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(告白か……)
 そういうヤツがあったんだっけな、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れたコーヒー、それを片手に。
(…告白ってヤツは、プロポーズとは…)
 違うモンだ、と思い付いた言葉を追い掛けてみる。
 特に目的は無いのだけれども、戯れに。
 寛ぎのコーヒータイムのお供に、丁度いい軽い考え事だ、と。
(愛してますとか、好きです、だとか…)
 プロポーズよりは「軽め」になるのが、告白というものの意味。
 結婚を求めるものではないから、ズシリと重くはないのだけれど…。
(それこそ当たって砕けろとばかりに…)
 覚悟を決めて告白しにゆく場面も、この世の中には山とある。
 ほんの子供の幼稚園児でも、ドキドキしながら告げに行ったりするものだから。
 好意を抱いた相手の所へ、小さな花などを握り締めて。
(手を繋いで歩いてくれませんか、って…)
 思い切って告げて、快く笑顔で受けて貰えたら、仲良く散歩。
 幼稚園の園庭を、手を繋ぎ合って。
 休み時間の間だけしか出来ないデートで、それでも満足。
(幼稚園児でも、一人前に…)
 デートするヤツはいたもんだ、と微笑ましくなる昔の思い出。
 人間が全てミュウになった今は、結婚も恋も、何百歳でも出来るけれども…。
(やっぱり、若い間ってヤツが…)
 告白向けの時間だよな、という気がする。
 年齢を重ねてゆけばゆくほど、言葉は重みを増すものだから。
 同じに「愛してます」と言っても、幼稚園児と大人は違う。
 心と身体の成長に合わせて、愛の形も変わるから。
 幼稚園児が思うデートと、大人のデートは行き先からして別だから。


 面白いもんだ、とコーヒーのカップを傾ける。
 こうして口に含んだコーヒー、これにしたって、大人のデートなら小道具の一つ。
 「コーヒーでも飲みに行きませんか」は、立派な誘い文句になるから。
 一緒にコーヒーを飲むだけだったら、さほど覚悟は要らないから。
(……告白よりも、まだ軽めだな)
 ちょいとデートに誘うだけなら…、と考える。
 好意を持った相手だからこそ、コーヒーを飲みに誘うのだけれど…。
(断られたって、こいつは、さほど傷付かないんだ)
 なにしろ喫茶店に誘うだけだし、相手の方も断わりやすい。
 「この人と行くのは、ちょっと嫌だな」と思ったとしても、断るための言葉は色々。
(…ちょっと急いでいるんです、だとか、用事があるとか…)
 相手の心を傷付けないよう、気配りをするのが断りの礼儀。
 それに本当に急いでいるとか、用事があるという場合もあるから…。
(そういう時には、「また今度、誘って貰えませんか」と…)
 言って貰えたら、充分、脈あり。
 万々歳と言っていいだろう。
 次に誘いをかけた時には、きっと一緒に来てくれるから。
 そしてコーヒーを飲みに出掛けて、楽しく話して、気が合ったなら…。
(お次は、もっと本格的に…)
 デートに誘う運びとなって、芝居に行くとか、ドライブだとか。
 そうこうする間に、告白をすることになる。
 「好きなんです」と思いをぶつけて、相手の返事を待つ時間。
 もっともデートをしている時点で、まず断られはしないけれども。
(……そうなってくると、コーヒーを飲みに誘うのが……)
 告白ってことになるのかもな、と顎に当てた手。
 ただ喫茶店に誘っただけで、「好きです」とは言っていなくても。
 告白よりは軽めの言葉で、相手を誘い出してはいても。
 相手が気に入ってくれなかったら、喫茶店に来てはくれないから。
 二人でコーヒーを飲みに行くのが、最初のデートと言えるのだから。


(そうしてみると、告白ってのは…)
 大人だと出番が少なめなのか、という気もする。
 何度もデートをしている仲だと、改めて「好きです」と告白したなら…。
(…プロポーズと同じくらいに、だ…)
 重みを持って来る告白。
 「今よりも、もっと深いお付き合い」、それをしたいという意味だから。
 場合によっては、それがそのまま、プロポーズにもなることだろう。
 「あなたが好きです。ずっと一緒にいて下さい」と言ったなら。
 婚約指輪は持っていなくても、プロポーズするのと全く同じ。
 相手が頷いてくれた時には、次のデートは…。
(二人で宝石店に出掛けて、婚約指輪を選ぶってことに…)
 なるだろうしな、と容易に想像がつく。
 婚約指輪を用意しておくのもお洒落だけれども、選びたい女性だっている。
 自分の好みのデザインだとか、使いたい宝石がある女性。
(そのタイプだ、って分かっていたなら、指輪を贈ってプロポーズより…)
 まずプロポーズで、それから指輪。
 そうすることが出来るかどうかは、告白で決まる。
 デートの最中に切り出して。
 「好きです、一緒にいて下さい」と、一世一代の告白で。
(……うんと重いな、この告白は……)
 軽めじゃないな、と思うものだから、大人だと出番が少ない告白。
 子供のようにはいかない言葉で、当たって砕けたら大惨事。
 だからやっぱり、告白向けの時間というのは、若い間のものだろう。
 好きなら素直に思いをぶつけて、応えて貰えたら儲けもの。
 幼稚園の園庭でデートするとか、もっと大きい子供なら…。
(一緒にショッピングモールに出掛けて、遊んで…)
 買い物に、ちょっとした食事。
 そんな「お付き合い」が似合いの間は、プロポーズよりも軽めの告白。
 急いで伴侶を選ばなくても、まだまだ先は長いから。
 何度告白して、何度されても、好きな人が何度も変わって行っても。


 そう考えると面白いな、と思ったけれど。
 「俺だって、学生だった頃には…」と、懐かしく思い出したのだけれど。
(……ありゃ?)
 告白ってヤツはしていないんだ、と気が付いた。
 される方は、何度もあったのに。
 柔道と水泳の選手だった頃は、とてもモテたから。
 ファンの女性が大勢いたし、差し入れにも不自由しなかった時代。
(好きです、付き合って貰えませんか、って…)
 言われることは珍しくなくて、手作りのプレゼントを渡されたことも。
 相手の女性は「当たって砕けろ」、そういう気持ちだっただろう。
 なんと言っても「ハーレイ選手」は、「彼女」を持っていなかったから。
 決まった女性がいないというなら、チャンスは誰にも平等にある。
 告白をして、見事に心を掴んだならば…。
(…憧れの選手の彼女になれて…)
 運が良ければ、ずっと付き合って、結婚だって出来るかも。
 「ハーレイ選手」がどんなにモテても、捨てられないよう、努力したなら。
 他の女性に盗られないよう、自分を磨き続けたならば。
(……あわよくば、と……)
 告白して来た女性は多かったけれど、その逆は一度も無かった自分。
 どんな女性にも、心を惹かれはしなかった。
 美女も、とびきり可愛い女性も、ファンの中にはいたというのに。
 タイプで言うなら「マメなタイプ」も、「華やかなお姫様」だって。
 けれど誰にも、少しも靡きはしなかった自分。
 どうしたわけだか、ただの一度も。
 告白をされた時の返事も、いつもお決まりの断りの言葉。
 その時々で変わったけれども、「今はスポーツに打ち込みたい」とか。
 「練習時間がとても惜しいから、付き合う時間が取れないんだ」とか。
 女性たちはガッカリしたのだけれども、笑顔で応援してくれた。
 「これからも勝って下さいね」と。


(今から思うと、あれはブルーがいたからで…)
 いつか巡り会う人を想って、自分は待っていたのだろう。
 誰にも告白したりしないで、愛おしい人が現れるのを。
 前の生から愛し続けた、ブルーが帰って来る時を。
(……ということは、告白するなら……)
 相手はブルーで、まだ十四歳にしかならない子供。
 もっと大きく育つ時まで、告白は待つべきだろう。
(チビのくせして、一人前の恋人気取りでいるんだし…)
 下手に「好きだ」と言おうものなら、調子に乗るのに決まっている。
 禁止している唇へのキスを貰おうとしたり、キスのその先を強請って来たり、と。
(……迂闊なことは出来ないからな……)
 告白がそのままプロポーズだな、と未来の自分を想像する。
 愛するブルーに指輪を贈って、「ずっと一緒にいて欲しい」とプロポーズ。
 返事はとっくに分かっているのに、それでもドキドキすることだろう。
 断わられはしないと分かっていたって、心臓がバクバク脈打って。
(……なんたって、一世一代の……)
 ただ一度きりの告白なんだ、と笑みを浮かべる。
 若人たちがしている軽めの告白、それとは重さが違っても。
 告白がそのまま、プロポーズの意味を持っていたって。
(……告白するなら、とびきりの場所で……)
 最高の返事を聞きたいものだ、と未来への夢が広がってゆく。
 前の生では恋を隠し続けて、そのまま終わってしまったから。
 「地球に着いたら」と二人で夢見た結婚、それは叶わなかったから。
 だから今度は、この地球の上で、永遠の愛を誓い合いたい。
 そうするためには、まずは告白する所から。
 ただ一人きりの愛おしい人に、心からの愛と想いをこめて…。

 

             告白するなら・了


※告白という言葉について、考え始めたハーレイ先生。最初は、ほんの軽い気持ちで。
 考える内に気付いたことが、告白を一度もしていないこと。告白は、いつかブルー君に…v











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「ねえ、ハーレイ。別れ話って…」
 どう切り出したらいいのかな、とブルーが言い出したこと。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブルを挟んで、向かい合わせで。
「別れ話だと?」
 なんだそれは、とハーレイは鳶色の瞳を見開いた。
 普通に「別れ話」と言ったら、恋人同士の仲が壊れそうな時。
 愛想を尽かした方の片割れ、それが相手を捕まえて「する」。
 もうお互いに限界だから、別れようと。
 二人の仲はこれでおしまい、会うのも今日で最後にしようと。
(しかしだな…)
 どうしてブルーが気にするんだ、と其処が解せない。
 切り出し方を尋ねるなどとは、穏やかではないものだから…。


(……学校の友達の話なのか?)
 誰か悩んでいるのだろうか、と頭に浮かんだブルーのクラス。
 それともクラスは別だけれども、幼馴染の誰かだとか。
(…そうかもしれんが、それにしたって…)
 別れ話には早すぎないか、と思うブルーの年齢。
 十四歳にしかならないのだから、恋にも別れ話にも早い。
(今じゃ人間は全員ミュウだし、寿命も長いし…)
 恋をするのも、のんびり、ゆっくり。
 初恋が芽生えるのは上の学校、それが今では標準コース。
(とはいえ、こいつの例もあるしな…)
 一人前の恋人気取りのチビと言えば…、とブルーを眺めた。
 前の生の記憶を継いだとはいえ、恋をしているのは事実。
 そうなってくると、例外だって無いとは言えない。
 ブルーと同い年で恋をした末に、別れ話な友達だって。


(…そいつを見かねて、俺に相談したってか?)
 有り得るな、と納得したから、改めてブルーに問い掛けた。
「別れ話とは穏やかじゃないが、何がしたいんだ?」
「んーとね…。上手な切り出し方とか、あるのかな、って」
 ハーレイだったら詳しそうだし、とブルーが傾げた首。
 「今のハーレイも、前のハーレイもね」と。
「はあ? 今はともかく、前の俺って…」
 どうしてそういうことになるんだ、とポカンとした。
 キャプテン・ハーレイだった時代に、別れ話の相談などは…。
「船の仲間のトラブル解決、前のハーレイの役目でしょ?」
 別れ話も管轄だと思う、とブルーは赤い瞳を瞬かせた。
 「だから訊くけど、どういう風に切り出すものなの?」と。
「うーむ…。そう言われれば、そうだったかもなあ…」
 相談に乗ったこともあったか、と時の彼方を思い出す。
 船には恋人たちも多くて、恋人同士の諍いだって。
 今の自分も、別れ話の相談を受けたことはあるから…。


「相手のプライドを傷付けないよう、注意することかな」
 そこが大事だ、と小さなブルーに教えてやった。
 相手も同じ人間なのだし、思いやりを忘れないように、と。
 そうしたら…。
「ありがとう! じゃあ、次にキスを断られるまでに…」
 思いやりのある言葉を考えておくね、と微笑んだブルー。
 「キスをくれないなら、別れてやるから」と。
「なんだ、お前の話だったか。なら、別れるか」
 次でなくても、今日でもいいが、と返したらブルーは大慌て。
 「酷いよ、別れてもいいの?」と。
 脅しをかけてやったつもりが、アテが外れて。
 別れ話に発展しそうで、繋ぎ止めないと大変だから。
(……面白いから、苛めてやるか)
 ニヤニヤしながらブルーを見詰めて、ゆったり頷く。
 「俺なら、別に別れてもいいぞ」と、「お別れだな」と…。




          別れ話って・了









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(肉のパイになるって話が、あったっけね…)
 ぼくとハーレイ、と小さなブルーが思い出したこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 前に前世の話をした時、「ウサギだったかも」という話題になった。
 ハーレイは茶色の毛皮のウサギで、自分は白い毛皮のウサギ。
 ソルジャー・ブルーとキャプテン・ハーレイになるよりも前は、そういう姿。
 人間が地球しか知らなかった時代の、自然が豊かなイギリスで。
 広い野原を駆け回って過ごして、それは幸せなウサギのカップル。
 もちろん、二人ともオスなのだけれど。
(ウサギなのに二人って、おかしいけれど…)
 だけど二人、と大きく頷く。
 たとえウサギに生まれていたって、ハーレイは、ちゃんとハーレイだから。
 自分も「ブルー」で、自覚はあったと思うから。
(名前は違っていたかもだけど…)
 どうなのかな、と傾げた首。
 前の生でも、今の生でも、ハーレイの名前は、同じ「ハーレイ」。
 自分も同じに「ブルー」なのだし、ウサギだった頃もそうかもしれない。
 母親ウサギから生まれて来た時、「ブルー」と名前を付けられて。
 白い毛皮で赤い瞳だけれども、何故だか「ブルー」という名前。
(……ブルー・ブラッド?)
 確か、そういう言葉があるよね、と微かな記憶が引っ掛かった。
 前の自分が覚えていたのか、今の自分が耳にしたのか。
(貴族の血が、確かブルー・ブラッド…)
 高貴な身分の人が引く血を、ブルー・ブラッドと呼ぶらしい。
 だから貴族が住む土地だったら、父親ウサギか、母親ウサギが…。
(うんと立派なウサギにおなり、って…)
 願いをこめて、「ブルー」と名付けることはありそう。
 何処にも青い部分は無くても、ブルー・ブラッドの「ブルー」から。


 有り得るよね、と思う、ウサギだった前世の「ブルー」の名前。
 ハーレイの方は、さほど変わった名でもないから、ありがちだろう。
(ぼくはブルーで、ハーレイはハーレイ…)
 今と変わらない名前で出会って、そうして、すぐに仲良くなる。
 普通はオスのウサギ同士なら、たちまち喧嘩になる所を。
 縄張り争いで互いに激しく後足で蹴って、毛の塊まで飛び散る代わりに。
(だって、ハーレイと、ぼくだもんね?)
 運命の出会いなんだもの、とイギリスの野原に思いを馳せる。
 時代も場所も違っていたって、ハーレイとならば仲良くなれることだろう。
 お互い、運命の相手なのだと、顔を見るなりピンと来て。
 オス同士でも、一瞬の内に恋をして。
(ハーレイに会ったら、同じ巣穴で暮らすんだよ)
 それまで暮らした巣穴なんかは、捨ててしまって。
 ハーレイが住んでいた巣穴に移るか、新しく掘って貰えるのか。
(新しいのだと、掘るのに時間がかかるから…)
 暫くは狭い巣穴で我慢で、ギュウギュウ詰めかもしれないけれど…。
(狭くても、幸せ…)
 隣にギュウギュウ詰まっているのが、ハーレイならば。
 茶色い毛皮の逞しい身体が、自分の隣にあるのなら。
(ハーレイが、頑張って巣穴を広げてくれて…)
 ゆったり暮らせるようになっても、きっと自分はくっつくのだろう。
 何かと言ったら、ハーレイの所へ跳ねて行って。
 おまんじゅうが二つ並ぶみたいに、白と茶色のウサギが並んで。
(ぼくとハーレイなんだもの…)
 それに、シャングリラとは違うもんね、と思うイギリスの野原での暮らし。
 誰にも遠慮は要らないわけだし、いつでも一緒のウサギのカップル。
 オス同士だろうが、気にもしないで。
 何処へ行くにも、二人でピョンピョン跳ねて、走って。


(そうやって仲良く暮らしてたのに…)
 お肉のパイにされちゃうんだよ、と思考が最初の所に戻る。
 ハーレイと前世の話をした時、ウサギだった前世の締めくくりは「それ」。
 遠い昔のイギリスだけに、其処には貴族が住んでいる。
 さっき考えた「ブルー」の名前の、出どころになった「ブルー・ブラッド」が。
 仕事なんかはしないで暮らせて、毎日、遊んでばかりの貴族。
(貴族は、狩りが大好きで…)
 馬で出掛けるキツネ狩りやら、銃で仕留める銃猟やら。
 そんな物騒な貴族の一人が、前の生でも馴染みの「キース」。
 SD体制の頃とは違って、ちゃんと「生まれて来た」者として。
 立派な貴族の血を引く息子で、もちろん、趣味の一つが狩り。
(何か獲物を撃ってやろう、って…)
 銃を手にして野原に来た時、白い毛皮のウサギを見付ける。
 ウサギは茶色いものだというのに、真っ白なのを。
 それが野原を跳ねてゆくのを、あるいはチョコンと座っているのを。
(珍しい獲物を見付けたぞ、って銃を構えて…)
 貴族のキースは狙いを定めて、銃の引き金を引くことだろう。
 なにしろ狩りをしに出て来たわけだし、珍しい獲物は嬉しいもの。
 けして逃がしてたまるものかと、パアンと撃って…。
(……ウサギのぼくは、それでおしまい……)
 突然、目の前が真っ赤に染まって、終わる人生。
 前の生でも、そうだったように。
 ただし、あちらは、「それでは終わらなかった」けれども。
 視界が赤く染まった後にも、前の自分は戦い続けた。
 最後に残ったサイオンを全て、かき集めて。
 わざと引き起こしたサイオン・バースト、それにキースを巻き込もうと。
 災いをもたらす「地球の男」を、生かしておいてはならないから。
 ミュウの未来を守るためには、メギドも「キース」も滅ぼさなければ、と。


 けれども、仕留め損ねた「キース」。
 地球の男はマツカに救われ、前の自分の視界から消えた。
 なんとも悔しい限りだけれども、そうやって逃げて行ったキースは…。
(…最後は国家主席になって、SD体制を倒したんだし…)
 結果的には、それで良かったと言えるだろう。
 それを思えば、「逃げられた」ことも「悪くはなかった」。
 前世の話のウサギの場合は、キースに撃たれて終わりだけれど。
 自分に何が起こったのかさえ、全く分からないままで。
 乾いた音が響いた直後に、世界が真っ赤に染め上げられて、暗転して。
(……ぼくの人生は、おしまいだけど……)
 前の自分が戦ったように、ウサギのハーレイが立ち上がる。
 茶色い毛皮は目立たないから、隠れていたなら安全なのに。
 キースは気付かず帰ってゆくのに、ハーレイはそうせず、駆け出してゆく。
 「ブルーを撃った憎い男」に、復讐をしに。
 ウサギの強い後足で蹴って、「痛い!」と悲鳴を上げさせるために。
(……そんなことをしたら、ハーレイだって……)
 間違いなく撃たれてしまうだろうし、第一、キースを蹴るよりも前に…。
(キースが素早く銃を構えて、もう一発…)
 ぶっ放したなら、ウサギのハーレイの命も終わる。
 パアンと銃が火を噴いて。
 茶色い毛皮のウサギの身体が、コロンと地面に転がって。
(……今日はウサギが二匹も獲れた、って……)
 貴族のキースは大満足で、ウサギを従者に持たせるのだろう。
 「今日はウサギのパイが食えるな」と、白いウサギと、茶色いウサギを。
 館に着いたら厨房の者に、二匹のウサギを料理するよう命じておけ、と偉そうに。
 貴族の男は、自分で厨房に行きはしないし、命令だけ。
 それも従者の者に任せて、自分はパイを食べるだけ。
 夕食のテーブルに出て来た、それを。
 「今日も楽しく狩りが出来た」と、ホカホカと湯気を立てているのを。


(……お肉のパイになっちゃうんだけど……)
 ウサギのぼくも、ハーレイも…、と思うけれども、二人とも、同じパイの中。
 給仕が切り分け、キースが食べたら、二人一緒に天国に行ける。
 白いウサギと茶色のウサギで、元気にピョンピョン飛び跳ねながら。
 どっちが先に辿り着くかと、天国に続く野原の道を。
(……幸せだよね……)
 ハーレイと一緒なんだもの、とウサギのカップルが目に浮かぶよう。
 きっと二人とも満足していて、幸せ一杯。
 肉のパイにはされたけれども、もう離れずにいられるから。
 天国に行っても同じ巣穴で、うんと幸せに暮らせるから。
(…前のぼくより、ずっと幸せ……)
 ハーレイが一緒なんだものね、と羨ましくなる。
 前の自分は、メギドで独りきりだったから。
 ハーレイの温もりさえも失くして、泣きじゃくりながら死んでいった自分。
 それに比べて、なんて幸せな人生だろうか、ウサギのブルーとハーレイの方は。
 同じキースに撃たれるにしても、ウサギのブルーは「失くさずに済む」。
 出会った時からずっと一緒の、大切な人を。
 心の底から愛し続けた、茶色い毛皮のハーレイを。
(……前のぼく、肉のパイだったなら……)
 うんと幸せだったのにな、と思わないではいられない。
 ソルジャー・ブルーはウサギではなくて、肉のパイにはならないけれど。
 前のハーレイもウサギではないし、キースに挑みはしないけれども。
(……キースが憎い、って言うハーレイも……)
 あの最期ならば、大満足なことだろう。
 キースに一発、蹴りをお見舞い出来るから。
 それが無理でも、「復讐を挑む」ことは出来たし、憎み続けずに済むのだから。


(……いいことずくめなんだけれどね……)
 だけど、やっぱり今がいいかな、と零れた笑み。
 ウサギの前世も良さそうだけれど、イギリスの野原で暮らすよりかは、今がいい。
 ハーレイと二人で青い地球の上に生まれ変わって、生きている今が。
 「前世は肉のパイだったかも」と、お茶を飲みながら話せる時間。
 そういった日々を紡ぎ続けて、今度は結婚出来るから。
 ウサギのカップルがそうだったように、誰にも遠慮は要らない世界。
 ハーレイと結婚式を挙げたら、同じ家で暮らしてゆけるから。
 何処へ行くにも二人一緒で、青い地球で生きてゆけるのだから…。

 

          肉のパイだったなら・了


※ブルー君が考えてみた、ウサギの前世。肉のパイになる最期でも、幸せだっただろうと。
 元ネタは第323弾の『前世と肉のパイ』です。もちろん、今の方が幸せなんですけどねv











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(……肉のパイなあ……)
 そういえば、そういう話をしたな、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れた、コーヒー片手に。
(パイと言ったら、この辺りじゃ、普通は菓子なんだが…)
 肉のパイがある地域だって、と他の地域を頭に描く。
 人間が地球しか知らなかった頃には、イギリスと呼ばれていた島国。
 今もイギリスがあった辺りは、同じ名前を名乗っている。
 遠い昔の、イギリスの文化を復興させて。
 料理なども色々、イギリスのものを引っ張って来て。
(つまりは、肉のパイだって…)
 昔のように食べているだろう。
 それが生まれた頃とは違って、狩猟を愛する文化は無くても。
 キツネ狩りや銃を使った猟に興じる、貴族などはいない世界でも。
(…まあ、肉のパイは…)
 貴族に限ったものじゃないしな、と思うイギリスのパイ。
 銃で沢山の鳥やウサギを獲った貴族も、もちろん食べていたけれど…。
(余るほど獲れない庶民だって、だ…)
 たまの御馳走には肉のパイ。
 飼っていた豚を潰した時とか、思いがけなくウサギが獲れた時とか。
(レタスを食い過ぎちまったウサギが…)
 畑で眠りこけているのを、拾って帰る絵本がある。
 今も人気の『ピーターラビット』、ウサギが主人公になっている話。
 肉のパイにされそうになった、子ウサギのピーター。
 彼は命を拾ったけれども、父のウサギは、ずっと昔に事故で命を落とした。
 「マクレガーさんの畑」で、捕まって。
 マクレガーの奥さんに、肉のパイにされてしまって。


 イギリスでは馴染みの肉のパイ。
 『ゲームパイ』という名前のパイがあるくらいに。
 ゲームはいわゆるゲームの意味で、けれど、普通のゲームではない。
 庶民はともかく、貴族社会で「ゲーム」と言ったら、狩猟のこと。
(ハントはキツネ狩りを指してて、銃猟はゲーム…)
 狙う獲物が鳥であろうが、ウサギだろうが、銃を使った猟なら「ゲーム」。
 それの獲物を使って作るのがゲームパイ。
(…あいつと話した、肉のパイなら……)
 ゲームパイだな、と一人で頷く。
 その話をした、ブルーは此処にはいないけれども。
 今頃は自分の家のベッドで、とっくに眠っているかもしれない。
(物騒な話だったっけな…)
 肉のパイはな、と思い出すのは、ブルーとの会話。
 確か、前世が話題になった日。
 二人で青い地球の上に生まれ変わったけれども、それよりも前はどうだったろう、と。
 ソルジャー・ブルーと、キャプテン・ハーレイに生まれるまでは。
 人間が地球しか知らなかった頃も、二人は一緒だっただろうか、と。
(それで出て来たのが、ウサギだったんだ)
 前世も人間とは限らないから、今のブルーが幼かった日に夢見たウサギ。
 小さい頃には、「ウサギになりたい」と夢を描いていたらしいから。
 将来の夢はウサギになること、そして元気に跳ね回ること。
(お父さんたちに飼って貰って…)
 庭で暮らすつもりでいたというから、可愛らしい。
 もしもブルーが本当にウサギになっていたなら、自分もウサギになったろう。
 どうすれば人間がウサギになれるか、ブルーに方法を教わって。
 茶色の毛皮のウサギになれたら、白いウサギのブルーと暮らす。
 庭よりも、ずっと広い野原で。
 二人でのびのび暮らせるようにと、立派な巣穴を頑張って掘って。


(あいつの将来の夢がウサギで…)
 ついでに二人とも、今では干支がお揃いでウサギ。
 二十四歳違うものだから、そっくり同じ干支になる。
 だからウサギのカップルなわけで、「前世もウサギだったかも」という話になった。
 どういうわけだか、銃猟がある昔のイギリスで。
 貴族のお坊ちゃまのキースが、「ゲーム」のために銃を持ち出す世界で。
(茶色い毛皮の俺はともかく、白いブルーは…)
 とても目立つし、銃を手にした貴族から見れば格好の獲物。
 館には肉が余っていたって、狙いを定めて撃つことだろう。
 そんな時代の貴族の猟は、文字通りに「ゲーム」で、お遊びだから。
 とても食べ切れない量の獲物を、撃って遊んでいた時代。
(目の前で、ブルーが撃たれちまって…)
 倒れて動かなくなってしまったら、きっと復讐に飛び出してゆく。
 銃を構えたキースの前に。
 ウサギの後足の蹴りは強いから、それをお見舞いするために。
(もちろんキースは、撃って来るだろうが…)
 撃たれる前に一矢報いて、ささやかながらも、ブルーの仇を討ってやる。
 次の瞬間、パンと音がして、自分も銃の餌食でも。
 先に撃たれたブルーと一緒に、肉のパイになる運命でも。
(あいつと一緒に、肉のパイなら…)
 少しも後悔なんかはしない、と今も思うし、ブルーにも言った。
 パイになっても離れはしなくて、天国に昇ってゆく時も一緒。
 それは幸せな一生だろうし、そういう前世もいいかもしれない、と。
 ブルーと二人でウサギに生まれて、イギリスの野原を跳ね回って。
 同じ巣穴で仲良く暮らして、キースに撃たれて、肉のパイになる。
 こんがりと焼けた、美味しいパイに。
 そうしてキースの食卓に乗って、食べられて、二人で天国にゆく。
 どっちが先に辿り着くかと、競争で。
 天国に続く雲の野原を、ピョンピョンと跳ねて走って行って。


(……悪くないよな……)
 そんな前世も、とイギリスの野原に思いを馳せる。
 前世の記憶は無いのだけれども、なんとも幸せそうな光景。
 たとえ最後は肉のパイでも。
 貴族のお坊ちゃまのキースに、銃で撃たれておしまいでも。
(……待てよ?)
 俺は仇を討てたんだよな、と茶色いウサギの「自分」に気付いた。
 ウサギのブルーを撃ったキースに、後足で蹴りを見舞ったなら。
 それでキースは倒せなくても、渾身の一撃。
 狩猟用の頑丈なブーツに阻まれ、「痛い」とさえも思われなくても。
 キースは痛くも痒くもなくても、ウサギの自分は満足だろう。
 ウサギなら充分に痛い必殺の技を、キースに炸裂させたのだから。
 縄張り争いで使ったならば、どんなウサギも倒せる蹴りを。
(……キースの野郎は、まるで堪えていなくても……)
 フフンと鼻の先で嗤って、持っていた銃を構え直して、撃ったとしても。
 パンと乾いた音が聞こえて、目の前が真っ赤に染まったとしても…。
(…俺は確かに、キースの野郎に…)
 ウサギなりの復讐を遂げたわけだし、大満足の最期なのだと思う。
 「俺のブルーの仇は討った」と。
 キースに一発お見舞い出来たと、頼もしい後足に感謝しながら。
(…蹴りを入れる前に、撃たれちまっても…)
 復讐は果たせなかったとしても、やはり心に後悔は無い。
 「ブルーの仇を討とう」と走って、キースに向かって行ったのだから。
 憎いキースを蹴ってやろうと、力強い四肢で懸命に駆けて。
 仇は討てずに倒されたって、ウサギの自分は努力した。
 ウサギの身でも、出来る限りのことをしようと。
 先に撃たれた大事なブルーを、そのままにしてたまるものかと。
 キースの前に出て行ったならば、自分も確実に殺されるのに。
 銃で撃たれて命を落として、肉のパイになる運命なのに。


(……肉のパイになっちまう、ウサギの方が……)
 前の俺よりも幸せだぞ、と瞠った瞳。
 ブルーの仇を討つのだから。
 果たせず、あえなく撃たれたとしても、キースの前には出てゆける。
 「俺のブルーを撃った野郎を、許しはしない」と。
 武器は自分の後足だけでも、大したダメージを与えることは出来なくても。
(…それに比べて、前の俺ときたら…)
 キースの野郎に一撃どころか…、と零れる溜息。
 遥かな時を経た今になっても、自分の愚かさが悔やまれる。
 前の自分が「まるで知らなかった」、ブルーの最期。
 キースがメギドで何をしたのか、前の自分は知らないまま。
 だからユグドラシルでキースと顔を合わせた時、丁重にお辞儀をしてしまった。
 人類代表の国家主席に、それなりの礼を取らなければ、と。
 自分はミュウの代表の一人で、シャングリラのキャプテンだったのだから。
(……本当だったら、あそこで一発……)
 キースを殴るべきだったのに。
 心から愛した前のブルーを、弄ぶように撃ったのがキース。
 ウサギのブルーを撃つのだったら、弾は一発きりなのに。
 前のブルーでも、一発で倒すことが出来たのだろうに、キースは何発も撃った。
 そんな輩に礼を取ったとは、なんとも悔しい限りだけれど…。
(キースはいなくて、俺は仇を取れなくて…)
 どうにもならんし、肉のパイになったウサギがいいな、と羨ましい。
 そっちは仇を討てたのだから。
 仇は討てずに撃ち殺されても、「ブルーの仇!」とキースを憎めたから。
 おまけに最後はブルーと一緒に、仲良く肉のパイなのだし…。
(……肉のパイなら、うんと幸せなんだがなあ……)
 今の暮らしも悪くはないが、とコーヒーのカップを傾ける。
 青い地球での人生はもちろん最高だけれど、ウサギの前世も良さそうだから。
 ただの想像に過ぎないけれども、ウサギの自分は幸せだから…。

 

            肉のパイなら・了


※ハーレイ先生が羨ましくなった、ウサギのハーレイ。ブルーの仇を討てたから、と。
 元ネタは聖痕シリーズ第323弾の『前世と肉のパイ』です、そちらもよろしくv











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「ねえ、ハーレイ。もう一度、確認したいんだけど…」
 念のために、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、テーブルを挟んで。
「確認って…。何をだ?」
「ハーレイが、いつも言ってることだよ。キスは駄目なの?」
 大きくなるまでしてくれないの、という質問。
 耳にタコが出来そうな話だけれども、答えは、きちんと。
「当然だ。前のお前と同じ背丈に育つまではな」
 俺の決心は変わらないぞ、とハーレイは怖い顔をしてみせた。
 何かと言えば、ブルーはキスを強請って来る。
 頬や額へのキスと違って、恋人同士の唇へのキスを。
 それをしてやるつもりなど無いし、例外だって有り得ない。
 だから睨んで「駄目だ」と叱る。
 どんな手段を使って来ようと、唇にキスはしないからな、と。


「それじゃ訊くけど、浮気されてもいいんだね?」
「はあ?」
 予想外だったブルーの言葉に、思わず間抜けな声が出た。
 浮気というのは何なのだろうか、ブルーには似合わない言葉。
 ところがブルーは真剣な顔で、「浮気だよ」と繰り返した。
「ハーレイがキスしてくれないんなら、浮気してやる!」
 ぼくはホントに本気だからね、と赤い瞳が深みを帯びる。
 「キスもくれないハーレイよりかは、優しい誰か」と。
「おい、浮気って…。お前がか?」
 チビのくせに、と笑ってやったら、眉を吊り上げたブルー。
「中身は、チビじゃないんだから!」
 三百年以上も生きたんだから、と前のブルーの歳を持ち出す。
 その頃の記憶を持っている以上は、チビではないと。
 浮気くらいは立派に出来ると、相手にも不自由しない筈、と。


「ほほう…。相手には不自由しないと来たか」
 そりゃ上等だ、と余裕たっぷりに腕組みをした。
 ブルーが如何に綺麗だろうと、十四歳には違いない。
 前のブルーの方ならともかく、今の姿では浮気なんかは…。
(まず無理と言うか、そもそも相手がいないと言うか…)
 第一、困るのはブルーなんだが、と可笑しくなる。
 浮気相手が見付かった時は、ピンチなのに、と。
「笑ってる場合じゃないよ、ハーレイ!」
 本当に浮気しちゃうからね、とブルーは続けた。
 キスしてくれる優しい相手と、幸せにデートして浮気、と。
「そりゃいいな。お前の欲しいキスが出来る、と」
「いいって、其処で焦らないわけ!?」
 浮気されても平気なんだね、と怒ったブルー。
 「そうなる前に、キスしようとは思わないんだ」と。


「思わんな。そもそも、俺は少しも困らん」
 困るとしたら、お前の方だ、とピタリと突き付けた指。
 「初めてのキスは、浮気相手になるんだからな」と。
「えっ…?」
 そんな、とブルーの瞳が真ん丸になる。
 「ハーレイとじゃなくて、別の誰か…?」と。
「そうなるだろうが。俺はそれでも気にしないがな」
 ファーストキスは貰えなくてもかまわんぞ、と笑んでやる。
 「他の誰かにプレゼントしろ」と、「俺の心は広いから」と。
「嫌だってば!」
 浮気しないよ、と慌てるブルーが可愛らしい。
 腕組みしたまま、ゆったり構えて心の広い恋人になる。
 「遠慮しないで浮気してこい」と、鳶色の瞳を煌めかせて…。




          浮気してやる・了










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