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「ねえ、ハーレイ。我慢のしすぎは…」
 良くないんだよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
(…来たぞ…)
 いつものパターンだよな、とハーレイは心で身構えた。
 此処でウッカリ同意したなら、ブルーの思う壺になる。
(どうせ、こいつの我慢ってヤツは…)
 俺からキスが貰えんことだ、とハーレイは既に学習済み。
 何度もブルーの問いに騙され、何度も叱り付けて来た。
 「お前にキスは早すぎる」と、軽く拳をお見舞いして。
 銀色の頭をコツンとやって、チビのブルーを睨み付けて。
(魂胆が分かっているんだから…)
 返事なんかはするもんか、とハーレイはカップを傾けた。
 知らん顔をして、熱い紅茶を味わう。
 「早く飲まないと、冷めちまうぞ?」とブルーを促して。
 ポットの中身は冷めないけれども、カップは冷める、と。


「…ハーレイ、勘違いしてるでしょ?」
 ぼくが言ってる我慢のこと、とブルーは頬を膨らませた。
 「今の話じゃないんだからね」と、「前のことだよ」と。
「前のことだと?」
 いつの話だ、とハーレイはブルーの顔を見詰めた。
 ことによっては、考えを改めなければならない。
 今のブルーの話だったら、流しておけばいいけれど…。
(違った場合は、真面目に聞かんと…)
 駄目なんだ、と時の彼方のことを思った。
 前のブルーが過ごした生は、我慢の連続だったのだから。
(そっちでなければいいんだがな?)
 お茶の時間には似合わん話題だ、と願ったのに…。
「前って言ったら、前のぼくに決まっているじゃない!」
 あの頃は、いつも我慢ばかり、とブルーは言った。
「毎日我慢で、だけど、それでも…」
 檻の中よりマシだったから、と赤い瞳が真剣になる。
 「だから平気でいられただけ」と、「ホントは駄目」と。
 「あんなに我慢ばかりの生活、良くないよね?」と。


(…脱出直後の話だったか…)
 後の時代でなくて良かった、とハーレイはホッとした。
 そちらだったら、相槌の打ちようもある。
 誰もが我慢の時代だったし、苦労話も山とあるから。
「あの頃なあ…。比較対象が酷すぎたんだな」
 今だと勘弁願いたいな、と苦笑して指でカップを弾く。
「お茶の時間どころか、飯の心配ばかりだったし…」
「でしょ? 飢え死にはなくても、ジャガイモ地獄…」
 キャベツ地獄もあったもんね、とブルーが頷く。
 「毎日、ホントに大変だったよ」と「我慢ばかり」と。
 確かに我慢ばかりをしていた、あの時代。
 ハーレイの記憶に今も鮮やかに残る、ジャガイモ地獄。
 前のブルーが人類の船から奪った食材、それだけが全て。
 ジャガイモ以外を食べたくなっても、どうしようもない。
 他の食材が欲しいのだったら、また奪う他に道は無く…。
(それが出来るのは、前のこいつだけで…)
 しかも見た目も中身も子供で、無茶をしそうなブルー。
 分かっているから、物資を奪いに出すなど、論外。
 何も無いなら仕方ないけれど、船に食材があるのなら。
 それがジャガイモばかりだろうと、キャベツだろうと。


「そうだな、あの頃は実に酷かったよな」
 毎日が我慢の連続で、とハーレイは厨房時代を思った。
 仲間の胃袋を満たすためにと、懸命に工夫していた日々。
 皆も分かってくれていたけれど、それでも文句は零れた。
 「またジャガイモか」と、「またキャベツか」と。
 それでも我慢で、誰もが我慢。
 船に食材は他に無いから、ただ、ひたすらに。
 前のブルーも黙々と食べて、文句は言わなかったけど…。
「今のぼくだと、絶対、文句を言っちゃうよ」
 ジャガイモばかりの食事なんて、とブルーが顔を顰める。
 「今だと、心が病気になっちゃう」と「身体もね」と。
「まったくだ。人間、我慢のしすぎは良くない」
 心にも、それに身体にもな、とハーレイは笑んだ。
 「前の俺たちは頑張りすぎだ」と、「強かったな」と。
 そうしたら…。



「ハーレイも、そう思うでしょ? だからね…」
 ぼくの心の健康のために、とブルーが強請ったキス。
 我慢しすぎて、夜も眠れないから、身体のためにも、と。
「馬鹿野郎!」
 それとこれとは別問題だ、とハーレイが軽く落とした拳。
 ブルーの小さな銀色の頭に、コツンと痛くないように。
「いいか、ほどほどの我慢ってヤツは、だ…」
 心と身体を鍛えるんだぞ、とブルーを叱る。
 「お前のは、頑張りすぎとは言わん」と。
 「我慢で、強い心を作れ」と、「身体の方も我慢だ」と。
 「早寝早起きで強くなれよ」と、「よく眠ってな」と…。



        我慢のしすぎは・了








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(ハーレイと一緒に、地球まで来られたんだよね…)
 身体は新しくなっちゃったけど、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は会えずに終わったけれども、ハーレイは同じ町にいる。
 青く蘇った地球の上にある、ごくごく普通の町の一つに。
(…夢がホントになっちゃった…)
 前のぼくの、と遠く遥かな時の彼方に思いを馳せる。
 白いシャングリラで、どれほど地球に焦がれたことか。
 いつか行きたいと夢を描いて、前のハーレイと交わした約束。
 「いつか地球まで辿り着いたら」と、数え切れないほどの夢を託して。
(でも、前のぼくは…)
 地球への夢を、諦めざるを得なかった。
 寿命が足りなくなってしまって、行けないと悟った夢の星。
(…もしも、メギドで死ななかったら…)
 あるいは行けていたのかも、と考えて、直ぐに首をブンブンと左右に振った。
 「そんなのは、無理」と。
 前の自分が命を捨ててメギドを止めなかったら、ミュウは滅びていただろう。
 白い箱舟も焼かれてしまって、宇宙の藻屑。
(…ハーレイと地球まで行けるどころか、ハーレイだって…)
 ナスカで死んでしまっておしまい、と分かっているから、後悔は無い。
 前の生の終わりに、泣きじゃくりながら死んでいったことも、後悔なんかは…。
(多分、していなかったよね?)
 あまり自信が無いのだけれども、恐らく、してはいないと思う。
 ハーレイとの絆は切れてしまっても、ミュウの未来は守れたから。
 大勢の仲間を乗せた箱舟を、ハーレイが地球まで、きっと運んでくれるから。
(…だから、それでいい、って…)
 前の自分は納得していて、其処で終わりの筈だった。
 ハーレイと過ごした幸せな日々も、最後まで持っていたかった恋も。


 ところが、終わらなかった恋。
 気付けば自分は青い地球にいて、ハーレイまでがついて来た。
(ちょっぴりチビなのが、残念だけど…)
 育つまで結婚はお預けどころか、キスさえ、お預け。
 それでも、前の自分の夢は…。
(ちゃんと叶っているんだよ)
 ハーレイと地球に来られたものね、と今の幸せを噛み締める。
 前の生でハーレイと交わした沢山の約束、「地球に着いたら」と描いた夢が叶う人生。
 チビの自分が大きくなったら、今のハーレイが叶えてくれる。
 旅行に行ったり、ドライブしたりと、計画を立てて。
(生まれて来た星が、地球で良かった…)
 夢を叶えるには一番の場所、と嬉しくなる。
 他の星に二人で生まれていたなら、前の生での約束を果たそうと思ったら…。
(…地球まで、出掛けて行かないと…)
 地球での夢は叶わないから、とても大変だったろう。
 ハーレイの仕事が休みになる度、長期の旅行。
 夏休みくらいしか、無理かもしれない。
(そうなると、年に一回だけしか…)
 地球への旅は出来ないわけだし、旅行の時は予定がビッシリ。
 叶えたい約束をギュウギュウ詰め込み、あちこちの地域を駆け回って。
(考えただけでも、忙しそう…)
 バテちゃいそうだよ、と思うけれども、ハーレイと一緒に暮らせるのなら…。
(地球でなくても、気にならないよね?)
 だって、ハーレイがいるんだもの、と大きく頷く。
 前の生の終わりに切れたと思った、ハーレイとの絆。
 それが切れずに繋がっていたら、もう、それだけで充分だろう。
 地球からは遠い星に生まれてしまって、地球まで行くのが一苦労でも。
 前の生での夢を叶えるのが、ハードスケジュールな旅になっても。


(…ハーレイさえ、一緒にいてくれるなら…)
 ぼくは何処でも構わないや、と心から思うし、今の生でも、その点は同じ。
 ハーレイの仕事に、転勤なんかは無いのだけれど…。
(同じ町にある学校の中で、勤める学校が変わるだけだし…)
 他所の町には行かないけれども、仕事によっては、別の地域への転勤もある。
 違う町どころか、海を渡った遥か遠くの、全く違う文化の地域へ。
(もしも、そういう仕事だったら…)
 この町を離れて、引っ越す日がやって来たかもしれない。
 「そんなに遠いの?」と思う地域へ、もしかしたら砂漠があるような所。
 うんと暑くて、今の生でも弱い身体には、強い日差しが堪えるくらいに過酷な地域。
(住めば都だから、そういうトコにも…)
 好きで暮らしている人は多いし、ハーレイが転勤するのだったら、一緒に行く。
 毎日、「暑いよ」と、へばっていても。
 ちょっと散歩に出掛けることさえ、昼間は暑くて無理な場所でも。
(…ハーレイが一緒なら、ぼくは幸せ…)
 そのハーレイが行くと言うなら、何処へだってついて行くだろう。
 「今度の転勤、お前には、ちょっとキツそうだから」と、残るようにと勧められても。
 転勤が終わって帰って来るまで、両親の家で暮らすようにと、提案されても。
(ハーレイと離れるなんて、二度と嫌だよ)
 メギドの時だけで充分だから、と決意をこめて握った右手。
 前の生の終わりに、ハーレイの温もりを失くしてしまって、冷たく凍えてしまったから…。
(今度は、ハーレイの手を離さないってば)
 どんな場所でも、ついて行くよ、と右手を見詰める。
 「ハーレイが行くなら、何処だって行くよ」と。
(…君が行くなら、ぼくは必ず…)
 一緒に行くって言うからね、と。
 たとえハーレイが「駄目だ」と言おうが、絶対に「うん」と頷きはしない。
 「お前の身体には、良くないから」と、難しい顔をされたって。
 しょっちゅう寝込む羽目になろうが、ハーレイと離れるよりはいい。
 ハーレイが仕事に行っている間は、一人きりでベッドの住人でも。
 用意して行ってくれた食事を、食べる元気も出ない日々でも。


 そう、ハーレイが行くと言うなら、何処であろうと一緒に行く。
 「お前には無理だ」と説得されても、喧嘩になっても、諦めはしない。
 「ぼくも一緒に行くんだから」と、言い張るだけ。
 「でなきゃ、ハーレイも行かせやしないよ」と、まるで幼い子供みたいに駄々をこねて。
(…ハーレイが許してくれなくっても…)
 なんとかして、ついて行くんだもんね、と決心は固い。
 ハーレイが転勤して行った後で、自分もコッソリ纏めておいた荷物を送って…。
(其処へ行く便に乗って追い掛けて行けば、ハーレイだって…)
 諦めるしかないだろう。
 「ブルーの荷物」がドカンと届いて、本人もやって来たならば。
 「今日から、此処で暮らすからね」と、悪びれもせずに、上がり込まれたならば。
(…ハーレイが、ぼくを置いて行くほどの場所だから…)
 とても暑いとか、酷く寒いとか、とんでもない気候の場所だろう。
 ハーレイを追い掛けて着いた途端に、「こんなトコなの?」と後悔しそうなほどに。
 「ぼくの身体、ホントに大丈夫かな」と、クラリと眩暈を起こすくらいに。
(…路線バスとかで、ハーレイの家まで行こうとしてても…)
 その計画を立てて来ていても、たちまち挫折する自分がいそう。
 「そんなの無理だよ」と、手荷物さえも、もう重すぎて。
 ヨロヨロしながらタクシーに乗るのが、精一杯で。
(だけど、ハーレイがいる場所なんだし…)
 きっと心は幸せ一杯、「やっと来られた」と弾んでいることだろう。
 前の自分が、憧れの地球に着いたみたいな気分になって。
 どんなに過酷な気候の場所でも、ハーレイと一緒に暮らせるから。
(前のぼくにとっての、地球とおんなじ…)
 ハーレイさえいれば、それで充分、と自信はある。
 「ぼくは絶対、後悔しない」と。
 寝込んでばかりの日々になっても、身体が悲鳴を上げ続けても。
 ハーレイに「やっぱり、お前は帰った方がいい」と心配されても、「嫌だよ」と言うだけ。
 快適な暮らしが待っていたって、其処にハーレイはいないから。
 毎日、通信を入れてくれても、慰めになりはしないから。


(…君が行くなら、ホントに、どんな所へだって…)
 ぼくは必ずついて行くよ、と思ったはずみに、ハタと気付いた。
 今の自分が生まれて来たのは、青い地球。
 ハーレイも一緒について来たわけで、聖痕をくれた神様が起こした奇跡のお蔭。
 二人で地球に生まれる前には、きっと天国にいたのだろう。
 何処にも生まれ変わりはしないで、長い長い時を待っていた。
 青く蘇った水の星の上に、前の自分たちとそっくりに育つ身体が用意されるまで。
 神様がそれを創り出すまで、天国でずっと待ち続けて…。
(やっと生まれて来て、此処で暮らして…)
 生を終えたら、ハーレイと一緒に天国へ帰る。
 今度はけして離れることなく、呼吸も鼓動も、同時に止めて。
 二人一緒に身体を離れて、神の許へと戻ってゆく。
 問題は、それから後のこと。
 ずっと天国で暮らしてゆくのか、また青い地球に生まれて来るか。
 あるいは他の星に生まれて、心機一転、新しい暮らしをしてみるだとか。
(どうするにしても、ハーレイと一緒…)
 それは絶対、譲らないからね、と思うけれども、ハーレイはどれを選ぶだろうか。
 のんびり天国で暮らしてゆくのか、地球に行くのか。
(…今度はスポーツ選手もいいな、って…)
 言い出すかもね、と平和な暮らししか浮かばないけれど、なにしろ、天国なのだから…。
(…他の世界も見えちゃうのかな?)
 平和になってはいない世界、と心配になる。
 神様が見ている世界の中には、そういう場所もあるかもしれない。
 前の自分たちが生きた世界みたいに、虐げられる人々が今もいる世界。
 ミュウが迫害されていたように、容赦なく殺されてゆくような。
(…もしも、そういう世界があったら…)
 ハーレイが、それに気が付いたならば、其処へ行こうと考え始めることだろう。
 とても放ってはおけないから。
 前のハーレイが、そうだったように。
 燃えるアルタミラで、他の仲間を助けなければ、と口にしたのはハーレイだから。


(…前のぼくには、そんな考えなんかは無くって…)
 ただぼんやりと座り込んでいたのに、前のハーレイの言葉で、二人一緒に駆け出した。
 他のシェルターに閉じ込められた仲間を、一人でも多く助け出そうと。
 燃え上がる地面を二人で走って、崩れ落ちて来る瓦礫なんかは気にもしないで。
(…だから、ハーレイなら、きっと…)
 今も苦しんでいる人々を放っておけずに、「俺は、あそこに行って来る」と言うのだろう。
 「なあに、その内に帰って来るさ」と笑みを浮かべて。
 「あそこのヤツらを助け出せたら、大急ぎで此処に戻るから」と。
 それまで天国で待っているよう、とても優しい笑顔を向けて。
 「ほんの少しの間だしな」と、「お前には危険すぎるから」と。
(…転勤先の気候が、ぼくには厳しすぎるから、って…)
 両親の家で暮らした方がいい、と提案するのと、全く変わらない顔をして。
 「俺なら一人で大丈夫だから」と、「一人暮らしは得意だってな」と。
(…だけど、そんなの、嫌だから…!)
 ハーレイだけが危険な場所に行くなど、我慢が出来るわけがない。
 自分はのんびり天国暮らしで、ハーレイだけ苦労するなんて。
 危ない目に遭ったり、怪我をするのを、天国から見ているだけだなんて。
(…君が行くなら、ぼくだって行くよ!)
 もう一度、メギドみたいなことになっても…、と握り締める右手。
 ハーレイの側から離れてしまって、一人きりで死ぬ羽目になろうと…。
(……安全な場所から、見ているだけの暮らしなんかは……)
 ぼくには絶対、出来やしない、と分かっているから、ついて行く。
 ハーレイが、その道を選ぶなら。
(…絶対、ついて来るんじゃないぞ、って言われるに決まっているけれど…)
 コッソリついて行くんだもんね、とニコリと微笑む。
 「君が行くなら、ぼくも行くから」と。
 「前みたいな地獄が待っていたって、君と一緒なら、天国だから」と…。



           君が行くなら・了


※ハーレイ先生が行くのだったら、砂漠だろうと、ついて行くのがブルー君。反対されても。
 前の生のような世界だろうと、やはり一緒に行くのです。止められても、コッソリとv








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(あいつと、地球に来られたんだが…)
 それも蘇った青い地球に、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(青い地球といえば、前のあいつの憧れの星で…)
 前の俺だって憧れたんだ、と今もハッキリと覚えている。
 遠く遥かな時の彼方で、前のブルーと描いた夢を。
 「いつか、地球まで辿り着いたら」と、青い水の星に焦がれたことを。
 なのに、青い地球は何処にも無かった。
 白いシャングリラから目にしたものは、毒素を含んだ海と砂漠に覆われた星。
 死に絶えたままの赤茶けた星が、前の自分たちの時代の地球。
(そいつが青く蘇ってくれて、今の俺たちが暮らしてるんだが…)
 実に素晴らしいことなんだが、と頬を緩めて、「しかし…」と思考を元へと戻す。
 「あいつと生まれ変われるんだったら、地球でなくても良かったよな」と。
 前の生から恋をしていた、愛おしい人。
 生まれ変わって、また巡り会えた、大切なブルー。
 今ではチビの子供だけれども、ブルーと一緒に暮らせるのならば、別の星でも構わない。
 地球からは遠く離れ過ぎていて、そう簡単には行けない星でも。
(…今は平和な時代なんだし、うんと離れていたってだな…)
 長い人生を生きる間には、地球へ行ける日も来るだろう。
 伴侶になったブルーを連れて、憧れの地球を見に行くために旅をする。
 シャングリラの舵輪を握る代わりに、快適な宇宙船の乗客になって。
(それであいつが、地球をすっかり気に入っちまって…)
 地球に住みたいと言い出したならば、迷うことなく地球に引っ越す。
 それまで暮らした星での仕事も、住み慣れた家も、あっさりと捨てて。
 地球で新しい仕事を探して、ブルーの望みの地域に住んで。
(…今の時代なら、そう厄介なことじゃないしな?)
 仕事探しも、引っ越しだって…、と大きく頷く。
 「あいつが望むなら、お安い御用だ」と、「地球で一から、また始めるさ」と。


 今の自分でも、同じ選択は出来ると思う。
 地球とは違った何処か別の星で、ブルーが暮らしたいのなら。
 「あの星で暮らせたらいいな」と、前の生で地球に焦がれていたのと、同じ瞳をするのなら。
(…絶対、有り得ないんだが…)
 あいつの憧れは青い地球だし、と分かってはいても、「俺にだって出来るさ」と溢れる自信。
 ブルーが行きたいと言うのだったら、どんな星にでも、一緒に引っ越してゆく。
 古典の教師の仕事は捨てて、長く暮らした家さえも捨てて。
(…親父とおふくろも、置いてっちまうことになるんだが…)
 マメに連絡すればいいさ、と思い浮かべる、隣町に住む両親の顔。
 「遠くへ引っ越すことにしたんだ」と言っても、きっと許してくれる、と。
(俺の親父と、おふくろだしな?)
 引っ越す理由を口にしたなら、「頑張れ」と励ますことだろう。
 伴侶になったブルーの望みを、ちゃんと叶えてやるべきだ、と。
(幸せにしてやるんだぞ、と…)
 父にバンバン背中を叩かれ、母からも貰う励ましの言葉。
 「しっかり仕事を探しなさいよ」と、「ブルー君を幸せにしてあげなさいね」と。
(…引っ越し先には、古典の教師の仕事なんかは無くっても…)
 なんとかなるさ、と眺める両手。
 「力仕事も充分出来るし、料理も、そこそこ出来るんだしな」と。
 ブルーを食べさせてゆける仕事を見付けて、家も見付けて、二人で暮らす。
 地球からは遠く離れた星でも、其処でブルーが暮らしたいなら。
 今のブルーの夢の星なら、たとえ砂漠の星であろうと。
(…そうさ、あいつが行くと言うなら…)
 何処へだって行くさ、とマグカップの縁をカチンと弾く。
 「あいつが行くなら、何処へだって」と。
 地球でなくても、どんな場所でも、ブルーが行くなら、一緒にゆく。
 迷うことなく、瞬時に決めて。
 「お前が行くなら、俺も行くさ」と、とびきりの笑顔をブルーに向けて。


(…行った先で、少々、苦労しようが…)
 苦労の内にも入らないよな、と心から思う。
 ブルーの望みを叶えるためなら、どんな苦労も厭いはしない。
 前の生からそうだったのだし、今の生でも同じこと。
(砂漠で暮らして、毎日、水汲みから始まるようになってもだな…)
 水場が遠くて大変だろうと、其処がブルーの望みの場所なら、気にしない。
 ブルーは、其処がいいのだから。
 砂まみれになって暮らす日々でも、幸せ一杯でいてくれるなら。
(…まあ、あいつだって、そんな人生は…)
 望まないだろうし、一生、地球で平和に行くさ、と思ったところで、ハタと気付いた。
 「じゃあ、この次はどうなんだ?」と。
 青い地球の上で共に暮らして、此処での生を終えた後。
 ブルーの望みは、「ハーレイが死ぬ時は、ぼくも一緒」で、同時に逝くこと。
 二人揃って、この青い星に別れを告げるのだけれど、そうして身体を離れた後は…。
(…まずは天国に戻って行って…)
 それから先は、どうするのだろう。
 ずっと天国で暮らしてゆくのか、また青い地球に戻るのか。
 あるいは別の星に行くのか、そういったことは、どうなるのだろう、と。
(俺たちは多分、地球に来るまで…)
 一度も、何処にも生まれちゃいない、と確信に満ちた思いがある。
 前の自分たちと同じ姿に育つ肉体、それを得られる時が来るまで待っていたのだ、と。
(…神様が、そのように計らって下さって…)
 長い時間を天国で待って、今の時代に生まれて来たのに違いない。
 ブルーと二人で、今度こそ幸せに生きられるよう。
 前の生で夢を描いていた星、青く蘇った水の星の上で。
(…俺たちの望みは、叶ったんだし…)
 ブルーだって、きっと大満足の人生を送ってゆける。
 前の生で地球に抱いていた夢、それを端から叶えていって。
 今ならではの沢山の夢も、全て叶えて、幸せ一杯。
 最高の人生を送ったブルーは、また天国に戻った後は、どんな選択をするのだろう。
 もう一度、地球に行こうとするのか、天国でのんびり暮らしてゆくか。


(…さてな…?)
 こればっかりは、俺には分からん、とコーヒーのカップを傾ける。
 いくらブルーのことが好きでも、自分は「ブルー」ではないのだから。
 ブルーが何を考えているか、どう望むのかは、ブルー自身にしか分からない。
(…心を読むのとは、別問題で…)
 あいつにしか分かりはしないしな、と思うけれども、ブルーが選んだ道ならば…。
(俺は一緒について行くだけで、ずっと一緒だ)
 さっきも考えていた通りにな、と迷いなどは無い。
 ブルーが、また地球に生まれたいなら、自分も地球に生まれて来る。
 のんびり天国暮らしをするなら、ブルーと一緒にのんびり暮らす。
(…あいつが行くなら、何処だって行くさ)
 砂漠の星でも気にしないぞ、と脳裏に描いた、死の星だった地球。
 「ああいう星でも、行ってやるさ」と、「あいつが行きたいと言うんならな」と。
(…今の時代じゃ、あんな星なんか…)
 何処にも無いと思うんだがな、と分かるけれども、ブルーが「次」を決める所は…。
(天国って所で、此処とは違って…)
 ありとあらゆる様々な世界、それを見渡せる場所かもしれない。
 平和などとは縁遠い星や、前の自分たちが生きていた頃の世界みたいに…。
(…迫害されて、片っ端から殺されていく人間たちが…)
 いる世界だって、もしかしたら、今もあるかもしれない。
 全く違った別の世界なら、それも有り得る。
 天国という場所から広く見渡せば、目に入る世界の中の一つに。
(あいつが、それを見付けちまったら…)
 行こうとするかもしれないな、と零れた溜息。
 「なにしろ、あいつなんだから」と。
 今は我儘な甘えん坊のチビで、サイオンも不器用な子供であっても、中身は「ブルー」。
 遠く遥かな時の彼方で、「ソルジャー・ブルー」と呼ばれた人。
(…うんと幸せに暮らした後だと…)
 きっと放っておけないだろうな、と容易に分かる。
 「次に選ぶのは、その世界だろう」と。
 恐ろしい世界に生まれ変わって、迫害されている人々を助けようとするのだろう、と。


 平和な青い地球があるのに、のんびり天国にいてもいいのに、違う世界へ行くブルー。
 かつて背負って生きた重荷を、また背負うために。
 苦しむ人々を救って、逃がして、生きられる道へ導くために。
(…そうするために、あいつが行くなら…)
 俺も一緒に行くまでだ、とカップに入ったコーヒーを見詰める。
 「またコーヒーとも、おさらばかもな」と。
 時の彼方で暮らした船には、本物のコーヒーは無かったから。
 キャロブから作った代用品だけ、そんな暮らしが長かったから。
(そうなったとしても、本望ってヤツだ)
 ブルーと一緒に行けるのならな、と後悔しない自信はある。
 「次の人生でも、あいつの側にいられるんなら、コーヒーなんぞは、要りはしないさ」と。
 どうせブルーはコーヒーが苦手、次の生でも同じことだろう。
 それなら、コーヒーなどは無用の長物、代用品さえ無くてもいい。
(次は、ブルーもコーヒーが好きになってりゃ、別なんだがな)
 きっと必死にコーヒーを探す俺がいるさ、と思うくらいに、ブルーのことが、まずは第一。
 わざわざ重荷を背負いに行くなら、なおのこと。
 次は少しでも、重荷を軽くしてやりたい。
 最初から二人で行く世界だから、ブルーが背負うのだろう荷物を…。
(俺が半分、いや、俺の方が身体がデカい分だけ、余計にだ…)
 ブルーの肩から、背中から、ヒョイと取り上げて代わりに背負う。
 「このくらい、俺に任せておけ」と。
 「お前の身体は小さいんだから、無理をするな」と。
 とはいえ、相手は「ブルー」なのだし…。
(そうもいかん、という気もするが…)
 ついでに、俺の能力不足ということも…、と思っても決意は変わりはしない。
 「次こそは、俺が背負ってやる」と。
 ブルーにしか背負えないというのだったら、ブルーを背負う。
 「ブルー」を丸ごと背負ってやったら、重荷も一緒についてくる筈。
 「ハーレイ」の手には余るものでも、ブルーの心の重荷なら…。
(背負えるんだし、そうすりゃいいっていうだけのことだ)
 丸ごと広い背中に背負って、ブルーの辛い人生までをも、自分が背負ってやったなら。


(うん、それでいいな)
 それなら、あいつも辛くないさ、と固めた決心。
 今の平和な、地球での暮らしもいいけれど…。
(あいつが行くなら、前みたいな地獄に逆戻りでも…)
 次こそ、上手く生きてみせる、と一気に飲み干したコーヒーの残り。
 「またコーヒーとは、おさらばでもな」と。
 嗜好品などまるで無くても、ブルーと一緒にいられればいい。
 地獄のような世界でも。
 ブルーが重荷を背負ってゆくなら、それをブルーごと背負ってやって…。



         あいつが行くなら・了


※ブルー君が行くと言うなら、どんな場所でも一緒に行くのがハーレイ先生。砂漠の星でも。
 次の生でブルーが辛い人生を選び取っても、やはり一緒に行くのです。何処までも、二人でv








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「理不尽だよね…」
 ホントのホントに、とブルーがフウと零した溜息。
 ハーレイの目の前で、浮かない顔で肩まで落として。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 理不尽って…」
 何がだ、とハーレイはテーブルの上を見回した。
 少し前に、ブルーの母が運んで来てくれた、午後のお茶。
 熱い紅茶がカップに注がれ、ポットにもたっぷり。
 ブルーのカップも、ハーレイのカップも、セットの品。
(…紅茶は全く同じだぞ?)
 俺だけコーヒーってわけでもないし、とハーレイは悩む。
 皿に載せられたケーキにしたって、何処も変わらない。
(お互い、ちょっとは食っちまったから…)
 大きさに差が見えるけれども、元は同じな大きさだった。
 ハーレイの分だけ大きめだった、ということはない。
 なんと言っても、ブルーはケーキや甘いお菓子が大好物。
(たとえ食い切れないにしたって、差があったら、だ…)
 機嫌が悪くなるのは確実、だから最初から差はつかない。
 ブルーの具合が悪くない限り、いつも大きさは全く同じ。


 そういったわけで、見たところ、理不尽な点は無かった。
 ブルーが溜息を零す理由も、肩を落としてしまう原因も。
(…弱ったな…)
 いったい何が理不尽なんだ、とハーレイには解せない。
 ブルーの家に来てからだって、何も起きてはいない筈。
(俺だけ優遇されるようなことは…)
 無かったよな、と順に振り返ってみる。
 家に着いてブルーの部屋に通され、それから…、と。
 午前中に此処で出て来たお茶もお菓子も、ブルーと公平。
 昼食は、ブルーの分が少なめだったのだけれど…。
(そいつも、いつもと同じでだな…)
 俺と同じな量だった方が理不尽だぞ、とハーレイは思う。
 なにしろブルーは食が細くて、少しの量でお腹一杯。
 昼食をたっぷり摂ろうものなら、午後のおやつは無理。
(朝飯の時に、お父さんの皿からソーセージを、だ…)
 「これも食べろよ」と譲られただけでも苦労するらしい。
 たった一本、増えただけなのに。
 ハーレイにしてみれば、本当に「たった一本」なのに。
(そんなヤツだし、昼飯は少なくなっていないと…)
 逆に困ってしまう筈だが、と謎は深まる。
 けれど、昼食の量くらいしか思い付かないものだから…。


「おい。理不尽っていうのは、もしかして、だ…」
 昼飯なのか、とハーレイはブルーに問い掛けた。
 「俺の方が量が多かったんだが、それなのか?」と。
 するとブルーは、「うん…」と小さく頷いた。
「そうなるの、仕方ないけれど…。だってハーレイは…」
 ぼくと違って大きいもんね、とブルーは再び溜息をつく。
 「大人は身体が大きいんだから、食べられる量も…」と。
「おいおいおい…」
 そりゃまあ、俺は大人なんだが、とハーレイは苦笑した。
 ブルーの言い分は分かるけれども、指摘したくなる。
 「前のお前は…」と、時の彼方でのことを。
「いいか、お前が大人になったところで、大した量は…」
 食えんだろうが、とクックッと笑う。
 「前のお前も食が細くて、食えなかったぞ」と。
 「俺と同じ量の朝飯なんかは、無理だったんだし」と。
 そう言ってやると、ブルーは「でも…」と反論して来た。
「それはそうだけど、でも、ハーレイだけ…」
 大人だっていうのは、理不尽だよ、と。
 こんな差なんかつかなくっても、と頬を膨らませて。


「あのね、ぼくだけチビなんだよ?」
 食事も少なくされるくらいの、とブルーは唇を尖らせた。
 「ハーレイは、とっくに大人なのに」と、睨み付けて。
 「どうしてぼくだけ、まだチビなわけ?」と。
(…そこか…!)
 理不尽だと言ってやがるのは、とハーレイも溜息をつく。
 「またか」と、「キスが出来ない文句を言う気だ」と。
 どうせそうなるに決まっているから、先に口を開いた。
「なるほど、お前も前と同じに大人が良かった、と」
 そうなんだな、と確認すると、ブルーは大きく頷く。
「決まってるでしょ、その方が、ずっと…!」
 いいんだもの、と言うから、ハーレイは笑って返した。
 「そうだな、俺も暇になるしな」と。
 「学校でまで、お前と顔を合わせもしないし」と。
 仕事帰りにまで寄らなくてよくて、週末だけで、とも。
「ちょ、ちょっと…!」
 そうなっちゃうの、とブルーが叫ぶから、ニヤリと笑う。
 「当然だろうが」と、「お前は上の学校なんだし」と。
 「そうそう会ってはいられないぞ」と。
「困るよ、それは…!」
 このままでいい、とブルーは悲鳴を上げ続ける。
 「それじゃ、結婚するまで、ずっと離れっ放しだよ」と。
 「そんなの嫌だ」と、「チビでなくちゃ困る」と…。



        理不尽だよね・了








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(夜、寝てる間に小人が出て来て、ぼくの代わりに…)
 いろんなことをしてくれる、って話があったっけ、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…小人さんの、お手伝い…)
 作りかけだった靴を仕上げたり、掃除をしたり、小人がしてくれる仕事は色々。
 この部屋にも、小人が住んでいたなら…。
(…ぼくの代わりに、何をしてくれるわけ?)
 ぼくは仕事をしていないから、と首を捻った。
 大人ではないから、仕事というものは全く無い。
 あえて言うなら勉強が仕事、今の自分は十四歳の子供に過ぎないから。
(でも、勉強は…)
 自分でやらないと身につかないし、小人に任せるわけにはいかない。
 宿題を代わりにやって貰うなど、言語道断。
 もっとも、その前に、自分の場合は…。
(夏休みとかの宿題だって、早めにやってしまうタイプで…)
 小人の助けが必要なほどに、溜め込むような子供ではない。
 つまり、小人がこの部屋に住んでいたって…。
(小人のお仕事、何も無いよね?)
 ちょっぴり残念、とガッカリと床に視線を落として、其処に見付けた小人の仕事。
 何かを床に落っことした時、拾える場所ならいいけれど…。
(ベッドの下とかに入ってしまって…)
 うんと奥の方に行ってしまったら、チビの自分の手は届かない。
 物差しを使って、精一杯に手を伸ばしたって、駄目な時にはどうしようもないから…。
(夜の間に、小人に拾って来て貰ったら…)
 いいわけだよね、と大きく頷く。
 今までにも、何度も代わりに拾って貰った、自分では取れなくなったもの。
 ハーレイに拾って貰ったことも、何度かあって…。


(…ハーレイ…?)
 もしも、ハーレイが小人だったら、とポンと頭に浮かんだ考え。
 今のハーレイは、小人などではないけれど…。
(神様だったら、そういうことも…)
 出来ちゃうよね、と閃いた。
 聖痕をくれて、ハーレイを生まれ変わらせてくれた凄い神様。
 青く蘇った水の星の上に、二人揃って連れて来てくれた力の持ち主。
(だったら、ハーレイを小人にするのも…)
 きっと簡単なんだから、と自信を持って言い切れる。
 「神様だったら、出来る筈だよ」と。
 チビの子供に生まれ変わった自分の部屋に、小人のハーレイを連れて来ることだって、と。
(小人だったなら、今のハーレイとは違うよね?)
 そもそも小人なんだから、と素敵な思い付きを追い掛けてみることにした。
 どんな出会いになるのだろうかと、二人の日々はどうなるのか、と。
(えーっと…?)
 小人のハーレイには、今のハーレイのような家族はいないのだろう。
 前のハーレイが小さくなって、そのまま部屋に現れる。
 それが一番、自然な形になるだろうから。
(小人の家族を作るよりかは、ハーレイだけを…)
 小人の姿に生まれ変わらせる方が、神様も楽に違いない。
 燃え上がる地球の深い地の底、其処で命尽きたという、前のハーレイ。
 その魂をそっと拾って、新しく与える小人の身体。
 ただし、記憶はそのままで。
 見た目もキャプテン・ハーレイそのまま、何処も全く変わることなく。
(最初から大人で、前の命の続きを新しく貰ったハーレイ…)
 そういう小人のハーレイなんだよ、と決めた設定。
 キャプテンの制服を着込んだ小人で、「前のハーレイが小さくなっただけ」と。
 そんなハーレイが、この部屋にやって来るのなら…。
(ぼくが寝ている間じゃないよね?)
 再会出来ないと駄目なんだもの、と眺め回した自分の部屋。
 「小人のハーレイが最初に現れる場所は、何処がいいかな?」と。


 前のハーレイの記憶を持った、小人のハーレイ。
 キャプテン・ハーレイの姿で出て来て、「ブルー!」と呼んでくれるのだろう。
 現れる場所は、読書をしている机の上が良さそうな感じ。
 読書中だし、勉強の邪魔にはならない時間。
 しかも机の上だったならば、床と違って、知らずに踏んでしまう心配などは要らないから。
 小人だから、声は小さいけれども、呼び掛ける声は、ちゃんと耳まで届く筈。
 ハーレイの声を聞いた瞬間、チビの自分の記憶が戻って来るのだと思う。
 聖痕の代わりに、ハーレイの声が切っ掛けになって。
 遠く遥かな時の彼方で、恋をしていた人の懐かしい声で。
(…それもいいかも…)
 聖痕と違って痛くないし、とキュッと握った小さな右手。
 前の生の終わりに冷たく凍えた、悲しい思い出を秘めた手なのだけれど…。
(小人のハーレイが、来てくれたなら…)
 メギドのことなんか、どうでもいいや、という気がする。
 ハーレイと再び出会えたのなら、もうそれだけで充分だろう。
 たとえハーレイが小人だろうが、今の自分が十四歳の子供だろうが。
(…小人だったなら、恋は出来ても…)
 キスは無理そう、と苦笑する。
 なにしろハーレイは小さすぎるし、再会のキスも出来そうにない。
 会えて、どれほど嬉しくても。
 小人のハーレイを手のひらに乗せて、「会いたかったよ」と顔の側まで持って来たって。
(…キスは駄目だ、って叱られなくても…)
 とても小さいハーレイだしね、とハーレイのサイズを考えてみる。
 手伝いをしてくれる小人のサイズは、どのくらいだろう、と絵本なんかを思い出して。
(……ぼくの親指くらいかな?)
 十四歳の子供の手だから、もう少しくらい大きいだろうか。
 手のひらに乗せるには、多分、そのサイズが一番、お似合い。
 小さすぎもせず、大きすぎもしない、親指より少し大きいハーレイ。
 キャプテンの制服を着込んでいたって、小さな小人。
 けれど誰よりも愛していた人、小人になっても愛おしい人。
 キスも出来ないサイズになっても、手のひらに乗っかる恋人でも。


(…ぼくの手のひらに、小人のハーレイ…)
 再会したなら、手のひらに乗っけて、懐かしみながら眺め回すことになるだろう。
 「うんと小さいけど、ハーレイなんだ」と。
 「また会えるなんて思わなかった」と、「絆は切れていなかったんだ」と。
(……きっと、泣いちゃう……)
 瞳から涙がポロポロ零れて、止まらなくなってしまいそう。
 メギドで泣いた時とは違って、嬉しくて、懐かしくて、幸せ過ぎて。
(ぼくが泣いてたら、小人のハーレイが…)
 どうしたんです、と優しく尋ねてくれるだろうから、ますます止まらない涙。
 「ホントに本物のハーレイなんだ」と、心が一杯になってしまって。
(…メギドで、キースに撃たれちゃったこと…)
 ハーレイを心配させたくなくても、話さずには、きっといられない。
 今の自分はチビの子供で、前の自分とは違うから。
 何もかも胸に秘めておくには、あまりにも幼すぎるから。
(……ぼくの右手、凍えちゃったんだよ、って……)
 打ち明けたならば、小人のハーレイは怒り心頭、キースを憎むだろうけれど…。
(キース、何処にもいないしね?)
 だから安心、とホッと息をつく。
 もしもキースが、今の時代に、何処かに生まれていたならば…。
(小人のハーレイ、仇を討ちに行きそうだから…)
 うんと怒って、と可笑しくなる。
 今は平和な時代なのだし、仇を討ちに出掛けたところで、キースを殺しはしない筈。
 日頃、今のハーレイが言っているように、一発、お見舞いする程度。
(でも、小人だから…)
 渾身の一撃をお見舞いしたって、キースには堪えないだろう。
 虫に刺された程度くらいの、小人のハーレイに殴られたダメージ。
 顔の真ん中に食らったとしても、ちょっぴり赤くなるだけで。
 ガツンと鈍い音もしなくて、せいぜい「パチン」か「ピシャン」くらいで。
(…キースがいたなら、面白いかもね?)
 そういうのも、楽しそうだから、と思うけれども、キースはいない。
 小人のハーレイがキースを殴りたくても、今の世界の、何処を探しても。


 キースを一発殴りたいのに、殴れないのが小人のハーレイ。
 そうする代わりに、右手を温めてくれるのだろう。
 小人の手だから、ギュッと握って包み込むことは出来なくても。
 右手をすっぽり包みたくても、自分の身体が親指サイズのハーレイでも。
(手のひらの上で、せっせと擦ってくれそうな感じ…)
 小さな両手で、マッサージして。
 「少し温かくなりましたか?」と、「一番冷たい所は、何処です?」と。
(…ハーレイ、汗だくになっちゃいそう…)
 ぼくの右手は大きいものね、と右手を広げて眺めてみる。
 小人には、とても大きそうだと、「ハーレイを乗っけられるくらいだもの」と。
 それほど大きな右手の持ち主、けれどもチビで幼い子供。
 前の生の終わりに凍えた右手は、やっぱりハーレイに温めて欲しい。
 ハーレイが小人になっていたって、小さな身体でマッサージくらいしか出来なくても。
(…うんと甘えん坊な、ぼく…)
 だけどハーレイなんだもの、と欲張りな気持ちは止められない。
 メギドのことも話してしまうし、右手が凍えたことも喋ってしまう。
 前の生から愛した人には、どうしても甘えてしまうから。
 ソルジャー・ブルーだった頃のようには、今の自分は振る舞えないから。
(…そうだ、ハーレイの敬語…!)
 それは直させなくっちゃね、と気が付いた点。
 いくらキャプテンの制服姿で、前のハーレイの命の続きを生きていたって…。
(小人のハーレイは、新しく生まれて来たんだから…)
 新しい命と身体を持っているのだし、敬語は直すべきだと思う。
 チビの自分は、「ソルジャー・ブルー」ではないのだから。
 敬語を使って話す必要など、欠片もありはしない今。
 ハーレイが敬語で話し掛けたら、「違うよ」と、即座に直さなければ。
 小人のハーレイが使う言葉が、今のハーレイのようになるまで。
 自分のことを「俺」と言うようになって、「ブルー」を「お前」と呼び始めるまで。
 でないと、きっと嬉しさ、半減。
 敬語を話すハーレイのままでは、お手伝いの小人と変わらないから。


(…お手伝いをしてくれる小人だったら、敬語でも…)
 いいんだけどね、と思う反面、小人のハーレイと暮らすのならば…。
(…お手伝いだって、してくれるよね?)
 落っことした物を拾うだけでも、とベッドの下を覗いてみる。
 小人のハーレイがヒョイと入って、「ほら」と渡してくれる鉛筆や消しゴム。
 「けっこう重いな」と、「今の俺には、これでも充分、重労働だ」と笑いながら。
(…もっと身体を鍛えないと、ってトレーニングとかするのかな?)
 この部屋の中を走り回ったり、あちこち、登って下りたりして。
 落とし物を軽々と拾えるようにと、身体を鍛える姿が目に浮かぶよう。
 今も昔も、ハーレイは、とても努力家だから。
(…そうやって鍛えた身体を使って、本のページも…)
 ぼくの代わりに捲ってくれそう、と広がる想像の翼。
 灯りなどを点けるスイッチの類も、小人のハーレイに頼んだならば…。
(お安い御用だ、って小さな身体で…)
 点けたり、消したり、お手伝いしてくれると思う。
 「俺のブルーのためなんだしな」と、小人に出来ることなら、何でも。
(…それも楽しそう…)
 唇にキスは貰えないけど、と夢を見たくなる、小人になったハーレイとの日々。
 「もしもハーレイが小人だったなら、こんな風かな?」と。
 「小人でも、きっと幸せだよ」と、「小人でも、ハーレイはハーレイだもの」と…。



           小人だったなら・了


※再会したハーレイが小人だったなら、と想像してみたブルー君。親指サイズのハーレイ。
 キスも出来ない恋人ですけど、それはそれで幸せな日々になりそう。ハーレイは、ハーレイv










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