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(生憎、俺には、いないんだよな…)
 兄弟ってヤツが、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(まあ、ブルーにも、いないんだから…)
 そう珍しいことでもないんだが、と分かってはいる。
 兄弟のいる人間も多いけれども、一人っ子も少なくないことは。
(…しかしだな…)
 ちょっぴり惜しい気もするんだよな、と少し残念ではある。
 せっかく青い地球の上に生まれ変わって、新しい人生を謳歌しているのだから、と。
(…前の俺だった頃も、やはり兄弟は、いなかったんだが…)
 兄弟がいたヤツもいるんだ、と今も覚えている、ゼルのこと。
 ゼルと同じにミュウと判断され、研究施設に押し込められていた、弟のハンス。
 脱出する直前まで一緒だったのに、最後の最後で、引き離されてしまった悲劇の兄弟。
(……前の俺たちは、あまりにも何も知らなさすぎて……)
 離陸する時は必ず宇宙船の扉を閉める、という大原則さえ知らなかった。
 そのせいでハンスは、開いたままだった扉から外へと放り出されて…。
(…ゼルが掴んだ手にも、ハンスを引き上げるほどの力は…)
 無かったから、ハンスは落ちてゆくしかなかった。
 炎の地獄と化したアルタミラへ、「兄さん!」と悲鳴だけを残して。
(…兄弟ってヤツは、あいつらだけかと思っていたが…)
 アルテメシアに辿り着いた後、なんと双子がやって来た。
 男女の双子だった、マヒルとヨギ。
(どういう機械の気まぐれなんだか…)
 人工子宮で子供を育てた時代なのにな、と思うけれども、二組も知っていた兄弟。
 今の時代は、子供は全て、母親から生まれて来るのだから…。
(…あの時代よりも、ずっと兄弟ってヤツが多くてだな…)
 珍しくなくなった時代なのだし、兄弟がいれば、と思ってしまう。
 もっと毎日が楽しかったかも、などと、無いもの強請りというヤツで。


 とはいえ、本当に兄弟がいたら、厄介な面もあっただろうか。
 子供時代は、おもちゃや、菓子の取り合いで喧嘩。
 少し育っても、悪さをしたなら、親にコッソリ告げ口されて…。
(おふくろと親父に、うんと叱られて…)
 夕飯の席で、自分の好物が減らされていて、告げ口をした兄弟の皿には大盛り。
 如何にもありそうな話ではある。
(…その辺の時代を無事に通り越して、大人になったら…)
 喧嘩や告げ口は消えてしまって、仲良くなれそうなのだけれども、今が問題。
 そう、去年までなら、いや、今年の五月三日になる前までならば…。
(何の問題も無かったんだが、今ではなあ…)
 俺の中身が、増えてしまったモンだから、と顎に当てた手。
 「今では、俺はキャプテン・ハーレイなんだ」と。
 若い頃から「生まれ変わりか?」と言われるくらいに、似ていた遠い昔の英雄。
 兄弟がいたなら、何度も話題になっていたろう。
 「お前、本当に、キャプテン・ハーレイじゃないのか?」と。
 それらしき記憶は残っていないか、何か覚えていないのか、などと。
(思い出す前なら、他人の空似で、赤の他人だ、って言えたんだがなあ…)
 今じゃ、そういうわけにもいかん、と苦笑する。
 本当にキャプテン・ハーレイなのだし、「赤の他人だ」というのは嘘。
 けれど、兄弟にも明かせはしない。
 明かしたならば、ブルーを巻き込んでしまうから。
(…いつかブルーが、「ぼくも、ホントのことを言うよ」と言うなら…)
 二人一緒に、前の生での記憶を明かして、生まれ変わりだと発表するかもしれない。
 全宇宙から注目を浴びて、大変なことになりそうだけれど。
 「それでもいいよ」とブルーが言うなら、反対はしない。
 けれども、そんな日が来ないなら…。
(…俺の正体は、兄弟にだって言えやしないんだ…)
 今度はブルーと生きてゆくのだし、好奇心に満ちた瞳を、ブルーに向けられたくはない。
 いくら兄弟でも、血の繋がった者であっても。


 そう考えると、兄弟は「いなくて良かった」のだろう。
 青い地球の上に生まれて来る時、神は、其処まで考慮したのだと思う。
 将来、困らないように。
 兄弟にも言えない秘密を抱えて、生きてゆかなくてもいいように。
(…親父とおふくろにも秘密なんだが、そっちはなあ…?)
 親にも言えない秘密は誰にだってあるさ、と思うものだから、気にはならない。
 兄弟に隠し事をし続けるよりは、遥かに楽な人生だろう。
(だから、これはこれでいいんだが…)
 欲しかった気もするんだよな、と思考が最初へ戻ってゆく。
 「ブルーのこととか、そういうのは抜きで」と、「いいトコ取りというヤツで」と。
 うんと都合のいい、困ることなどない兄弟。
 それがいたなら、もっと世の中、楽しめたのに、と。
(…しかし、そういう無茶な注文…)
 通りはしないし、絶対に無理。
 「一日だけでも」などというのは、もっと無茶。
(…楽しそうだと思うんだがなあ…)
 一日だけ、兄弟が出来ないモンかな、と考えた所で、閃いた。
 「前の俺だ」と。
 奇跡が起こって、たった一日だけ、兄弟が出来るというのなら…。
(血は繋がってないし、本物じゃないが…)
 前の俺と兄弟というのがいいな、と大きく頷く。
 「それなら気心も知れてるんだし」と、「お互い、知らない仲じゃないしな」と。
(…まず、名乗らないといけないだろうが…)
 前の俺と出会って、兄弟のように過ごせたら、と浮かんだ考え。
 「こいつは素敵だ」と、「なんとも楽しそうじゃないか」と。
 一日だけ、神が兄弟をくれると言うなら、前の自分を頼んでみたい。
 「本物の兄弟とは違うのですが」と、「そっくりですから、兄弟に見えると思います」と。
 そうして前の自分と出会って、兄弟のように仲良く過ごす。
 たった一日だけでいいから、この地球で。
 平和になった今の時代を、前の自分と満喫して。


(…うん、なかなかに…)
 いい感じだぞ、と想像の翼を羽ばたかせる。
 兄弟のように過ごせそうだと、きっと楽しい一日になる、と。
(瓜二つなんだし、双子ってトコだな)
 俺と、前の俺、とコーヒーのカップを傾けた。
 前の自分と出会えたならば、「俺は、未来のお前なんだ」と、自己紹介。
 「今日だけ、兄弟ってことになっているから、仲良くやろう」と。
(最初はビックリされるんだろうが…)
 前の俺だって、俺なんだから、じきに慣れるさ、と自信はある。
 「いつまでも驚いてる暇があったら、頭を切り替えて、前進だよな」と。
(前の俺やブルーが、どうなったのかは、話せやしないが…)
 いくら兄弟でも言えやしない、と伏せるしかない、前の自分とブルーの生涯。
 「色々あったが、青い地球に生まれ変われたってわけだ」と、いい面だけを話しておこう。
 「ブルーもいるぞ」と、「すっかりチビになっちまったが」と。
(…きっと、ブルーにも会いたがるんだろうが…)
 そっちに費やす時間は無いな、と傾けるカップ。
 「前の俺をブルーに盗られちまうし」と、「それじゃ、つまらん」と。
(神様だって、そういうコースはお望みじゃないさ)
 俺に兄弟を下さったんだし、俺が楽しむべきなんだ、と考える。
 「ブルーに会わせる時間があったら、その分を有効に使わないとな?」と。
 前の自分と過ごすのならば、まず一番に、何をしようか。
 自己紹介が済んだ後には、コーヒーを振る舞うべきなのだろうか。
(…なんと言っても、正真正銘、本物のコーヒー豆のヤツで、だ…)
 代用品のコーヒーなんかじゃないぞ、とカップの中身を眺めて笑む。
 「前の俺だと、シャングリラじゃ、キャロブのコーヒーだった」と。
 青い地球に「前の自分」がやって来たなら、地球で採れたコーヒーを淹れるのがいい。
 「こいつは本物のコーヒーなんだ」と、「今じゃ地球でも、コーヒー豆が採れるんだぞ」と。
(喜ぶだろうな、地球のコーヒー…)
 目に浮かぶようだ、と思う前の自分の感激ぶり。
 「美味い」と、顔を綻ばせて。
 「やっぱり本物は、うんと美味いな」と、「その上、地球のコーヒーなのか」と。


 コーヒーの後は、和食を披露してみたい。
 「俺は地球に来て腕を上げたぞ」と、「今じゃ、こういう料理があるんだ」と。
(でもって、家で軽く食ってだな…)
 それから街に繰り出すのもいい。
 遠い所で暮らす兄弟、それが故郷に帰省して来た時みたいに。
 「どうだ、あちこち変わっただろう?」とか、「此処は昔と変わらんな」と案内するように。
(前の俺だと、全く知らない街になるんだが…)
 其処の所は、ご愛敬。
 公園もいいし、繁華街だって楽しめるだろう。
(合間に、喫茶店にも入って…)
 メニューを広げて、「どれにする?」と、もちろん、自分の奢り。
 前の自分が恐縮したって、兄弟なんて、そんなものだろう。
 「いいから、今日は俺が奢る」と、「久しぶりだし、好きなだけ食えよ」と。
(晩飯だって、気に入りの店に連れてって…)
 「これが美味いぞ」とか、「この酒がいい」とか、さながら「兄貴」。
 本当は、どちらが兄になるのか、自分でも分からないけれど。
 「その身体で生きた年数」だったら、前の自分の方が当然、「兄」なのだけれど。
(…そういうことでも、その土地に詳しい方がだな…)
 「俺に任せろ」は、ごくごく自然な流れ。
 だから気分は「兄貴」なわけで、前の自分に世話を焼く。
 「青い地球を、うんと楽しんでくれ」と。
 「せっかくだから、今夜は二人で飲み明かそう」と。
(…いいよな、久しぶりに会った兄弟みたいで…)
 そんな具合に、前の俺と過ごせたらいいな、と広がる夢。
 「兄弟のように、青い地球で」と。
 自分に兄弟はいないけれども、神様がプレゼントしてくれるなら。
 たった一日、兄弟をくれると言うのだったら、「前の俺がいい」と…。



            兄弟のように・了


※兄弟がいたら楽しいのにな、と考え始めたハーレイ先生。たった一日だけでいいから、と。
 そして思い付いたのが、前の自分と兄弟のように過ごすこと。楽しそうですよねv









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「ねえ、ハーレイって…」
 臆病だよね、と小さなブルーが恋人にぶつけた言葉。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に何の前触れも無く。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
(臆病だって?)
 この俺がか、とハーレイは鳶色の瞳を見開いた。
 言われた言葉が、あまりにも信じられなくて。
 「臆病だよね」などと指摘されても、心当たりは全く無い。
 自分の場合は、どちらかと言えば…。
(…臆病じゃなくて、豪胆ってヤツで…)
 ブルーも知ってる筈なんだが、と解せないブルーの言葉。
 何処からそういうことになるのか、何故、言われたのか。
(……嫌な予感しかしないんだがな……)
 こいつに直接、訊くしかないか、とハーレイは腹を括った。
 聞こえなかったふりをしたって、無駄だろうから。

 案の定、じっとこちらを見ているブルー。
 恋人が何と返して来るのか、待ち構えていると分かる表情。
 ハーレイは大きく息を吸い込み、赤い瞳を見詰めて尋ねた。
「お前なあ…。臆病って、誰が臆病なんだ?」
「誰って、ちゃんと言ったじゃない!」
 ハーレイがだよ、とブルーの答えに迷いは無い。
 恋人の視線を真っ直ぐ捉えて、瞳を逸らそうともしない。
 自信満々といった姿勢で、ブルーは再び口を開いた。
「ハーレイ、ホントに憶病だもの。…そう思わない?」
 それとも自分じゃ分からないかな、とブルーは首を傾げる。
 「自分じゃ強いと思ってるかも」と、「ありがちだよ」と。
「おいおいおい…。お前、本気で言ってるのか?」
 俺が臆病なヤツだなんて、とハーレイが指差す自分の顔。
 「いったい、何処が臆病なんだ」と、「逆だろうが」と。
 けれどブルーは、「ううん」と首を左右に振った。
 「そう言ってるけど、臆病だよ」と。
 「ホントは夜道も怖いかもね」と、「お化けが出るし」と。

(…お化けが出るから、夜道が怖い、と…?)
 だったら、此処にも通えないぞ、とハーレイは呆れた。
 ブルーの家を訪ねた時には、いつも夕食を御馳走になる。
 それから帰ってゆくわけだから、帰りは、当然…。
(夜道になってしまうんだが…!)
 いくら車で帰るとはいえ、夜道は夜道。
 お化けは車を避けないだろうし、出る時は出て来るだろう。
 道の真ん中に立ち塞がったり、上から落ちて来たりして。
(しかし俺はだ、いつも夜道を帰って行って…)
 怖いと言ったことなど無いが、とブルーをまじまじと見る。
 「何を考えてるのか、サッパリ分からん」と。
 なのにブルーは、畳み掛けるように、こう言った。
「どう考えても、臆病だとしか思えないけど?」
 絶対、ぼくにキスしないもの、と勝ち誇った顔で。
 「キスして、歯止めが利かなくなるのが怖いんでしょ」と。
 「だから怖くてキスしないんだよ」と、「臆病だから」と。

(そう来たか…!)
 とんでもないことを言いやがって、とハーレイは頭が痛い。
 確かに、当たっていないこともないのが、ブルーの台詞。
(うっかり唇にキスしちまったら…)
 止まらなくなってしまいそうだ、と恐れていることは事実。
 そうならないよう作った決まりが、「キスはしない」こと。
 チビのブルーが、前のブルーと同じ背丈に育つまで。
 キスだけで止まらなくなってしまっても、大丈夫なように。
(…当たってはいるが、不本意すぎるぞ…!)
 臆病はともかく、夜道の方は…、と嘆いた途端に閃いた。
 「これだ」と、素晴らしいが反論が。
 勝った気でいるチビのブルーを、ペシャンコにする方法が。

(よし…!)
 やるぞ、とハーレイは、「困った表情」を浮かべてみせた。
「…降参だ。隠してたんだが、バレちまったか…」
 するとブルーの顔が輝き、「じゃあね…」と微笑む。
「臆病だなんて、柔道部員にバレたら困るでしょ?」
 キスの代わりにデートでいいよ、と出された条件。
 「それで黙っておいてあげる」と、ドライブでもいい、と。
(やっぱり、そういう魂胆か…!)
 そうはいかん、とハーレイは、ゆったり腕組みをした。
「いや、俺は臆病者だから…。バレたからには…」
 もういいよな、とニヤニヤと笑う。
 「実は、夜道が怖いんだ」と。
 「晩飯を食ってから、夜道を帰るのは怖すぎてな」と。
「えっ、ちょっと…!」
 待って、とブルーは真っ青だけれど、知らんぷり。
 「これからは、外が明るい間に帰らせて貰うぞ」」と。
 「仕事の帰りも寄らないから」と、「暗くなるしな」と…。



         臆病だよね・了







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(きっと、ぼくたちしかいないんだよね…)
 今の世界には、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 今日は会えずに終わったハーレイ。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた人だけれども…。
(ハーレイには、ちゃんと会えたんだけど…)
 それだけだよね、と白いシャングリラで共に生きた仲間の顔ぶれを思う。
 彼らは、きっと何処にもいない、と。
 もしも彼らがいるのだったら、とっくに会えていそうだから。
(……ぼくの聖痕……)
 現れた時は酷い痛みで気絶したけれど、お蔭で戻った前の生の記憶。
 ハーレイの記憶も戻ったのだし、他の仲間が何処かにいるなら、彼らの記憶も戻っただろう。
 なにしろ神が起こした奇跡で、今の自分を青い地球にまで連れて来たほど。
 時の彼方で離れてしまった、ハーレイも先に生まれ変わらせて。
 ちゃんと二人が会えるようにと、出会いの場所まで設けてくれて。
(それほど凄い神様だから…)
 他の者たちがいるというなら、会わせてくれないわけがない。
 彼らの記憶も蘇らせて、他の星に住んでいるのだったら、地球に向かわせて。
(神様だったら、そのくらいは簡単…)
 記憶が戻って来たのだったら、彼らは地球を目指すだろう。
 前の生では死の星だった、母なる地球。
 それが今では青い星になり、誰でも自由に行くことが出来る。
 人間が全てミュウになった今は、とても平和な時代だから。
 「地球へ行こう」と思いさえすれば、宇宙船の切符を買うだけでいい。
(…絶対、行きたくなるだろうから…)
 後は地球に着いた彼らを、この町へ誘導してくるだけ。
 「ブルー」か「ハーレイ」に、バッタリ出会えるように。
 この町へ行きたい気分になった彼らを、「次の角を、右へ」といった具合に移動させて。


 神の手ならば、いとも容易く出来そうなこと。
 記憶が戻った懐かしい仲間を、この町へ連れて来るということ。
(…一人、そうやって連れて来たなら…)
 他の者たちも、続々と姿を現しそうな気がする。
 最初に来たのがヒルマンだったら、旅の途中で、宙港でゼルに出会うとか。
 そのゼルが「この前、エラに会ったぞ」といった具合に、どんどん縁が繋がって。
(……アッという間に、揃っちゃいそう……)
 シャングリラにいた仲間たちが、と思うからこそ、「誰もいない」と思いもする。
 誰一人として、来てはくれないから。
 ハーレイも自分も、未だに誰とも会えていないから。
(…ちょっと残念…)
 独りぼっちじゃないからいいんだけれど、とハーレイの顔を思い浮かべる。
 前の生の最期に切れたと思った、ハーレイとの絆は、ちゃんと繋がっていた。
 青い地球の上で再び出会えて、今度こそ一緒に生きてゆける。
 チビの自分が、結婚出来る年になったなら。
 誰にも恋を隠すことなく、二人で結婚指輪を嵌めて。
(だから充分、幸せだけど…)
 他のみんなにも会いたかったな、と贅沢なことを思ってしまう。
 せっかく青い地球があるのに、他のみんなはいないだなんて、と。
(…みんなに会えたら…)
 同窓会が出来るのにな、と懐かしくなる仲間たち。
 白いシャングリラで目指した地球で、同窓会が出来たなら、と。
(あちこちの星から、みんなが、この町にやって来て…)
 何処かのホテルの宴会場とかで、それは賑やかな同窓会。
 あの時代には無かった料理やお菓子を、会場にドッサリ用意して。
 「これも食べてみてよ」と、日本の文化を復活させている、この地域の名物料理も出して。
(…今の時代だから、みんな知ってはいるだろうけど…)
 実際には食べたことが無い、という料理だって多いだろう。
 宇宙は広くて、文化も山ほどあるものだから。
 SD体制があった時代とは、まるで違った世界だから。


(ぼくは、お酒は飲めないんだけど…)
 ハーレイたちは、地球の銘酒をズラリと並べて楽しんでいそう。
 「ブルーは子供だから、飲んじゃ駄目だぞ」と、飲まないように目を光らせながら。
(…だけど、みんなが楽しいのなら…)
 ぼくはジュースで構わないや、と文句を言う気は全く無い。
 あちこちで「乾杯!」とやっていたって、ジュースを飲んでいればいいや、と。
(…そういえば、ゼルやヒルマンとかは…)
 前と同じに、すっかり年を取ってるのかな、と別の方へと向かった思考。
 若い姿の頃の彼らも、前の自分は知っているけれど…。
(…生まれ変わって来ていたって…)
 なんだか、年を取っていそう、と確信に満ちた思いがある。
 今のハーレイがそうだったように、「前の姿」が気に入っていて。
 記憶が戻っていない頃から、順調に年を重ね続けて。
(ゼルは禿げちゃって、ヒルマンも髭まで真っ白で…)
 それでも二人は、満足なのに違いない。
 「うんと貫禄があるじゃろうが」と、ゼルなんかは髭を引っ張って。
 ヒルマンだって、「お爺ちゃんらしくて、いいと思わないかね?」などと。
(……お爺ちゃん……)
 そうだ、とハタと手を打った。
 今の時代なら、ゼルもヒルマンも、本物の「おじいちゃん」になれる筈。
 若かった頃に結婚したなら、息子や娘が生まれたならば…。
(その子供たちが大きく育って、結婚して…)
 孫が生まれて、正真正銘、「おじいちゃん」。
 同窓会を開いたならば、そういうゼルやヒルマンが来て…。
(可愛いだろう、って…)
 自慢の孫の写真を見せて回るのだろうか、他の仲間に。
 「まだ幼稚園に行ってるんじゃが、利口な子でのう…」なんて。
(…女の子だったら、美人じゃろう、って…)
 自慢するよね、と可笑しくなる。
 きっとゼルなら、「どうじゃ、わしに似て美人じゃろうが」とやるだろうから。


(…ゼルに似てたら、とても大変…)
 女の子だよ、と思うけれども、「おじいちゃん」というのは、そんなもの。
 可愛い孫を自慢したくて、間違った方向へ突っ走ったり。
(ブラウとかが、「馬鹿じゃないのかい?」って笑うんだよ)
 「あんたに似てたら、美人どころじゃないだろう?」などと、遠慮なく。
 ヒルマンだって、「そうだよ、似ていないからこそ、美人じゃないかね」と。
(…ふふっ、おじいちゃんになった、ゼルやヒルマン…)
 似合いそう、と微笑ましい光景を考えていたら、違う思考が降って来た。
 「誰かが、孫になっちゃってたら?」と。
(…ゼルやヒルマンの孫なんだけど…)
 前の生での記憶を持った、白いシャングリラの仲間たちの誰か。
 そういうことだって、あるかもしれない。
 神様の粋な計らいのお蔭で、ニナやシドやら、ヤエやルリなど。
(……うん、それだって……)
 素敵かもね、と笑みが零れる。
 同窓会の席にヒルマンやゼルが、「孫なんだぞ」と連れて来る彼ら。
 まだ幼稚園に通っている利口なシドとか、美人になりそうなルリだとか。
(みんな、ビックリ…)
 おじいちゃんと、お孫さんだってビックリだけど、と記憶が戻った時のことを考えてみる。
 ある日突然、お互い、戻って来た記憶。
 白いシャングリラで生きた時代に、機関長や先生だった「おじいちゃん」に…。
(…教え子だった、シドやルリだよ?)
 幼稚園児のシドなんかだと、いくら利口でも、戸惑うだろうか。
 「おじいちゃん」が誰か、思い出したら。
 前の自分が誰だったのかが、鮮やかに頭に蘇ったら。
(…おじいちゃんの方でも、ビックリ仰天…)
 可愛い孫をどう扱ったらいいのだろう、と。
 なにしろ、シドやルリなのだから。
 可愛い孫には違いなくても、お互い、遠い時の彼方で、別の出会いをしていたのだから。


(…同窓会には、絶対、連れて行ってよね、って…)
 駄々をこねられて、連れて来るのはいいのだけれども、困りそうな日常。
 おじいちゃんは強く出られないけれど、孫の方は遠慮しないから…。
(…前と同じで頑固で嫌い、って…)
 プイッとそっぽを向かれるだとか、ゼルの場合は、大いにありそう。
 ヒルマンだったら、上手くやれるだろうに。
(元々、子供たちの面倒を見てたし…)
 困ることなんて有り得ないよね、と頷いたけれど、どうだろう。
 「孫」になった子が「誰か」によっては、ヒルマンだって困るのだろうか。
(……えーっと…?)
 ジョミーだったら、と考えたけれど、困りそうには思えない。
 ソルジャー・シンが幼稚園児でも、少年くらいに育っていても…。
(ヒルマンだしね?)
 最初は驚いても、慣れてしまったら余裕たっぷり、いい「おじいちゃん」。
 お小遣いをあげたり、食事に連れて行ったりもして。
(前の君は、とても苦労をしたからね、って…)
 うんと甘くて、きっとジョミーが恐縮するほど、色々なことをしてあげそう。
 「同窓会で地球に行ったら、あちこち旅行してみるかね?」などと。
 同窓会が終わった後にも、青い地球に長く滞在して。
(…ヒルマンだもんね…)
 誰が「孫」でも、困らないよ、と思った所で、頭に浮かんだ別の顔。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分を撃った人間。
(……ヒルマンの孫、キースだったとか?)
 絶対、無いとは言えないよね、と気付いた「そのこと」。
 生まれ変わって記憶を取り戻すのは、ミュウだけだなんて限らない。
 人類だって、同じに生まれ変わっていそう。
 そして何処かで、前の生での記憶を持った知り合いと巡り会ったりもして。
(だから、キースが…)
 ヒルマンの孫でも変じゃないよね、と思い至った。
 今の平和な時代だったら、何の支障も無いのだから。


(…キースのおじいちゃんが、ヒルマン…)
 それって凄い、と見開いた瞳。
 いったい、どんな具合だろうかと、流石のヒルマンも困るだろうか、と。
(…孫なんだから、キースは、まだまだ子供で…)
 前のキースが水槽の中で過ごした年齢、そんな人生の真っ最中。
 幼稚園児ということだってあるし、前の時代なら目覚めの日にも届かない下の学校の子とか。
(十四歳になっていたって、今の時代じゃ、子供なんだし…)
 キースの方も、仰天するのに違いない。
 「どうなったんだ」と、「今の私は、子供なのか?」と。
 その上、「おじいちゃん!」と慕っている祖父が、なんとヒルマン。
 宿敵だったミュウの長老の一人で、もちろん「ソルジャー・ブルー」のことも…。
(よく知ってるから、困っちゃいそう…)
 前の「自分」が仕出かしたことを、なんと伝えたらいいのかと。
 「いっそ一生、黙っていようか」と、可哀想なくらいに悩んだりもして。
(…ヒルマンだって、キースなんだ、って分かるから…)
 突然、口数が少なくなった「孫」を心配することだろう。
 「何か悩みでもあるのかね?」と、優しく尋ねて、気分転換にと連れ出したりして。
(…やっぱり、ちょっぴり困るのかもね?)
 だけど、素敵なおじいちゃんだし、キースも幸せになれそうだよ、と嬉しくなる。
 ヒルマンの孫に生まれられたら、白いシャングリラの仲間たちにも馴染めそう、と。
(…ハーレイだって、キース嫌いが治るよね、きっと)
 そんな世界なら良かったのに、と夢を見るのが止まらない。
 「もしも、あの人がいたなら」と。
 白いシャングリラの仲間もそうだし、敵だった人類側の人間。
 キースやシロエや、それにマツカやグレイブたちにも、会ってみたいな、と…。



           あの人がいたなら・了


※シャングリラの仲間たちに会えたなら、という想像から、ブルー君が考え付いた「孫」。
 ヒルマンの孫がキースだったらビックリですけど、きっとキースには、いいおじいちゃんv








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(俺と…あいつしか、いないんだよな)
 どうやら今は、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
(あいつは、ちゃんといてくれたんだが…)
 すっかりチビになっちまっていても、と思うのは、今日は会いそびれた人のこと。
 遠く遥かな時の彼方で、前の自分が恋をした人。
 生まれ変わってまた巡り会えた、愛おしいブルー。
(…出会うまでに、うんと時間はかかっちまったが…)
 同じ町で暮らしていたのにな、と苦笑するけれど、それでもブルーには会えた。
 お互い、前の生での記憶も戻って、元の通りに。
(いや、元通りとはいかないんだが…)
 あいつがチビの子供の間は、と額を指でトントンと叩く。
 いくら互いに恋をしていても、今のブルーは十四歳にしかならない子供。
 「ぼくにキスして」と、いくら強請られても、それに応えることは出来ない。
 何故なら、ブルーは、まだ幼いから。
 ブルー自身が何と言おうと、その事実だけは変わらない。
(心も身体も、まるっきり子供なんだよなあ…)
 アルタミラで出会った頃と同じで、と前のブルーを思い出す。
 心も身体も成長を止めて、少年の姿をしていたブルー。
 「あの頃と、まるで変わりやしない」と。
 違う所があるとしたなら、前の生での記憶があること。
 お蔭でブルーは、自分ではすっかり大人のつもり。
 唇へのキスを強請るほど。
 「どうしてキスをしてくれないの」と、何度も膨れっ面になるほど。
(…そこで膨れっ面になるのが、だ…)
 子供の証拠というヤツなんだが、と可笑しいけれども、ブルーには分からないらしい。
 正真正銘、子供だから。
 大人なら分かる心の機微など、まるで分かっていないのだから。


 とはいえ、ブルーとは会うことが出来た。
 幼すぎるのが問題だけれど、それもいつかは解決する。
 チビのブルーが、前のブルーと同じ背丈に育ったら。
 背丈が伸びてゆくのと同じに、心も成長してくれたなら。
(そしたら本当に、元の通りに…)
 あいつと恋人同士になれる、と緩む頬。
 「今度は結婚出来るんだ」と。
 誰にも恋を隠すことなく、ブルーと同じ家で暮らせる。
 何処に行くにも二人一緒で、この青い地球や、広い宇宙の旅にも出掛けて。
(そうすることが出来る時代に、俺たちは生まれて来たんだが…)
 他のヤツらは、いないんだよな、と最初の所に戻った思考。
 「どうやら、俺たちだけらしいぞ」と。
(…根拠ってヤツは無いんだが…)
 どうも、そういう気がしてならない。
 蘇った青い地球でなくても、他の星にも、「誰もいない」と。
 前の生で長い長い時を共に暮らした、懐かしい仲間。
 ゼルもヒルマンも、エラもブラウたちも、今の世界にはいないのだろう、と。
(もしも、あいつらがいるんだったら…)
 出会えていそうな気がするんだ、とコーヒーのカップを指で弾いた。
 ブルーと自分が出会えたみたいに、彼らとも巡り会えたろう、と。
(…あいつの聖痕…)
 今の自分と、ブルーが出会った奇跡の瞬間。
 遠く遥かな時の彼方で、前のブルーが負った傷跡が、今のブルーに現れた時。
(あれが、あいつに出たってことは…)
 恐らく、時が満ちたのだろう。
 二人が出会うべき時が来るまで、神が隠しておいたもの。
 それが姿を現した途端、膨大な記憶が蘇って来た。
(他のヤツらも、いるんだったら…)
 あの瞬間に、ヤツらの記憶も…、という気がする。
 そして記憶を取り戻したなら、神が彼らを自然な形で、此処へ呼び集めるだろう、と。


 半ば、確信している「それ」。
 神が彼らを呼ぶだろうこと、いるのなら、巡り会えるだろうこと。
(俺とあいつを、これだけ見事に…)
 青い地球に連れて来られた神なら、そのくらいのことは容易いと思う。
 それこそ「ついで」なのだから。
 「これはオマケ」と言わんばかりに、ちょっとした奇跡の大盤振る舞い。
 ある日バッタリ、街角でゼルに出会うとか。
 ゼルに出会ったら、「宙港でヒルマンに会ったんだぞ」といった具合に繋がる関係。
 最初はゼルに会っただけでも、アッという間にシャングリラの仲間が揃っていそう。
 ヒルマンがブラウと出会っていたとか、ブラウがエラを知っていたとか。
(神様にすれば、そのくらいはなあ…?)
 簡単だよな、と口に含んだコーヒー。
 聖痕を起こすことに比べたら、人と人とを会わせるくらいは何でもない。
(ゼルがヒルマンに出会えるように…)
 二人の思考に働きかければ、じきに二人は出会うだろう。
 「お前、もしかして…」と、互いに驚きながら。
 「ゼルじゃないか」と、「ヒルマンだよな?」と、肩を叩き合って。
(他のヤツらも、そんな風に…)
 近い所にいる者から順に、神の指が嵌めてゆくパズル。
 まるでチェスの駒を動かすみたいに、前の生の記憶を持った人間たちを動かして。
 「此処にいる人が、こっちへ行けば…」と、顔を合わせる場を拵えて。
(…聖痕に比べりゃ、何でもないよな…)
 そうやって出会った中の一人を、この町に行く気にさせるのも。
 これと言った名所は特に無いけれど、それほど不便な場所でもないし…。
(…地球とは違う星から来たって…)
 日本という地域に行ってみよう、と思い立ったら、ふらりと寄ることもあるだろう。
 移動の途中で一泊するとか、気が向いたからと滞在するとか。
 そうすれば、簡単に「ハーレイ」に会える。
 此処まで導いて来た神だったら、その旅人と「ハーレイ」とを…。
(バッタリ会わせるくらいはなあ?)
 お安い御用で、出会えば、たちまち、互いが互いを見付けるだろう、と。


 それなのに、未だに一人も巡り会わない。
 ゼルもヒルマンも、ブラウも、エラも。
(…いたら、絶対、出会えただろうと思うんだがな…)
 そしたら愉快な同窓会が出来るのに、とコーヒーのカップを傾ける。
 前の生では、死の星のままになっていた地球。
 それが蘇って、今では「ハーレイ」の生まれ育った場所で…。
(うん、それだけでも驚きだよな)
 前の俺たちは、地球の地の底で死んじまったから…、と前の自分の最期を思う。
 「その地球の上で、今じゃ同窓会が出来るぞ」と、「美味い料理も山ほどあって」と。
(でもって、ブルーも、ちゃんといるから…)
 みんなビックリするんだろうな、と思い浮かべる同窓会。
 チビになってしまったブルーの姿を、初めて見る者もいるかもしれない。
 シドやヤエやら、若い世代は、そんなブルーは知らないから。
(…すっごく可愛い、って…)
 頭を撫で回すヤツもいそうだ、とニナたちの姿が目に浮かぶよう。
 もっとも、彼らが「育った姿」になっていないと、そうはいかないのだけれど。
 彼らも子供になっていたなら、場合によっては、ヒルマンが…。
(先生みたいに引率して来て、チビの団体…)
 そういうことだって、あるのかもな、と考え始めると止まらない。
 青い地球の上で、白いシャングリラの同窓会。
 「誰もいない」と思うからこそ、あれこれと夢が広がってゆく。
(ジョミーがいるなら、慰労会もしてやらないと…)
 グランド・マザーを倒しちまった立役者だぞ、と懐かしくなる金髪の青年。
 前のブルーに連れて来られた時は、少年だったのに。
(ブルーと同じでチビになっていようが、慰労会だよな)
 酒が飲めない年齢だったら、ノンアルコールの、子供用のシャンパンを用意して。
 「お疲れ様!」と、皆で乾杯して。
(どうせ、ブルーも酒は駄目だし…)
 うん、充分に盛り上がるさ、と思うジョミーの慰労会。
 前のブルーも頑張ったけれど、SD体制にトドメを刺したのは、ジョミーなのだから。


 それもいいな、と同窓会から慰労会へと変わった想像。
 いないだろうと思うからこそ、「あの人がいたら」と見たくなる夢。
(俺とブルーの恋なんぞは…)
 自分もブルーも綺麗に忘れて、再会の喜びに浸っていそう。
 懐かしい仲間が揃っているから、もう嬉しくてたまらなくて。
(…やりたいんだがなあ、ジョミーの慰労会…)
 うんと楽しいに違いないんだ、と思った所で、ハタと気付いた。
 「ジョミーだけとは限らないぞ」と。
(……ジョミーの、戦友……)
 そいつ抜きでは、慰労会とは言えないような、と背中にタラリと流れた汗。
 再会したジョミーが少年だろうが、青年の姿をしていようが…。
(ぼくの戦友を紹介するよ、と…)
 とびきりの笑顔で、「入って!」と手招きしそうな「男」。
 地球の地の底で、ジョミーと共にグランド・マザーに刃向かい、命を落とした英雄。
(……キース・アニアン……)
 あいつがいない筈が無かった、と愕然とする。
 神がジョミーを呼び寄せたならば、当然、キースもいるのだろう、と。
 ジョミーがいたなら、キースに出会わない筈が無いから。
 きっと二人は大の親友、間違いなく、そうなるだろうから。
(…そいつは、非常に困るんだが…!)
 どんな顔をして会えばいいんだ、とカップのコーヒーに目を落とす。
 「まさか殴れやしないじゃないか」と、「愛想よく挨拶するしかないぞ」と。
(…ジョミーの大親友ではなあ…)
 どうにもならん、と悔しい上に、今のブルーは…。
(……キースの野郎を、嫌っていないと来たもんだ……)
 ジョミーとキースが少年だったら、ブルーは大喜びだろう。
 「いっぺんに友達が増えたよ、ハーレイ!」と、弾けるような笑みを輝かせて。
 「三人で遊びに行くのもいいね」と、「ハーレイ、車を出してくれない?」と。
 なにしろ、ブルーは子供だから。
 同い年くらいの友達が出来たとなったら、もう早速に、遊びに行きたい年頃だから。


(…おいおいおい…)
 そいつは御免蒙りたいぞ、と情けなくなる。
 同窓会を開いた結果が、それなんて。
 ジョミーの慰労会をやったら、キースまでやって来るなんて。
(……だが、充分にありそうだしなあ……)
 誰とも会えないままがいいのかもな、と思うけれども、懐かしい仲間。
 もしも巡り会うことが出来たら、きっと楽しい。
 たとえブルーが、キースと友達になろうとも。
 「ハーレイ、車を出してくれない?」と、遊びに行く足に使われようと…。



           あの人がいたら・了


※シャングリラの仲間たちが今の時代にいたら、と想像してみたハーレイ先生。同窓会だ、と。
 なんとも楽しそうですけれども、ジョミーが連れて来そうな親友。殴れませんよねv







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「あのね、ハーレイ…」
 ぼくの髪の毛なんだけど、と小さなブルーが指差した頭。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 髪の毛が、どうかしたのか?」
 何も絡まってはいないようだが、とハーレイも目を遣る。
 ブルーの綺麗な銀色の髪に。
 前のブルーと全く同じに、整えられたヘアスタイル。
 ブルーは、銀色の髪を示して、こう言った。
 「切っちゃおうかな?」と。
「髪の毛を…? 切りに行くには、まだ早くないか?」
 そんなに伸びてはいないだろう、とハーレイは首を傾げた。
 この前、ブルーが髪をカットしに行ったのは…。
(…今よりも、もっと伸びてた時で…)
 今だと、かなり早すぎるような…、とハーレイでも分かる。
 下手に切ったら、「ソルジャー・ブルー風」にならない髪。
 うんと短くなってしまって、ただのショートカットに…。
(…なりそうだがな?)
 どうなんだろう、と湧き上がる疑問。
 「それとも、プロだと違うのか?」とも。


 ハーレイには、行きつけの理髪店がある。
 店主は、キャプテン・ハーレイの熱烈なファン。
(俺が行くのを、楽しみに待っていてくれて…)
 それは見事に、キャプテン・ハーレイ風に仕上げてくれる。
 お蔭で、今でも前の生の頃と全く同じに…。
(キャプテン・ハーレイでいられるわけだが…)
 ブルーの場合も、その辺の事情は変わらない。
 「ソルジャー・ブルーにそっくりだから」と、今の髪型。
 幼い頃から、ずっと「ソルジャー・ブルー風」。
(…同じ店に通い続けているなら、担当もいるし…)
 少し早めに出掛けて行っても、普段通りになるのだろうか。
 「お待たせしました」と、ソルジャー・ブルー風の髪型に。
(…そりゃまあ、プロはプロだしなあ…)
 素人とは違うのかもしれん、と勝手に納得したのだけれど。
「ハーレイ、聞いてる?」
 切っちゃおうかと思うんだよ、とブルーが再び口を開いた。
 「今より、うんと短めに」と。
 クラスメイトがやってるみたいな、ショートカット、と。


「なんだって!?」
 本気で短くする気なのか、とハーレイは仰天してしまった。
 普通の男子生徒の髪と言ったら、ブルーの髪の長さの…。
(半分どころの騒ぎじゃなくて、だ…)
 生徒によっては、丸刈りに近い者だっている。
 其処まで短くしないにしたって、前のブルーとは…。
(似ても似つかない髪になっちまうんだが!)
 想像もつかん、とブルーの顔を、まじまじと見る。
 「いったい、どうなってしまうのだろう」と。
 「ちゃんとブルーに見えるだろうか」と、「別人かも」と。
 けれどブルーは、涼しい顔で頷いた。
 「ショートカットにしたって、いいと思うんだよね」と。
「だって、頑張って伸ばしていても…」
 手入れが面倒なんだもの、とブルーが指に絡めた髪。
 「寝癖もつくし」と、「ハーレイも前に見たじゃない」と。
(…それは確かに、そうなんだが…)
 寝癖がついたままのブルーは、見たことがある。
 つい、からかってしまったけれども、そんな髪でも…。


「もったいないとは、思わないのか?」
 せっかく、お前に似合ってるのに、とブルーを見詰めた。
 「何も短く切らなくても」と、「今のがいいのに」と。
 するとブルーは、「うーん…」と一人前に腕組み。
 「ぼくには、そうは思えないけど」と。
「今のハーレイ、ぼくの髪型なんか気にしてないでしょ?」
 チビだと思って、とブルーは上目遣いに見上げる。
 「だから、短く切ってしまっても、どうでも良さそう」と。
「おいおいおい…」
 俺は大いに気にしているぞ、とハーレイは慌てた。
 いくらチビでも、ブルーは「そっくり、そのまま」がいい。
 前のブルーに似ているのだから、変えるよりかは…。
(今のままがいいに決まってるだろう!)
 そう思うから、それを真っ直ぐ、ブルーにぶつけた。
 「そのままがいい」と。
 「俺は、そいつが気に入っている」と、「今のお前が」と。
 そうしたら…。


「それなら、キスをしてくれないと…」
 ぼくは信じやしないからね、と得意げに微笑んだブルー。
 「キスをちょうだい」と、「唇にだよ?」と。
(…この野郎…!)
 そういう魂胆だったのか、と、やっと分かったものだから。
 ブルーの狙いに気が付いたから、椅子から立ち上がって…。
「よしきた、それなら任せておけ」
 俺が上手に切ってやろう、とニヤリと笑った。
 「お母さんにハサミを借りて来よう」と。
 「無いなら、車でひとっ走りして買って来るから」と。
「ちょっと、ハーレイ…!」
 それは酷いよ、とブルーは悲鳴だけれど。
 「冗談だってば」と、「本気じゃないよ」と必死だけれど。
(たまには、しっかり懲りろってな!)
 今日はお灸をすえてやる、と浮かべた笑み。
 「まあ、任せろ」と。
 「丸刈りだっていいもんだぞ」と、「バリカンでな」と…。



         切っちゃおうかな・了








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