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(今日はあいつに会えなかったな…)
 残念ながら、とハーレイがフウと零した溜息。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れた、コーヒー片手に。
 今日は会えずに終わったブルー。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた、愛おしい人。
 会えなかったことは残念だけれど、きっと明日には…。
(うん、学校で会えるだろうさ)
 学校では駄目でも、家に行くって手もあるんだし、と大きく頷く。
 明日は会議の予定は無いから、仕事の帰りに寄れるだろう。
 ブルーが待っている家に。
 生垣に囲まれた、すっかり見慣れてしまった家へと、帰り道に車を走らせる。
 真っ直ぐ家に帰るのではなく、寄り道をしに。
 愛おしい人の顔を眺めに、ゆっくりと話をするために。
(…お茶と夕食を御馳走になろう、というんだし…)
 なんとも厚かましい限りだけれども、それにも今では慣れてしまった。
 出迎えてくれるブルーの母にも、家族のような親しみを感じているのが今。
 「お邪魔します」と挨拶はしても、気持ちの方は「ただいま」に近いかもしれない。
 隣町の実家に帰るのと同じで、まるで遠慮はしていないから。
(…本当に、実に厚かましいな)
 しかし、あちらも、そういう具合になっているし、と苦笑する。
 十四歳にしかならないブルーは、「ハーレイ先生」が大のお気に入り。
 訪ねてゆく度、大歓迎で、夕食の席でもはしゃぐほど。
(ご両親の方では、俺に気を遣って…)
 子供の相手ばかりでは大変だろう、と色々な話題を持ち出すけれども…。
(あいつときたら、ろくに中身が分かってなくても…)
 隙あらば会話に混ざり込もう、と虎視眈々と狙っている。
 「パパとママに、ハーレイを盗られちゃった」と、子供らしい独占欲に駆られて。
 自分だって話に混ざりたいのに、と内心、不満たらたらで。


 そういうブルーに、明日になったら会える筈。
 仕事の帰りに、寄り道をすれば。
 家のガレージを目指す代わりに、別の方へとハンドルを切れば。
(もう少しばかり、寄り道ってのも…)
 ひょっとしたら、あるかもしれないな、とコーヒーのカップを傾ける。
 今の時点では、そんな予定は無いけれど…。
(なにしろ、明日まで、まだたっぷりと…)
 時間があると来たもんだ、と時計を眺めて折ってゆく指。
 明日の朝までには、まだ何時間、と。
 ついでに仕事が終わるまでには、もう何時間ある勘定なのか、と。
(…丸一日とまでは、いかないんだが…)
 半日以上は優にあるから、これから思い出すかもしれない。
 前のブルーと過ごした時代の、とても懐かしい思い出を。
 今は記憶の底に沈んで、すっかり忘れていることを。
(…そいつを、ヒョイと思い出したら…)
 ブルーの家へと出掛ける前に、寄り道することもあるだろう。
 ひょっこり戻った記憶の欠片に、何か食べ物でも絡んでいれば。
 何処にでもある食料品店、其処で簡単に手に入る品が、それならば。
(こればっかりは、流石の俺にも…)
 読めないんだよな、と思う、記憶の不意打ち。
 今日までに何度も体験して来て、食料品店にも何度も寄った。
 「こいつを買って行かないとな」と、お目当ての品を手に入れに。
 小さなブルーに「懐かしいだろ?」と、思い出話をするために。
(はてさて、明日はどうなることやら…)
 寄り道する先が一つ増えるのか、それとも真っ直ぐ、ブルーの家か。
 それは全く読めないけれども、ブルーの家には行けるだろう。
 会議の予定は無いのだから。
 柔道部だって、余程でなければ、長引くことなど有り得ないから。


 よし、と頭に思い描くのは「明日」のこと。
 寄り道する先が一つ増えるか、あるいは真っ直ぐ、ブルーの家か、と。
(一つ増えれば、楽しいんだがな…)
 あいつの喜ぶ顔も見られる、と思い出話の切っ掛けに期待するけれど。
 何かを思い出しはしないか、胸を弾ませて考えるけれど…。
(そうそう上手くはいかないもんだ)
 運なんだよな、と分かってはいる。
 記憶の底に沈んだ欠片を、拾えるかどうかは運次第。
 まるで川底の砂を掬い上げて、その中から砂金を探すみたいに。
(砂金もそうだし、宝石ってヤツも…)
 場所によっては、そうやって探すモンらしいしな、と思うくらいに、本当に、運。
 ツイていたなら、最初に掬った砂の中から、砂金の粒が採れるだろう。
 宝石だって、コロンと混じっているのだと思う。
 けれども、ツイていない時には、たとえ何日、掬い続けようと…。
(砂金も採れなきゃ、宝石だって…)
 全く採れずに、ただ努力だけが空回り。
 記憶の欠片を拾い上げるのも、そういう作業に何処か似ている。
 だから、どんなに思い出そうとしてみても…。
(…俺には、どうにもならないってな)
 お手上げなんだ、と軽く両手を広げた。
 今夜は思い出せそうにない、と記憶の欠片は諦めて。
 明日の寄り道はブルーの家だけ、きっとそうなるに違いない、と。
(だがまあ、あいつの家には行けるし…)
 小さなブルーの顔を見られれば、もうそれだけで充分ではある。
 思い出話の欠片は無しでも、愛おしい人に会えるから。
 今日は会えずに終わった恋人、その人と話が出来るのだから。
(厚かましく、お邪魔しちまって…)
 ブルーの部屋で、お茶とお菓子を御馳走になって。
 二人きりでゆっくり話した後には、両親も交えた夕食の席で。
 きっと会話が弾むだろうから、それだけでいい。
 記憶の欠片は拾えなくても、寄り道する先が増えなくても。


(うん、充分に幸せだってな)
 明日になるのが楽しみだ、とカチンと弾いたマグカップの縁。
 あと何時間か過ぎた後には、明日という日がやって来る。
 コーヒーを飲み終えて、片付けしてから、ベッドに入って、ぐっすり寝れば。
 夜が明けたら、明日が来るから、ブルーの家に出掛けるまでに…。
(運が良ければ、何かを思い出すかもなあ…)
 ツイていればな、と白いシャングリラを思い浮かべる。
 あの船で起こったことでもいいし、改造する前の船でもいい、と。
 何か記憶の欠片を拾って、寄り道の先が一つ増えればいいんだが、と。
(…そうすりゃ、明日は、もっといい日に…)
 なるんだがな、と思った所で気が付いた。
 「明日」という日の存在に。
 さっきからずっと、当たり前のように想像していた、「明日」の重みに。
(…俺がシャングリラにいた頃は…)
 改造前の船はもちろん、白い鯨になった船でも、「明日」が来るとは限らなかった。
 暗い宇宙を旅した時代は、朝日は昇らなかったのだけれど。
 いつでも外は暗かったけれど、それでも「明日」の概念はあった。
 船の中だけが世界の全てで、外の世界は無かったから。
 たとえ夜明けは来なかろうとも、一日の始めと終わりは必要。
 そうでなければ、人は健康に暮らせはしない。
 夜勤に入った者はともかく、そうでない者は…。
(夜になったら、寝るモンで…)
 次の日の朝を知らせる合図で、ベッドから起きて活動を始める。
 まずは洗顔、それから着替えで、支度が出来たら食堂に行って…。
(朝飯を食ったら、持ち場に出掛けて…)
 その日の仕事に取り掛かっていた。
 外は真っ暗な宇宙であろうと、「朝が来たから」と。
 「今日も一日、しっかりやろう」と、それぞれの持ち場で気を引き締めて。
 けれど、何処にも保証は無かった。
 次の日の朝が、やって来るとは。
 夜を迎えたシャングリラという船、その船に「明日」があるかどうかは。


 人類に追われるミュウの箱舟、いつ襲われるか分からない船。
 夜の間に沈められたら、次の日などはあるわけが無い。
 いくら準備をしていても。
 「明日の作業は、これとこれだ」と、皆が段取りしていたとしても。
(前の俺は、その船のキャプテンで…)
 シャングリラの全てを背負っていたから、何度、不安を覚えたろうか。
 「もしも」と、「明日が来なかったら」と。
 人類軍の船が近くを飛んでゆく度、恐れを抱いて夜を迎えた。
 そうでない時も、常に何処かで思っていた。
 「無事に、明日の朝を迎えられればいいが」と。
 シャングリラに、夜が訪れる度。
 夜も昼も無い宇宙を旅していた時も、アルテメシアの雲海に潜んでいた時も。
(…その筈だったが、今の俺は、だ…)
 実に気楽に暮らしているな、と愛用のマグカップを、しみじみと見る。
 ついさっきまで、当たり前のように夢を見ていたのが「明日」。
 「記憶の欠片が拾えるといいが」と、更に欲張りな夢を描いて。
 ブルーに会えることは確実なのだし、どうせなら、もっと、と寄り道をしたくて。
 前の生での記憶の欠片を、運良く、拾えたらいい、と。
 もし拾えたら、それに纏わる「何か」を買いに行けたらいい、と。
(…前の俺だと、夜は不安になったモンだが…)
 今では夢見る時間らしいな、と見回した書斎。
 此処で寛ぐ安らぎの時間、それが今では「夜」のようだ、と。
 今の時代は明日は必ず訪れるもので、夜は、それまでの待ち時間。
 何も不安になることは無くて、ただのんびりと明日を待つだけ。
 コーヒーを飲んで、後は片付け、それからベッドに潜り込んで。
 「明日はブルーに会えるんだしな」と、沢山の夢まで思い描いて。
(うんと贅沢になったモンだな、今の俺はな)
 夜になっても、自分の時間をゆっくり楽しむだけなんだしな、と浮かべた笑み。
 「本当に、俺は幸せ者だ」と。
 明日は必ずやって来る上、明日はブルーに会えるのだから…。

 

           夜になっても・了


※明日はブルー君に会いに行ける、とハーレイ先生が夢見る明日。寄り道もしたい、と。
 寛ぎの時間が夜ですけれども、前の生では違ったのです。今の世界は、幸せな世界v












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「あのね、ハーレイのお父さんとお母さんって…」
 怒ると怖い? と小さなブルーが投げ掛けた問い。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に何の前触れも無く。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
 ハーレイの両親の話などは、していなかったものだから…。
「はあ? いきなり、急にどうしたんだ?」
 なんだって親父たちなんだ、とハーレイは目を丸くした。
 ブルーの両親の話も出てはいないし、まるで無い切っ掛け。
 けれどブルーは「気になったから」と、赤い瞳を瞬かせた。
 「ハーレイのお父さんたちは、怖いの?」と。
 普段は優しそうだけれども、怒った時には怖いのかな、と。
「俺の親父と、おふくろか…」
 それは、まあな、とハーレイは苦笑しながら頷いた。
 生徒の前では言えないけれども、ブルーだったら、と。


「いいな、他の生徒には言うんじゃないぞ?」
 絶対、調子に乗りやがるからな、とブルーに釘を刺す。
 「ハーレイ先生の威厳が台無しだしな」と、キッチリと。
「うん、分かってる。それで、本当に怖いわけ?」
 小さなブルーは興味津々、身を乗り出して聞いている。
「いつもは怒らないんだが…。俺が悪さをした時には…」
 そりゃ怖かったな、文字通りに雷が落ちるというヤツだ。
 おやつ抜きとかは当たり前だったし、お前の両親とは…。
 随分違うな、とブルーに微笑み掛ける。
 「お前なんかは、叱られたって怖くないだろう?」と。
 おやつ抜きの刑を食らいはしないし、甘い筈だ、と。
「うん、パパとママは優しいよ。叱るだけだし」
 罰は無いよね、とブルーは両親を自慢した。
 「ホントに、とっても優しいんだから」と、得意そうに。


「そりゃ良かった。俺も安心していられるな」
 優しいお父さんたちで、とハーレイの胸も温かくなる。
 ブルーが幸せでいてくれることが、何よりだから。
 するとブルーは、首を傾げて、こう言った。
「でしょ? だからね、言い付けようと思うんだ」
「言い付ける?」
 誰に、何を、とハーレイはポカンと口を開いた。
「決まってるでしょ、ハーレイのお父さんたちにだよ」
 ハーレイがとっても意地悪なこと、とブルーは胸を張る。
 「キスをくれないことはともかく、ゲンコツだってば」と。
 いつも頭をコツンとやるから、叱って貰う、と。
「なるほどなあ…。それは親父も怒りそうだが…」
 お前を苛めているとなったら、とハーレイは吹き出した。
 「だが、どうやって、言い付けるんだ?」と。
 「親父たちの家、知っているのか」と、「連絡先は?」と。


「あっ…」
 どっちも知らない、とブルーがしょげるものだから。
 「それじゃ叱って貰えないよ」と小さな肩を落とすから…。
「ふむ、今回は俺の勝ちだってな」
 だからゲンコツはお見舞いしないし、安心しろ。
 それにいつでも言い付けていいぞ、とクックッと笑う。
 「親父たちは、とても怖いからな」と。
 「未来の嫁さんを苛めたとなれば、ゲンコツだろう」と。
 言い付けられるわけがないから、可笑しくて。
 連絡先が分かる頃には、キスを交わしているだろうから…。




          言い付けてやる・了












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(幸せだよね…)
 今のぼくって、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
(…ついさっきまでは…)
 不幸のドン底だったんだけど、と可笑しくなる。
 今の自分はとても不幸で、悲しくなるほどツイていない、と嘆いていた。
 仕事の帰りに、ハーレイが寄ってくれなかったから。
 学校でもハーレイに会えずに終わって、一度も顔を見られなかった。
 古典の授業が無かった上に、廊下でも擦れ違わなかったせいで。
(……ツイてなくって……)
 最悪な日だ、と思っていたのだけれども、明日には会えるかもしれない。
 古典の授業は無い日だとはいえ、ハーレイは学校にいるのだから。
(朝一番から、柔道部の朝練があるもんね?)
 運が良ければ、登校して直ぐに会えるだろう。
 其処で駄目でも、廊下や階段で擦れ違うだとか、チャンスは山ほど。
 それに明日なら…。
(学校の帰りに、来てくれるかも!)
 会議や、柔道部で何かが無ければ、ハーレイは寄ってくれる筈。
 そうすれば今日の不幸は一転、幸せな時がやって来る。
 窓辺のテーブルと椅子でお茶の時間で、夕食だって、ハーレイと一緒。
(晩御飯の時は、二人っきりじゃないけれど…)
 両親も食卓に着くのだけれども、それでも充分、幸せではある。
 ハーレイの主な話し相手が、両親になってしまっても。
 子供の自分は置き去りにされて、大人同士の話題に花が咲いたって。
(…それでも、ハーレイがいるんだもんね?)
 ぼくの側に、と嬉しくなる。
 声が聞けたら、鳶色の瞳を見ていられたら、それで充分、と。


 ついさっきまでは、そうは思っていなかった。
 本当の本当に不幸のドン底、悲しくて泣きそうだったほど。
 「今日はハーレイに会えなかったよ」と、心の中で繰り返して。
 何度も大きな溜息をついて、「今日は最悪」と嘆いてもいた。
 けれど、明日には、と思った所で、今の幸せに気が付いた。
 「そうだよ、明日があるんだっけ」と。
 今はすっかり夜だけれども、暗い夜中を通り過ぎたら、日が昇る。
 そうして明日の朝を迎えて、外では小鳥が鳴き出すだろう。
 もしも天気が雨だとしたって、雨音の向こうで、夜が明けてゆく。
 雨だと小鳥は鳴かないけれども、代わりに聞こえるだろう音。
(屋根に落ちて来る雨の音とか、表の道を走る車が…)
 濡れた道を通ってゆくタイヤの音で、雨の日なのだと知らせてくれる。
 他にも色々、晴れた日とは違う、雨の日の朝。
(…うん、ちゃんと朝が来るんだよ)
 朝が来たなら、ベッドから出て、学校へ行く支度をする。
 顔を洗って、制服に着替えて、それから朝食。
(……ホットケーキの朝御飯かも……)
 もしかしたら、と心が弾む。
 母が焼いてくれるホットケーキは、もちろん、美味しいのだけれど…。
(前のぼくの、憧れの朝御飯…)
 本物の地球のホットケーキ、と心は時の彼方へと飛ぶ。
 白いシャングリラで暮らしていた頃、前の自分が、何度も夢見た。
 いつか地球まで辿り着いたら、と幾つも描いた夢の一つが、ホットケーキ。
(…ホットケーキに、地球の草を食べて育った、牛のミルクのバターを乗っけて…)
 サトウカエデの森で採られた、本物のメイプルシロップを、たっぷりとかける。
 そういう素敵なホットケーキを、朝御飯の時に食べたい、と。
(前のぼくの夢、そこまでだけど…)
 ホットケーキには地球の小麦や、地球で育った鶏の卵も使われている。
 なんとも贅沢な限りの朝食、今の自分には、普通だけれど。
 ごく当たり前のメニューだけれども、前の自分には、夢で終わってしまった朝食。
 青い地球には辿り着けずに、ただ一人きりで、メギドで生を終えたのだから。


(…今のぼくって、うんと幸せ…)
 当たり前に明日の朝が来るのも、前の自分が生きた頃には無かったこと。
 白いシャングリラが出来上がった後も、「明日が来る」とは限らなかった。
 夜の間に人類軍に沈められたら、其処で全てが終わってしまう。
 誰一人として、次の日の朝は、迎えられずに。
 翌朝の朝食を用意していた、厨房で働く者たちも。
(…それに比べたら、ホントに幸せ過ぎるよね…)
 今のぼくは、と頬っぺたを軽く抓ってみた。
 「夢じゃないよね?」と。
 ベッドにチョコンと腰掛けた自分、チビの自分は夢ではないか、と。
 前の自分が、青の間のベッドで見ている夢。
 青い地球まで辿り着いたら、こんな風に生きてゆけたらいい、と。
(だけど、頬っぺた、痛いから…)
 これは間違いなく現実なのだし、第一、前の自分は死んだ。
 遠く遥かな時の彼方で、命と引き換えに、メギドを一人きりで沈めて。
 白いシャングリラとミュウの未来を、たった一人で守り抜いて。
(…今じゃ、英雄扱いだけど…)
 英雄なんかじゃなかったんだよ、と今でも決して忘れられない、前の自分の悲しい最期。
 右手に持っていたハーレイの温もり、それを失くして泣きじゃくっていた。
 「もうハーレイには、二度と会えない」と。
 「絆が切れてしまったから」と、絶望の淵に突き落とされて。
 泣きじゃくりながら死んだ前の自分は、英雄からは遠いと思う。
 もしも誰かが見ていたならば、「あの泣き虫が?」と呆れるだろう。
 英雄だったら、毅然としたまま、笑みさえ浮かべているだろから。
 右の瞳を撃たれていたって、左の瞳で前を見据えて。
 ミュウの未来は守り抜いたと、自分の役目を果たしたことに満足して。
 自分の命は消えるけれども、仲間たちの命は続いてゆく、と。
(…誰も見ていなくて良かったよね?)
 見られていたなら、どうなったかな、とクスッと笑う。
 「大英雄には、なれなかったかも」と。
 写真集はドッサリ出ていたとしても、顔だけを評価された結果で。


 今の時代も語り継がれる、ソルジャー・ブルー。
 ミュウの時代の始まりを作った、大英雄だと讃えられて。
(でも、そんなことは、今のぼくには…)
 少しも関係無いもんね、と十四歳の子供になった今の自分の右手を眺めた。
 前の自分が失くしてしまった、「最後まで持っていたい」と願った、ハーレイの温もり。
 それを失くして「右手が冷たい」と、泣きじゃくっていた前の自分。
 右手が冷たく凍えたままで、前の自分は死んでいったのに…。
(…今のぼくの手、少しも冷たくないんだよ)
 温かいお風呂にゆっくり浸かって、今だって、まだ身体ごと温かい。
 部屋も少しも寒くはないから、手が冷たくなる心配も無い。
(それに、冷たくなったって…)
 暖房を入れるとか、ベッドの中に潜り込むとか、温める方法は幾らでもある。
 おまけに、どうしようもなく冷えた時には…。
(…ハーレイに貰った、サポーター…)
 それを着ければ、右手は、たちまち温かくなる。
 メギドの悪夢に悩まされていた時、ハーレイがくれたサポーター。
 「こいつを着ければ、右手は冷たくならないさ」と。
 ハーレイが大きな手で握ってくれる時の、力加減まで再現してあるから。
(だから、安心…)
 こうしてパジャマで起きていたって、と幸せな気分に包まれる。
 「本当に、なんて幸せなんだろう」と。
 不幸のドン底だと思っていたのに、そう考えたことさえ、嘘だったように。
(ホントに、幸せ過ぎちゃうくらいで…)
 前のぼくには、夢のまた夢、と白いシャングリラを思い出す。
 白い箱舟で生きた頃には、あれでも充分、幸せだった。
 明日の朝が来る保証など無い、降りる地面さえ持たない白い箱舟でも。
 それでもミュウの楽園だったし、「シャングリラ」の名に相応しかった。
 船の中では、人らしく生きてゆけたから。
 人体実験をされることもなく、きちんと三度の食事も出来て。


(あの頃の、ぼくに比べたら…)
 本当に幸せ過ぎる暮らしを、今の自分は送っている。
 毎日、毎日、当然のように。
 それが特別幸せなのだと、こうして気付くことさえせずに。
(…うんと幸せで、ちゃんとハーレイだっているのに…)
 不幸のドン底だと嘆くだなんて、前の自分が耳にしたなら、きっと叱られることだろう。
 「メギドで死んだ時の自分」でなくても、赤い瞳でキッと見据えて。
 「今の自分を、よく見たまえ」と、「何処が不幸だと言うんだい?」と。
(……うーん……)
 もう間違いなく叱られるよ、と首を竦めた。
 前の自分が此処にいたなら、お説教を食らうことだろう。
 「君が不幸だと言うんだったら、ぼくと代わってやってもいい」と。
 そうすれば毎日、必ずハーレイに会えるわけだし、幸せに暮らしてゆけるだろう、と。
(ハーレイと本物の恋人同士にも、なれるんだけど…)
 今の幸せは、全て消し飛ぶ。
 明日の朝が来るとは限らない日々、おまけに青い地球だって「無い」。
 母が焼いてくれるかもしれない、朝御飯のホットケーキも、全部。
(パパとママがいる家も無くなっちゃって、学校も無くて…)
 これから先にある筈の未来、それもすっかり消え失せてしまう。
 結婚出来る年になったら、ハーレイと結婚することも。
 同じ家で暮らしてゆける未来も、二人であちこち旅をすることも。
(それじゃ困るよ、そんなの、絶対、嫌なんだから…!)
 だけど、ホントに言われちゃいそう、と前の自分を思い浮かべる。
 仲間たちには優しかった前の自分だけれども、自分自身には厳しかった。
 そう、命さえも、投げ出したほどに。
 ハーレイの温もりだけを握って、一人きりでメギドへ飛び去ったほどに。
 「ソルジャー・ブルー」と同じ魂を持っているのに、今の自分は、どうだろう。
 叱られてしまいそうなくらいに、うんと我儘で、贅沢で…。


(きっと、幸せ過ぎちゃうと…)
 それに慣れちゃって、忘れちゃうんだよね、と軽く叩いた自分の頬っぺた。
 「もっと、しっかりしなくっちゃ」と。
 不幸だなどと嘆いていないで、今の幸せを噛み締めて。
 前の自分と比べてみたなら、自分は、うんと幸せだから。
 幸せ過ぎると言えるくらいに、幸せが当たり前なのだから…。

 

          幸せ過ぎちゃうと・了


※ハーレイ先生に会えなくて、不幸のドン底だったブルー君。でも、考えたら幸せな今。
 幸せ過ぎるくらいに幸せ過ぎて、それを忘れてしまうほど幸せな日々。それこそが幸せv












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(この一杯が幸せなんだよなあ…)
 酒じゃなくってコーヒーなんだが、とハーレイが唇に浮かべた笑み。
 ブルーの家には寄れなかった日、夜の書斎で。
 愛用のマグカップにたっぷりと淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
 酒も好きだし、夜に飲むなら酒でも構わないけれど…。
(こう、丁寧に淹れたコーヒーってのも…)
 うんと幸せになれるモンだ、とカップの中身を傾ける。
 絶妙な苦みで、そのくせ、薬などの苦さとは違うコーヒーの深い味わい。
 豆から挽いたら、コーヒー豆の癖まで、更に引き立つ。
(産地によって違うってのが、また素晴らしいんだ)
 飲んで産地を当てられるほどではないのだけれども、「違う」というのは分かるもの。
 だからこそ、こうして幸せな時間を持つことが出来る。
 「ブルーの家には、行きそびれたな」と、少しガッカリした日でも。
 長引いてしまった会議を恨んで、遅い時間に学校を出るしかなかった日でも。
(晩飯を作って、のんびりと食って…)
 それから皿などを洗って片付け、おもむろにコーヒー豆を取り出す。
 「今日は豆から挽いてみるか」と、「時間はたっぷりあるんだからな」と。
 ブルーの家に寄って帰って来た日は、そこまでこだわったりしない。
 大抵、次の日も仕事があるから、コーヒーを淹れるにも、まずは手早く。
(挽いてある豆を使うなんぞは、序の口で…)
 インスタントのコーヒーなんかも、実は充分、役立っている。
 なにしろ、いくらコーヒー党でも…。
(…学校でコーヒーを飲むとなったら…)
 ゆっくり淹れている時間は無いから、当然、インスタントの出番。
 誰かが淹れてくれるにしたって、せいぜい好みを聞かれる程度。
 「ハーレイ先生は、濃いめでしたっけ?」だとか、「ブラックですか?」だとか。
 それに関しても、本当の所は、さほど好みは無かったりする。
 「これでなければ」という、こだわりは。
 コーヒーは濃いのが一番だとか、砂糖は絶対、入れない、などは。


 その点について、特に不思議には思わなかった。
 食べ物に好き嫌いが無いのと同じで、嗜好品だってそうなのだろう、と。
 けれど、今なら腑に落ちる。
 「コーヒーってだけで、充分なんだ」と。
 本物のコーヒー豆から作った、正真正銘、本物の味。
 それが最高の贅沢なのだと、遠く遥かな時の彼方で、前の自分が知っていた。
 白い鯨になった船では、もう「本物」は無かったから。
 コーヒーと言ったらキャロブのコーヒー、イナゴ豆で作った代用品。
(あれも不味くはなかったんだが…)
 本物の味を知った舌には、やはり何処かが違ったもの。
 キャロブはキャロブで、コーヒー豆とは違うから。
 所詮は身代わり、代用品に過ぎないのだから。
(多分、そいつを覚えていたんだ)
 今の俺もな、と可笑しくなる。
 ブルーに出会って、記憶が戻って、様々なピースが嵌まり始めた。
 「俺の好みだ」と思っていた色々なことが、時の彼方に根っこを持っていたりする。
 好き嫌いが無いのも、インスタントのコーヒーでも全く気にしないのも。
(…でもって、今では…)
 白い鯨の頃とは違って、たった一杯のコーヒーにまでも、こだわれる暮らし。
 「こだわりたい」と思いさえすれば。
 豆から選んで、そう、その先の淹れ方にまで。
(濃いめか、薄めか、ってだけじゃなくって…)
 その気になったら、エスプレッソも淹れられる。
 「家で淹れるぞ」と、専用のコーヒーメーカーを買ったなら。
 コーヒーにミルクを足すのも自由で、そのミルクだって泡立てられる。
 そう、いくらでもバラエティー豊かに、自分の家で楽しめるのが今のコーヒー。
 前の自分が生きた頃には、まるで想像も出来なかった日々。
 青い地球まで辿り着かねば、ミュウに、シャングリラに未来は無かったから。
 本物のコーヒーの味わいどころか、生きる自由さえ持たなかったから。


(そいつを思えば、今の俺は、だ…)
 うんと幸せ過ぎるんだよな、と改めて思う。
 普段は意識してさえもいない、ごく平凡な教師の暮らし。
 それが「途方もない幸せ」なのだと、幸せ過ぎるというものだ、と。
(…前の俺だと、この時間には…)
 どうだったかな、と壁の時計に目を遣った。
 白いシャングリラで暮らした頃には、何をしていた時間だろうか、と。
(……ふうむ……)
 多分、航宙日誌だろうな、と机の羽根ペンに目を留めた。
 「前の俺なら、こいつで日誌を書いてたんだ」と。
 ブルーに貰った、白い羽根ペン。
 誕生日のプレゼントに、と今のブルーがこだわった。
 百貨店まで探しに出掛けて、其処で白いのを見付けて来て。
 時の彼方のキャプテン・ハーレイが使っていたのも、白かったから、と。
(しかし、あいつの小遣いで買うには…)
 羽根ペンの値段は高すぎたから、諦めざるを得なかったブルー。
 とても小遣いでは買えない値段で、けれど貯金は使えないし、と。
(…そこまで高価なプレゼントなんぞ…)
 「ハーレイは喜びはしないだろう」と、小さなブルーは考えた。
 それでも羽根ペンを諦め切れずに、すっかり元気を失くしてしまって…。
(俺が心配になって訊いたら、悩みは羽根ペンだったんだよなあ…)
 だからブルーに提案した。
 「俺とお前と、二人で買おう」と。
 大部分は自分が支払うけれども、ブルーも「無理のない分だけ、負担する」形にして。
(…俺が自分で買いに行ったが、ちゃんとブルーに箱を渡して…)
 誕生日の日に、ブルーの手からプレゼントされて、受け取った。
 前の自分が使っていたのと、同じ色をした羽根ペンを。
 航宙日誌を書くためにあるのではなくて、好きなことを書いていい羽根ペン。
 今の自分は、航宙日誌を書かないから。
 きちんと記録を残さなくても、誰も困りはしないのだから。


 本物のコーヒーを好きなだけ飲めて、好きな淹れ方が出来る今。
 白い羽根ペンを持っていたって、航宙日誌は要らない時代。
 なんと幸せな時代だろうか、と書斎の中を見回してみる。
 ずらりと並んだ本にしたって、どれも生死が懸かってはいない。
 キャプテン・ハーレイが暮らした部屋には、そういう本が幾つもあったのに。
(…パイロットの免許は、持っていなかったが…)
 無免許運転だったけれども、シャングリラの操舵には自信があった。
 「俺でなければ、乗り切れないぞ」と、あの船で、何度、思ったことか。
(…マードック大佐の船に追われて、三連恒星の重力干渉点から…)
 ワープして追跡を振り切った時やら、アルテメシアを脱出した時のワープやら。
(重力圏からの亜空間ジャンプなんぞは…)
 文字通り、前例の無いことだったけれど、前の自分はやり切った。
 そうしないと船が沈むから。
 白いシャングリラが沈められたら、全員が死んでしまうのだから。
(…やってやれないことはない、と…)
 前の自分が下した判断、その後ろには、本で学んだ知識が鏤められていた。
 「船長として、学んでおかないと」と、懸命に読んだ、航宙学の専門書たち。
 人間が宇宙で学んだ全てが、其処に詰まっているのだから。
 一つ間違えたら命を失う、過酷な場所が宇宙空間。
 其処で「死なずに生き延びる」方法、そのためのヒントが本には山ほど。
(…お蔭で、あの船を、無事に地球まで…)
 運んで行けたのが前の自分で、その責任は重かった。
 今の時分の書斎と違って、好みだけでは揃えられなかった本。
 それを思えば、この書斎だって、贅沢過ぎる空間だろう。
(…そりゃあ、教師には必須の本ってヤツも…)
 一緒に並べてはあるのだけれども、殆どは趣味で集めた本たち。
 前の自分には許されなかった、「好きな本だけ集める」こと。
 こうも違うか、と驚嘆させられてしまう。
 「こんなに幸せ過ぎていいのか」と、「ちょっと幸せ過ぎないか?」と。


(……うーむ……)
 今の時代は当たり前になった、「ミュウが幸せに生きてゆく」こと。
 人間が一人残らずミュウになった今は、前の自分の時代とは違う。
 戦いも世界から消えてしまって、穏やかな日々が流れてゆく。
 誰もが「今」を満喫しながら、幸せに生きてゆく世界。
(…今の俺には、そいつが普通で、当たり前の暮らしなんだがな…)
 ちょっとばかり不安になるってモンだ、と自分の頬を軽く抓ってみる。
 「夢じゃないよな」と、「俺は本当に、そういう世界にいるんだよな」と。
(よし、こう抓ったら、痛いから…)
 間違いなく現実なのだけれども、こうして「ちょっぴり不安になる」のは…。
(…前の俺が生きた頃の記憶が、俺の中に戻って来たモンだから…)
 比べちまって、夢じゃないかと思うんだよな、と苦笑する。
 「どうも貧乏性らしい」と。
 幸せ過ぎると、不安になってしまうから。
 その分、余計に「幸せ」を実感出来るわけだし、お得なのかも知れないけれど。
 人間が全てミュウな今では、幸せで当たり前だから。
 当たり前の日々を「幸せ過ぎる」と思う人など、きっと、そうそういないのだから…。

 

           幸せ過ぎると・了


※今のハーレイには当たり前の日々、それが前のハーレイには「幸せ過ぎる」という現実。
 ちょっぴり不安になってしまうくらいに、今は幸せが普通なのです。幸せですよねv













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「ねえ、ハーレイ…」
 ちょっと相談なんだけど、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「相談だって?」
 もう、その手には乗らないぞ、とハーレイは顔を顰めた。
 今までに何度、これでブルーにやられたことか。
(真面目に相談に乗ってやったのに、こいつときたら…)
 ろくなことを考えていないんだしな、と軽くブルーを睨む。
 「そういう意味では、立派な悪戯小僧だ」と。
 けれどブルーは、全く気にも留めない様子で繰り返した。
 「違うよ、ホントに大事な相談事なんだから」と。


 あのね、と椅子に座り直したブルー。
 「悔しいことがあるんだけれど…」と、赤い瞳を瞬かせて。
「はあ?」
 それが相談事なのか、とハーレイは目を丸くした。
 小さなブルーが悔しがるようなことと言ったら…。
(どうせ背丈が足りないだとか、伸びないだとか…)
 そんなトコだな、と弾き出した頭。
 「この相談は躱すに限る」と、「いつものパターンだ」と。
 だからブルーをジロリと睨んで、腕組みをした。
「あのなあ…。お前、もう少し学習したらどうなんだ」
「学習って?」
 勉強の悩みじゃないんだよ、とブルーは唇を尖らせた。
 「ハーレイ、真面目に聞いているの?」と、不満そうに。
「聞いているとも、だからこそ、学習しろと言うんだ」
 日頃の失敗から学べ、と突き放す。
 「お前の相談は、いつもそうだ」と、「俺は学んだ」と。


 毎度バカバカしくなる、小さなブルーの相談事。
 やってられるか、とハーレイは鼻を鳴らしたけれど…。
「そう言うんだったら、なおのことだよ!」
 学習とは少し違うけれど、とブルーは食い下がった。
 「悔しいことがあった時って、どうすべきなの?」と。
(なんだって…?)
 どうも普段と違うようだな、と首を捻ったハーレイ。
 ブルーお得意の「ぼくにキスして」に持ち込むアレとは…。
(違うんじゃないか?)
 だったら、話を聞いてやらねばならないだろう。
 悔しいことがあると言うなら、しっかり相談に乗って…。
(解決策を示してやるのが、大人ってモンだ)
 おまけに、俺は教師だからな、と頷いた。
 更にはブルーの守り役なのだし、頼られる立場。
 聞き流さないで、きちんと相手をしなければ、と。


「分かった、聞いてやろうじゃないか。それで…?」
 お前の考えはどうなんだ、と水を向けてやった。
 ブルーが自分で解決出来たら、それが一番なのだから。
「えっとね…。ホントに、うんと悔しいんだけど…」
 悔しがってるだけじゃダメだよね、とブルーは答えた。
 「悔しさをバネにしなくっちゃ」と。
 「でないと、成長できないと思う」と、真剣な顔で。
「ほほう…。流石はソルジャー・ブルーだな」
 前のお前もそうだった、と、ハーレイの頬に浮かんだ笑み。
 「とうに答えは出てるじゃないか」と、「それでいい」と。
 そのまま真っ直ぐ進んで行けと、「お前は正しい」と。
 そうしたら…。


「ありがとう! それじゃ、成長したいから…」
 ぼくにキスして、とブルーは顔を輝かせた。
 「ハーレイからキスを勝ち取るのだって、成長だよ」と。
 「悔しがってるだけじゃダメだし、バネにしなくちゃ」と。
(…そう来やがったか…!)
 今日のパターンは変則だった、とハーレイが軽く握った拳。
 ブルーの頭に、コツンとお見舞いするために。
「馬鹿野郎!」
 そんな成長はしなくていい、と銀色の頭に拳を落とす。
 「相談に乗った俺が馬鹿だった」と。
 「一人で勝手に悔しがってろ」と、「俺は知らん」と…。




         悔しいんだけど・了











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