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「…ねえ、ハーレイ。訊きたいんだけど…」
 まじまじと恋人の顔を見詰めた、小さなブルー。
 いつもの部屋で、テーブルを挟んで向かい合わせで。
 二人きりで会うなら、ブルーの部屋に置かれたテーブル。
 そうでなければ、庭で一番大きな木の下。
 其処にもテーブルと椅子があるから、そのどちらか。
 今はブルーの部屋の方。
「…質問か?」
 なんだ、と穏やかな笑みを浮かべたハーレイ。
 「俺で分かることなら、なんでも質問してくれていいぞ」と。
 そうしたら…。


 小さなブルーは首を傾げてこう言った。
「ハーレイ、ぼくのこと、愛してる?」
「はあ?」
 何を今更、と呆れたハーレイ。
 いくらブルーがチビだと言っても、前の生から愛した恋人。
 愛していない筈などはないし、誰よりも愛してやまないわけで。
 呆れながらも「もちろんだが?」と返してやった。
 「愛しているに決まっているだろう」と。
 俺にはお前一人だけだと、お前だけしか欲しくはないと。
「…ホントにそう?」
 そうなのかな、と疑わしげな赤い色の瞳。
 小さなブルーの顔に輝く二つの宝石。


 じいっと見上げて、瞬きをして。
 ブルーは疑っているようだから、なんとも心外。
 前の生から愛し続けて、今も変わらず愛しているのに。
 今度こそ二人で生きてゆこうと、共に暮らせる日を夢見ているのに。
 だからブルーを見詰め返して、真摯な瞳で。
「…愛していると言っただろうが」
 それとも、お前には、愛していないように見えるのか?
 俺がこんなに愛しているのに、お前の目は節穴同然らしいな。
「…ううん、節穴なんかじゃないけど…」
 ちゃんとハーレイの姿が見えているけど、見えないんだよ。
 ハーレイの愛が、ぼくには少しも。


「なんだって?」
 それこそ酷い言われようだから、これは身の証を立てなければ。
 ブルーを愛しているという証。
 誰よりもブルーが大切なのだと、愛していると。
 だから訊いてみた、「俺はそんなに薄情そうか?」と。
 「お前を愛していそうにないか」と。
 「どうすればお前を愛していると分かってくれる?」と尋ねたら…。
 小さなブルーは「簡単だよ?」と微笑んだ。
 「愛してるのなら、とっても簡単」と。


 そしてニコリと笑ったブルー。
 「ぼくにキスして」と、「愛しているならキスだってば」と。
 その瞬間にやっと気付いた、これはブルーの作戦だと。
 愛にかこつけてキスを強請る気だと。
 禁じた唇へのキスを。…恋人同士が交わすキスを。
 その手に乗ってやる気はないから、「そうか、キスか」と頬っぺたに。
 「俺はお前を愛しているぞ」と、頬っぺたにキス。
 ブルーはプウッと膨れたけれども、チビにはこれで充分だから。
 愛しているならキスをするだけ、愛しさをこめて、柔らかな頬に…。



        愛してる? ・了





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(奇跡って起こるものなんだよね…)
 ホントに不思議、と小さなブルーが眺めた写真。
 今日はハーレイは家に来てくれなかったけれども、写真の中に笑顔の恋人。
 好きでたまらない恋人のハーレイ、その左腕に両腕でギュッと抱き付いた自分。
 夏休みの一番最後の日に写した記念写真。
 庭で一番大きな木の下、母にシャッターを切って貰って。
 写真を眺めれば会えるハーレイ、学校でも会って来たけれど。
 「ハーレイ先生!」と挨拶をして、少し立ち話も出来たのだけど。
 残念なことに、仕事の帰りに来てはくれなかったから、今日はそれだけ。
 いつもだったら寂しいけれども、今夜は少し違った気分。
 今がどれだけ幸せなのか、そのことを思い出したから。
 普段はすっかり忘れてしまって、当たり前になってしまっていること。
(…こんな写真が撮れるってこと…)
 それに、同じ町にハーレイが暮らしているということ。
 何ブロックも離れていたって、同じ町に住んでいるハーレイ。
 おまけに青い地球の上で。
 前の自分が焦がれ続けた水の星。母なる地球。
 いつか行きたいと願い続けて、幾つもの夢を描いていた星。
 前のハーレイと共に辿り着いたら、あれをしようと、これもしたいと。
 気付けばその地球に来ていた自分。
 前の自分が夢に見た星、そのままの地球ではないけれど。
(あの頃の地球は、死の星だったって…)
 ハーレイからそう聞かされた。歴史の授業でも教わること。


 けれども、青く蘇った地球。
 其処に自分は生まれて来た。新しい身体と命を貰って。
 ハーレイも同じに生まれ変わって、また巡り会えて恋人同士。
 自分は少しチビだけれども、キスさえ出来ない子供だけれど。
 記念写真の中の自分は、本当にチビ。
 十四歳にしかならない子供で、ハーレイとデートにも行けない有様。
 それでも二人で同じ地球の上に、同じ時代に生まれられたこと。
 これが奇跡でないと言うなら、なんだろう。
(…聖痕だって、本当に奇跡…)
 ハーレイと再び巡り会えた日に、右の瞳から、肩から、溢れ出した血。
 肌には傷さえ無いというのに、まるで大怪我をしたかのように。
 前の自分がメギドでキースに撃たれた傷痕、それの通りに。
 あまりの痛みに、チビの自分は気絶したけれど。
 その聖痕が連れて来てくれた、前の自分のものだった記憶。
 ソルジャー・ブルーと呼ばれた自分。
 ハーレイと恋をしていた自分。
 またハーレイと巡り会えた、と直ぐに気付いたし、ハーレイも同じ。
 絡み合い、交差した膨大な記憶。
 前の自分が持っていた分と、今のハーレイが思い出した分と。


 そうして始まった奇跡の日々。
 聖痕は二度と出ないけれども、考えてみれば毎日が奇跡。
 当たり前すぎて忘れているだけ、奇跡が日常になったというだけ。
 ハーレイと同じ町で暮らして、何度も会っては、話をして。
 甘えて、強く抱き締めて貰って、二人で記念写真まで撮れた。
(…恋人同士で撮ったんです、ってパパやママには言えないけれど…)
 あくまで前の生での友達同士の写真だけれども、特別な写真。
 白いシャングリラで暮らした頃には、こんな写真は撮れなかったから。
 ハーレイとは秘密の恋人同士で、誰にも明かせなかった仲。
 こんな写真を撮れはしなくて、飾っておくことも出来なくて。
 …そのまま終わってしまった恋。
 前の自分は、最後までソルジャーだったから。
 ハーレイも同じにキャプテンのままで、自由にはなれなかったから。
(…ソルジャーとキャプテンが、恋人同士だなんてバレたら…)
 シャングリラの秩序は崩れてしまって、失いかねないミュウたちの未来。
 前の自分が守り続けた白い船。
 ハーレイが舵を握っていた船。
 船を導く二人だったから、決して言えはしなかった。
 本当は恋人同士なのだと知れてしまったら、誰もついては来ないから。
 シャングリラを私物化しているのだろうと、皆がそっぽを向くだろうから。
(…地球に着いたら…)
 自由になれると夢を見ていた。
 ソルジャーとキャプテンの役目は終わって、恋人同士の二人になれると。
 けれど、その日は訪れないまま、宇宙に消えてしまった恋。
 前の自分は死んでしまって、それっきり。
 誰よりも愛したハーレイの許へ、戻ることさえ出来ないままで。


 …いつか命が尽きる時には、ハーレイがいると信じていた。
 どうやら地球まで行けはしないと悟った時に、それを思った。
 その日が来たなら、前の自分のベッドの側に。
 キャプテンとしての立場であっても、ソルジャー・ブルーの右腕だったハーレイだから。
 死にゆくソルジャーの手を握り締めていても、誰も不思議に思わないから。
(…だって、友達で、おまけにキャプテン…)
 ソルジャーが船の仲間に届けるだろう、最後の思念。
 それを伝える手伝いをするとか、言い訳はいくらでもあったから。
 キャプテンだけに伝えておかねばならないことも、あるかもしれないだろうから。
(…みんなを頼む、って…)
 誰かに頼んで逝くとしたなら、それはキャプテン。
 長老の四人も大切だけれど、船を纏めてゆくキャプテンに頼むべきこと。
 これからの船をよろしく頼むと、皆を地球まで連れて行ってくれと。
(…ホントはそうじゃなかったけれど…)
 皆はそうだと信じただろう。
 ソルジャーからキャプテンへの遺言なのだと、とても大切な内容だろうと。
 他の者には聞き取れなくても、キャプテンは聞いておくべきこと。
 そのためにソルジャーの手を握るのだと、最後まで握っていたのだと。
 ソルジャー・ブルーの魂が彼方へ飛び去るまで。
 身体を離れて、別の世界へ旅立つまで。
(…きっとハーレイがいてくれる、って…)
 そう信じていた、自分の最期。
 ハーレイに手を握って貰って、「さよなら」を言って。
 他の誰にも聞かれないよう、恋人同士の別れの言葉をハーレイに告げて。


 なのに、叶わなかったこと。
 それすら出来ずに、前の自分はたった一人で死んでしまった。
 白いシャングリラを守るためにと、メギドを沈めに飛び立ったから。
 ハーレイと離れて、二度と戻って来られない場所へ。
 手など握って貰えない場所へ。
(でも、ハーレイとは一緒なんだ、って…)
 最後に触れた、ハーレイの腕にあった温もり。
 「ジョミーを支えてやってくれ」と思念を伝えて、腕の温もりを貰って行った。
 触れた右手に、愛した人の温もりを。
 誰よりも愛し続けた恋人、そのハーレイの温もりを。
 右手に温もりを持っていたなら、心はハーレイと共にいるから。
 シャングリラから遠く離れた所で命尽きようとも、手には温もりがあるのだから。
 その手を握って貰えなくても。
 ハーレイが隣にいてくれなくても、きっと一人ではない筈だから。
(…だけど、失くした…)
 キースに撃たれた傷の痛みで、恋人の優しい温もりを。
 最後まで右手に残る筈だった、愛おしい人に貰ったそれを。
 メギドの制御室を壊して、ジョミーに皆を託した後。
 「みんなを頼む」と願った後に、温もりを失くしたことに気付いた。
 それが何処にも無いことに。
 ハーレイが消えてしまったことに。
 自分はメギドにたった一人で、切れてしまったハーレイとの絆。
 二度とハーレイに会えはしないと、泣きじゃくりながら死ぬしかなかった。
 冷たく凍えてしまった右手。
 ハーレイの温もりを失くした右手が、凍えて冷たくて、とても悲しくて。
 もうハーレイには会えないから。
 …二度と側には戻れないから。


 それが覚えている自分の最期。
 ソルジャー・ブルーだった前の自分の最後の記憶。
 悲しみと絶望、それから孤独。
 独りぼっちになってしまったと、泣きながら死んでいったのが自分。
 けれど、その後に起こった奇跡。
 どうしたわけだか、自分は地球にやって来た。
 ハーレイと二人で生まれ変わって、青い星の上に。
 今はどうしようもなくチビだけれども、いつか大きく育ったら。
 前の自分とそっくり同じ姿になったら、ハーレイが許してくれるキス。
 それに二人でデートにも行ける、好きな所へ。
 ハーレイの車でドライブをしたり、二人で食事に出掛けて行ったり。
 そういう幸せな日々が流れて、その後に迎えるハッピーエンド。
(…今度は結婚出来るんだよ…)
 誰にも恋を隠さなくてもいいのだから。
 教師と教え子で、自分がチビな今の間だけ、隠しておけばいいのだから。
 いつか自分が大きくなったら、ハーレイからのプロポーズ。
 そして結婚式を迎えて、ハーレイと二人で暮らしてゆける。
 この地球の上で、二人一緒に。
 いつまでも、何処までも、手を握り合って。
 前の自分が温もりを失くして凍えた右手。
 その手は二度と凍えはしなくて、ハーレイの大きな手と一緒。
 ハーレイと二人で暮らすのだから。
 手を繋ぎ合って、キスを交わして、幸せな日々を生きるのだから。


 …今の自分に起こった奇跡。
 前の自分の悲しい最期は、今の奇跡に繋がったから。
 幸せな日々がやって来たから、出来ることなら前の自分に伝えたい。
 メギドで泣きじゃくる前の自分に、「大丈夫だよ」と。
 「今はとっても悲しいけれども、またハーレイに会えるから」と。
 青い地球の上でハーレイに会って、結婚出来ると前の自分に教えたい。
 そうすれば悲しみの涙は止まって、安らかな最期だったろうから。
 次の生への旅立ちなのだと、幸せな眠りに就いたろうから。
 …それを伝えたいと思うけれども、叶わないこと。
 けれど奇跡はやって来たから、ハーレイと二人で歩いてゆける。
 いつまでも、何処までも、手を握り合って。
 今度は恋を隠すことなく、前の自分が焦がれ続けた青い星の上で…。

 

       前のぼくへ・了


※「またハーレイに会えるから」と、前の自分に伝えたいブルー。幸せだから、と。
 それが出来ないのが残念ですけれど、今度はハーレイと幸せに生きてゆけるのですv





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(こんな奇跡が起こっちまうんだ…)
 俺にも信じられないんだが、とハーレイが眺めたブルーの写真。
 夜の書斎で、フォトフレームに入ったそれを。
 写真の中にいる自分。…その左腕に抱き付いたブルー。
 両腕で、ギュッと。
 弾けるような笑顔の、小さなブルー。
 夏休みの一番最後の日に、ブルーの家の庭で写した。
 小さなブルーのお気に入りの場所で、庭で一番大きな木の下で。
 其処は特別な場所だから。
 初めてのデートが其処だったから。
 「何処か違う所で食事したいよ」と言い出したブルー。
 けれども、それは叶わないから。
 デートに連れては出掛けられないから、キャンプ用の椅子とテーブルを用意した。
 家にあったのを、車に乗せてブルーの家まで運んで行って。
 そのテーブルと椅子を置いたのが、庭で一番大きな木の下。
 それ以来、ブルーのお気に入りの場所。
 テーブルと椅子が、ブルーの父が買った白いテーブルと椅子に変わっても。
 だから、その場所で写した写真。
 二人一緒の初めての写真、それまで写していなかったから。
 五月の三日に再会したのに、迂闊にも写し損なったから。
 再会の喜びに酔ってしまって、自分もブルーも思い付かなかった。
 記念写真を撮ることを。
 青く蘇った地球の上での、再会記念になる一枚を。


 たまに思い出すと、今でも可笑しくてたまらない。
 どうしてあの時、撮り損ねたかと。
 遠く遥かな時の彼方で離れてしまった、愛おしい人。
 その人に再び会えたというのに、忘れてしまった記念写真。
 会って直ぐなら、ブルーの両親に「お願いします」とシャッターを押して貰えただろうに。
 恋人同士だったことは秘密だけれども、ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイ。
 そんな二人の再会なのだし、記念写真を撮りたくなるのは自然なこと。
 「また出会えた」と、「今度は地球の上で会えた」と。
 チャンスは山ほどあったというのに、逃した自分。
 それはブルーも同じだけれど。
 気付いた時には、すっかり時が経ちすぎていた。
 今更、記念写真でもなかろう、というくらいにブルーの家に馴染んでいた自分。
 週末は大抵、ブルーの家で朝から晩まで。
 仕事が早く終わった時には、帰りに寄って一緒に夕食。
 まるで家族の一員のようで、記念写真と言い出したなら…。
(…みんなで撮ろうってことになったぞ、きっと)
 タイマーをセットして、ブルーの両親も入った写真。
 庭で撮ったか、夕食の席かは分からないけれど、とにかく四人で写った写真。
 それではブルーと二人の写真になりはしないから、諦めた。
 チャンスを待とうと、ブルーと二人で写せる時を、と。


 そうやって待って、夏休みが来て。
 長い夏休みを小さなブルーと満喫したから、その記念にと写真を撮った。
 ブルーの母にカメラを渡して、庭で一番大きな木の下で。
 その写真をブルーと一枚ずつ…。
(揃いのフォトフレームに入れてだな…)
 持っているのが今の自分。
 ブルーの家にも同じ一枚、フォトフレームもそっくり同じ。
 このフォトフレームにも素敵な秘密があって…。
(俺が持っているのは、あいつのなんだ)
 小さなブルーが記念写真をセットしていたフォトフレーム。
 「お揃いだぞ」と渡してやった、優しい飴色の木枠のそれに。
 自分も一枚、入れたのだけれど。
 見分けが付かないフォトフレームを、二つ並べておいたのだけれど。
 帰り際に、ふと欲しくなった。
 ブルーが写真を入れていた分を、自分が持って帰りたいと。
 そうすれば、ブルーの持ち物が手に入るから。
 ほんの短い時間だったけれど、それはブルーの物だったから。
(…そしたら、あいつも…)
 同じことを考えていたブルー。
 フォトフレームを取り替えたいと、恋人の持ち物を手に入れたいと。
 二人同時に口にしていた願い事。
 相手の分と取り替えたい、と。
 だから、もちろん取り替えた。
 今、見ているのはブルーが持っていたフォトフレーム。
 それが自分の家にある。
 愛おしい人が持っていた物が。


 なんという奇跡なのだろうか、と気付かされる度に思うこと。
 普段はすっかり慣れてしまって、その素晴らしさを忘れるけれど。
 小さなブルーと過ごしていたって、忘れてしまっているのだけれど。
(…俺はあいつを取り戻したが…)
 戻って来てくれた小さなブルー。
 十四歳にしかならない子供の姿でも、ブルーはブルー。
 前の自分が愛し続けた、誰よりも愛したソルジャー・ブルー。
 その人が帰って来てくれた。
 青く蘇ったこの地球の上に生まれ変わって、自分の前に。
 小さなブルーと再会してから、輝きを増した世界と人生。
 ブルーがいるからこそなのだけれど、幸せな日々が流れてゆくのだけれど。
(…それが当たり前だと思っちまって…)
 これじゃ駄目だな、とコツンと軽く叩いた頭。
 ブルーがいる日々、それは本当に奇跡だから。
 生きて再び巡り会えるとは、思ってもいなかったのだから。
 …今の自分の話ではなくて、キャプテン・ハーレイだった頃。
 前のブルーを失くした時には、夢にも思いはしなかった。
(…いつか、あいつを追ってゆこうと…)
 早く命が終わって欲しいと、ただそれだけを願い続けた。
 前のブルーに頼まれたことを果たした時には、終わる筈の役目。
 白いシャングリラを地球まで運べば、ジョミーを支えて辿り着けば。
 それを果たせば、ブルーを追える。
 自分の命を捨ててしまって、先に逝ってしまったブルーの許へと。


 それだけを願い続けた自分。
 キャプテン・ハーレイだった自分の、悲しみに満ちた人生の残り。
 ブルーと一緒に逝けなかったと、一人残されたと、白いシャングリラで。
 身体は生きていたのだけれども、死んでしまっていた魂。
 孤独と絶望の只中で生きた、地球までの長い戦いの旅路。
(…キャプテンとして、指揮はしていたんだが…)
 部屋に帰れば、悲しみしか残っていなかった。
 どうして自分は生きているのかと、ブルーは何処にもいはしないのに、と。
 愛おしい人を失くしてしまって、ただ一人きり。
 白いシャングリラに独りぼっちで、死ぬまで孤独は癒えはしないと。
 この世界に自分は一人きりだと、悲しみの中で生きてゆくのだと。
 …いつか魂が身体を離れて、ブルーの許へと飛べる時まで。
 愛おしい人と巡り会えるまで、絶望と孤独が続くだけだと。
(…生きていたって、いいことなんかは一つも無くて…)
 時には笑いもしたのだけれど。
 ゼルやヒルマンたちと語り合うこともあったのだけれど、その時限り。
 一人になったら、包まれてしまった孤独と絶望。
 こんな世界に生きる意味は無いと、死だけが自分を救ってくれると。
(…鼓動も、呼吸も、止まってしまえと…)
 その時が来たなら、自由だから。
 ブルーの許へと飛び立てるから、死だけを願って望み続けた。
 命も身体も要りはしないと、無い方がいいと。
 早く無くなってくれればいいと、生きている限り、苦しみだけが続くのだから、と。


(…本当に、死んでしまいたくてだ…)
 死ぬ方がずっと良くて幸せだと、思い続けていた自分。
 死だけを願ったキャプテン・ハーレイ。
 …あの頃の自分に教えてやりたい、「生きてこそだぞ」と。
 命も身体もあった方がいいと、それがあるからブルーと幸せになれるのだと。
(…死んじまったら、あいつと結婚するどころじゃなくて…)
 小さなブルーとはそれでお別れ、せっかく巡り会えたのに。
 記念写真も二人で写して、いつか結婚するつもりなのに。
 …命が尽きたら話にならない、ハッピーエンドは来てくれない。
 ブルーが前と同じに育ってくれても、自分の命が無かったら。
 鼓動が、呼吸が、止まって死んでしまっていたら。
(…そしたら、他の誰かがだな…)
 美しく育ったブルーを口説き落として、まんまと攫ってゆくかもしれない。
 ブルーに限って、それは有り得ないとは思うけれども。
(…でもなあ、生きてこそだしな?)
 ハッピーエンドも、結婚式も。
 ブルーと暮らす幸せな日々は、再び命を得ていればこそ。
 だからブルーが育った時には結婚出来るし、二人で何処までも歩いてゆける。
 手を繋ぎ合って、キスを交わして、青い地球の上で。
(…そいつを、前の俺にだな…)
 出来るものなら伝えてやりたい、「生きてこそだ」と。
 「辛くて悲しいのは、今だけなんだ」と、「もう一度、幸せに生きられるんだぞ」と。
 失くしたブルーとまた巡り会って、幸せな日々を。
 ハッピーエンドを迎えられる生を。
 …それを伝えてやりたいと思う、悲しみ続けた前の自分に。
 けして出来ないことだけれども、「今だけ耐えろ」と。
 いつか幸せがやって来るから、お前には奇跡が起こるのだから、と…。

 

        前の自分へ・了


※ハーレイ先生がキャプテン・ハーレイに伝えたいこと。いつか訪れる、幸せな未来。
 けれども、伝えられないのです。ハッピーエンドが待っているのに、残念ですよねv





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(大好きなんだけどね…)
 ホントのホントに好きなんだけど、とブルーが頭に描いた顔。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドの端にチョコンと座って。
 今日も学校で会ったハーレイ、前の生からの自分の恋人。
 本当に好きでたまらないけれど、今日は挨拶だけだった。
 それも「ハーレイ先生、おはようございます!」と声を掛けただけ。
 「おう、おはよう」とハーレイは笑顔をくれたけれども。
 急いでいたのか立ち話は無しで、挨拶したというだけのこと。
 その上、無かったハーレイの授業。
 古典の授業がありさえしたなら、ハーレイの声が聞けたのに。
 自分に向けられたものでなくても、ハーレイは授業をしているだけでも。
 姿も思う存分見られた、「ハーレイだよね」と。
 自分は当てて貰えなくても、視線が合いさえしなくても。
(ホントに残念…)
 ガッカリだよね、と思う一日、挨拶だけで終わってしまった日。
 帰りに寄ってくれればいいのに、と祈っていたのに、来てくれなかった。
 鳴ってくれなかった、門扉の横にあるチャイム。
 だから本当に挨拶だけの日、それだけで終わったハーレイとの逢瀬。
 あれを逢瀬と呼んでいいのか、なんとも悲しい気分だけれど。
 せめて少しの立ち話。
 それだけで嬉しかったというのに、それさえ無かったのだから。


 残念としか言えない一日、恋人と挨拶を交わしただけ。
 「元気そうだな」とも言って貰えなくて、そのままお別れ。
 それでも会えただけでもマシ、と考えた、好きでたまらないハーレイ。
 前の生から愛し続けた、誰よりも大切な自分の恋人。
 でも…。
 時々、不思議に思うこと。
 いったい何処に惹かれたろうかと、ハーレイの何処が好きなのだろうと。
(…何処が好きだろ?)
 もちろん丸ごと、ハーレイの全てが大好きだけれど。
 本当に全部が好きかどうかを、じっくりと自分で考えてみれば…。
(…嫌いなトコも沢山…)
 そんな気持ちになってくる。
 ハーレイが自分にやらかした仕打ち、それを一つずつ挙げていったら。
 あれもこれもと、数えていったら。
 丸ごと好きな筈なのに。
 誰よりも好きで、いつか結婚出来る日を夢見ているというのに。
(…だって、ハーレイ…)
 ケチなんだもの、とプウッと膨らませてしまった頬っぺた。
 尖らせた唇。
 きっと鏡を覗き込んだら、フグのような顔が映るのだろう。
 面白いように膨れて、唇だけがとんがって。
 フグが膨れた時みたいに。


 そういえば、と思い出したフグがハコフグ。
 前にハーレイにやられたのだった、ハコフグにされてしまった自分。
 大きな手で頬っぺたを押し潰されて。
 「うん、ハコフグだな」と笑ってくれたハーレイ。
 キスを狙って失敗した時、ハコフグにされた。
 その日は一日、ハーレイは恋人の自分をハコフグ呼ばわり。
 「おい、ハコフグ」と、「さっきのお前は、見事なハコフグだったよな」と。
(…あの名前だって…)
 酷すぎると思う、恋人に向かってハコフグだなんて。
 愛していたなら呼べないと思う、そういう酷い名前では。
(…ぼくのことを好きって、言ってくれるけど…)
 きっと子供に対する愛。
 チビの自分に似合いの愛情、ハーレイはそれを向けているのに違いない。
 ままごと遊びの恋人のように、本物の恋とは違った恋。
(そうじゃないって分かっているけど…)
 ちゃんと分かっているんだけれど、と思うけれども、腹立たしい。
 何も知らない誰かが見たなら、恋人同士には見えそうになくて。
 ハーレイの自分に対する扱い、それが恋人のものではなくて。
 どう考えても違うんだもの、とプウッと膨らませてしまう頬。
 「これをハーレイが手で潰したなら、ハコフグだよね」と。
 どうせハコフグなんだから、と尖らせてしまう小さな唇。
 ハコフグと呼ばれる程度の恋人、ハーレイにとってのぼくはハコフグ、と。


 あんまりだった、ハコフグ呼ばわり。
 他にも山ほど、ハーレイを「酷い」と思うこと。
 あんなハーレイの何処が好きだろ、と欠点を数えたくなるほどに。
 一つ、二つ、と数え上げては、プンスカ怒りたくなるほどに。
(…キスも許してくれないんだから…!)
 ハコフグにされたのも、それが原因。
 決してハーレイが許してくれない、唇へのキス。
 恋人同士なら交わして当然、前の自分は何度もキスを貰っていたのに。
 「おやすみ」のキスも、「おはよう」のキスも、いつでも唇だったのに。
 それが今では、両親がくれるようなキス。
 「おやすみ」と額や頬っぺたに。
 そういうキスしかハーレイはくれない、「キスは額と頬だけだしな?」と。
 唇へのキスはして貰えない。
 大きく育って、前の自分と同じ背丈になるまでは。
 ソルジャー・ブルーだった自分と、そっくりの姿になれる日までは。
(ホントのホントにケチなんだから…!)
 恋人と会っているのにキスさえも無し。
 キスしてくれても、額と頬だけ。
 なんとかキスをして貰おうと立てる作戦、それも悉く打ち砕かれる。
 時には頬っぺたを押し潰されて。
 ハコフグだなんて呼ばれてしまって、貰えないキス。
 どうにもケチで憎らしいと思う、ハーレイのことは好きだけれども。
 丸ごと好きでたまらないけれど、嫌いな所もうんと沢山。


 「何処が好きだろ?」と、好きな部分を数えたいほどに。
 嫌いな部分の方が多くはないかと、指を折りたくなるほどに。
(…ハーレイの家にも行けやしないし…)
 ケチなハーレイは禁じたのだった、家を訪ねてゆくことを。
 これまたキスと全く同じに、前の自分と同じ背丈に育つまで。
 その日が来るまで訪ねてゆけない、ハーレイの家。
 教え子たちなら、好きに出入りをしているのに。
 「今度の土曜は、柔道部の子たちが来るからな」と、自分が仲間外れな始末。
 恋人だったら、そういう時にも家を訪ねてゆけそうなのに。
 「ぼくも手伝う!」とバーベキューやらの準備を一緒に出来そうなのに。
 ところが許してくれないハーレイ、そういう時の訪問さえも。
 自分はこの家に独りぼっちで、ハーレイが訪ねて来ないだけ。
 押し掛けて行った柔道部員たちの相手で、その日は潰れてしまうから。
 この家を訪ねて来てくれる暇は、何処にもありはしないから。
(…ぼくはハーレイの恋人なのに…!)
 なんという酷い扱いだろうか、恋人を放っておくなんて。
 教え子の方が優先だなんて。
 ほんのちょっぴり、決まりを緩めてくれればいいのに。
 「あいつらが来るから、お前も来るか?」と呼んでくれれば満足なのに。
 恋人らしく振舞えなくても、そういう扱いをしてくれなくても。
 隅っこに自分の席があったら、もう充分に幸せなのに。
(ハーレイ、ぼくの守り役なんだから…)
 自分が一緒に呼ばれていたって、柔道部員は変だと思いはしないだろう。
 「ついでなんだな」と友達扱い、きっと楽しい一日になる。
 柔道のことは分からなくても、ハーレイの隣に座れなくても。


 考えるほどにケチなハーレイ、恋人の自分にくれない特権。
 少しも特別扱いではない、可哀相な境遇にいるのが自分。
 恋人なのにキスも出来なくて、家にも呼んで貰えない。
 本当に酷くてケチなハーレイ、ますます膨らんでしまう頬っぺた。
 「あんなのの何処が好きなんだろ?」と。
 酷いケチだと、ちっとも恋人らしく扱ってくれないんだけど、と。
(…ぼくって、ハーレイの何処が好きなわけ?)
 前の自分が恋していたから、そのまま「好きだ」と思い込んでいるだけだとか。
 誰よりも好きだった恋人なのだ、と頭から信じているだけだとか。
 なにしろ、こうして数えてみたなら、欠点の方が山盛りだから。
 恋人としては欠点だらけで、褒められる所が無いのだから。
(…ホントにケチだし、とっても酷いし…)
 なのに、どうして好きなのだろう。
 ケチで欠点だらけのハーレイ。
 キスもくれないケチな恋人、家にも呼んでくれない恋人。
 膨れた自分の頬っぺたを潰して、ハコフグと呼んでくれた恋人。
 いったい何処が好きなのだろうか、あんなに酷いハーレイの。
 本当に不思議でたまらないよ、とプウッと膨れて、尖らせる唇。
 ハーレイはチビの自分のことなど、きっとどうでもいいんだから、と。
 大きく育った自分以外は、恋人だと思っていないんだから、と。
 そんなことなど有り得ないことは、自分が一番知っているのに。
 誰よりも分かっている筈なのに。


 けれど、今夜も「何処が好きだろ?」と数えてしまう。
 好きな所は何処なのだろうかと、嫌いな所なら一杯なのに、と。
 キスもくれないケチな恋人で、家にも決して呼んでくれない。
 恋人扱いしてはくれなくて、ハコフグと呼んでくれたほど。
 あんなハーレイの何処が好きかと、嫌いな所ばっかりだよ、とプウッとフグになるけれど。
 ハーレイが見たなら「おっ、ハコフグか?」と頬っぺたを潰してくれそうだけど。
(…でも、大好き…)
 そういう所も全部大好き、とハーレイを想ってしまうから。
 誰よりも好き、と幸せが心に満ちて来るから、やっぱり何処か悔しい気分。
 欠点だらけのケチな恋人、そのハーレイが大好きだなんて。
 何処が好きだか分からないほど、嫌いな部分が山盛りなのに。
 それでも好き、と思うから、きっと好きなのだろう。
 前の生から愛し続けて、今も愛しているハーレイ。
 どうしようもなく好きでたまらないから、ケチでも好きでたまらないから…。

 

        何処が好きだろ・了


※ハーレイの何処が好きなんだろう、と考えてみたら欠点だらけに思えるブルー君。
 けれども、欠点も含めて大好き、そういう恋人。ハーレイ先生、幸せ者ですv





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(俺はあいつにぞっこんなわけで…)
 とことん惚れているわけで、とハーレイが思い浮かべた顔。
 ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎で頭に描いた小さな恋人。
 今日は学校でしか会えなかったから、挨拶しただけ。
 「ハーレイ先生!」と呼び掛けられて、「おう、おはよう」と返した程度。
 立ち話をする時間は無かったから。
 柔道部の朝練が終わって、着替えに戻ってゆく途中。
 いつもだったら少し時間が取れるのだけれど、今朝は急いでいたものだから。
 ついでに古典の授業も無かった。小さなブルーのクラスでは。
 もっとも、授業で会えた所で、ブルーを贔屓は出来ないけれど。
 他の生徒と同じ扱い、「ブルー君」と呼ぶしかないのだけれど。
(…こうして会い損なっちまうとなあ…)
 寂しくなってしまう恋人。
 チビでキスさえ出来ないのに。
 十四歳にしかならない子供で、おまけに教え子。
 どうにもこうにもなりはしないし、結婚出来る日もずっと先。
 それなのにチビのブルーにぞっこん、会い損なったら溜息な日々。
(…どうしようもなくチビなんだが…)
 子供なんだが、と思うけれども、惚れた事実は変えられない。
 ふとしたはずみに、こうして不思議に思ったりもする。
 「あいつの何処に惚れてるんだか」と、「いったい何処が好きなんだか」と。


 小さなブルーに出会うより前は、頭に無かった結婚相手。
 子供部屋まである家に住んで、そのことをネタに話していても。
 家に遊びに来た教え子たちを案内しながら、「子供部屋だぞ」と紹介したなら…。
 直ぐに返ってくる質問。
 「先生、奥さんは何処ですか!?」だとか、「逃げられちゃったんですか?」とか。
 子供が生まれる前に逃げられただとか、結婚前に振られただとか。
 容赦ないのが教え子たちで、だから自分もネタにする。
 「実はな…」と深刻な顔をして。
 「結婚式の日の朝に、ポストに手紙が入っていたんだ」と、「さようなら、とな」と。
 「本当ですか!?」と驚く教え子、「すみませんでした」と謝る子もいる。
 面白いから、暫くそのまま。
 すっかり空気が沈んだ所へ、「俺はそんなにモテそうにないか?」と種明かし。
 全部嘘だと、結婚どころか婚約者だっていたことは無いと。
 そうなった途端、騒ぎ始める教え子たち。
 今度は「嘘だ」と、「ハーレイ先生がモテないなんて、有り得ない」と。
 家に遊びに来るような子たちは、クラブの子と相場が決まっているから。
 赴任先の学校次第で、柔道だったり、水泳だったり。
 どちらにしたって、プロ級の腕を持つのが自分。
 教え子たちにすればヒーローなわけで、教師をしているのが信じられない人物。
 その道を志しているなら、何処かで必ず聞く名前だから。
 「プロの選手になれたというのに、ならずに教師になってしまった」と。
 大騒ぎになる教え子たち。
 「モテないなんて有り得ないから、選り好みだ」と。「きっと理想が高いのだ」と。
 そして彼らはもれなく夢見る。
 「どんな人が奥さんになるんだろう」と、「並みの人ではないですよね?」などと。


 教え子たちは勝手に「理想の奥さん」とやらを考え出してくれたけど。
 料理上手だとか、絶世の美女だとか。
 他にも色々、思い付く限り。
 有名女優まで挙げてくれたけれど、どれも笑って取り合わなかった。
 本当にピンと来なかったから。
 結婚相手と言われた所で、誰も浮かんで来なかった頭。
(…モテなかったわけじゃないんだが…)
 それは断言出来るけれども、どういうわけだか出会わなかった。
 「この人がいい」と自分が思う相手に。
 この人と一緒に暮らせたなら、と夢が大きく膨らむ人に。
(面食いではない筈なんだがなあ…)
 美人でないと、と自惚れてはいない、自分も美男とは言えないから。
 キャプテン・ハーレイに似ている点で得はするけれど、それだけだから。
(…伝説の英雄と瓜二つ、ってだけで…)
 その英雄は美男と噂が高いわけでは決してない。
 同じ時代を生きたソルジャー・ブルーに敵いはしないし、ジョミーにだって。
 ついでに敵として戦ったキース・アニアン、彼にも顔で負けていた。
 写真集さえ出ない始末で、その程度なのがキャプテン・ハーレイ。
 だから顔には自信が持てない、「モテる顔だ」と思えはしない。
 キャプテン・ハーレイにそっくりだから、と覚えて貰いやすいだけ。
 自分がそういう有様だから、結婚相手にも高い理想は抱かない。
 「側にいて欲しいと思う人がいいな」と、「優しくて温かい人だったら」と。
 休日になったら、子供も一緒に幸せな時を過ごせる人。
 そういう人が見付かればいい、と。


 ところが、恋人は見付からないまま。…ピンと来る人はいないまま。
 子供部屋は変わらず空っぽのままで、結婚式さえ挙げられない。
 教え子たちが遊びに来る度、話のネタにはなるけれど。
 「実はな…」と、「結婚式の朝に逃げられちまった」と。
 相も変わらずネタにしながら、いつしか諦め始めつつあった。
 「俺に似合いの結婚相手はいないらしい」と、「どうやら駄目だ」と。
 自分ではそうは思わないけれど、実は理想が高いとか。
 まるで自覚が無いというだけで、美人でないと駄目だったとか。
 それもとびきりの美女で、料理上手な才媛を希望。
 心の底ではそんなトコかもしれないな、と思い始めていた自分。
 なのに出会った、ついに「この人がいい」と思う相手に。
 心から欲しいと望む相手に、いつか結婚したい相手に。
 よりにもよって、男だけれど。
 子供部屋の出番は絶対に来ない、子供を産めない人を見付けた。
 その上にチビで、まだまだ結婚出来ない子供。
 結婚どころかキスも出来ない、十四歳にしかならない子供。
 チビのブルーに出会ってしまった、今の学校に移った途端に。


 前の生から愛し続けたソルジャー・ブルー。
 気高く美しかった恋人、その人の生まれ変わりのブルー。
 出会った瞬間、前の自分の記憶も戻ったものだから。
 「俺のブルーだ」と直ぐに気付いた、失くしたブルーが帰って来たと。
 もうそれからは、小さなブルーに夢中の日々。
 夢のような毎日がやって来た。
 子供部屋の出番は来ないけれども、いつか結婚するのだから。
 小さなブルーが前と同じに育ったら。
 結婚出来る十八歳になったなら。
 その日を夢見て、幸せな日々が流れてゆくのが今だけど。
 今日のようにブルーに会い損なったら、溜息を零してしまうのだけれど。
(…俺はあいつの、何処が好きなんだ?)
 チビなんだぞ、と自分に問い掛ける。
 大きく育って前のブルーと同じになったら分かるけれども、今はチビだが、と。
 再会を遂げて間もない頃なら、前のブルーが重なりもした。
 小さなブルーが見せる表情、それが怖くて「家に来るな」と禁じもした。
 ウッカリ重ねてしまったならば、何をしでかすか分からないから。
 大人ならではの欲望でもって、小さなブルーを手に入れかねない。
 たとえブルーが泣き叫んでも。
 悲鳴を上げても、「お前も俺が好きだろうが」と。
 小さなブルーは何かと言えば、「本物の恋人同士になりたいよ」と言うものだから。
 無垢で幼い心も身体も、そのように出来てはいないのに。
 けれどブルーはそれを望むから、引き込まれたならば大変だから。


 そうしてキスも、この家での逢瀬も禁じたブルー。
 まだまだチビで子供なブルー。
(はてさて、何処が好きなんだかなあ…)
 あいつの何処が、と思うけれども分からない。
 いつか大きく育つだろうブルー、前と同じに育つ筈のブルー。
 その姿を重ねて惚れているかと訊かれたならば、答えは「否」で。
 気付けば小さなブルーも好きで、恋をしている自分がいる。
 キスさえ出来ない恋人でも。
 結婚どころか、プロポーズさえも早すぎるような恋人でも。
(…きっと、丸ごと好きなんだ…)
 そんな答えしか出て来ない。
 古典を教える教師としては恥ずかしいほどの語彙不足。
 もっと上手に言える何かを…、と考えてみても、「丸ごと」としか。
 ブルーの全てに惚れているとしか、何処もかしこも好きだとしか。
 幼い顔も、細っこい手足も、子供ならではの我儘だって。
 「キスは駄目だ」と叱った途端に、プウッと膨れる顔だって。
(…あいつだから、俺は好きなんだろうな…)
 ブルーの全てが、何もかもが。
 前の生から愛し続けて、こうして再び出会ったから。
 それほどの絆があるブルーだから、自分はぞっこんなのだろう。
 けれどブルーには言ってやらない、「お前の全てが好きだ」とは。
 もしも言ったら、ブルーはたちまち調子に乗って、キスだの本物の恋人だのと…。
(うるさく言うから、俺は言わんぞ)
 何処が好きかは、絶対に。…丸ごと好きだとは、口が裂けても。
 何処が好きだか分からないくらいに、ブルーに惚れているけれど。
 チビでも、ぞっこんなのだけれども…。

 

       何処が好きだか・了


※ブルー君がチビでも、丸ごと好きなハーレイ先生。キスも出来ない恋人でも。
 けれども、ブルー君には内緒。間違いなく調子に乗りますものねv





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