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悪ガキよりも
「ねえ、ハーレイ。悪ガキよりも…」
 いい子の方が得なのかな、と小さなブルーがぶつけた質問。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 急にどうした?」
 今はそういう話じゃないが、とハーレイは面食らった。
 子供時代の武勇伝を語っていたなら、聞かれそうではある。
 けれど、話題は…。
(学校とかの話どころか、菓子の話で…)
 接点がまるで見当たらない。
 ブルーは「そうだね、お菓子は関係ないかも」と返した。
「だけど、もしかしたら関係あるのかな?」
 悪ガキだと貰い損ねそう、というのがブルーの言い分。
 お菓子を分けて配るような時、悪ガキは貰えないだとか。
「あー…。そりゃまあ、俺もたまには…」
 貰えなかった時があったな、とハーレイは肩を竦めた。
「おふくろに、お預けを食らっちまって…」
 次の日まで食えなかったんだ、と失敗談を白状する。
 両親は菓子を食べているのに、ハーレイの分が無かった日。


「やっぱりね…」
 いい子の方がいいのかも、とブルーは可笑しそうに笑った。
 「ハーレイにだって、覚えがあるんだから」と。
「うーむ…。その点については、否定出来んが…」
 一概にそうとも言い切れないぞ、とハーレイは腕組みする。
 「悪ガキの方が得をするのも、たまにはな」と大真面目に。
「そうなの? 損ばかりしていそうなんだけど…」
 学校でだって叱られてるし、とブルーは不思議そうな顔。
 「悪戯した子は、大目玉だよ」と実例を挙げて。
 黒板に落書きした子は掃除当番、他にも色々、と数多い例。
「そういった輩には、当然の罰というヤツだな」
 自業自得と言うだろうが、とハーレイは大きく頷いた。
「その手のヤツは罰を受けるが、悪さの方向性でだ…」
 結果は変わって来るんだぞ、とブルーに昔話をしてやった。
 悪ガキだった子供時代に、ご近所の家で柿を盗もうとした。
「生垣を抜けて入って、木に登ってたら…」
「その家の人に見付かったわけ?」
「よりにもよって、頑固爺にな」
 思い切り雷が落ちたんだが…、とハーレイは続ける。
「爺さん、木には登るな、脆いから折れるぞ、と…」
 説教してから、柿の実をもいでくれたんだ、と思い出話。
 「美味いんだぞ」と土産用にも分けて貰って帰った、と。


 ハーレイを叱った頑固爺は、クソ度胸のガキに優しかった。
 「ワシを怖がって誰も来んのに、いい度胸だ」と。
 柿の木が脆くて折れる話も、脅しではなくて本当のこと。
 誰も登りに来ないだろうと思っていたから、放ってあった。
 「お前さんみたいなヤツが来るなら、看板だな」とも。
 翌日の朝には、もう注意書きが出来ていたという。
 「危ない! 折れるから、木には登らない!」という札。
 札は柿の木にぶら下げてあって、家の玄関に張り紙が一枚。
 「柿の実、食べ頃です。欲しい人は声を掛けて下さい」と。
 それが切っ掛けになって、柿の実を貰いに行く子が出来た。
 札は年中ぶら下がったままで、柿の季節は玄関先に張り紙。
 頑固爺の家は、以来、子供に人気だったらしい。
 柿を貰いに行った子供を、頑固爺は忘れなかった。
 他の季節に通り掛かったら、菓子をくれたり、親切だった。
 つまり、ハーレイは、「頑固爺の家」を新規開拓。
 暑い盛りにはジュースも貰える、子供の人気スポットを。


「いいか? あの時、俺が盗みに行かなかったら…」
 頑固爺の家は怖いままだぞ、とハーレイは得意げに語る。
 「菓子やジュースを貰うことなど、誰も思わん」と。
「…ホントだね…。悪ガキでないと、出来ないよね…」
 いい子だったら盗まないし、とブルーは瞳を丸くしている。
 「悪ガキの方が得をするのも、ちゃんとあるんだ」とも。
「分かったか? お前の場合は、いい子の方だから…」
 得をする日は来そうにもないな、とハーレイは笑う。
 「それとも、悪さに挑戦してみるか?」と、ニヤニヤと。
「悪さって、ぼくが?」
「木に登れとは言わないがな」
 悪ガキの世界もいいもんだぞ、と「お得な話」を披露する。
 叱られる代わりに、美味しい結果が待っていた例を。
 そうしたら…。
「分かった、ハーレイ、悪ガキがオススメなんだね?」
 やってみる、とブルーは椅子から立ち上がった。
 「悪ガキだったら、コレもアリでしょ」と、近付いて来る。


「ハーレイがキスをくれないんなら、ぼくが強奪!」
 貰っちゃうね、とブルーの顔が迫って、ハーレイは唸った。
「馬鹿野郎!」
 その悪ガキは叱られる方だ、とブルーを一喝、払いのける。
「雷、落ちて当然だからな!」
 嫌というほど説教だ、と椅子に座らせ、銀色の頭をコツン。
 拳で軽く一発お見舞い、それから長い説教の時間。
 ブルーが必死に言い訳しても、聞きもしないで。
 「ごめんなさい!」と詫びを入れても、放っておいて説教。
 悪ガキには似合いの時間なのだし、今日の所はそれでいい。
 ブルーが自分で選んだ以上は、悪ガキ仕様で…。



          悪ガキよりも・了






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