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(やっぱりチビ…)
 今日もチビのまま、と溜息をついた小さなブルー。
 部屋の鏡を覗き込んだら子供の顔だし、手足だって子供。
 ソルジャー・ブルーだった頃より、ずっと小さな子供がいるだけ。
 何処から見たって子供でしかない今の自分が、チビの自分が。
 チビのまんまで終わった一日、今日も育ちはしなかった。
 制服の丈が短くなってはくれなかったし、靴も小さくなりはしなくて。
 仕方ないからもぐり込んだベッド、起きていたって育たないから。
 運動したなら効果があるかもしれないけれども、ただ起きていても無駄だから。
 明かりを消したら、暗くなった部屋。
 ぼんやりと見上げた部屋の天井、部屋の中には自分だけ。
(…独りぼっち…)
 ぼくしかいない、とコロンと右へと寝返りを打った。
 誰もいる筈がないベッドの上。
 コロンと左の方を向いても、やっぱり自分がいるだけのベッド。
(…前のぼくなら…)
 一人ではなかった、ベッドでは。
 いつも隣にあった温もり、抱き締めてくれていたハーレイの身体。
 眠りに落ちるまで寄り添ってくれて、眠った後も。
 夜中にぽっかり目が覚めた時も、いつでも隣にあった温もり。
 けれど今では独りぼっちで眠るしかない、チビだから。
 ハーレイとキスを交わすことさえ出来ない子供になってしまったから。


 なんとも悲しい、今の状況。
 ハーレイはちゃんといるというのに、自分の隣にいてはくれない。
 訪ねて来てくれて二人で夜まで過ごしたとしても、時間が来たら帰ってしまう。
 「またな」と軽く手を振って。
 何ブロックも離れた所へ、今のハーレイが住んでいる家へ。
 この時間ならば、ハーレイはまだ起きているのだろうか。
 チビの自分とは違って大人で、丈夫で夜更かしも出来そうだから。
 夜遅くまで起きていたって、次の日の朝は颯爽と早起き出来そうだから。
(ハーレイ、早起きらしいもんね…)
 仕事に行く前に軽くジョギング、そんな日も珍しくないらしいから。
 明日の朝にも何処かへ走ってゆくかもしれない、早い時間に目が覚めたからと。
(…そんな時間があるんだったら、いて欲しいのに…)
 自分の隣に寄り添って欲しい、ジョギングなどに出掛ける代わりに。
 同じベッドで待っていて欲しい、自分がパチリと目を覚ますまで。
 無理だと分かっているけれど。
 こんなに小さなチビのベッドに、ハーレイが来てはくれないことは。
 ベッドの広さの方もともかく、子供の自分。
 キスさえ出来ないチビの自分は、恋人をベッドに入れられはしない。
 ベッドに呼んでも、「馬鹿か」と鼻で笑われるだけで、ハーレイは決して来てはくれない。
 子供のベッドにやって来たって、愛を交わせはしないのだから。
 キスさえ出来ない子供相手に、そんなことなど出来ないのだから。


 恋人同士で愛を交わす時間、同じベッドで眠れる時間。
 自分はちっともかまわないのに、ハーレイとそうしたいのに。
 ハーレイはキスさえ「駄目だ」と叱るし、恋人同士で過ごす夜など夢のまた夢。
 自分の身体が小さい間は、チビの間は持てない時間。
 こうしてベッドで独りぼっちで、コロンと隣を向いてみたって恋人の姿があるわけがない。
 ハーレイの家はずっと遠くで、ハーレイのベッドも遠いから。
 自分のベッドとはまるで違った場所にあるから、ハーレイはいない。
 せっかく巡り会えたのに。
 青い地球の上で会えたというのに、独りぼっちなベッドの上。
 恋人は決して来てはくれない、「遅くなってすまん」と来てはくれない。
 前のハーレイなら、自分が眠ってしまった後でも、そうっとベッドに来てくれたのに。
 寝ている自分を起こさないよう、眠りを破ってしまわないよう、気を付けながら。
 きっといつでも、心の中でだけ声を掛けてくれていたのだろう。
 「遅くなってしまってすみません」と。
 声に出したら、思念にしたなら、前の自分を起こすだろうから、心の中で。
 謝りながらベッドに入って、眠る自分に寄り添ってくれた。
 前の自分も、眠っていたってハーレイが来たと気付いていた筈。
 朝になったら、ハーレイの腕の中でパチリと目が覚めたから。
 いつの間にくっついていたのか分からない胸、広い胸の中に抱かれていたから。


 そんな具合に過ごしていたのが前の自分で、夜はいつでもハーレイと一緒。
 放っておかれたことなど無かった、ただの一度も。
(…ハーレイがヒルマンたちとお酒を飲んでた時だって…)
 徹夜の宴になりはしないから、朝になったらハーレイがいた。
 一人で眠った筈のベッドに、ちゃんといてくれた前のハーレイ。
 それなのに今のハーレイときたら…。
(ぼくを放っておいても平気…)
 「すみません」どころか、「すまん」とも言ったことが無い。
 独りぼっちで眠るしかない今の自分に謝りもしない。
 夕食を一緒に食べた後には、「またな」と手を振って帰ってゆくだけ。
 側にいられないことを謝る気さえも無いのがハーレイ、当然だと思っているハーレイ。
 キスさえ出来ないチビのベッドにいる必要などありはしないと。
 いられないのが当たり前だし、帰ってゆくのが当たり前。
 「すまん」と謝ってくれるわけがない、それが当然なのだから。
 チビの自分と夜を一緒に過ごせはしないし、その必要も無いのだから。
(…チビの間は独りぼっち…)
 こうして一人で眠るしかない、どんなに待ってもハーレイは来ない。
 ソルジャー・ブルーだった頃なら、待ちくたびれて眠った後でもハーレイは来てくれたのに。
 眠る自分を起こさないよう、そっと寄り添ってくれたのに。
(…チビのぼくだと…)
 朝まで待っても来ないハーレイ、絶対に来てはくれない恋人。
 キスさえ出来ないチビはチビだと、一人で寝るのが相応しいのだと。


 悔しくて悲しい、ちっぽけな今の自分の身体。
 チビになってしまった自分の身体。
 前の自分と同じ姿をしていたのならば、ハーレイは隣にいるのだろうに。
 自分を一人で放っておかずに、抱き締めていてくれるだろうに。
(朝だって、きっと…)
 早く目が覚めたからジョギングでも、と思ったとしても、行かずに側にいてくれるだろう。
 そうでなければ、そっと抜け出してジョギングに行って…。
(起きたらメモが置いてあるとか…)
 「走ってくるから、ゆっくり寝てろ」と。
 メモに気付いてベッドでウトウト寝なおしていたら、ハーレイが帰って来るのだろう。
 「目が覚めたか?」と、「そろそろ起きて飯にするか?」と。
 お土産を持っている日もあるかもしれない、「早くから店が開いていたから」と。
 ちょっと入って買って来たからと、焼き立てのパンなどが入った袋を。
(…野菜なんかも買ってくるかもね?)
 走りに行った場所によっては、畑で採れたばかりの野菜もありそうだから。
 それを買おうと心づもりをして走りにゆく日もありそうだから。
 ハーレイのお土産の焼き立てパンやら、新鮮な野菜が並んだ食卓。
 自分の身体がチビでなければ、そういう朝もきっとある筈。
 ハーレイと同じ家で暮らして、同じベッドで眠ることが出来る身体を持っていたならば。
 十四歳の子供の身体ではなくて、前の自分と同じ姿をしていたならば。


 それを思うと悲しいばかりで、チビの身体が恨めしい。
 ハーレイとキスさえ出来はしないし、夜になったら独りぼっちのベッド。
 せっかく二人で地球に来たのに、夢だった星に生まれて来たのに。
 白いシャングリラで目指していた地球、二人で行こうと夢に見た地球。
 あの頃の地球は死の星だったと今のハーレイから聞いたけれども、今では青く蘇った地球。
 其処へ来たのに、ハーレイは側にいてくれない。
 夜になったら「またな」と手を振って帰ってゆくだけ、独りぼっちで残される自分。
(…メギドの時とは違うんだけど…)
 独りぼっちになってしまったと泣きじゃくりながら迎えた最期。
 あまりにも悲しくて辛かった最期、絶望の中で死んでいった自分。
 もうハーレイには二度と会えないと、絆が切れてしまったからと。
 右手に持っていたハーレイの温もり、それを失くしてしまったから。
 あれが本当の独りぼっちで、それに比べれば独りぼっちなどと言ってはいけないのだけれど。
 ハーレイは隣にいてくれないだけで、二度と会えないわけでは決してないのだけれど。
(でも、独りぼっち…)
 自分の隣に温もりは無くて、朝まで待ってもハーレイは来てはくれないから。
 キスさえ出来ないチビのベッドに、恋人が来てくれる筈もないから。


(…ぼくが大きくならないと無理…)
 ハーレイと一緒に眠りたければ、いつも隣にいて欲しければ。
 遅くなった日には「すまん」と詫びながら、ベッドに入って来て欲しければ。
 チビの間はその日は来ないし、キスさえ交わせはしないまま。
 だからコロンと寝返りを打って、キュッと抱き締める自分の身体。
 まだまだチビだと、もっと大きく育たないと、と。
 「寝る子は育つ」と言うほどなのだし、しっかり眠れば育つだろう。
 頑張って食事もしているけれども、きっと眠りも大切だから。
 寝ている間に育つと聞くから、眠る前には祈るしかない。
 早く大きくなれますようにと、少しでも育ちますようにと。
 前の自分と同じ背丈に育ちたいから、ハーレイとキスをしたいから。
 そうして一緒に眠りたいから、こんな夜には祈るだけ。
 育ちたいから、早く大きくして下さいと。
 前のぼくと同じになれますようにと、ハーレイの隣で眠れるようにして下さいと…。

 

        眠る前の祈り・了


※ハーレイ先生のいないベッドで独りぼっちのブルー君。チビでは仕方ありません。
 早く大きくなれますようにとベッドでお祈り、効果は無さそうですけどねv





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(チビなんだが…)
 すっかり小さくなっちまったが、とハーレイが思い浮かべるブルー。
 夜、眠るために入ったベッド。
 部屋の明かりも消したけれども、これが習慣。
 小さなブルーを思い描いて、「いい夢を見ろよ」と心の中で言ってやるのが。
 「メギドの夢なんか見るんじゃないぞ」と、眠っているだろうブルーに語り掛けるのが。
 その声は届かないけれど。
 けして届いてはくれないけれども、いつも、いつでも。
 いい夢を見ろよと、朝までぐっすり眠るんだぞ、と。
(…チビでも、あいつは俺のブルーで…)
 だから眠りを守ってやりたい、祈ることしか出来なくても。
 側で抱き締めてはやれなくても。
 十四歳の少年になってしまったブルー。
 子供の姿に戻ったブルーを、少しでも守ってやりたいから。
 前の生では何度も守ると誓っていたのに、言葉だけで終わってしまった誓い。
 ソルジャー・ブルーだった前のブルーのサイオンは強くて、前の自分は守られる方。
 白い鯨ごと、シャングリラごと、前のブルーに守られていた。
 ブルーの命があった間は、ブルーがソルジャーだった間は。
(…最後の最後まで、俺はあいつに…)
 守られ続けた、前のブルーが命尽きたその瞬間まで。
 前のブルーはメギドを沈めて、シャングリラを守って逝ってしまったから。


 何度も何度も「俺が守る」と誓った言葉は、本当にただの言葉だけ。
 前の自分はブルーを守れず、守り切れずに失くしてしまった。
 それどころか逆にブルーに守られ、そのためにブルーは命まで捨てた。
 暗い宇宙で、忌まわしいメギドで独りぼっちになってまで。
 泣きじゃくりながら死んでいったというのに、前のブルーは守ってくれた。
 前の自分を、白い鯨を。
 ミュウの仲間たちを乗せた箱舟、それが地球へと旅立てるように。
(…そんなあいつがチビになって…)
 戻って来てくれた、自分の前に。
 前の自分は死んでしまって、今は新しい自分だけれど。
 あれから長い時が流れて、青い地球が宇宙に戻った時代。
 そこまでの時をブルーと二人で飛び越えて来た。
 青い地球の上で再び出会えた、愛おしい人に。
 少年の姿になったブルーに、十四歳にしかならないチビのブルーに。


 出会った時には、自分もしていた勘違い。
 ブルーの姿は小さくなっても、中身は同じにブルーなのだと。
 前の自分が愛した通りのブルーの魂、それが戻って来たのだと。
 小さくなってしまっただけで。
 身体だけがチビに戻っただけで。
(あいつが「ただいま」って言った時には…)
 溢れる思いが止まらなかった。
 小さなブルーの最初の言葉は「ただいま、ハーレイ。…帰って来たよ」。
 どれほどにそれが嬉しかったか、その言葉を聞きたいと待ち続けていたか。
 前のブルーを失くした日から。
 メギドで失くしてしまった時から、何度聞きたいと思ったことか。
 手では触れられない思念体でも、幽霊でもいいから、また会いたいと。
 どんな姿になっていようとも、ブルーが帰って来てくれたらと。
 「ただいま」という声が聞きたくて、「ただいま」とブルーに言って欲しくて。
 叶いはしないと諦めていても、それでも聞きたいと願った言葉。
 それをブルーは口にした。
 前の自分が願い続けた、聞きたいと祈り続けた言葉を。
 ようやくブルーに会えたと思った、最後まで愛し続けた人に。
 前の自分が命尽きるまで、会いたいと願い続けた人に。
 地球の地の底、崩れ落ちて来た瓦礫に押し潰されるまで。
 その瞬間にも笑みさえ浮かべて、「これで会える」と思った人に。


 小さなブルーの唇が紡いだ「ただいま」の言葉。
 前の自分が願った通りに、聞きたかった通りにブルーは言った。
 「ただいま」と、それに「ハーレイ」と。
 「帰って来たよ」と、子供の声で。
 前のブルーの声とは違った、声変わりしていない愛らしい声で。
 姿も子供のものだったけれど、中身はブルーだと思い込んだ自分。
 ブルーの魂がそのまま戻って来てくれたのだと、小さな身体に宿ったのだと。
 だから抱き締め、その温もりを確かめずにはいられなかった。
 本当に帰って来てくれたのだと、生きているブルーにまた会えたのだと。
(…あの時、キスをしなかったのは…)
 それどころではなかったからだ、と今にすれば思う。
 自分もブルーも互いの命の温もりを抱き締めたくて、その温もりに酔っていたから。
 愛おしい人と生きて会えたこと、もう一度巡り会えたこと。
 その喜びだけで心が一杯になって、ただただ、確かめたかったから。
 生きているのだと、その温もりを。
 愛おしい人が此処にいるのだと、こうして再び巡り会えたと。


 そうしている間に、ブルーの母がやって来たから。
 慌てて解いてしまった抱擁、離れてしまった互いの身体。
 もう少しばかり、ブルーの母が現れるのが遅かったならば…。
(…キスしちまったんだろうな、何も知らずに)
 ブルーへの想いが溢れるままに。
 愛おしい人との再会のキスを、喜びのままに唇へのキスを。
 あの時にはまだ、勘違いしたままだったから。
 ブルーはすっかり前と同じだと、身体が小さくなっただけだと。
 あと少しばかり時間があったら、きっと唇を重ねていた。
 前の自分が失くしてしまったブルーが帰って来たのだから。
 聞きたいと願い続けた言葉を、「ただいま」と紡いでくれたのだから。
 それを紡いだ桜色の唇、それを覆っていただろう。
 今の自分の唇で覆い、キスを交わしていたことだろう。
 ブルーが子供だと気付かないまま、魂は前と同じなのだと勘違いをして。
 長く離れていた恋人同士の再会のキスを、溢れる想いが止まらないままに。
(…そうなっていたら、どうなったんだか…)
 ブルーにキスをしていたら。
 小さなブルーにキスをしていたら、それから後は。


(あいつ、キスばかり強請ってやがるが…)
 果たして本当に分かっているのか、その辺りが謎。
 唇へのキスはどんなものなのか、恋人同士のキスはどういうものか。
 小さなブルーは不満たらたら、キスが出来ないことを恨んでいるのだけれど。
 自分の身体が小さいせいだと、そうでなければキスが出来たと不満で一杯なのだけど。
(…今のあいつに分かってるんだか…)
 恋人同士が交わすキス。
 ただ唇に触れるだけでは終わらないキス、それの甘さが、その激しさが。
 小さなブルーは「知ってるってば!」と膨れっ面になりそうだけれど、怪しいもの。
 実際の所は、きっと分かっていないだろう。
 今の幼い身体と心に相応しく忘れているのだろう。
 甘かったことだけが、今も記憶に淡く残っているだけで。
 そういうキスを交わしていたこと、それが幸せだったこと。
 その思い出が残っているだけ、ぼやけてしまっているのだろうキス。
 幸せだったと、甘かったと。
 だからキスをと、「ぼくにキスして」とブルーは強請ってくるのだろう。
 もしも本当にキスをしたなら、望み通りのキスをしてやったなら…。
(パニックになるのか、泣き出すんだか…)
 その光景が目に見えるよう。
 赤い瞳が真ん丸になって、驚き慌てるブルーの姿が。
 「何をするの!」とビックリ仰天、「こんなのじゃない」と叫ぶ姿が。
 自分が欲しかったキスはこれとは違うと、もっと優しくて甘かったから、と。


 出会ったあの日に、ブルーが「ただいま」と言ったあの時、キスをしようとしたならば。
 ブルーにキスを贈っていたなら、そういう騒ぎになったかもしれない。
 小さなブルーは逃れようともがいて、自分の方でも何が起こったかと驚いて。
(なんだってキスを嫌がるんだか、と思ったろうなあ…)
 嫌われたのかと焦ったかもしれない、何かブルーに嫌われることをしたのかと。
 まさか子供だとは思わないから、中身はすっかり前のブルーだと思っていたから。
(…どうやら運が良かったらしいな、俺ってヤツは)
 キスを贈る前に、ブルーの母が現れたこと。
 小さなブルーにキスをする前に、再会のキスをしてしまう前に。
 ウッカリそれを贈っていたなら、きっと今でも…。
(何かって言えばキスを強請るんだ、あいつはな)
 パニックになったことなど忘れて、「ぼくにキスして」と。
 「あの時はちょっとビックリしただけ」と、「もう平気だから、ぼくにキスして」と。
(しかしだ、そうはいかないってな)
 ブルーはすっかり子供だから。
 身体と同じに中身も子供で、キスどころではないのだから。
 いつか育ってキスを交わせるほどの背丈になるまでは。
(それまでは、俺も独り寝ってわけで…)
 寂しいけれども、そんな日々さえ愛おしい。
 ブルーは帰って来てくれたのだし、もうそれだけで充分だから。
 幸せに眠ってくれればいい。
 自分のベッドで、怖い夢など見ることもなく。
 だから今夜も祈り続ける。
 「いい夢を見ろよ」と、「朝までぐっすり眠るんだぞ」と…。

 

        眠る前の儀式・了


※ブルー君がいい夢を見られるように、と祈り続けるハーレイ先生。毎晩、ベッドで。
 愛されているブルー君ですけど、「キスが出来ない」と今夜も不満たらたらでしょうねv





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(…なんだか変…)
 こうやって見たらホントに変、とブルーが眺めたフォトフレーム。
 夏休みの終わりにハーレイと写した記念写真。
 それがあることは嬉しいけれども、ハーレイの写真は大好きだけれど。
 一緒に写った自分が問題、ハーレイの腕に抱き付いた自分。
 両腕でギュッと、それは嬉しそうに。
 弾けるような笑顔の自分の、あの日の気持ちは今も鮮やかに蘇る。
 ハーレイと二人で写真が撮れると、腕に抱き付いてもいいだなんて、と。
(…前のぼくだと、こんなのは無理…)
 今と同じに恋人同士で、長い時を共に暮らしたけれど。
 誰にも言えない秘密の仲では、こんな写真を写せはしない。
 だから本当に心が躍った、ハーレイと二人で記念写真を撮るんだから、と。
 ハーレイも自分もとびきりの笑顔、きっと最高の記念写真。
 見る度に幸せになれる写真で、飽きずに何度も眺めるけれど。
(…ぼくがチビだなんて…)
 それがなんとも変に思える、こうして気付いてしまった日には。
 恋人同士にはとても見えない、大人と子供の記念写真。
 教師と教え子、それを抜きにしても、やっぱり大人と子供でしかない。
 あまりにも違いすぎるから。
 背丈もそうだし、顔立ちだって。
 すっかり大人のハーレイの隣、チビで子供の自分の姿。
 今は馴染みの姿だけれども、前はこうではなかった自分。
 前のハーレイと暮らした頃は。
 ソルジャー・ブルーだった頃には。


 成人検査でミュウになってしまい、何もかもが狂ってしまったあの日。
 大人への道を歩む代わりに、待っていたのは地獄だった。
 子供たちを迎える教育ステーション、其処への扉は開かなかった。
 気付けば記憶もすっかり失くして、自分が誰かも、もう分からなくて。
 どれほどの時が流れたのかも、今はいつかも、自分には関係無かった世界。
 何一つ変わりはしないから。
 地獄の果てなど見えはしなくて、出られるとも思っていなかったから。
 そんな日々だから、自分の姿も気に留めてなどはいなかった。
 少しも成長しない自分を、変だとも思わなかった日々。
 時が流れれば子供は育つと、大きくなるのだという基本さえも忘れていたかもしれない。
 本当にどうでもよかったから。
 生きていようが、死んでいようが、それさえも。
 身体は生きていたのだけれども、魂は死んでいたのだろう。
 地獄の日々が終わるのだったら死も悪くないとさえ、思った記憶は無かったから。
 地獄よりは死を、と願いすらもせず、生かされるままに生きていただけ。
 考えることはとうに投げ捨て、何も願わず、夢さえも見ずに。
 それでは育つわけがない。
 未来が無いなら、何一つ見えていなかったのなら。


 前の自分がミュウでなければ、それでも育ちはしただろう。
 骨と皮ばかりに痩せていたとしても、生気の失せた顔であっても。
 けれども、自分はミュウだったから。
 意志の力で成長を止める能力を秘めていたから、成長はそこで止まってしまった。
 自分でも気付かない内に。
 育たないことを変だと思いさえせずに、時だけが周りを流れて行った。
 今がいつかも分からない日々、終わりの見えない地獄の日々。
 それが本物の地獄になった日、世界はガラリと姿を変えた。
 燃え上がる炎と崩れゆく星、まさにこの世の終わりだった日。
 アルタミラという星は壊れて、気付けば宇宙に飛び出していた。
 初めて出会った仲間たちと共に、一隻だけあった宇宙船で。
 共に暮らす仲間と居場所とが出来た、それまでは何も無かった世界に。
 そうしたら、育ち始めた自分。
 まるで意識していなかったのに。
 自分で自分にかけただろう呪い、成長を止めていた呪い。
 それを解こうと思うことすらしなかったのに。
 自分に呪いをかけたことさえ、自分では知りもしなかったのに。


 ある日、気付いたら伸びていた背丈。
 前のハーレイの隣に立ったら、「でかくなったな」と撫でられた頭。
 「この間までは、こんなだったぞ」とハーレイが手で示した高さ。
 俺の此処までしか無かったのに、と。
(…あれでどのくらい伸びてたのかな?)
 二センチか、あるいは三センチか。
 前の自分を気に掛けてくれていたハーレイだから、一センチでも分かったかもしれない。
 少し伸びたと、大きくなったと。
 それが育ったと気付いた始まり、あの船で成長していった自分。
 見上げるようだったハーレイの背丈、隣に立っては比べてみていた。
 前よりも少し伸びただろうかと、今の背丈はどのくらいかと。
 ハーレイとの差が縮んでいったら、顔立ちまでが変わっていった。
 丸みを帯びた子供の顔から、幼さが抜けて。
 背丈が伸びれば、その分だけ。
 育った分だけ、顔も大人のそれへと近付く。
 鏡を覗いて「あれ?」と何度も驚いたほどに、知らない間に続く成長。
 自分の顔はこうだったろうかと、また大人っぽくなったけれど、と。


 そうして育って、大人になって。
 これくらいがいい、と止めた成長、今度は自分自身の意志で。
 自分の立場やサイオンの力、そういったものを考えて成長を止めた。
 今の姿が一番だろうと思ったから。
 相当に若い姿だけれども、持てる力を最大限に使うためにはこの姿だろう、と。
(それでもハーレイよりかはチビ…)
 生憎と、さほど伸びなかった背。
 船の仲間たちと比べれば、けして低くはなかったけれど。
 標準的な背ではあったけれども、ハーレイにはとても敵わなかった。
 追い越したいとまでは思わなかったものの、あれほどの差が残るだなんて…。
(…負けたと思っていたんだけどな…)
 肩を組もうにも、上手くいかない有様だから。
 チビだった頃と同じなのでは、と悔しくなるほど、顔を見上げるしかなかったから。
 もっとも、後には、それで良かったと思う日がやって来たのだけれど。
 ハーレイよりもずっとチビで良かったと、この姿だから存分に甘えることが出来ると。
 自分が今より大きかったなら、とても抱き上げては貰えないから。
 ハーレイの大きな身体に包まれるようにして、眠ることだって出来ないから。


(だけど、あの頃とはチビの程度が…)
 まるで違っているんだけれど、と悲しくなるのが今の現実。
 本物のチビに戻った自分。
 アルタミラで初めてハーレイに出会った、あの頃と全く変わらないチビに。
 チビはチビでも本物のチビに、育つよりも前のチビの姿に。
(…前のぼくだと…)
 ハーレイと記念写真を撮っても、こんな風にはならないだろう。
 同じように両腕で抱き付いていても、もっと背が高くて変わるバランス。
(ちゃんと恋人同士なんです、って…)
 そういう写真になっていたろう、前の自分の背丈があれば。
 前の自分の顔をしていれば。
 ハーレイの腕に抱き付いていても、恋人の腕に抱き付いた写真。
 公園なんかで、カップルたちが撮っているように。
 幸せそうな顔で二人並んで、「お願いします」とシャッターを切って貰っているように。
(…そういうのが撮れた筈なんだけど…)
 自分がチビでなかったら。
 チビだというのは変わらなくても、前の自分と同じ程度のチビだったなら。
 そう、ハーレイの隣に立った時だけ、小さく見えてしまう程度のチビ。
 他の仲間たちと一緒にいたなら充分に大人、そこまで育っていた自分。
 確かにそこまで育っていたのに、その姿で死んだ筈なのに。
 何故だか自分は縮んでしまった、それよりも前のチビの姿に。
 背丈も、大人だった筈の顔立ちも、何処かへ落としてしまったらしい。
 なにしろ、すっかりチビだから。
 どうしようもなくチビで子供で、写真を撮ったら、こうなるのだから。


 なんとも悲しい、ハーレイとの差。
 年の違いも大きいけれども、違いすぎる背丈。
(…このせいでキスも出来ないし…)
 前の自分と同じ背丈になるまでは。
 それまでは駄目だとハーレイに言われた、唇へのキス。
 恋人同士のキスは出来なくて、記念写真を一緒に撮っても、この始末。
 誰に見せても教師と教え子、そうでなければ「親戚のおじさん?」と訊かれそうな写真。
 「恋人が出来た?」と誰も訊いてはくれないだろう。
 憧れの人だと思われるのがせいぜい、スポーツクラブのコーチだとか。
(…ぼくはスポーツ、やってないから…)
 やはり「親戚のおじさん」コースが一番妥当な所だろうか。
 ハーレイが学校の教師だということを、知らない誰かに見せたなら。
 得意満面で披露したって、きっとそういうオチになる。
 恋人同士の記念写真だと自慢したくても、相手が勝手に勘違い。
 ようやく二人で撮れたのに。
 前の生では無理だった写真、恋人同士でくっつき合って写せた最初の一枚なのに。


(ぼくが育っていないだなんて…)
 それだけでこうも違ってくるか、と写真を見詰めて零れる溜息。
 チビでなければ素敵な写真になったのだろうに、あちこちで自慢出来たのに。
 前の自分たちのことは言わないにしても、「ぼくの恋人!」と。
 大好きな人と二人で撮ったと、この人がぼくの恋人だから、と。
(…今のハーレイ、うんと人気だから…)
 羨ましがる人もきっといる筈、と思い浮かべる学校の生徒たちの顔。
 ハーレイが今までに教えた生徒も、大人になってもハーレイを慕っているらしいから。
(…ぼくがチビにさえなってなければ…)
 記念写真の自慢も出来るし、もちろんハーレイとキスだって出来た。
 いったい何処に落として来たのか、前の自分が育った分の背丈と大人の顔立ちと。
 生まれ変わる時に何処かにヒョイと置いてそのまま、忘れて地球まで来てしまったとか。
(…そんなのだったらどうしよう…)
 バスに荷物を置き忘れるように、育った自分を置き忘れて来てしまったろうか?
 それなら自業自得だけれども、やはり悲しくて悔しくなる。
 どうして荷物を確認しないで来たのだろうかと、ウッカリ者めと。
(だけど、行き先、地球だったんだし…)
 はしゃぎすぎて、ワクワクし過ぎてしまって、忘れたのなら仕方ない。
 前の自分が焦がれ続けた星だから。
 荷物くらいは忘れて来たって、ハーレイと二人で地球まで来られたのだから…。

 

        育ってないぼく・了


※ブルー君がハーレイ先生と一緒に写した記念写真。チビでなければカップルの写真。
 それを考えては、たまにガックリ。そういう日々も、きっと幸せv





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(不思議なもんだな…)
 ブルーがチビになっちまうなんて、とハーレイが眺めたフォトフレーム。
 夏休みの終わりに二人で写した記念写真。
 今の自分の腕に両腕でギュッと抱き付いて笑顔のブルーは、まだ子供で。
 アルタミラで出会った頃と同じに本当に子供、まだまだ少年。
 あれから大きく育ったブルーを、自分は見ていた筈なのに。
 正確に言えば前の自分が、側で見ていた筈だったのに。
(…まさか縮むとは思わないよな?)
 いくら俺でも、とあの頃の自分を思い出す。
 前のブルーと共に暮らしたシャングリラ。
 少年だったブルーが育ってゆくのが嬉しかった自分。
 長く成長を止めていたらしいブルー、それが育ってゆくのだから。
 船での暮らしがブルーにはいいと、育ってゆけるのはいいことだと。
 アルタミラの地獄から無事に解放されたからこそ、ブルーは育ち始めたのだと。
 目に見えるほどに毎日、毎日、育ったわけではないけれど。
 古典に出て来る「かぐや姫」のように、アッと言う間に大きく育ちはしなかったけれど。
 それでも、何度気付いたことか。
 また育ったなと、前よりも伸びたブルーの背丈に。
 大人びてきたなと、その面差しに。


 楽しみにしていたブルーの成長、それは素晴らしいことだから。
 前のブルーの比類なきサイオン、育てば能力の方だって…。
(ぐんぐん伸びていたかもしれんが、そっちはなあ…)
 まるで気にしていなかった。
 もっと強くと一度も願いはしなかった。
 早く育って、強いブルーになってくれとは。
 ただただ、嬉しかっただけ。
 今のブルーは育ってゆけると、まだまだ大きくなれるのだと。
 長い年月、育ちもしないで少年の姿でいたというのに。
 成人検査を受けた日のまま、少しも育ちはしなかったのに。
(止まってたものが動き出すのはいいことなんだ)
 本来だったら動く筈のもの、それが止まってしまっていたら。
 早く動かしてやらなければ、と思うのが普通、どんなものでも。
 止まってしまった置時計だとか、立ち往生した車だとか。
 それが再び動き出したら、走り始めたらホッとするもの。
 こうでこそだと、これが正しいと。
 だから、人でも同じこと。
 育ってゆくべき筈の子供が、子供のままでいたならば。
 成長を忘れていたならば。


 前の自分は、成人検査よりも前の記憶をすっかり失くしていたけれど。
 記憶を殆ど奪われたけれど、覚えていた「子供は育つ」ということ。
(育ち切ったら、後は老けていくだけなんだがな?)
 老けると言うか、年を重ねると言うか。
 今の自分が前と同じに、こういう姿になっているように。
 けれども、それよりも前の子供は育つもの。
 目に見えなくても日に日に大きく、そして気付けば大人になるもの。
 それが正しいと、本当なのだと覚えていたから、とても嬉しかったブルーの成長。
 やっとブルーも育ち始めたと、あるべき姿に戻ったのだと。
 伸びてゆく背丈も、大人びてゆくその顔立ちも。
 とても良かったと、この船でブルーは幸せなのだと。
 そうでなければ、きっとブルーは育ちはしないで子供のままでいただろうから。
 育っても何も変わりはしないと、育つことを忘れていただろうから。
(あいつの時計は止まっちまって…)
 育つことさえ忘れてしまった。
 自分が何者なのかも忘れて、行くべき場所さえ無かったから。
 あの時代の子供たちが向かった教育ステーションすら、ブルーのためには無かったから。
 自分が誰かも分からない上に、目標さえも無かったブルー。
 それでは育つわけがない。
 止まってしまったブルーの時計は動いたりはしない、未来が無ければ。


 もしもブルーが、ミュウでなければ。
 成長を止める能力を持ったミュウでなければ、それでも育ちはしただろう。
 閉じ込められていても、辛い日々でも、未来が無くても。
 けれど、ブルーはミュウだったから。
 そのせいで未来も、記憶も失くしてしまったから。
 育つことすら忘れてしまって、長い長い時を少年のままで過ごしていた。
 他のミュウたちは自分も含めて、ちゃんと育っていたというのに。
(あいつと出会って、育ち始めたことに気付いて…)
 どんなに嬉しく、心が弾んだことだろう。
 大きく育ってゆくブルー。
 ある日ふと見れば伸びている背丈、それに大人びて見える面差し。
 もっと大きくと、元気に育ってくれと願った、気付く度に。
 また育ったなと気付かされる度に。
(どこまで育つんだろう、ってな)
 ブルーの背丈が何処まで伸びるか、顔立ちはどう変わるのか。
 いつか成長を自分の意志で止める日までに、ブルーはどれほど育つのかと。
 ただ楽しみに見守った自分、「大きくなれよ」と。
 ブルーのサイオン能力は抜きで、純粋な意味で。
 どんなブルーが出来上がるのかと、どういう姿に出会えるのかと。


(そしたら、凄い美人が出来てだ…)
 男だったけれど、誰が見たって「美しい」と形容しただろうブルー。
 それに気高さ、この世のものとも思えないほどに美しく成長したブルー。
 育つことを本当に止めたブルーは、誰もが振り向く美人になった。
 あの船の中では皆が顔馴染み、知った顔ばかりが揃っていても。
 ブルーがいるだけで空気が違った、能力や立ち位置を別にしたって。
 まるで一輪の花を添えたよう、一輪だけでも「花があるな」と気付く花。
(大輪の薔薇ってわけじゃないんだが…)
 どちらかと言えば百合だったろうか、誇らしげに咲く薔薇よりは。
 清楚でありながらも香り高い百合、俯いて咲いても人の視線を惹き付ける百合。
 ブルーはそういう姿に育った、それは気高く美しい人に。
 ソルジャーの肩書きが無かったとしても、きっと特別だったろう人に。
 たとえ人目に立たない所が、目立たない仕事がブルーに振られていたのだとしても。
 シャングリラの通路を掃除する係や、厨房の裏方だったとしても。
 其処にブルーがいると気付けば、誰もが一瞬、目を奪われる。
 そういう具合になっていたろう、あれほど美しくなったのだから。
 せっせと皿洗いをしていたとしても、床をモップで拭いていたとしても、ブルーはブルー。
 その美しさは損なわれないし、気高さだって。


 思った以上の姿に育って、皆の心を捉えたブルー。
 おまけにソルジャー、シャングリラの皆が誇らしい気持ちで仰いだソルジャー。
 自分たちの長は特別なのだと、これほどの人は何処にもいないと。
 強いサイオンもそうだけれども、姿も、気高いその心も。
(成長を止めた後にも、あいつは育って…)
 姿ではなくて、中身の方。
 前のブルーの魂そのもの、それは止まらずに育ち続けた。
 仲間たちを思い、ミュウの未来を、地球を求めて、ただひたすらに。
 降りられる地面を持たない箱舟、シャングリラを守り、皆を未来へと導き続けて。
 ソルジャーゆえの深い悲しみや憂い、それを誰にも見せることなく。
 苦しみや辛さも育つ糧だった、前のブルーの魂には。
(そうして育って、育ち過ぎちまって…)
 逝っちまった、と思わず噛み締めてしまった唇。
 ブルーは帰って来たのだけれども、小さなブルーがいるのだけれど。
 あの悲しみは忘れられない、前のブルーを失くしたことは。
 たった一人でメギドへと飛んで、二度と戻って来なかったブルー。
 そんな決断が出来る所まで、育たなくてもよかったのに。
 自分の命を投げ出せるほどに、皆のためにと犠牲になる道を選べるほどに。
 もっとブルーが弱かったならば、きっと行ってはいなかった道。
 それを思えば育ち過ぎだった、前のブルーは。
 育ってゆくのを止めもしないで、最後まで。
 並みの人間には出来ない決断、それを迷わず下せたほどに。


(前のあいつは、最後まで育つ一方で…)
 挙句に命を捨ててしまった、まるで総仕上げをするかのように。
 これが自分の生き方だったと、このために自分は今日まで生きたと。
(後悔はしたと言ってたが…)
 それはごくごく個人的なこと、前の自分の恋人としてのブルーの想い。
 前の自分の温もりを失くした右手が凍えて、泣きじゃくりながら死んだブルーだけれど。
 ソルジャーとしてのブルーには微塵も無かった後悔、悔いは無かったらしい人生。
 あんな最期を迎えても。
 看取る者さえいない所で、暗い宇宙で命尽きても。
(…最後の最後まで育ちやがって…)
 そうしてブルーは伝説になった、今の時代も語り継がれる英雄に。
 知らぬ者など誰一人いない、誰もが褒め称える人に。


(…そうやって育って、育ち続けて…)
 逝ってしまった筈のブルーが、何故だか小さく縮んでしまった。
 今の小さなブルーの姿で、前の自分が初めて出会った頃の姿で帰って来た。
 サイオンすらも上手く扱えない、不器用なチビのブルーになって。
(…まさか縮むと誰が思うんだ?)
 ブルーといったら育つもので、と苦笑する。
 最後まで育って育ち続けて、そのせいで逝っちまったほどだったのに、と。
 思いもしなかったことだけれども、縮んだブルーが愛おしい。
 小さなブルーが、これから育つのだろうブルーが。
 せっかく小さく縮んだのだから、今度は育ち過ぎないのがいい。
 姿は育って欲しいけれども、中身の方はほどほどに。
 前のブルーのようにはならずに、甘えて頼ってくれればいい。
 今度は自分が守るから。
 そう、今度こそは自分がブルーを守るのだから…。

 

         育ち過ぎたあいつ・了


※前のブルーは育ち過ぎだった、と考えてしまうハーレイ先生。強く育ってしまったブルー。
 今度はほどほどがいいらしいです。甘えん坊でも、頼りなくても、それがお好みv





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(…ぼくの部屋だと、此処でおしまい…)
 壁なんだよね、とブルーが眺める自分の部屋。
 ベッドに入る前のひと時、ベッドの端に腰掛けて。
 今の自分のためにある部屋、小さな頃から此処で暮らした子供部屋。
 幼かった頃は、眠る時には両親の部屋へ行ったけれども、昼間は子供部屋にいた。
 好きなオモチャを並べて遊んで、他にも色々、その日の気分。
 子供用のベッドが置かれた後には、此処が自分のお城になった。
 本当に自分のためだけの部屋で、いつ眠るのかも自分の自由。
 「早く寝なさい」と言われたりはしても、寝かしつけようと母が来たりはしないから。
 父も同じで、「もう寝ないとな?」と明かりを消されはしないから。
 そんな気に入りのお城だけれども、今では変わってしまった事情。
(…広さはもっとあったんだよ…)
 壁があったのはずっと遠く、と見回してみても消えない壁。
 部屋は四角く壁に囲まれて、そこで切り取られた空間。
 扉を開けても広がりはしない、今の自分が住んでいるお城。
 窓を大きく開けてみたって、その向こうに庭が広がるだけ。
 庭の広さは部屋の広さに足されはしなくて、部屋はやっぱり四角いまま。
(…狭い部屋ではないんだけれど…)
 ベッドの他にも勉強机やクローゼットや、ハーレイが来た時に使うテーブル。
 そのテーブルとセットの椅子だって二つ、それだけ置いても狭くない部屋。
 けれども、部屋は小さな四角。
 今の自分の瞳で見たなら、ぐるりと部屋を見渡したなら。


 じいっと壁を睨み付けても、消えてなくなりはしない壁。
 向こう側が透けて見えたりもしない、サイオンの扱いが不器用だから。
 仕方ないから、目を閉じてみた。
 そしたら壁はもう見えないから、何を見るのも自分の心次第だから。
(…壁はずっと向こう…)
 普通に見たって見えなかった、と思い浮かべた広大な部屋。
 前の自分が暮らした青の間、ソルジャー・ブルーのためにあった部屋。
 とてつもない広さを持っていた部屋、今の自分が住んでいる家がすっぽり入るくらいに。
 深い海の底のようにも思えた照明、青を基調としていた灯り。
 明るさを抑えてあったお蔭で、何処が壁だか分からなかったほど。
 サイオンを使えば見えたけれども、肉眼では闇があっただけ。
 何処まで続くか分からない闇が、果てなど何処にも無さそうな闇が。
(…今のぼくだと、見えないよね?)
 不器用すぎるサイオンの力は、あの壁を捉えられないだろう。
 どんなに瞳を見開いてみても、目を凝らしても。
(…ホントに広すぎ…)
 壁が見えない部屋なんて。
 いくら照明のせいであっても、狭い部屋なら壁は此処だと分かる筈。
 今の自分の子供部屋でも、夜に明かりを消してみたって壁のある場所は分かるから。
 あそこが壁だ、と四角い部屋の広さは把握出来るのだから。


 広すぎた前の自分の部屋。ソルジャー・ブルーが暮らしていた部屋。
 思い出そうにも、目を開けていたら上手くいかない。
 今の自分の小さなお城が邪魔をして。
 壁で四角く囲まれた空間、それよりも外には飛んでゆけない。
 想像の翼を広げて飛ぼうとしたって、壁に当たって行き止まりだから。
(…ちょっぴりなら頭に浮かぶんだけど…)
 青の間を丸ごと思い浮かべるなら、瞳を閉じてしまうしかない。
 今の自分が見ている世界を視界から消してしまうしかない。
 そうして両方の目を閉じてみたら、やっと青の間が見えて来る。
 前の自分が過ごしていた部屋、ソルジャー・ブルーのためだけの部屋が。
(…ずうっと広くて、こっちがスロープ…)
 壁とは違う方を向いたら、緩やかな弧を描いたスロープ。
 青の間と外とを繋ぐスロープ、そのスロープもまた長かった。
 部屋の入口から中へ入って、かなり歩かないと上には着かない。
 前の自分が暮らしたスペース、ベッドなどが置かれた所にまでは。
(一応、途中に出られるルートは…)
 あったのだけれど、滅多に使われなかったそれ。
 スロープの途中に出るためのルート、ジョミーは其処からやって来た。
 初めて青の間に現れた時は、そのルートから。
 スロープを上って来たりしないで、いきなり姿を現したジョミー。
 彼らしいと言えば彼らしい。
 入口に続く正規の通路も、自分は教えた筈なのに。
 青の間に来るための道はこれとこれだ、と誘導してやった筈なのに。


(すっ飛ばしたのがジョミーなんだよ)
 青の間を訪れる者は誰でも、入口から入るのが白いシャングリラでの礼儀作法。
 ソルジャーのプライベートな空間、其処へいきなり飛び込むことは不作法で。
 スロープの途中へ出られるルートは、本当に殆ど使われなかった。
 単にあったというだけのルート、ハーレイでさえも滅多に使いはしなかった。
 前の自分と一番親しく、恋人同士でもあったのに。
 そうでなくても礼儀作法など、自分は気にしていなかったのに。
(…ハーレイだって使わなかったのに…)
 いつも律儀に歩いたハーレイ、入口から入ってスロープを上って。
 急ぐ時には走ったりもした、前の自分が体調を崩して倒れそうになっていた時だとか。
(そんな時でも、ハーレイはスロープ…)
 ノルディを呼びに走った時には、ノルディと一緒に短縮ルートで来たけれど。
 スロープの途中へ出て来たけれども、それ以外は大抵、スロープだった。
(…ハーレイ、真面目なんだから…)
 恋人同士になった後でも、敬語を使い続けたハーレイ。
 「キャプテンですから」と、「皆の前でウッカリ間違えたらマズイですからね」と。
 今でこそ普通に話してくれるけれども、前のハーレイはいつでも敬語。
 スロープの途中へ出られるルートも、個人的な用では使わなかった。
 恋人の所へ急ぐのだったら、使ってくれても良かったのに。
 前の自分は咎めはしないし、むしろ喜んだだろうに。
(でも、ハーレイは使わなくって、ジョミーが来ちゃった…)
 よりにもよって、初対面で。
 誰もが敬意を表するソルジャー、それがどうしたと言わんばかりに。


 やるかもしれない、と思ってはいた。
 ジョミーだったらやりかねないと。
 その型破りな考え方こそ、前の自分が求めていたもの。
 前の自分には無かった強さを持っていたジョミー、常識に囚われないジョミー。
 彼なら新しい時代を築いてくれるだろうと、きっと地球へも行けるだろうと。
 だから教えた、あのルートを。
 来られるものなら来てみるがいいと、誰も此処から来はしないが、と。
 ジョミーは全く、それと気付いていなかったけれど。
 青の間へと続いているだろう通路、それを求めて闇雲に走っていただけだけれど。
(…どっちからでも来られたのにね?)
 ジョミーが走っていた通路なら。
 スロープへと続く入口の方でも、スロープの途中へ出るルートでも。
 どちらを選ぶのもジョミー次第で、前の自分は誘導しただけ。
 「青の間はこっちだ」と心を読ませて。
 前の自分が知っていた道筋、それを自由に読み取らせて。
 そしてジョミーは迷わず選んだ、前の自分に挑むかのように。
 この通り自分はやって来たのだと、文句があるかという勢いで。
(エラたちが見てたら、お説教だよ)
 次からは入口を通るようにと、スロープを上って来るようにと。
 ジョミーがどれほど怒っていようと、聞く耳を持っていなくても。
(あの時はリオしかいなかったから…)
 ジョミーがソルジャーに無礼を働いたことは、最後までバレはしなかった。
 リオには「言うな」と口止めをしたし、ハーレイにだって…。


(こうだったよ、って報告して…)
 あの時、前の自分の表情は多分、輝いていたことだろう。
 ジョミーは本当に強い子供だと、彼ならばきっと地球まで行けると。
 とんでもない場所からやって来たから、あれほどの強さがあったらきっと、と。
(ハーレイ、眉間に皺だったけどね…)
 苦虫を噛み潰したような顔をしていたハーレイ。
 ジョミーはシャングリラを離れて家に戻ったし、それだけでもハーレイが怒るには充分。
 そこへ無礼極まりない青の間への現れ方を聞いたら、ああいう顔にもなるだろう。
(ハーレイだって滅多に使わなかったんだから…)
 あれほど前の自分と親しく、恋人同士でもあったのに。
 ソルジャーに次ぐ地位にいたキャプテンでさえも、あのルートを使いはしなかったのに。
(ジョミーは一直線だったしね?)
 その上、前の自分に怒って怒鳴って、シャングリラから出てゆく有様。
 型破りどころではなかった少年、後の騒ぎはもう本当に…。
(シャングリラまで攻撃されちゃったしね?)
 前の自分も危うく命を落とす所で、シャングリラ中が大騒ぎ。
 けれど、間違ったとは思っていない。
 ジョミーを選んで連れて来たことも、アタラクシアの家に帰したことも。
 何もかもがきっと必要なことで、ジョミーは大きく育ったのだ、と。


 あそこから来たのがジョミーの強さの証明だよね、とパチリと開けた自分の瞳。
 今の自分のお城が映った、青の間もスロープも、何もかもが消えて。
(…ジョミーが飛び込んで来たルート…)
 ハーレイも自由に使ってくれたら良かったのに、と今も思いはするけれど。
 今のハーレイなら、ああいうルートで急いで来てくれそうだけど。
(青の間、無くなっちゃったしね?)
 もうシャングリラも無いんだものね、と目を閉じてみたら、見えた青の間。
 ジョミーの代わりにハーレイがパッと、あのルートから現れた。
 「待たせてすまん」と、「遅れちまったか?」と。
 そう、今のハーレイなら、何の遠慮も要らないから。
 今の自分もソルジャーなどではないのだから。
 目を閉じてみたら、こんな素敵な景色だって見える。
 今では消えてしまった青の間、其処に笑顔で立つハーレイ。
 「遅れてすまん」と、「こっちで来るのが早いからな」と、スロープの途中にパッと現れて…。

 

        目を閉じてみたら・了


※ブルー君が思い浮かべた青の間、思いがけなくもジョミーの思い出が浮かんだようです。
 けれども、それは昔のこと。ハーレイ先生だと、きっと短縮ルートですよねv





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