(うんと幸せ…)
とっても幸せ、って丸くなった、ぼく。
恋人がいるから幸せだよ、って、ベッドの中で。
ハーレイがいるから、とっても幸せ。
前だと、幸せじゃなかったけれど。
起きたら、ちょっぴり熱かった頬っぺた。
熱っぽいような気がした身体。
お休みの日なのに、土曜日なのに。
起き上がったらクラリと眩暈で、やっぱり病気だった、ぼく。
頭は枕に逆戻りしちゃって、とても起きられそうにはなくて。
暫くそのままウトウトしてたら、ママが様子を見にやって来た。
朝御飯の支度は出来ているのに、ぼくがちっとも起きて行かないから。
「熱があるわね」って測られちゃって、ホントに病気になっちゃった。
体温計がピピッって鳴ったら、本当に熱があったから。
ママに「朝御飯は?」って訊かれたけれど。
「食べられそう?」って顔を覗き込まれたけど、いつもの食事は無理そうで。
トーストに卵、そんなのは無理。野菜サラダも、きっと無理。
首を振ったら、ママはプリンを作って来てくれた。
「これくらいなら食べられるでしょ?」って。
プリンはなんとか食べられたけれど。
お砂糖で甘くして貰ったミルクも飲めたけれども、それが限界。
食べ終わったらベッドに入るしかなくて、ぼくの土曜日はすっかり台無し。
せっかくのお休み、学校の無い日。
友達と遊んだり、本を読んだり、一日好きに過ごせる日。
それを病気に台無しにされて、ぼくは一日、ベッドの住人。
もしかしたら明日の日曜日だって。
これが前なら不幸のドン底、もうガッカリの休日だけど。
ツイていないとベッドにもぐって、重たい身体に文句を零していたんだけれど。
今は幸せ、ちっとも不幸な気持ちじゃない。
本当を言えば、ほんのちょっぴり、ほんの少しだけ不幸だけど。
これから家に来てくれる筈の、ハーレイと元気に過ごせないから。
いつものテーブルで向かい合わせで、楽しくお喋り出来ないから。
ハーレイの膝に乗っかることも、胸にピッタリくっつくことも。
(でも、ハーレイが来てくれるしね?)
ママはハーレイの家に、「ブルーは病気で寝ています」って連絡をしちゃったんだけど。
それでも「行きます」って言ってくれたハーレイ、待ってたらきっと来てくれる。
いつもより少し遅いかもだけど、ひょっとしたら午後かもしれないけれど。
だけど「行きます」って言ったからには、来てくれるから。
待ってれば、いつか来てくれるから。
もう、それだけでうんと幸せ、不幸のドン底なんかじゃない。
だって、恋人がいるんだから。
「大丈夫か?」って、お見舞いに来てくれる恋人が。
前のぼくだった頃から大好きだった、恋人がちゃんといるんだから。
ハーレイに会うまでは、ホントのホントに不幸だった病気。
お休みの日に罹ってしまった病気。
友達と遊びに行けもしなくて、家で出来ることも減っちゃって。
本を読みたくてもベッドの中で読める分だけ、それでおしまいだった休日。
熱っぽい上に食欲も無くて、身体が重くて、だるかったりして。
いいことなんかは何も無くって、不幸のドン底。
なんでこんな日に病気なんだろう、って。
友達は元気に遊んでいるのに、ぼくはベッドで寝てるんだろう、って。
でも、今はハーレイがいてくれるから。
今のぼくには恋人がいるから、 ぼくはちっとも不幸じゃない。
欲を言うならほんのちょっぴり、ハーレイと楽しく過ごせない分だけ、ちょっぴり不幸。
いつものテーブルで向かい合わせで、ゆっくりお喋りが無理な分だけ。
ハーレイの膝の上に座って、くっついて甘えられない分だけ。
たったそれだけ、不幸なことは。
それよりももっと大きな幸せ、ぼくには恋人がいるってこと。
病気で寝込んじゃった時でも、訪ねて来てくれる恋人が。
ぼくが一人で寝込んでいたって、「病気だってな?」って声がするんだ、大好きな声が。
そうして額に大きな手。「熱もあるな」って。
前のぼくの記憶が戻って来る前、ぼくに聖痕が現れる前。
ぼくには恋人なんかいなくて、お見舞いにだって来てくれなかった。
恋人は何処にもいないんだから。
いない恋人が来るわけがなくて、お見舞いになんか来てくれなくて。
お休みの日に病気になったら、ホントのホントに不幸のドン底。
友達はお見舞いに来てくれない。
遊びの方に忙しいから、来てくれたって、何かのついで。
ぼくの家の表を通り掛かって「大丈夫か?」って寄ってくれても、直ぐ帰っちゃう。
「またな」って、遊びの続きをしに。
ぼくをベッドに一人残して、「じゃあな」って。
だけど今ではハーレイがいる。
ぼくの恋人、前のぼくだった時から恋人同士のハーレイ。
ハーレイがぼくの大事な恋人、ぼくを抱き締めてくれる恋人。
「キスは駄目だ」って叱るけれども、恋人だとは言ってくれるから。
ちゃんと恋人扱いだから、こんな時でも来てくれる。
ぼくを一人で放っておかずに、「大丈夫か?」って、お見舞いに。
来てくれたらきちんと側にいてくれる、ぼくがベッドから出られなくても。
「じゃあな」って直ぐに帰ったりしない、「またな」って直ぐに出て行きはしない。
ぼくがウトウト眠っちゃっても、起きたらハーレイがいてくれるんだ。
「起きたのか?」って。「どうだ、具合は?」って。
そのハーレイが来てくれるから、ぼくはちっとも不幸じゃない。
お休みの日に病気になっても、前よりもずっと幸せなんだ。
恋人がいるから、恋人がお見舞いに来てくれるから。
一人で寝てても、その内に、ちゃんと。
だから幸せ、とっても幸せ。
熱っぽくっても、プリンくらいしか食べられなくても、お休みの日でも。
ハーレイと楽しく起きてお喋り出来なくっても、ぼくは幸せ。
だって、ハーレイには会えるんだから。
お見舞いに来てくれるんだから。
(こうして寝てたら…)
ハーレイが部屋に来てくれる。
大好きなハーレイが、ぼくの恋人が。
ぼくが眠ってしまっていたって、帰らずに待っててくれる恋人が。
なんて幸せなんだろう。
恋人がいるっていうことは。
ぼくを大事にしてくれる人が、ぼくも大事に思ってる人が。
大好きでたまらない人が。
だから病気でも、ぼくは幸せ。
お休みの日に寝込んじゃっても、前と違って不幸じゃない。
恋人がいるから、ハーレイが来てくれるから。
「大丈夫か?」って、ぼくの大好きな声で具合を訊きに。
大きな手でそっと額を触って、「熱はどうだ?」って確かめるために。
前だったら、ホントにドン底だった病気だけれど。
ツイていないとベッドにもぐった、お休みの日の病気だけれど。
今は幸せ、恋人がいるから。
ベッドの中でぼくが丸くなってたら、きっとその内に声がするから。
「大丈夫か?」って訊いてくれる声、ぼくが大好きでたまらない声。
ぼくはちっとも不幸じゃない。
恋人がいるから、ハーレイが来てくれるんだから…。
恋人がいるから・了
※お休みの日に寝込んでしまったブルー君。それでも幸せみたいです。
お見舞いに来てくれるハーレイ先生。恋人に会えれば、もう充分に幸せなのですv
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