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(そりゃ、チビだけど…)
 チビなんだけど、と小さなブルーの膨れっ面。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドの端っこに腰掛けて。
 細っこい手足をまじまじ眺めて、大きな溜息。
 「やっぱりチビだ」と。
 今日もハーレイに断られたキス。
 「キスして」と強請ったら、いつものように「駄目だ」の一言。
 前の自分と同じ背丈に育たない限りは、ハーレイはキスをしてくれない。
 恋人同士の唇へのキスは。
 そういう約束、そういう決まり。
 けれど、自分は恋人だから。…チビでも恋人なのだから。
 ハーレイとキスが出来ないのは嫌で、不満でたまらない日々で。
 あの手この手で強請ってみるキス、どれも見事に失敗続き。
 今日もやっぱり駄目だった。
 「ハーレイ、ホントにぼくが好きなの?」と恋人の顔を見詰めてみたのに。
 好きなようには思えないんだけど、とも念を押したのに。
 「ホントに好きならキスをするでしょ?」と、「したくなるでしょ?」と。
 これでハーレイはキスをする筈、と今までに何度も仕掛けた攻撃。
 ハーレイは自分の恋人なのだし、これを言われたら弱い筈、と。
 なのに、頬っぺたに貰ったキス。
 「分かった、キスだな?」と笑ったハーレイ。
 これでいいだろ、と頬っぺたにキスで、「チビにはこれで充分だしな?」とも。


 そうじゃないよ、とプウッと膨れてしまった自分。
 「やっぱり今日も誤魔化された」と。
 チビだと思って馬鹿にしちゃって、とプンスカ怒ってやったけれども、キスは駄目。
 ハーレイは相手にしてはくれなくて、まるで取り合ってくれなくて。
 「ちゃんとキスしてやったじゃないか」と涼しい顔。
 「俺はキスした」と、「キスは額と頬だけだしな?」と。
 それっきり貰えなかったキス。
 唇にキスが欲しかったのに。
 前の生では何度も貰って、ハーレイとキスを交わしていたのに。
(…ホントにチビには違いないけど…)
 チビなんだけど、と眺める手足。
 細っこい上に、手はどう見ても子供の手。
 前の自分の手とは違って、細くて華奢な指の代わりに…。
(…子供の指…)
 細い所は変わらなくても、何処か違った柔らかさ。
 白く滑らかだった前の自分の指も柔らかかったけれども…。
(あっちは大人の指なんだよ…!)
 今のぼくのは柔らかいだけ、と引っ張ってみる。
 チビの自分に似合いの指を。
 柔らかくても、なんの魅力も無さそうな指を。
 前の自分の指にだったら、ハーレイはキスをくれたのに。
 愛おしそうにキスを落として、大切に扱ってくれたのに。


 キスも貰えない、可哀相な自分。
 せっかく恋人がいるというのに、キスは額と頬にだけ。
(…こんなのって、ある?)
 まるでままごと、そういう仲の恋人同士。
 キスも駄目だと言われてしまって、その先のことは話にならない。
 「本物の恋人同士になりたい」と言ったら、叱られるのがオチだから。
 前の自分は、ハーレイと愛を交わしていたのに。
 本当に本物の恋人同士で、夜は二人で過ごしていたのに。
(…キスも出来なくて、ベッドは別で…)
 別々のベッドどころか、家まで別という有様。
 ハーレイの家は何ブロックも離れた所で、きっと今頃は…。
(ぼくが膨れているのも知らずに、コーヒーなんだよ)
 夜はゆっくりコーヒーなのだと、何度も聞いた過ごし方。
 愛用のカップにたっぷりと淹れて、のんびりしているらしいハーレイ。
 コーヒーは自分が苦手なせいで、この家では滅多に出ないから。
 ハーレイの好きな飲み物なのだと知られていたって、出て来ないから。
 飲み損なった分を家でゆっくり楽しむハーレイ。
 きっと、本でも読みながら。
 キスを貰い損ねた恋人のことなど、すっかり忘れて。
 「いい日だった」と傾けるコーヒー。
 膨れっ面の恋人は忘れて、御機嫌だった顔を思い浮かべて。
 「今日もあいつに会って来たしな」と、きっと満足だろうハーレイ。
 キスが出来なくても平気なハーレイ、自分と違って大人だから。


 羨ましくなるハーレイの余裕。
 どうして笑っていられるのだろう、自分とキスが出来なくても。
 「キスは駄目だと言ってるよな?」と、ピンと額を弾けるのだろう?
 いくら誘っても、強請っても駄目。
 ハーレイはいつでも余裕たっぷり、釣られもしないし、キスもくれない。
 「ホントにぼくのことが好きなの?」と確かめてみても。
 「好きなんだったら、キスしたくなるでしょ?」と誘ってみても。
 目の前に恋人がいるというのに、まるで反応しないハーレイ。
 「俺もだ!」と抱き締めてくれないハーレイ、一度もくれない唇へのキス。
 心の中には、キスしたい気持ちもあるのだろうに。
 自分と同じでキスがしたくて、たまらない部分もあるのだろうに。
(…あれが大人の余裕なんだけど…)
 それは分かっているんだけれど、と思わず零れてしまう溜息。
 「ハーレイの余裕が羨ましいな」と、「ぼくはホントにキスしたいのに」と。
 チビでも恋人なのだから。
 どんなに見た目がチビで子供でも、中身は前と同じだから。
 ハーレイに恋したソルジャー・ブルー。
 いつもハーレイを独占していた、愛されていたソルジャー・ブルー。
 それが自分で、見た目がチビになっただけ。
 ほんのちょっぴり、数年分だけ。
 十四歳にしかならない分だけ、ほんのそれだけ小さくてチビ。


 けれど、問題はその数年。
 ちょっぴり足りない年と背丈と、大人っぽさ。
 それが無いから、ハーレイはキスをしてくれない。
 「まだ小さいしな?」と、「前のお前と同じに育て」と。
 余裕たっぷりに笑うハーレイ、その余裕だって無いのが自分。
 背丈と同じに余裕も足りない、プウッと膨れてしまうチビ。
(…それも分かっているんだけれど…)
 出来ない、大人の受け答え。
 もっと上手に応えられたら、ハーレイの態度も変わりそうなのに。
 「俺が悪かった」と、「これで機嫌を直してくれ」とキスをくれるかもしれないのに。
 頬っぺたではなくて、唇に。
 子供相手のキスとは違って、唇へのキス。
 恋人の機嫌を取るために。
 きっと慌てて、大人の余裕も何処へやらで。
(…そういう風になるんだけどな…)
 前の自分の経験からして、きっとそう。
 機嫌を損ねた前の自分に、ハーレイはとても甘かったから。
 ハーレイは少しも悪くなくても、謝ってキスをくれていたから。
 例えば仕事で遅くなった時。
 「待ちくたびれたよ」と膨れていたなら、貰えたキス。
 「遅くなってすみませんでした」と謝りながら。


(前のぼくだって、膨れてたのに…)
 その筈なのに、と思うけれども、無い自信。
 今と同じに膨れっ面でも、育っていたなら変わるのだろうか?
 それとも大きく育った時には、膨れ方そのものが変わるだとか。
(…そんなの、覚えてないってば!)
 もしも覚えていたとしたなら、とうに実験済みだから。
 ハーレイの余裕たっぷりの態度、それを崩そうと頑張って。
 「前のぼくなら、こんな感じ」と真似をして。
 出来ていたなら、ハーレイが釣られて、キスの一つも…。
(貰えていたとか、もうちょっとだとか…)
 どちらにしたって、崩せた余裕。
 大人ならではのハーレイの余裕、それを自分は崩せない。
 どう頑張っても、チビだから。
 ほんのちょっぴり足りない背丈と、年とが大問題だから。
(…もうちょっとなのに…)
 あとちょっぴり、と負け惜しみ。
 自分の手足を眺めてみたなら、ちょっぴりではないと分かるから。
 足りない背丈は二十センチで、足りない年も三年くらいはある筈だから。
(でも、ちょっぴり…!)
 もうちょっとだから、と思わなければ悔しいだけ。
 ハーレイの方は、前と少しも変わらないから。
 前の自分が最後に見たのと、少しも変わっていないのだから。


 どうして自分だけチビなのだろう、と悔しい気持ち。
 もっと大きく育っていたなら、とっくにキスをしていただろうに。
 運が良ければとうに結婚、ハーレイと同じ屋根の下。
 それが出来ないチビの自分は、今日もハーレイに笑われただけ。
 キスを強請って、「分かった」と頬に貰ったキス。
 余裕たっぷりに躱したハーレイ、今頃はきっと家でコーヒー。
 自分の膨れっ面を忘れて、御機嫌で。
 「今日もブルーに会って来たしな?」と。
 ホントに酷い、と膨れたけれど。
 ぼくにはそんな余裕なんか、と考えたけれど。
(あれ…?)
 ハーレイが御機嫌だろう理由は、今日は自分と会えたから。
 学校とは違って、この家で。
 恋人同士の二人として会えて、ちゃんと話が出来たから。
 唇へのキスは出来なくても。そういうキスを交わせなくても。
 だとしたら…。
(…ぼくってチビでも、ちゃんと恋人…)
 そうなんだよね、と浮かんだ笑み。
 キスは駄目でも、ハーレイは自分と会えただけで御機嫌なのだから。
(それなら、いいかな…)
 チビでも立派な恋人だしね、と膨れっ面はもうやめた。
 ハーレイの中に、ちゃんとあるらしい自分の居場所。
 恋人同士のキスは駄目でも、チビでも恋人なのだから…。

 

        チビでも恋人・了


※今日もキスして貰えなかった、と膨れっ面のブルー君。酷い、と膨れてましたけど…。
 ハーレイ先生から見たらチビでも立派な恋人、と直った御機嫌。可愛いですよねv






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(あのチビなあ…)
 好きなんだがな、とハーレイが思い浮かべたブルーの顔。
 夜の書斎で、コーヒー片手に。
 今日も会って来た、小さなブルー。
 前の生から愛した恋人、今も愛してやまないけれど。
(…なにしろチビだし…)
 まだ十四歳にしかならないブルー。
 何処から見ても子供でしかなくて、顔立ちだって子供の顔で。
 恋と言ってもままごとのようで、抱き締めるくらいしか出来ない現状。
 キスをするなら頬と額だけ、親愛のキスと変わらない。
 それが気に入らないブルー。
 何かと言えばキスを強請って、断られる度に膨れっ面。
 そんなブルーが今日も膨れてこう言った。
 「ハーレイ、ホントにぼくが好きなの?」と。
 好きなようには思えないんだけど、と唇を尖らせていたブルー。
 「ホントに好きならキスをするでしょ?」と、「したくなるでしょ?」と。
 もちろん、それはブルーの作戦。
 あわよくばとキスを強請る手の一つ、軽くいなしておいたけれども。
 「分かった、キスだな?」と頬に落として、笑って帰って来たけれど。
 プウッと膨れていたブルー。
 「今日もやっぱり誤魔化された」と。


 チビのブルーに「またな」と告げて来た別れ。
 また来るから、と手を振った時は、笑顔だったブルー。
 膨れっ面は消えてしまって、とうに御機嫌。
 「また来てね」と懸命に手を振っていた。
 夜だというのに、表の通りへ出て来てまで。
 「早く入れよ?」と促すまで、庭に入ろうとせずに。
 だからブルーは忘れて眠っているだろう。
 「ホントにぼくが好きなの?」と問いを投げ掛けたことは。
 よくあることだし、ブルーにとっては作戦の一つ。
 自分の方でも、そうだと分かっているのだけれど。
(…本当に好きか、と訊かれたら…)
 どうなんだかな、と今夜はウッカリ捕まった。
 いつもは笑い飛ばす質問、「好きに決まっているだろう!」と。
 小さなブルーにキスを落として、「もちろん好きだ」と答える問いに。
 果たしてブルーを好きだろうかと、それは小さなブルーだろうかと。
 前の自分の想いの続きで、そのまま「好きだ」と思っていないか、と。
 チビではなかった、ソルジャー・ブルー。
 前の自分が愛した人。
 失くしてもなお愛し続けて、本当に最後の最後まで。
 死の星だった地球の地の底、前の自分が命尽きるまで。


 何度もキスを交わしたブルー。
 愛を交わしたソルジャー・ブルー。
 気高く美しかった恋人、長い時を共に暮らした人。
(ずっと、あいつと一緒に生きて…)
 何処までも共に、と誓い続けた。
 誰にも言えない恋だったけれど、最後まで恋を貫こうと。
 愛おしい人と共にゆこうと、いつまでも二人一緒なのだと。
 それなのに、離れてしまった手。
 ブルーは自分と恋をしたけれど、その前にソルジャーだったから。
 最後までソルジャーらしくあろうと、別れも告げずに飛び去ったブルー。
 二度と戻って来られない場所へ、死が待つだけのメギドへと。
(俺はあいつを失くしちまって…)
 独りぼっちで長い時を生きた。
 白いシャングリラを地球へ運んでゆくために。
 前のブルーが遺した言葉を、ブルーの願いを叶えるために。
 長かった地球までの道と戦い。
 たった一人で残された船で、それでも想い続けたブルー。
 いつか必ず追ってゆこうと、愛おしい人の許へゆこうと。
 ブルーが頼んで飛び去って行った、自分の役目を終えたなら。
 ジョミーを支えて、いつか地球まで辿り着いたら。


 ようやっと着いた、青くなかった約束の場所。
 命あるものは棲めなかった地球。
 全ては其処で終わってしまって、前の自分の命も潰えた。
 地の底深くで、崩れ落ちて来た天井と瓦礫に押し潰されて。
 けれど、苦痛は記憶に無い。
 「これで行ける」と思っただけで。
 やっとブルーの許にゆけると、愛おしい人の側にゆけると。
(…そこで記憶は途切れちまって…)
 どうなったのかは覚えてもいない。
 いつ魂が抜け出したのかも、それから何処へ向かったのかも。
 ブルーに会えたか、会えなかったか、とても大切なそのことでさえも。
(…きっと会えたとは思うんだがなあ…)
 そうでなければ、きっと出会えていないから。この地球の上で。
 青く蘇った水の星の上で、再び出会えた愛おしい人。
 少々、小さすぎたけど。
 キスも出来ないチビの姿で、ブルーは戻って来たのだけれど。
 それでも生きて巡り会えた人。
 地球が蘇るほどに長い歳月、気が遠くなるような時が流れても切れなかった絆。
 前の自分はきっとブルーに会えたのだろう。
 此処に来るまで共に過ごして、二人で地球に来たのだろう。
 前のブルーが焦がれ続けた、青い星の上に。


 もう一度流れ始めた時。
 また始まった、ブルーとの恋。
 チビのブルーに恋をしているし、いつか伴侶に迎えるつもり。
 十四歳にしかならないブルーが、結婚出来る年になったら。
 前のブルーと同じに育って、キスを交わして、愛を交わせるようになったら。
(…俺は確かにあいつが好きで…)
 今も、もちろん愛している。
 まだ幼いから、子供だからキスをしないだけ。
 どんなにブルーが強請っても。
 「ハーレイのケチ!」と膨れられても。
 けれども、今日のブルーの質問。
 「ハーレイ、ホントにぼくを好きなの?」と尋ねたブルー。
 しょっちゅうぶつけられる言葉で、本当にブルーの作戦だけれど。
 「好きならキスをしたい筈だよ?」と持ってゆくのが狙いだけれど。
 ウッカリ捕まってしまった問い。
 「本当にぼくを好きなの?」と。
 小さな自分のことが好きか、と問われたようにも聞こえるから。
 「チビのぼくはどうでもいいんじゃないの?」と。
 「大きく育ってキスが出来るぼくが好きなんじゃないの?」と。
 そういうつもりでブルーは訊いてはいないけど。
 まだ子供だけに、そう思うのなら、そのまま言葉にするだろうから。
 「ハーレイはぼくが嫌いなんだ」と怒って、膨れて。
 「ぼくがチビだから、嫌いなんでしょ?」と。


 いわゆる、自分の考えすぎ。
 小さなブルーが口にした言葉、深い意味など無い言葉。
 それに捕まっても、ブルーはキョトンとするだけだろう。
 「ハーレイ、ぼくが嫌いだったの?」と赤い瞳を真ん丸にして。
 「小さなぼくのことが嫌い?」と、泣きそうな顔にもなるのだろう。
 チビのブルーは、立派に恋人気取りだから。
 「ぼくにキスして」と強請るくらいに、自信に溢れているのだから。
 少し身体が小さいけれども、恋は出来ると。
 キスも出来ると、愛だってきっと交わせるのだと。
(…俺が駄目だと言うから駄目で…)
 そうでなければ出来る筈だと、チビのブルーは勘違い。
 身体と同じに幼い心に、無垢な心に気付きもせずに。
 小さな自分がそれをしたって、前のようにはいかないのだと知りもしないで。
(そういうチビが、あいつってわけで…)
 前のブルーとは違ったブルー。
 魂は同じブルーだけれども、姿の通りに小さなブルー。
 遠く遥かな時の彼方で、初めて出会った頃と同じに。
 アルタミラの地獄で出会った少年、子供だと信じていたブルー。
 年上だなどと、気付きもせずに。
 なにしろブルーは、姿の通りだったから。
 成長を止めていた姿そのまま、中身は子供だったから。


(…あの時は恋をしてなくて、だ…)
 前のブルーと恋をしたのは、ブルーが大きく育ってから。
 小さかったブルーと恋はしなくて、キスも交わしていなかった。
 つまりは今のチビのブルーが…。
(…俺が初めて恋をしたチビで…)
 前の自分には無い経験。チビのブルーと恋をすること。
 なるほど勝手が違うわけだ、と唇に浮かんだ苦笑い。
 ブルーの方では、前の自分とそっくり同じな「ハーレイ」を見ているわけだけれども。
(俺が見てるのは、前のブルーと同じブルーでも…)
 チビの頃のブルーなんだった、とコツンと軽く叩いた頭。
 それでは答えが出るわけもない。
 「ハーレイ、ホントにぼくが好きなの?」という質問を深く考えても。
 思考の迷路に入り込んでも、前の自分の答えが出ては来ないから。
 前の自分になったつもりで答えるのならば、「好きだ」の意味が変わるから。
 小さなブルーも好きだったけれど…。
(恋じゃなくって、友情だな、うん)
 後に恋へと育つ種なら、確かにあっただろうけれど。
 一目惚れだと思うけれども、恋をしてから気が付いたこと。
 前の自分はチビのブルーと恋はしなくて、キスしたいともまるで思いはしなかったから。
 それを思えば、今の自分は…。
(あいつに恋をしているってな)
 よし、とコーヒーを傾けた。
 ウッカリ捕まってしまった質問、それの答えは得られたから。
 たとえチビでも、キスが出来なくても、今のブルーにちゃんと恋しているのだから…。

 

       チビでも好きだ・了


※ハーレイ先生がウッカリ捕まってしまったブルーの質問。深く考えすぎですけれど。
 それでも答えは出たみたいですね、「チビでもブルーに恋をしている」とv




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(断られちゃった…)
 ハーレイのケチ、と小さなブルーが尖らせた唇。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドの端に腰掛けて。
 昨日も今日も会ったハーレイ、週末を二人で過ごしたけれど。
 考えた末に出した注文、それをあっさり断った恋人。
 「お前には早い」と睨まれた上に、額もコツンと小突かれた。
 キスを強請ってはいないのに。
 ちょっと上着を貸して欲しいと、お願いをしただけなのに。
(ハーレイの上着…)
 それを羽織ってみたかった。
 チビの自分が羽織ったらきっと、ブカブカの筈の大きな上着。
 昨日や今日に着ていたような普段着とは違う、スーツの上着を。
 今のハーレイの仕事用の服。
 学校で授業をしている時には着ているスーツ。
 暑い季節はワイシャツだったけれど、今はきっちりスーツにネクタイ。
 つまりスーツはハーレイの制服、キャプテンの制服がそうだったように。
 だから羽織ってみたいと思った、大きいだろうスーツの上着を。
 前の自分がそうだったから。
 キャプテンの制服の上着を借りては、それを羽織って過ごしていたから。
 ハーレイが来るのが遅くなった日は。
 青の間で独りが寂しいような気持ちになったら、昼間にだって。


 たまたま羽織った父の上着が切っ掛けになって、思い出したこと。
 前の自分が借りて羽織ったキャプテンの上着。
 一番最初は、ハーレイが酷く遅くなった日。
 あらかじめ言われていたのだけれども、「遅くてもいいから来て」と頼んだ。
 けれど、待つ間に寂しくなって。
 まだハーレイは来られないのかと、サイオンで何度も様子を眺めて。
(ハーレイ、真面目だったから…)
 一向に終わる気配も見えないキャプテンの仕事。
 待ちくたびれて、寂しさが増して。
 ふと思い付いたのがキャプテンの制服を借りること。
 きっと自分には大きすぎる上着、それを着たなら暖かくなるに違いないと。
 まるでハーレイに包まれたように、すっぽり包んでくれそうな上着。
 そう考えたら、本当に欲しくなったから。
 キャプテンの部屋のクローゼットに並んだ上着を、「借りるよ」と一つ失敬した。
 瞬間移動でヒョイと攫って。
 腕の中にバサリと落ちて来たそれは、思ったよりも重いもの。
 羽織ってみたら、本当にハーレイに包まれた気分になったから。
 嬉しくなって、頬が緩んで、もう幸せで。
 いつの間にやらベッドでうたた寝、それを着たまま。
(…ハーレイには呆れられちゃったけど…)
 気に入ったのだった、あの上着が。
 自分が着るには大きすぎる服、ブカブカのキャプテンの制服が。


 それ以来、何度も無断で借りた。
 ハーレイが来るのが遅くなったら、寂しい気持ちを感じたら。
 キャプテンの部屋から一つ持ち出して、くるまっていた大きな上着。
 クリーニングを済ませたものでも、「ハーレイみたいだ」と思えたから。
 恋人の腕に包まれた気分になれたから。
(…あの上着、ホントに好きだったから…)
 今のハーレイのも着てみたくなった。
 学校で着ているスーツの上着。
 あれを羽織らせて貰えないかと、きっと幸せになれるから、と。
 ところが、ハーレイとゆっくり過ごせる週末の休日。
 ハーレイはそれを着て来ない。
 いつも普段着、ハーレイに似合う普通の上着。
 休日にスーツは着ないから。
 スーツはあくまで仕事用だから、週末に着て来るわけがない。
 せっかく思い付いたのに。スーツの上着を着てみたいのに。
(昨日も普段着、今日も普段着…)
 色もデザインも違ったけれども、スーツではなかったハーレイの上着。
 昨日は「違うんだ…」とまじまじ眺めて、心で何度もついた溜息。
 「これじゃ駄目だ」と。
 自分の夢は叶いはしないと、休みの日には無理なようだと。
 だから昨夜に一大決心、今日は強請ってみようと決めた。
 普段着のハーレイがやって来たなら、平日に備えて注文を、と。


 仕事が早く終わった時には、帰りに寄ってくれるハーレイ。
 部屋で二人でお茶を飲みながら、夕食の支度が出来るのを待つ。
 そういう時なら、ハーレイはスーツ。
 学校で着ていたスーツそのまま、借りようと思えば借りられる上着。
(…頼んだら、上着、借りられるもんね?)
 借りてやろう、と決意を固めて、まずは予約、と考えた。
 今日もハーレイは普段着の上着、それをまじまじと眺めた後で。
 頼まなければ何も始まりはしないから。
 「あのね…」とハーレイに語り掛けた言葉。
 次にスーツで来る日があったら、上着を貸して欲しいんだけど、と。
 「いいぞ」と答えそうだったハーレイ。
 多分、最初はそう思った筈。
 「おっ?」という顔はしていたけれども、嫌そうには見えなかったから。
 あのままハーレイが承知していたら、きっと着られていただろう上着。
 次にスーツでやって来たなら。
 「これだっけな?」と脱いだ上着を、「ほら」と肩から被せてくれて。
 「ブカブカだなあ…」などと苦笑しながら、袖を通すのを手伝ってくれて。
 今のハーレイの制服のスーツ。
 重くてブカブカ、それでも幸せになれたと思う。
 ハーレイに包まれた気分になって。
 前の自分が羽織っていた上着、あの頃の日々を思い浮かべて。


 なのに世の中、思い通りにはならないもの。
 ハーレイの上着を借りる計画は、上手く運びはしなかった。
 間の悪いことに、ハーレイが思い出したから。
 前の自分が借りた上着を、キャプテン・ハーレイの上着のことを。
 どういう時に借りていたのか、そっくりそのまま戻った記憶。
 お蔭で「駄目だ」と断られた上着。
 「チビのお前にはまだ早すぎだ」と、「もっと大きく育ってからだ」と。
 前の自分と同じ姿に育つまでは駄目だ、と言われた上着。
 そうなれる日は遠そうだから、と借りて羽織ってみたかったのに。
 気分だけでも、あの頃のぼく、と上着を借りてみたかったのに。
(…ハーレイ、ホントにケチなんだから…!)
 キスをしてくれと頼んでも駄目。
 上着を貸して、と言っても駄目。
 自分がチビだというだけで。
 前の自分と同じ姿をしていないだけで、なんでも「駄目だ」と言うハーレイ。
 どんなおねだりも、お願いも駄目。
 「ちゃんと育ってから言うんだな」と。
 チビでは話になりはしないと、大きくなったら叶えてやると。
(…キスも駄目だし、上着だって駄目…)
 本当になんてケチなんだろう、とプウッと頬っぺたを膨らませた。
 ハーレイが見たら言うのだろうに。
 「前のお前は、そういう顔はしなかったがな?」と、「やっぱりチビだ」と。


 昼間も同じにプンスカ怒った。
 「ハーレイのケチ!」と、膨れっ面で。
 けれど帰ってしまったハーレイ。
 両親も一緒の夕食が済んだら、「またな」と軽く手を振って。
 次に会う時はきっと平日、スーツを着込んで寄ってくれるのに…。
(…上着、借りられないんだよ…)
 断られたから、頼むだけ無駄。
 強請ってみたって、額をコツンと小突かれるだけ。
 「俺は駄目だと言った筈だが?」と。
 大きな上着を着てみたいのに。…ちょっと羽織ってみたいのに。
(…だけど、駄目…)
 自分が大きくなるまでは。
 前の自分と同じに育って、キャプテンの上着を借りていた頃と同じ背丈になるまでは。
 ハーレイの上着を着たいのに。
 ほんのちょっぴり、試着気分で羽織らせてくれればそれでいいのに。
(前のぼくとおんなじ背丈になったら、上着なんか…)
 羽織らせて欲しいと頼まなくても、いくらでも着られることだろう。
 結婚して同じ家で暮らせるのだから、いくらでも。
 前の自分がやっていたように、ハーレイが仕事で留守の間に。
 「ちょっと借りるね」とハンガーから外して、どれでも好きに着放題。
 スーツだろうが、普段着の方の上着だろうが…、と考えたけれど。
(…普段着の上着?)
 待って、と頭に閃いたこと。
 ハーレイが着ている普段着の上着。


 それは無かった、と思い出した白いシャングリラ。
 ハーレイの上着は、いつもキャプテンの制服ばかり。
 あの船に私服は無かったから。誰もが制服だったから。
 けれども、今の時代は違う。
 ハーレイにはちゃんと普段着があって、自分も制服の他に普段着。
 いつかハーレイと結婚したなら、デートの時には…。
(制服じゃないよ…)
 二人で揃いの服を着てもいいし、まるで似ていないデザインでもいい。
 好きな服を着て、上着だって。
 そうやって二人であちこち出掛けて、冷える季節になったなら。
(ぼくがクシャン、ってクシャミしてたら…)
 ハーレイが着せてくれるのだろう。
 自分が着ていた上着を脱いで、バサリと肩に被せてくれて。
 「風邪を引くから、これも着ておけ」と、「俺は鍛えてあるからな」と。
(…今のハーレイ、うんと丈夫で…)
 柔道に水泳、どちらもプロになれる腕前。
 そのハーレイなら、きっと自分の上着を譲ってくれるのだろう。
 黙って拝借しなくても。「貸して」と頼んだりしなくても。
 大きな上着を着せて貰って、二人並んで歩けそうだから。きっと幸せだろうから。
(…それまでの我慢…)
 今度も貸して貰えるものね、と綻んだ顔。
 前の自分が羽織っていた上着、それを今度も着せて貰える。
 今度は二人で歩きながら。
 デートの途中で、「ほら、着てろ」と掛けて貰って、上着ごと肩を抱いて貰って…。

 

         羽織っていた上着・了


※ハーレイ先生のスーツの上着は、借りられそうもないブルー君。大きくなるまでは。
 けれど、デートに行くとなったら、今度も着せて貰える上着。幸せですよねv





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(あのチビめ…)
 何が上着だ、とハーレイが浮かべた苦笑い。
 ブルーの家へと出掛けて来た日に、夜の書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりコーヒー、熱いそれをコクリと飲むけれど。
 頭の中には小さな恋人、十四歳にしかならないブルー。
 今日は日曜、昨日に続いてブルーの家で過ごしたけれど。
(あいつ、昨日から時々まじまじ見てたんだよなあ…)
 何度も気付いた、自分を見詰めていた瞳。
 けれども、顔を見ていたわけではなかったから。
 「なんだ?」と問えば、慌てて視線を上げていたから、不思議ではあった。
 いったい何が気に懸かるのかと、ブルーは何を見ているのかと。
(俺の服に何かついてるのかって…)
 そうでなければ、ボタンが取れかかっているだとか。
 自分でも視線を落としたけれども、特におかしい所は無くて。
 ブルーに訊いても「ううん、別に…」と曖昧な返事が返っただけ。
(だからだな…)
 それ以上、尋ねはしなかった。
 ロクでもないことを考えそうなのがブルー。
 子供ならではの飛躍っぷりで、キスも出来ない仲ゆえの不満。
 尋ねたら墓穴を掘ると思った、とんでもないことを頼まれたりして。


 そんな具合で過ごしたのが昨日。
 「またな」とブルーに手を振った時も、何故だか同じ視線を感じた。
 ブルーは自分を見ていたけれども、同じに服も。
(もう絶対に服だと思うよな?)
 原因は服に違いない、と確信したから、家に着くなりチェックした服。
 最初は瞳で、次は鏡で。
 それで結果が謎だったから、風呂に入るのに脱いだ時にも…。
(前も後ろもしっかり眺めて、ついでに振って…)
 バッサバッサとやってみたけれど、何も落ちてはこなかった。
 ブルーの興味を引きそうなものは、ただの一つも。
 服にくっつきそうな草の種やら、食べたお菓子の欠片やら。
 それに染みさえついていなくて、ますますもって深まった謎。
(…あいつ好みの服だったかとも思ったんだが…)
 確か、前にも着て行った筈。
 その時はブルーは普通だったし、何よりも服が気に入ったなら…。
(お洒落だよねとか、いい色だとか…)
 ブルーならきっと言うだろう。
 「その服、いいね」と触ろうとしたり、「ハーレイらしいよ」と顔を輝かせたり。
 けれど、全く無い記憶。
 褒められたとも、ブルーが喜んだとも。


 まったく謎だ、と風呂に入って、服はきちんと片付けた。
 ちょっと羽織るのに丁度いい上着、毎日洗うものでもないから。
 ハンガーにかけて、軽くはたいて、伸ばしておいて。
(でもって、今日は違うのをだな…)
 シャツに合わせて、また違う上着。
 それを羽織って出掛けて行ったら、またまじまじと見詰めたブルー。
 テーブルを挟んで、お茶とお菓子で寛ぐ合間に。
 ふと気付く度に服に視線で、そうなってくると原因は…。
(服のデザインとかじゃなくて、だ…)
 自分にあるか、でなければ上着そのものか。
 とはいえ、訊いたら墓穴を掘るから、やはり守っておいた沈黙。
 もちろんブルーと話は弾んでいたのだけれども、服のことには全く触れずに。
 そうしたら…。
(いきなり、スーツと来たもんだ)
 小さなブルーはそう言った。
 「あのね」と、「今度、スーツを着て来た時に…」と。
 スーツ姿でブルーの家を訪ねてゆくのは、仕事の帰りに寄った時だけ。
 てっきりスーツに興味があるのだと、頭から信じたものだから。
 「俺のスーツがどうかしたか?」と素直に返した。
 スーツは自分の仕事着だから。
 教師としての自分の制服、暑い夏以外は着込む物。
 それに関心でもあるのだろうと、軽い気持ちで、考えもせずに。


 ところが、ブルーが続けた言葉。
 それに思わず目を剥いた。
 小さなブルーは、「ちょっとお願いがあるんだけれど…」と言い出したから。
(…お願いと来たら、嫌な予感しかしないよな?)
 相手はチビのブルーだから。
 何かと言えば「ぼくにキスして」と強請ってくるのがブルーだから。
 まさかスーツでキスをしろとか、そういった無茶。
 きっとそれだと身構えた途端、ブルーは笑顔でこう続けた。
 「スーツの上着を貸してくれない?」と。
 ちょっと羽織ってみたいんだよね、と頼まれたから。
 お安い御用だ、と引き受けようとして、心に引っ掛かったこと。
 どうして上着を羽織りたいのか、それもスーツだなどと言うのか。
 上着だったら今も着ているし、昨日も別のを着ていたから。
 しかもブルーは上着をまじまじ…。
(見ていやがったし、と気になって…)
 キーワードは多分、上着なのだ、と探った記憶。
 今の自分の物とは違って、遠く遥かな昔のもの。
 キャプテン・ハーレイだった頃だ、と探し始めたら、答えはストンと降って来た。
 なにしろ、モノが上着だから。
 キャプテン・ハーレイの上着と言ったら、制服だけしか無かったから。


(悪ガキめが…!)
 ブルーが何を思い付いたか、何をしようと考えたのか。
 ピンと来てしまえば、「悪ガキ」としか思えなかった小さなブルー。
 愛くるしい顔をしているけれども、もうとびきりの悪戯小僧。
(俺の上着を着ていやがったんだ…!)
 チビではなくて、前のブルーが。
 ソルジャー・ブルーだった頃のブルーに向かって、「着ていやがった」は無いけれど。
 あの頃には「また着ているのか」と愛おしかっただけで、抱き締めていたものだけれども。
 一番最初は、確か自分が青の間に行くのが遅くなった日。
 待ちくたびれて、ベッドでうたた寝していたブルー。
 よりにもよって、前の自分の上着を羽織って。
 キャプテンの制服の上着を纏って、ベッドにぱたりと倒れ込んで。
 何事なのかと驚いたけれど、寂しかったらしいソルジャー・ブルー。
 青の間で独り待たされる内に、ついつい羽織ったキャプテンの上着。
 瞬間移動で、失敬して。
 それを羽織って、前の自分の温もりを感じたつもりになって…。
(安心して眠っちまったってな)
 それが上着を盗られた始まり。
 前の自分が遅くなったら、ブルーはちゃっかり着込んでいた。
 アンダーの上からガウンよろしく、キャプテンのための重い上着を。
 華奢なブルーには大きすぎる上着、それに包まれて、さも嬉しそうに。


 しっかり記憶が蘇って来たら、チビのブルーの魂胆も読めた。
 あの頃の幸せをもう一度、と狙っているのが自分のスーツ。
(普段着の上着じゃ駄目なんだ…)
 それは制服とは違うから。
 下に着ているシャツに合わせて、気まぐれに変えるものだから。
 スーツの上着もワイシャツと合わせはするけれど…。
(形はどれも似てるしな?)
 だからこその今の自分の制服。
 普通の服ほど流行は無くて、どれもデザインは似たり寄ったり。
 だからブルーは目を付けた。
 キャプテンならぬ今の自分の制服、それを羽織って恋人気分、と。
 今の自分に包まれたつもり、そんな気分を味わいたいと。
(チビのくせして、一人前に…!)
 あの頃のお前と全くサイズが違うだろうが、と睨みたい気分。
 「今のお前はただのチビだ」と、「俺の上着はまだ早いんだ」と。
 前のブルーが着込んでいてさえ、ブカブカだったキャプテンの上着。
 愛らしくて笑いを誘った姿。
 けれども、今のブルーが自分のスーツの上着を羽織ったならば。
(デカすぎるなんてモンじゃなくてだ…)
 もう本当に笑うことしか出来ないだろう。
 愛おしいだとか、抱き締めたいとか、そう思う前に。
 なんて不格好で傑作なのだと、まるで案山子に着せたようだと。
 それに、ブルーはキスも出来ない子供でチビ。
 恋人気取りで羽織る上着は早すぎるから。


 「おい、お前」とチビのブルーを睨んでやった。
 俺はすっかり思い出したぞと、キャプテンの俺の制服だよな、と。
 「うん、そう!」と顔を綻ばせたブルー。
 あの頃の気分になってみたいから、今度、スーツの上着を貸して、と。
 悪びれもせずに、ウキウキと。
 「思い出してくれた?」と、「次に着て来た時に貸して」と。
 お願い、とブルーは強請ったけれど。
 スーツの上着を貸して欲しいと、羽織らせて欲しいと頼んだけれど。
 「馬鹿め」と額を小突いてやった。
 「もっと大きく育ってから言え」と、「俺と暮らすようになってからだな」と。
 みるみる唇を尖らせたブルー。頬っぺたもプウッと膨らませて。
 「ハーレイのケチ!」と決まり文句で、それは見事に膨れたけれど。
 プンスカと怒り始めたけれども、「断る」と放って帰って来た。
 そうして今に至ったわけで、次に会う時は、きっと平日。
 スーツを纏っているだろうけれど、生憎と今の自分の上着は…。
(あいつにはまだ早すぎるんだ)
 貸してやらん、とコーヒーのカップを傾ける。
 ブカブカの上着は、それが似合いの姿のブルーになってこそ。
 もっとも、スーツの上着ではきっと、絵にはならないだろうけど。
 キャプテンの上着だったからこそ似合ったんだ、と可笑しくなってくるのだけれど…。

 

       羽織られた上着・了


※キャプテンの制服の上着を借りて着ていた前のブルー。今のブルーの狙いはスーツ。
 けれど却下なハーレイ先生、思い出す前なら貸したんでしょうね。何も知らずにv





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(まだまだ結婚出来ないんだけど…)
 チビなんだから、と小さなブルーがついた溜息。
 自分の部屋で、パジャマ姿で、壁の鏡を覗き込んで。
 其処に映っている自分。
 何処から見たって子供でしかない、十四歳にしかならない自分。
 結婚出来る年はまだ先、十八歳にならないと無理。
 早くハーレイと暮らしたいのに。
 夜になったら、今の自分はポツンと一人。
 ハーレイの家に行けはしなくて、独りぼっちで残される。
 もっとも、今日は…。
(ハーレイ、最初から来てないけどね…)
 仕事の帰りに寄ってはくれなかった恋人。
 寄ってくれたら、この部屋で二人、お茶とお菓子をお供に過ごして。
 その後は両親も一緒の夕食、それから帰ってゆくハーレイ。
 「またな」と軽く手を振って。
 自分をポツンと置き去りにして。
 それが寂しくてたまらない。
 置いてゆかれるのはチビだから。
 今日、ハーレイと夕食を食べられなかったのもチビだから。
(…結婚してたら、いつでも一緒…)
 こんな風に置き去りにされる代わりに、二人での暮らし。同じ屋根の下で。


 早くその日が来ないものかと考えるけれど、まだ先のこと。
 十八歳にならないと無理で、チビの自分には夢のまた夢。
 なにしろ、キスさえ出来ないのだから。
(前のぼくと同じに育たないと駄目…)
 ハーレイにそう言われてしまった。
 前の背丈と同じに育て、と。
 育つまでは、キスは額と頬だけだな、と。
 結婚は無理で、キスも駄目。
 なんとも悲しくてたまらないから、せめて夢では…。
(会いたいんだけどな…)
 一緒に暮らせるハーレイに。
 キスを交わして、その先のことも。
 本物の恋人同士が過ごす時間も、自分にくれるハーレイに。
 けれども、邪魔をするのが自分。
 前の自分がヒョイと出て来て、ハーレイを横取りしてしまう。
 あちらは大きく育っているから、夢のハーレイとキスを交わして。
 愛も交わして、ハーレイを横から攫ってしまう。
 チビの自分は夢でも置き去り、自分の身体を乗っ取られて。
 目が覚める度に大きな溜息、「ぼくじゃなかった…」とつく溜息。
 夢の中では幸せだけれど、目覚めてみたら不幸な自分。
 幸せだったのは前の自分で、チビの自分はいなかったから。


 ハーレイも、前の自分も、今の自分を置き去りにする。
 ポツンと一人で置いてゆかれる。
 ハーレイは「またな」と家に帰るし、前の自分は夢のハーレイを…。
(横から攫って行っちゃうんだよ…)
 チビの自分が気付かない内に。
 小さい筈の身体を勝手に育ててしまって、前の自分がちゃっかりと。
 何度そういう夢にやられたか、悲しくて数えたくもない。
 夢の中では幸せなのに、起きた途端に不幸になる夢。
 「ぼくじゃなかった…」と肩を落として、溜息をついてしまう夢。
 たまには育ってみたいのに。
 大きくなれた、と思う夢を見て、ハーレイと幸せに過ごしたいのに。
(…どうせ、無理…)
 きっと見られないに決まっているから、溜息交じりに入ったベッド。
 今夜も前の自分にしてやられるのか、それともメギドの夢になるのか。
 メギドよりかは、前の自分にハーレイを盗られる方がマシ。
 痛くない分だけ、悲しくて辛くならない分だけ。
 メギドの悪夢がやって来たなら、本当に独りぼっちだから。
 もうハーレイには二度と会えないと、泣きじゃくりながら死ぬ夢だから。
 ハーレイの温もりを失くしてしまって、右手が冷たく凍えてしまって。
(あんな夢よりは…)
 前のぼくにハーレイを盗られる方が、と思うけれども、悔しい気持ち。
 どうして自分は置き去りなのかと、夢でハーレイと暮らしたいのに、と。
 無理だと分かっているけれど。
 夢は決して、思い通りにならないけれど…。


 ふと気付いたら、目の前にハーレイ。
 前のハーレイではなくて今のハーレイ、ちゃんとスーツを着ているから。
 優しい笑顔で見下ろしていて…。
「じゃあ、行ってくる」
 またな、と頬に落とされたキス。
(えっ…?)
 なんで、とポカンと見開いた瞳。
 ハーレイは仕事用の鞄を抱えて、「じゃあ、行ってくる」と言ったから。
 「またな」は何度も聞いているけれど、「行ってくる」は初めて聞いたから。
 けれど、ストンと納得した。
 ハーレイが車に乗り込んだから。
 窓を開けて手を振り、そのまま走り去ったから。
(ハーレイの家…)
 そうだよね、と幸せ一杯で見回した家。
 家も、庭にも見覚えがある。
 たった二回しか来ていないけれど、チビの自分は知らないけれど。
 どうやら今は、此処が自分の家らしいから。
 ハーレイと二人で住んでいる家、ハーレイが「行ってくる」と出勤してゆく家。
(…いつの間に結婚したんだっけ?)
 分からないけれど、間違いなく此処が自分の家なのだろう。
 そうでなければ、ハーレイが「またな」と出勤して行く筈がないから。


(お嫁さん…)
 ハーレイのお嫁さんになれたらしい、と緩む頬。
 なんて幸せなのだろう。
 独りぼっちにされはしないし、置き去りにだってなることはない。
 同じ家で暮らしているのだから。
 いつもハーレイと一緒だから、と思ったけれど。
(…ハーレイ、仕事に行っちゃった…?)
 そうだったっけ、と眺めたガレージはとうに空っぽ。
 前のハーレイのマントの色をしている車は、ハーレイが運転して行ったから。
(えーっと…)
 ハーレイは何時に帰るのだったか、「またな」とキスは貰ったけれど。
 「行って来ます」のキスを頬っぺたに貰ったけれども、帰る時間を聞いてはいない。
 早く帰るのか、遅く帰るのか、それも知らないのが自分。
(でも、夕方には帰るよね?)
 仕事で遅くならない限りは。
 それに、ハーレイが遅く帰っても…。
(二人で御飯…)
 帰るのを待って、二人で御飯。
 ゆっくりと食べて、食べ終わったら片付けをして…。
 ふふっ、と赤くなった頬。
 夜もハーレイと一緒だものね、と。


 ハーレイは仕事に出掛けたのだし、自分も頑張るべきだろう。
 まずは掃除、と早速始めることにした。
 前の自分も綺麗好きだったから、少しも苦にはならない掃除。
 ピカピカにしようと張り切ったのに…。
(何処もピカピカ…)
 掃除の出番は無さそうだった。
 早起きして掃除をしてしまったろうか、家中、すっかり。
 キッチンを覗いても、お皿もカップも片付いた後。
 綺麗に洗って、きちんと拭いて。
(…ハーレイなのかな?)
 一人暮らしが長かったから、つい、習慣で。
 自分が家にいるというのに、それまで通りに掃除も、朝食の後片付けも。
(ハーレイらしいと思うけど…)
 少しくらいは残しておいて欲しかった。
 自分のために何か仕事を、と考えた所でポンと頭に浮かんだ考え。
(パウンドケーキ…!)
 あれを焼こう、という思い付き。
 ハーレイが好きなパウンドケーキ。
 「おふくろが焼くのと同じ味なんだ」と、嬉しそうに食べるパウンドケーキ。
 焼いておいたら、きっと喜ばれるから。
 帰って来るなり大喜びで食べて、御礼のキスもくれそうだから。


 パウンドケーキを焼かなくっちゃ、と捲った袖。
 母が焼くのと同じ味のを、と勇んで焼こうとしたけれど。
(…どうやるんだっけ…?)
 ママのレシピは、と探し回っても見当たらない。
 材料は揃っているというのに。
(小麦粉とバター、砂糖に卵…)
 それぞれ一ポンドずつ使って作るから、パウンドケーキ。
 小麦粉もバターも、砂糖も、卵も…。
(一ポンドって…?)
 何グラムなの、と思い知らされた自分の無知。
 肝心のレシピが分かっていないし、考えてみれば…。
(…焼いたことない…)
 記憶にある限り、ただの一度も。
 母に習った覚えが無い。
 結婚したなら、ハーレイのために焼こうと心に決めていたのに。
 おふくろの味のパウンドケーキを母に習って、その味の通り。
(なんで練習して来なかったの…!)
 ぼくの馬鹿、と泣きそうな気持ちで突っ立っていたら、扉が開いて。
「おっ、パウンドケーキ、焼いてくれるのか?」
 これは楽しみだ、と笑顔のハーレイ。
 忘れ物を取りに戻ったんだが、と。
「えっと…。パウンドケーキ…」
 焼けないんだけど、と言うよりも前にギュッと抱き締められて。
 「帰ったら早速、お茶にしような」とハーレイは再び行ってしまった。
 パウンドケーキに期待したままで。


 どうしても思い出せないレシピ。
 レシピがあっても、焼いたことが無いパウンドケーキ。
(どうしたらいいの…?)
 ポロリと涙が零れた所で目が覚めた。
 真っ暗な部屋で、自分のベッドで。
(…夢だった…?)
 ホッとしたけれど、幸せどころか情けない気分だった夢。
 ハーレイの夢も、二人きりの家も、望み通りに見られたけれど…。
(正夢になったら困るじゃない…!)
 忘れなくちゃ、とクルンと身体を丸くした。
 眠り直して忘れなければ、正夢になってしまいそうだから。
 いつかハーレイと結婚した時、本当になったら嫌だから。
 今度は幸せな夢がいいな、と丸くなる。
 パウンドケーキを上手に焼けるぼくがいいな、と。
 レシピさえもまだ知らないくせに。ただの一度も、焼いていないくせに…。

 

          夢で見た恋人・了


※ブルー君の夢は、ハーレイ先生と一緒に暮らすこと。夢は見られたようですけれど…。
 焼こうと思ったパウンドケーキが作れない夢。忘れてしまう方が良さそうですねv





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