土曜日にブルーの家を訪ねて、過ごして。
ブルーの両親を交えた夕食も食べて、ブルーの部屋で食後のお茶を。
そろそろ時間か、とハーレイはブルーに切り出した。
「よし、今日も有意義に過ごせたな、うん」
「えっ…」
ブルーの笑顔がみるみる曇る。
「ハーレイ、帰るの?」
帰っちゃうの、と縋り付かんばかりの小さなブルー。
けれども、時間が時間だから。
飲み友達の家を訪ねたわけではないから、そこそこの時間に帰らねば。
「悪いが、こういう時間だからな?」
ほら、と時計を指差してみせた。左手に付けた腕時計。
針が示す時間は、帰宅を促すには充分な時刻になっていたけれど。
どう見てもそういう時間だけれども、小さなブルーは首を横に振った。
「まだ平気だよ」
だってハーレイ、明日もお休みでしょ?
月曜日じゃないよ、日曜日だよ?
ちょっとくらい遅くても平気な夜だよ、もう少しいてよ。
「おい、我儘を言うんじゃない」
俺は朝から居座ってるんだ、もういい加減に帰らないとな?
でないと塩を撒かれちまいそうだ、あの長っ尻の先生は、とな。
「ママ、塩なんかは撒かないよ?」
ハーレイだもの、とブルーは尚も食い下がる。
大事なお客様だから平気なのだと、ぼくの守り役なんだもの、と。
「お願い、ハーレイ。もうちょっとだけ」
パパだって塩を撒いたりしないし、もうちょっと。
本当にあと十五分ほどでいいんだから。
「駄目だな、そうこう言ってる間に三分ほどは経っただろうが」
充分だな、と腰を上げようとすると。
「じゃあ、約束」
「約束?」
「うん、約束」
ぼくと指切り、とブルーが右手を差し出してきた。
前の生の終わりに凍えた右の手。
メギドで冷たく凍えた右手。
この手を出されるとハーレイは弱い。
それを承知で出してきたのか、そうでないかは分からないけれど。
「約束なあ…。なんだ?」
「明日も来るって、約束で指切り」
「言われなくても来るんだがな?」
「駄目!」
指切りしよう、と絡められた小指。
分かった、とハーレイは微笑んでやる。
きっと明日も来ると、明日も朝から来てやるからと。
帰っちゃ嫌・了