(ハーレイ、とにかくケチなんだよね…)
ぼくがチビだから、キスだって無し、と不満たらたらのブルー。
こうしてハーレイと向かい合っていても、チビ扱い、と。
いい雰囲気になったから、とキスを強請っても断られるのが常。
「俺は子供にキスはしない」と、それはつれなく。
今日もそうなるに決まっているから、なんとも腹が立つけれど。
それでもハーレイのキスが欲しくて、方法は無いかと考えもする。
ハーレイの心が動きさえすれば、キスだって、と。
(何かないかな…)
いい方法、と思うけれども、ハーレイはそう甘くない。
策を巡らせても、誘惑しても、ビクともしないのがハーレイ。
少しも隙が無いものだから、どうしようもないというわけで…。
憎らしいくらいに冷静な恋人、考えてみれば元はキャプテン。
前の生ではキャプテン・ハーレイ、そうそう動揺する筈がない。
今も柔道で鍛えた武道家、水泳の腕もプロ級だけに…。
(ちょっとやそっとじゃ、ビックリしたりもしないから…)
ホントに隙が無いんだよね、と考える内に閃いたこと。
そのハーレイにも弱点はある。
しかもとびきり凄い弱点、動揺するのは間違いない。
(試してみるだけの価値はあるかも…!)
これだ、と確信したものだから、「いたたた…」と抱えたお腹。
少しも痛くないのだけれども、痛そうに。
紅茶のカップもケーキのお皿も、放り出してしまって背を丸くして。
「おい、どうしたんだ!?」
急にどうした、とハーレイがガタンと椅子から立ち上がる。
俯いてお腹を抱えているから、気配だけしか分からないけれど。
直ぐに側へと来てくれたハーレイ。
心配そうに覗き込んでくる鳶色の瞳。「大丈夫か?」と。
「お腹、痛くて…。でも、平気…」
じきに治ると思うから、と続けるお芝居。健気なふりで。
本当は少しも痛くないのに、痛みを堪えて微笑むかのように。
「しかしだな…。お前、痛そうなんだし…」
とにかくベッドに横になれ、とハーレイが言うから弾んだ胸。
きっと運んで貰えるだろうし、「歩け」とは言わない筈だから。
(ハーレイに抱いて運んで貰って、ベッドに着いたら…)
そのままキスを強請ってみよう、と捕らぬ狸の皮算用。
お腹が痛くてたまらないのだし、きっとキスだって貰えるよ、と。
「これで治るさ」と痛み止め代わりの優しいキス。
いつもだったら断られるけれど、特別に。
(ふふっ、特別…)
ハーレイのキス、と考えたのに。
「やっぱりハーレイの弱点は、ぼく」と胸を張りたい気分なのに。
いきなりコツンと小突かれた頭。そのハーレイの拳で、軽く。
「何するの!?」
痛いじゃない、と抗議の声を上げたら、ニヤリと笑うハーレイがいた。
「治ったよな?」と。
「痛い場所、もう変わったよな」と、「お腹の方は大丈夫だろ?」と。
騙されないぞ、と一枚も二枚も上手なハーレイ。
「お前の心は丸見えなんだ」と、「もっと上手に嘘をつけ」と。
だからショボンと萎れるしかない。
キスして貰う夢は砕けて、代わりに額をコツンだから。
今日もハーレイはキスをくれなくて、意地悪な笑みが見えるから…。
ぼくが弱点・了
(ちゃんと乾いたら、こうなんだけど…)
いつも通りになるんだけれど、と小さなブルーが思ったこと。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
さっきお風呂で洗った髪。
お風呂は大好き、たっぷりのお湯にゆったり浸かって、身体も髪もピカピカに。
上がってパジャマを着込む前には、髪の水気をタオルでゴシゴシ。
少し長めの銀色の髪は、よく拭かないと駄目だから。
濡れたままだとペシャンコの髪は、パジャマだって直ぐに濡らしてしまう。
きちんと拭いておかないと。…雫が落ちないようにしないと。
しっかり水気を拭い取ったら、ふうわり膨らみ始める銀糸。
それを鏡で確かめた後に、自分の部屋に戻ってくる。「ちゃんと拭けた」と。
まだ髪の毛はちょっぴり湿っているけれど。
すっかり乾いていないけれども、このくらいは直ぐに乾いてしまう。
こうしてベッドに座る間に、もう本当にアッと言う間に。
(今だって、見た目はソルジャー・ブルー…)
殆ど乾いているものね、と思う自分の髪型のこと。
前の自分とそっくり同じで、今の時代は「ソルジャー・ブルー風」と名前が付いている。
幼い頃からずっとこうだし、一度も変えたことは無い。
(アルバムの写真、ちっちゃい頃からコレだから…)
赤ちゃんだった頃を除けば、今も昔もソルジャー・ブルー。前の自分と同じ髪型。
両親は何も知らなかったけれど、自分自身でも、まるで気付いていなかったけれど。
(まさか本物だったなんてね?)
ソルジャー・ブルー風の髪型をしていた、幼い子供が育ったら。
「ますます似て来た」と言われるようになった途端に、本物になってしまった自分。
前の自分が誰だったのかを思い出したら、ソルジャー・ブルー。
髪型も姿もそっくり同じで、今では中身もそうなった。
前の自分の記憶が戻って、身体が少しチビなだけ。まだ十四歳の子供だから。
そうやって出来た、中身もソルジャー・ブルーな自分。
顔も髪型も、前の自分が成人検査を受けた頃と少しも変わらない。
(あの姿のままで育たなくって…)
心も身体も成長を止めて、長い時間を檻で過ごした。アルタミラにあった研究所で。
前の自分は酷い目に遭わされていたのだけれども、今の自分は幸せ一杯。
だから似ているのは姿だけだし、髪型だって…。
(元々は、パパとママの趣味…)
アルビノの子供が生まれて来たから、「ブルー」と名付けたのが両親。
今も伝わる大英雄の「ソルジャー・ブルー」の名前を貰って、名前は「ブルー」。
よちよち歩きをするようになったら、もう早速にこの髪型が選ばれた。
せっかくアルビノの子供なのだし、「小さなソルジャー・ブルー」にしようと。
(誰が見たって、ピンと来るから…)
可愛い息子を自慢するなら、髪型もソルジャー・ブルー風。
そうしておいたら、誰でも注目してくれるから。
両親がわざわざ自慢しなくても、いるだけで人目を集めるから。
(パパとママの作戦、大成功で…)
何処に行っても可愛がられた、幼かった頃の小さな自分。
両親と買い物に出掛けて行っても、母と公園で遊んでいても。
なにしろ見た目が、本当に「小さなソルジャー・ブルー」。
同じ髪型の子供がいたって、アルビノまでは真似られない。
銀色の髪ならなんとかなっても、赤い瞳は絶対に無理。抜けるように白い肌だって。
(育っても、顔はこうだから…)
もっと幼い子供の頃から、ソルジャー・ブルーに似ていた自分。
幼かったらこうだろう、と誰が見たって思うくらいに。
(もしも、あんまり似ていなかったら…)
きっと何処かで卒業したろう、今の髪型。
「そろそろ普通の髪型にしましょ」と、母が美容室で注文したりして。
「この子に似合いの、お勧めの髪型でお願いします」と。
けれども、卒業しないで済んだ「ソルジャー・ブルー風」の髪型。
今も美容室に出掛けて行ったら、何も言わなくても、こういうカット。
伸びた部分をチョンチョンと切って、整えてくれるソルジャー・ブルー風。
(お蔭で、とっても助かったけど…)
この髪型でハーレイと再会出来たんだしね、と幸せな気分。
前とそっくり同じ姿で、ちょっぴりチビだというだけで。
もう本当に母には感謝で、「ママ、ありがとう!」と御礼を言いたいくらい。
なにしろ、これは「手がかかる」から。
柔らかい自分の髪質のせいで、とんでもない手間がかかるのだから。
(乾かした時は、こうなんだけどな…)
お風呂から上がってゴシゴシ拭いたら、文句なしに前の自分の髪型。
何処から見たってソルジャー・ブルーで、少年時代のソルジャー・ブルー。
今の時代も残る写真にそっくりだから。アルタミラで撮られた、古い写真に。
(あれってホントは、十四歳じゃないのかも…)
とても有名な写真だけれども、今の自分より遥かに年上かもしれない。
腕に注射の痕が沢山、そういう写真の前の自分は。
心も身体も成長を止めて生きていたから、十四歳をとうに過ぎていたかも。
それはともかく、あの写真の自分と瓜二つなのが今の自分。顔も、もちろん髪型も。
(だけど、この髪…)
前の自分が檻でどうしていたかは知らない。
檻に鏡は無かったのだし、髪型なんかも気にしないから。
(成人検査を受ける前から、ああだったから…)
金色の髪に水色の瞳、そういう姿だった頃。微かに残っている記憶。
研究者たちはそれと同じに、カットさせていただけだろう。世話をしていた人間に。
「伸びすぎたから、切っておけ」とでも命令して。
髪を切られる自分の方でも、きっとどうでも良かった筈。
何処で切ったか覚えていないし、切られた記憶も無いのだから。
自分で髪を梳かしもしないし、寝癖も直していないから。
前の自分はそうだった。少なくとも檻にいた頃は。
燃えるアルタミラを脱出した後は、妙な寝癖がついた時には…。
(直さなくちゃ、って…)
鏡を覗いて気が付いた時に、サイオンでヒョイと直していた。
「こんな感じ」と指先で触れて、いつも通りになるように。
ところが、今の自分は不器用。まるで使えなくなったサイオン、思念もろくに紡げないほど。
それでは寝癖を直せもしないし、お風呂上がりの今は良くても…。
(寝てる間に、枕と頭の間で台無し…)
見るも無残な寝癖がつくのが、柔らかすぎる銀色の髪。
そうなった時は、母に助けを求めるしかない。「ママ、大変!」と走って行って。
「ぼくの髪、変になっちゃった」と。
お願いだから寝癖を直して、と母に頼んで乗っけて貰う蒸しタオル。
(今のぼくだって、そうなんだから…)
もっと幼い子供の頃から、母はせっせと直したのだろう。ついてしまった酷い寝癖を。
「幼稚園のバスが迎えに来る前に直さなくちゃ」と。
下の学校に通い始めた頃にも、「学校に行く前に直さないと」と。
ソルジャー・ブルー風の髪は厄介、上手く直さないと変なことになる。
寝癖がついたままの髪だと、下手をしたならライオンみたいになることだって。
(ぼくは覚えていないけど…)
小さすぎて記憶に無いのだけれども、きっと何度もあったろう悲劇。
あちこちピョンピョン跳ねてしまって、ライオンみたいな頭の息子が起きてくること。
(ママ、その度に蒸しタオルで…)
寝癖を直していた筈なのだし、母には感謝するばかり。
朝からバタバタ忙しい日でも、きちんと直してくれたのだから。
それに寝癖に手を焼かされても、「やめよう」と思わなかったのだから。
母が「この髪型は大変すぎるわ」と考えたならば、終わりになったソルジャー・ブルー風。
次に美容室に行った時には、違う髪型を注文して。
「ソルジャー・ブルー風だと手がかかるから、簡単なのでお願いします」と。
そうなっていたら…、と指に絡めてみた銀糸。
今でも母は寝癖を直してくれるけれども、途中で投げ出されていたら。
「この子の髪だと、朝が寝癖で大変だから」と、違う髪型にされていたなら…。
(…前のぼくの記憶が戻って来ても…)
中身は前と同じになっても、決定的に違う髪型。顔まで前とそっくりなのに。
誰が見たって「十四歳のソルジャー・ブルー」で、ハーレイが見てもそうなのに…。
(ぼくの髪型、全然違って…)
とても普通の男の子風の、平凡なショートカットとか。
「それでも寝癖が厄介だから」と、スポーツをやる子供みたいに短めだとか。
(…そんな髪型で、ハーレイと再会しちゃったら…)
ハーレイは何と思っただろうか、記憶が戻って来た時に。
聖痕が現れて大騒ぎの時は、髪型には全く気付かなくても、いずれは気付く。
この家に見舞いに来てくれた時に、ショートカットの自分が迎えていたならば…。
(ただいま、ハーレイ、って言った途端に…)
プッと吹き出されたろうか。
まるで全く違う髪型、そんな姿の「小さなブルー」がいたならば。
前のハーレイはまるで知らない、ショートカットになってしまった恋人に出迎えられたなら。
(…それって、酷いよ…)
けれど無いとは言えないことだし、母に心で頭を下げた。「ありがとう」と。
今の自分が前とそっくり同じ姿で暮らしているのは、母が投げ出さなかったお蔭。
じきに寝癖がついてしまって、自分で直せない息子の「厄介な髪」を。
ソルジャー・ブルー風の髪型でずっと来られた陰には、母の努力がきっとある筈。
「面倒だわ」と母が投げ出していたら、今の髪型は無理で、別の髪型だったのだから…。
ぼくの髪型・了
※今も昔も「ソルジャー・ブルー」な髪型なのがブルー君。今だと、よちよち歩きの頃から。
けれど、お母さんが投げ出していたら、全く違っていたのかも。別の髪型は嫌ですよねv
(あれは性分なんだよなあ…)
ついつい、やってしまうんだ、とハーレイが浮かべた苦笑い。
そろそろ寝ようと入った寝室、ふと先刻の自分の姿を思い返して。
いつもの寛ぎの一杯。愛用のマグカップに熱いコーヒー。
楽しんだ後は風呂の時間で、上がって来たら明日に備えて寝るのだけれど。
何をするわけでもないのだけれども、向き合ってしまう鏡の自分。
風呂に入ったら髪も洗うから、タオルでゴシゴシ拭き取る水気。
パジャマが濡れない程度に拭いたら、鏡を覗き込みながら…。
(なんだって、真面目に整えるんだか…)
後は寝るだけ、誰とも顔を合わせないのに。
オールバックに整えてみても、ベッドに入って眠ったら…。
(朝には乱れているってな)
そうクシャクシャにはならないけれども、何処かがピョコンと跳ねたりもする。
朝になったら洗面台の鏡に向かって、それをきちんと整える自分。
仕事のある日は、「身だしなみってヤツは大事で…」と考えながら。
休日だって、「誰かに会ったら大変だしな?」と、起きるなり。
ジョギングにしても、ジムに行くにしても、きっと誰かに出会うから。
顔見知りではない人にしたって、みっともない姿は見せられない。
(だから朝なら分かるんだが…)
夜にもやってしまうってのが、と自分の頭にやってみた右手。
ピタリと撫で付けられている髪、いつも通りのオールバックに。
パジャマでなければ、玄関にも出られそうなほど。
(まったく、俺というヤツは…)
妙な所で律儀なんだ、と本当に苦笑するしかない。
こんな時間から何処に行くんだと、「第一、服がパジャマなんだが?」と。
流石にパジャマで出られはしない家の外。チャイムが鳴っても、この姿では…、と。
そうは思っても、こういう性分。
子供時代は放っておいた髪だけれども、学生時代も多分、似たようなものだけど。
「朝にきちんとすればいいんだ」と、夜はおかまいなしだったけれど。
いつの間にやら、整える癖がついていた。
きっと教師になった頃から、今の髪型になるずっと前から。
(キャプテン・ハーレイ風の方なら、まだ分かるんだが…)
前の俺の記憶が身体の何処かに染み付いていて…、と思ったはずみに気が付いた。
「それじゃないか?」と。
風呂上がりで寝るだけの時間になっても、誰が見なくても整える髪。
その習慣は前の自分が持っていたもので、今の自分に引き継がれたもの。
記憶が戻ってくる前から。
前の自分は誰だったのかを、思い出すよりずっと前から。
(…なんたって、あっちは三百年で…)
そのくらいにはなる筈なんだ、と折ってみる指。
白い鯨ではなかった船で、燃えるアルタミラを後にしてから流れた年月。
アルテメシアで人類軍の前に浮上した時、三百年はとうに経っていた。
其処から宇宙を放浪した後、ナスカで四年で、更に地球まで。
(…キャプテンになるまでに、十年もかかってないからな?)
つまり三百年を超えているだろう、キャプテン歴。
「キャプテンはきちんとしていなければ」と、いつから思い始めたか。
厨房からブリッジに移った頃には、身だしなみなど気にしていない。
とにかくキャプテンの役目が優先、「早く操舵を覚えねば」と。
けれど制服が出来た頃には、もう間違いなく気にしていた。
マントと肩章までついていた服、あの制服では髪に寝癖は許されない。
(毎朝、鏡に向かってキッチリ…)
オールバックに整えていたし、休憩時間も覗いた鏡。
「変になってはいないだろうな?」と。
キャプテンは船の模範で「顔」だし、だらけた格好では駄目だ、と。
あれのせいだな、と生まれた確信。
今の自分に記憶が無くても、前の自分が三百年も真面目に続けた習慣ならば…。
(染み付いちまって、同じ髪型でなくてもだ…)
キャプテン・ハーレイ風ではなかった頃でも、整えようとするだろう。
学生時代が終わったら。…教師になって、社会に出たら。
(それで間違いなさそうだぞ)
今の俺より、前の俺の方が社会経験ってヤツが長いわけで、とパジャマで腕組み。
「あいつにはとても敵わんな」と。
シャングリラの中だけが世界の全てで、外の世界に出てゆかなくても、社会は社会。
皆の手本になるべきキャプテン、あらゆる場面で。
制服を常にきちんと着こなし、髪型だって手を抜かない。
朝にピョコンと跳ねていたなら、しっかり直して外に出るべき。
でないと仲間が「あれでいいんだ」と思うから。
「キャプテンだって寝癖がついたままだし、肩書きが無いなら別にいいよな?」と。
一事が万事で、たかが寝癖でも侮れないのが船の中。
それでいいのだと皆が思えば、たちまち「だらけた船」になる。
寝癖どころか、寝起きの顔を洗いもしないで、持ち場に行く者が出るだとか。
制服をきちんと着込む代わりに、着崩れた格好で歩き回るのが普通になるとか。
(そうなってからじゃ、遅いんだ…)
楽な方へと流れてしまえば、引き締めるのは難しい。
何度も怒鳴って叱り付けても、足並みが揃いはしないから。
誰もが自分の周りを見回し、「この程度ならば、皆、やっている」と思うから。
そうならないよう、気を引き締めていたキャプテン・ハーレイ。
「皆の手本にならねば」と。
髪といえども手抜きは駄目だと、気が付いた時に整えるべき、と。
いったい何度確かめたろうか、一日の内に。
朝はもちろん、食事の時やら、休憩でブリッジを離れる度に。
乱れていたなら直ぐに整え、「これでいいな」と眺めた鏡。
どうやらそれだ、と解けた謎。髪を整えたがる習慣。
制服を着ていた前の自分は、とっくにオールバックだったのだけれど…。
(そいつで長くやっていたから、今の俺に生まれて来てもだな…)
教師になって社会に出るなら、きちんとせねばと思ったのだろう。
柔道部や水泳部の指導をしたって、それが終われば整える髪。鏡に向かって、元通りに。
オールバックではない髪型でも。
キャプテン・ハーレイ風でなくても、「きちんとしよう」と、前の自分の習慣で。
(そんなトコまで引き摺ってたか…)
別に困りはしないんだがな、と考える今の自分の習慣。
「髪はきちんと」と考えることは「いいこと」なのだし、どちらかと言えば有難い。
そういう習慣が元からあるなら、何も努力は要らないから。
「お前は社会に出たんだろうが」と、自分自身を叱咤しなくて済んだのだから。
学生気分から心機一転、教師の職に就いた途端に、自分の中身も変身して。
(実に有難いと思うわけだが、しかしだな…)
寝る前にまで整えなくてもいいだろう、と頭が下がる前の自分の律義さ。
如何にキャプテン・ハーレイといえど、眠る時には眠るもの。
夜の夜中に通信が来たら、どう考えても「寝起き」だから。
寝る前に髪を整えていても、「どうした?」と起きたら、きっと乱れているだろうから。
(それでもキッチリ整えてたとは、前の俺はだ…)
なんて真面目な奴だったんだ、と自分に感心したけれど。
「流石にキャプテン・ハーレイだな」と、ただの教師とは大違いだと思ったけれど…。
(…ちょっと待てよ?)
そうじゃなかった、と頭に浮かんだブルーの顔。
今の小さなブルーではなくて、ソルジャー・ブルーだった方。
(…原因は、あいつ…)
あいつが恋人だったからだ、と気付いた「寝る前も整える」髪のこと。
恋人の前でグシャグシャの髪では、少しも様にならないから。
たとえブルーが「それでいいよ」と言ったとしたって、自分が納得できないから。
(うーむ…)
それで寝る前も直すのか、と両手で軽く撫でてみた髪。
「今もきちんとしているようだ」と、「そういや、前もそうだった」と。
青の間にしても、キャプテンの部屋での逢瀬にしても、洗った後には整えた髪。
ブルーに笑われないように。…この髪型で向き合えるように。
(その習慣まで、俺に染み付いてるってか?)
まだ当分は、そっちの出番は無いんだが…、と小さなブルーを思い浮かべる。
寝る前の姿を見せられる時は、まだまだ先になるんだが、と。
(しかし、まあ…)
いつかは出番が来るんだしな、と湛えた笑み。
今は単なる習慣でいいと、「誰も見てくれなくてもな?」と。
きっといつかは、育ったブルーがこれを目にするだろうから。
「ハーレイは少しも変わらないね」と、「いつもきちんとしてるんだから」と。
その日が来るのが待ち遠しいな、と思うけれども、まだ先でいい。
ブルーには幸せに生きて欲しいし、子供時代をゆっくり満喫して欲しいから。
当分はチビのブルーでいいから、小さなブルーを眺めているのも、幸せな時間なのだから…。
俺の髪型・了
※寝る前にも律儀に髪を整えるのがハーレイ先生。文字通り「後は寝るだけ」でも。
キャプテン・ハーレイだった頃の習慣らしいですけど…。寝る前にきちんとするのは特別v
(今日はハーレイが来てくれたから…)
いい日だったよね、と小さなブルーが浮かべた笑み。
お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
今は学校の教師のハーレイ、その恋人と二人で過ごせた。
幸せ一杯だったからこそ、こうして今も思い出す。「いい日だったよ」と。
(ハーレイと二人だと、ホントに幸せ…)
二人きりだと幸せだよね、と溢れる想い。
学校でもハーレイには会えるけれども、二人で話も出来るけれども、学校は学校。
ハーレイは「ハーレイ先生」なのだし、自分は教え子の一人。
いくらハーレイが守り役でも。聖痕を持った自分の側にいることを役目にしていても。
(学校だと、ハーレイ先生だから…)
どうしても限られてくる会話の中身。
廊下を一緒に歩けても。何処かで出会って立ち話でも。
家で会うようにはいかないのだから、今日のような日がやっぱり一番。
この部屋で二人、ゆっくり話せる日が最高。誰もいなくて、二人きりで。
(だけど、今日だって…)
駄目だったことが一つだけ。
恋人の自分が強請ってみたって、ハーレイはけしてキスをくれない。
「ぼくにキスして」と頼んでも駄目で、「キスしてもいいよ?」と誘っても駄目。
それを言ったら睨むハーレイ、「俺は子供にキスはしない」と。
鳶色の瞳でじっと見据えて、言われる言葉が「キスは駄目だと言ったよな?」。
指で額を弾かれてしまう時だって。「チビのくせに」と。
今の自分は十四歳にしかならない子供で、キスは額と頬にだけ。
残念なことにそういう約束、今のハーレイがそう決めた。
前の自分と同じ背丈に育たない限りは、貰えないキス。
唇へのキスは貰えないままで、恋人同士のキスの代わりに子供向けのキス。頬か額に。
今日は確かにいい日だったけれど、ハーレイと幸せに過ごしたけれど。
キスが貰えたらもっと幸せ、恋人同士の唇へのキス。
(でも、ハーレイは許してくれないから…)
いつもと同じに断られた今日、「キスは駄目だ」と。
せっかく二人きりだったのに。…ハーレイと二人だったのに。
(ママがいたなら、仕方ないけど…)
ハーレイとの恋は秘密なのだし、母のいる所でキスは出来ない。父だって同じ。
両親に恋を知られてしまえば、二人きりでは会えなくなる。
下手をしたならハーレイは出入り禁止だろうし、家に来てくれたとしても…。
(二人きりでは会えないよね…)
母が目を光らせているダイニングやリビング、でなければ客間。
そんな所でしか会えはしなくて、恋人同士の会話も無理。
前の自分たちの思い出話も、当たり障りのないものばかり。
(シャングリラのこととか、ゼルたちのこととか…)
きっとそういう話題だけ。
前の生での恋の思い出、それを話せはしないから。
懐かしく二人で話したくても、母が聞き耳を立てていたのでは無理だから。
(その辺は、ちょっと似てるかも…)
前のぼくたちだった頃と、と重なる前の自分たちの恋。
誰にも言えない恋人同士で、皆の前ではソルジャーとキャプテン。
一番の友達同士としてなら話せたけれども、恋人同士だと知られるわけにはいかない。
前の自分は、皆を導くソルジャーという立場だったから。
ハーレイは船を預かるキャプテン、白いシャングリラを纏め上げる立場。
船の頂点に立っていた二人が恋に落ちたと知れたなら…。
(誰もついて来てくれないものね…?)
何を言っても、「それは二人で決めたのだろう」と誰もが苦い顔。
私情は交えていないというのに、「船を私物化している」と。
きっと誰もがそっぽを向いて、船の仲間はバラバラになっていただろうから。
そうならないよう、懸命に隠し続けた恋。
前のハーレイは最後まで敬語で話し続けて、けして崩しはしなかった。
二人きりの時も、いつだって敬語。「愛しています」と告げる時だって。
(…今だと、ぼくが敬語だけど…)
それは「ハーレイ先生」にだけ。学校で話す時にだけ。
この家で二人で会った時には、前と同じに普通の言葉。「ねえ、ハーレイ」と。
(ちょっぴり、子供っぽいかもだけど…)
子供なのだし仕方ない。
前の自分の記憶があっても、今の自分は確かに子供。
青い地球の上に生まれて来てから、十四歳になるまで生きただけ。
(前のぼくの記憶が戻って来たって…)
あんな風には話せはしないし、話してみたって誰もが笑うことだろう。
父も母も、それにハーレイだって。
(分かってるけど、ぼくの中身は前と同じで…)
ちゃんとハーレイに恋しているのに、そのハーレイは自分を子供扱い。
今日もやっぱり断られたキス、お決まりの台詞で。ついでにギロリと睨んでくれて。
それが不満でプウッと頬っぺたを膨らませてやった、「ハーレイのケチ!」と。
恋人にキスもくれないなんて、と不満たらたら、唇だって尖らせて。
けれどハーレイは涼しい顔で、まるで堪えていなかったから…。
(…前のぼくになら、キスをくれたくせに…)
ホントにケチだ、と前の自分と比べて溜息。
前の自分なら、強請らなくてもキスを幾つも貰えたのに。
ハーレイと二人きりになったら、頼まなくても幾つものキス。
(…キャプテンの報告が終わった途端に…)
抱き締められて、「ソルジャー」ではなくて「ブルー」と呼ばれて。
広い胸の中に強く抱き込まれて、ハーレイのキスが降って来た。
頬や額にではないキスが。
今の自分は貰えないキスが、恋人同士の唇へのキスが。
二人きりの時はそうだったのに、と零れてくるのは溜息ばかり。
前の自分たちなら、挨拶代わりのようだったキス。
青の間で、時にはキャプテンの部屋で、二人きりになったら交わしたキス。
恋人同士で過ごせる時間は短かったから、それを少しも無駄にしないように。
(キスは当たり前で、その先だって…)
自分が寝込んでいなかった時は、交わした愛。
なのに今では自分はチビで、キスすらも貰えない子供。
ハーレイが家を訪ねてくれても、二人きりの時間を過ごしていても。
(二人きりだけど、全然違うよ…)
前のぼくたちだった時と、と違いを数えればきりがないほど。
キスは駄目だし、もちろんベッドにも行けはしなくて、ただ二人きりで会えるだけ。
ハーレイの膝には座れても。…大きな身体に抱き付いて甘えることは出来ても。
(なんだか色々、違うんだけど…)
やっぱり、ぼくがチビだからかな、と残念な気持ちがこみ上げる。
もっと大きく育っていたなら、事情は違っていたのだろうに。
両親にだってきちんと話して、もう堂々と恋人同士。
ハーレイが家に来てくれたならば、二人で過ごせる時間をあれこれ考えてみて…。
(今日みたいな日なら、二人でドライブ…)
行ってきます、と玄関から出て、ハーレイの車に乗り込んで。
使える時間で行って戻れる、何処か景色のいい所まで。
夕食だって、家で両親も一緒に食べる代わりに、二人で食事。
ドライブの途中で見付けた店とか、ハーレイお勧めのレストランとか。
(絶対、そういうコースなんだよ…)
二人きりの時間を楽しみたいなら、両親は抜きでゆっくり夕食。
ハーレイと二人で美味しく食べたら、家まで送って貰えるのだろう。
家に着いたら降ろして貰って、「またな」とキス。
帰ってゆくハーレイの車を見送っていても、きっと幸せ。
二人きりの時間を過ごせたのだし、ドライブも食事も楽しめたから。
ぼくが大きく育っていたなら、そうだったよね、と思う今日のこと。
同じに二人きりの時間でも、全く違う中身になる。
前の自分たちがそうだったように、キスだって出来る二人だから。
(…前のぼくたちだと、ドライブなんかは無理だけど…)
もちろんデートも無理だったけれど、今度は違う。
ソルジャーでもなければキャプテンでもないし、何の制約も無い二人。
自分がチビでなかったら。…十四歳にしかならない子供でなかったら。
(…チビだから、ハーレイは「ハーレイ先生」で…)
キスだって貰えないんだよ、と悲しい気持ちに包まれる。
どうして自分はチビなのだろうと、前の自分と同じ姿ではないのだろうと。
(せっかくハーレイと二人きりでも…)
値打ちが全く無いんだから、と悔しくなる二人きりの時間。
ハーレイにキスを強請ってみたって、叱られるから。「キスは駄目だ」と睨まれるから。
前の自分なら、そうはならずに貰えたキス。頼まなくても、数え切れないほど。
今だって大きく育っていたなら、ハーレイから貰えた筈のキス。
(今日だって、二人きりだけど…)
ホントに中身が足りなさすぎ、と考えてしまうハーレイと二人で過ごした時間。
もっと有効に使えるのにと、ドライブに行けて、食事にだって、と。
(だけど、大きくならない間は…)
駄目なんだよね、と諦めざるを得ないキス。それにデートも。
「二人きりだけど、前のぼくたちとは違いすぎ」と。
早く大きくなりたいのにと、今日だってキスも貰えなかった、と。
けれど我慢をしていたならば、いつか来る筈のハッピーエンド。
ハーレイと結婚できる時が来たら、前の自分よりもずっと幸せになれるから…。
(今だけの我慢…)
「二人きりだけど、色々違いすぎるよ」と嘆くのは。
前よりもずっと幸せな未来があるから、今だけの我慢、と繰り返す。
「二人きりだけど…」と膨れていたって、それは今だけのことなのだから…。
二人きりだけど・了
※ハーレイ先生と二人きりで過ごしていたって、前とは中身が違うみたい、と思うブルー君。
キスも貰えないよ、と不満ですけど、それは今だけ。大きくなったらハッピーエンドv
(今日はあいつと過ごせたからな)
いい日だった、とハーレイが唇に浮かべた笑み。
小さなブルーと過ごして来た日に、夜の書斎でコーヒー片手に。
前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
会うとますます愛おしくなるし、別れた後も愛おしい。
こうして思い出すほどに。ブルーの笑顔が浮かぶくらいに。
(ただなあ…)
キスを強請るのは困ったもんだ、と思うのがチビのブルーのこと。
十四歳にしかならない恋人、それが自分が愛する人。
いくら「キスして」と強請られたって、「キスしてもいいよ?」と誘われたって…。
(俺は子供にキスはしないぞ)
あいつ、分かっちゃいないんだから、と確信している、チビのブルーが欲しがるキス。
ブルーにキスを贈るのだったら、あくまで頬と額にだけ。
子供にはそれで充分なのだし、唇へのキスはまだ早すぎる。
ブルーは欲しいと強請るけれども、一人前に誘う言葉も口にするけれど、分かっていない。
恋人同士のキスはどういうものなのか。
(分かってるよ、と膨れそうだが…)
前のブルーの記憶がある分、知識くらいはあるのだと思う。
けれども、心がついてゆかないことだろう。無垢で小さな身体の方も。
もしも本物のキスを贈ったら、強張るだろうブルーの身体。「これはなに!?」と。
身体も心も竦み上がって、泣き出しさえもするかもしれない。
「何をするの」と、「ハーレイ、酷い!」と。
下手をしたなら、「気持ち悪かった」とまで言いそうなブルー。
なにしろ、今は子供だから。
前のブルーよりも遥かに幼い、チビになったのがブルーだから。
もっとも前のブルーにしたって、出会った頃にはチビだったけれど。
燃えるアルタミラで出会った時には、今のブルーと変わらない姿だったのだけど。
そうは言っても、前のブルーがチビだった頃は「ただの友達」。
恋人同士ではなかったのだし、ブルーはキスなど強請らない。
自分の方でもキスのことなど思いもしないし、恋人だとも思わなかった。
とても気の合う小さな友達、それがチビだった頃の前のブルー。
本当は自分よりも遥かに年上、なのに心も身体もチビ。
(…そういう所は今のあいつと重なるかもなあ…)
前のブルーの記憶があるから、今のブルーは見た目通りの十四歳とは違う筈。
三百年以上も生きていた頃の記憶があるなら、精神年齢もグンと上がって来そうだけれど。
(まるで全く、関係ないと来たもんだ…)
今のブルーも、前のブルーがそうだったように、見た目そのままに中身も子供。
恋人同士のキスを贈ってやったら、驚いて泣き出しそうなほど。
それに普段も我儘な子供、幸せ一杯に育って来たから。
(…そこの所は、前と違うな)
前のブルーはチビだった頃も、我儘は言わなかったから。
アルタミラの檻で、燃えるアルタミラで地獄を見た分、脱出した後はそれだけで幸せ。
船の仲間と生きてゆけたら、前のブルーは満足だった。
我儘なんかは言いもしないし、どちらかと言えば我慢強かった方。
(それが今では、変わっちまって…)
じきに膨れて怒るんだから、と可笑しくなる。
キスを断ったら膨れっ面だし、今日もやっぱり膨れっ面。「ハーレイのケチ!」と。
(あんな台詞も言われちゃいないな)
チビだった前のブルーには。
前の自分にくっついて歩いていた頃だって。
(御礼だったら、山ほど聞いたが…)
ケチとは一度も言われていない。
チビでもブルーは我慢強くて、辛抱だって出来たから。
それに船での暮らしに満足、充分に幸せだったのだから。
色々と違いはあるもんだ、と思ってしまう今のブルーと前のブルー。
同じチビでも違うようだし、育った後なら、もっと大きく違っていた。
(俺と恋した後のあいつは…)
キスなど強請って来なかったぞ、と考えなくても分かること。
強請らなくても、ブルーはキスを貰えたから。
自分の方でも、強請られなくても惜しみなくキスを贈ったから。
二人きりでいられる時間は長くはなかったのだし、ケチな真似などしていられない。
少しでもブルーを幸せにしたくて、幾つも幾つも贈ったキス。
(…うーむ…)
今日だってあいつと二人だったが、と思い返してみる状況。
小さなブルーの部屋で二人きり、ここぞとキスを強請ったブルー。
母の姿が消えるなり。…階段を下りてゆく足音が小さくなって消えてしまうなり。
(下に行ったら、暫くは来ないもんだから…)
今の間に、と甘えてくるのが小さなブルー。
抱き付いて来たり、膝の上にチョコンと座ってみたり。
甘えるだけならいいのだけれども、その内に強請り始めるキス。
「ぼくにキスして」と、時には捻って「キスしてもいいよ?」と誘う形で。
そうされたってキスはしないし、絶対にしてやらないけれど。
どんなにブルーが膨れていたって、キスは額と頬にしか贈らないけれど。
(…前のあいつと二人きりなら、そうはならんぞ)
頼まれなくてもキスを贈ったし、ブルーを抱き締めたりもした。
キャプテンとしての報告が終わった途端に、目の前の愛おしい人を。
さっきまで「ソルジャー」と呼んでいた人を、「ブルー」と呼んで。
精一杯の想いをこめて、キスを贈って、腕の中に強く抱き込んで。
(…敬語だけは崩さなかったがな…)
そいつは崩しちゃ駄目だったから、と今も忘れない前のブルーに贈った言葉。
「愛しています」と、いつも敬語で繰り返し。
前のブルーはソルジャーだったし、それを忘れてはならないから。
それに比べて、今のブルー。…敬語の出番は全くない。
二人きりで過ごせる時間に使いはしないし、普段もブルーに使いはしない。
(あいつの方が使ってやがるぞ)
学校だと「ハーレイ先生」だしな、と思うけれども、それは学校の中でだけ。
ブルーの部屋で過ごす時には、ブルーは普通の言葉で話す。
前よりも子供っぽいけれど。
何かと言ったら「ハーレイのケチ!」で、プンスカ膨れているけれど。
(二人きりには違いないんだが…)
本当に色々と違うもんだな、と前の自分たちと比べてみれば山ほどの違い。
前のブルーがチビの子供だった頃はもちろん、大きく育って恋人同士になった後にも。
キスにしたって、言葉遣いのことにしたって、もう色々と違いすぎ。
(人目を忍んで会うって所は同じだが…)
ブルーの両親には内緒の恋だし、其処は似ている前の自分たち。
船の仲間に恋を明かせはしなかった。
白いシャングリラを導くソルジャー、それがブルーで自分はキャプテン。
船を預かる立場なのだし、そんな二人が恋をしたなら誰もが疑い始めるだろう。
「何もかも二人で決めるんだろう」と、「船を私物化している」と。
そうなったら誰もついては来ないし、船も無事ではいられない。
だから最後まで恋を隠して、ブルーの前ではいつでも敬語。
皆の前でウッカリ間違えないよう、常に敬語を崩さなかった。
ブルーと二人で過ごす時にも。
青の間やキャプテンの部屋でキスを交わして、愛を交わしていた時さえも。
(恋がバレたら大変なのは…)
今だって同じなんだがな、と分かっているから、チビのブルーも大人しい。
両親の目があると分かっている時は、抱き付いたりもしてこない。
けれども、そうでない時は…。
(ぼくにキスして、と強請ってだな…)
断られたら見事に膨れて、「ハーレイのケチ!」。そう、今日のように。
本当に色々と違うもんだ、と苦笑する自分たちの恋。
「今日だって、二人きりだったんだがな?」と。
あいつがチビでなかったんなら、違う時間になるんだが、と。
前の自分たちのように、限られた時間しか持たないわけではないのだから。
ブルーが大きく育っていたなら、デートにだって行けるのだから。
(今日と同じだけ時間があったら…)
ドライブにだって誘ってやれるし、もちろん食事も二人きり。
ブルーの両親は抜きの夕食、何処かへ食べに出掛けて行って。
食事の後にはブルーの家までドライブがてら、送り届けて「またな」とキス。
もちろん額や頬にではなくて、ちゃんと唇に贈るキス。
(やっぱりあいつがチビだからだな…)
何もかも変わって来ちまうのはな、と思うけれども愛おしい。
「二人きりだが、キスも出来ない恋人ってな」と。
それでもブルーは恋人なのだし、膨れられても愛おしい人。
唇へのキスを贈らないから、「ハーレイのケチ!」と言われても。
これからもずっとブルーと一緒で、今は色々違いすぎても、時が解決してくれるから。
「二人きりだが、違いすぎるよな」と思わなくても、今度は結婚できるのだから…。
二人きりだが・了
※ブルー君と二人きりで過ごしていたって、前とはずいぶん違うと思うハーレイ先生。
同じチビでも、育った前のブルーでも。違いは山ほどあるようですけど、いつかは解決v