(よし!)
いい天気だな、と開けた窓のカーテン。
昨夜は星が沢山見えたし、明日は晴れだと確信してはいたけれど。
天気予報も同じく晴れで、快晴だと告げていたけれど。
それでも読めない地球の天候、予報もたまには外れたりする。
人間がコントロールをしていない証拠、前の自分が生きていた頃と違って機械も無い。
死に絶えた地球を死んだままにしていた、グランド・マザーはもういない。
ユグドラシルなんぞを地球に造って管理していたような憎い機械は。
朝の光が射し込む寝室、そこで大きく伸びをした。
今日は土曜日、ブルーの家へと出掛けてゆく日。
雨なら車で出掛けるけれども、それでは少しつまらない。
短い時間で着けるとはいえ、その分、早くブルーに会えるわけではないから。
他所の家を訪ねてゆくとなったら、気にせねばならない訪問の時間。
あまりにも早くチャイムを鳴らせば迷惑だろうし、避けねばならない。
いくらブルーの守り役とはいえ、朝早くから押し掛けて行って、朝食の席に着くのは論外。
(きっと歓迎されるんだろうが…)
どうぞ、とダイニングに案内されて、小さなブルーも一緒の朝食になりそうだけど。
ブルーの両親も笑顔だろうけれど、やはり、あまりに厚かましすぎて。
だから早くには訪ねてゆけない、この時間だと自分が作ったルールよりも早い時間には。
車で行くなら普段よりも遅く、そういう時間まで家を出られない。
雨が降ったらそうなってしまう、車だと直ぐに着いてしまうから。
ほんの僅かな距離のドライブ、それで到着してしまうから。
エンジンをかけてガレージから出て、暫く走ってゆくだけで着いて、土産話もろくに拾えない。
「来る途中で面白いものを見たぞ」と話してやりたい、様々なことが拾えない。
ハンドルを握って走る時間が短すぎるから、アッと言う間に目的地に着いてしまうから。
そんな車も、普段は頼もしいけれど。
仕事の帰りにブルーの家に寄るのだったら、車の速さが嬉しいけれど。
休日にブルーの家へゆくなら歩くのがいい、自分の足で歩いてゆきたい。
この道をゆこうと決めた道筋、それを歩いてゆくのがいい。
そうしたいなら晴れた日がいい、今日のように。
明るい日射しが眩しい日がいい、青空の下をのんびりと歩いてゆける日が。
(ブルー日和というヤツだな)
うん、と自分が作った言葉に頷いてみる。
何かをするのに絶好の天気、それが「日和」というものだから。
ブルーの家を訪ねてゆくのにピッタリの晴れなら、「ブルー日和」になるだろう。
爽やかに晴れて、午後には些か暑くなるかもしれないけれど。
それでも今日はブルー日和で、小さなブルーと過ごせる日で。
ブルー日和だと跳ねている心、この青空の下を歩いてゆこうと。
何が見付かるかと、何を話そうかと、ワクワクしながら歩いてゆこうと。
顔を洗って着替えを済ませて、朝食の支度。
小さなブルーなら「食べ切れないよ!」と叫びそうな分厚いトーストなども。
食べるものは普段と変わらないけれど、仕事にゆく日と同じだけれど。
今日は要らない仕事用の服、もうそれだけで心が浮き立つ。
その上、ブルー日和だから。
歩いてゆくのが似合いの日だから、食べ終えたら直ぐに家を出られる。
後片付けさえすれば、戸締りをして。
車で出掛ける雨の日のような待ち時間などは全く要らない、直ぐにブルーの家に向かえる。
そうして玄関の扉を閉ざして、歩き始めた青空の下。
今日は絶好のブルー日和だと笑みが零れる、いい天気だと。
午後には暑くなりそうな日射し、それを浴びながら歩いてゆく。
ブルー日和に相応しい道を、ブルーの家へと繋がる道を。
今日はどちらの道をゆこうか、この先の角を曲がろうか?
それとも曲がらずに真っ直ぐゆこうか、もう一つ先の角を目指して。
車が沢山走ってゆく道、大きな道路は避けての散歩道だから。
住宅街の中を歩いてゆくから、ブルーの家へと繋がる道は幾つもあって。
どれを行くのも自分の自由で、その日の気分で選べる道で。
(…今日はミーシャの方に行くかな)
気まぐれに決めた、ミーシャのいる道。
運が良ければ白い猫に会える、日向ぼっこをしている猫に。
子供だった頃に隣町の家で一緒に暮らした、白いミーシャにそっくりな猫に。
選んだ道は今日は正解、日向ぼっこのミーシャに会えた。
家の前の芝生、其処に座った真っ白な猫。
本当は撫でてやりたいけれども、ちょっと遊んでやりたいけれど。
「すまんな、先を急ぐんでな」
「…ミャア?」
なあに、と猫が見上げて来るから。
「お前さんみたいなチビが待っているのさ」
銀色の毛皮の可愛いのがな、とミーシャに手を振り、また歩いてゆく。
猫の名前がミーシャかどうかは知らないけれど。
飼い主の人が出て来るまで待って名前を訊く暇があれば、もっと先へと進みたいから。
ミーシャには「急ぐ」と言ったけれども、急ぎ足にはならない散歩。
自分のペースでのんびりゆっくり、ブルー日和の空の下。
あまりにも早く着きすぎないよう、丁度いい時間に着けるよう。
次の角ではどちらにゆこうか、曲がるか、真っ直ぐ進んでゆくか。
最短距離など考えはしない、こんな素晴らしいブルー日和に無粋なことは考えない。
歩く道々、目に入ったものをブルーに話してやれるから。
こんな花があったと、こんなことがあったと、小さなブルーに披露出来るから。
(急がば回れとも言うんだしな?)
ただ真っ直ぐに進んでゆくより、土産話が拾える時間。
車で走れば早く着くけれど、土産話を拾える時間が少ない上に楽しめない。
これからブルーの家に行くのだと、ブルーに会えると心がときめく時間も好きで。
その時間を長く味わいたいなら、こういうブルー日和がいい。
ブルーの家へと歩いてゆくためだけにあるような天気、カラリと晴れたブルー日和が。
もうすぐ会えると、もう少しだと歩きながらも、最短距離は選ばない。
少し回り道するくらいがいい、弾む心で、浮き立つ心で。
早くブルーに会いたいものだと、あいつに会えると、足取りも軽く。
今日は絶好のブルー日和で、きっとブルーも待っているから。
早く来ないかと首を長くして待っているから、余計に嬉しい散歩道。
ブルーに会ったら何を話そうか、どの話から始めてみようか。
さっき目を留めた庭の話か、香しい匂いに惹き付けられた生垣に咲いていた花か。
土産話は幾つも拾って、心に仕舞ってあるけれど。
どれから話してやるのがいいかと、幾つも持っているのだけれど。
(…ブルー日和は内緒だな…)
素敵な言葉が生まれたけれども、今日の天気に似合いだけれど。
自分の心に仕舞っておきたい、幸せに満ちた響きだから。
ブルーの家へと向かう途中で思い浮かべるのが幸せだから。
小さなブルーに話してしまえば、「ブルー日和」はきっと連発されるから。
それは嬉しそうに、得意そうに何度も言うだろうから、ブルーには内緒。
ブルー日和の心地良さは一人、噛み締めながら歩くのがいい。
今日は絶好のブルー日和だと、良く晴れてとても気持ちがいいと。
もうすぐブルーに会いにゆけると、弾む足取りでブルー日和の青空の下を…。
ブルー日和・了
※いいお天気の休日だったら「ブルー日和」になるんでしょうねえ、ハーレイ先生。
ブルー君に会いに出掛ける休日、ハーレイ先生は朝からウキウキなのですv
※当サイトのペットのウィリアム君、明日の午後に生後801日目を迎えます。
「やおい?」と思われそうですけど、「801」で「ハーレイ」です。
こんな機会は二度と無いので、明日もショートを上げますですv