(ハーレイ、今日は車かな?)
車だといいな、とブルーが夢見る夏休みの朝。
天気がいい日は歩いて来るのがハーレイだけれど、車で来る日は特別な日。
前のハーレイの制服のマントと同じ色の車、よく晴れた日にそれが来たなら始まりの合図。
どうだろうか、と二階の窓から下を見下ろすブルーだけれど。
胸を高鳴らせて、庭と生垣の向こうの通りを眺めるけれど。
(来た…!)
ハーレイの車、と濃い緑色の車をドキドキしながら見守った。
それがガレージへと入ってゆくのを、停まった車の運転席のドアが開くのを。
「持って来てやったぞ、テーブルと椅子」
今日もデートをしようじゃないか、とパチンと片目を瞑るハーレイ。
二階のブルーの部屋へ来て直ぐ、下へ行こうと、庭に出ようと。
「うん、見てた! ハーレイが車で来るのを見てたよ」
知っているよ、と元気に答えて、ハーレイと二人、階段を下りて。
玄関から日射しの眩い外へ歩き出す、二人並んで。
お前は先にあっちで待ってろ、と肩を叩かれ、庭で一番大きな木の下へ。
枝と茂った葉とが遮る、肌に痛いほどの強い真夏の日射し。
ハーレイが行ったガレージの方は、その照り返しで白く輝いて見えるほど。
濃い緑色の車も光を弾いているのだけれども、そのトランクがバタンと開いて。
中から引っ張り出されたテーブル、折り畳み式のキャンプ用。
それをハーレイは軽々と運んだ、両腕で抱えて。
ブルーが待っている木の下まで来て、パタンと広げて、脚などをしっかりと留めて確かめて…。
「お次は椅子だな」と戻ってゆくハーレイ。ガレージの車へ、椅子を取りに。
トランクから出て来たテーブルと、椅子と。
どちらも折り畳み式で、魔法のように木の下に出て来る。ハーレイの手で据え付けられる。
テーブルが一つに、椅子が二人分。
それが揃ったら、「座れ」と椅子に促されて。
向かい側にハーレイが腰を下ろすと、母がお茶とお菓子を運んでくれる。
アイスティーだったり、レモネードだったり、日によって違う。
お菓子も冷たいゼリーだったり、口当たりのいいムースケーキだったり。
庭で一番大きな木の下、ハーレイと二人きりでのデート。
初めてのデートも同じ場所だった、同じキャンプ用の椅子とテーブルで。
あの日はレモネードとパウンドケーキで、木漏れ日がシャングリラの形を描いた。
二人で見ていたテーブルの上に、光が描いたシャングリラ。
それは幸せだった初めてのデート、ハーレイと二人で初めて庭で過ごした日。
あれからすっかりお気に入りになった、庭で一番大きな木の下。
其処に据えられたテーブルと椅子と、ハーレイと過ごすティータイムと。
今日で何度目になるのだろうか、と幸せに酔って、暑くなる前に部屋に戻って。
ハーレイと二人であれこれ話して、甘えたりして、夕食の時間。
父がハーレイに「テーブルと椅子を買うことにしますよ」と言い出した。
いつも持って来て貰うのは申し訳ないし、買うことにすると。
(ハーレイの魔法がなくなっちゃう…!)
車のトランクから魔法みたいに出て来るテーブルと、椅子と。
それに晴れた日に濃い緑色の車が走って来るのを待つ楽しみまで消えてしまう。
とんでもない、と驚き慌てたブルーだけれど。
顔には出せない、デートだとバレたら大変だから。
デートなのだと両親に知れたら、魔法どころではないのだから。
ハーレイは「大して重くもないですし、いいですよ」と笑ったけれど。
次からも自分が持って来るから、と言ってくれたのだけれど、そのハーレイが帰った後。
「またな」と帰ってしまった後。
父と母とが「ハーレイ先生に申し訳ないから買わなくては」と始めた相談、買う相談。
とても言えない、「ハーレイが持って来てくれるから大丈夫」とは。
買わなくていいと言えはしなくて、黙っているしか出来なくて。
次の日には父がもうカタログを持って帰って来た。
どれにしようかと、どのテーブルと椅子を買ったらいいだろうかと。
母が覗き込み、「これがいいわ」と指差した白いテーブルと椅子。
「私も庭でお茶にしたいわ」と、「白いテーブルと椅子が素敵よ」と。
(…白だなんて…!)
それは違う、と思ったけれど。
ハーレイに似合いそうにないから嫌だ、と止めたいけれども、買うのは父と母だから。
意見を訊かれていないのだから、何も言えない。白は嫌だと口を挟めない。
そうして白いテーブルと椅子がやって来た。
庭で一番大きな木の下、ハーレイがいつも魔法を使った場所に。
晴れた日に走って来る濃い緑色の車のトランク、そこからテーブルを出していた場所に。
「お前の椅子だぞ」と、折り畳み式の椅子を据え付けてくれていた場所に。
見慣れたキャンプ用のテーブルと椅子とは違った代物、真っ白なものが置かれてしまった。
色もデザインもまるで違うのが、まるで似ていないテーブルと椅子が。
(…ハーレイの魔法…)
もう見られない、と溜息をついたブルーだけれど。
初めてのデートの思い出の場所を台無しにされた気分だったけれど。
白いテーブルと椅子がやって来た後、訪ねて来てくれたハーレイの笑顔。
「本当に買って貰ったんだな、テーブルと椅子」
早速デートといこうじゃないか、と誘われて、一気に晴れ上がった気分。
テーブルと椅子は変わったけれども、デートは出来るらしいから。
庭で一番大きな木の下、ハーレイと二人で座ってみた椅子。真っ白なテーブル。
(…ハーレイ、なんだか似合ってる…?)
似合わないとばかり思っていたのに、白い椅子が似合っているハーレイ。
そして訊かれた、「俺にシャングリラは似合わなかったか?」と。
「俺たちのシャングリラは白かったぞ」と。
(…そっか、シャングリラも真っ白だった…!)
どおりで似合う、と眺めた白いテーブルと椅子。
きっと、このテーブルと椅子でいいのだろう。デートをするには、ハーレイと二人で座るには。
このテーブルと椅子で、きっと幾つも思い出が出来る。
幸せな思い出が沢山、沢山、前のキャンプ用のテーブルと椅子とがそうだったように…。
白いテーブル・了
※庭に置いてある白いテーブルと椅子が大のお気に入りのブルー君ですが。
そうなる前にはキャンプ用のが好きだったようです、ハーレイ先生の魔法ですものねv
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