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カテゴリー「拍手御礼」の記事一覧
「ねえ、ハーレイ。悪ガキよりも…」
 いい子の方が得なのかな、と小さなブルーがぶつけた質問。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
 今はそういう話じゃないが、とハーレイは面食らった。
 子供時代の武勇伝を語っていたなら、聞かれそうではある。
 けれど、話題は…。
(学校とかの話どころか、菓子の話で…)
 接点がまるで見当たらない。
 ブルーは「そうだね、お菓子は関係ないかも」と返した。
「だけど、もしかしたら関係あるのかな?」
 悪ガキだと貰い損ねそう、というのがブルーの言い分。
 お菓子を分けて配るような時、悪ガキは貰えないだとか。
「あー…。そりゃまあ、俺もたまには…」
 貰えなかった時があったな、とハーレイは肩を竦めた。
「おふくろに、お預けを食らっちまって…」
 次の日まで食えなかったんだ、と失敗談を白状する。
 両親は菓子を食べているのに、ハーレイの分が無かった日。


「やっぱりね…」
 いい子の方がいいのかも、とブルーは可笑しそうに笑った。
 「ハーレイにだって、覚えがあるんだから」と。
「うーむ…。その点については、否定出来んが…」
 一概にそうとも言い切れないぞ、とハーレイは腕組みする。
 「悪ガキの方が得をするのも、たまにはな」と大真面目に。
「そうなの? 損ばかりしていそうなんだけど…」
 学校でだって叱られてるし、とブルーは不思議そうな顔。
 「悪戯した子は、大目玉だよ」と実例を挙げて。
 黒板に落書きした子は掃除当番、他にも色々、と数多い例。
「そういった輩には、当然の罰というヤツだな」
 自業自得と言うだろうが、とハーレイは大きく頷いた。
「その手のヤツは罰を受けるが、悪さの方向性でだ…」
 結果は変わって来るんだぞ、とブルーに昔話をしてやった。
 悪ガキだった子供時代に、ご近所の家で柿を盗もうとした。
「生垣を抜けて入って、木に登ってたら…」
「その家の人に見付かったわけ?」
「よりにもよって、頑固爺にな」
 思い切り雷が落ちたんだが…、とハーレイは続ける。
「爺さん、木には登るな、脆いから折れるぞ、と…」
 説教してから、柿の実をもいでくれたんだ、と思い出話。
 「美味いんだぞ」と土産用にも分けて貰って帰った、と。


 ハーレイを叱った頑固爺は、クソ度胸のガキに優しかった。
 「ワシを怖がって誰も来んのに、いい度胸だ」と。
 柿の木が脆くて折れる話も、脅しではなくて本当のこと。
 誰も登りに来ないだろうと思っていたから、放ってあった。
 「お前さんみたいなヤツが来るなら、看板だな」とも。
 翌日の朝には、もう注意書きが出来ていたという。
 「危ない! 折れるから、木には登らない!」という札。
 札は柿の木にぶら下げてあって、家の玄関に張り紙が一枚。
 「柿の実、食べ頃です。欲しい人は声を掛けて下さい」と。
 それが切っ掛けになって、柿の実を貰いに行く子が出来た。
 札は年中ぶら下がったままで、柿の季節は玄関先に張り紙。
 頑固爺の家は、以来、子供に人気だったらしい。
 柿を貰いに行った子供を、頑固爺は忘れなかった。
 他の季節に通り掛かったら、菓子をくれたり、親切だった。
 つまり、ハーレイは、「頑固爺の家」を新規開拓。
 暑い盛りにはジュースも貰える、子供の人気スポットを。


「いいか? あの時、俺が盗みに行かなかったら…」
 頑固爺の家は怖いままだぞ、とハーレイは得意げに語る。
 「菓子やジュースを貰うことなど、誰も思わん」と。
「…ホントだね…。悪ガキでないと、出来ないよね…」
 いい子だったら盗まないし、とブルーは瞳を丸くしている。
 「悪ガキの方が得をするのも、ちゃんとあるんだ」とも。
「分かったか? お前の場合は、いい子の方だから…」
 得をする日は来そうにもないな、とハーレイは笑う。
 「それとも、悪さに挑戦してみるか?」と、ニヤニヤと。
「悪さって、ぼくが?」
「木に登れとは言わないがな」
 悪ガキの世界もいいもんだぞ、と「お得な話」を披露する。
 叱られる代わりに、美味しい結果が待っていた例を。
 そうしたら…。
「分かった、ハーレイ、悪ガキがオススメなんだね?」
 やってみる、とブルーは椅子から立ち上がった。
 「悪ガキだったら、コレもアリでしょ」と、近付いて来る。


「ハーレイがキスをくれないんなら、ぼくが強奪!」
 貰っちゃうね、とブルーの顔が迫って、ハーレイは唸った。
「馬鹿野郎!」
 その悪ガキは叱られる方だ、とブルーを一喝、払いのける。
「雷、落ちて当然だからな!」
 嫌というほど説教だ、と椅子に座らせ、銀色の頭をコツン。
 拳で軽く一発お見舞い、それから長い説教の時間。
 ブルーが必死に言い訳しても、聞きもしないで。
 「ごめんなさい!」と詫びを入れても、放っておいて説教。
 悪ガキには似合いの時間なのだし、今日の所はそれでいい。
 ブルーが自分で選んだ以上は、悪ガキ仕様で…。



          悪ガキよりも・了






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「ねえ、ハーレイ。諦めないのは…」
 大事だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「ん? 急にどうした?」
 何かあるのか、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
「お前のことだし、宿題とかではないんだろうが…」
 早めにやっちまうことはあっても、とハーレイは尋ねる。
 ブルーが「諦めたくなる」ような何かが、あるのかと。
「ううん、そういう話じゃなくって…」
 考え方の問題かな、とブルーは首を軽く傾げた。
「宿題とかでも、そうなんだけど…」
 いろんな物に壁があるよね、とブルーは続ける。
「勉強もそうだし、運動とかでも、壁にぶつかる時…」
 そういう時にどうするのか、と挙げられた例。
 諦めないで努力すべきか、投げ出してしまっていいのか。


「どっちだと思う?」
 ぼくは諦めない方がいいと思うけど、というのが質問。
「ふうむ…。一般論というヤツを聞きたいんだな?」
「そう。ケースバイケース、とは言うけどね…」
 傾向としては、どっちが正しいのかな、とブルーは真剣。
 努力が無駄になったとしても、頑張るべきか、と。
「なるほどなあ…。無駄骨ってこともあるわけで…」
 運動なんかは、特にそうだな、とハーレイは正直に頷いた。
「勉強だったら、努力次第で、多少、時間がかかっても…」
 結果を出せることは多いんだが…、と腕組みをする。
 頭の出来は色々だけに、理解に時間がかかる生徒も多い。
 とはいえ、「理解出来た」ことは忘れないから、報われる。
 それまで意味が掴めなかった数式なども、きちんと解ける。
「しかしだな…。運動の場合は、個人の資質が大きくて…」
 努力したって結果が出るとは限らんぞ、とフウと溜息。
 実際、身体を壊すくらいに練習したって、駄目な子もいる。
 柔道部で教える生徒たちでも、その点は注意しておくべき。


「線引きというのは、したくないんだが…」
 諦めさせてることも多いんだ、とハーレイは説明した。
「本人は、うんとやる気があって、練習量を…」
 増やしたいとか行って来るんだがな、と顔を曇らせる。
「ハーレイ、諦めさせてるの?」
「そりゃそうだろう。出来ないことは、出来んしな…」
 長年やってりゃ分かるモンだ、と柔道のことを説いてやる。
「どう頑張っても無理なヤツには、させちゃいけない」
「怪我しちゃう、って?」
「分かってくれたか? 言われたヤツは、引かないがな…」
 怪我をするぞ、と言っても聞かん、とハーレイは苦笑した。
「勝手に自主練しに来ちまって、怪我をするヤツも…」
「いたりするわけ?」
「残念ながら、その通りでな…」
 力量不足とか以前なんだが、というハーレイの悩みの種。
 「諦めるべき時には、諦めて欲しい」と、両手を広げて。


「でないと、俺の仕事が増えるってわけだ」
 病院まで連れてって、家まで送って…、とブルーに話す。
 「たまに、お前が困るヤツだな」と、オマケもつけた。
「そっか、ハーレイが帰りに寄ってくれない日…」
 アレの原因、そういうのなんだ、とブルーの瞳が瞬いた。
「確かに困るね、諦めてくれた方がいいんだけど…」
「そう思うだろ? 一般論とは正反対だが…」
 諦めが肝心なこともある、とハーレイは軽く肩を竦めた。
「教師としては、努力を説きたいがな」と。
「そうだよね…。やっぱり努力が一番だもんね…」
 諦めろなんて言いにくそう、とブルーも相槌を打った。
「普段、教室で言ってることとは、逆なんだもの…」
「言わされる方は、本当に辛いんだぞ…」
 ついでに生徒に恨まれちまうし、とハーレイは零した。
「分からず屋だと思われちまって、挙句に怪我な有様で…」
「…大変なんだね、先生って…」
 頑張ってね、とブルーはハーレイを励ました。
 「そういう生徒でも、諦めないで対応してあげてよ」と。


「すまんな、愚痴になっちまった」
 一般論の方が良かったな、とハーレイはブルーに謝った。
「まあ、アレだ。諦めないのは、大事ってことで…」
「ぼくが尋ねた方で合ってる?」
「お前の場合は、柔道部員じゃないからな」
 特殊なケースは放っておけ、と笑みを浮かべる。
「諦めないで、コツコツ努力するのが一番だぞ」
 大抵は…、と言ったら、ブルーも、ニッコリと笑んだ。
「分かった、ぼくも諦めないよ!」
 ハーレイにキスをして貰うのを、とブルーは勝ち誇った顔。
 「それは努力をしていいんでしょ?」と。
(…そう来たか!)
 騙されたぞ、とハーレイはグッと詰まって、拳を握る。
 真面目に話してやっていたのに、ブルーの狙いは別だった。
「馬鹿野郎!」
 そんな努力はしなくていい、と銀色の頭に拳をコツン。
 「諦めちまえ」と、「頭に怪我をさせられる前にな」と…。


         諦めないのは・了






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「ねえ、ハーレイ。無理をするのは…」
 良くないよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 無理をするって、それはどういう…」
 状況のことを指しているんだ、とハーレイは問い返した。
 確かに「無理のし過ぎ」は良くない。
(…しかしだな…)
 無理をしている中身によっては、良いこともある。
 実力以上を発揮したくて、自分の限界に挑む時などはそう。
 だから、確認することにしたのだけれど、ハタと気付いた。
(こいつは、無理をするタイプだった…!)
 前の生でも、そうだったブルー。
 身体がすっかり弱っていたって、何も言わずに普段通り。
(今のブルーも、やっぱり同じで…)
 学校に行くために無理をして起きて、倒れたりもしている。
 家を出る時は我慢出来ても、学校で具合が悪くなるとか。


 そういうヤツを指しているのか、とハーレイは納得した。
 これを機会に「改めよう」と思ってくれれば、有難い。
「おい、ブルー。念のために、確認したいんだが…」
 その無理は、今現在もやっているのか、と聞いてみた。
 「ハーレイが来るから、寝てられないよ」だと、いけない。
(…実際、やっていたこともあるモンだから…)
 風邪っぽいのに、隠していたとか、例は色々。
 病み上がりのくせに、平気そうな顔で起きていただとか。
(…今日もそうなら、寝かせないと…)
 せっかく自分で言い出したんだし、と心配になって来る。
 すると、ブルーは「うん」と小さく頷いた。
「なんだって!?」
 起きていないで、サッサと寝ろ、とハーレイは慌てた。
 ブルーが話題を持ち出したからには、具合は、かなり…。
(悪い方だぞ、熱っぽいとか…!)
 我慢出来ないレベルなんだ、と背筋が冷たくなって来る。
 無駄な会話をしてはいないで、一刻も早く寝かせないと。


「無理をするのは、良くないんだ!」
 無理の中身にもよるんだがな、とベッドの方を指差した。
「俺はいいから、今日は寝ていろ!」
 黙って帰りもしないから、とブルーに向かって約束をする。
 ブルーがベッドで眠る間も、この部屋にいる、と。
「晩飯の時間まで、ちゃんといてやる!」
 俺の飯も、此処で食ったっていい、と真剣に言った。
 ブルーが一人で寂しいのならば、両親と食べるのは断る。
 ハーレイの分の食事も運んで貰って、ブルーと一緒に夕食。
 それなら、ブルーも安心だろう。
 無理をしてまで起きていなくても、ゆっくり眠れる。
「いいな、とにかくベッドに入れ!」
 でないと、俺も安心出来んぞ、と赤い瞳を覗き込む。
 此処でブルーが倒れたりすれば、ハーレイだって辛い。
 「どうして無理をさせちまったんだ」と、自分を叱りたい。
 そうなる前に未然に防いで、ブルーを休ませるべきだろう。
「もしも立つのも辛いんだったら、運んでやるから」
 どうなんだ、とブルーに畳み掛けるけれど、無理強いも…。
(いいとは言えないトコがあるしな…)
 無理と同じで、無理強いも駄目だ、と、ぐるぐるして来る。
 ブルーが意地になってしまえば、逆効果でしかない。


 無理をさせるか、無理強いすべきか、判断が難しい場面。
 前のブルーだった時には、無理強いは常に裏目に出ていた。
(…大人しくしているどころか、全くの逆で…)
 何度、俺を振り切って、無茶をしたやら、と記憶が蘇る。
 今の場合は、ブルー自身が言ったことだし、休んで欲しい。
(…一言、寝ると言ってくれれば…)
 俺も大いに助かるんだが、と祈るような気持ち。
(あれこれ俺に聞き返さないで、サッサとだな…)
 ベッドに潜り込んでくれ、と思っていたら、赤い瞳が瞬く。
「ハーレイも、そう思うんだ?」
 無理のしすぎは、良くないんだね、とブルーが口を開いた。
「うんと無理して我慢するのは、最悪かな…?」
「当然だろう!」
 ゴチャゴチャ言わずに、早く寝てくれ、とハーレイは焦る。
 これは相当に具合が悪いに違いない、と恐ろしい。
 とにかくブルーを早く寝かせて、ブルーの母に伝えるべき。
(症状を聞いて、病院に行かなきゃ駄目な時には…)
 俺の車で送って行こう、と決断をした。


「何処が具合が悪いんだ? 病院に行くくらいなのか?」
 そうなりゃ、俺が運転しよう、とブルーに申し出る。
「行きも帰りも俺の車だ、それならいいだろ?」
 家に帰ってしまいやしない、とパチンとウインク。
「寝込んじまうような羽目になっても、見舞いに来るから」
 毎日は無理かもしれないがな、と苦笑交じりは仕方ない。
 学校の方の仕事もあるから、確約は出来ない。
 とはいえ、これだけ安心材料を並べておけばいいだろう。
 ブルーは「無理をしてまで」起きていなくても済む。
 ベッドでぐっすり眠るだけでも、かなり体力を回復出来る。
「分かったな? 無理をするのは良くない」
 俺に聞いてる暇があったら、ベッドに行け、と繰り返した。
 ブルーは、黙って聞いていたけれど…。

「そっか、ハーレイも、そう思うんなら…」
 だったら、ぼくにキスをしてよ、と赤い瞳が煌めく。
「もう長いこと、無理をして我慢してるから…」
 ホントに具合が悪くなりそう、とブルーはニッコリと笑む。
「早くキスして、無理をするのは良くないんでしょ?」
 キスが最高の薬なんだよ、と嬉しそうなのだけれど…。
(…そういう無理を指していたのか!?)
 無駄に心配させやがって、とハーレイは軽く拳を握った。
「馬鹿野郎!」
 それは無理とは言わないんだ、と銀色の頭を一発、コツン。
 「真面目に考えて損しちまった」と、しっかり「お返し」。
 「無理して我慢しておくことだな」と、釘も刺して…。



       無理をするのは・了




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「ねえ、ハーレイ。余った時間は、有効に…」
 使うべきだよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 余った時間…?」
 今は、そういう時間なのか、とハーレイは目を丸くした。
 ブルーの家を訪ねて来たのは、今日の朝食が済んだ後。
 天気がいいからと、歩いて家を出て来た。
(とはいえ、時計は、ちゃんと見てたし…)
 ブルーの家に着いた時間は、車の時と変わっていない。
 早いわけでも、遅すぎもしない、丁度いい頃。
(朝飯の片付けとかが、終わった後で…)
 ブルーの両親も、のんびりしている、そういう時刻。
(それから、ずっと、この家で…)
 お茶を飲んだり、昼食を食べたりといった具合で今に至る。
(…俺とこうして過ごす時間は、ブルーには…)
 余った時間になっちまうのか、とハーレイは衝撃を受けた。
 ブルーが喜ぶと思うからこそ、都合をつけて来ているのに。


(…こんなことなら…)
 親父と出掛ければ良かったかもな、と少し悔しい。
 先日、釣り好きの父が、ハーレイの家に通信を寄越した。
 「次の週末、釣りに行くから、一緒にどうだ」と。
(…俺はブルーが最優先だと、親父も知っているんだが…)
 わざわざ誘って来るということは、特別な釣りに違いない。
 だから「何を釣るんだ?」と、即座に尋ねた。
 父は嬉しそうな声で、「分かったか?」と更に誘って来た。
 「釣り仲間で、船をチャーターするんだ、大物だぞ」と。
(大物は、船の話じゃなくてだな…)
 滅多に釣れない、美味と評判の大型の魚。
 鍋の食材で人気だけれども、高級魚としても名高い。
(…なにしろ、そうそう釣れやしないし…)
 釣れるポイントも、限られている。
 漁師が網を入れただけでは、獲れない魚だとも聞く。
(…親父が行くなら、勝算の方は充分で…)
 天気の方も、釣れそうな時期も、見定めての釣行の旅。
(…そっちに行ってりゃ、今頃は…)
 大海原から陸を見ながら、船の上で釣りの最中だろう。
 運が良ければ、ハーレイの糸に、お目当ての…。
(デカい魚が食い付いてくれて、皆で大騒ぎで…)
 掬い揚げようと網を持った者やら、「外すなよ!」の声援。
 最高の休日になっていたかもしれない。


 失敗したな、とハーレイはフウと溜息をついた。
(余った時間になっていたとは…)
 情けないぞ、と心の中で嘆いた所へ、ブルーが尋ねる。
「ハーレイ? 何か、勘違いしていない?」
「勘違い?」
「うん。溜息なんか、ついちゃってるし…」
 今のことだと思っちゃったの、と赤い瞳が瞬いた。
「ぼくが言うのは、違うんだけど…」
「そうだったのか?」
 つい早合点をしちまった、とハーレイは、ホッと安心した。
 違うのだったら、ブルーの家に来ていて正解。
 釣りの旅より、ブルーと過ごす休日の方が、遥かに楽しい。
 けれど、そうなら、余った時間というものは…。
「おい。それじゃ、余った時間は、いつを指すんだ?」
 問い掛けてみると、ブルーは、直ぐに答えた。
「えっとね…。ぽっかりと空いた時間、あるでしょ?」
 宿題が早く終わった時とか…、と説明もついた。
「本を読んでても、思ったよりも早く読み終わるとか…」
「あるな、俺にも」
 宿題じゃなくて本の方だが、とハーレイは苦笑いする。
 流石に、今の年では宿題は無い。


「そうでしょ? そういう時間のことだってば」
 有効に使うべきだと思わない、とブルーは首を傾げた。
「余ったからって、昼寝するよりは…」
「そうだな、夜に時間が余ったのなら、違うんだが…」
 夜なら断然、寝た方がいい、とハーレイは説いた。
 遅い時間まで起きているより、早寝早起きが効率がいい。
 子供はもちろん、大人の場合も同じことだ、と。
「しかし、昼だと、変わって来るぞ」
「有効活用する方にでしょ?」
「うむ。もっとも、それが昼寝になる時だって…」
 あるわけだから、気を付けろよ、と念を押す。
「睡眠不足や、疲れ気味の時なら、昼寝がいいんだ」
「そうかもね…。でも…」
 オススメは有効活用だよね、とブルーは微笑む。
 「ぼくも、有効活用したいんだけど」と。
「だってね、時間、余ってるから…」
「さっき、違うと言わなかったか?」
「今だけど、今じゃないんだってば!」
 最後まで、ちゃんと聞いてよね、とブルーは唇を尖らせた。
「ぼくの時間が、うんと余っているんだよ、今!」
 だって、育っていないから、とブルーの口から零れる溜息。
 「前のぼくと同じに育つまでの間、余っちゃってる」と。


(そう来たか…!)
 此処で頷いたら、俺の負けだぞ、とハーレイは悟った。
 ブルーが繰り返す「有効活用」の正体は…。
「分かった、その時間、有効活用したいんだな?」
「そう! 有効活用してもいいの?」
 許してくれる、と赤い瞳が煌めいている。
「もちろんだとも。まずは、深呼吸を一つしてだな…」
「次は、キスだね?」
「馬鹿か、お前は?」
 深呼吸の次は、ストレッチだ、とハーレイは笑んだ。
「お前みたいに弱いヤツには、オススメだぞ?」
 軽い運動で、夜もぐっすり眠れるし、と床を指差す。
 「教えてやるから、床に座れ」と。
「ちょ、ちょっと…!」
 そうじゃないよ、と慌てるブルーに、ハーレイは涼しい顔。
 「いや、合ってる」と、「時間は有効活用だ」と。
 「背丈だって、早く伸びるかもな」と、床に座って…。


            余った時間は・了







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「ねえ、ハーレイ。不満があったら…」
 言うべきかな、と小さなブルーが、ぶつけた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 不満…?」
 どうしたんだ、急に、とハーレイは鳶色の目を丸くした。
 今の今まで、ごくごく普通に話していたのに、突然すぎる。
(それとも、話の中身でだな…)
 思い出すことがあったのかも、という気がしないでもない。
 学校の話などもしていたわけだし、充分、有り得る。
「おい。お前が言ってる、不満ってヤツは…」
 学校で何かあったのか、とハーレイはブルーに問い返した。
 ブルーのクラスで、最近、席替えなどは無かった筈。
 けれど、前の席替えで今の席になって、不満だとかは…。
(まるで無いとは言えないし…)
 もっと後ろの席がいいとか、前がいいとか、そういう不満。
 言わなかったら、次の席替えまでは、そのままになる。
(とはいえ、こいつの性格では…)
 先生に直訴は出来やしないぞ、と分かってもいる。
 ブルーの不満が「ソレ」だった時は、助言すべきだろう。


(席替えまで我慢するよりは…)
 言うべきだしな、と思ったけれども、ブルーは首を振った。
「えっと…。学校のことじゃなくって…」
 人間関係っていう方かな、と少し口調がぎこちない。
 言いにくそうな話題らしくて、口が重いといった感じで。
「なるほどなあ…。そいつは確かに、難しそうだ…」
 普通の子でも難しいのに、お前ではな、とハーレイは頷く。
 今のブルーは、チビで我儘、子供らしくはあるけれど…。
(生憎、前のあいつだった頃の記憶も、たっぷりと…)
 持っているから、ややこしくなる。
 今はともかく、前のブルーは「ソルジャー・ブルー」。
 不満があっても「何も言わずに」秘めていた立場。
 ソルジャーまでが「好きに言ったら」、船は持たない。
 命に係わるようなことでも、前のブルーは言わなかった。
 前のブルーが「それ」をしたなら、船は沈んでいただろう。
(…前のあいつは、地球を見たくて…)
 命ある限り、夢は捨てたくなかったと思う。
 なのに「黙って」メギドへと飛んで、船を救った。
 ブルーだけが「我慢をしたなら」、皆の未来が開けるから。


 そんなブルーの魂を持って、今のブルーは生きている。
 「我慢すべき」と思う気持ちは、今の年には相応しくない。
(…もっと、吐き出すべきでだな…)
 友達相手に喧嘩になっても、それがお似合い。
 せっかく「新しい命」を貰ったのだし、子供らしくていい。
(断然、そっちがオススメだぞ!)
 チビの間は子供らしく、とハーレイは改めて、口を開いた。
「いいか、人間関係の不満ってヤツはだな…」
 抱え込むには、まだ早いぞ、とブルーの赤い瞳を見詰める。
「今のお前は、十四歳にしかなっていない子供で、だ…」
 三百年以上も生きた記憶は、アテにするな、と断じた。
 「役に立つ時には使うべきだが、今は違う」と。
「前のお前は、我慢しすぎた人生だったが、今のお前は…」
 もっと自由に生きていいんだ、と言い聞かせる。
 友達と派手に喧嘩したって、世界が壊れはしないのだから。
「お前と友達の間の世界ってヤツは、軋むだろうが…」
 外の世界は壊れないぞ、と微笑んでやる。
 学校のクラスはもちろん、建物もグラウンドも、全て無傷。
 「壊れる世界」は小さすぎるし、小さいからこそ…。
「壊れても、元に戻せるってな!」
 消えて無くなるわけじゃないから、とウインクした。
 「周りの世界が無事な以上は、戻すチャンスも充分だ」と。


 ブルーは黙って聞いていたけれど、やっとコクリと頷いた。
「そっか、我慢して抱え込むより、言うべきなんだね」
「ああ。不満なんぞを我慢するのは、もっと先だな」
 大人ってヤツになってからだ、とハーレイは親指を立てる。
「もっとも、お前は、俺と一緒に暮らすわけだし…」
 俺にだったら、好きにぶつけろ、と太鼓判も押してやった。
 「お前の我儘、いくらでも聞いてやるからな」とも。
 そうしたら…。
「ありがとう! じゃあ、遠慮なく…」
 ぶつけちゃうね、とブルーは笑んだ。
「今のハーレイ、ぼくに厳しすぎて、キスもくれなくて…」
 ぼくは毎日、不満だらけで…、と飛び出した「不満」。
 「だからキスして」と、「我儘を言っていいんでしょ」と。


(そう来たか…!)
 騙されたぞ、とハーレイは、チビのブルーを睨み付けた。
(俺が真面目に聞いていたのに、よくもまあ…)
 お仕置きするしかないだろうな、と軽く拳を握り締める。
 ブルーの頭に、コツンと一発、お見舞いしないと…。
(俺の不満が募るってな!)
 不満ってヤツは、言うべきだぞ、と銀色の頭をコツン。
「馬鹿野郎!」
 反省しろよ、と諭すけれども、きっと効果はゼロだろう。
 今のブルーはチビで我儘、こんな部分は、立派に子供。
(悪知恵にまで、前のあいつの記憶をだな…)
 使い回していそうなんだが…、と溜息が出そう。
(俺は当分、振り回されてしまいそうだ…)
 頼むから、早く育ってくれよ、と祈るしかない。
 ブルーが育ってくれない限りは、攻防戦が続くのだから…。



        不満があったら・了







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