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カテゴリー「拍手御礼」の記事一覧
「ねえ、ハーレイ。なんだか心配なんだけど…」
 とても心配なんだけれど、と小さなブルーが曇らせた顔。
 二人きりで過ごす午後のお茶の時間に、突然に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「心配だって?」
 急にどうした、とハーレイは赤い瞳を覗き込んだ。
 其処には確かに、不安そうな影が揺らめいている。
(いったい何があったんだ…?)
 そんな話はしていないぞ、とハーレイは思い返してみた。
 ついさっきまでの話題に加えて、今日の出来事を全て。
(…ブルーは朝から御機嫌でだな…)
 身体の調子もいい筈だが、と考えた所でハタと気付いた。
 もしかしたら、体調かもしれない。
 元気そうに見えているのだけれども、この瞬間にも…。
(気を抜いたら眩暈を起こしそうだとか、眠いとか…)
 不調になる兆しを、ブルーは自覚したのだろうか。
 そうだとしたら、放っておいたら大変なことになる。
 ブルーは普段から無理をしがちで、学校だって…。
(俺の授業があるってだけで、うんと具合が悪くても…)
 登校して来て倒れるほどだし、休日となれば危険は倍増。
 二人きりで過ごせるチャンスに、寝ているわけがない。


(こりゃ厄介だぞ、呑気に喋っていないでだな…)
 ブルーをベッドに入れるべきだ、とハーレイは判断した。
 自分から「寝る」と言う筈が無いし、命じるしかない。
「おい、大人しくベッドに入れ」
 パッタリ倒れちまう前に、と腕組みをしてブルーを睨む。
 「でないと、後が大変だぞ」と諭すように。
「いいか、今日くらい、と思っているんだろうが…」
 此処で寝込んだら学校もパアだ、と現実を突き付けた。
 来週の古典の授業は出られず、学校にも行けない、と。
「それが嫌なら、サッサとベッドで寝るんだな」
 黙って帰りやしないから、とブルーを安心させてやる。
 ちゃんと夕食の時間までいて、夕食も、出来れば…。
「お前と一緒に食いたいからなあ、俺だって」
 だから、それまでに早く治せ、と微笑み掛けた。
 「心配だなんて言っていないで、早めに寝ろ」と。
 けれどブルーは頷く代わりに、キョトンと目を丸くした。
「えっと…? なんで寝なくちゃいけないの?」
「誤魔化すんじゃない。心配なんだろ?」
 具合が悪くなりそうで…、とハーレイは指摘する。
 そうなる前に治さないとな、とベッドの方を指差して。


 ところが、ブルーは「違うってば」と唇を尖らせた。
 「全然違うよ」と不満げな顔で、頬までが膨らみそう。
「そんな調子だから、うんと心配なんだけど…?」
 ホントのホントに心配で…、とブルーは溜息をつく。
 「ますます心配になって来ちゃった」と情けなさそうに。
「はあ…?」
 もしかして俺が原因なのか、とハーレイは首を捻った。
 ますますもって、そういう心当たりが無い。
 ブルーが心配になるようなことを、してなどはいない。
(…そうだよなあ…?)
 朝からずっと此処にいるんだし、と考えてみる。
 「何かやったか?」と、「していないよな」と、何回も。
(……サッパリ分からん……)
 まるで分からん、と唸っていたら、ブルーが口を開いた。
「あーあ、ホントに嫌いになりそう…」
「はあ?」
 またしても「はあ?」になったけれども、仕方ない。
 それしか口から出て来なかったし、どうしようもない。
 ブルーはフウと溜息をついて、肩を竦めた。
 「鈍いよね…」と、「ホントに嫌いになりそうだよ」と。


「なんだって?」
 嫌いになるとは俺のことか、とハーレイは目を見開いた。
 どうして自分が嫌われるのか、思い当たる節が全く無い。
 ブルーは「ハーレイ」が大好きな筈で、前の生から…。
(俺に惚れてて、今だって俺の恋人でだな…)
 嫌われるわけがないだろう、とブルーが解せない。
 何故「心配」で「嫌いになる」のか、まるで全く。
「此処まで言っても分からないわけ!?」
 ぼくの将来、ホントに心配、とブルーは深い溜息を零す。
 「いつかホントに嫌いになりそう」と、呆れ果てた顔で。
「だから、どうしてそうなるんだ…?」
 お前は俺に惚れてるくせに、とハーレイは問い返した。
 「俺を嫌いになるなんてことは、有り得んだろう」と。
 するとブルーは仏頂面で、プウッと頬を膨らませた。
 「嫌いにもなるよ、こんな恋人」と、「鈍すぎるし」と。
「ハーレイ、ちゃんと分かっているの?」
 キスの一つもくれないんだもの、とフグになったブルー。
(そういうことか、良からぬことを考えやがって…!)
 膨らんだ頬を、ハーレイは逃しはしなかった。
 両手を伸ばしてペシャンと潰して、フンと鼻を鳴らす。
 「それなら、勝手に心配しとけ」と。
 「嫌ってくれて大いに結構」と、「俺は知らん」と…。


         心配なんだけど・了







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「いつか仕返ししてやるからね」
 今はいい気でいるけれど、と上目遣いで口にしたブルー。
 二人きりで過ごす午後の時間に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「仕返しだって?」
 何のことだ、とハーレイは鳶色の目を丸くした。
 いきなり仕返しなどと言われても、心当たりが全く無い。
 今の今まで、いつも通りのティータイム。
 ブルーの母が焼いたケーキと、美味しい紅茶で…。
(和やかに過ごしていた筈なんだが…?)
 それとも俺が何かしたか、と自分の記憶を探ってみる。
 ブルーを怒らせるようなことを言ったか、したか。
(はて…?)
 分からんのだが、とハーレイは首を捻るしかない。
 まるで全く思い当たらないし、失敗もしていないだろう。
 チビのブルーは、直ぐに膨れてしまうけれども。


 前のブルーと今のブルーは、その点が違う。
 十四歳にしかならないブルーは、我慢が出来ない。
(いや、やろうと思えば出来るんだろうが…)
 要は甘えているんだよな、という気がする。
 辛抱強く我慢しないで、素直に自分の気持ちをぶつける。
 「疲れちゃったよ」とか、「痛いってば!」とか。
(だから、沸点も低くてだな…)
 何かと言えば頬を膨らませて、感情も露わに怒り出す。
 頬っぺたをプウッとやっている姿は、とある魚に…。
(そっくりだってな、可笑しいくらいに)
 可愛いらしい顔がハコフグになって、と頬が緩んだ。
 膨れたブルーの両の頬っぺた、それを潰すのも面白い。
 自分の大きな両手で挟んで、ペシャンとやると…。
(唇を尖らせて文句を言うのが、また楽しいんだ)
 今ならではだな、とクスッと笑うと、ブルーが睨んだ。
「また笑っちゃって!」
 余裕だよね、とブルーは顔一杯に不満を浮かべている。
 この有様だと、ハコフグになるのも近いだろう。
 プンスカ怒って唇を尖らせ、頬を膨らませて。


(いったい何を怒ってるんだか…)
 しかも仕返しと来たもんだ、と首を傾げて、気が付いた。
 もしかしたら、ブルーがハコフグになっている時に…。
(頬っぺたをペシャンと潰してるヤツが…)
 気に入らなくて仕返しなのか、と思わないでもない。
 ブルーが大きく育った時には、膨れる代わりに…。
(俺の頬っぺたを平手打ちとか、抓るとか…)
 今の仕返しをする気なのか、と自分の頬に手を当てた。
 平手打ちは、ショックかもしれない。
 抓られた時も、かなり衝撃を受けそうではある。
 どちらも「前のブルー」にやられていないし、初の体験。
(…しまった、怒らせちまった、と…)
 愕然とする自分が目に浮かぶけれど、所詮は小さな喧嘩。
 何度も叩かれ、抓られる内に慣れるだろう。
 「ハーレイの馬鹿!」と、思い切り平手打ちをされても。
 頬を抓られても、それもまた一種のコミュニケーション。
 「すまん」と謝り、ブルーを宥めて、いつもの二人に…。
(戻って、一緒に飯を食うんだ)
 お茶を飲んだり、話をしたり…、と笑みが零れる。
 「そういう暮らしも、いいもんだよな」と。


 ブルーの仕返し、大いに歓迎。
 そんな気分に浸っていたら、ブルーが眉を吊り上げた。
「分かった、仕返しされたいんだね、ハーレイは!」
 ホントにお預けさせてやるから、と赤い瞳が怒っている。
 「キスなんか、絶対、させてやらない」と。
「…はあ?」
 何の話だ、と頭が混乱しそうな所へ、次が降って来た。
「キスだってば! ぼくが育っても、お預けだよ!」
 今の仕返しで何年でもね、とブルーは真剣だけれど…。
(…なるほど、なるほど…)
 そいつもいいな、とハーレイの頭の中では答えが出た。
 仕返しでキスがお預けだったら、それもいい。
「分かった、好きなだけ仕返ししてくれ」
 それで何年待てばいいんだ、とニンマリと笑う。
 「俺は、どれほど待たされるんだ?」と、ニヤニヤと。
 「別に何年でもかまわないぞ」と、腕組みをして。
「お前と結婚式を挙げる時には、考えないとなあ…」
 結婚式でキスが駄目となったら、と片目を瞑ってみせた。
 「教会だとキスはセットなんだし、他所でしないと」と。


「あっ…!」
 待って、とブルーは真っ青になっているけれど。
 「それは困るよ!」と悲鳴だけれども、気にしない。
「いや、俺は少しも困らないしな?」
 何年お預けになっちまっても、と紅茶のカップを傾ける。
 「俺なら、慣れたモンなんだし」と。
「これからだって、まだ何年も待たされるしなあ…」
 少々、伸びるだけだってな、とハーレイは笑んだ。
 焦ってワタワタしているブルーを、チラリと横目で見て。
 「お前もお預け仲間だってな」と、「自業自得だ」と…。


          仕返ししてやる・了








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「ねえ、ハーレイ。…ハーレイって、好物は…」
 最後に食べるタイプなの、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 好物って…」
 いきなり何の話なんだ、とハーレイは目を丸くした。
 テーブルの上を見回してみたが、これといったものは…。
(…出ていないよなあ?)
 菓子はパウンドケーキじゃないし、と疑問が湧き上がる。
 ブルーの母が焼くパウンドケーキは、確かに美味しい。
 しかもハーレイの母が焼くのと、全く同じ味がする。
(アレが出てるんなら、まだ分かるんだが…)
 とはいえ、最後に食べるも何も、ケーキの場合は…。
(好物かどうかとは、別の次元で…)
 食べる順序が決まってるよな、とハーレイは首を捻った。


 パウンドケーキは、いわゆる「菓子」の範疇になる。
 今のような「お茶の時間」なら、自由に口に運んでいい。
 紅茶やコーヒーの合間に食べても、誰も気にしない。
 むしろ、そういう風に食べるのが普通で、大抵は、そう。
(先にバクバク食っちまうヤツも、中にはいるが…)
 よっぽど好きな菓子なんだな、と温かい目で見て貰える。
 マナー違反と言われはしないし、叱られもしない。
 ところが、正式な食事の席となったら、事情が違う。
(ケーキが出るのは、一番最後で…)
 飲み物と一緒に供される菓子は、食事を締め括るもの。
 「これで食事は終わりですよ」と示す、サインでもある。
 だから、料理がテーブルに纏めて出て来る場合には…。
(菓子から先に食うんじゃなくて、他のを食って…)
 食べ終わってから、最後に菓子に手を伸ばすべき。
 ついでに言うなら、他の人が料理を食べている間は…。
(自分だけ先に、菓子を食うのはマナー違反で…)
 全員が料理を食べ終わってから、菓子を取るのが正しい。
 そういう「少々、難しい面」はあるのだけれど…。


(しかし、今のブルーの尋ね方だと…)
 マナーの話ではない気がする。
 菓子を最後に食べるかどうかなら、そう訊くだろう。
(そうなってくると、言葉通りに好物なのか?)
 此処にパウンドケーキは無いが、と思うけれども…。
(突然、妙なことを訊くのは、ありがちだしな?)
 でもってロクな結果にならん、と慎重にいくことにした。
 ブルーの意図が読めないからには、まず、確認を取る。
「おい。好物というのは、好き嫌いとは別件なのか?」
 俺には好き嫌いが無いんだが、と赤い瞳を覗き込んだ。
 「お前もそうだろ?」と、前の生の副産物を挙げて。
「そうだよ。だから、お気に入りの食べ物の話だってば」
 最後に食べるか、違うのか、どっち、とブルーは尋ねた。
 なるほど、それなら答えは一つしかない。
「気分次第ってヤツだな、うん」
 その日の俺の気分で決まる、とハーレイは即答した。
 先に食べる日もあれば、最後の日もある、と。
 そうしたら…。


「じゃあ、気分次第で、ぼくを食べても…」
 かまわないから、とブルーは笑んだ。
 「ぼくはちっとも気にしないから、いつでも食べて」と。
(そう来やがったか…!)
 悪ガキめが、とハーレイは軽く拳を握って、恋人を睨む。
「熟していない果物とかを、食う趣味は無い!」
 俺は味にはうるさいからな、と銀色の頭をコンと叩いた。
 「いくら好物でも、熟してないのは不味いんだ」と。
 「俺はグルメだ」と、「好き嫌いとは、別件でな」と…。



           好物は最後に・了









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「ねえ、ハーレイ。旬を逃すのは…」
 嫌な方でしょ、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 旬って…」
 何のことだ、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
 いきなり「旬」と口にされても、困ってしまう。
(…旬と言ったら、普通はだな…)
 魚や野菜や、果物などの出盛りを指す。
 同時に最も美味しい季節で、好物ならば逃す手は無い。
(今の俺にも、好き嫌いってヤツは無いんだが…)
 旬の食材は取り入れたいし、当然、美味だとも思う。
(ブルーが言うのは、その旬なのか?)
 よく分からんが、と首を捻っていたら、ブルーが尋ねた。
「ハーレイ、お魚とかの旬は気にならないの?」
 旬の時期が美味しいものなんでしょ、と赤い瞳が瞬く。
 「今のハーレイ、自分でお料理するじゃない」と。
「なんだ、やっぱり、その旬なのか」
 それでいいのか、とハーレイは苦笑する。
 「お前、料理とは無縁だからなあ、悩んじまった」と。


 そういう旬なら、ハーレイは、もちろんこだわるタイプ。
 食材を買いに店に行ったら、いい品が無いか棚を見回す。
 今の季節は何があるのか、旬の食材をチェックして…。
(それから献立を決めるってことも、多いしな?)
 なにしろ旬の品ともなれば、何処でも人気が高いもの。
 入荷するなり買う人も多くて、ライバルは多い。
(仕事の帰りに店に寄ったら、売り切れちまって…)
 棚が空っぽでガッカリする日も、珍しくはないわけで…。
「旬は逃したくはないな、確かに」
 逃げられることも多いんだが…、と軽く両手を広げる。
 「仕事が終わって買いに行ったら、売れた後で」と。
 するとブルーは、「次があるでしょ?」と首を傾げた。
 「次の日に買えばいいじゃない」と、不思議そうに。
「次だって? お前、分かってないんだなあ…」
 料理なんかはしないから、とハーレイはクックッと笑う。
 「旬なんだぞ?」と、「期間限定みたいなモンだ」と。
「いいか、その時期が短いからこそ、旬なわけでだ…」
 魚だったら漁期が終われば、入荷もしない、と説明して。
 野菜や果物も、天候次第で旬は早々に終わってしまう。
 一番美味しい時期が過ぎたら、それでおしまい。


「だからだな…。棚から消えるか、置いてあっても…」
 味が落ちてて駄目なんだ、とブルーに教えてやった。
「旬を逃すと、そうなっちまう。俺は勘弁願いたいな」
 出来れば旬の間に食いたい、とブルーの問いへの答えも。
「ふうん…。じゃあ、急がないと駄目なんだね?」
 旬になったら…、とブルーは瞳をパチクリとさせた。
「買い損ねちゃったら、食べ損なって終わりだし…」
「そうなんだ。来年の旬までさようなら、と…」
 消えてしまって食えないからな、とハーレイは頷く。
 「そいつは御免だ」と、「逃すわけにはいかないな」と。
「ハーレイらしいね、お料理するのが好きだから…」
 前のハーレイとおんなじだよね、とブルーが微笑む。
「旬がある分、前より楽しい?」
「そうだな、シャングリラじゃあ、旬は無かったなあ…」
 今ならではだ、と感慨をこめて相槌を打つと…。


「だったら、旬を逃しちゃ駄目だよ!」
 十四歳のぼくの旬、今なんだしね、とブルーは笑んだ。
 「早く食べなきゃ」と、「育っちゃったら駄目」と。
「馬鹿野郎!」
 今のお前は旬とは言わん、とハーレイは軽く拳を握った。
 銀色の頭に、コツンとお見舞いするために。
 「お前は旬を迎えてないぞ」と、「小さすぎだ」と。
 旬の魚の漁にしたって、小さい魚は逃がすモンだ、と…。



            旬を逃すのは・了







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「ねえ、ハーレイ。体調管理は…」
 大切なんだよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、思い付いたように。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「うん? 急にどうした?」
 体力づくりでもするつもりか、とハーレイは笑った。
 今のブルーも身体が弱くて、寝込むことが多い。
 すぐに体調を崩すものだから、ハーレイの方も気を遣う。
 無理をして起きていたりはしないか、尋ねたりもして。
 それだけに、ブルーの口から、体調管理と出て来ると…。
(これはなかなか、いい傾向だぞ)
 三日坊主に終わるにしてもな…、と笑みが零れてしまう。
 ブルーが自分で努力するなら、それが一番なのだから。
(はてさて…)
 何を始めるつもりやら、とブルーの瞳を見詰めて尋ねた。
 「そいつは大いに大切なんだが、何をするんだ?」と。
 「言い出すからには、心づもりがあるんだろ?」とも。


 問われたブルーは、意外にも「うーん…」と首を捻った。
 どうやら、具体的なプランを立てたわけではないらしい。
「えっとね…。それをハーレイに訊こうと思って…」
 大切なのは分かっているんだけれど…、と赤い瞳が瞬く。
 「どうしたらいいのか、分からなくて」と困ったように。
(なるほど、なるほど…)
 初心者と言えば初心者だよな、とハーレイは納得した。
 前のブルーもそうだったけれど、今のブルーも…。
(気力だけで生きている、って部分があるからなあ…)
 身体には無頓着なんだ、と心の中で頷く。
 前のブルーにうるさく言っても、無駄骨だった。
 「無茶をするな」と止めても聞かずに、無茶ばかり。
(今のこいつも、そういう所は全く同じで…)
 ついでに頑固と来たもんだ、と嫌と言うほど知っている。
 熱があろうが、歩けないほどフラフラだろうが…。
(学校に来ようと頑張った挙句に、倒れちまって…)
 何度、病院のお世話になったか分からない。
 それでは、体調管理なるものをしようとしても…。
(分からないのも当然だ、ってな)
 初心者なんだし、と理解したからには、指導しないと。
 どうすればいいのか、初歩の初歩から。


「よし。俺の生徒になったつもりで、よく聞けよ?」
 そう言ってから、ハーレイはプッと吹き出した。
 つもりも何も、今のブルーは本当に教え子なのだから。
「なあに、ぼくの訊き方、変だった?」
 ブルーの問いに、ハーレイは「いや…」と苦笑する。
「すまん、すまん。お前は俺の生徒だっけな、初めから」
「そうだよ、ハーレイの学校の生徒!」
 ハーレイは担任じゃないけれど、とブルーは残念そう。
 「クラス担任なら良かったのに」と、肩を落として。
「おいおい、俺は途中から転任して来たんだし…」
 担任は持っちゃいないだろうが、とハーレイは返した。
 「俺の担当は、今の所は柔道部だけだ」と。
「うん、分かってる。…って、柔道部の生徒のつもり?」
 それは流石に無理なんだけど、とブルーは途惑う。
 「あんな頑丈な部員並みのヤツ、ぼくには無理!」と。
「いや、そこまでは…。俺が言うのは基本だ、基本」
 まずはしっかり寝ることだ、とハーレイは言った。
 それから食事で、きちんと栄養を摂らないと…、と。


 食事と睡眠、これが体力づくりの基本。
 本当は運動も大切だけれど、ブルーには、まだ…。
(ちと早すぎて、下手に言ったら逆効果…)
 無理に運動しちまうからな、とハーレイは先を考慮した。
 ブルーの場合は、食事からして問題がある。
(今のこいつも、小食すぎて…)
 バランスよく食うのも難しいぞ、と分かっている。
 ブルーが真面目に取り組むのならば、メニューの方も…。
(指導した方がいいかもなあ…?)
 理想の朝食はこれ、といった具合に…、と腕組みをする。
 出来ればそのようにしたいけれども、問題は…。
(飯を作るのは、俺じゃなくって…)
 ブルーの母の役目なのだし、口を出してもいいのか否か。
(これが柔道部の生徒だったら、親の方も、だ…)
 心得たもので、言われた通りにするのだけれど…。
(うーむ…)
 考え込んでいると、ブルーが「心は?」と尋ねて来た。
 「心の方も大切だよね」と、ニコニコして。


(…そういうことか…!)
 体力づくりにかこつけて、とハーレイは眉を吊り上げた。
 ブルーが本当に言いたいことは…。
(…俺にキスしろとか、デートしたいとか…)
 その手の注文だったんだな、とピンと来たから突き放す。
 「いやいや、まずは睡眠からだ」と。
 「それから飯をきちんと食うこと、其処からだな」と…。



          体調管理は・了







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