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(……んーと……)
 どうしようかな、と小さなブルーが思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日、夕食の後で部屋に戻って。
 今日の授業で、出た宿題。
 ハーレイの古典の授業ではなくて、まるで違う科目。
 それのレポート、提出期限は来週の末。
 帰宅してから、もう早速に手を付けたのだけれど…。
(ハーレイが来るか、気になっちゃって…)
 何度も出掛けて、覗いた部屋の窓の外。
 二階の窓から下を見下ろし、庭を隔てた門扉の向こうを眺めていた。
 其処に立つ人影が見えないかと。
 そうでなければ、表の通りを前のハーレイのマントの色の、車が走って来ないかと。
(あの色の車が走って来たら…)
 大抵はハーレイが乗っているから、それを見たくて机を離れた。
 「もう来るかな?」と、「今日は来てくれるといいのに」と。
 そうやって気が散っていたから、無駄にしてしまった時間が沢山。
 レポートは最後まで書けていなくて、きちんと仕上げたいのなら…。
(今日中に残りをやってしまって、明日、読み直して…)
 それでおしまい、その形が「一番早い」と思う。
 いつ提出の日がやって来たって、「もう出せるよ」と誇れる形にするのなら。
 明日になって別の課題が出たって、「またレポートなの?」と慌てずに済むようにするなら。
(…普段のぼくなら、そうなんだけどな…)
 今みたいにレポートが残っているなら、急いで「続き」。
 母に「お風呂に入りなさい」と言われる前に、全部終わってしまうようにと。
 流石に、パジャマでは出来ない宿題。
 下手をしたら風邪を引いてしまうし、やるなら、服を着ている間。
 自分でも充分、承知なだけに、いつもだったら机に向かう。
 「今の間に頑張らなきゃね」と、気合を入れて。
 レポートの続きをやってしまおうと、サッと勉強机の前に座って。


 けれど、何故だか出て来ない「やる気」。
 自分らしくないと思うけれども、机に向かおうという気がしない。
 「どうしようかな?」などと、レポートのことを考えるだけで。
 今日の間に仕上げるべきか、明日に延ばしてもいいものかと。
(提出期限は、来週の末になるんだから…)
 何も急いで「今日」やらなくても、きっと安心だと思う。
 明日も明後日も、その先だってあるのだから。
(週末は、ハーレイが来てくれるけど…)
 午前中から訪ねて来てくれて、夕食の後のお茶まで一緒。
 そんな風に週末を過ごしていたって、「レポートをやる時間」はある。
 ハーレイが来るまでの時間にやるとか、「またな」と帰って行ってしまった後とかに。
(そういう日なら…)
 きっと気分が弾んでいるから、宿題だって「やる気」充分。
 ハーレイに会えて、大満足で。
 とても御機嫌で、もしかしたら鼻歌混じりなくらいで。
(…鼻歌を歌いながらレポートでも…)
 きちんと書けているのだったら、誰も怒りはしないだろう。
 肝心のレポートの中身の代わりに、「歌詞」さえ書いていなければ。
 ハミングしていた「お気に入りの歌」の、歌詞をウッカリ書かなかったら。
(それをやったら、先生、カンカン…)
 いくら自分が優等生でも、きっと先生に呼び出される。
 「ブルー君?」と先生の部屋に呼ばれて、レポート用紙を指差されて。
(…呼び出しを食らわなくっても…)
 採点されて返されたレポート、其処には大きく「バツ印」がついていることだろう。
 赤い色のペンで、デカデカと。
 歌詞を書いてしまった部分の下には、赤い色で引かれた線だって。
(…遊び心のある先生で、先生も、その歌、大好きだったら…)
 レポートは減点されていたって、歌詞の続きが赤いペンで書かれているかもしれない。
 続きでなければ、先生が「特に気に入っている」部分の歌詞の抜粋。


 それも悪くはないけれど。
 レポートで減点されてしまっても、先生と「お気に入り」がお揃いだったら楽しいけれど。
(…そんなレポート、出してしまったら…)
 きっとハーレイの耳にも入って、この家に来た時に笑われるだろう。
 「お前、この歌、好きなんだってな?」と、可笑しそうに。
 「レポートにまで歌詞を書いちまうほど、好きなんだったら、歌わないか?」と。
 もちろん、鼻歌ではなくて。
 「ちゃんと声に出して歌うんだぞ?」と、ハーレイは「聞き役」に徹してしまって。
 一緒に歌ってくれるのだったら、恥ずかしいとは思わないのに。
 「ハーレイと歌を歌えるなんて」と、嬉しい気持ちが膨らむのに。
(だけど絶対、そういう風にはならないんだよ…)
 大恥をかいて終わりだよね、と分かっているから、レポートに歌詞を書いてはいけない。
 どんなに御機嫌で取り組んでいても、鼻歌混じりに挑んでいても。
(その辺は、きちんとチェックするから…)
 後で読み直して、「書いちゃってる!」と気付いて、消して書き直す。
 そういう時間を充分に取るなら、早めに仕上げて、余裕を持たせるべきだけど。
 いつもだったら、急いで取り組むものなのだけれど…。
(…今日は「やる気」が行方不明で…)
 留守なんだよね、と零れる溜息。
 どうしたわけだか、「やる気」が「いない」ようだから。
 家出したのか、心の何処かで眠っているのか、顔を出してはくれないから。
(やるぞ、って気持ちが出て来なくって…)
 こういう時には、やっても無駄、と子供ながらも経験は多数。
 優等生でも、「やる気」が無ければ、何の成果も上がらないもの。
 机に向かって、レポートを書こうと思っていても。
 宿題の問題を解いてやろうと、勉強机の前に腰掛けていても。
(…とても効率、悪いんだよね…)
 いつも以上に時間がかかって、いたずらに時が流れてゆくだけ。
 「もう、こんな時間?」と、時計を眺めて驚くほどに。
 まるで進んでいない宿題、それに愕然とするほどに。


 こんな時には、やっても駄目、と頭をプルッと振ってみる。
 「やる気」が留守なら、時間は無駄に「盗まれてゆく」だけだから。
 どれほど自分に気合を入れても、「やる気」は戻って来てはくれない。
 「戻るべき時」が来るまでは。
 家出している「やる気」や、心の中で寝ている「やる気」が、「戻ろう」と動き出すまでは。
(…家出にしたって、寝てるにしたって…)
 そういう「やる気」は、捜し出せない。
 自分で頑張って捜してみたって、「戻るもんか」と逃げてしまって。
 あるいはグッスリ眠ってしまって、捜索隊が出ていることにも気が付かないで。
(…行方不明になっちゃった時は…)
 いない「やる気」を捜しに行っても、見付からない。
 ついでに「やる気」がいない状態、それで何かに取り組んでみても…。
(…ろくなことにはならないものね?)
 母に「お風呂よ!」と呼ばれる時間になっても、きっと終わっていないレポート。
 「やる気」が家出をしていなかったら、とうに仕上げているのだろうに。
(…ホントに、ちっとも出来ていなくて…)
 時間を盗まれるだけだろうから、こうした時には「しない」方がいい。
 「やる気」が戻って来るまでは。
 明日か明後日か、週末なのか、とにかく「帰って来てくれる」までは。
(…時間を無駄にしてしまうよりは…)
 サボっちゃうのが一番だよね、と考える。
 「やる気」が行方不明なのだし、つまりは「やりたくない」ということ。
 とても珍しいことだけれども、今日の自分は「サボりたい」。
 宿題のレポートに取り組むよりかは、他の何かをやってみたくて、まるで出ない「やる気」。
 家出したのか、眠っているのか、「やる気」の行方は分からないけれど。
 「サボろうかな?」と囁く「心の声」なら、今も聞こえているのだけれど。
(…サボりたい時には、サボッちゃうのが…)
 きっと一番、と固めた決意。
 このまま「やる気」を捜しているより、「今日はサボリ」と。
 母が「お風呂よ」と呼びに来るまで、レポート以外のことをしよう、と。


 サボッちゃおう、と決めた途端に、ポンと浮かんだ「読みたい本」。
 お気に入りの本で、何度読んでも飽きない「それ」。
(よーし…)
 お風呂に入るまでの時間で、どのくらい読めることだろう。
 それに本なら、お風呂上がりにも、ベッドで続きを読めるから…。
(風邪も引かなくて、一石二鳥…)
 そうしようっと、と本棚から本を引っ張り出した。
 すっかり覚えてしまっているから、「一番、読みたい気分」の箇所を広げて読む。
 本の世界に吸い込まれるように、夢中で読み進める内に…。
「ブルー、お風呂よ!」
「はぁーい!」
 続きは後で、と本に栞を挟もうとして気が付いた。
 有意義な時間を過ごしたけれども、その「時間」。
 レポートをしないで、すっかりサボって、本の世界に引き込まれて過ごしていたけれど…。
(…前のぼくだと、サボリだなんて…)
 けして許されはしなかった。
 「やる気が無いから」と、「ソルジャー・ブルー」がサボっていたら…。
(…ミュウの子供が殺されちゃうとか…)
 とんでもない結果を招いただろう、前の生。
 今ならサボってしまっていたって、何も起こりはしないのだけれど。
(……凄く贅沢……)
 サボりたい時には、サボってしまっていいなんて…、と今の人生に感謝する。
 「やる気」が行方不明だったら、今はサボっていいのだから。
 いない「やる気」が見付からないまま、歯を食いしばって頑張らなくてもいいのだから…。

 

            サボりたい時には・了


※宿題のレポートをやる気が出ないブルー君。「サボっちゃおう」と決めるくらいに。
 今はサボリも平気ですけど、前の生だと出来なかったこと。サボれる世界は贅沢ですv









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(……うーむ……)
 まだまだ余裕はあるんだがな、とハーレイが考えた仕事のこと。
 ブルーの家には寄れなかった日、夕食を終えたダイニングで。
 もしもブルーの家に行けていたら、今頃はまだ帰宅していないことだろう。
 ブルーの両親も交えた夕食、それを済ませて、食後のお茶を飲んでいる頃で。
(あいつの部屋で二人きりなのか、ダイニングなのかは分からんが…)
 食後のお茶には間違いないぞ、と眺めた壁の時計の時刻。
 ブルーの家に出掛けてゆくには「遅すぎた」だけで、学校を出たのは遅くない。
 帰宅して直ぐに食事の支度で、食べ終えた時間が、ついさっき。
 後片付けをして、仕事で使う資料を作るべきなのだけれど。
 古典の授業で、生徒たちに配るためのプリント、それが必要なのだけれども…。
(その気になったら、直ぐ作れるし…)
 おまけに、それを使う授業は、まだ先のこと。
 来週の後半といった所で、急ぎの仕事というわけではない。
 ついでに何故だか、今日は「気乗りがしない」感じで、椅子から全く立つ気がしない。
 普段だったら「さて、やるか」と、立ち上がるのに。
 さっさと食器を洗い終わって、テーブルも拭いて、と身体が自然に動くのに。
(…いったい、どうしたわけなんだかな?)
 ブルーとゆっくり話せなかったせいでもあるまいに…、と思い浮かべる恋人の顔。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(学校では顔を見られたんだし、挨拶だって…)
 ちゃんと交わして、「ハーレイ先生!」と弾ける笑顔も見た。
 「ブルー不足」になってはいないし、それが原因ではないだろう。
 仕事をする気がしないのは。
 椅子から立って、後片付けを始める気にもなれないのは。
(学校でも、特にこれということは…)
 無かったんだがな、と指を折ってゆく。
 「柔道部の方は順調だった」と、「仕事でも何も無かったぞ?」と。
 強いて言うなら「会議で遅くなった」ことだとはいえ、予め予想していたこと。
 今日の会議は長引くことも、ブルーの家には寄れない時間になることも。


 どうにも解せん、と思う「やる気」が出ないこと。
 仕事は「溜め込まない」のが信条、早め早めに進める主義。
 けれども、自分も「人間」だから…。
(…たまには、こういう気分になる日も…)
 あるんだよな、と思う「サボリ根性」が頭をもたげる日。
 「まだまだ余裕は充分にあるし、急がなくても」と聞こえる「心の声」。
 急いで仕事をこなさなくても、ゆっくり、のんびり進めればいいと。
 サボッた所で、何も問題ないだけに。
 明日も明後日も時間はあるし、期限までには、たっぷり余裕があるだけに。
(…どうするかな…)
 仕事があるのは本当だから、「エイッ!」と気合で立ち上がるべきか。
 まずはキッチンで食器を洗って、きちんと拭いて棚へと戻す。
 それから「いつものコーヒー」を淹れて、仕事を片付けに書斎へ向かう。
 棚にギッシリ詰まった本から、「これだ」と資料を引っ張り出しに。
 プリント作りに役に立つ本、それを端から選び出しに。
(中身は頭に入っているしな?)
 こうだったな、と確認のために「調べる」だけで、本を脇に置いて作るプリント。
 広げたページを覗き込んでは、ミスが一つも無いようにと。
(取り掛かっちまえば、アッと言う間に終わるんだが…)
 長くなっても、一時間もかからないだろう。
 ほんの一時間で終わる仕事なら、今から始めれば「簡単に」作業は全て完了。
 プリントを印刷している間に、「一仕事終わった」と飲めるコーヒー。
(…二杯目を飲んでも、俺の場合は…)
 眠りに就くのに障りはしないし、いつもだったら、そのコース。
 後片付けを急いで済ませて、書斎に出掛けて「資料を作る」。
 「仕事の後のコーヒーは美味い」と、二杯目のコーヒーを楽しみにして。
 「早いトコ、仕上げちまうとするかな」と、椅子から立って。
 そうは思っても、出ないのが「やる気」。
 今日は何処かに行ってしまって、すっかり行方不明になって。


 家出したらしい、自分の「やる気」。
 原因の方はサッパリ不明で、けれど捜しても見付からない。
 何処へ行ったか、それとも心の深い所でグッスリ眠ってしまっているのか。
(…いなくなっちまったというのがなあ…)
 こんな時には、捜すだけ無駄というヤツで…、と自分でもよく分かっている。
 家出したのか、眠っているのか、とにかく「見当たらない」やる気。
 それを懸命に捜してみたって、徒労に終わるということを。
 いなくなった「やる気」は、向こうの方から帰って来るまで、戻っては来ない。
 どんなに自分に喝を入れても、「やってやるぞ」と思っても。
 「頑張らなきゃな」と踏ん張ってみても、「やる気」がいないと始まらない。
 無理やり仕事を始めてみたって、効率が悪いに決まっている。
 あちら、こちらと気が散って。
 「資料用に」と出して来た本、それをウッカリ読み耽ったりも。
 そうする間に、刻一刻と経ってゆく時間。
 ハッと気付けば、「とんでもない量の」時間を無駄にしているもの。
 肝心の「やる気」が家出したまま、気乗りしないのに、取り掛かったら。
 「やるぞ」とファイトが湧いて来ないのに、「仕方なく」仕事をすることにしたら。
(…そうなるのが見えているからなあ…)
 今日は駄目だな、と目を遣る壁のカレンダー。
 資料のためのプリント作りは、明日だって出来る。
 明後日もあるし、それが駄目でも、まだまだ余裕がある日数。
(…週末はブルーの家に行くんだが…)
 その土日だって、出掛ける前と、帰宅した後は「仕事が出来る」。
 ブルーと二人でゆっくり過ごして、リフレッシュして。
 「今日はブルーと過ごせたんだ」と、心の底から満足して。
 同じ「仕事をする」のだったら、そういう日の方が向いている。
 明らかに「やる気」が高まった時は、作業効率が上がるから。
 今日のように「やる気」が留守の時より、「家出してしまった」らしい時より。


 そういうもんだ、と分かっているから、心を決めた。
 「今日はサボるぞ」と、自分自身に宣言して。
 早めに仕事を片付ける主義は、今日の所は返上しよう、と。
(サボりたい時は、サボッちまうのが一番なんだ)
 その方が時間も無駄にならん、と今日までの経験を思い返して、大きく頷く。
 「今日の所はサボッちまおう」と、椅子に座ったまま、伸びをして。
 後片付けをするよりも先に、コーヒーを淹れてくるのもいい。
 ダイニングでのんびり「食後のコーヒー」、そんな日だって多いから。
 今日のように「仕事」が待っていないなら。
(…ふむ…)
 コーヒーを淹れに行って来るかな、と思ったら、素直に動いた身体。
 さっきは「立つ気もしなかった」のに。
 仕事をするか、と考えてみても、椅子から立てなかったのに。
(……現金なモンだな、俺ってヤツは)
 サボると決めたら、急に元気になるらしい、と浮かべた苦笑。
 別の意味での「やる気」が出て来たようだから。
 仕事ではなくて、「今日はサボって、のんびりしよう」という「やる気」だけれど。
 ダイニングでコーヒーを飲むのだったら、テーブルは綺麗に片付けたい。
 「食べ終わった後の汚れた食器」を置いておくより、すっかり下げて。
 キッチンで洗って、棚に仕舞って、それから淹れる熱いコーヒー。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れて、ダイニングの椅子にゆったり座って…。
(ちょいと新聞でも読んで…)
 目に付いた記事を端から読むのも、なかなか楽しい時間ではある。
 授業の合間に挟む雑談、そのためのネタを拾えたりもして。
(今日はサボってしまうんだしな?)
 楽しくやらなきゃ損じゃないか、と自分自身に言い聞かせる。
 「仕事のことは忘れちまえ」と、「やる気が戻って来るまでな」と。


 家出した「やる気」は戻らないから、別の「やる気」でコーヒータイム。
 書斎に行かずに、ダイニングのテーブルを片付けて。
 「此処でコーヒーも、いいもんなんだ」と、笑みを浮かべて。
 サボりたい時にはサボるのが一番、それも自分の信条だけれど。
 作業効率を上げるためには、サボリも必要なのだけれども…。
(…おいおいおい…)
 今ならではだぞ、と気付いた贅沢。
 前の自分に、サボリは許されなかったから。
 ミュウの箱舟を纏めるキャプテン、そのキャプテンがサボっていたなら「おしまい」だから。
(シャングリラが沈んじまうじゃないか…!)
 やる気が出るまで待っていたなら、そうなったろう。
 無理にでも「やる気」を出して頑張り、足を踏ん張らない限りは。
(…サボりたい時は、サボっていいのも…)
 今だからだな、と傾けるコーヒーを「美味い」と思う。
 こうして「やる気」が出ない時でも、今はサボってかまわないから。
 仕事の代わりにコーヒータイムも、許されるのが今の人生だから…。

 

           サボりたい時は・了

※仕事があるのに、何故だか「やる気」が出ないハーレイ先生。行方不明になった「やる気」。
 そういう時にはサボリが一番、と思えるのが「今」。前のハーレイには出来ない贅沢v









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(今日は来てくれなかったけれど…)
 柔道部が忙しかったのかな、と小さなブルーが零した溜息。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は来てくれなかったハーレイ、前の生から愛した人。
 青い地球の上に生まれ変わって、また巡り会えた愛おしい人。
 毎日だって会いたいけれども、なかなか上手くいかないもの。
 今のハーレイは学校の教師で、今の自分はハーレイが教える学校の生徒。
 遠く遥かな時の彼方と、同じようには運びはしない。
 「ソルジャー・ブルー」と「キャプテン・ハーレイ」、そう呼ばれていた頃のようには。
 あの頃だったら、「ブルーの所を訪ねて来る」ことも、ハーレイの仕事の内だったのに。
 キャプテンとしての一日の報告、それを聞かない日は無かったのに。
(どんなに忙しい時だって…)
 夜も仕事で、青の間に来られなかった時でも、次の日の朝には「いた」ハーレイ。
 いつの間に仕事を終えて来たのか、「ソルジャーのベッド」に入っていて。
 ただ添い寝だけで夜を過ごして。
(それも無理なほど、忙しくっても…)
 やはり翌朝には「やって来た」。
 キャプテンの一日は、青の間で始まるのが常だったから。
 ソルジャーに対しての「朝の報告」、それがキャプテンの大切な仕事。
 前の日に来られなかった時には、その分の報告までも含めて。
 それが含まれていない時には、「これから始まる一日の予定」を伝えるもの。
 ソルジャーが行くべき視察の予定も、船のメンテナンスやら、様々なこと。
 「報告すべきこと」は多くて、けれど「少ない」のがキャプテンの「時間」。
 白いシャングリラを纏めてゆくには、ありとあらゆる仕事がある。
 端から全てこなしていたなら、アッと言う間に終わる一日。
 たまには暇な時があっても、「いつ、暇なのか」は読めないもの。
 急な修理が入る時だの、他のセクションから呼ばれて出掛けてゆく時だのと。
 そうなる前にと、朝一番に組まれていた予定が「ソルジャーとの朝食」。
 朝食は必ず食べるものだし、その間ならば「報告」も出来る。
 その日の予定も、前の日の間に伝え損ねたことなども。


 ソルジャーとキャプテン、そういう間柄で過ごした頃なら、毎朝、会えた。
 恋人同士になるよりも前から、その習慣があったお蔭で。
(…誰も変には思っていなくて、朝御飯の係もいたものね…)
 前の日の内に「明日は、これを」と頼んでおいたら、係の者が作った朝食。
 ハーレイの分も、前の自分が食べていた分も。
(ぼくの食事はホットケーキで、ハーレイの方はトーストだとか…)
 お互い、違うメニューにしたって、係は少しも困らなかった。
 ハーレイの方には、朝からオムレツやソーセージなどの料理がたっぷり。
 食が細かったブルーの方は、ホットケーキだけで済ませた時だって。
(どんな注文でも、朝御飯はきちんと作るのが食事係の仕事で…)
 朝食の支度を整えた後は、直ぐに青の間から退出した。
 ソルジャーとキャプテンの食事は、「朝の報告」の時間。
 船の仲間たちには「話せない内容」もあるだろうから、そうして出てゆくのが係の礼儀。
 それをいいことに、甘い時間を過ごしていた。
 重要な報告が無かった時は。
 ソルジャーとしても、キャプテンとしても、「話すべきこと」が無かった時は。
(だけど、今だと…)
 別々の家で暮らしている上、教師と生徒になってしまった。
 前の生のようにはゆかない毎日、「ハーレイが来ない日」も少なくない。
 今日が、そうなってしまったように。
 「まだ来ないかな?」と待っている内に、「来てくれる時刻」を過ぎていたように。
 今のハーレイは、遅い時間には、けして訪ねて来てくれない。
 「お母さんに迷惑かけるだろうが」と、食事の支度を心配して。
 夕食を食べる人間が一人増えたら、大変だからと。
 「俺も自分で飯を作るから、分かるんだ」と、ハーレイは、けして譲りはしない。
 母が「ご遠慮なく、いらして下さいな」と、何度も笑顔で言っても。
 父も同じに「いつでも、どうぞ」と繰り返しても。
 夕食の支度が始まる頃には、もう「来ない」のが今のハーレイ。
 柔道部で遅くなった時でも、会議が長引いたような時でも。


 今日のハーレイは、柔道部で遅くなっただろうか。
 それとも会議だっただろうか、と寂しい気分。
 学校では顔を見られたけれども、立ち話だって出来たのだけれど…。
(…学校じゃ、先生と生徒だから…)
 恋人同士の会話はもちろん、前の生の思い出話も出来ない。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ、その「生まれ変わり」なことは秘密だから。
 本当に僅かな人間だけしか、「本当のこと」を知りはしないから。
(せっかく、生まれ変わって来たのにね…)
 会えない日だって、うんと沢山、と零れる溜息。
 同じ青い地球の上にいるのに、同じ町で暮らしているというのに。
(前のぼくたちなら、毎朝、色々、話をして…)
 それからハーレイをブリッジに送り出していた。
 「行って参ります」とハーレイが言う度、「うん」と頷いて。
 出来れば早く戻って欲しいと、少し我儘を言ったりもして。
(今は、それさえ出来なくて…)
 ハーレイの家も遠いんだから、と眺める窓のカーテンの方。
 夜だから閉めているカーテン。
 けれども、それが開いていたって、窓の向こうに「ハーレイの家」が見えることはない。
 何ブロックも離れている家、此処からは屋根の欠片も見えない。
 其処までの間に、何軒もの家が挟まって。
 家の庭にある大きな木だとか、色々なものが邪魔をして。
(ホントに、前とは違いすぎるよ…)
 青い地球には来られたのにね、と思ってはみても仕方ないこと。
 二人で地球まで来られただけでも、もう充分に奇跡だから。
 新しい命と身体を貰って、生まれ変わって来られただけでも。
 本当だったら、何もかも「終わっていた」のだから。
 メギドで「死んでしまった」時に。
 右手に持っていたハーレイの温もり、それを落として失くしてしまって。
 ハーレイとの絆が切れてしまったと、泣きじゃくりながら命を失った時に。


 けれど、切れてはいなかった絆。
 ハーレイと二人で地球に来られて、前の記憶も取り戻した。
 これ以上を望みはしないけれども、贅沢を言っては駄目なのだけれど…。
(生まれ変わりなら、もっと絆が強くても…)
 良かったのにね、と思いもする。
 隣同士の家に住んでいるとか、赤ん坊の頃から知り合いだとか。
(今でも充分、絆はあるけど…)
 偶然なんかじゃないんだけれど、と考える「生まれ変わり」ということ。
 ありとあらゆる様々な要素、それを神様が組み上げた上で、今の二人を作ったろうと。
 ハーレイも自分も、「今の身体」に生まれたろうと。
 生まれ変わりというだけだったら、そういう言葉があるほどなのだし、きっとある。
 こういう強い絆などは無くて、ただ「偶然」に過ぎないものが。
 それこそ神様の悪戯のように、生まれ変わって「また出会う」人が。
(もしも偶然、生まれ変わった方だったら…)
 今の自分は、この地球の上で、誰に出会っていたのだろう。
 強い絆で結ばれたハーレイ、その人と出会うのでなかったら。
 前の生で「知り合いだった誰か」に、もう一度、巡り会うのなら。
(…ジョミーじゃ、縁が薄すぎるよね…)
 一緒にいた時間も長くない上、酷い苦労もさせてしまった後継者。
 彼と出会っても、きっと話が盛り上がる前に、詫びを言うことになりそうな感じ。
 「君を選んで済まなかった」と、ジョミーが「小さな子供」でも。
 幼稚園に通っているような子でも、「ブルー?」とジョミーに呼ばれたなら。
 自分の方でも、「ジョミー?」と気付いて、声を掛けたら。
(…幼稚園児に、ぼくがペコペコ謝って…)
 「心から済まなく思っている」では、あんまりすぎる。
 ジョミーよりかは、ゼルやヒルマンに出会いたい。
 「なんだ、ブルーか?」と、「まだ若い」ゼルに、「チビになったな」とからかわれても。
 同じように若いヒルマンに会って、「今は子供かね?」と微笑まれても。
 あの二人ならば、きっと話が弾むから。
 大人と子供の間柄でも、ゼルとヒルマン、どちらと地球で再会しても。


 そういう出会いも楽しいかもね、と思ったけれど。
 ゼルやヒルマンの家に招いて貰って、遊びに行くのも楽しそうだけれど…。
(でも、ハーレイ…)
 話の中には「ハーレイ」が何度も出て来るだろうに、「いない」ハーレイ。
 生まれ変わって来てはいなくて、「あいつは、いないな」とゼルやヒルマンが言うのだろう。
 それは悲しいだろうと思う。
 「どうして、ハーレイはいないんだろう」と、家で涙を零したりして。
(…君の代わりに、ゼルやヒルマンがいるなんて…)
 ジョミーだったりするかもなんて、と考えただけで恐ろしい。
 本当に「いて欲しい」人がいなくて、他の誰かと地球にいるなんて。
 どれほど平和で素敵な地球でも、「ハーレイがいない」世界だなんて。
 そうなるよりかは、今の世界がいいのだと思う。
 ハーレイに会えない時があっても、ちゃんとハーレイは「いる」のだから。
 今日は駄目でも明日があるのだし、明後日も、その先も、ずっとハーレイと一緒だから…。

 

          君の代わりに・了


※ハーレイ先生の代わりに、他の誰かと生まれ変わって来ていたら、と考えたブルー君。
 ジョミーだとお詫び、ゼルやヒルマンなら楽しそうでも…。ハーレイと一緒がいいですよねv







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(今日は、会いには行けなかったが…)
 明日には行ってやれるといいな、とハーレイが思い浮かべた恋人。
 ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎でコーヒー片手に。
 まだ十四歳にしかならない、小さなブルー。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 今日のように「行ってやれなかった日」は、ブルーは酷く寂しがる。
 「ハーレイが来てくれなかったよ」と、鳴らなかったチャイムのことを思って。
 学校で顔を合わせていたって、其処では、あくまで教師と生徒。
 挨拶や立ち話などは出来ても、それだけのこと。
 恋人同士の会話は無理で、「元気そうだな」とか、どの生徒にも掛ける言葉だけ。
(俺があいつの守り役でも…)
 ソルジャー・ブルーの生まれ変わりだと、皆が知っているわけではない。
 単に「聖痕」を持っているブルーの守り役、再発を防ぐための人間。
 ブルーの身体に現れたのは、「ソルジャー・ブルーが受けた傷」だから。
 それを防ぐには、「キャプテン・ハーレイ」そっくりの「自分」が側にいるのが一番だから。
(キャプテン・ハーレイがいるってことは、其処はメギドじゃないってことで…)
 ブルーも安心するだろうから、聖痕が再発することはない。
 そういう読みで就いた「守り役」、本物のキャプテン・ハーレイなのに。
 ブルーの方だって、正真正銘、ソルジャー・ブルーだったのに。
(しかし、そいつは秘密だからな)
 他の人間がいるような場所で、ブルーを「ソルジャー・ブルー」としては扱えない。
 恋人同士の会話でなくても、前の生の思い出話でも。
 学校という場に相応しい話、そんなものしか交わせはしない。
 だからブルーは寂しがる。
 「今日はハーレイ、来なかったよ」と。
 きっと何度も、窓の向こうを眺めただろう。
 門扉の脇のチャイムが鳴るのを、首を長くして待ちもしただろう。
 「もうハーレイは来ない時間」だと、悟るまで。
 ブルーの部屋の壁の時計が、そういう時刻を指し示すまで。


 今日は会いには行けなかったし、ブルーは今頃、溜息をついているかもしれない。
 会えずに終わった「ハーレイ」の顔を思い浮かべて、ガッカリもして。
(…あいつ、まだまだチビだから…)
 俺よりも遥かに残念なのに違いない、と考えもする。
 大人の自分は、長く生きた分、「我慢すること」に慣れているもの。
 柔道と水泳の道で鍛えた子供時代も、何度も叩き込まれた「我慢」。
 辛抱だとか、根性だとか、そういった言葉で示された。
 「なんでも我慢だ」と、先輩や、その道の師匠から。
 それに比べれば、ブルーは「我慢」に慣れてはいない。
 今度も弱く生まれて来たから、両親に甘やかされて育って。
 我慢する代わりに我儘放題、そんな「小さな王子様」で。
(…酷い我儘は言わないんだがな?)
 あれが欲しいとか、これが欲しいとか、足をバタつかせて強請りはしない。
 本当に小さかった頃には、外出先で踏ん張ったこともあるらしいけれど。
(オモチャを買って欲しいんじゃなくて…)
 小さなブルーの場合は、食べ物。
 「食べ切れないわよ」と母に止められても、大きな綿菓子を欲しがるだとか。
 父が「無理だぞ」と言って聞かせても、沢山入ったフライドポテトを強請るとか。
(そうやって買って貰ったヤツを、食い切れなくて…)
 父や母が代わりに食べていたことも多かったと聞く。
 ブルーの我儘は「そんな程度」で、世間のヤンチャな子に比べれば可愛いらしいもの。
 「あれを買って」と、オモチャ屋の前で騒ぐわけではなかったから。
 手足をバタバタさせて叫んで、「欲しい」と泣きはしない子供で。
(それでも、やっぱり子供は子供で…)
 十四歳になった今でも、ブルーの「我慢」は足りてはいない。
 何かと言ったらキスを強請るし、叱った所で懲りないから。
(キスは駄目だと、何度言っても無駄なんだ…)
 我儘な上に我慢も足りん、と苦笑する。
 まるで修行がなっていないと、あれでは「我儘な王子様だ」と。


 我慢することが苦手なブルーは、今夜もきっと寂しいのだろう。
 「ハーレイに会えなかったよ」などと、心の中で繰り返して。
(…俺でも、残念なんだから…)
 会いたかったと思うんだから、と「思う」自分も、修行が足りない。
 ブルーの家に寄れずに帰って来たこと、それを「残念に思う」のだから。
 「今日は、そういう日だったんだ」と忘れる代わりに、こうして書斎で思い出すなら。
 コーヒーのカップを傾けながら、ブルーのことを思うなら。
(…俺でも、修行不足ってことか…)
 もっと鍛錬しないとな、と苦笑いする。
 ちょっとやそっとでは動じない心、それを手に入れなければ、と。
 「ブルーに会えずに終わる日」の方が、「会える日」よりも多いもの。
 毎日のように行けない以上は、「こんなものさ」と、サラリと流してしまいたい。
 家に帰って鍵を開けたら、それっきりだという風に。
 気ままな一人暮らしを楽しんだ頃に、サッと頭が切り替わるように。
(そうは思っても、これがなかなか…)
 上手くいかん、と心を離れてくれない恋人。
 小さなブルーと再会してから、心はブルーに「奪われた」まま。
 忙しい時には「忘れていたぞ」と、慌てることもあるけれど。
 片時さえも忘れないとは、言えない部分もあるのだけれど。
(あいつに出会っちまった時から、こんな具合で…)
 何もかもがブルー中心だよな、と自分でも可笑しくなるくらい。
 十四歳にしかならないブルーに、「全てを持っていかれる」なんて。
 来る日も来る日も、ブルーのことを思い続けているなんて。
(あいつと一緒に、生まれ変わって来たモンだから…)
 これからもずっと一緒だしな、とブルーとの絆に頷くけれども、そのブルー。
 前の生から愛していたから、青い地球の上にも二人で来た。
 当たり前のように「ブルー」と出会って、また恋に落ちて、これからも一緒。
 生まれ変わりとは、そういうものだと、自分でも思っているけれど。
 前のブルーと前の自分の「絆」だと信じているけれど…。


(…絆じゃなくって、偶然ってことも…)
 まるで無いとは言い切れないぞ、と不意に浮かんで来た考え。
 ブルーとの絆は「本物」だけれど。
 聖痕が証明しているけれども、生まれ変わりには「偶然」だってあるかもしれない。
 こうしてブルーと「生まれる」代わりに、他の誰かと生まれて来るとか。
 青い地球には違いなくても、街でバッタリ出会った相手が「別人」だとか。
(…向こうから、誰か歩いて来るな、と…)
 思いながら足を進めて行ったら、突然に戻って来る記憶。
 歩いて来た「誰か」とすれ違う瞬間、聖痕などは抜きにして…。
(あいつなんだ、と…)
 お互い、振り向くかもしれない。
 「お前なのか?」と声を掛けられて、こちらの方でも「お前なのか?」と。
 人違いなどは「よくある」ことだし、とにかく「声を掛けてみよう」と考えて。
(…そうして、間違いないと分かって…)
 意気投合して昔話で、「立ち話というのも、なんだから」と近くの店に入るだろうか。
 前の生での思い出話に興じるために。
 其処でお互い、名刺を出したり、「今じゃ、こういう仕事なんだ」と話したり。
(…ゼルに会うのか、ヒルマンなのか…)
 どちらもアルタミラ以来の古い友達、飲み友達でもあったゼルとヒルマン。
 ゼルの方なら喧嘩もしたし、ヒルマンとも徹夜で飲み明かしもした。
(あいつらと再会する人生も…)
 生まれ変わりが「偶然」だったら、可能性としては充分、あり得る。
 小さなブルーと出会う代わりに、再会した相手は「古い友達」。
 ゼルにしたって、ヒルマンにしたって、きっと楽しい人生になる。
 何かの折には飲みに誘って、誘われもして。
 お互いの家が離れていたって、招いたり、招かれたりもして。
(あいつの代わりに、ゼルやヒルマンか…)
 それも悪くはないんだがな、と思うけれども、どうだろう。
 ブルーはいなくて、ゼルやヒルマンだけだったなら。
 どんなに昔話をしようと、「ブルー」が何処にもいなかったなら。


 それは悲しい、と直ぐに気付いた。
 話の中には「ブルー」がいるのに、本物の「ブルー」がいなければ。
 何処を探しても、「ブルー」が見付からなかったら。
(そんな人生は、我慢出来んぞ…!)
 あいつの代わりに、他の誰かがいるなんて…、と「今の人生」に感謝する。
 いくら我慢に慣れてはいても、「ブルー以外の誰か」と出会って、過ごす人生は嫌だから。
 ブルーのいない人生なんかは、きっとつまらない人生だから…。

 

        あいつの代わりに・了


※ハーレイ先生が「ふと、考えた」こと。生まれ変わって出会う相手が他の誰かなら、と。
 ゼルやヒルマンでも楽しいでしょうけど、ブルー君がいない人生なんかは、嫌ですよねv









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(…明日はテストで…)
 今日は宿題も出てたんだよね、と小さなブルーが思うこと。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は来てくれなかったハーレイ、明日はどうなることだろう。
 毎日だって会いたいけれども、世の中、上手くいかないもの。
 週末はともかく、平日には。
 ハーレイの仕事が休みでない日は、「会えない日」が続くこともある。
 柔道部の指導が長引くだとか、放課後に会議が入るとか。
(明日のハーレイは、どうなんだろう…?)
 気になるけれども、こればっかりは分からない。
 ハーレイは、けして「予定」を話してくれはしないから。
 学校の中で顔を合わせても、「今日は帰りに寄るからな」とは言ってくれない。
 「予定通りに仕事が進むとは限らないから」が、その理由。
 行けるから、と約束したのに駄目になったら、「お前のお母さんにも迷惑だしな?」と。
 ハーレイが来た日は、夕食を用意するのが母。
 「せっかくの支度が無駄になったら悪いだろう」と、ハーレイは平日の約束をしない。
 夕食くらい、母なら何とでも出来るのに。
 多めに作ってしまったのなら、次の日の食事に役立てもして。
(それに、ハーレイが遅い時間に来たって…)
 夕食の支度が済んでいたって、母なら手早く追加で作る。
 「いくらでも出来ますから、遅くても家にいらして下さい」と、母は何度も口にするのに…。
(…ハーレイ、絶対、来ないんだよね…)
 夕食の用意に充分に間に合う時間しか。
 それを過ぎたら、もう来ない。
 今日だって、きっとそうだった。
 柔道部の方か、会議があったか、いずれにしたって「遅くなった」時間。
 この家に寄るには「遅すぎた」から、ハーレイは来ずに帰って行った。
 前のハーレイのマントの色の、濃い緑色の愛車を運転して。
 此処へは来ないで、自分の家へと真っ直ぐに。
 そうでなければ、他の先生たちと食事に行ったか、そういう一日だったのだろう。


 来なかった理由は分からないけれど、この家では会えなかったハーレイ。
 明日もどうなるか、未来はまるで見えては来ない。
(…テストと宿題、ハーレイの授業じゃないんだよね…)
 そっちだったら良かったのに、と思ってしまう。
 古典の授業で出た宿題なら、いつだって、うんと張り切るもの。
 「次回はテストをするからな」と言われた時にも、やはり同じに頑張る勉強。
 ハーレイに成果を見せたくて。
 「頑張ってるな」と褒めて欲しくて、人並み以上に。
(ぼくの成績なら、テスト勉強、しなくても…)
 大丈夫だろうと思っていたって、ついつい熱が入る前日。
 「明日の授業は、テストなんだよ」と、教科書やノートを机に広げて。
(…古典のテストでなくたって…)
 やはり同じに重ねる努力。
 クラスメイトは、「やらない」ことも多いのに。
 宿題が出ていることも忘れて、帰ったら遊びほうけたりして。
 もちろんテストがあるのも忘れて、酷い場合は、授業の直前になってから…。
(宿題も、テスト勉強も何もしていない、って…)
 慌てふためいて、右往左往なクラスメイトたち。
 「誰か、宿題をやってきた人は?」と辺りを見回し、やった人のを丸写し。
 それではテストに間に合わないから、悲劇になるのは目に見えている。
 教室の扉を開けて先生が「入って来た」途端に、あちこちで悲鳴。
 「もう少しだけ待って下さい!」と、ノートや教科書を広げたままで。
 あと五分だけあれば覚えられるだとか、「せめて三分、待って貰えませんか」とか。
(先生によっては、待ってくれることもあるけれど…)
 大抵は無駄で、「始めるぞ」と片付けさせられてしまう教科書。
 頼みの綱のノートにしたって、「早く仕舞え」と急かされるだけ。
 「やってこなかった、お前たちが悪い」と睨まれて。
 実際、宿題をやっていたなら、其処から問題が出るのだから。
 テストの予告もされていたのだし、「やってこない生徒」が悪いに決まっているのだから。


(…ぼくは宿題も、テスト勉強も…)
 下の学校の生徒の頃から、いつでも「きちんと」やっていた。
 お蔭で今でも成績優秀、ハーレイにだって褒めて貰える。
 「流石、お前だな」と、何かのはずみに。
 他の先生のテストで「いい点数を取った」時にも、ハーレイに聞こえていたりもして。
(だから、ハーレイのテストでなくても…)
 頑張らなくちゃ、と思うものだし、明日の分だって頑張った。
 「ハーレイが寄ってくれたら、忘れちゃうしね?」と、早い時間から。
 学校から帰って、おやつのケーキを食べたら、直ぐに。
(…ちゃんと宿題も、勉強もやって、待ってたのにな…)
 ハーレイ、寄ってくれなかったよ、と残念な気分。
 明日もどうだか分からないから、勉強の成果を「ハーレイに」見て欲しいのに。
 宿題は「ハーレイに」提出したいし、ハーレイのテストを受けたいのに。
(だけど、全然、関係なくて…)
 古典とは全く違う科目が、明日のテストと宿題の正体。
 なんとも悔しい気持ちだけれども、宿題にしても、テストにしても…。
(…学校の生徒をやってるんだし、仕事みたいなものだよね?)
 決められたことを「やってゆく」のも、「理解しているか」をテストされるのも。
 仕事だからこそ、殆どの生徒が背中を向ける。
 クラブ活動とかには、全力投球していても。
 好きなサッカーなどのスポーツ、そっちだったら、どんな努力も厭わなくても。
(みんな、勉強って聞いた途端に…)
 嫌そうな顔で、誰一人として喜びはしない。
 「もっと宿題を出して下さい」と頼む生徒はいなくて、テストでも同じ。
 これがクラブの活動だったら、「増やして下さい」と掛け合う生徒も多いのに。
 学校が休みの期間でさえも、進んで登校するというのに。
(やっぱり、仕事は嫌がられるよね…)
 少しも楽しくないんだろうし、と思い浮かべるクラスメイトたちの顔。
 クラブ活動なら、厳しい練習が続いていたって、皆、喜んで取り組むもの。
 それはクラブが「楽しいから」で、「好きなこと」が出来る時間だから。


 柔道部にしても、サッカーなどにしても、傍から見たなら「大変そう」。
 けれど「仕事」の「勉強」よりかは、遥かに楽しいものらしい。
 宿題やテストは忘れていたって、クラブを忘れる生徒はいない。
 「今日は部活だ」と張り切っていたり、遠征試合に向けて毎日頑張っていたり。
(…勉強は嫌われているんだけどな…)
 ぼくには、これしか無いみたい、と考え込む。
 クラブ活動をしていないからには、学校でするのは「勉強」だけ。
 つまりは「仕事をしに行く」わけで、家に帰っても、同じに「仕事」。
 今日のように宿題に取り組んでいたり、テスト勉強を頑張ったりと、色々と。
(…ぼくには、仕事しか無いけれど…)
 別に勉強は嫌いじゃないし、と「勉強嫌いでなくて良かった」とホッとする。
 もしも「勉強嫌い」だったら、どんなにつまらなかっただろう。
 「学校に行く」ということが。
 宿題が出たり、テストがあったりすることが。
(…ハーレイが先生をしてたって…)
 きっとやっぱり、宿題もテストも、苦手だったに違いない。
 ハーレイが家に来てくれる度に、せっせと頼んでいたかもしれない。
 「今日の宿題、出来てないんだよ」と、「提出期限をもっと延ばして」と。
 そうでなければ、ハーレイにペコリと頭を下げていたろうか。
 「ぼくの代わりに、宿題をやって欲しいんだけど」と、その宿題を出したハーレイに。
 テストをすると言われたのなら、「山を教えて」と強請るとか。
 「このままだったら、ぼくは零点になっちゃうよ」と、切実な顔で。
 本当に零点を取りそうなだけに、ハーレイの前で土下座までして。
 「ぼくに零点、取らせたいの?」と、涙ぐみさえするかもしれない。
 恋人に恥をかかせたいのかと、泣き落としで。
(……うーん……)
 なんという情けない光景だろうか、と想像してみて零れた溜息。
 訪ねて来てくれたハーレイと二人で過ごす時間に、土下座で「お願い」。
 テストの山を教えてくれとか、「代わりに宿題をやって欲しい」だとか。


(…そうならなくて良かったよね…)
 きっと百年の恋も冷めるに違いない、と思ってしまう。
 生徒の仕事は「勉強」なのに、それを「やらない」恋人なんて。
 ハーレイは教師で、今の自分は「勉強の成果」を見て貰う方の立場なのに。
(…前のぼくの仕事は、ソルジャーで…)
 白いシャングリラの仲間の命を、懸命に守ることだったけれど。
 それに比べれば勉強なんかは、「仕事」の内にも入らないのだけれど…。
(…今のぼくの仕事も、うんと大事で…)
 やらなかったら、ハーレイの前で大恥をかいて、恋もおしまいになりそうな感じ。
 「また勉強をやってないのか」と、「お前の土下座は何度目なんだ?」と呆れられて。
 だから「仕事」は、きちんとしよう。
 ハーレイのテストや、ハーレイが出した宿題などとは違っても。
 生徒の間は、「勉強すること」が仕事だから。
 ハーレイに呆れられたくなければ、今の仕事も、きちんとやるのが大切だから…。

 

          今のぼくの仕事・了


※ハーレイが出した宿題じゃないよ、とブルー君が残念に思ったこと。テスト勉強も。
 けれども、今のブルー君の仕事は「勉強」。ハーレイ先生の前で大恥は困りますよねv









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