諦めないのは
「ねえ、ハーレイ。諦めないのは…」
大事だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「ん? 急にどうした?」
何かあるのか、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
「お前のことだし、宿題とかではないんだろうが…」
早めにやっちまうことはあっても、とハーレイは尋ねる。
ブルーが「諦めたくなる」ような何かが、あるのかと。
「ううん、そういう話じゃなくって…」
考え方の問題かな、とブルーは首を軽く傾げた。
「宿題とかでも、そうなんだけど…」
いろんな物に壁があるよね、とブルーは続ける。
「勉強もそうだし、運動とかでも、壁にぶつかる時…」
そういう時にどうするのか、と挙げられた例。
諦めないで努力すべきか、投げ出してしまっていいのか。
「どっちだと思う?」
ぼくは諦めない方がいいと思うけど、というのが質問。
「ふうむ…。一般論というヤツを聞きたいんだな?」
「そう。ケースバイケース、とは言うけどね…」
傾向としては、どっちが正しいのかな、とブルーは真剣。
努力が無駄になったとしても、頑張るべきか、と。
「なるほどなあ…。無駄骨ってこともあるわけで…」
運動なんかは、特にそうだな、とハーレイは正直に頷いた。
「勉強だったら、努力次第で、多少、時間がかかっても…」
結果を出せることは多いんだが…、と腕組みをする。
頭の出来は色々だけに、理解に時間がかかる生徒も多い。
とはいえ、「理解出来た」ことは忘れないから、報われる。
それまで意味が掴めなかった数式なども、きちんと解ける。
「しかしだな…。運動の場合は、個人の資質が大きくて…」
努力したって結果が出るとは限らんぞ、とフウと溜息。
実際、身体を壊すくらいに練習したって、駄目な子もいる。
柔道部で教える生徒たちでも、その点は注意しておくべき。
「線引きというのは、したくないんだが…」
諦めさせてることも多いんだ、とハーレイは説明した。
「本人は、うんとやる気があって、練習量を…」
増やしたいとか行って来るんだがな、と顔を曇らせる。
「ハーレイ、諦めさせてるの?」
「そりゃそうだろう。出来ないことは、出来んしな…」
長年やってりゃ分かるモンだ、と柔道のことを説いてやる。
「どう頑張っても無理なヤツには、させちゃいけない」
「怪我しちゃう、って?」
「分かってくれたか? 言われたヤツは、引かないがな…」
怪我をするぞ、と言っても聞かん、とハーレイは苦笑した。
「勝手に自主練しに来ちまって、怪我をするヤツも…」
「いたりするわけ?」
「残念ながら、その通りでな…」
力量不足とか以前なんだが、というハーレイの悩みの種。
「諦めるべき時には、諦めて欲しい」と、両手を広げて。
「でないと、俺の仕事が増えるってわけだ」
病院まで連れてって、家まで送って…、とブルーに話す。
「たまに、お前が困るヤツだな」と、オマケもつけた。
「そっか、ハーレイが帰りに寄ってくれない日…」
アレの原因、そういうのなんだ、とブルーの瞳が瞬いた。
「確かに困るね、諦めてくれた方がいいんだけど…」
「そう思うだろ? 一般論とは正反対だが…」
諦めが肝心なこともある、とハーレイは軽く肩を竦めた。
「教師としては、努力を説きたいがな」と。
「そうだよね…。やっぱり努力が一番だもんね…」
諦めろなんて言いにくそう、とブルーも相槌を打った。
「普段、教室で言ってることとは、逆なんだもの…」
「言わされる方は、本当に辛いんだぞ…」
ついでに生徒に恨まれちまうし、とハーレイは零した。
「分からず屋だと思われちまって、挙句に怪我な有様で…」
「…大変なんだね、先生って…」
頑張ってね、とブルーはハーレイを励ました。
「そういう生徒でも、諦めないで対応してあげてよ」と。
「すまんな、愚痴になっちまった」
一般論の方が良かったな、とハーレイはブルーに謝った。
「まあ、アレだ。諦めないのは、大事ってことで…」
「ぼくが尋ねた方で合ってる?」
「お前の場合は、柔道部員じゃないからな」
特殊なケースは放っておけ、と笑みを浮かべる。
「諦めないで、コツコツ努力するのが一番だぞ」
大抵は…、と言ったら、ブルーも、ニッコリと笑んだ。
「分かった、ぼくも諦めないよ!」
ハーレイにキスをして貰うのを、とブルーは勝ち誇った顔。
「それは努力をしていいんでしょ?」と。
(…そう来たか!)
騙されたぞ、とハーレイはグッと詰まって、拳を握る。
真面目に話してやっていたのに、ブルーの狙いは別だった。
「馬鹿野郎!」
そんな努力はしなくていい、と銀色の頭に拳をコツン。
「諦めちまえ」と、「頭に怪我をさせられる前にな」と…。
諦めないのは・了
大事だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「ん? 急にどうした?」
何かあるのか、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
「お前のことだし、宿題とかではないんだろうが…」
早めにやっちまうことはあっても、とハーレイは尋ねる。
ブルーが「諦めたくなる」ような何かが、あるのかと。
「ううん、そういう話じゃなくって…」
考え方の問題かな、とブルーは首を軽く傾げた。
「宿題とかでも、そうなんだけど…」
いろんな物に壁があるよね、とブルーは続ける。
「勉強もそうだし、運動とかでも、壁にぶつかる時…」
そういう時にどうするのか、と挙げられた例。
諦めないで努力すべきか、投げ出してしまっていいのか。
「どっちだと思う?」
ぼくは諦めない方がいいと思うけど、というのが質問。
「ふうむ…。一般論というヤツを聞きたいんだな?」
「そう。ケースバイケース、とは言うけどね…」
傾向としては、どっちが正しいのかな、とブルーは真剣。
努力が無駄になったとしても、頑張るべきか、と。
「なるほどなあ…。無駄骨ってこともあるわけで…」
運動なんかは、特にそうだな、とハーレイは正直に頷いた。
「勉強だったら、努力次第で、多少、時間がかかっても…」
結果を出せることは多いんだが…、と腕組みをする。
頭の出来は色々だけに、理解に時間がかかる生徒も多い。
とはいえ、「理解出来た」ことは忘れないから、報われる。
それまで意味が掴めなかった数式なども、きちんと解ける。
「しかしだな…。運動の場合は、個人の資質が大きくて…」
努力したって結果が出るとは限らんぞ、とフウと溜息。
実際、身体を壊すくらいに練習したって、駄目な子もいる。
柔道部で教える生徒たちでも、その点は注意しておくべき。
「線引きというのは、したくないんだが…」
諦めさせてることも多いんだ、とハーレイは説明した。
「本人は、うんとやる気があって、練習量を…」
増やしたいとか行って来るんだがな、と顔を曇らせる。
「ハーレイ、諦めさせてるの?」
「そりゃそうだろう。出来ないことは、出来んしな…」
長年やってりゃ分かるモンだ、と柔道のことを説いてやる。
「どう頑張っても無理なヤツには、させちゃいけない」
「怪我しちゃう、って?」
「分かってくれたか? 言われたヤツは、引かないがな…」
怪我をするぞ、と言っても聞かん、とハーレイは苦笑した。
「勝手に自主練しに来ちまって、怪我をするヤツも…」
「いたりするわけ?」
「残念ながら、その通りでな…」
力量不足とか以前なんだが、というハーレイの悩みの種。
「諦めるべき時には、諦めて欲しい」と、両手を広げて。
「でないと、俺の仕事が増えるってわけだ」
病院まで連れてって、家まで送って…、とブルーに話す。
「たまに、お前が困るヤツだな」と、オマケもつけた。
「そっか、ハーレイが帰りに寄ってくれない日…」
アレの原因、そういうのなんだ、とブルーの瞳が瞬いた。
「確かに困るね、諦めてくれた方がいいんだけど…」
「そう思うだろ? 一般論とは正反対だが…」
諦めが肝心なこともある、とハーレイは軽く肩を竦めた。
「教師としては、努力を説きたいがな」と。
「そうだよね…。やっぱり努力が一番だもんね…」
諦めろなんて言いにくそう、とブルーも相槌を打った。
「普段、教室で言ってることとは、逆なんだもの…」
「言わされる方は、本当に辛いんだぞ…」
ついでに生徒に恨まれちまうし、とハーレイは零した。
「分からず屋だと思われちまって、挙句に怪我な有様で…」
「…大変なんだね、先生って…」
頑張ってね、とブルーはハーレイを励ました。
「そういう生徒でも、諦めないで対応してあげてよ」と。
「すまんな、愚痴になっちまった」
一般論の方が良かったな、とハーレイはブルーに謝った。
「まあ、アレだ。諦めないのは、大事ってことで…」
「ぼくが尋ねた方で合ってる?」
「お前の場合は、柔道部員じゃないからな」
特殊なケースは放っておけ、と笑みを浮かべる。
「諦めないで、コツコツ努力するのが一番だぞ」
大抵は…、と言ったら、ブルーも、ニッコリと笑んだ。
「分かった、ぼくも諦めないよ!」
ハーレイにキスをして貰うのを、とブルーは勝ち誇った顔。
「それは努力をしていいんでしょ?」と。
(…そう来たか!)
騙されたぞ、とハーレイはグッと詰まって、拳を握る。
真面目に話してやっていたのに、ブルーの狙いは別だった。
「馬鹿野郎!」
そんな努力はしなくていい、と銀色の頭に拳をコツン。
「諦めちまえ」と、「頭に怪我をさせられる前にな」と…。
諦めないのは・了
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