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「あのね、ハーレイ…」
 ちょっと確認したいんだけど、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、向かい合わせで。
 間にはティーセットが置かれたテーブル、お茶の真っ最中。
「確認だって?」
 ハーレイはポカンと鳶色の瞳を見開いた。
 こういう時間に、ブルーがわざわざ言ってくるのは…。
(質問ばかりで、ついでにだな…)
 ロクな中身じゃないものなんだが、と食らった不意打ち。
 質問ではなくて確認ならば、その内容は…。
(いつもよりマシなものなのか?)
 サッパリ謎だ、と思うけれども、無視は出来ない。
 ブルーは答えを待っているのだし、まずは返事をしなくては。
 だから…。


「確認と来たか…。そいつは大事なことなのか?」
「そう。…ハーレイは、ぼくのことが好き?」
 正直に言って、というブルーの言葉に、噛み潰した苦虫。
(質問よりもタチが悪いぞ!)
 間をすっ飛ばして来やがった、と眉間に思い切り皺を寄せた。
「……そういう台詞は、チビのお前には、早すぎだ!」
「違うよ、そうじゃないってば!」
 話は最後まで聞いてよね、とブルーがプウッと膨らませた頬。
 「ハーレイはすぐに怒るんだから」と、「子供扱いだ」と。
「そうさせてるのは、お前だろうが!」
「最後まで聞いて、って言ったよ、ぼくは!」
 聞きもしないで怒らないで、とブルーの方も負けてはいない。
 そういうことなら…。


「いいとも、聞いてやろうじゃないか」
 何を確認したいんだって、とハーレイは徐に腕組みをした。
 ブルーの話が真っ当だったら、真面目に答えてやってもいい。
 違っていたなら、腕組みを解いて…。
(いつも通りに、コツンと一発…)
 頭にお見舞いするまでだ、とブルーの瞳を真っ直ぐ見詰めた。
 「早く言えよ」と促すように。
「んーとね…。前のぼくと今のぼくだと、どっちが好き?」
「はあ?」
「確認だってば、どっちが好きなの?」
 答えは分かっているんだけどね、とブルーは顔を曇らせた。
 「知っているもの」と、「前のぼくの方が好きだ、って」と。


(…バレてたのか!?)
 前のあいつの写真集を持っていること、とハーレイは焦った。
 書斎の机の引き出しの中に、大切に入れてある写真集。
 毎晩、出しては、前のブルーにあれこれと語り掛けている。
 チビのブルーと前のブルーは、まだ重ならないものだから。
(……マズイぞ……)
 サイオンが不器用だと思って油断していた、と背を伝う冷汗。
 なんと言ったら、この状況を打開できるだろう。
 チビのブルーに謝るべきか、しらばっくれる方がいいのか。
(このハーレイ、人生最大のピンチ…!)
 どうすればいい、と前の生での記憶を懸命に探っても…。
(前の俺は、こんな窮地には……)
 陥ったことはなかったんだ、と何の参考にもならない有様。
 前の生では、ブルーは一人きりだったから。


(……どうすりゃいいんだ!?)
 降参するか、と腹を括った所で、小さなブルーが微笑んだ。
 「許してあげてもいいんだけどね」と。
「本当か?」
「やっぱり、前のぼくの方が好きだったわけ?」
 ちょっと試しただけなんだけど、と赤い瞳が煌めいている。
「当たりだったら、許してあげるから、ぼくにキスして」
 それで許すよ、というブルーの言葉で気が付いた。
 「引っ掛けられた」と、「こいつは何も知らないんだ」と。
ならば、自分がするべきことは…。
「馬鹿野郎! 俺は、どっちのお前も好きだ!」
 比べられんのを知ってるだろう、と銀色の頭に落とした拳。
 「知ってて、俺を試すんじゃない」と。
 「お前の狙いは分かってるんだ」と、「騙されんぞ」と…。




         どっちが好き?・了










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(変身する、っていうのがあるよね…)
 未だに夢の能力だけど、と小さなブルーが思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(ずっと昔から、人間の夢…)
 何かに変身するってことは、と考えてみる。
 物語の中の魔法使いが変身したり、他の人間を変身させたり。
(…シンデレラ姫も、変身の一種…)
 シンデレラの肉体はそのままだけれど、衣装も髪型も魔法で変わる。
 みすぼらしい娘から、お城の舞踏会でも通用する立派な姫君へと。
(おとぎ話だと、変身するのも多いよね?)
 魔法を使える人間もそうだし、妖精の類も変身するもの。
 もっと昔に遡ったら、神話の中にも沢山ある。
(人間が植物に変わっちゃうとか…)
 ギリシャ神話に幾つもあるよ、といくらでも思い出せる変身物語。
 他の神話にも、その手の話は少なくない。
 きっと昔から人が夢見た、変身するという能力。
(…植物になったら、何も出来なくなっちゃうけれど…)
 鳥や動物に姿を変えたら、その能力が手に入る。
 翼を広げて空に舞い上がり、海も山も越えて飛んでゆくとか。
 とても足の速い馬にでもなって、行きたい場所まで駆けてゆくとか。
(…だけど、今でも夢の能力…)
 変身できる人はいないんだよね、と最初の所に戻った思考。
 人間が全てミュウになった今でも、変身能力を持つ人間はいない。
 『ミュウ』という種族が誕生してから、かなりの時が経っているのに。
 死の星だった地球が青く蘇り、豊かな自然が息づく世界になるくらいに。


(……うーん……)
 やっぱり夢の夢なのかな、と思う「変身」。
 サイオニック・ドリームを使えば、そのように見せかけることは出来ても…。
(実際の姿は変わらないから…)
 それは変身とは呼べないだろう。
 「変身した」ように見せかけた姿が、どんなに完璧だったって。
 姿に伴う能力までをも、サイオンで再現して見せたって。
(…ドラゴンになって、火を吐いたって…)
 その火で何かを燃え上がらせても、それはサイオンの「別の働き」。
 「炎を生み出す」サイオンの力、それを使っているのに過ぎない。
 決して「自分が吐いた火」ではなく、姿もドラゴンに変わってはいない。
 そういった風に見えているだけ、全く変身できてはいない。
(…やってる本人が、一番、自覚してるよね…)
 変身なんかは出来ていないこと。
 観客たちが拍手したって、ドラゴンなんかは「何処にもいない」ということを。
(……本当に変身するんなら……)
 身体の組織を、まるごと変えることになる。
 ドラゴンは実在してはいないし、現実的な所で考えるなら…。
(鳥になるなら、鳥の身体に…)
 肉体を変化させなければ。
 空を飛んでゆく鳥の身体は、骨格どころか、骨までがヒトとは全く別物。
(…基本は同じなんだろうけど、鳥の骨は、うんと軽くって…)
 空洞が幾つもあるのだったか、それとも別の仕組みだったか。
 どちらにしても、人間とは違う重さと密度を持った骨。
 それを獲得しないことには、鳥にはなれない。
 更に骨格を鳥のものへと、すっかり変えてしまわなければ。
(……人間の身体には、全く無い骨……)
 そんな骨まで作り出した上で、鳥のそれへと組み替える骨格。
 でないと、鳥にはなれないから。
 大空を自由に舞える翼は、自分のものにはならないから。


(…とっても大変…)
 腕が翼になるだけじゃないし、と考えただけでも疲れそう。
 そこまでの変化をするのだったら、常識でいけば、とても一瞬の間には無理。
(……医学の力を借りたって……)
 長い長い時間がかかるだろうし、恐らく、そんな実験は禁止。
 「人間が人間でなくなる」ような、技術を開発してはいけない。
 いくら平和な時代であっても、それは「神への挑戦」だから。
 神の領域を侵す行為で、SD体制の時代と似たようなもの。
 「無から人間を造った機械」と、いったい何処が違うというのか。
 たとえ本人が望んでいたって、やってはいけない「ヒトを変身させる」こと。
 どうしても変身したいのだったら、「自分でやる」しかないだろう。
 さっき「たとえば…」と想像したみたいに、身体の組織を組み替えて。
 サイオンを「そのように」使いこなして、一瞬の内に。
(ちょっと想像も出来ないんだけど……?)
 身体の組織の組み替えなんて、と探った自分の頭の中身。
 前の生での記憶があるから、サイオンの知識は「それなりに」ある。
 遠く遥かな時の彼方で、最強と謳われた「ソルジャー・ブルー」が持っていた「それ」。
 人類さえもが「伝説のタイプ・ブルー・オリジン」と呼んだくらいの能力者。
 もっとも、生まれ変わりの自分は、サイオンなんかは…。
(まるで全く、使えないんだけど…!)
 思念波だってロクに紡げないよ、と情けなくなる今の能力。
 それでも知識は充分あるから、変身が可能になるかどうかは…。
(……考えてみれば、答えは出るかも……)
 どうなのかな、と前の自分の知識を探る。
 似たようなことをやっていないか、何かを応用できないか、と。


 空間を飛び越える瞬間移動。
 自分の身体を別の場所へと飛ばすのだけれど、身体の組織は変化はしない。
 別の所へ移動するだけ、身体の置き場を変えているだけ。
(とんでもない距離を飛んだって…)
 細胞に変化が起こりはしないし、微塵も変わらない自分の肉体。
 この能力を応用したって、変身するのは絶対に無理。
(…空を飛べるのも…)
 念動力が強いというだけ、重力に逆らえるだけの強さがあるに過ぎない。
 翼が生えてくるわけではなく、やはり参考にはならない能力。
(念動力だって、細胞の仕組みは変えられないし…)
 そんな風には作用しないのが、念動力。
 サイオン・バーストを起こした所で、身体の組織が壊れはしても…。
(単に身体が持たないってだけで、組織が変化するのとは…)
 違うんだよね、と「自分の身体」が知っている。
 前の自分がメギドの破壊に使った、最後の力がサイオン・バースト。
 限界を超えてサイオンを使えば、力が暴走し始める。
 自分が「生きる」ための力を、全てサイオンに変える方へと。
 爆発的な力が生まれる代わりに、身体の組織は壊れてしまって、死が待つだけ。
 誰かが止めに入らなければ、そうなってしまう。
(…あれだけの力を放出したって、身体の組織は…)
 ちっとも変わりはしないんだから、と零れる溜息。
 つまり決して出来ない変身、身体を作り変えることは出来ない。
 人類は持たなかった能力、サイオンを使いこなしても。
 どれほどの力を発揮しようと、『ミュウ』が変身することは無理。
 今も変身は夢のまた夢、物語の中にしか存在しない。
 人間が全てミュウになっても、「タイプ・ブルー」が珍しくはない時代でも。


(……変身するのは、無理みたい……)
 変身できたら楽しそうだ、と思うのに。
 自由に姿を変えられるのなら、人間が持たない力を使いこなせるなら。
(鳥になれたら、空を飛べるし…)
 魚になったら、海の中を自由に泳いでゆける。
 虚弱に生まれた身体なんかは、少しも苦にはならないで。
 変身したからには、鳥も魚も、その姿での能力をフルに使える筈なのだから。
(…えーっと…?)
 だったらウサギ、と頭に浮かんだ、幼かった頃の自分の目標。
 幼稚園の頃に、ウサギの身体に憧れた。
 いつも元気に跳ね回っていた、幼稚園で飼われていたウサギたち。
(だから、ぼくだって、ウサギになれたら…)
 元気な身体が手に入るだろう、と夢は「ウサギになること」だった。
 ウサギと仲良くしていたならば、いつか「なれるに違いない」と。
 「ウサギになる方法」を教えて貰って、ウサギになろう、と。
(……それって、ウサギに変身するっていうこと……)
 そういう形の夢だったんだ、と今頃、気付いた。
 同じ変身するのだったら、ウサギでなくても良かったのに。
 「もっと元気な身体がいいよ」と、「健康な身体の人間」に変身したならば…。
(…パパとママに、庭で飼って貰わなくても…)
 ウサギの小屋を作って貰わなくても、自分の部屋で暮らしてゆけた。
 食事も、おやつも、人間用で。
 もちろん、両親とも自由に話せて、友達とだって遊び回って。
(ぼくって、とても馬鹿だった…?)
 小さいから仕方ないんだけれど、と思うけれども、足りなかった知識。
 今の時代も夢の能力、変身する力を使うというのに、それで変身するものがウサギ。
 他の選択肢も、あったのに。
 わざわざウサギを選ばなくても、別の姿になれただろうに。


(……もしも、ウサギになってたら……)
 庭をピョンピョン跳ね回るだけで、ニンジンなどを貰えるだけ。
 他の動物なら、もっと世界が広いだろうに。
 たとえば猫になっていたなら、生垣をヒョイとくぐり抜けて…。
(家の外まで散歩に行けるし、他所の家の庭でも遊べるし…)
 猫の友達も出来るだろうから、ウサギなどより、ずっといい。
 けれど、それより、もっといいのは「健康な人間」に変身すること。
 すっかり元気になれるけれども、他には何も変わりはしない。
 それでも「ウサギになる」よりはずっと、素敵な世界が手に入る。
 いつかハーレイと出会った時にも、ウサギの姿だったら困るけれども…。
(人間だったら、今と同じで…)
 何も不自由しないのだから、人間に変身するべきだった。
 幼かった頃の夢が、叶っていたら。
 今の時代も夢の能力、変身する力があったなら。
(……そんな力が無くて良かった……)
 ウサギになってしまってからじゃ手遅れ、とホッと安堵の息をつく。
 生涯にたった一度の変身、奇跡が起こっていなかったことに、感謝して。
 幼い子供の「足りない知識」は、変身するには向かなかったことが分かったから…。

 

            変身できたなら・了

※変身できたら楽しいだろう、と考えたのがブルー君。今の時代も変身するのは夢物語。
 けれど幼かった日に夢見た変身、それで変身するのがウサギ。奇跡が起こっていたら大変v











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(変身能力というヤツは…)
 未だに誰も持っちゃいないな、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日に、夜の書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れた、コーヒー片手に。
(人間が皆、ミュウになってから、かなりの時が経つんだが…)
 死の星だった地球が青く蘇るほどの、長い年月。
 それを経た今、タイプ・ブルーの人間の数も少なくはない。
(他のサイオン・タイプに比べりゃ、少ないんだが…)
 前の自分が生きた頃とは、全く事情が違っている。
 何処の学校にもタイプ・ブルーの生徒がいるし、会社にだって普通にいる。
 ただ、サイオンを使う場面が殆ど無いのが、今の時代。
 「サイオンを使わない」のが社会のマナーで、好きに使うのは子供くらいなもの。
 だから滅多に「青いサイオン・カラー」を見ることはない。
(それでも数は少なくないから…)
 超越した能力を持った人間、それが出て来ても不思議ではない。
 前のブルーがそうだったように、「他のミュウとは比較にならない」能力者。
(それなのに、変身が出来る人間は…)
 一人もいなくて、変身できるヒーローなどは、今でも人気。
 なにしろ「夢の能力」だから。
 人間がどんなに頑張ってみても、変身することは不可能だから。
(……変身したように見せかけることは……)
 出来るんだよな、と分かっている。
 サイオニック・ドリームを使えば簡単、いくらでも好きに変えられる姿。
 けれど本当は「ただの幻」、変身できたわけではない。
 鳥に変わって飛んでゆこうが、ドラゴンになって周囲を威圧しようが、実際は…。
(姿は全く変わっていなくて、そんな風に見えるだけなんだよな)
 一種のマジックみたいなモンだ、と苦笑する。
 「やっぱり変身は、夢物語に過ぎないんだな」と。


 人間が地球しか知らなかった頃にも、そういう物語はあった。
 一番古い形のものだと、ギリシャ神話になるのだろうか。
(人間が植物に変身する、ってのが多かったか…?)
 水仙になったナルキッソスとか、月桂樹になったダフネだとか。
 アネモネも少年だった筈だし、変わった所では石になった少女がアメシスト。
(熊にされちまった女性もいたなあ…)
 自分で変身したわけじゃないが、と数えた女性の名前がカリスト。
 女神の怒りに触れたばかりに、熊の姿にされてしまった。
 そして我が子に狩られる所を、ゼウスが救って星座に変えた。
 夜空に輝く大熊座に。
 彼女の息子も、小熊座になった。
(熊に変わって、お次は星座だ)
 なかなかに凄い変身だよな、と感心する神話の壮大さ。
 神話だけに全てが作り話なのか、あるいは真実の欠片があるのか。
(……流石に、ちょっと古すぎてなあ……)
 検証のしようも無いってモンだ、と思うけれども、もっと後の時代。
 神話ではなくて、記録が残る時代になっても…。
(有名なトコだと、人狼伝説……)
 ヨーロッパで恐れられていた、狼人間。
 満月の光を浴びると狼に変わり、普通の人間を食い殺した彼ら。
 かなりな数の記録が残されただけに、作り話とも思えない。
(…本当に狼に変身したのか、何かの比喩か…)
 そこの所は分からないけれど、もしも変身していたのなら…。
(サイオニック・ドリームだったのか?)
 多分そうだな、と今だから思う。
 これほどの時が流れた今でも、誰も変身できないから。
 変身は今も夢のまた夢、物語にしか出て来ないから。


(…夢ってヤツだな、人間の…)
 特に子供には夢なんだよな、と幼かった頃を思い出す。
 ヒーローに変身してみたかったし、他の子たちも似たようなもの。
(…今のブルーだと、ちょっと変わってて…)
 なんとウサギと来たもんだ、と小さなブルーの「将来の夢」が頭に浮かんだ。
 今度も虚弱に生まれたブルー。
 幼稚園児だった頃に描いた将来の夢が、「ウサギになること」。
 ブルーが通う幼稚園にあった、ウサギの小屋。
 元気に跳ね回るウサギたちを見て、ブルーもウサギになりたくなった。
 ウサギになったら元気になれる、と考えて。
(でもって、ちゃんとウサギになれたら…)
 両親に飼って貰うつもりで、せっせと通ったウサギたちの小屋。
 ウサギと仲良くなりさえしたら、「ウサギになれる方法」を教えて貰える、と。
 いつか自分もウサギになろうと、赤い瞳を煌めかせて。
(あいつがウサギになっちまってたら…)
 俺も変身するしかなくて…、とブルーとの会話が蘇る。
 「俺も一緒にウサギになるから、一緒に暮らそう」とブルーに話した。
 再会した時のブルーの姿がウサギだったら、自分もウサギに姿を変える。
 ブルーは白いウサギだけれども、自分は茶色い毛皮のウサギ。
 変身できたら、ブルーの家のウサギ用の小屋は、お役御免で…。
(あいつと郊外の野原に移って、巣穴を掘るんだ)
 二人で住むのに充分な広さの、立派なものを。
 安全そうな場所を見付けて、頑丈な足で、せっせと掘って。
 そういう、ブルーとの夢物語。
 ウサギになれるわけもないから、もう本当に他愛ない話。
 とはいえ、楽しかったのだけれど。
 ブルーと二人でウサギになるのも、きっと悪くはないだろうから。


(……もしも、変身できるなら……)
 今の自分が変身できたら、いったい何になりたいだろう。
 ヒトが未だに持たない能力、夢の力があったなら。
(…ガキの頃に見た、ヒーローものだと…)
 変身したなら、凄い力が手に入る。
 タイプ・ブルーの人間でさえも、持ってはいない素晴らしい能力が。
(しかし、そんな力を貰っても…)
 出番が全く無いんだよな、と分かっているのが今の世の中。
 戦争も武器も、とうの昔に滅びてしまった平和な世界。
 「悪の組織と戦う」などは、物語の中にしか存在しない。
 だから変身するだけ無駄だし、ヒーローになれる場所だって無い。
 それでは変身する意味が無くて、もちろんヒーローにもなれない。
(……うーむ……)
 だったら何に、と思った所で、前のブルーがポンと浮かんだ。
 変身すれば、そのものズバリの姿と能力が手に入る。
 前のブルーの姿はともかく、能力は今でも気になるところ。
 「いったい、どれほどのものだったのか」と、ブルーが負っていた重荷と共に。
(…前のあいつになれたなら…)
 少しは理解できるのだろうか、前のブルーの悲しみが。
 「一人きりのタイプ・ブルー」だった頃の、深い憂いと苦しみとが。
(今の俺が、変身できたところで…)
 世界がすっかり変わっているから、同じ体験をすることは無理。
 せいぜい、ブルーがやっていたように、思念の糸を細かく張り巡らせる程度。
 「シャングリラの何処で、何があっても」分かるようにと、前のブルーが張った糸。
 どれほど神経を使っていたのか、前の自分には謎だった。
 分かるものなら、それを体験したくもある。
 もうシャングリラは無いのだけれども、似たような広さの空間などで。
 シャングリラの仲間と同じほどの数、人が散らばる建物などで。


(…前のあいつか…)
 変身できたら、なってみたい、と思う存在。
 他にも何か、と今度は思考を「今」へと向ける。
 今のブルーと関わるのならば、何に変身すればいいか、と。
(…前のあいつに変身した、などと知られたら…)
 小さなブルーは怒り狂って、「酷い!」と叫ぶことだろう。
 「やっぱり、前のぼくの方がいいんだ」と、「鏡を覗いていたんでしょ!」と。
(あいつは、自分に嫉妬するしな…)
 鏡に映った姿に喧嘩を吹っ掛ける子猫みたいに、と笑った途端に閃いた。
 「これだ!」という「変身したい存在」。
 今のブルーが喜びそうで、自分にとっても、お得なモノ。
(そうだ、ミーシャになればいいんだ!)
 子供だった頃、母が飼っていた真っ白な猫の名前がミーシャ。
 今のブルーに写真を見せたら、それは嬉しそうに眺めていた。
 おまけに「猫になりたい」などと言い出し、理由は「ハーレイの側にいられるから」。
(俺がミーシャに変身できたら…)
 毎日、仕事が終わった後には、ミーシャに変身。
 そして自分の家には帰らず、代わりにブルーの家にゆく。
 生垣を抜けて庭に入って、「ニャア」と一声、鳴いたなら…。
(ブルーが出て来て、俺を抱えて…)
 部屋へと連れてゆけばいい。
 そうすれば朝までブルーと一緒で、ブルーが欲しがるキスだって…。
(猫の俺なら、何の問題も無いってな!)
 ブルーの顔をペロペロと舐めて、唇にキス。
 猫の小さな唇で。
 フカフカの毛皮の感触つきで。


(よし…!)
 変身できたら、猫になるぞ、とコーヒーのカップを傾ける。
 そんな力は持っていないから、夢物語に過ぎないけれど。
 ヒトは未だに変身できずに、夢を描いているのだけれど。
(猫になれたら、めでたし、めでたし…)
 ブルーは複雑なんだろうがな、と意地悪な笑みも忘れない。
 毎晩、恋人と過ごせはしたって、「猫」なのだから。
 山ほどキスをして貰えたって、フカフカの毛皮とセットだから…。

 

         変身できたら・了


※未だに変身できない、人間。ハーレイ先生が考えてみた、「自分が変身したいもの」。
 真っ白な猫のミーシャに変身、そして毎晩、ブルーの家へ。問題なく一緒に過ごせますよねv











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「えーっと、ハーレイ…?」
 ちょっと質問があるんだけれど、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後の、お茶の時間の真っ最中。
 テーブルを挟んで向かい合わせで、赤い瞳でじっと見詰めて。
「質問だって…?」
 嫌な予感しかしないんだがな、とハーレイは顔を顰めた。
 こういった時のブルーの質問、それは大抵、とんでもない。
 何か企んでいるのが普通で、真面目に聞いたら、馬鹿を見る。
 すっかり馴染んでしまっただけに、今日もそれだと考えた。
(どうせ、ろくでもないことなんだ)
 およそ聞くだけ無駄ってモンだ、と思ったのだけれど…。
「そう言わないで、ちょっとだけ…」
 ね? とブルーは愛らしく笑んだ。
 ハーレイに「否」を言わせないよう、それは無邪気に。


(……こう言われると、弱いんだよなあ……)
 ついでに、この顔、と呆気なく崩れるハーレイの防壁。
 前の生から愛したブルーに、冷たい態度が取れるわけがない。
 ろくでもない結果が待っていようと、頼み込まれたら。
 おまけに可愛らしい笑みまでセットで、お願いされたら。
「仕方ないな…。質問するなら、簡潔に言え」
「ありがとう! いい子と悪い子、どっちが好き?」
 ハーレイの好きな子供はどっち、とブルーは膝を乗り出した。
 「どっちがハーレイの好みなのかな」と。
「はあ?」
「だから、いい子と悪い子だってば!」
 ハーレイは悪ガキだったんだよね、というブルーの指摘。
 「すると悪ガキの方がいいの?」と、興味津々で。


(なんだ、マトモな質問じゃないか)
 こういうヤツなら大歓迎だ、とハーレイは大きく頷いた。
 ついでに子供は大好きなのだし、こんな質問も悪くない。
「そうだな、俺は悪ガキだったわけだが…」
「それじゃやっぱり、悪い子がいい?」
「場合によるかな、たとえば、俺がサンタクロースなら…」
 うんと悩むぞ、クリスマス前に、子供の評価で。
 悪ガキにもプレゼントを持ってってやるか、どうするかで。
 あんまり悪戯ばかりのガキじゃあ、おしおきってのも…。
 必要だしな、とウインクした。
 「いい子と悪い子は程度によるな」と、「要はバランス」と。
 うんと悪ガキでも、根っこは悪くないんだから、と。
 そうしたら…。


「だったら、うんといい子にしてたら…」
 クリスマスにキスをしてくれる? と言い出したブルー。
 「プレゼントを持って来てくれるのなら、それがいいな」と。
「馬鹿野郎!」
 今のは例え話ってヤツだ、とブルーの頭に落とした拳。
 「お前にキスは、まだ早い」と。
 「第一、俺はサンタクロースじゃないだろうが!」と。
 そして心で悪態をつく。
 こいつは立派な悪ガキだ、と。
 いい子にするなど聞いて呆れると、また騙された、と…。




        いい子にしてたら・了










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(双子って、いるよね…)
 不思議な力で繋がった子たち、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…ぼくの友達には、いないんだけど…)
 何度も見かけている双子。
 今の学校にもいるかもしれない、瓜二つの顔をした子たち。
(一卵性双生児…)
 母親の胎内に宿った卵子が、何かのはずみで二つに分かれる。
 すると生まれて来る、そっくりな子たちが一卵性の双子。
(繋がっているらしいよね?)
 心の何処かが、と聞いてはいる。
 片方の身に何かあったら、もう片方にも伝わるらしい。
 サイオンを使っていなくても。
 思念波で連絡を取っていなくても、「何かあった」と感じ取れるのが双子の兄弟。
(…シャングリラにも…)
 いたんだっけね、と遥かな時の彼方を思う。
 一卵性ではなかったけれども、心が繋がった双子の兄妹。
 白い箱舟にいた、ヨギとマヒルという子供。
(いつだって、手を繋いでて…)
 片方が喋った言葉を、もう片方が、復唱するかのように喋った。
 「ソルジャー、遊ぼう」とヨギが言ったら、マヒルが「遊ぼう、ソルジャー」などと。
 だから今でもよく覚えている、印象的な子供たち。
 さほど接点は無かったけれども、「船にいたよ」と。
 一卵性の双子でなくても、白いシャングリラにも「双子がいた」と。


(……んーと?)
 ヨギとマヒルが一卵性の双子だったら、もっと面白かっただろうか。
 言葉を復唱するだけではなくて、他にも特技があったとか。
(…どうなのかな?)
 人間が全てミュウになった今の時代でも、一卵性の双子は特別。
 「サイオンを使わなくても、繋がっている」という点で。
(じゃあ、サイオンを使ったら…)
 もっとシンクロするのだろうか、まるで二人で一人のように。
 特訓なんかは全く無しでも、即興のダンスで同じステップを踏めるとか。
(……そうなのかもね?)
 だったら凄い、という気がする。
 もしも「彼ら」に才能があれば、アッという間にスターになれそう。
 誰もが惹かれる素敵な外見、それに歌声でもあれば。
(…デビューした途端に、ファンがつくよね?)
 女の子の双子がデビューしたなら、大勢の男子が熱狂する。
 逆に男子なら、女性のファンが群がるだろう。
(…ぼくは、そういうのに疎いから…)
 知らないけれども、もしかしたら、過去にはいたかもしれない。
 一卵性の双子に生まれて、一世を風靡した大スターが。
 歌も姿も超一流で、ステージで披露するダンスも素晴らしかった双子が。
(ぼくだって、見惚れちゃいそうだよ…)
 そんな双子のステージだったら、きっと魂を奪われて。
 「なんてダンスが上手いんだろう」と、「歌も凄いよ」と。
 なんと言っても、二人が「そっくり」なのだから。
 歌声もステップも見事にシンクロ、少しもズレたりしないのだから。


 そういう歌手っているのかな、と首を捻っても、足りない知識。
 日頃、興味が無い世界だから、手も足も出ない。
(…だけど、いたなら、絶対、凄い…)
 それこそ宇宙が熱狂するよ、とチビの子供の自分でも分かる。
 もう文字通りにスーパースターで、引く手あまたの有名人になるだろう、と。
(……ちょっと待ってよ?)
 もしも、ぼくが双子だったなら…、と思い付いたこと。
 「ソルジャー・ブルー」の生まれ変わりの自分は、正真正銘、ソルジャー・ブルー。
 今では記憶も戻っているから、自分でも疑いようがない。
 ただし、そのことを知っている者は、たった四人しかいないけれども。
(パパとママと、病院のお医者さんと、ハーレイ…)
 彼ら以外は、全く知らない「本当のこと」。
 ついでに言うなら、この春、前の生の記憶が戻るよりも前は…。
(…自分でも、よく似てるよね、って…)
 思っていたのが「ソルジャー・ブルー」という存在。
 今の平和な時代の始まりになった、大英雄の「ソルジャー・ブルー」。
 おまけに、「自分で言うのは厚かましい」けれど、とても美しかったから…。
(写真集とかがドッサリ出ていて、大人気で…)
 そんな「ソルジャー・ブルー」に似ていた自分は、幼い頃から注目された。
 大英雄と同じアルビノな上に、顔立ちまでが似ている子供。
 いったい何度、大人たちに言われたことだろう。
 「小さなソルジャー・ブルー」だ、と。
 両親も充分、承知だったから、髪型まで「ソルジャー・ブルー」風。
 幼稚園の時には、とっくにそういうヘアスタイル。
 だから街でも、公園などでも、何人もに声を掛けられたもの。
 それだけ目立っていたのだったら、その姿で双子だったなら…。
(…スカウトされてた?)
 もしかしたなら、幼い頃に。
 育てばスターになれそうだからと、芸能界のスカウトマンに。


(…本当に、双子だったなら…)
 有り得たよね、と思うスターへの道。
 いくら身体が弱いと言っても、双子だったら、今よりはマシ。
(繋がってるから、二人ともダウンしちゃうかもだけど…)
 そうならないよう、マネージャーがしっかり、スケジュールを管理。
 身体が慣れるまでの間は、交代でステージに立つだとか。
(それなら、使う体力も半分…)
 片方はしっかり休めるわけだし、その間に充分、休養できる。
(…それに、ベッドに転がってたって…)
 もう片方が立つステージのことは、きっと分かるに違いない。
 観客たちの声援だって、煌めく照明などだって。
(サイオン、うんと不器用だけど…)
 それでもミュウには違いないから、双子だったら、事情は変わる。
 互いの間なら「通じる」全て。
 きっと同じにステップが踏めて、即興のダンスでも、見事にシンクロ。
 そこへ「ソルジャー・ブルー」にそっくり、これでスターになれない方が…。
(……おかしいよね?)
 今の姿だと、まだ小さいから、それほど有名ではないかもしれない。
 けれど将来は期待できるし、先を見越したファンもつきそう。
(でもって、前のぼくだった頃と、そっくり同じに育ったら…)
 もう間違いなくトップスターだ、という気がする。
 何と言っても、今の時代も、大人気なのが「ソルジャー・ブルー」。
 大英雄だからというだけではなくて、美しかった容姿のせいで。
 その再来のような歌手が登場、しかも双子となったなら…。
(ホントに人気で、何処へ行っても…)
 ファンに囲まれ、握手攻めになることだろう。
 考えたことも無かったけれども、そういう人生も、きっと有り得た。
 一人息子に生まれる代わりに、一卵性の双子だったなら。


 トップスターになる自分。
 双子の兄弟とステップを踏んで、歌を歌って。
(ちょっと、いいかも…?)
 楽しいかもね、と思ったけれども、その場合…。
(……ぼくの名前は?)
 今の自分は、前と同じに「ブルー」という名を付けて貰った。
 「ソルジャー・ブルー」と同じアルビノだからと、彼の名前にあやかって。
 生まれた子供は一人だったから、「ブルー」に決まったのだけれど…。
(双子だったら、どうなっちゃうの?)
 両方「ブルー」に出来はしないし、別の名前を付けただろうか。
 それとも一人に「ブルー」と名付けて、もう一人には別の名前だとか。
(…ソルジャー・ブルーと対にするなら、ジョミーとか?)
 あるいは「ブルー」の「青」に揃えようと、他の言葉での「青」にするとか。
(地域によって、言葉は色々…)
 それを端から調べていったら、似合いの「青」もあるかもしれない。
 「ブルー」と響きの似たものが。
 双子の息子に名付けてやるのに、丁度いいのが。
(…ぼくの名前は、どっちになるの?)
 ブルーの方か、別の方なのか。
 前の生の記憶が戻る前なら、どちらだろうと気にしない。
 けれども、記憶が戻って来たなら、名前が「ブルー」でなかったら…。
(……凄く悲しい……)
 今度も「ブルー」に生まれて来たのに、違う名前で呼ばれるなんて。
 前の自分が持っていた名が、そっくりな顔の兄弟の名前になるなんて。
(…悲しすぎるよ…!)
 そんなのは、と思った所でハタと気付いた。
 「ブルー」の名前を持っている方も、「ブルー」なのかもしれない、と。
 自分と同じに前の生がある、「ソルジャー・ブルー」の生まれ変わりかも、と。


(…一つの卵子が、何かのはずみに…)
 二つに分かれて生まれて来るのが、瓜二つの姿を持った一卵性双生児。
 それなら二つに分かれる時に、魂も分かれるかもしれない。
 「ソルジャー・ブルー」の魂が二つ、そういう双子。
(……スターを目指して、頑張ってる間はいいけれど……)
 前の生の記憶を取り戻したなら、とても大変なことになる。
 そっくり同じな魂が二つ、もちろん恋した相手も同じ。
 ハーレイと巡り会った途端に、二人とも「ハーレイに恋をする」。
 前の生からの恋の続きを、青い地球の上で生きてゆきたくて。
 今度こそ二人、何処までも手を繋ぎ合って、と。
(…でも、ぼくは二人…)
 ハーレイも途惑うだろうけれども、自分たちだって、大いに困る。
 もしもスターを目指していたなら、まずは、その道を捨てなければ。
(……忙しすぎて、ハーレイとデートも出来ないもんね?)
 だから引退、と言い出した途端、もう片方と喧嘩になる。
 「どちらが引退するのか」で。
 何故なら、引退していった方は、「ハーレイと結婚する」のだから。
 それにスターは「二人揃っていてこそ」、ソロで活動しても有名になれるかどうか。
(…片方は結婚して幸せなのに、もう片方は…)
 結婚も出来ず、人気も出ないで、散々な人生になるかもしれない。
 「ハーレイ」は一人しかいないから。
 なのに「ブルー」が二人いたなら、一卵性の双子だったなら。
(……大喧嘩した上、喧嘩に負けたの、ぼくの方なら……)
 とんでもない悲劇が待っていそうだから、自分は、双子でなくて良かった。
 前の生の記憶が戻る前なら、とても楽しく生きられても。
 ソロでもスターになれたとしたって、それよりもハーレイの側がいいから…。

 


          双子だったなら・その2・了

※もしも双子に生まれていたら、とブルー君が想像してみた人生。スターになれそう、と。
 けれど魂も同じだった場合、待っているのは悲劇なのかも。双子でなくて良かったですよねv

※なんで「その2」があるのか、と言えば…。
 「ブルーのバージョン、書いてなかったよね?」と書き終わってから気付いた悲劇。
 書いていたことをすっかり忘れていました、お蔵入りも辛いし、「その2」ってことで…。











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