重かった口が、やっと開いた。
「その嫌なこと、ぼくがホントに、嫌で堪らなくって…」
だけど相手は気付いてなくて…、とブルーは溜息をつく。
「やめて欲しいのに、ちっともやめてくれないんだよ」と。
「なるほどな…。さっきのカップの例の通りか…」
相手の方では、何とも思っちゃいないんだな、と頷き返す。
「そいつは大いに困るヤツだが、どうしたい?」
「どうしたい、って…?」
「お前が本気で辛いんだったら、相手にハッキリ…」
伝えないと、多分、収まらないぞ、とハーレイは言った。
「どんな具合に嫌に思うか、其処をだな…」
分かって貰えるように言うんだ、と教えてやる。
それで相手が怒ったとしても、仲直りの機会もあるだろう。
もしも仲直りが出来ないようなら、それまでのこと。
何かの弾みで壊れる程度の、遊び友達な仲だっただけ。
親友だったら、喧嘩別れをしてしまっても、また戻るから。
「分かったか? 抱えていないで、話すことだな」
俺に話してみたのと同じで、相手にも、とハーレイは諭す。
「抱え込むな」と、ブルーの考えを全面的に肯定して。
するとブルーも、「そうだよね…」と大きく頷く。
「やっぱり、ちゃんと言わなくちゃ…」
「よし、その意気だ。次に会ったら、きちんと伝えろよ」
「うん! よく聞いてよね、唇にキスしてくれないのは…」
ホントに嫌なことなんだから、とブルーは唇を尖らせた。
「ハーレイにとっては、大したことじゃないんでしょ」と。
「なんだって!?」
そいつはモノが違うからな、とハーレイは軽く拳を握った。
「真面目に相談に乗ってやったら、そう来やがったか!」
覚悟しろよ、と銀色の頭に一発、コツンとお見舞いする。
もちろん、痛くないように。
これくらいでブルーは懲りはしないし、拳がお似合い。
何度コツンとお見舞いされても、仲も壊れはしないもの。
遠く遥かな時の彼方から、今も続いている恋だから…。
嫌なことって・了
抱え込まずに話すべきかな、と小さなブルーが傾げた首。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 嫌なことって…」
友達と何かあったのか、とハーレイはブルーに問い返した。
抱え込むほどの嫌なことなら、恐らく人間関係だろう。
それも身近な人が相手で、下手に話せば角が立つこと。
「その言い方は、あんまりじゃない?」などと思ったとか。
そんな所だ、と見当をつけたわけだけれども、正解らしい。
ブルーは、「まあね…」と、歯切れが悪い。
(こういう時こそ、教師の出番ってヤツだよなあ?)
俺はブルーの担任じゃないが、とハーレイは心で苦笑する。
ブルーのクラス担任よりも、遥かに近しい立場だよな、と。
ともあれ、此処は聞いてやらねば。
ブルーが現在、抱え込んでいる「嫌なこと」とは何なのか。
友人と何かあったのならば、まずは吐き出してしまうべき。
一人でクヨクヨ悩んでいたって、悪い方にしか転ばない。
人の思考は、そういったもの。
(楽天家だったら、そもそも、悩まないモンで…)
嫌なことなど、すぐに忘れて、健康的な心を保てる。
ところが、普通は、そうはいかない。
(なんだかんだと考えちまって、思い出しては…)
後悔したり、自分を責めたり、マイナス思考に傾いてゆく。
その内に、夜も眠れなくなって、悩みが心を蝕んでしまう。
寝ても覚めても、そのことばかりで、溜息ばかり。
「あの時、どうすればよかったのか」と、ぐるぐるして。
(ブルーの場合は、そのタイプだから…)
吐き出すだけでも、相当に楽になるだろう。
心の中の澱みが外に流れて、悩みの水位も低下するから。
そう思ったから、ハーレイは、ブルーに頷いてみせた。
「嫌なことなぞ抱え込んでも、ろくなことにはならないぞ」
お前が辛いだけじゃないか、と赤い瞳を覗き込む。
「いいか、お前は引き摺っているが、相手の方は、だ…」
とうに忘れているかもしれん、とカップの縁を指で弾いた。
お茶のカップが、カチン、と一瞬、澄んだ音を立てる。
「ほら、今、音がしただろう? しかしだな…」
紅茶は全く揺れちゃいないぞ、とハーレイは中を指差した。
「ついでに弾いた音の方もだ、ほんの一瞬、一秒も無い」
秒で言うならコンマだよな、と音の長さを表してみせる。
「お前の言ってる嫌なことにしても、相手にしてみれば…」
こんな具合に、軽く弾いて終わりかもな、と説いてやった。
カップの紅茶も揺れないくらいに、些細なこと。
「ただし、正式なお茶の席だと、カップの縁を弾くのは…」
マナー違反になっちまうんだ、と苦笑する。
「知らなかったら、ウッカリやってしまいそうだが…」
「そっか、知らずにやっちゃったとか?」
ぼくは嫌だと知らないで…、とブルーが尋ねる。
「だから相手は忘れてしまって、ぼくだけが…」
「そうだ、引き摺っちまってるとか、ありそうだろう?」
うんと馬鹿々々しい悩みかもな、とハーレイは笑んだ。
「抱えていないで俺に話してみろ」と、ドッシリ構えて。
ハーレイが例を挙げたお蔭で、ブルーも納得したのだろう。
「えっとね…」と、重かった口が、やっと開いた。
「その嫌なこと、ぼくがホントに、嫌で堪らなくって…」
だけど相手は気付いてなくて…、とブルーは溜息をつく。
「やめて欲しいのに、ちっともやめてくれないんだよ」と。
「なるほどな…。さっきのカップの例の通りか…」
相手の方では、何とも思っちゃいないんだな、と頷き返す。
「そいつは大いに困るヤツだが、どうしたい?」
「どうしたい、って…?」
「お前が本気で辛いんだったら、相手にハッキリ…」
伝えないと、多分、収まらないぞ、とハーレイは言った。
「どんな具合に嫌に思うか、其処をだな…」
分かって貰えるように言うんだ、と教えてやる。
それで相手が怒ったとしても、仲直りの機会もあるだろう。
もしも仲直りが出来ないようなら、それまでのこと。
何かの弾みで壊れる程度の、遊び友達な仲だっただけ。
親友だったら、喧嘩別れをしてしまっても、また戻るから。
「分かったか? 抱えていないで、話すことだな」
俺に話してみたのと同じで、相手にも、とハーレイは諭す。
「抱え込むな」と、ブルーの考えを全面的に肯定して。
するとブルーも、「そうだよね…」と大きく頷く。
「やっぱり、ちゃんと言わなくちゃ…」
「よし、その意気だ。次に会ったら、きちんと伝えろよ」
「うん! よく聞いてよね、唇にキスしてくれないのは…」
ホントに嫌なことなんだから、とブルーは唇を尖らせた。
「ハーレイにとっては、大したことじゃないんでしょ」と。
「なんだって!?」
そいつはモノが違うからな、とハーレイは軽く拳を握った。
「真面目に相談に乗ってやったら、そう来やがったか!」
覚悟しろよ、と銀色の頭に一発、コツンとお見舞いする。
もちろん、痛くないように。
これくらいでブルーは懲りはしないし、拳がお似合い。
何度コツンとお見舞いされても、仲も壊れはしないもの。
遠く遥かな時の彼方から、今も続いている恋だから…。
嫌なことって・了