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(…今のあいつなあ…)
 どうしようもなくチビなんだがな、とハーレイが思い浮かべたブルーの姿。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れた、コーヒー片手に。
(チビでも、確かに俺のブルーだ)
 失くしちまった時に比べりゃチビの子供でも、と大きく頷く。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が愛したブルー。
 青い地球の上に生まれ変わって、また巡り会えた愛おしい人。
 十四歳にしかならないブルーは、前の自分が別れた時より、ずっと小さい。
 あと四年くらいは経ってくれないと、あの美しく気高い姿は、戻っては来ないことだろう。
 「ソルジャー・ブルー」と呼ばれた時代の、前の自分が恋をした人は。
(…そうは言っても、前の俺は、だ…)
 自分では自覚していなかっただけで、もっと前から恋していた。
 多分、アルタミラで初めて出会った時から、まだチビだった前のブルーに。
 年だけはかなり上だったけれど、見た目も中身も、幼いままだった頃のブルーに。
(だから今でも、チビのあいつに…)
 やっぱり恋しているんだろうな、と可笑しくなる。
 前のブルーと同じ背丈に育つまでは、と唇へのキスを禁じていても。
 ブルーが口付けを強請ってくる度、「駄目だ」と叱り飛ばしていても。
(…前のあいつと、ウッカリ重なっちまったら…)
 自分でも歯止めが利かなくなるから、そういう決まりを作っただけ。
 なにしろブルーはブルーなのだし、恋した人には違いない。
 今のブルーが小さくても。
 見た目通りに十四歳の子供で、前のブルーより遥かに幼くても。
(……今は待つしか無いってわけだ)
 チビのあいつが育つのを…、とコーヒーのカップを傾ける。
 まだ何年も待たされるけれど、その間だって至福の時だ、と。


 これから育ってゆくブルー。
 再会した日から少しも育っていないけれども、いつかは育つ時が来る。
 そうなったならば、一日ごとに、前のブルーに近付くだろう。
 会う度に、ハッとするほどに。
 「俺のブルーだ」と、前のブルーの姿が鮮やかに蘇るほどに。
 日に日に育つブルーを見るのは、きっと素敵に違いない。
 前の自分もそれを目にした筈なのだけれど、まるで覚えていないから。
(…記憶が抜けているんじゃなくて…)
 意識して見ちゃいなかったんだ、と苦笑する。
 あの頃は、多忙だったから。
 とうにキャプテンの任に就いていた上、シャングリラという船の中だけでの日々。
 余裕のある暮らしを心がけていても、それには自然と限界があった。
 今の自分なら、こうして毎日、寛ぎの時を持つことが出来る。
 週末は仕事も休みになるから、ブルーと過ごすことだって。
(だが、前の俺は…)
 そういうわけにはいかなかったし、ブルーだけを見てはいられなかった。
 ついでに恋の自覚が無いから、会っても注目してなどはいない。
(…前のあいつが、ソルジャーではなかったとしても…)
 ソルジャーとキャプテンという関係でなくても、状況は変わらなかっただろう。
 何処かでバッタリ顔を合わせても、友達に会うのと同じこと。
 食堂で一緒に食事をしたって、他愛ない話に興じるだけ。
 前のブルーの顔を、姿を、注意して見ることなどは無い。
 「親しい友達」なのだから。
 一番古い友達なだけで、恋人だとは思っていないから。
(…そして、あいつが育ってから…)
 やっと恋だと気付くわけだし、それまでの姿を覚えてはいない。
 どんな具合に蕾が綻び、ふわりと花を咲かせたのか。
 艶を含んだ柔らかな花弁、それが蕾から覗くようになったのは、いつなのかを。


 けれど、今度の自分は違う。
 ブルーへの恋を最初から自覚しているのだから、見逃さない。
 まだ十四歳にしかならないブルーが、前のブルーと同じ姿に育つのを。
 少しずつ大人び、背丈も伸びて、日毎に変わってゆくだろう時を。
(…実に贅沢なお楽しみだな)
 毎日、写真を撮りたいほどだ、と思うくらいに待ち遠しい時。
 今のブルーが育ってゆくのを、胸をときめかせて眺められる日々。
(自制するのは大変だろうが、それも醍醐味というヤツだ)
 素晴らしい御褒美が貰えるんだし、と顔が綻びそうになる。
 いつかブルーが育った時には、その唇にキスをする。
 「俺だって、ずっと待たされたんだ」と、もったいぶって。
 高鳴る鼓動を懸命に隠して、大人の余裕たっぷりに。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が失くした姿を、目の前にして。
(本当に、俺のブルーなんだ、と……)
 きっと涙が零れてしまうに違いない。
 ようやく戻って来てくれたブルーの姿に、胸が、心が、一杯になって。
 「俺が失くしたブルーなんだ」と、ブルーの身体を、力の限りに抱き締めて。
(今だって、ブルーはブルーなんだが…)
 やっぱり何処かが違うんだよな、と自分でもハッキリ自覚はある。
 書斎の机の引き出しの中に、大切に仕舞ってある写真集。
 前のブルーの一番有名な写真が表紙の、『追憶』というタイトルの本。
 表紙に刷られたブルーを見る度、今も悲しみに囚われてしまう。
 「その人」を自分は失くしたから。
 憂いを秘めた瞳をしていた、美しい人を。
 誰よりも気高く、強かったブルー。
 ミュウの未来を拓くためだけに、その身を、命を捨て去った人を。


(…あの時の姿に育つまでは、だ…)
 前のブルーを本当の意味で「取り戻した」とは言えないだろう。
 現にこうして、「前のブルー」を想い続ける自分がいるから。
 引き出しの中から写真集を出しては、表紙のブルーに心で語り掛ける自分が。
(……あの姿が戻って来るまでは……)
 胸の痛みも消えないのだろう、と前の自分の苦しみを思う。
 「どうして一人で逝かせたのか」と、取り残された悲しみの中で生き続けた日々。
 そうするしか無かったと分かっていてなお、生ける屍だった歳月。
 今でも忘れることは出来なくて、それを消すには、あの姿のブルーを待つしかない。
 十四歳にしかならない今のブルーが、その身に秘めている姿。
 いつか大きく育つ時まで、目にすることは出来ないブルー。
(…もう一度、あいつに出会わないとな…)
 何年待つことになろうとも、と思うけれども、果たして、それは正しいだろうか。
 前の自分が失くした通りの、ブルーの姿に巡り会うこと。
 「ソルジャー・ブルー」の姿そのまま、生き写しの人に会うということ。
(……今の俺だと、確実に会うことが出来るんだろうが……)
 チビのブルーが育った時には、必ず「そうなる」と分かってはいる。
 前のブルーとそっくり同じな銀色の髪と、赤い瞳を持ったアルビノ。
 誰が見たって「小さなソルジャー・ブルー」そのものな姿の、今のブルー。
 だから期待をしてしまうけれど、そうでなければ、どうだったろう。
 今のブルーが、前の姿と違っていたら。
 銀色をした髪の代わりに、金色の髪を持っていたとか。
 赤い瞳をしてはいなくて、海の色の水色だったとか。
(…前のあいつが、成人検査を受ける前には…)
 その色だったと聞いているから、まるで有り得ない話ではない。
 髪や瞳の色だけではなく、姿からして違っていたかもしれない。
 前のブルーとは似ても似付かない、全く別の面差しになって。
 体格さえも別物になって、見る影もないほど違ったとか。


 もしも、そういうブルーに会ったら、どうしただろう。
 ちゃんと記憶は戻って来たのか、それとも戻らなかったのか。
(…聖痕も出て来なかったなら…)
 それが「ブルー」だと分かりはしなくて、右と左に別れただろうか。
 同じように教室で巡り会っても、ただの教師と生徒のままで。
 ブルーが学校を卒業したなら、二人の縁も切れてしまって。
(……うーむ……)
 しかし、と心の奥がざわめく。
 ブルーが違う姿であっても、自分は同じに「見付ける」だろう、と。
 前の自分の記憶が戻るよりも前に、選んで買った愛車の色。
 「白い車は好きだが、嫌だ」と、前の自分のマントと同じ濃い緑色の車を買った。
 白い車は、白いシャングリラのようだから、と自分でも気付かない内に。
 「ブルーがいないのに、白い車を運転したって意味が無い」と。
(…それと同じで、あいつに会ったら…)
 きっと自分は一目で恋に落ちるのだろう。
 「俺が探していた人だ」と。
 前のブルーとはまるで違って、可愛らしくさえなかったとしても。
 柔道部に似合いのゴツイ生徒で、わんぱく小僧だったとしても。
(…でもって、その時…)
 そんなブルーと同じ学年に、銀色の髪で赤い瞳の子がいたら。
 時の彼方で失った人と、面差しの似た生徒がいたら…。
(恋をするか、って訊かれたら…)
 答えは「否」だ、と瞬時に言える。
 前の自分が恋をしたのは、姿ではなくて、ブルーの魂。
 だから記憶があっても無くても、「あの魂」を持った人に惹かれる。
 姿ではなくて、その中身に。
 互いの記憶がどうであろうと、互いに、心で求め合って。


(…姿だけなら…)
 好きになったりしやしないさ、とカチンと弾いたマグカップ。
 「たとえ絶世の美人でなくても、俺はいいんだ」と。
 小さなブルーが前と同じに育ってゆくのは、楽しみではある。
 それを見るのも幸せだけれど、まるで違ったブルーに出会って、恋に落ちても…。
(間違いなく、俺は幸せなんだ)
 あいつと一緒にいられればな、と湛えた笑み。
 姿だけなら、俺は絶対に惚れやしない、と。
 前のブルーにそっくりな人が、今、目の前に現れても。
 小さなブルーの方の姿は、前のブルーに似ていなくても。
 前の自分が恋をしたのは、「前のブルー」が持っていた、あの魂だから。
 いくらそっくりな姿であっても、魂が別なら、けして選びはしないのだから…。

 

            姿だけなら・了


※いくら前のブルーにそっくりな人でも、魂が違えば惚れはしない、と思うハーレイ先生。
 そっくりな人が目の前にいても、ブルーの魂を持っている人の方に惹かれるのですv











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「あーあ…。お姫様なら良かったのにな」
 生まれ変わって来るのなら、と小さなブルーが零した溜息。
 ハーレイと過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が載ったテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
 お姫様だって、とハーレイは耳を疑った。
 何かを聞き間違えただろうか、と鳶色の目を大きく見開いて。
「お姫様って…。お前、そう言ったか?」
「うん、言った」
 お姫様に生まれて来たかったよね、と再び紡ぎ出された言葉。
 新しい命を貰うのだったら、そっちの方が良かったかも、と。


(……お姫様だと……?)
 こいつは気でも違ったのか、とハーレイの頭も変になりそう。
 よりにもよってお姫様とは、あまりにも信じられないから。
(お姫様っていうのは、お姫様だよな…?)
 王様とかの娘で、高貴な生まれの…、と懸命に整理する思考。
 他には「お姫様」などいないし、それ以外には無いけれど…。
「おい、念のために訊きたいんだが…」
 お姫様っていうのは何だ、とブルーに確認することにした。
 もしかしたら、他にもあるかもしれない「お姫様」。
 例えば学校の生徒の間で、流行している遊びだとか。
(そっちの方なら、分からんでもない)
 何かのごっこ遊びだとかな、と大きく頷く。
 王様ゲームというものもあるし、お姫様と名のつく何か、と。


 きっとそういうものだろう、と考えた「答え」。
 お姫様という何かになったら、お得なことが起こるとか。
 けれど、ブルーは真剣な顔で、「お姫様だよ」と繰り返した。
 「白雪姫とか、色々いるでしょ、お姫様って」
「本物のお姫様なのか!?」
 なんだって、お姫様なんだ、とハーレイは仰天するしかない。
 お姫様に生まれて来たかった、などと言われても…。
(…おいおいおい…)
 今の時代に、お姫様なんぞはいないんだが、と、まず思う。
 そもそも王族などはいないし、お姫様に生まれようがない。
 だから…。


「お前なあ…。お姫様って、何処にいるんだ?」
 今の時代に、と冷静に指摘してやった。
 ブルーの頭の中身はともかく、その点は言っておかなければ。
「いないってことは、知ってるってば」
 でも…、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
 「お姫様に生まれたかったんだよ」と。
 同じに生まれ変わって来るなら、お姫様の方が良かった、と。
 お姫様の方が、絶対、幸せになれた筈だ、と主張するブルー。
 「今のぼくより、ずっと幸せ」と、「お姫様がいい」と。
「…お姫様ってヤツは、意外と不自由なんだぞ?」
 城から自由に出られやしないし、大変だぞ、と教えてやった。
 「お前の方が、ずっと自由で、いい暮らしだと思うがな」と。
 魔女に呪いもかけられないし、攫われもしない、と。
 そうしたら…。


「でも…。魔女の呪いにかかった時って…」
 王子様のキスが貰えるんだよ、とブルーは瞳を輝かせた。
 「白雪姫も、眠り姫も、そう」と。
 「お姫様には、王子様のキスが必要でしょ?」と。
「ちょっと待て! すると、お前は…」
 キスが目当てで、お姫様になりたいのか、と呆れたハーレイ。
 毒のリンゴで死んでしまおうが、百年眠り続けようが、と。
「そうだけど? だって、王子様のキスが貰えて…」
 うんと幸せになれるもんね、とブルーは夢を見ているから…。
「分かった、好きにするといい」
 頑張って、お姫様になれ、と今日は放っておくことにした。
 いつになったら気付くだろうか、と内心、ほくそ笑みながら。
 「王子様が俺とは限らないぞ」と。
 ブルーがお姫様になっても、王子が誰かは謎だから。
 ヒキガエルかもしれないのだし、モグラの王子ということも。
 なにしろ、生まれ変わりだから。
 別の人生を歩む以上は、王子様も別かもしれないから…。




          お姫様なら・了









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(竜宮城かあ……)
 今でも何処かにあるのかな、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…ずっと昔は、海の底に…)
 竜宮城があったんだよね、と幼い頃に読んだ絵本が頭の中に蘇る。
 苛められていた亀を助けた、心の優しい浦島太郎。
 その彼の前に、再び亀が現れた。
(竜宮城にお連れします、って…)
 助けて貰った恩返しにと、亀は浦島太郎を背中に乗せて、海の中へと。
 普通だったら溺れるだろうに、大丈夫だった浦島太郎。
 亀と一緒にどんどん潜って、深い海の底に辿り着いたら…。
(…とても立派なお城があって…)
 それは美しい、乙姫様が迎えてくれた。
 毎日、美味しい御馳走を食べて、鯛やヒラメの舞を眺めて楽しく暮らして…。
(素敵だよね?)
 竜宮城が今もあるのなら、と海の底へと飛んでゆく思考。
 一度は滅びた地球だけれども、今では青い海がある。
(人間が、二度と滅ぼしてしまわないように…)
 色々な厳しい決まりがあるから、それは美しい、今の地球の海。
 公害なんかはありもしなくて、水は綺麗に澄み切っている。
 だから今なら、竜宮城も…。
(誰も知らない、海の底の何処かに…)
 堂々と聳えているかもしれない。
 なんと言っても、乙姫様が住むお城だから。
 地球が死の星だった時代も、竜宮城は生き延びただろう。
 魚たちが消えてしまった海から、遠く離れて。
 お城ごと別の世界に避難し、何事も無かったかのように。


(うん、きっとそう…)
 元から、別の世界だものね、と考える。
 深い海の底にあるというのに、浦島太郎は溺れなかった。
 亀の背中に乗っかっただけで、海の中でも呼吸が出来て、深く潜って行けた彼。
(…亀がシールドしていたのかも…)
 ミュウなら簡単に出来るものね、と思うけれども、今の自分には出来ないシールド。
 サイオンがすっかり不器用になって、思念波もろくに紡げないから。
(……亀にも負けちゃう……)
 ちょっぴり悔しい、と瞬きをして、思考を竜宮城に戻した。
 海というのは、深く潜るほど、水圧が上がってゆく所。
 前の自分も、アルテメシアの海に潜る度、それを実感していたもの。
(おまけに、深くなってゆくほど、光が届かなくなって…)
 海の中は暗くなるのだけれども、竜宮城は闇に紛れてはいなかった。
 亀と出掛けた浦島太郎は、肉眼でそれを認識したから。
 「なんと立派なお城だろう」と、感心しながら到着したのだから。
(…ライトアップをしてたにしたって、海の底だし…)
 当時の人間が使用していた、灯りの類は使えない。
 蝋燭も、油を使う灯りも、水の中では消えてしまうから。
(それに水圧も凄くって……)
 昔の建築技術などでは、海底では、とても耐えられはしない。
 一瞬の内にペシャンコになって、瓦礫の山になってしまうと思う。
(…だから絶対、別の世界にあったんだよ)
 海の中で繋がっていただけで…、と考える竜宮城の在った場所。
 それなら全ての謎が解けるし、時間の流れが違うのも分かる。
 浦島太郎が竜宮城で過ごす間に、陸の上では、長い長い時が経っていた。
 別の世界に行っていたなら、そういうこともあるだろう。
 浦島太郎が知らなかっただけで、不思議でも何でもないことだから。


 竜宮城が別の世界に在ったのならば、地球が滅びても無関係。
 魚影が消えた海を切り離して、青い海が再び蘇る日まで、何処かに避難。
 別の世界が亜空間なら、其処にしっかり留まって。
 鯛もヒラメも、乙姫様も、違う時間の世界で暮らして…。
(…SD体制の時代が、六百年でも…)
 竜宮城なら、一週間にも満たない時間だったのだろうか。
 浦島太郎が戻って来た時、三百年経っていたのなら。
(…地球が滅び始めた頃から、避難してても…)
 青く蘇った地球に戻るまでの間は、きっと一年も無かっただろう。
 そして今では、海の底に深く潜って行ったら…。
(竜宮城に出会えるのかも…)
 ちゃんと戻って来てそうだものね、と広がる夢。
 運良く竜宮城に行けたら、乙姫様に会えるだろうか、と。
(……御馳走は、沢山食べられないから……)
 鯛やヒラメの踊りを眺めて、お城の中を案内して貰う。
 浦島太郎が生きた頃から、何処も変わらない、竜宮城を。
 昔の人の夢の世界を、海の底にある夢のお城を。
(…楽しそうだよね…)
 行ってみたいな、と膨らむ憧れ。
 遠い昔から海の底にある、竜宮城を眺めてみたい、と。
(玉手箱さえ、開けなかったら…)
 帰って来たって年は取らないし、要らない心配。
 それにサイオンが不器用とはいえ、ミュウには違いないのだから…。
(うっかり玉手箱を開けても、年は取らないよね?)
 チビのまんま、と考えたけれど、ほんの数年なら、年を取ってもいいかもしれない。
 前の自分と、同じ背丈になれるまで。
 そっくり同じ姿に育って、ハーレイとキスが出来る年まで。


(うん、いいかも…)
 亀が迎えに来ないかな、と夢はますます膨らんだ。
 竜宮城を眺めに出掛けて、ついでに、ちょっぴりズルをする。
 お土産に貰った玉手箱を開けて、ほんの少しだけ大きく育って…。
(ハーレイにキスをして貰うんだよ)
 まだ結婚は出来ないけれど、と指を折って自分の年を数えた。
 結婚できる十八歳には、足りない年齢。
 そうは言っても、ハーレイとの約束は約束だから…。
(唇にキスはして貰えるよね!)
 キスのその先のことだって、とワクワクしてくる。
 もしも竜宮城に行けたら、沢山の夢が叶いそう。
(…何処に行けば、亀に会えるかな?)
 それに恩返しをして貰うには、亀を助けてやらないと駄目。
 苛められている亀がいるとしたなら、夏休みの海水浴場だろうか。
(小さな子供は、苛めてるつもりがなくっても…)
 亀にとっては迷惑なことをしそうなのだし、其処が可能性が高そうな感じ。
 夏休みでなくても、遠足の子でもやるかもしれない。
(……海かあ……)
 家からは少し遠いよね、と残念な気分。
 歩いてすぐの所にあるなら、毎日だって通うのに。
 苛められている亀を助けて、竜宮城に行きたいから。
(…うーん…)
 当分、チャンスは来そうにない。
 ずいぶん先になっちゃいそう、と溜息を零して、気が付いた。
 竜宮城に出掛けたならば、時間の流れが変わるのだ、と。
 ほんの数日過ごしただけでも、何百年と経ってしまうのだった、と。


 浦島太郎が戻った時には、三百年も経っていた地上。
 それなら、竜宮城まで行った自分が、すぐに地上に戻っても…。
(……何年も経ってしまってる?)
 玉手箱を開けて、前の自分と同じ姿に育つ名案。
 それは名案などではなくて、「本当に流れた時」を取り戻すだけかもしれない。
 今の学校を卒業するのに、かかるだけの時間が流れた後で。
(…それだけで済めばいいんだけれど…)
 何十年も経っていたなら、どうすればいいというのだろう。
 その間、自分は、この世界から消えている。
 竜宮城に行ったことなど、誰一人として知らないのだから…。
(行方不明になっちゃうわけ!?)
 何処を探しても見付からないなら、そういう扱いになっている筈。
 両親は懸命に探し続けて、ハーレイだって…。
(ブルーは何処に消えたんだ、って…)
 休みになったら、手掛かりを求めて走るのだろう。
 最後に海辺にいたのは確かで、其処から先が分からなくなった恋人の。
 今のハーレイは泳ぎがとても得意なのだし、海に何度も潜ってゆきそう。
 専門の人たちが探した後でも、何か見付かるかもしれないから。
 前の生からの絆がある分、「もしかしたら」と望みをかけて。
(…本当に、ぼくが消えちゃったなら…)
 ハーレイは、どんなに慌てるだろうか、最初の一報を聞いたなら。
 「海に出掛けたまま、いなくなった」と、両親から知らせが行ったなら。
(……真っ青になって……)
 ガレージに走って愛車に飛び乗り、真っ直ぐに海を目指すのだろう。
 「ブルー」が最後に目撃された海岸まで。
 其処に行ったら何かあるかと、捜索の人を手伝おうと。
 きっと、学校には届けを出して。
 「守り役をしている、ブルーが行方不明なので」と。


(…でも、そうやって探しても…)
 竜宮城に行った「ブルー」は見付からない。
 ハーレイが何度、海に潜っても、竜宮城に出会えはしない。
 別の世界に聳えるお城は、其処への道が開かない限り、人間の目には見えないから。
 もちろん、竜宮城で楽しんでいる「ブルー」の姿も。
(……ハーレイを置いて、消えちゃったなら……)
 いつか自分が戻って来るまで、ハーレイは嘆き悲しむのだろう。
 「ブルーは何処へ消えたんだ」と。
 「どうして一緒に行かなかった」と、一人で海に行かせたことを悔やみ続けて。
 竜宮城を目指した「ブルー」は、最初から「そのつもり」だったのに。
 一人でコッソリ出掛けて行って、玉手箱でちょっぴりズルをしよう、と。
(…でも、ハーレイは、そんなこと…)
 まるで全く知らないのだから、ただ泣き暮らすことしか出来ない。
 前のハーレイが、そうだったように。
 遠く遥かな時の彼方で、「前のブルー」を失くしてしまった時と同じに。
(……そうなっちゃうんだ……)
 チビの自分が竜宮城に出掛けたら。
 ハーレイの前から消えてしまって、何十年も経ってしまったならば。
(…ほんの数年だったとしても…)
 学校を卒業できる年まで、上手い具合に経ったとしたって、陸では数年。
 その間、ハーレイは「消えてしまったブルー」を探して、何度も何度も泣くのだろう。
 「どうしてなんだ」と。
 「今度もブルーを失くしちまった」と、前のハーレイの分までも。
(…消えちゃったなら…)
 そうなっちゃうよね、と分かった以上は、竜宮城には、もう行けない。
 運良く、亀に会えたって。
 「背中にどうぞ」と言って貰えて、海の底にある、夢のお城に招待されたって…。

 

           消えちゃったなら・了


※竜宮城に行ってみたいと考えたブルー君。玉手箱を使えば、大きく育つことも出来そう。
 けれど、竜宮城に行っている間、地上では行方不明。ハーレイ先生が泣いちゃいます。












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(神隠し、か……)
 そういう言葉があったっけな、とハーレイが、ふと思い出したこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れたコーヒー、それを片手に。
(うんと昔の言葉だよなあ…)
 前の俺が生きた頃よりもな、と「神隠し」という言葉を追ってゆく。
 それは今よりずっとずっと昔、人間が地球しか知らなかった時代のもの。
 地球が滅びる日が来るなどとは、誰も思いもしなかった昔。
 この地球の上にあった小さな島国、日本で、いつしか生まれた言葉。
(…今の俺が、此処に生まれていなけりゃ…)
 知らなかったかもしれない、昔の人たちが恐れた現象。
 今の自分が住んでいる場所は、かつて日本が在った辺りに位置している。
 だから日本の文化を色々と復活させて、日本を名乗ったりもする。
 其処の学校で古典の教師をやっているから、自然と詳しくなる言葉。
(ついでに、俺の趣味もあるよな)
 地球が滅びる前の文化を追うってのは、と眺める書斎の蔵書たち。
 前の自分の地球への憧れが、そうさせたろうか。
 記憶が戻ってもいない頃から、昔の文化が好きだった。
 日本でなくても、他の地域の習慣などでも。
(……おっと、脱線しちまった)
 神隠しだっけな、と元へと戻した思考。
 前の自分が、聞いたことさえ無かった言葉。
(いつの間にか、人が消えちまうんだ)
 何の前触れもなく、突然に。
 消え失せた人が何処へ行ったか、手掛かりさえも見付からない。
 どんなに懸命に探し回っても、まるで全く。
 この地上から消えてしまって、天に昇ったかのように。


(…手掛かりは無いし、見付からないし…)
 きっと神様が連れ去ったのだ、と昔の人々は考えた。
 神と言っても、良い神かどうかは分からない。
(浦島太郎の竜宮城みたいに…)
 素晴らしい所へ連れてゆかれても、残された人の目から見たなら「神隠し」。
 浦島太郎は「戻って来るまで」、神隠しだと思われていただろう。
 ある日、突然、消えてしまって、戻って来なかったのだから。
 三百年もの長い年月、地上にいなかったのだから。
(…竜宮城なら、ラッキーなんだが…)
 他にも色々、そういう素敵な場所はある。
 招かれるままについて行ったら、人の世界とは違った所で、歓待される昔話。
 其処へ出掛けて楽しんでいても、傍目には「神隠し」なのだけれども…。
(…鬼や天狗に攫われることも…)
 あるんだよな、と「悪い神」の方を挙げてみる。
 昔の人が恐れていたのも、そちらの方の「神隠し」。
 悪い神の方に連れ去られたなら、どうなるか分からない運命。
 二度と帰って来られない上、攫われた先で、どうされるかも分からない。
(……最悪、食われちまうってことも……)
 相手が鬼なら、有り得るだろう。
 見目良い女子供だったら、鬼の屋敷で使用人にされたり、妻になるということもある。
 けれど、そうではなかったならば、攫われてすぐに食われてしまいかねない。
(でなけりゃ、美味いものを食わせて…)
 太らせて美味しく育て上げてから、おもむろに包丁を研ぐだとか。
(…あるんだよなあ、そういう話も)
 だから誰もが怖がったんだ、と昔の人の心を思う。
 もしも神隠しに遭ってしまえば、もう戻っては来られない。
 戻れないだけならば、まだマシだけれども、命が無いこともあるのだから。


 幼い子供が神隠しに遭うことが無いよう、昔の人々は注意していた。
 「あの山には、決して行かないように」といった具合に、言い聞かせて。
 神隠しが多い場所を教えて、其処には決して近付くな、と。
(……だからだな……)
 文明が進んだ後の時代は、神隠しは「事故だ」とされていた。
 深い森や山に入った子供や、大人が道に迷って消える。
 あちこちに「目に付きにくい」深い穴があるとか、崖から落ちてそのままだとか。
 まるで痕跡が残らなければ、その人は「消えた」と思われるだろう。
 実際は穴に落ちていたって、崖下に転落していたって。
(…それと、もう一つ…)
 後の人々が考えたことは、「人攫い」というものだった。
 攫ってゆくのは神ではなくて、同じ人間。
 女性や子供を攫って行っては、遠い所で売り飛ばす。
 なにしろ昔は、人権などは問題にされなかったから。
 人権という概念さえもが、まだこの国には無かった時代。
 其処では「人」も商品になった。
 女性だったら女郎屋に売って、子供は金持ちの家などの使用人として売り渡す。
 どちらも元手がかからない上に、上手く売れれば大金が入る。
(…人目に付かない場所を選んで…)
 素早く攫って、後は遠くへ連れ去るだけ。
 顔見知りの者が一人もいなくて、高い値段で売れる所へ。
(その頃に高く売れる場所なら、都とか…)
 栄えている宿場町だとか。
 「攫って来たのだ」と分かっていたって、それを承知で買う者はいる。
 商品が、そう訴えたって。
 涙を流して「家に帰りたい」と、家のある場所を告げたって。


(……なんとも酷い話だよなあ……)
 人攫いの方の神隠しはな、と竦めた肩。
 事故なら諦めもつきそうだけれど、売られたのでは、たまるまい。
 残された家族の方はともかく、売られてしまった本人が。
(今の時代じゃ、考えられんな)
 人を攫って売るだなんて、と思った所で気が付いた。
 「売られる」だけ、まだマシなのだ、と。
 たとえ女郎屋に売られようとも、救いの道はゼロではない。
 芸を磨いて売れっ子になれば、身請けして貰えることだってある。
 そうなったならば、晴れて自由の身になれる上に、運が良ければ妻にもなれた。
 使用人として売られた子供も、其処で自分を磨いたならば…。
(下っ端から、うんと出世して…)
 店を任されたり、暖簾分けなどで独立できる道も開ける。
 最初は「売られて来た」身の上でも、同じ人間なのだから。
 キラリと光るものさえあったら、誰かの目にも留まるのだから。
(それに比べて、前の俺たちは…)
 売られることさえ無かった、ミュウ。
 もしもミュウだと判明したなら、待っていたものは「処分」だけ。
 その場で撃たれておしまいになるか、研究施設に送られるか。
(…どっちにしたって、死ぬしかないんだ)
 研究施設というのは名ばかり、人体実験をする場所だったから。
 過酷な実験を繰り返されて、耐えられなくなれば死んでゆく。
 ミュウは「人ではなかった」から。
 人間扱いされていなくて、人権などあろう筈もない。
 そして「処分」の道を歩んだミュウは、その存在を抹殺された。
 あたかも「神隠し」のように。
 育英都市から、ある日、ふっつり姿を消して。


 機械が統治していた時代に、ひそかに起こった「神隠し」。
 誰もそうとは気付いていなくて、消えたことさえ、誰も知らなかった。
 処分されたら、周りの記憶は処理されるから。
 機械に都合のいいように書き換え、「最初からいなかった」かのように。
(…本物の神隠しより、酷いってモンだ)
 なんとも酷い時代だった、と今でも背筋が寒くなる。
 前の自分は、よっぽど運が良かったのだ、と。
 神隠しに遭って消えたけれども、生き延びて、最後は地球にまで行けた。
 前のブルーに出会ったお蔭で、命拾いして。
 星ごとメギドで燃える所を、宇宙船で辛くも脱出して。
(でもって、今では、もっと素敵で…)
 最高の場所で暮らしてるんだ、と前の自分に教えたいような気持ち。
 青い地球まで来たのだから。
 前の自分が目にした時には、死の星だった地球が「青い」時代へ。
(しかも、あいつも一緒だってな)
 ちゃんとブルーもいるんだぞ、と嬉しくなる。
 十四歳の子供になってしまっても、ブルーはブルーに違いない。
 それにいつかは大きく育って、前の自分が愛したブルーと…。
(瓜二つになって、俺の所へ嫁に来るんだ)
 今の時代は、もう神隠しの心配も無いし、のんびりと待っていればいい。
 小さなブルーが育つのを。
 前のブルーと同じ背丈になるまで育って、プロポーズできる時が来るのを。
 機械が治める歪んだ時代は、とうの昔に終わったから。
 平和になった今の時代に、神隠しなどは、もう無いのだから。


(…うん、消えちまう心配は無いぞ)
 安心だよな、と思ったけれども、どうだろう。
 遥かな昔の神隠しの方は、本当に…。
(事故と人攫いだけ、だったのか…?)
 浦島太郎の例もあるしな、と首を捻った。
 他にも似たような話があるなら、神隠しの中には、ごく僅かだけ…。
(…別の世界に迷い込んだ、ってヤツがあるかも…)
 何かのはずみに扉が開いて、と頭に浮かんだワープ航法。
 あれは時空を飛び越える時に、亜空間へとジャンプしてゆく。
 ついでに、前のブルーが得意としていた、瞬間移動というヤツも…。
(一種のワープみたいなものだ、と…)
 ブルーが笑って言っていたから、船が無くても、別の世界への扉は開く。
 そうなると、今のサイオンが不器用なブルーでも…。
(運が悪けりゃ、消えちまうってか!?)
 別の世界に落っこちて。
 竜宮城に行ってしまって、帰れなくなってしまうとか。
 前のブルーなら、其処から戻って来られるのに。
 比類なき強さを誇ったサイオン、それを使って、一瞬の内に。
(…えらいことだぞ…)
 今のあいつが消えちまったら、と考えただけで寒くなるから、神隠しは無いと思いたい。
 竜宮城があるとしたって、ブルーの前には現れない、と。
 どんなに素敵な場所であろうと、ブルーを招いてくれるな、と。
 今のブルーは自力で帰って来られないから、消えてしまったら、それきりだから。
 神隠しに遭って生き別れなんて、お互い、泣くに泣けないのだから…。

 

           消えちまったら・了


※ハーレイ先生が考えてみた、神隠しのこと。SD体制の時代にもあった、一種の神隠し。
 今は神隠しはありませんけど、万一ということがあるかも。ブルー君が消えませんようにv










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「ねえ。…今のハーレイ、心が狭いね」
 キャプテンだった頃よりも、と小さなブルーが口にしたこと。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「なんだって?」
 どうしてそういうことになるんだ、とハーレイが見開いた瞳。
 いきなり指摘された理由も、そういう覚えも無いものだから。
(俺の心が狭いだって?)
 しかも前の俺だった頃とは何だ、と疑問は尽きない。
 心は充分、広いと思うし、狭くなったとも思わないから。
 けれどブルーは溜息をついて、赤い瞳を瞬かせた。
 「狭いってば」と。
 前よりもずっと狭くなっているのに、気付かないの、と。


「おいおいおい…」
 そう言われても…、とハーレイはブルーの瞳を見詰めた。
 何処から「狭い」と考えたのか、それを聞かねば。
 「狭い」と決め付けてかかるだなんて、あんまりだから。
「お前なあ…。なんだって、そう考えたんだ?」
 俺は心が広い方だが、と自分の胸を指差した。
 「胸も広いが、心も広い」と、心臓が入っている場所を。
 「狭いと言われる筋合いは無い」と、自信を持って。
 なのにブルーは、即座に首を左右に振った。
 「ホントに狭い」と、「気が付かないの?」と。
「あのね…。宿題を忘れた生徒には、どうしてる?」
「それはもちろん、叱って、場合によっては宿題を追加だ」
 当然だろう、と答えてやった。
 それが教師の務めなのだし、しっかり勉強させなければ。
 常習犯の生徒の時には、厳しく叱って、宿題を追加。


 教師としての「あるべき姿」には、大いに自信を持っている。
 優しく、時には厳しいハーレイ先生、慕う生徒も多いもの。
 ところがブルーは、「ほらね」と大きな溜息をついた。
 「今のハーレイ、やりすぎだよ」と。
 前のハーレイなら、そうはしない、と愛らしい顔を曇らせて。
「叱ると委縮しちゃうから、って言ってなかった?」
 ハーレイがキャプテンだった頃には、と「心が狭い」と。
「やりすぎって…。そりゃ、お前…」
 あの頃とは時代が違うだろうが、とハーレイは切り返した。
 白いシャングリラが在った時代は、あの船の中が世界の全て。
 仲間たちを厳しく叱ったならば、叱られた者は…。
(…うんと引き摺っちまうんだ…)
 気分を切り替えに出掛けようにも、船の中しか無かったから。
 「自分は駄目だ」と悪い方へと、気持ちが傾きがちだから。
(……だからだな……)
 ミスをした仲間が委縮しないよう、叱る時にも気を配った。
 言葉を選んで、出来ることなら、叱らずに、と。


 そんな時代と、今を混同されても困る。
 悪ガキは叱って当然なのだし、心が狭いわけではない。
 だからブルーを真っ直ぐ見据えて、「間違えるな」と言った。
 「俺の心は今でも広い」と、自信に溢れて。
 そうしたら…。
「じゃあ、唇にキスしてよ!」
 叱るのは無しで、とパッと輝いたブルーの顔。
 「心が広いなら叱らないよね」と、「唇にキス」と。
「馬鹿野郎!」
 そいつも別件なんだからな、とブルーの頭に落とした拳。
 「お前だって、充分、悪ガキなんだ」と。
 「宿題を忘れるヤツと変わらん」と、「常習犯だ」と…。




          心が狭いね・了








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