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(前と同じだと思うんだけど…)
 変わらない筈だと思うんだけど、と小さなブルーが見詰めたもの。
 自分の部屋で、椅子にチョコンと腰掛けて。
 テーブルを挟んだ向こう側を見る、其処に座った恋人の姿。
(何処から見たって、前のままだよ?)
 服が違っているくらい、と赤い瞳でまじまじと。
 ハーレイは何処も変わっていないけれど、と。


 前の生で自分が愛した恋人、愛してくれたキャプテン・ハーレイ。
 今では自分の学校の教師、それに聖痕を持った自分の守り役。
 肩書きこそ変わってしまったけれども、姿形は同じだと思う。
 がっしりとした身体も、褐色の肌も、金色の髪も。
(全部、おんなじ…)
 今も向けられている優しい視線。
 それをくれる鳶色の瞳も、前の自分の記憶そのまま。
 何処も変わっていないというのに、変わってしまったハーレイの中身。
 こうして二人きりで向かい合っていても、ハーレイの目は…。


(恋人じゃなくって、チビを見てるんだよ)
 口では「俺のブルーだ」と言ってくれるけれど、それは言葉だけ。
 言葉に見合ったものをくれない、行動が何も伴わない。
 愛を交わすのは無理だとしたって、キスくらいはしてくれなければ。
 本当に恋人だと思っているなら、「俺のブルーだ」と言うのなら。
 顎を捉えてキスの一つもしてくれなくては駄目だと思う。
(…ハーレイの目には、チビが見えているから…)
 そのせいなのだと分かってはいる、ハーレイがキスをくれない理由。
 自分があまりに幼いから。
 十四歳にしかならない子供だから。


 けれど、中身は前の自分と変わらない。
 ソルジャー・ブルーだった頃の記憶も持っているのに、チビ扱い。
 それが解せない、どうしてそういうことになるのか。
 ハーレイは何処も変わっていないと思うのに…。
「なんだ、俺の顔がどうかしたのか?」
 その恋人に尋ねられたから。
「…顔じゃなくって、ハーレイの目かな…」
「俺の目だと?」
 何処か変か、と瞬く鳶色の瞳。
「うん、ちょっと…」
 変だと思う、と切り出した。
 その目は何処かおかしくないか、と。


「赤くなってるか?」
 擦ったつもりはないんだが、と首を捻っている恋人。
「ううん、見た目は変わらないけど…。見え方が変」
「はあ?」
「ぼくがチビにしか見えないだなんて、絶対に変だと思うけど…」
 だってハーレイの恋人なんだよ、と大真面目な顔で言ったのに。
 前と同じに見えないなんて、と指摘したのに。
「ふうむ…。ならば、眼科に行くとするかな」
 今日は帰って、と立ち上がろうとするから、慌てて止めた。
「待ってよ、なんで眼科になるの!?」
「俺にはチビしか見えないわけだし、そいつを治療しに行かんとな」
 目が治ったらまた来るから、とハーレイは帰るふりをするから。
 諦めるしかない、チビに見える目。
 帰られてしまって会えないよりかは、一緒の方がいいのだから…。



         チビに見える目・了




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(…チビなんだけどね…)
 ハーレイが言う通りにチビなんだけど、と小さなブルーが覗き込んだ鏡。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、自分の部屋で。
 今日は来てくれなかったハーレイ、会えずに終わってしまった恋人。
 学校の廊下で会ったけれども、それは「ハーレイ先生」だから。
 「先生」と呼ぶしかないハーレイでは、同じ恋人でも気分は半分。
 心は同じに飛び跳ねていても、それを表に出せはしないから。
 前の生でキャプテンだったハーレイ、そのハーレイにブリッジなどで会った時と同じ。
 抱き付くことなど出来はしないし、もちろん甘えることも出来ない。
 親しく言葉を交わせたとしても、あくまでソルジャーとキャプテンとして。
 それと同じで、教師としてのハーレイもそう。
 恋人なのだと顔には出せない、ハーレイの方も出してはこない。
 だから恋人でも気分は半分。
 本当に会えた気分になれない、教師の顔をしているハーレイ。
 会えたけれども会えなかった日、そういう気分で覗いた鏡。
 ハーレイも同じ気持ちでいてくれればいいと、恋人に会えた気分がしないと思って欲しいと。
 けれども、鏡に映った顔は子供の顔だから。
 ハーレイがよく言う「チビ」の顔だから、思わず漏れてしまった溜息。
(…これじゃハーレイ、恋人に会えた気分が半分どころか…)
 四分の一とか、八分の一。
 もっと少なくて十六分の一とか、三十二分の一だとか。
 前の自分の、大人の顔とは違うのだから。
 アルタミラで出会った頃の姿で、恋人ではなかった頃の顔だから。


 これでは駄目だ、と落とした肩。
 自分が見ているハーレイの姿は前と同じで、別れた時とそっくりそのまま。
 忘れもしないキャプテン・ハーレイ、あの制服を着ていないだけ。
 白いシャングリラの舵を握る代わりに、古典の教師をしているだけ。
 メギドへと飛んで別れた時には、「さよなら」も言えずに終わったけれど。
 最後まで抱いていたいと願った、ハーレイの温もりも失くしたけれど。
 独りぼっちになってしまったと泣きじゃくりながら、前の自分は死んだのだけれど…。
(…でも、ハーレイには会えたんだよ…)
 二度と会えないと、泣きながら死んでいったのに。
 ハーレイの温もりを失くしてしまって、絆が切れてしまったからと。
 あの時、冷たく凍えてしまった自分の右手。
 今も右手に刻まれたままの悲しみの記憶、前の自分の涙の記憶。
 それがあるから、今があることが余計に嬉しい。
 またハーレイと巡り会えたし、おまけに自分は生きているから。
 失くしてしまった筈の命も、失くした身体も持っているから。
 奇跡のように時を飛び越え、ハーレイと二人で辿り着いた地球。
 前の自分たちが行こうと夢見た、あの頃は無かった青い星。
 其処へ来られたことは奇跡で、ハーレイともう一度会えたことも奇跡。
 なのに何故だか、ちょっぴり足りない。
 せっかくの奇跡の価値が足りない、今の自分の姿のせいで。
 小さく生まれすぎたから。
 ハーレイは前と変わらないのに、自分はチビ扱いだから。


(…こんなチビだと、ハーレイの目には…)
 恋人だとは映らないだろう。
 前のハーレイが愛した自分は、もっと大きく育った姿だったから。
 充分に大人と言える姿で、周りの者にもそう見えたから。
 白いシャングリラに新しく迎え入れた仲間は、ソルジャーの若さに驚いたけれど。
 ヒルマンたちの方が偉そうなのに、と言った子供もいたけれど。
 それでも姿は大人だったから、「どうして子供がソルジャーなの?」とは訊かれなかった。
 若いとはいえ、大人には見える程度の若さ。
 つまりチビとは違っていたわけで、前のハーレイが知る今の自分と同じ姿は…。
(…初めて出会った頃とおんなじ…)
 あのアルタミラの地獄の中で。
 共に逃げ出して、シャングリラで宇宙を旅したけれど。
 長い長い旅をしたのだけれども、この姿だった頃の自分は恋をしていない。
 ハーレイと恋人同士になってはいない。
(…チビって言われるわけなんだよ…)
 この姿を知るハーレイにとっては、これは恋人の姿ではないから。
 恋という気持ちが芽生えてさえいない、そういう時代の前の自分の姿だから。
 どんなにハーレイが見詰めてみたって、チビはチビ。
 鳶色の瞳に映る姿は、前のハーレイが愛した恋人の姿になったりはしない。
 今の自分が育たない内は、前の自分と同じ背丈にならない限りは。


 せっかく二人で青い地球まで来たというのに、足りない奇跡。
 恋人と一緒に生まれて来たのに、再会したのに、ほんのちょっぴり。
 もう少し大きく育った姿で、今のハーレイと出会いたかった。
 前の自分とそっくり同じに育っていたなら、今頃はとうにキスを交わせていただろうから。
 もしかしたら、愛も。
 前と同じに愛を交わして、年が足りていたら結婚だって。
 それが叶わないチビの姿で出会ってしまった、こんな姿で。
 ハーレイの目には恋人の姿に映らないだろう、十四歳の子供の姿で。
(…これじゃホントに、成人検査を受けた頃のぼく…)
 前の自分が成長を止めてしまった年。
 育たないまま、長くアルタミラで過ごしていた年が十四歳。
 前のハーレイはその頃の自分と出会って、恋をしたのはもっと後のことで…。
(…この顔だと、ただのチビなんだよ…)
 どうしてこうなってしまったのだろう、と零れる溜息。
 もっと大きく育った姿で会いたかったと、奇跡の値打ちが減りそうだと。
 少し罰当たりな考えだけれど、本当にちょっぴり足りない奇跡。
(…でも、神様も許してくれるよ、きっと)
 なにしろ、自分はチビだから。
 恋人の目にもチビだと映るくらいのチビだし、本物の子供。
 子供がちょっぴり膨れていたって、神様は怒りはしないだろう。
 奇跡の値打ちが分からなくても仕方がない、と苦笑いしてくれるだろう。


(だって、本当に子供なんだもの…)
 前のぼくが成人検査を受けた時と変わらないんだもの、と覗いた鏡。
 其処に映った自分の顔。
 前の自分もこの顔だったと、まるで同じだと考えたけれど。
(…えーっと…?)
 同じ顔だと考えた途端に、重なった顔。
 前の自分が見ていた顔。
 成人検査を受ける少し前、施設の中で壁に映っていた顔は…。
(…ぼくだったけど…)
 今と違った、と気が付いた。
 こんな赤ではなかった瞳。銀色をしてはいなかった髪。
 その後に過ごした時が長すぎて、自分でもこうだと勘違いしてしまいがちだけど。
 今の自分は生まれた時からこの姿だから、すっかり馴染んでいたけれど。
 違ったのだった、前の自分が持っていた色は。
 成人検査を受けるよりも前は、ミュウへと変化する前は。


 金色の髪に水色の瞳、それが自分の色だった。
 前の自分が持っていた色、成人検査のショックで失くしてしまった色。
 ミュウになったのと同じ瞬間、身体から色素も抜けてしまった。
 そうして自分はアルビノになった、赤い瞳で銀色の髪の。
 前のハーレイに出会った時には、当然のようにその姿。
 ハーレイには、前の自分が持っていた色も教えてあったのだけれど…。
(…前のぼくの記憶を見せただけだし…)
 そういう色を持っていたのか、とハーレイは思っただけだろう。
 前の自分が失った色を、そうさせた成人検査を考えることはあっても、それだけだろう。
 ハーレイが愛した前の自分は、赤い瞳で銀色の髪。
 出会った時からアルビノだった自分。
 それを思うと…。
(…今のぼくって、なんでこの色?)
 生まれた時からアルビノだった自分。
 前の自分とそっくり同じに生まれたのなら、金色の髪に水色の瞳になる筈なのに。
 何処かで色素を失くさない限り、今もそのままの筈なのに。
(…まさか記憶が戻った途端に、アルビノになるってことも無いだろうし…)
 それほどの衝撃ではなかった気がする、記憶が戻って来た瞬間。
 前の自分の膨大な記憶、それが流れて来たというだけ。
 絡み合った前のハーレイの記憶とも交差したけれど、成人検査とは違ったもの。
 何も失くしも消されもしなくて、自分は自分のままだったから。
 あの衝撃でアルビノになりはしないだろう。
 金色の髪と水色の瞳、それを失くしはしなかっただろう。


 そうなっていたら、ハーレイが出会った今の自分は前の自分とは違った色。
 赤い瞳も銀色の髪も持っていない自分。
 金色の髪に水色の瞳のチビの自分が、今も鏡の向こうに映っているだろう。
 それだとハーレイの鳶色の瞳に映る姿は…。
(…チビのぼくどころか、まるで別人…)
 同じ顔立ちでも、色が違えば印象は変わるものだから。
 髪の色はともかく、瞳の色の違いは大きいだろうから。
(それに、育っても…)
 前のハーレイが失くした自分は帰って来ない。
 同じ背丈に育ったとしても、持っている色が違うのだから。
 ソルジャー・ブルーだった前の自分と同じ姿にはならないから。


(…それじゃ、ハーレイは…)
 前の自分を取り戻せない。
 今もハーレイが止めなかったことを悔やみ続ける、メギドへと飛んでしまった自分を。
(…この色が大事…)
 当たり前すぎて気付かなかったけれど、今の自分が持っている色。
 アルビノに生まれた自分の色。
 この姿だからこそ、いつかハーレイの心を癒せる。
 前の自分と同じに育って、「ぼくはホントに帰って来たよ」とハーレイに微笑み掛けられる。
 今はチビでも、きっといつかは。
(…ほんのちょっぴり、足りないけれど…)
 奇跡が足りないと思うけれども、チビな分だけ足りないけれど。
 この姿を神様がくれたこともきっと、奇跡の一つなのだろう。
 チビな自分は悔しいけれども、この姿がいい。
 前の自分と同じに育って、ハーレイの側にいられる姿。
 赤い瞳に銀色の髪の、今はチビでも、いつかは前の自分とそっくり同じになれる姿が…。

 

         この姿がいい・了


※せっかくの奇跡も、チビの姿では足りないと思うブルー君。子供ならではの不満です。
 けれど、アルビノに生まれられたことも奇跡の内。あんまり膨れちゃダメですよv






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(チビなんだが…)
 すっかりチビになっちまったが、とハーレイが思い浮かべた恋人。
 ブルーの家には寄れなかった日に、夜の書斎で。
 コーヒー片手に想うブルーは、十四歳にしかならない子供。
 その姿も前の自分は見ているけれども…。
(まだ恋人ではなかったしな?)
 いつか恋人同士になるとは、思ってさえもいなかった。
 それが互いに恋に落ちた後、長い長い時を共に暮らして…。
(逝っちまったんだ…)
 たった一人で、前のブルーは。
 メギドへと飛んで、二度と戻って来なかった。
 前の自分はブルーを失くして、独りきりで生きてゆくしかなかった。
 シャングリラが地球へ辿り着くまで、白い鯨を約束の地へと運び終えるまで。
 其処に着いたら全てが終わると、ブルーの許へと旅立てるのだと。
 それだけを思って生き続けた日々、旅の終わりは死の星だった。
 生命の欠片も無かった地球。
 赤い死の星は、前の自分にも死を運んで来た。
 深い地の底、崩れ落ちて来た天井と瓦礫。
 それが自分の命を奪った、望んでいた時が訪れたけれど。
(…ブルーの所へ行ったと言うより…)
 何故だか時を越えちまったぞ、と苦笑いするしかない現状。
 ブルーと二人で時を飛び越えた、遠く遥かな未来に向かって。
 青く蘇った地球の上へと、二人揃って生まれ変わって来た。


 奇跡だとしか思えないこと、生きてブルーと出会えたこと。
 次に会う時は魂だろうと、前の自分は考えたのに。
 前のブルーの身体はメギドで散ってしまって、もう残ってはいないから。
 気高く美しかったブルーの姿は、永遠に失われてしまったから。
 けれど、魂はブルーが失くした身体と同じに、美しい姿のままだろう。
 自分も魂だけになったら、またその姿を見られるだろう。
 その日を夢見て生きていた自分。
 いつかブルーの許にゆくのだと、魂となった愛おしい人に会えるのだと。
(…そういうつもりでいたんだがなあ…)
 何がどうなったか、再び手に入れた命と身体。
 前の自分とそっくり同じ姿の自分が、ブルーと再び出会っていた。
 魂ではなくて、命と身体を持ったブルーと。
 今のブルーと。
 前の自分たちが夢に見た星、白いシャングリラで目指した地球で。
 会えただけで奇跡、また巡り会えたことも奇跡だけれども…。
(…あいつも前とそっくりなんだ…)
 少し幼いというだけで。
 キスを交わして愛を交わすには、幼すぎるというだけで。
 チビとしか呼べない姿であっても、ブルーはブルー。
 前の自分が愛したブルーと、そっくり同じに生まれたブルー。


(今度は生まれつきのアルビノだしな…)
 だから、ブルーの名前はブルー。
 今は伝説となったソルジャー・ブルーにちなんで付けられた名前。
 ブルーと名付けた両親の方は、まさか本物とは夢にも思わなかっただろうけれど。
 育つほどにソルジャー・ブルーに似てゆく顔立ちも、気にしていなかっただろうけれど。
 ソルジャー・ブルーと同じ髪型をさせるほどだし、楽しんでいた部分もあるかもしれない。
 自分たちの子はソルジャー・ブルーに良く似ていると、子供だったらこんな具合、と。
(きっと、あちこちで可愛がられたぞ)
 今よりもずっと幼い姿の、本当に小さなソルジャー・ブルー。
 公園などに行ったら注目を浴びて、お菓子をくれる人などもいて。
(…前のあいつのお蔭ってヤツだ)
 ソルジャー・ブルーが幼くなったらこうだろうか、と誰もが思ってしまうから。
 小さくて愛らしいソルジャー・ブルーに、ついつい声を掛けたくなるから。
(俺にしたって…)
 記憶が戻っていなかったとしても、見掛けたら近付いていただろう。
 幼いブルーの前に屈み込んで、視線を合わせて微笑んだだろう。
 「小さなソルジャー・ブルーだな」と。
 それでブルーが笑んでくれたら、きっと抱き上げて遊んでやった。
 肩車をしたり、それは色々と。
 子供と遊ぶのは好きな方だし、ブルーが慕ってくれるなら。


 そういうブルーに会い損ねたな、と思うけれども、ふと気付いたこと。
 もしもブルーが前と同じに、そっくり同じに生まれていたら、と。
(…前のあいつは、アルビノになってしまっただけで…)
 成人検査が引き金になって、ミュウへと変化したのがブルー。
 それと同時に、ブルーの身体から抜け落ちた色素。
 ミュウになる前は、金髪に水色の瞳だったというブルー。
 辛うじて残った記憶の欠片を見せて貰ったから、知っている。
 前のブルーが成人検査を受けた施設の壁に映った、前のブルーの本当の姿。
 金色の髪に水色の瞳、生まれた時には持っていた色。
(…今のブルーが、あっちだったら…)
 果たして自分は声を掛けただろうか、今よりももっと幼いブルーに。
 偶然出会った公園か何処か、其処でブルーの前に屈んで。
(…きっと、気付きやしないんだ…)
 金色の髪と水色の瞳は、それほど目立ちはしないから。
 ブルーが自分に笑い掛けるとか、懸命に小さな手を振るだとか、そうしたことが無かったら…。
(通り過ぎて終わり…)
 そうなってしまったことだろう。
 記憶は戻って来てはいないのだし、「ブルーだ」と分かりはしないのだから。
 何処にでもいる男の子の一人、公園に大勢いる中の一人。
 実に情けない話だけれども、運命の恋人に気付きもしないで通り過ぎる自分。
 まず間違いなく、そうなっていたに違いない。
 ブルーがアルビノでなかったら。
 金色の髪に水色の瞳、珍しくもない髪と瞳だったら。


(…小さい頃には気付かなくて、だ…)
 再会を遂げた時にも、アッと驚いていたかもしれない。
 ブルーには違いないのだけれども、覚えていたブルーとまるで違うと。
 金色の髪も水色の瞳も、自分が見ていたものではないと。
(まさか記憶が戻った途端に、アルビノになるってことも無いんだろうし…)
 成人検査のような衝撃とは違うから。
 劇的な変化が起こったわけではないから、ブルーは色素を失くしてしまいはしないだろう。
 金色の髪と水色の瞳、そのままで生きてゆくのだろう。
 そうなっていたら…。
(…俺は前とは違うあいつと…)
 向き合うことになっていたのか、と鳶色の瞳を丸くした。
 そこにはまるで気付かなかった、と。
 もしもブルーが前と同じに生まれていたなら、そういうこと。
 色素を失くしてしまわないなら、金色の髪に水色の瞳。
 そんなブルーと出会っていた。
 顔立ちはそっくり同じだとしても、持っている色が違うブルーと。


 金色の髪に水色の瞳。
 前のブルーが持っていた色は、本当はそれだと知っているけれど。
 けれども、そういうブルーは知らない。
 出会った時には既にアルビノ、銀色の髪と赤い瞳と。
 前の自分が恋したブルーは、愛したブルーはその色だった。
 色だけに惹かれた筈などはないし、金色の髪でも、水色の瞳をしていたとしても…。
(俺は恋したと思うんだがな…?)
 外見で惚れたわけではないから、その自信はある。
 とはいえ、実際に前の自分が恋をして共に暮らしたブルーは、銀色の髪で赤い瞳をしたブルー。
 そのブルーしか、自分は知らない。
 少年だったブルーも、気高く美しかったブルーも。


(…今になって、金髪で水色の目だと…)
 違和感があるのか、それとも無いのか。
 これがブルーだと直ぐに馴染んで、その色に慣れてしまうのか。
 きっとそうだと思うけれども、何処か寂しいことだろう。
 ふとしたはずみに前のブルーを思い出しては、その姿が何処にも見当たらないと。
 前の自分が失くしたブルー。
 その姿を二度と見られはしないと、あの面差しはもう何処にも無いと。
 同じ顔でも、同じ姿でも、色で印象が変わるから。
 まるで全く同じ表情、それをブルーが見せたとしても。
 赤い瞳と水色の瞳、色の違いは大きいだろう。
 前のブルーは赤い瞳をしていたからこそ、意志の強さが際立った。
 同じ目をしても、水色だと和らいで薄れて見えることだろう。
 前のブルーの意志の強さは、一人きりでメギドへ飛んだ強さは。


(ブルーの姿にはこだわらないが…)
 人間ではなくて猫の姿に生まれていようが、巡り会えたら愛しただろう。
 「俺のブルーだ」と抱き締めただろう。
 そういう自信はあるのだけれども、本当にそうするだろうけれども。
(…やっぱり前のあいつがいいんだ…)
 前の自分が失くしたブルー。
 失くしてしまった、あの姿で戻って来て欲しい。
 あの時の姿で巡り会いたい。
 今のブルーは少々、小さすぎたけど。
 十四歳にしかならないけれども、色は同じに生まれてくれた。
 もう少し待てば、前のブルーとそっくり同じに育つだろう。
 銀色の髪に赤い瞳の、ソルジャー・ブルーだったブルーと同じに。
 金髪で水色の瞳のブルーも、けして悪くはないけれど。
 猫に生まれたブルーであっても愛せるけれども、贅沢を言っていいのなら。
(あの姿がいいな)
 前のあいつとそっくり同じブルーがいいな、と思ってしまう。
 あの姿がいいと、あの姿をしたブルーにもう一度会えるアルビノのブルーがいい、と…。

 

        あの姿がいい・了


※前のブルーが持っていた本当の色は違った、と思い出してしまったハーレイ先生。
 そっちの色でもいいのですけど、前と同じ色のブルー君が断然いいですよねv





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(ハーレイとキス…)
 いつになったら出来るんだろう、と小さなブルーがついた溜息。
 訪ねて来てくれていたハーレイが軽く手を振り、「またな」と帰って行った後。
 丸一日を一緒に過ごした、楽しい土曜日が終わった夜に。
 明日もハーレイは来てくれるけれど、そういう予定なのだけど。
 会えるというだけ、会って話が出来るだけ。
(…たったそれだけ…)
 恋人なのに、とベッドの端にチョコンと座って溜息をつく。
 パジャマ姿で、肩を落として。
 今日もキスして貰えなかった、と。
 ハーレイはいつも、「キスは駄目だ」と叱るから。
 額をコツンと小突かれるから、自分でも工夫したつもり。
 前の自分と同じ仕草に同じ囁き、それを忠実に真似ようと。
 鏡に向かって練習までした、「こんな感じ」と。
 それは頑張った、表情作り。
 前の自分と同じ表情をして見せたならば、きっとハーレイが釣れるだろうと。
(だって、ハーレイの家に遊びに行けなくなっちゃった理由…)
 子供らしくない顔をしていたせいだと聞いている。
 前の自分と重なる表情、それを自分が見せたのだろう。
 ならばハーレイの心を揺さぶる弱点はそれで、その表情をすれば勝ち。
 自分の部屋でも、唇へのキスをして貰えると踏んで、今日は頑張ってみたというのに…。


 どうやら自分には無理だったらしい、前の自分と同じ表情。
 「キスして」と強請る時の表情、上手く行かなかったキスのおねだり。
 ハーレイは普段と全く同じに「馬鹿」と叱っただけだった。
 額をコツンとやられてしまった、キスの代わりに。
 甘く重なる唇の代わりに、額に拳。
 ゴツンと本気で一撃されたわけではないから、それも嫌ではないけれど。
 ハーレイの大きな褐色の手が「コツン」とやるのも、まるで嫌いではないのだけれど。
(…ハーレイの手だもの…)
 嫌いになれるわけがない。
 コツンではなくてゴツンであっても、「痛い!」と声を上げるくらいの一撃でも。
 あの大きな手が好きでたまらないし、前の自分も好きだった。
 頬を撫でられて、それからキス。
 甘く優しいキスの前には、何度も撫でて貰った頬。
 武骨だけれども、温かい手で。
 白いシャングリラの舵を握る手で、誰の手よりも大きな手で。
 だから、ハーレイの手は嫌いではない。
 額をコツンと小突かれようが、コツンがキスの代わりだろうが。
 けれど、あの手が寄越す「コツン」と、貰い損ねたキスの違いは大きくて。
 それが悔しい、今日も失敗したことが。
 キスを貰えずに終わったことが。


 どうして上手くいかないのだろう、と今日までについた溜息の数。
 両手の指ではとても足りない、足の指でもまだ足りない。
 足りないどころか、きっと自分が百人いたって指の数では数えられないだろう数の溜息。
 そのくらい何度も零した溜息、「ハーレイがキスをしてくれない」と。
 キスが貰えない理由は分かっているけれど。
 前の自分と同じ背丈に育たない限り、キスは駄目だと何度も何度も言われているから。
(でも、それまでが…)
 長いんだけど、と自分の小さな手を眺めてみた。
 前の自分よりも小さくなった手、十四歳にしかならない子供の手。
 パジャマのズボンに包まれた足も、細っこい子供の足でしかなくて。
 前と同じに育つまでの道は長そうな上に、更なるハードル。
(ちっとも伸びてくれないし…)
 ハーレイと再会した日から一ミリも伸びてくれない背丈。
 百五十センチでピタリと止まって、ほんの僅かも伸びないままで。
 前の自分と同じ背丈になる日は近付いて来ない、少しも距離が縮まらない。
 百七十センチだった前の自分との背丈の差もだし、ハーレイとの間に横たわる距離も。
 唇と唇を重ねられる日、そこまでの距離が縮まらない。
 ほんの僅かも、たった一ミリも縮まらないまま、今日もコツンとやられた額。
 「キスは駄目だ」と叱ったハーレイ、キスをくれる筈の唇で。
 あの唇からキスの代わりに、「キスは駄目だ」と叱る声。
 何回となく言われたけれども、叱られたけども、諦められない唇へのキス。
 ハーレイとキスが出来ないままだと、なんとも悲しすぎるから。


 前の自分が幾つも貰った、ハーレイのキス。
 唇へのキスは何種類もあった、「おやすみなさい」と触れるキスやら、「おはよう」のキス。
 触れるだけのキスでさえ何種類もあって、深いキスだって何種類も。
 甘く優しいキスのこともあったし、激しいキスも。
 唇どころか身体中に幾つも幾つも甘やかなキスを貰っていたのに、今は額と頬にだけ。
(…唇にキスが欲しいのに…)
 触れるだけでいいから、唇にキス。
 恋人同士のキスが欲しいし、何度も強請っているというのに。
 いつも答えは「駄目だ」の一言、額をコツンとやられたりもする。
(…すっかり遠くなっちゃった…)
 ハーレイの唇と、自分の唇の間の距離。
 物理的には近付けるけれど、「キスして」と顔を近づけることは出来るのだけれど。
 たったそれだけ、本当の距離は縮まらない。
 ハーレイが「キスをしよう」と思わない限りは、一ミリだって。
 どんなに顔を近付けたとしても、ハーレイの首にスルリと両腕を回しても。
 「キスして」と引き寄せようと笑んでも、本当の距離は縮まない。
 ハーレイの心がキスをしたいと思わないから、一ミリさえも縮みはしない。
 そして額をコツンとやられる、褐色の手で。
 前の自分も大好きだった手、その大きな手で「馬鹿」とコツンと。


 これが悲しい現実なるもの、いくらハーレイと恋人同士だと主張してみてもキスは無理。
 唇へのキスが貰えないのでは、前の自分とずいぶん違う。
 前の自分が「キスして」と甘く囁いた時は、いつでもキスを貰えたから。
 周りに人がいない時なら、どんな場所でもキスを貰えた。
 白いシャングリラの展望室でも、普段だったら人がいそうな通路でさえも。
 なのに今では、ハーレイと二人きりの部屋でも貰えないキス。
 母が「ごゆっくりどうぞ」と扉を閉めたら、暫くは二人きりなのに。
 ノックもしないで開けはしないし、キスは充分出来るのに。
(…触れるだけのキスなら、ホントに平気…)
 優しく触れ合うだけのキスなら、さほど時間はかからないから。
 母が扉をノックした途端にパッと離れたら、絶対にバレはしないから。
 けれど、ハーレイが「駄目だ」と叱る理由は、そういう事態を心配してのことではなくて。
 ハーレイが言うには、幼い自分。
 十四歳にしかならない子供の自分にキスは早いと、駄目だと許して貰えないキス。
 前の自分と同じ背丈に育つまでは、と禁じられたキス。
 唇へのキスが欲しいのに。
 恋人同士のキスが欲しいのに。
 どんなに強請って頑張ってみても、縮んでくれないハーレイとの距離。
 キスを交わしたい唇との距離、それが一向に縮まらない。
 背丈が伸びてくれないから。
 前の自分と同じ姿に育たない内は、ハーレイはキスをくれないのだから。


 何度溜息を零してみたって、伸びそうにないのが自分の背丈。
 縮んでくれないハーレイとの距離、ハーレイはそこにいるというのに。
 家を訪ねて来てくれた時は、膝の上に座って甘えられるのに。
 前の自分なら、そこまで距離が縮まった時は…。
(…ちゃんとキスして、それから、それから…)
 キスのその先のことだって、と遠い記憶を思い返して、また溜息が一つ零れる。
 こんなにも開いてしまった距離。
 キスを貰って愛を交わす代わりに、額をコツンとやられておしまい。
 愛は交わせず、キスも貰えず、恋人と言っても名前ばかりな気がするけれど。
 本物の恋人同士にはなれず、片想いのような気までしてくる自分だけれど。
(…でも、ハーレイの恋人だよね…?)
 お前だけだ、とハーレイは言ってくれるから。
 俺にはずっとお前だけだと、「俺のブルーだ」と。
 そうは言っても、キスをくれないのがハーレイ。
 いくら強請っても、今日のように首に両腕を回して「キスして」と顔を近づけても。
 ハーレイとの距離は開いたままで、キスが出来る距離に来てくれない。
 物理的には近付いていても、心の距離が。
 今の自分とキスをしようという気持ちには決してなってくれない、今のハーレイ。


 その距離を縮める方法は一つ、自分が大きく育つことだけ。
 前の自分と同じ背丈に、同じ姿になるように。
(…ちゃんと育ったら、キスは貰えるよね…?)
 きっと貰えると思うけれども、伸びてくれない自分の背丈。
 ハーレイとの距離は縮まらないまま、唇は近付いてこないまま。
 けれども、いつかは育つ筈だし、その日を待つしかないのだろう。
 幾つ溜息を零したとしても、距離を無理やり縮めることなど絶対に出来はしないから。
 「馬鹿」と額をコツンとやられて、叱られておしまいなのだから。
 悲しいけれども、きっといつかは、この悲しさも笑い話になるのだろう。
 今は縮まらない距離が縮んで、間がゼロになったなら。
 「キスして」とわざわざ強請らなくても、ハーレイのキスが降ってくる。
 前の自分がそうだったように、顎を取られて、上向かされて。
 甘く優しいハーレイのキス。
 唇と唇の間の距離がゼロになったら、キスを交わせる時が来たなら…。

 

         縮まらない距離・了


※ハーレイ先生に「キスは駄目だ」と、コツンとやられるブルー君。今日も失敗です。
 唇と唇の間の距離を縮めるには、育つこと。頑張ってミルクを飲むんでしょうねv





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(充分、分かっちゃいるんだが…)
 俺自身が決めたことなんだが、とハーレイの口から零れた溜息。
 小さなブルーの家へ出掛けた土曜日の夜、書斎でフウと。
 今日も強請られた、唇へのキス。
 「キスして」と強請った小さなブルー。
 前のブルーがそうしたように、首にスルリと腕を回して。
 桜色の唇で、甘く囁いて。
 けれども、その腕の感触が違う。
 前の自分の記憶にある腕、前のブルーが回した腕とは。
 細く華奢ではあったけれども、大人のものだったブルーの腕。
 柔らかい子供の腕とはまるで違った、もっとしっかりとした感触。
 頼りなくはなくて、今ほどに軽い腕でもなくて。
 力だってもっとあったように思う、「キスして」と自分を引き寄せた腕。
 腕も違えば、声も違った。
 甘く囁かれた言葉は全く同じだけれども、違った甘さ。それに息遣い。
 前のブルーも若かったけれど、今のブルーとは違って大人。
 囁く声が子供のものとは違った、もっと低くて落ち着いた声音。
 息も子供の弾んだそれとは、やはり違ってしっとりした息。
(…そうだ、あいつは…)
 前のあいつはそうだったんだ、と飛び去った前のブルーを想う。
 遥かな遠い時の彼方で、前の自分が失くしたブルー。
 たった一人でメギドへと飛んで行ってしまった、暗い宇宙に散った恋人。


 それから長い時が流れて、生まれ変わって来た自分。
 青い地球の上に、ブルーと二人で。
 失くしたブルーにまた巡り会えた、奇跡のように。
 ところが、姿が違ったブルー。
 銀色の髪も赤い瞳も、顔立ちさえも同じだけれども、少年になってしまったブルー。
 遠い昔にアルタミラで出会った頃の姿に、失くしたブルーよりも幼い姿に。
 十四歳にしかならないブルー。
 今の自分の教え子の一人、両親と暮らす小さなブルー。
 お互い、直ぐに分かったけれど。
 前の生で愛した人に会えたと分かったけれども、前と同じにはならない関係。
 恋人同士には違いなくても、交わせない愛と唇へのキス。
 ブルーはそれを望むけれども、自分が「駄目だ」と禁じたこと。
 身体を重ねて愛を交わすことも、唇へのキスも。
(…何処から見たって、チビなんだしな?)
 それに中身も幼いブルー。
 小さなブルーは「前のぼくと同じ」と主張するけれど、それはブルーの勘違い。
 まだ幼すぎて分かってはいない、今の自分が幼いことを。
 前のブルーと同じではないと気付いてはいない、気付きもしない。
 だからブルーはキスを強請るし、「本物の恋人同士」になりたいと願う。
 前と同じに愛を交わして、「本物の恋人同士」になるのだと。
 小さな身体で、幼い心で、耐えられる筈がないというのに。
 泣き叫ぶことになるのだろうに、まるで分かっていないのがブルー。


 とはいえ、愛を交わすことは諦めようと考えたのか、相応しい場所が無いと思ったか。
 そちらは殆ど口にしなくなった、「早く本物の恋人同士になりたいのに」とは。
 けれど諦めないのが唇へのキスで、どんなに「駄目だ」と叱っても…。
(何かのはずみに強請ってくるんだ)
 キスして欲しいと、「ぼくにキスして」と。
 今日もやられた、その攻撃。
 軽くいなして、「馬鹿」と額を小突いたけれど。
 膨れっ面になったブルーを、「キスは駄目だと言っただろうが」と叱ったけれど。
 あの時の余裕は何処へ行ったか、さっき自分がついた溜息。
 「俺自身が決めたことなんだが」と。
 そう、自分自身が決めたこと。
 小さなブルーにどう接すべきか、どう扱うかを考えた末に作ったルール。
 今のブルーにキスをするなら、それは額か頬だけに。
 ブルーの両親もするだろうキス、親愛の情を表すキス。
 そういうキスしか与えないと決めた、ブルーは幼すぎるから。
 恋人同士には違いなくても、前と同じにはいかないから。
 「前のブルーと同じ背丈に育つまでは駄目だ」と禁じたキス。唇へのキス。
 ブルーにもそう言い聞かせてある、この決まりは絶対なのだから、と。


 自分自身が作ったルール。
 小さなブルーが前とそっくり同じ姿に育つまでは、と禁じたキス。
 けれども、たまに寂しくなる。
 ブルーはちゃんといるのだから。
 前の自分が失くしたブルーは、ちゃんと帰って来てくれたから。
(…いつかは大きく育つと分かっちゃいるんだが…)
 それまで待とうと思うけれども、そういう覚悟でいるのだけれど。
 ブルーの背丈は伸びてくれなくて、出会った時と同じまま。
 一ミリさえも伸びはしなくて、今も百五十センチのまま。
 前のブルーの背丈との差は、まるで縮んでくれなくて。
(…あいつも文句を言ってはいるが…)
 俺だって、と零れて落ちてしまった溜息。
 ブルーが育ってくれないことには、キスを交わせはしないのだから。
 唇へのキスは許されないまま、出来ないままで過ごすしかない。
 いくらブルーが「キスして」と首に両腕を回して来ても。
 子供の腕で引き寄せられても、甘い声音で囁かれても。
(まったく、どうして…)
 育たないのだろう、小さなブルーは。
 前のブルーが失くしてしまった、子供時代の温かな記憶。
 それは戻って来ないけれども、代わりに今の子供時代を長く過ごしてゆくのだろうか。
 幼い姿で、両親の愛を一杯に注いで貰って。
 きっとそうだと考えているし、それもいいことだとは思う。
 「急がずに、ゆっくり大きくなれよ」とも言ってやってはいるけれど…。


 縮んでくれない、ブルーの唇との間。
 そこにいるブルーと交わせないキス、唇までの縮まない距離。
 「キスして」と小さなブルーが顔を近づけても、本当の距離は縮まらない。
 物理的な距離が縮むというだけ、キスを交わせる日はまだ来ない。
 訪れてはこない、ブルーは小さいままだから。
 再会した日と変わらないまま、少しも大きくならないから。
(…一ミリも縮まないと来たもんだ…)
 あいつとのキスが出来る距離、と溜息が零れ落ちてくる。
 前の自分が失くしたブルーが戻って来たのに、出来ないキス。
 こんな日が来るとは夢にも思っていなかった。
 ブルーはいるのにキスが出来ない、唇を重ねることが出来ない。
(…前の俺だったら、まるで悪夢で…)
 とても耐えられはしないだろう。
 前のブルーと白いシャングリラで共に暮らす中、こうしてキスが出来なくなったら。
 ブルーはそこにいるというのに、キスを交わせなくなったなら。
 「キスして」と両腕で引き寄せられても。
 甘く囁きかけられても。
(…どんな拷問だ…)
 耐えることなどきっと出来ない、間違いなくキスをしてしまう。
 ブルーの囁きに応えてキスを。
 唇を重ねて、甘く、それでいて激しいキスを。


 それを思えば、今の自分は我慢強いと考えたけれど。
 自分で決まりを作ったほどだし、大したものだと誇らしく思ってしまったけれど。
(…単にあいつがチビだからか?)
 それで余裕があるだけなのか、と唇に浮かんだ苦い笑み。
 現にこうして溜息を零している自分。
 ブルーとの距離が縮まらないと。
 唇との距離が縮まないから、キスが出来る日は遠そうだと。
(…なんだって、こうなっちまったんだか…)
 ブルーがいるのに、失くしたブルーが戻って来たのに、出来ないキス。
 愛も交わせず、キスは額と頬にだけ。
 そういう日々がまだまだ続いてゆくのだろう。
 小さなブルーは少しも育ってくれないのだから。
 再会した日と同じ背丈で、一ミリも伸びてはいないのだから。


 前のブルーとそっくり同じに育つまでは、と自分が禁じた唇へのキス。
 ブルーも不満たらたらだけれど、たまに自分も溜息をつく。
 前のブルーを思い出しては、今の小さなブルーとの違いに気付かされて。
 白い鯨で共に暮らした、恋人とのキスを思い返して。
 いつでもキスを交わせたブルー。
 周りに人がいなければ。
 誰も見ていない所ならば出来た、いつでも唇へのキスが。
 互いの唇を深く重ねて、甘い恋人同士のキスが。
(…すっかり遠くなっちまった…)
 愛したブルーの唇との距離。
 今も変わらず、ブルーを愛しているけれど。
 小さなブルーも自分を慕ってくれるけれども、それは子供の慕い方。
 少しおませな子供の恋人、とてもキスなど出来はしなくて。
 キスをするなら頬と額だけ、子供向けのキスが精一杯。
 だから、こうして溜息をつく。
 自分が決めたことだけれども、遠くなってしまった唇への距離。
 それが少しも縮みそうにないと、まだまだキスを交わせはしないと。
 縮まないブルーの唇との距離。
 いつかブルーが育つ時まで、前のブルーと同じ姿で「キスして」と甘く囁く日まで…。

 

         縮まない距離・了


※ハーレイ先生が決めた、ブルー君とキスが出来るようになる日についてのルール。
 自分で決めても、溜息が出る日があるようです。キスが出来ないのは辛いですよねv





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