カテゴリー「拍手御礼」の記事一覧
「もっと素直になれないのかなあ…」
ホントに損な性分だよね、と小さなブルーが零した溜息。
二人きりで過ごす午後のお茶の時間に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 損な性分って…」
この俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
いきなりブルーに指摘されても、心当たりが全く無い。
損な性分だと思ったことも無ければ、言われたことも…。
(…俺の人生、一度も無いと思うんだが…?)
はて、と首を捻ったけれども、前の人生なら事情は違う。
厨房時代はともかくとして、キャプテンになった後は…。
(自分を押さえ付けてた部分が、まるで無かったとは…)
言えないよな、と自分でも自覚している。
押さえ切れずに、仲間を殴ってしまった経験もあった。
けれど、あそこで殴らなければ…。
(皆がバラバラになってしまって、大変なことに…)
なっちまうしな、と分かっているから、後悔は無い。
とはいえ、それを逆の方から考えたなら…。
(普段の俺は我慢だらけで、自分を押さえ付けていて…)
何もかも一人で抱えてたんだ、と前の自分の苦労を思う。
キャプテンという立場と、その職務上、それは仕方ない。
前の自分が思いのままに振舞ったならば、あの船は…。
(とても地球まで辿り着けなくて、途中で沈んで…)
おしまいだよな、と肩を竦める。
「俺がゼルみたいな性分だったら、そうなってたぞ」と。
(…前の俺なら、確かに損な性分なんだが…)
果たして今の俺はそうか、と自分で自分に問い掛ける。
我慢ばかりが続く毎日なのか、そうではないのか。
(…強いて我慢と言うんだったら…)
ブルーの家に寄れない日ならば、我慢している方だろう。
本当は飛んで帰りたいのに、会議や部活や、会食など。
(…いつもだったら、今頃は、と…)
溜息をつきたい気持ちになるのを、グッと堪える。
会議や部活は大事な仕事で、会食も同僚との大切な時間。
(我慢だなんて言えやしないし、正直を言えば…)
同僚たちと食事の時には、ブルーを忘れていたりもする。
久々に仲間と過ごす時間が、心地よすぎて、ウッカリと。
つまり、損とは全く言えない、今の自分の性分なるもの。
とても自分に正直なわけで、会議を我慢する時も…。
(前の俺とはまるで違って、終わった後の算段を…)
頭の中でコッソリ組み立て、密かに準備していたりする。
「終わったら本屋に行くとするか」とか、夕食の計画。
いつもの店で買い込む食材、時間をかけて作りたい料理。
(ブルーの家に来るようになってから、そういう飯は…)
滅多に作る機会が無いから、張り切りたくなる。
たった一人の食卓だけれど、あれこれ並べて食べたくて。
「こういう時に」と頭にメモしておいた、料理の数々。
それを端から作るのもいいし、じっくり作る一品もいい。
(…会議の中身を聞いてはいても…)
発言してメモも取ってはいても、心の方は脱線している。
キャプテンだった前の生なら、決して許されない姿勢。
(そいつを、何の罪悪感も無く平然と、だ…)
やってしまえる今の自分は、損な性分などではない。
自信を持って言い切れるから、ブルーに宣言しなければ。
「おい、ブルー。…お前、勘違いをしているぞ?」
今の俺は前とは違うんだ、とハーレイはニヤリと笑った。
損な性分だった頃と違って、今は自由で気ままな人生。
「我慢ばかりのキャプテン時代は、とうに過去だ」と。
「ぼくには、そうは見えないんだけど…」
もっと素直になるべきだよ、とブルーは納得しなかった。
「今のハーレイも我慢ばかり」と、「もっと素直に」と。
「俺は充分、素直で自分に正直なんだが?」
いったい何処が違うと言うんだ、とハーレイが訊くと…。
「今だって、我慢してるでしょ? ぼくがいるのに」
もっと欲望に正直に…、と赤い瞳が煌めいた。
「キスしてもいいし、もっと大胆なことも…」
してくれて構わないんだけれど…、とブルーは微笑む。
「今の時間ならママは来ないよ」と、「夕食までね」と。
(そういうことか…!)
ならば、こうする、とハーレイはサッと椅子から立った。
してやったり、とブルーは嬉しそうだけれども…。
「有難い。だったら、今日は帰らせて貰う」」
「えっ?」
ブルーの瞳が丸くなるのを、勝ち誇った顔で見詰め返す。
「この間から、作りたいと思っていた料理があってな…」
ちっと時間がかかるヤツで…、と顎に手を当てた。
「今から帰って買い出しをすれば、今夜には…」
出来るからな、と告げると、ブルーの顔色が変わる。
「ちょ、待って! そうじゃなくって…!」
帰らないで、とブルーが上げる悲鳴が面白い。
(自分で蒔いた種なんだがな…?)
さて、どうするか…、と思うけれども、帰りはしない。
今の自分は素直だから。
「ブルーと一緒にいたい」気持ちが、本音だから…。
もっと素直に・了
ホントに損な性分だよね、と小さなブルーが零した溜息。
二人きりで過ごす午後のお茶の時間に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 損な性分って…」
この俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
いきなりブルーに指摘されても、心当たりが全く無い。
損な性分だと思ったことも無ければ、言われたことも…。
(…俺の人生、一度も無いと思うんだが…?)
はて、と首を捻ったけれども、前の人生なら事情は違う。
厨房時代はともかくとして、キャプテンになった後は…。
(自分を押さえ付けてた部分が、まるで無かったとは…)
言えないよな、と自分でも自覚している。
押さえ切れずに、仲間を殴ってしまった経験もあった。
けれど、あそこで殴らなければ…。
(皆がバラバラになってしまって、大変なことに…)
なっちまうしな、と分かっているから、後悔は無い。
とはいえ、それを逆の方から考えたなら…。
(普段の俺は我慢だらけで、自分を押さえ付けていて…)
何もかも一人で抱えてたんだ、と前の自分の苦労を思う。
キャプテンという立場と、その職務上、それは仕方ない。
前の自分が思いのままに振舞ったならば、あの船は…。
(とても地球まで辿り着けなくて、途中で沈んで…)
おしまいだよな、と肩を竦める。
「俺がゼルみたいな性分だったら、そうなってたぞ」と。
(…前の俺なら、確かに損な性分なんだが…)
果たして今の俺はそうか、と自分で自分に問い掛ける。
我慢ばかりが続く毎日なのか、そうではないのか。
(…強いて我慢と言うんだったら…)
ブルーの家に寄れない日ならば、我慢している方だろう。
本当は飛んで帰りたいのに、会議や部活や、会食など。
(…いつもだったら、今頃は、と…)
溜息をつきたい気持ちになるのを、グッと堪える。
会議や部活は大事な仕事で、会食も同僚との大切な時間。
(我慢だなんて言えやしないし、正直を言えば…)
同僚たちと食事の時には、ブルーを忘れていたりもする。
久々に仲間と過ごす時間が、心地よすぎて、ウッカリと。
つまり、損とは全く言えない、今の自分の性分なるもの。
とても自分に正直なわけで、会議を我慢する時も…。
(前の俺とはまるで違って、終わった後の算段を…)
頭の中でコッソリ組み立て、密かに準備していたりする。
「終わったら本屋に行くとするか」とか、夕食の計画。
いつもの店で買い込む食材、時間をかけて作りたい料理。
(ブルーの家に来るようになってから、そういう飯は…)
滅多に作る機会が無いから、張り切りたくなる。
たった一人の食卓だけれど、あれこれ並べて食べたくて。
「こういう時に」と頭にメモしておいた、料理の数々。
それを端から作るのもいいし、じっくり作る一品もいい。
(…会議の中身を聞いてはいても…)
発言してメモも取ってはいても、心の方は脱線している。
キャプテンだった前の生なら、決して許されない姿勢。
(そいつを、何の罪悪感も無く平然と、だ…)
やってしまえる今の自分は、損な性分などではない。
自信を持って言い切れるから、ブルーに宣言しなければ。
「おい、ブルー。…お前、勘違いをしているぞ?」
今の俺は前とは違うんだ、とハーレイはニヤリと笑った。
損な性分だった頃と違って、今は自由で気ままな人生。
「我慢ばかりのキャプテン時代は、とうに過去だ」と。
「ぼくには、そうは見えないんだけど…」
もっと素直になるべきだよ、とブルーは納得しなかった。
「今のハーレイも我慢ばかり」と、「もっと素直に」と。
「俺は充分、素直で自分に正直なんだが?」
いったい何処が違うと言うんだ、とハーレイが訊くと…。
「今だって、我慢してるでしょ? ぼくがいるのに」
もっと欲望に正直に…、と赤い瞳が煌めいた。
「キスしてもいいし、もっと大胆なことも…」
してくれて構わないんだけれど…、とブルーは微笑む。
「今の時間ならママは来ないよ」と、「夕食までね」と。
(そういうことか…!)
ならば、こうする、とハーレイはサッと椅子から立った。
してやったり、とブルーは嬉しそうだけれども…。
「有難い。だったら、今日は帰らせて貰う」」
「えっ?」
ブルーの瞳が丸くなるのを、勝ち誇った顔で見詰め返す。
「この間から、作りたいと思っていた料理があってな…」
ちっと時間がかかるヤツで…、と顎に手を当てた。
「今から帰って買い出しをすれば、今夜には…」
出来るからな、と告げると、ブルーの顔色が変わる。
「ちょ、待って! そうじゃなくって…!」
帰らないで、とブルーが上げる悲鳴が面白い。
(自分で蒔いた種なんだがな…?)
さて、どうするか…、と思うけれども、帰りはしない。
今の自分は素直だから。
「ブルーと一緒にいたい」気持ちが、本音だから…。
もっと素直に・了
PR
「ねえ、ハーレイ。鮮度の良さって…」
大事なんでしょ、とブルーがぶつけて来た質問。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 鮮度って…」
何の話だ、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
いきなり問いを投げ掛けられても、返事に困る。
鮮度というのは、食べ物などの鮮度でいいのだろうか。
(他に鮮度ってヤツがだな…)
あっただろうか、と考える内に、ブルーが再び言った。
「鮮度と言ったら、鮮度だってば!」
ハーレイ、料理は得意なんでしょ、と焦れた口調で。
「なんだ、そいつで合っているのか」
急に言われても分からなくてな、とハーレイは苦笑した。
実際、頭を悩ませたのだし、仕方ない。
「ハーレイったら…。まあいいけれど…」
それでどうなの、とブルーが問い掛けて来る。
鮮度の良さは大事なのかと、さっきと同じ内容を。
「そうだな、鮮度は大事なのかと聞かれたら…」
とても大事な点になるな、とハーレイは大きく頷いた。
魚はもちろん、野菜などを選ぶ時にも、鮮度は大切。
どれを買うべきか店で見極め、新鮮なものを選び出す。
いくら安くても、鮮度が落ちた食材は避けた方がいい。
味や香りが逃げてしまって、素材が台無しな場合がある。
ただし、お得に買いたいのならば、それもまた良し。
「えっと…。そんな食材、買ったって…」
あまり美味しくないんじゃあ、とブルーが首を傾げる。
鮮度が落ちてしまっているなら、味わいだって同じこと。
安く買えたという以外には、良い所などは無いのだから。
「それが、そうとも言い切れなくてな」
料理人の腕の見せどころだ、とハーレイは親指を立てた。
素材を活かすのが料理人だし、食材は無駄なく使うもの。
風味が落ちて来ているのならば、補ってやれば解決する。
スパイスを効かせて調理するとか、酒に漬け込むとか。
そうすれば、ただ新鮮なだけの食材よりも…。
「美味く仕上がるというもんだ」と、ハーレイは笑む。
鮮度だけではないんだぞ、と。
ブルーは「うーん…」と小さく唸って、俯いてしまった。
何故、そうなるのかが、ハーレイには全く分からない。
鮮度は大事か尋ねて来るから、答えてやっただけなのに。
(なんで、こいつが俯くんだ?)
俺の話に乗って来たっていいだろう、と膨れたくなる。
いつもブルーがやっているように、頬っぺたを…。
(こう、フグみたいに、プウッとだな…)
膨らますのが、こいつの得意技だ、と思った所で閃いた。
ブルーに問われた、鮮度の良さという問題。
それが指すのは、本当は、食材のことではなくて…。
(こいつの鮮度のことなんだな?)
新鮮な間に食わせるつもりなんだ、と読めた魂胆。
「大事なんだ」とだけ答えていたなら、その瞬間に…。
(鮮度の良さが大事なんでしょ、と逆手に取って…)
俺にキスさせる気だったわけか、と合点がいった。
ところがどっこい、ハーレイが返した答えの方には…。
(鮮度が落ちた食材だって、使いようで…)
美味しくなる、という余計なオマケがついていた。
これではブルーは、どうにも出来ない。
唸るしかなくて、現に唸って俯いているというわけで…。
(よしよし、そういうことならば、だ…)
トドメを刺してやるとするか、とハーレイは口を開いた。
ブルーの目論見が外れたのなら、逆襲せねば。
「なあ、ブルー。鮮度は確かに大事なんだが…」
他にも大事な点があってな、と指でテーブルを軽く叩く。
「こっちを見ろよ」と、「俺の話を最後まで聞け」と。
ブルーは渋々といった体で、「なあに?」と尋ねて来た。
「鮮度の話で、まだ何かあるの?」
「あるとも、食材によっては、だ…」
新しいだけじゃ駄目なんだよな、と説明を始める。
食材によっては、直ぐに食べずに、貯蔵しておく、と。
いわゆる追熟、キウイフルーツなどが有名。
収穫直後は美味しくなくて、保存する間に美味しくなる。
肉にしたって、捌いて直ぐには店に出さない。
「えっ、お肉も?」
そうだったの、とブルーの瞳が真ん丸になる。
これは間違いなく、ハーレイの読みの通りだから…。
「残念ながら、そうなんだ」
そりゃ、新鮮なのも食うんだがな、とハーレイは笑んだ。
けれど熟成した肉の方が、舌は美味しく感じる、と。
「というわけだし、俺は鮮度の良さよりも、だ…」
味を優先したいんでな、とブルーにウインクして見せる。
「今すぐ食うより、前と同じに育って、だ…」
熟成したお前の方がいい、と言うと、ブルーは膨れっ面。
それはもう見事に、フグみたいに。
「あんまりだよ!」と文句たらたら、不満だらけで。
とはいえ放っておけば充分、ハーレイの方は知らん顔。
まさにブルーの自業自得、と紅茶のカップを傾ける。
「お前の熟成、まだまだかかりそうだよな」と。
「俺は気長に待つだけだ」と、「美味いのがいい」と…。
鮮度の良さって・了
大事なんでしょ、とブルーがぶつけて来た質問。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 鮮度って…」
何の話だ、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
いきなり問いを投げ掛けられても、返事に困る。
鮮度というのは、食べ物などの鮮度でいいのだろうか。
(他に鮮度ってヤツがだな…)
あっただろうか、と考える内に、ブルーが再び言った。
「鮮度と言ったら、鮮度だってば!」
ハーレイ、料理は得意なんでしょ、と焦れた口調で。
「なんだ、そいつで合っているのか」
急に言われても分からなくてな、とハーレイは苦笑した。
実際、頭を悩ませたのだし、仕方ない。
「ハーレイったら…。まあいいけれど…」
それでどうなの、とブルーが問い掛けて来る。
鮮度の良さは大事なのかと、さっきと同じ内容を。
「そうだな、鮮度は大事なのかと聞かれたら…」
とても大事な点になるな、とハーレイは大きく頷いた。
魚はもちろん、野菜などを選ぶ時にも、鮮度は大切。
どれを買うべきか店で見極め、新鮮なものを選び出す。
いくら安くても、鮮度が落ちた食材は避けた方がいい。
味や香りが逃げてしまって、素材が台無しな場合がある。
ただし、お得に買いたいのならば、それもまた良し。
「えっと…。そんな食材、買ったって…」
あまり美味しくないんじゃあ、とブルーが首を傾げる。
鮮度が落ちてしまっているなら、味わいだって同じこと。
安く買えたという以外には、良い所などは無いのだから。
「それが、そうとも言い切れなくてな」
料理人の腕の見せどころだ、とハーレイは親指を立てた。
素材を活かすのが料理人だし、食材は無駄なく使うもの。
風味が落ちて来ているのならば、補ってやれば解決する。
スパイスを効かせて調理するとか、酒に漬け込むとか。
そうすれば、ただ新鮮なだけの食材よりも…。
「美味く仕上がるというもんだ」と、ハーレイは笑む。
鮮度だけではないんだぞ、と。
ブルーは「うーん…」と小さく唸って、俯いてしまった。
何故、そうなるのかが、ハーレイには全く分からない。
鮮度は大事か尋ねて来るから、答えてやっただけなのに。
(なんで、こいつが俯くんだ?)
俺の話に乗って来たっていいだろう、と膨れたくなる。
いつもブルーがやっているように、頬っぺたを…。
(こう、フグみたいに、プウッとだな…)
膨らますのが、こいつの得意技だ、と思った所で閃いた。
ブルーに問われた、鮮度の良さという問題。
それが指すのは、本当は、食材のことではなくて…。
(こいつの鮮度のことなんだな?)
新鮮な間に食わせるつもりなんだ、と読めた魂胆。
「大事なんだ」とだけ答えていたなら、その瞬間に…。
(鮮度の良さが大事なんでしょ、と逆手に取って…)
俺にキスさせる気だったわけか、と合点がいった。
ところがどっこい、ハーレイが返した答えの方には…。
(鮮度が落ちた食材だって、使いようで…)
美味しくなる、という余計なオマケがついていた。
これではブルーは、どうにも出来ない。
唸るしかなくて、現に唸って俯いているというわけで…。
(よしよし、そういうことならば、だ…)
トドメを刺してやるとするか、とハーレイは口を開いた。
ブルーの目論見が外れたのなら、逆襲せねば。
「なあ、ブルー。鮮度は確かに大事なんだが…」
他にも大事な点があってな、と指でテーブルを軽く叩く。
「こっちを見ろよ」と、「俺の話を最後まで聞け」と。
ブルーは渋々といった体で、「なあに?」と尋ねて来た。
「鮮度の話で、まだ何かあるの?」
「あるとも、食材によっては、だ…」
新しいだけじゃ駄目なんだよな、と説明を始める。
食材によっては、直ぐに食べずに、貯蔵しておく、と。
いわゆる追熟、キウイフルーツなどが有名。
収穫直後は美味しくなくて、保存する間に美味しくなる。
肉にしたって、捌いて直ぐには店に出さない。
「えっ、お肉も?」
そうだったの、とブルーの瞳が真ん丸になる。
これは間違いなく、ハーレイの読みの通りだから…。
「残念ながら、そうなんだ」
そりゃ、新鮮なのも食うんだがな、とハーレイは笑んだ。
けれど熟成した肉の方が、舌は美味しく感じる、と。
「というわけだし、俺は鮮度の良さよりも、だ…」
味を優先したいんでな、とブルーにウインクして見せる。
「今すぐ食うより、前と同じに育って、だ…」
熟成したお前の方がいい、と言うと、ブルーは膨れっ面。
それはもう見事に、フグみたいに。
「あんまりだよ!」と文句たらたら、不満だらけで。
とはいえ放っておけば充分、ハーレイの方は知らん顔。
まさにブルーの自業自得、と紅茶のカップを傾ける。
「お前の熟成、まだまだかかりそうだよな」と。
「俺は気長に待つだけだ」と、「美味いのがいい」と…。
鮮度の良さって・了
「ハーレイってさあ…」
慎重すぎだよ、と小さなブルーが零した溜息。
二人きりで過ごす午後のお茶の時間に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 慎重って…」
この俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
いきなりそんな風に言われても、心当たりが全く無い。
教師という職業柄、慎重な部分はあるのだけれど…。
(でないと、生徒を傷付けかねんし…)
理由も聞かずに叱り付けたりは、してはならない。
どう見ても生徒に非がある時でも、まず事情を聞く。
それから叱るか、厳重注意か、対処を考えて動かねば。
(悪く見えても、そうじゃないこともあるからなあ…)
その生徒なりの考えがあって、やった結果が裏目に出る。
実際、そうしたことも多いし、慎重にならざるを得ない。
けれど、ブルーが溜息を零すほどには…。
(慎重すぎないと思うんだがな?)
誤差の範囲ってトコだろうが、と不本意ではある。
どちらかと言えば大胆な方で、周りの評価もそうだから。
なんとも不当な、「慎重すぎだ」というブルーの評。
此処は否定をしておかねば、とハーレイは即、行動した。
真正面からブルーを見詰めて、「それは違うな」と。
「お前から見れば、そうなるのかもしれないが…」
俺の職業を考えてくれ、と順を追って話す。
教師なら誰でもそうあるべきだし、そう見えるだけ。
違う部分も多い筈だし、学校でも大胆な面があるぞ、と。
特に柔道部の指導などでは、そうなってるな、と笑う。
「お前は現場に来てはいないし、知らないだけだ」と。
「それにだ、他の先生方にも…」
大胆で豪胆だと言われているが、とブルーに説明する。
「教師仲間も、そう言うんだしな?」と、自信を持って。
ところがブルーは、「違うんだよね…」と更に溜息。
「なんで、そんなに慎重なわけ?」と、呆れたように。
「もう、キャプテンじゃないんだよ?」と。
「…キャプテンって…。お前、そうは言うがな…」
あの頃だって大胆だった、とハーレイは指を一本立てた。
「前のお前が知らないだけだ」と、自慢話をするために。
前のブルーが長い眠りに就いていた時、それは起こった。
人類軍の船に追われて、三連恒星に追い込まれて…。
「物凄い重力場の中で、ワープを敢行したんだぞ?」
重力の緩衝点からな、と誇らしげな顔で当時を語る。
「一歩間違えれば、宇宙の藻屑って局面だったが?」と。
今、思っても、前の自分の大胆さに感動してしまう。
「よくぞやった」と、手放しで褒めてやりたいほどに。
なのにブルーは、「知ってるってば」と溜息で応えた。
「その話だったら何度も聞いたよ」と、つまらなそうに。
「それにさ、前も大胆だったって言うのなら…」
ますます慎重すぎるってば、とブルーは頬を膨らませる。
「もっと大胆に動くべきだよ」と、不満に満ちた顔で。
(…なるほどな…)
こいつの考えが読めて来たぞ、とハーレはピンと閃いた。
もっと大胆に、今のブルーにキスをするとか…。
(押し倒すだとか、そういった、けしからぬことを…)
この俺にやれと言うんだな、とブルーを改めて観察する。
フグみたいに膨らんだ頬っぺたといい、顔付きといい…。
(うん、その方向で間違いないな)
こいつがそういう魂胆なら…、と取るべき策を弾き出す。
「大胆になれ」との注文なのだし、此処は早速…。
「そうか、分かった。なら、大胆に動くとするか」
俺は帰るぞ、とハーレイは椅子から立ち上がった。
「えっ、帰るって…。なんで?」
お茶の時間の途中なのに、とブルーの瞳が丸くなる。
「何か用事を思い出したの? 今の話で?」
それでも、お茶くらい飲んで行けば、とブルーは慌てた。
「そんなに急いで帰らなくても」と、引き留めるように。
「いや、大胆に、と言ったろう?」
俺は運動したいんだ、とハーレイはニヤリと笑った。
「朝から、ずっと座ってるしな」と、「運動不足だ」と。
じゃあな、とサッと踵を返して、扉に向かう。
「俺の性分じゃないんだよなあ、午後のお茶はな」
それより走って、走りながらの水分補給、と言い捨てる。
「そいつが性に合ってるんだ」と、ブルーに背を向けて。
「待ってよ、酷いよ!」
帰らないで、とブルーの泣きそうな声が追い掛けて来る。
「お願いだから、其処は慎重になって欲しいって!」と。
「ぼくの気持ちも考えてよ」と、「慎重でいい」と…。
慎重すぎだよ・了
慎重すぎだよ、と小さなブルーが零した溜息。
二人きりで過ごす午後のお茶の時間に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 慎重って…」
この俺がか、とハーレイは自分の顔を指差した。
いきなりそんな風に言われても、心当たりが全く無い。
教師という職業柄、慎重な部分はあるのだけれど…。
(でないと、生徒を傷付けかねんし…)
理由も聞かずに叱り付けたりは、してはならない。
どう見ても生徒に非がある時でも、まず事情を聞く。
それから叱るか、厳重注意か、対処を考えて動かねば。
(悪く見えても、そうじゃないこともあるからなあ…)
その生徒なりの考えがあって、やった結果が裏目に出る。
実際、そうしたことも多いし、慎重にならざるを得ない。
けれど、ブルーが溜息を零すほどには…。
(慎重すぎないと思うんだがな?)
誤差の範囲ってトコだろうが、と不本意ではある。
どちらかと言えば大胆な方で、周りの評価もそうだから。
なんとも不当な、「慎重すぎだ」というブルーの評。
此処は否定をしておかねば、とハーレイは即、行動した。
真正面からブルーを見詰めて、「それは違うな」と。
「お前から見れば、そうなるのかもしれないが…」
俺の職業を考えてくれ、と順を追って話す。
教師なら誰でもそうあるべきだし、そう見えるだけ。
違う部分も多い筈だし、学校でも大胆な面があるぞ、と。
特に柔道部の指導などでは、そうなってるな、と笑う。
「お前は現場に来てはいないし、知らないだけだ」と。
「それにだ、他の先生方にも…」
大胆で豪胆だと言われているが、とブルーに説明する。
「教師仲間も、そう言うんだしな?」と、自信を持って。
ところがブルーは、「違うんだよね…」と更に溜息。
「なんで、そんなに慎重なわけ?」と、呆れたように。
「もう、キャプテンじゃないんだよ?」と。
「…キャプテンって…。お前、そうは言うがな…」
あの頃だって大胆だった、とハーレイは指を一本立てた。
「前のお前が知らないだけだ」と、自慢話をするために。
前のブルーが長い眠りに就いていた時、それは起こった。
人類軍の船に追われて、三連恒星に追い込まれて…。
「物凄い重力場の中で、ワープを敢行したんだぞ?」
重力の緩衝点からな、と誇らしげな顔で当時を語る。
「一歩間違えれば、宇宙の藻屑って局面だったが?」と。
今、思っても、前の自分の大胆さに感動してしまう。
「よくぞやった」と、手放しで褒めてやりたいほどに。
なのにブルーは、「知ってるってば」と溜息で応えた。
「その話だったら何度も聞いたよ」と、つまらなそうに。
「それにさ、前も大胆だったって言うのなら…」
ますます慎重すぎるってば、とブルーは頬を膨らませる。
「もっと大胆に動くべきだよ」と、不満に満ちた顔で。
(…なるほどな…)
こいつの考えが読めて来たぞ、とハーレはピンと閃いた。
もっと大胆に、今のブルーにキスをするとか…。
(押し倒すだとか、そういった、けしからぬことを…)
この俺にやれと言うんだな、とブルーを改めて観察する。
フグみたいに膨らんだ頬っぺたといい、顔付きといい…。
(うん、その方向で間違いないな)
こいつがそういう魂胆なら…、と取るべき策を弾き出す。
「大胆になれ」との注文なのだし、此処は早速…。
「そうか、分かった。なら、大胆に動くとするか」
俺は帰るぞ、とハーレイは椅子から立ち上がった。
「えっ、帰るって…。なんで?」
お茶の時間の途中なのに、とブルーの瞳が丸くなる。
「何か用事を思い出したの? 今の話で?」
それでも、お茶くらい飲んで行けば、とブルーは慌てた。
「そんなに急いで帰らなくても」と、引き留めるように。
「いや、大胆に、と言ったろう?」
俺は運動したいんだ、とハーレイはニヤリと笑った。
「朝から、ずっと座ってるしな」と、「運動不足だ」と。
じゃあな、とサッと踵を返して、扉に向かう。
「俺の性分じゃないんだよなあ、午後のお茶はな」
それより走って、走りながらの水分補給、と言い捨てる。
「そいつが性に合ってるんだ」と、ブルーに背を向けて。
「待ってよ、酷いよ!」
帰らないで、とブルーの泣きそうな声が追い掛けて来る。
「お願いだから、其処は慎重になって欲しいって!」と。
「ぼくの気持ちも考えてよ」と、「慎重でいい」と…。
慎重すぎだよ・了
「ねえ、ハーレイ。育てる努力を…」
怠ってるでしょ、と小さなブルーが口を開いた。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 育てる努力って…」
何のことだ、とハーレイは首を傾げた。
いったい何を言われているのか、まるで全く分からない。
(努力もそうだし、育てるってのも分からんし…)
しかも「怠っている」と指摘されても、心当たりはゼロ。
古典の授業で手抜きはしないし、柔道部の方も全く同じ。
常に全力で生徒を指導し、育てていると自負している。
(…なのにだな…)
何を怠っているとブルーは言うのだろうか。
学校と、この家でしか会っていないし、その範囲しか…。
(怠る部分は無い筈なんだが…?)
授業くらいしか無いじゃないか、と振り出しに戻る。
手抜きなんかはしないというのに、何のことか、と。
指で額を叩いてみても、一向に答えが出て来ない。
ブルーはといえば、呆れた顔でこちらを見詰めている。
「本当に分かっていないわけ?」と書かれた顔で。
(…うーむ…)
これは降参するしかないな、とハーレイは白旗を掲げた。
自分に自覚が無いのだったら、尋ねるしかない。
仕方ない、と腹を括ってブルーに問い掛けた。
「俺が努力を怠ってるって、何のことだ?」
心当たりが無いんだが、と正直に告げると、返った溜息。
「気付いてさえもいないんだ…」と、情けなさそうに。
更にブルーは「そうだろうね」と肩を竦めてみせた。
「自覚があるなら、ちゃんと努力をしてるだろうし」と。
(…おいおいおい…)
これはマズイぞ、とハーレイの背中に冷汗が流れる。
どうやら何か、大失態をしでかしているらしい。
自分では全く気付かない内に、努力するのを怠って。
しかも「育てる努力」なのだし、教師としては大失点。
(…ブルーに言われなかったなら…)
まだまだ怠り続けたわけで、なんとも恥ずかしい限り。
早くブルーから「それ」を聞き出し、直さなければ。
そうするべきだ、とハーレイはブルーに頭を下げた。
「至らない教師で、本当にすまん。それでだな…」
俺が怠ってるのは何だ、と直球で質問した。
「遠慮しないで教えてくれ」と、「すぐ直すから」と。
ブルーは「そう?」と半信半疑といった表情。
「ホントに出来るの?」と、念まで押して。
「当然だろう? 俺には難しそうでも、だ…」
直す努力をしないとな、とハーレイは真剣な顔で答えた。
教師というものはそうあるべきだし、努力する、と。
「それなら、ハッキリ言っちゃうけれど…」
前のハーレイと違って全然ダメ、とブルーは返した。
「ぼくを育ててくれないんだもの」と、頬を膨らませて。
「なんだって?」
前のお前がどうしたって、とハーレイは目を丸くした。
今度こそ、何を言われているのか、もう本当に全くの謎。
前のブルーを育て上げたのは、養父母の筈で…。
(ブルーに記憶が無いというだけで、俺なんかは…)
子育てに関与しちゃいない、と頭が疑問で一杯になる。
なのにどうやったら、前の自分が関係するのだ、と。
(言いがかりにしか、聞こえないんだが…!)
こいつは何を言いたいんだ、とハーレイは首を捻るだけ。
ブルーの意図も分からなければ、言葉の意味も掴めない。
(前の俺が、前のこいつを育てただなんて…)
そんな事実は何処にも無いぞ、と叫びたい気分。
ところがブルーは、「それも忘れた?」と溜息をついた。
「ちゃんと育ててくれていたのに」と、ハーレイを見て。
「前のぼくは、アルタミラで酷い目に遭って…」
成長を止めてしまってたでしょ、とブルーは言った。
それをハーレイたちが育ててくれた、と大真面目に。
「食事をさせて、散歩に、お喋り…。色々とね」
お蔭で大きくなれたのに…、とブルーは続けた。
「そういう努力を、今のハーレイ、怠ってるよね」と。
「…そう言われても…!」
事情が全く違うだろうが、とハーレイは床を指差した。
「いいか、この家は、今のお前の家でだな…」
お前を育てる役目があるのは、俺じゃない、と。
「でも…。ぼくの背、ちっとも伸びないし…」
ハーレイの努力不足だよ、とブルーは尚も言うけれど。
「育てる努力をしてくれないと」と、言い募るけれど…。
「俺は関係無いからな!」
育ちたければ、しっかり食え、とハーレイは突き放した。
「生憎と、今の俺には、育てるお役目は無い」と。
「お母さんが作る料理を、残さずに食え」と説教して。
「今度は自分で努力するんだ」と、「俺は知らん」と…。
育てる努力を・了
怠ってるでしょ、と小さなブルーが口を開いた。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 育てる努力って…」
何のことだ、とハーレイは首を傾げた。
いったい何を言われているのか、まるで全く分からない。
(努力もそうだし、育てるってのも分からんし…)
しかも「怠っている」と指摘されても、心当たりはゼロ。
古典の授業で手抜きはしないし、柔道部の方も全く同じ。
常に全力で生徒を指導し、育てていると自負している。
(…なのにだな…)
何を怠っているとブルーは言うのだろうか。
学校と、この家でしか会っていないし、その範囲しか…。
(怠る部分は無い筈なんだが…?)
授業くらいしか無いじゃないか、と振り出しに戻る。
手抜きなんかはしないというのに、何のことか、と。
指で額を叩いてみても、一向に答えが出て来ない。
ブルーはといえば、呆れた顔でこちらを見詰めている。
「本当に分かっていないわけ?」と書かれた顔で。
(…うーむ…)
これは降参するしかないな、とハーレイは白旗を掲げた。
自分に自覚が無いのだったら、尋ねるしかない。
仕方ない、と腹を括ってブルーに問い掛けた。
「俺が努力を怠ってるって、何のことだ?」
心当たりが無いんだが、と正直に告げると、返った溜息。
「気付いてさえもいないんだ…」と、情けなさそうに。
更にブルーは「そうだろうね」と肩を竦めてみせた。
「自覚があるなら、ちゃんと努力をしてるだろうし」と。
(…おいおいおい…)
これはマズイぞ、とハーレイの背中に冷汗が流れる。
どうやら何か、大失態をしでかしているらしい。
自分では全く気付かない内に、努力するのを怠って。
しかも「育てる努力」なのだし、教師としては大失点。
(…ブルーに言われなかったなら…)
まだまだ怠り続けたわけで、なんとも恥ずかしい限り。
早くブルーから「それ」を聞き出し、直さなければ。
そうするべきだ、とハーレイはブルーに頭を下げた。
「至らない教師で、本当にすまん。それでだな…」
俺が怠ってるのは何だ、と直球で質問した。
「遠慮しないで教えてくれ」と、「すぐ直すから」と。
ブルーは「そう?」と半信半疑といった表情。
「ホントに出来るの?」と、念まで押して。
「当然だろう? 俺には難しそうでも、だ…」
直す努力をしないとな、とハーレイは真剣な顔で答えた。
教師というものはそうあるべきだし、努力する、と。
「それなら、ハッキリ言っちゃうけれど…」
前のハーレイと違って全然ダメ、とブルーは返した。
「ぼくを育ててくれないんだもの」と、頬を膨らませて。
「なんだって?」
前のお前がどうしたって、とハーレイは目を丸くした。
今度こそ、何を言われているのか、もう本当に全くの謎。
前のブルーを育て上げたのは、養父母の筈で…。
(ブルーに記憶が無いというだけで、俺なんかは…)
子育てに関与しちゃいない、と頭が疑問で一杯になる。
なのにどうやったら、前の自分が関係するのだ、と。
(言いがかりにしか、聞こえないんだが…!)
こいつは何を言いたいんだ、とハーレイは首を捻るだけ。
ブルーの意図も分からなければ、言葉の意味も掴めない。
(前の俺が、前のこいつを育てただなんて…)
そんな事実は何処にも無いぞ、と叫びたい気分。
ところがブルーは、「それも忘れた?」と溜息をついた。
「ちゃんと育ててくれていたのに」と、ハーレイを見て。
「前のぼくは、アルタミラで酷い目に遭って…」
成長を止めてしまってたでしょ、とブルーは言った。
それをハーレイたちが育ててくれた、と大真面目に。
「食事をさせて、散歩に、お喋り…。色々とね」
お蔭で大きくなれたのに…、とブルーは続けた。
「そういう努力を、今のハーレイ、怠ってるよね」と。
「…そう言われても…!」
事情が全く違うだろうが、とハーレイは床を指差した。
「いいか、この家は、今のお前の家でだな…」
お前を育てる役目があるのは、俺じゃない、と。
「でも…。ぼくの背、ちっとも伸びないし…」
ハーレイの努力不足だよ、とブルーは尚も言うけれど。
「育てる努力をしてくれないと」と、言い募るけれど…。
「俺は関係無いからな!」
育ちたければ、しっかり食え、とハーレイは突き放した。
「生憎と、今の俺には、育てるお役目は無い」と。
「お母さんが作る料理を、残さずに食え」と説教して。
「今度は自分で努力するんだ」と、「俺は知らん」と…。
育てる努力を・了
「ねえ、ハーレイ。子供の意見は…」
尊重すべきでしょ、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 子供って…」
意見って何だ、とハーレイは目を丸くした。
ブルーが質問して来た意図が、まるで全く分からない。
この部屋に子供などはいないし、窓の外を見ても…。
(子供なんか、何処にもいないよなあ…?)
何処から子供が出て来たんだ、と謎は深まる一方。
質問が出て来る前の話題も、子供とは無関係だった。
(しかも、尊重すべきとか…)
そいつは子供が前提では、とハーレイは首を捻り続ける。
ブルーの問いに対する答えを、一つも見付けられなくて。
(弱ったな…)
なんと答えてやればいいんだ、と頭の中に渦巻く疑問。
ブルーが何を尋ねたいのか、片鱗だけでも掴まないと…。
(いつまで黙っているつもりなの、って…)
怒り出すのは確実なんだ、と思いはしても謎は解けない。
けれど、ブルーの機嫌を損ねてしまったら…。
(膨れてフグになっちまうしなあ…)
此処は降参するしかない、とハーレイは腹を括った。
「分からないの?」と詰られようとも、訊く方がマシ。
だからブルーを真っ直ぐ見詰めて、頼むことにした。
「すまんが、俺に分かるように、だ…」
意味を教えてくれないか、とブルーの問いに返した質問。
子供の意見とは何を指すのか、尊重とは…、と。
「…分からないの?」
案の定、ブルーは呆れた表情になった。
「大人なのに」と、「それに、先生だよね?」とも。
呆れられたのは無理もないけれど、二つ目に傷付く。
「先生だよね?」という、ブルーの指摘。
ハーレイは学校の教師なのだし、子供相手の仕事になる。
言われてみれば、生徒の意見というものは…。
(頭ごなしに否定しないで…)
尊重すべきものだった、と今更のように気付かされた。
生徒の言い分をよく聞いてやって、動くのは、それから。
「そいつは駄目だな」と、否定することになろうとも。
(…うーむ…)
痛い所を突かれたな、と思いながらも、まず謝った。
「申し訳ない」と、潔く。
小さな恋人に頭を下げて、「俺が鈍すぎた」と。
「確かに、お前の言う通りだ。子供の意見は…」
尊重しないと駄目だったな、と苦笑する。
「俺の仕事の鉄則なのに、すっかり忘れちまってた」と。
「やっぱりね…。学校の生徒もそうなんだけど…」
子供全般に言えることでしょ、とブルーは溜息をつく。
「例えば、お菓子を分ける時とか、どうするの?」と。
「そういや、そうだな…。子供が混じっているんなら…」
先に子供に選ばせないと、とハーレイは大きく頷いた。
切り分けたケーキを分ける時には、子供が優先。
大きさや、それにデコレーションやら、フルーツやら。
子供が欲しい部分は何処か、意見を尊重しなければ。
(いろんな種類の菓子がある時も…)
子供の意見が最優先で、大人はじっと待つことになる。
「どれが食べたい?」と尋ねてやって、選ぶのを。
どんなに待たされる羽目になろうと、尊重すべき意見。
ブルーの言葉は、実に正しい。
何処も間違っていないわけだし、ハーレイは笑んだ。
「お前、なかなか考えてるな」と。
「いつもは我儘ばかりのくせに、見直したぞ」と。
「そりゃ、ぼくだって、たまにはね…」
物事ってヤツを考えるもの、とブルーは得意げ。
「これでも昔は、ソルジャーをやっていたんだし」と。
「なるほどなあ…。それで、昔に返ってみた、と」
お前は子供たちと仲が良かったし、と遠い昔が懐かしい。
前のブルーは、よく子供たちと遊んでいたから…。
(子供の意見は尊重すべき、って考えるよなあ…)
そんな場面が幾つもあった、と思い出すキャプテン時代。
「子供たちのために」と、前のブルーは、よく提案した。
子供たちがそれを望んでいるから、そのように、と。
(…本当に色々あったっけなあ…)
懐かしいな、と感慨に耽っていたら、ブルーが言った。
「分かったんなら、尊重してよね」と。
「…はあ?」
また丸くなった、鳶色の瞳。
二度目の「はあ?」に合わせて、再び真ん丸に。
「まだ分からないの? ぼくも今は、子供なんだから…」
尊重してよ、とブルーはキスを強請って来た。
「唇にね」と、「額や頬じゃ駄目だよ」と。
「馬鹿野郎!」
それとこれとは話が別だ、とハーレイは軽く拳を握る。
悪知恵が回るブルーの頭を、コツンと叩いてやるために。
十四歳の小さなブルーに、唇へのキスは早すぎるから…。
子供の意見は・了
尊重すべきでしょ、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 子供って…」
意見って何だ、とハーレイは目を丸くした。
ブルーが質問して来た意図が、まるで全く分からない。
この部屋に子供などはいないし、窓の外を見ても…。
(子供なんか、何処にもいないよなあ…?)
何処から子供が出て来たんだ、と謎は深まる一方。
質問が出て来る前の話題も、子供とは無関係だった。
(しかも、尊重すべきとか…)
そいつは子供が前提では、とハーレイは首を捻り続ける。
ブルーの問いに対する答えを、一つも見付けられなくて。
(弱ったな…)
なんと答えてやればいいんだ、と頭の中に渦巻く疑問。
ブルーが何を尋ねたいのか、片鱗だけでも掴まないと…。
(いつまで黙っているつもりなの、って…)
怒り出すのは確実なんだ、と思いはしても謎は解けない。
けれど、ブルーの機嫌を損ねてしまったら…。
(膨れてフグになっちまうしなあ…)
此処は降参するしかない、とハーレイは腹を括った。
「分からないの?」と詰られようとも、訊く方がマシ。
だからブルーを真っ直ぐ見詰めて、頼むことにした。
「すまんが、俺に分かるように、だ…」
意味を教えてくれないか、とブルーの問いに返した質問。
子供の意見とは何を指すのか、尊重とは…、と。
「…分からないの?」
案の定、ブルーは呆れた表情になった。
「大人なのに」と、「それに、先生だよね?」とも。
呆れられたのは無理もないけれど、二つ目に傷付く。
「先生だよね?」という、ブルーの指摘。
ハーレイは学校の教師なのだし、子供相手の仕事になる。
言われてみれば、生徒の意見というものは…。
(頭ごなしに否定しないで…)
尊重すべきものだった、と今更のように気付かされた。
生徒の言い分をよく聞いてやって、動くのは、それから。
「そいつは駄目だな」と、否定することになろうとも。
(…うーむ…)
痛い所を突かれたな、と思いながらも、まず謝った。
「申し訳ない」と、潔く。
小さな恋人に頭を下げて、「俺が鈍すぎた」と。
「確かに、お前の言う通りだ。子供の意見は…」
尊重しないと駄目だったな、と苦笑する。
「俺の仕事の鉄則なのに、すっかり忘れちまってた」と。
「やっぱりね…。学校の生徒もそうなんだけど…」
子供全般に言えることでしょ、とブルーは溜息をつく。
「例えば、お菓子を分ける時とか、どうするの?」と。
「そういや、そうだな…。子供が混じっているんなら…」
先に子供に選ばせないと、とハーレイは大きく頷いた。
切り分けたケーキを分ける時には、子供が優先。
大きさや、それにデコレーションやら、フルーツやら。
子供が欲しい部分は何処か、意見を尊重しなければ。
(いろんな種類の菓子がある時も…)
子供の意見が最優先で、大人はじっと待つことになる。
「どれが食べたい?」と尋ねてやって、選ぶのを。
どんなに待たされる羽目になろうと、尊重すべき意見。
ブルーの言葉は、実に正しい。
何処も間違っていないわけだし、ハーレイは笑んだ。
「お前、なかなか考えてるな」と。
「いつもは我儘ばかりのくせに、見直したぞ」と。
「そりゃ、ぼくだって、たまにはね…」
物事ってヤツを考えるもの、とブルーは得意げ。
「これでも昔は、ソルジャーをやっていたんだし」と。
「なるほどなあ…。それで、昔に返ってみた、と」
お前は子供たちと仲が良かったし、と遠い昔が懐かしい。
前のブルーは、よく子供たちと遊んでいたから…。
(子供の意見は尊重すべき、って考えるよなあ…)
そんな場面が幾つもあった、と思い出すキャプテン時代。
「子供たちのために」と、前のブルーは、よく提案した。
子供たちがそれを望んでいるから、そのように、と。
(…本当に色々あったっけなあ…)
懐かしいな、と感慨に耽っていたら、ブルーが言った。
「分かったんなら、尊重してよね」と。
「…はあ?」
また丸くなった、鳶色の瞳。
二度目の「はあ?」に合わせて、再び真ん丸に。
「まだ分からないの? ぼくも今は、子供なんだから…」
尊重してよ、とブルーはキスを強請って来た。
「唇にね」と、「額や頬じゃ駄目だよ」と。
「馬鹿野郎!」
それとこれとは話が別だ、とハーレイは軽く拳を握る。
悪知恵が回るブルーの頭を、コツンと叩いてやるために。
十四歳の小さなブルーに、唇へのキスは早すぎるから…。
子供の意見は・了