「おい、聞いてるか?」
ハーレイに訊かれて、ブルーは「うん」と笑顔で応えた。
聞こえてるよと、ハーレイの声は聞こえているよと。
「だったら、どうして…」
直ぐに返事をしなかったんだ?
俺の顔ばかり見て、ニコニコしてて。
考え事かと思ったんだが、心ここに在らずで。
「んーと…。半分は当たりで、半分はハズレ?」
「何なんだ、それは」
どういう意味だ、とハーレイは小さな恋人を見詰める。
半分は当たりで半分はハズレとは、いったいどういう意味なのかと。
「えーっとね…。ハーレイの声は聞いてたんだよ、ちゃんと」
話の中身も覚えているよ?
ぼくの家へ来る途中で見かけた猫のお話。真っ白な猫の。
「なんだ、しっかり聞いてたんじゃないか」
呆れ顔になってしまった、ハーレイ。
猫というのは、ブルーの家への道の途中で出会った猫で。
前にブルーに話してやった、母の飼い猫だったミーシャに似ていた。
だからブルーが喜ぶだろうと思ったのに。
もっとミーシャの話を教えて、とせがまれるものと思っていたのに。
ブルーは何も言わないから。
ニコニコしているだけだったから、聞いているのかと尋ねたのに…。
「聞いていたけど、ハーレイの声を聞いていたから」
「はあ?」
今度こそ意味が掴めない。
ブルーは何を言い出すのか、と鳶色の瞳が丸くなったけれど。
「…ハーレイの声を聞いてたんだよ、幸せだな、って」
「何なんだ、それは?」
「ハーレイの声だよ、今はきちんと聞こえるよね、って」
ぼくの耳、とブルーは自分の耳を指差した。
「補聴器無しでも全部聞こえるよ、今のぼくの耳」
「そういや、前もそう言ってたか?」
「うん。だからね…」
ハーレイの声は聞いていたけど、考え事もしてたんだ。
幸せだな、って。
だから半分は当たりなんだよ。半分はハズレ。
ちゃんと聞いてた、と笑みが弾ける。
「聞いていたから、もっと聞かせて。ハーレイの声」
「そっちなのか、猫の話じゃなくて?」
「ハーレイの声なら何でもいいよ」
怒鳴り声だって、と笑う小さな恋人。
ハーレイは「敵わないな」と肩を竦めて、聞かせてやった。
白い猫を見た話の続きを、ブルーが聞きたいと強請った声で…。
考え事・了