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(今日はあいつに会えなかったが…)
 元気にしてるといいんだがな、とハーレイが思い浮かべた小さな恋人。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、いつもの書斎で。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
 今は小さくなってしまったブルー。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 今日は会えずに終わったけれども、ブルーは元気にしているだろうか。
(…心の方は…)
 あまり元気じゃないんだろうな、と想像がつく。
 もう寝ているかもしれないけれど、起きていたなら、今頃は…。
(今日はハーレイ、来てくれなかった、って…)
 しょんぼりとしているんだろう、と容易に分かるブルーの気持ち。
 学校でも顔を会わせていないから、しょげているのは間違いない。
(しかし、そいつはいつものことだし…)
 さほど心配はしないでいい。
 会えなかった日は元気が無くても、会えたら、たちまち元気になるから。
 気掛かりなのは、ブルーの心ではなくて…。
(…風邪でも引いていなけりゃいいが…)
 顔を見ないと心配なんだ、とブルーの身体が今日は気になる。
 さして寒かったわけでもないのに、少々、過保護に過ぎるけれども。
(とはいえ、今度も、あいつの身体は…)
 前と同じに虚弱だから、と小さなブルーの体質を思う。
 体育も見学の日が多いくらいに、今のブルーも身体が弱い。
 人間が全てミュウになった今では、ミュウといえども健康なのに。
 かつての人類がそうだったように、プロのスポーツ選手も大勢、存在する。
 だから、生まれ変わって来た今の自分も…。
(プロの選手にスカウトされてたほどなんだがなあ…)
 もっとも、前も強かったんだが、と苦笑した。
 「悪かった部分は、耳だけだったな」と。

 遠く遥かな時の彼方で、キャプテン・ハーレイだった頃。
 いや、キャプテンになるより前から、前の自分は頑丈だった。
 耳だけは聞こえにくかったけれど、他の部分は至って健康。
 身体が丈夫なミュウは珍しかったから、研究者たちが行う実験の方も…。
(…どっちかと言えば、体力の限界というヤツを…)
 試す類のものが多くて、お蔭で、更に頑丈になって、体格のいいミュウが出来上がった。
 聴力以外は、並みの人類より、ずっと優れていただろう身体。
(…キースの野郎と殴り合っても…)
 ダメージは受けなかっただろうさ、と思うくらいに強かった身体。
 それをそのまま、今の自分も引き継いだらしい。
 ついでに耳もすっかり治って、何処も健康そのものなのに…。
(…ブルーは、そうはいかなくて…)
 今でも弱くて、何かと言えば熱を出したり、寝込んだり。
 補聴器こそ要らなくなったけれども、体力の方は、前のブルーと変わらない。
(それどころか…)
 前よりも弱くなったかもな、と思えてしまう。
 今のブルーは、「弱くてもかまわない」人生を生きているものだから。
 ブルーがベッドで寝込んでいたって、誰一人として困りはしない。
 前のブルーが倒れてしまえば、それこそ大変だったのに。
(…幸いなことに、そんな場面は無かったわけだが…)
 物資の調達をブルーが一人でしていた頃なら、船はパニックに陥ったろう。
 食料はもちろん、他の物資も、ブルーが奪って来ていたから。
(そうならないよう、前の俺がだ…)
 倉庫の管理人を引き受けていて、中身をきちんと把握していた。
 もしもブルーが動けなくなっても、一ヶ月くらいは、充分、余裕があるように。
 ブルーが調達に出掛ける前には、不足しそうな物資は何かをきちんと伝えられるよう。
(…それでも、ブルーにしてみれば…)
 万が一ということもあるから、寝込んでなどはいられない。
 たまに倒れてしまった時でも、少しでも早く治そうとして…。
(嫌な薬も、嫌いな注射も、懸命に耐えていたんだっけなあ…)
 でないと皆が困ってしまう、と、小さな身体と幼かった心を叱咤したのが前のブルー。

 それに比べて、今のブルーはどうだろう。
 本物の両親と暮らす家には、暖かなベッドと居心地のいい自分専用の部屋。
 前の生の記憶が無かった頃でも、ブルーの心は「注射は嫌い」と覚えていたから…。
(…病院に行くのは絶対嫌だ、と…)
 我儘を言っては両親を困らせ、そんな調子だから病気も長引く。
 ただでも身体が弱いというのに、注射を嫌って、ギリギリまで隠しているものだから。
(…おまけに、丈夫になろうという努力も…)
 今のあいつは無縁なんだ、と苦笑い。
 寝込んでも何の支障も無いから、鍛える必要などは無い。
(前のあいつも、鍛えることは無理だったんだが…)
 身体がそれを許さなかっただけで、可能だったら、丈夫になろうと努力したろう。
 戦える者は他にいなくて、文字通り、ソルジャーだったのだから。
(…今のあいつは、ソルジャーなんかじゃないからなあ…)
 弱くても誰も困らないし、と平和な時代に感謝するけれど、その一方で…。
(もしも、あいつが丈夫だったら…)
 色々と変わっていたのかもな、という気がする。
 ブルーとの出会いは変わらなくても、その後のことが。
 再会してから今日までの日々は、きっと全く違っただろう。
(…あいつの右手が凍えちまうのは、変わらないとは思うんだがな…)
 それ以外のことは、ブルーが丈夫に生まれていたなら、違う過ごし方で彩られたろう。
 今日にしたって、「ハーレイ先生」の仕事が終わる時間まで…。
(…学校で待っていたかもなあ…)
 丈夫ならな、と考えてみる。
 弱いブルーは部活もしないで、授業が終われば帰ってしまう。
 健康だったら歩いて帰れる場所にある家まで、路線バスに揺られて。
(丈夫だったら、部活も出来るだろうし…)
 クラブの無い日だったとしたって、放課後の潰し方は色々。
 運動部が使っていない所で、友達とサッカーなんかも出来る。
 そうやって下校時刻を迎えて、下校のチャイムが鳴ったなら…。
(ハーレイ先生を待ってるんです、と言いさえすれば…)
 残っていたって問題は無いし、遅くまででも待てるのだから。

(会議で遅くなったって…)
 ブルーが待っていたとなったら、真っ直ぐ家に帰りはしない。
 もちろん車で送るけれども、それよりも前に、何処かに寄り道。
(…待っていて腹が減っただろう、と…)
 軽く何かを食べさせてやって、それから家まで送って行く。
 健康そのもののブルーだったら、帰りに何か食べていたって、夕食は充分、入るから。
(家の前で「じゃあな」と下ろしてやっても…)
 きっとブルーは、笑顔で手を振り、見送るのだろう。
 「送ってくれてありがとう」と、「今日は御馳走様!」と。
(寄っていかないの、と誘いはしたって…)
 誘いを断って帰った所で、「残念!」の一言で終わりそう。
 身体の弱いブルーと違って、一緒に過ごした後だから。
 「ハーレイ先生」を待っていた時間の方が、二人になってからよりも、ずっと長くても。
(…ちゃんと会えたし、二人で軽く食ったんだしな?)
 それに車で送って貰って、ブルーにしてみれば満足だろう。
 「ハーレイを待っていて良かった」と。
(そういう元気なブルーだったら…)
 休みの日だって、ゆっくりお茶など飲んではいない。
 何処かへ行きたくてウズウズだろうし、こちらにしたって誘いやすい。
 「健康的なデート」というヤツに。
 二人でジョギングなんかは日常、時には遠出もいいだろう。
 「今度の休みは山に登るか?」だとか、「二人で釣りに行くとするか」とか。
 ブルーが丈夫な身体だったら、体調を崩す心配は無い。
 だから気軽に誘い出せるし、ブルーの方も…。
(丈夫だったら、遊びたい盛りの年なんだから…)
 デートだなどと思いもしないで、ウキウキとついて来ることだろう。
 それまでは友達とやっていたことを、「ハーレイ先生」と楽しむだけ。
 山登りにしても、釣りに行くにしても、友達同士で出掛けて行くのとは…。
(違うからなあ、大人が一緒に行くとなったら)
 もうそれだけで気分は上々、「何処に行くの?」と興味津々。
 当日も張り切って早起きをして、期待に顔を輝かせて。

(…愛だの恋だの、今のあいつには早すぎることは…)
 ブルーの身体が丈夫だったら、自然と消えてしまうと思う。
 再会してから少しの間は、前のブルーを思わせるような表情をしても。
 「ハーレイ?」と見詰める赤い瞳が、前のブルーに似ていたとしても…。
(…うんと元気で、丈夫だったら…)
 今のブルーが夢中になるのは、プロのスポーツ選手になれる道もあった「ハーレイ先生」。
 ブルーくらいの年の頃なら、憧れの的のプロのスポーツ選手。
 その道を蹴って、教師をしている変わり種でも、眩しく見えることだろう。
 現に学校の男子生徒たちは、羨望の眼差しを向けて来るから。
(その俺を、独占出来るんだしな?)
 得意満面の丈夫なブルーは、恋に相応しい年になるまで、きっと忘れることだろう。
 「前の自分」と「前のハーレイ」が、大人の恋をしていたことを。
 どんな具合にキスを交わして、どういう夜を過ごしたのかを。
(…そっちだったら、なんとも平和だったんだがなあ…)
 俺の悩みも減りそうなんだが、と思うけれども、仕方ない。
 「丈夫だったら」と願ってみたって、ブルーは丈夫にならないから。
 前と同じに弱いブルーも、どうしようもなく愛おしいから…。

 

           丈夫だったら・了


※ブルー君の身体が丈夫だったら、と考えてみたハーレイ先生。色々と違って来そうです。
 釣りに登山にと、健康的なデートも出来そう。でも、虚弱なのがブルー君。仕方ないですねv








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「ねえ、ハーレイ。ぼくたち、好き嫌いが無いけれど…」
 前のぼくたちが苦労したから、と小さなブルーが傾げた首。
 二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「好き嫌い? ああ、お互いに全く無いな」
 せっかく生まれ変わったのに、とハーレイが浮かべた苦笑。
 「食い物の苦労が無い時代なのに、残念だよな」と。
「そうなんだけど…。ホントに、ちょっぴり残念だけど…」
 だけど、試食は大切だよね、とブルーの赤い瞳が瞬く。
 「それに関しては、前のぼくたちの頃でも、同じ」と。
「試食なあ…。確かに、試食は大切だったよな」
 改造前のシャングリラでもな、とハーレイも大きく頷いた。
 まだ厨房で料理をしていた頃には、大切だった試食。
 仲間たちの気に入る料理になるよう、気を配って。


(…俺とブルーは、どんな飯でも食えたんだがなあ…)
 船の仲間たちの方は、そういうわけにはいかなかった。
 アルタミラの檻で餌しか食べられなかった、実験体時代。
 その頃だったら、料理というだけで感激したのだろうに…。
(…喉元過ぎれば何とやら、というヤツで…)
 いつの間にやら、すっかり舌が肥えてしまった仲間たち。
 キャベツだらけのキャベツ地獄や、ジャガイモ地獄でも…。
(なんとか工夫して、味や調理法を変えないと…)
 これは飽きた、と出て来る文句。
 「またジャガイモか」だとか、「またキャベツか」とか。
 そんな仲間たちの口に合うよう、前の自分は試行錯誤した。
 炒めてみるとか、揚げてみるとか、重ねた工夫。
 そうやって厨房で、様々な料理を試作していたら…。
(まだチビだった前のこいつが、ヒョイと現れて…)
 覗き込んでは、「何が出来るの?」と尋ねて来た。
 その度、「食ってみるか?」と、差し出していた試食用。
 「みんなの口に合うと思うか?」と、意見を聞きに。


 鮮やかに蘇った、名前だけだった頃のシャングリラ時代。
 前のブルーと試食を繰り返した、懐かしい厨房。
 生まれ変わった今の自分も、やはり試食を大切にする。
 とはいえ、新しい調理法を試すよりかは…。
(味見と言うか、こう、店とかで出しているヤツを…)
 試食してみて、買うかどうかを決めるのがメイン。
 同じ買うのなら、美味しいものを買いたいから。
(好き嫌いが無いのと、味音痴とは違うからなあ…)
 試食するのが一番なんだ、と考えていたら…。
「今のハーレイも、試食は大切だと思うでしょ?」
 だったら、試食してみるべきだよ、とブルーが言った。
 「でないと味が分からないしね」と、「気に入るかも」と。
「はあ? 試食って…?」
 何をだ、とテーブルの上を眺め回した。
 特に変わった菓子などは無いし、紅茶も定番の銘柄の筈。
(…これから何か、出て来るってか?)
 新作の菓子か、珍しい紅茶とかが…、と思ったけれど。
 そういう試食だと、頭から信じていたのだけれど…。


「あのね、コレ!」
 ぼくの唇、とブルーが指差した自分の唇。
 「子供の頃のは知らないでしょ」と、「前のぼくのも」と。
 「だから試食」と、「美味しいかどうか試してみて」と。
「そういうことか!」
 馬鹿野郎、とブルーの頭に落とした拳。
 コツンと軽く、痛くないように。
 「そんな試食は断固断る」と、「悪ガキめが」と…。



          試食は大切・了









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(今度は年上なんだよね…)
 正真正銘、と小さなブルーが、ふと思ったこと。
 ハーレイが寄ってはくれなかった日の夜、自分の部屋で。
 お風呂上がりにパジャマ姿で、ベッドにチョコンと腰を下ろして。
 ブルーが通っている学校で、古典の教師をしているハーレイ。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
(…前だって、ぼくはチビだったけど…)
 出会った時には、子供だったんだけど、と時の彼方の記憶を辿る。
 アルタミラの地獄で初めてハーレイに会った時には、前の自分は今と同じで子供。
 姿も今とそっくり同じな、十四歳のチビだったけれど…。
(身体も心も、十四歳のままだったのに…)
 成長を止めてしまっていただけのことで、本当の年は、ハーレイよりも遥かに上。
 アルタミラから脱出した仲間たちの中でも、自分が一番の年上だった。
 まるで全く自覚は無くて、他の仲間も、子供として扱ってくれたけれども。
 「自分たちが育ててやらなければ」と、誰もが心を配ってくれて。
(だから、ハーレイも…)
 前の自分を子供扱い、甘やかしたり、時には叱ったり。
 そうして育って、ソルジャーとして立った後にも、前のハーレイを頼りにしていた。
 「ずっと年上の大人」として。
 「ぼくなんかよりも、ハーレイの方が大人だから」と。
(…ホントに、ハーレイの方が大人なんだ、って…)
 すっかり思い込んでいたというのに、時の流れは残酷だった。
 突然、やって来た「終わりの時」。
 前の自分の身体が弱って、寿命が尽きると分かった瞬間。
(……前のぼく、年寄りだったんだよ……)
 自分じゃ分かってなかっただけで、と、今、考えても悲しくなる。
 誰よりも愛した前のハーレイ、その人の側に、いられなくなると思い知らされた時。
 寿命は、どうしようもなかったから。
 どんなに「嫌だ」と泣き叫ぼうとも、時の流れは止まらないから。


 あの時の、前の自分の深い悲しみ。
 「どうして先に生まれたのか」と、「年下だったら良かったのに」と、何度も思った。
 ハーレイよりも年下だったら、そんな別れは起こらないから。
 恋人の寿命が尽きる時まで、側にいることが出来たから。
(…それが悲しくて、何度も泣いて…)
 辛くてたまらなかったけれども、結局、前の自分の最期は…。
(……ハーレイを置いて逝っちゃった……)
 おまけに、ぼくは独りぼっち、とメギドの記憶が降って来たから、頭を振って振り払う。
 「あんなの、思い出したくない」と。
 「今のぼくは、うんと幸せだから」と、「幸せなことを考えなくちゃ」と。
(ハーレイも、ホントに年上だしね?)
 ぼくが、ちょっぴり、チビすぎるけど、と、それだけが不満。
 とはいえ、前の生でも今の姿で出会ったのだし、文句を言うのは筋違いだろう。
(神様だって、きちんと考えてくれて…)
 この年の差にしたんだよね、と大きく頷いてから、ハタと気付いた。
 「ハーレイの方は、同じじゃないよ?」と。
 「アルタミラで出会った時のハーレイ、若かったよ」と。
(…えーっと…?)
 あのハーレイは何歳くらいなのかな、と頭を巡らせ、出した答えは二十代。
 まだ充分に青年だったし、今の世界なら、上の学校を卒業する年から…。
(二年か三年、…ううん、卒業したてなのかも…?)
 個人差ってヤツがあるものね、と考えたけれど、若いことだけは間違いない。
(…どうして、そこで出会わなかったの?)
 前の通りの出会いでいいのに、と尖らせた唇。
 「ぼくなら、待てるよ」と、「ハーレイが前の姿になるまで」と。
 前のハーレイがそうだったように、青年から、威厳のある姿になってゆくまで。
 自分が先に年を止めても、ハーレイは叱らないだろう。
 前の自分もそうだったのだし、何の問題も無いのだから。
(…だけど、ハーレイが若過ぎちゃうと…)
 新米の教師になってしまって、何かと難しいかもしれない。
 守り役になることは出来ても、思うように時間が取れないだとか。


(……うーん……)
 その可能性はありそうだよね、と教師の仕事を数えてみた。
 授業の他にも、ハーレイは色々、忙しそう。
 現に今日だって、帰りに寄ってはくれなかったし…。
(まだ駆け出しの先生だったら、研修だって、うんと多くて…)
 仕事の帰りに寄れる日、ずっと少ないかもね、と思うと、これでいいのだろう。
 ハーレイの方が「ずっと年上」、そういう年の差に生まれても。
 自分は前と同じにチビでも、ハーレイは「うんと年上」の姿でも。
(今度は本当に年上なんだし、その分、甘えられるから…)
 神様がそうしてくれたんだよね、と納得してから、違う方へと向かった思考。
(…それなら、神様が、やろうと思えば…)
 同い年になっていたのかも、と。
 ハーレイとの年の差は全く無くて、同じ学年の生徒だったかも、と。
(…うんと若くて、十四歳のハーレイ…)
 どんなのだろう、と瞬かせた瞳。
 前の自分は、そんな姿のハーレイは知らない。
 もちろん、今の自分にしても…。
(…アルバムか記憶を、ハーレイに見せて貰わないと…)
 分かりはしないし、当然、馴染みがあるわけがない。
 それだけに、「十四歳のハーレイ」は新鮮で、出会ってみたい気がする。
 同い年の二人に生まれ変わって。
 どんな出会いになっていたのか、出会った後は、どうなったのか。
(…今のハーレイ、育ったのは隣町だから…)
 学校の教室で再会することは無かった筈。
 だから偶然、何処かでバッタリ出会うのだろう。
 隣町から来たハーレイと、たまたま歩いていた自分とが。
(…遠征試合で、ぼくの学校にも来たりする?)
 それとも試合の帰りなのかな、と想像の翼を羽ばたかせる。
 「十四歳のハーレイと、今のぼくとが出会うんだよ」と。
 「出会った途端に記憶が戻って、ちゃんと再会出来るんだよね」と。


 同い年になったハーレイと、青い地球の上で巡り会う。
 とても素敵な思い付きだ、と広がる夢。
(…街角とかで、試合帰りのハーレイと…)
 行き会うとしたら、ハーレイはきっと、クラブの仲間と一緒だろう。
 柔道にしても、水泳にしても、元気一杯の少年たちのグループ。
(何処のお店に入ろうか、って賑やかにしてて…)
 遠目にも目立つ、命の輝きに溢れた少年たち。
 身体の弱い自分の目には、眩しいほどに違いない。
(楽しそうだよね、って…)
 羨望の眼差しで見ながら近付き、擦れ違おうとした瞬間に…。
(右目の奥が、ズキッて痛んで…)
 目から、肩から、溢れる鮮血。
 神様が自分にくれた聖痕。
(ぼくは、ハーレイ、見付けられるけど…)
 あの少年がハーレイなのだ、と気付くと同時に、痛みで消えてゆく意識。
 膨大な記憶が戻って来たって、身体は痛みに耐えられないから。
(…ハーレイも、見付けてくれるだろうけど…)
 慌てて駆け寄り、「大丈夫か!?」と叫ぶ姿が目に浮かぶよう。
 意識を失くしてしまった自分を、抱き起こして。
 「誰か、救急車を呼んで下さい!」と、周りの大人たちに頼む所も。
(…そっか、救急車が来ても…)
 同い年のハーレイは、一緒に救急車には乗ってゆけない。
 通りすがりの子供なだけで、知り合いでも何でもないのだから。
(もしも周りに、お医者さんとか、看護師さんがいたら…)
 その人が名乗りを上げた時点で、ハーレイは退場するしかない。
 「君は下がって」と、応急手当が始まって。
(…そうでなくても、ぼくに付き添って行くんなら…)
 いくらハーレイが「試合は終わりましたから」と言ったとしても、所詮は子供。
 「誰か、目撃していた人は?」と救急隊員が頼むとしたら、大人だろう。
 「一緒に救急車に乗って貰えませんか」と、「お忙しいでしょうが、お願いします」と。


 つまり、出会った途端に、お別れ。
 少年のハーレイはその場に置き去り、ただ呆然とするしかない。
 運ばれて行った少年が誰か、名前さえ分からないままで。
 一緒にいたクラブの仲間たちの方は、すっかり野次馬騒ぎだろうに。
 「凄い現場を見ちまったよな」と、「明日の新聞に載るのかな?」などと。
(…帰りに食事をするんだったら、その間だって…)
 目撃した事件の話題でワイワイ、其処でもハーレイは置き去りになる。
 きっとハーレイの頭の中は、「ブルー」で一杯だろうから。
 「怪我は大丈夫なんだろうか」と、「何処の病院に行ったんだろう」と。
(…聖痕だなんて知らないから…)
 大怪我をしたと思い込んだまま、過ごしてゆくしかないハーレイ。
 「俺は今度も、ブルーを失くしちまったのか?」と、気が気ではなくて。
 「出会った途端に、ああなるなんて」と、「前よりも、ずっと酷いじゃないか」と。
(……うんと心配しちゃうよね……)
 そして不安でたまらないよね、と思うけれども、自分にはどうすることも出来ない。
 病院で意識を取り戻した時には、もうハーレイはいないから。
 「ぼくが倒れた時に、抱き起こしてくれた人は誰?」と、尋ねても、多分、無駄だろう。
 救急車に乗って来てくれた大人は、とうの昔に帰った後。
 仮に残ってくれていたって、その人は「ハーレイ」なんかは知らない。
 救急隊員にしても同じで、「さあ…?」としか答えられないと思う。
 ハーレイは名乗る暇も無ければ、名乗るほどのことさえ「していない」から。
(…そうなってくると…)
 探す手掛かりがあるとしたなら、制服くらい。
 ただし、ハーレイが「制服姿で」いたならば。
(…だけど、制服…)
 遠征試合に出掛ける時にも、着るかどうかは分からない。
 部活のための服があるなら、当然、そっちの方が優先。
(…強豪校なら、有名なのかもしれないけれど…)
 今の自分は、制服にさえも興味が無いから、探すのはとても大変だろう。
 「何処の学校の生徒だろう」と、どんなに知りたくてたまらなくても。
 両親に「お願い!」と縋ってみたって、両親も詳しい筈が無いから。


(きっと、ハーレイが探し出す方が…)
 早くなるよね、とチビの自分にも分かる。
 ハーレイの方には、手掛かりがドッサリあるのだから。
 なにしろ「事故に遭った少年」、新聞の記事にはならなくっても…。
(救急車を出した所に聞いたら、きっと教えてくれるから…)
 ある日、いきなり、ハーレイが訪ねて来るのだろう。
 隣町から、父が運転する車に乗って。
 「事故の時に、側で見ていたんです」と、「とても心配で、お見舞いに来ました」と。
(…ハーレイのお父さんも、一緒だから…)
 二人きりの再会は、うんと遅れるのに違いない。
 ハーレイを部屋に誘わない限り、二人きりにはなれないから。
 「ぼくと友達になってくれる?」とでも言って、部屋へと案内して。
(…なんだか、ちょっぴり…)
 恥ずかしい気もするのだけれども、部屋で二人で抱き合ったなら…。
(…唇にキス…)
 ただ触れるだけの幼いキスでも、貰えそうな気がしてしまう。
 同い年になったハーレイだったら、今の大人のハーレイよりも…。
(うんと素直で、好きって気持ちをぶつけてくれそう…)
 いいな、と夢を見るのだけれども、生憎と、今のハーレイは大人。
 それは今更、変えられないから、心の中で呟いてみる。
 「年の差が無かったら、素敵だったのに」と。
 「キスを貰えて、デートにも行けて、幸せ一杯だったのにね」と…。

 

          年の差が無かったら・了


※ハーレイ先生と同い年に生まれ変わっていたら、と想像してみたブルー君。
 再会した後、次に会えるまでが大変ですけど、幸せなお付き合いが出来るのかも…v










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(今度は年の差が小さかったな…)
 前よりはな、とハーレイが、ふと思ったこと。
 ブルーの家には寄れなかった日の夜、書斎の椅子に腰掛けて。
 愛用のマグカップに淹れた熱いコーヒー、それを片手に。
 今日は会えずに終わったブルー。
 前の生から愛した恋人、生まれ変わってまた巡り会えた愛おしい人。
 青い地球の上で出会ったブルーは、十四歳のチビだった。
 よりにもよって自分の教え子、教師と生徒というだけでも…。
(年の差は、そこそこ、あるってモンだが…)
 自分たちの場合は、干支が二回り分も離れていた。
 同じウサギ年で、ブルーは十四、今の自分は三十八歳。
(出会った時には、俺は三十七だったがなあ…)
 誕生日が来たもんだから、と零れた苦笑。
 「あそこで一歳、年を食っちまった」と、「ちと離れたな」と。
 ブルーの誕生日は三月の末だし、それまでは差は縮まらない。
 とはいえ、前の生での、自分たちと比べてみたなたらば…。
(年の差は、うんと小さいってな)
 たったの二十四年なんだし、と考えてみると、可笑しくなる。
 前の生では、もっと年の差があったというのに…。
(…出会った時には、あいつは今と変わらなくって…)
 チビだったんだ、とアルタミラの地獄で出会ったブルーを思い出す。
 前の自分の目で見たブルーは、ほんの子供に過ぎなかった。
 けれど、見かけとは全く違って、そのサイオンは…。
(俺たちが閉じ込められていたシェルターを、木っ端微塵に…)
 吹き飛ばしたほどで、凄い子供だと思ったものだ。
 脱出する船に乗り込んだ後も、子供だと思い込んでいたのに…。
(…見た目も中身も子供だったが、年だけは…)
 うんと年上だったんだよな、と今でも覚えている衝撃。
 「嘘だろう!?」と驚いたことを。
 「まさか、ブルーが年上だなんて」と、誰もがポカンとしていたことを。


 それほどの年の差だったけれども、今度は、ほんの二十四年。
 ついでに自分が年上なことも、違和感が無くて、丁度いい。
(前の俺は、あいつよりもかなり年下だったが…)
 アルタミラの研究所で人体実験を繰り返されたブルーは、その成長を止めていた。
 生きていたって、いいことは何も無かったから。
 育ったところで未来など無いし、希望の欠片も見えなかったから。
(成人検査を受けた直後で、そのまま全てを止めちまって…)
 心も身体も子供のままで、長い長い時を過ごしたブルー。
 だからブルーは、年上なだけで、実際は、見た目通りの子供。
 そこから少しずつ育ってゆくのを、前の自分は側で見ていた。
 今度も、それと同じこと。
 違いと言ったら、今のブルーが…。
(正真正銘、十四歳のチビっていうことだよな)
 神様も粋なことをなさる、と嬉しくなる。
 前の生での出会いの時より、今の自分は年を食ってはいるのだけれど…。
(これぞ、キャプテン・ハーレイってな!)
 そういう姿になっているから、ブルーにとっては、頼もしいのに違いない。
 それに、ブルーは…。
(…前のあいつは、メギドで俺の温もりを失くしちまって…)
 泣きじゃくりながら死んだと聞いた。
 「もうハーレイには二度と会えない」と、「絆が切れてしまったから」と。
 絶望の底で死んでいったブルーが、もう一度、「ハーレイ」に出会うのならば…。
(今の姿の俺でないとな)
 若かりし日の俺じゃ駄目だ、と大きく頷く。
 前のブルーが失くした温もり、それをブルーに与えた「ハーレイ」。
 メギドに向かって飛び立つ前に、「頼んだよ」と、ブルーが触れていった腕。
(そいつを持ってた、キャプテン・ハーレイ…)
 この姿で再会してこそなんだ、と思っているから、これでいい。
 二十四歳も年上だろうと、ブルーがチビの子供だろうと。
 ブルーが大きく育つまでには、まだ何年も待たされようと。


 流石は神だ、と感謝するしかない粋な計らい。
 チビのブルーの方はといえば、不平と不満で一杯だけれど。
 「どうして、今のぼくはチビなの」と、「ハーレイとキスも出来やしない」と。
(…そこが素敵なところなんだが、あいつには、まだ…)
 分からんだろうな、とコーヒーのカップを傾ける。
 前のブルーも、前の自分も、成人検査よりも前の記憶は無かった。
 子供時代の記憶どころか、養父母の顔も名前も、育った場所も、何も覚えてはいなかった。
 その分、今の新しい生で、子供時代を満喫すべき。
 今の自分が、そうだったように。
(あいつと違って、俺の場合は、前の生の記憶は無かったんだが…)
 子供時代は楽しかったし、ブルーも、存分に楽しまなくては。
 どんなに年の差が不満だろうと、子供時代は大切だから。
(…子供時代か…)
 いいモンだよな、と思ったはずみに、ポンと浮かんで来た「もしも」。
 今のブルーと自分の年の差、それが神様の計らいならば…。
(……あいつと俺とを、同い年にだって……)
 出来たんだろうな、と顎に当てた手。
 「そうなっていたら、どうなったんだ?」と。
 自分とブルーに年の差が無ければ、どんな具合になったのだろう、と。
(出会いの年は、今のブルーの年でいいよな)
 あいつも、俺も十四歳だ、と決めた年齢。
 その年になったら、ブルーと出会う。
 自分と同い年の少年の姿の、今のブルーと。
(その頃だと、俺は隣町で暮らしていたからなあ…)
 再会の場所は、教室ではなく、この町の何処か。
 あまり出歩かないブルーと違って、少年だった頃の自分は、この町にだって何度も来た。
 遠征試合で来たこともあるし、家族で来たこともあるけれど…。
(…遠征試合の帰り道とかか?)
 この町で打ち上げもやっていたしな、と少年時代の記憶を辿る。
 「試合の相手だったヤツらと、飯とかを食いに行ったっけな」と。


 試合の後に、友達や対戦相手と一緒に、町に繰り出した自分。
 そこでバッタリ、ブルーと出会う。
 自分と変わらない年のブルーと、出会った途端に…。
(…あいつに、聖痕…)
 そして自分の記憶も戻って、けれど、周りは大騒ぎだろう。
 血まみれになって倒れたブルーを、大勢の大人たちが取り囲んで。
 「救急車を呼べ」と叫ぶ者やら、手当てをしようと屈む者やら。
(…救急車が来たら、あいつと一緒に乗って行くのは…)
 ブルーに連れがいたとしたなら、その人になる。
 家族ではなくて、同い年の友達だったって。
 ブルーが一人だったとしたって、赤の他人の自分なんかは…。
(下がってなさい、と大人に後ろに下がらされて…)
 代わりに大人の中の誰かが、救急車に乗ってゆくのだろう。
 現場を目撃していたわけだし、病院の医者に事情を説明出来るから。
 医師や看護師の資格は無くても、立派な大人なのだから。
(…俺は、置き去り…)
 なんて出会いだ、と情けない限り。
 おまけに、自分の友人たちは…。
(凄い現場を見ちまった、って野次馬根性丸出しで…)
 その場を離れて食事に行っても、話に花が咲くのだろう。
 「今日の夕刊に出ると思うか?」だとか、「明日の朝刊に載りそうだよな」とか。
 ワイワイ騒ぐ彼らに囲まれ、其処でも自分だけが置き去り。
 野次馬どころか、頭の中はブルーで一杯。
 「あんな酷い怪我をして、大丈夫だろうか」と。
 「何処の病院に運ばれて行ったんだろう」と、「あいつの名前も聞けていない」と。
(……うーむ……)
 出会いからして厄介だよな、と眉間の皺をトンと叩いた。
 「あいつが怪我をしていないことさえ、当分の間、分からんぞ」と。
 「もう一度、あいつに会おうとしたって、俺だけの力じゃ、どうにもならん」と。


 救急車に置き去りにされた自分が、今のブルーに会う方法。
 どう考えても、父に頼むしかなさそうだけれど…。
(恋人なんだ、なんて言えやしないぞ)
 今の俺は、親父たちに言っちまったが、と、またも難関。
 「男の子に一目惚れしたから、探して欲しい」などと、十四歳ではとても言えない。
(…事故の現場に居合わせたから、心配なんだ、と…)
 大嘘をついて、探して貰うしかないだろう。
 なにしろ、ブルーの方も少年、「ハーレイ」を探す方法は無い。
 その上、現場に居合わせただけの少年なんかは、何の手掛かりも無いのだから。
(俺が頑張って、親父に探し出して貰って…)
 ようやくブルーが見付かったならば、父の車に乗せて貰って、ブルーの家へ。
 「お見舞いに来たんです」と、これまた大嘘、お見舞いの品も母に用意して貰って。
(…親父ごと、お邪魔することに…)
 なっちまうな、と、これまた情けない話。
 ブルーと水入らずの再会どころか、双方の家族でテーブルを囲むという光景。
 きっと、ブルーが「ぼくの部屋に来る?」と、誘ってくれるまで。
 「せっかく友達になれたんだから」と、二人で二階の部屋に行くまで。
(…あいつにエスコートされちまうのか…)
 なんともはや、と情けない気持ちが膨らむけれども、仕方ない。
 ブルーの家に押し掛けておいて、リードなんか出来るわけがないから。
 「君の部屋を見せて貰えるかな?」なんて、厚かましいことは言えないから。
(……これじゃ、あいつの部屋に着いても……)
 俺は借りて来た猫なのかもな、と思ったけれども、相手はブルー。
 しかもメギドで泣きながら死んだブルーの生まれ変わりで、寂しがり屋な所は同じ。
 部屋で二人きりになった瞬間、飛び付くようにして抱き付くのだろう。
 「会いたかった」と。
 「ずっとハーレイに会いたかった」と、「帰って来たよ」と。
(…そうなったら、俺も…)
 ブルーを強く抱き締め返して、思いのままにキスを贈ると思う。
 十四歳の少年らしく、互いの唇が触れ合うだけの。


(……やっちまうんだろうな……)
 多分な、と頬をポリポリと掻いた。
 「同い年のあいつと出会っちまったら、そうなっちまう」と。
 それからは、何かと理由をつけては、ブルーとデート。
 試合の無い休日は、隣町からせっせと通って、ブルーと二人で遊んで、食事。
(…こりゃ、学校の成績だって…)
 下がっちまいそうだな、と思いはしても、もう止められないことだろう。
 ブルーに夢中で、ブルーしか見えなくなるだろうから…。
(…今の俺の年で出会うのが、一番だってな)
 年の差が無ければ、とんでもないことになっちまうから、と傾けるコーヒーのカップ。
 「あいつはともかく、俺は赤点で追試だしな」と。
 「溺れちまって身の破滅だぞ」と、「結婚以前の問題なんだ」と…。

 

          年の差が無ければ・了


※ブルー君と年の差が無かった場合の、ハーレイ先生とブルー君。色々と変わって来る事情。
 早々にキスは出来そうですけど、ハーレイ少年の成績は下がりそう。ダメすぎますねv







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「ねえ、ハーレイ。今のぼくって…」
 モテそうだって思わない、と小さなブルーが投げた質問。
 二人きりで過ごす休日の午後に、首を傾げて。
 お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? モテそう、って…」
 お前がか、とハーレイはポカンと口を開いた。
 確かにブルーは、モテそうではある。
 十四歳にしかならないチビと言っても、その顔立ちは…。
(…前のあいつと瓜二つだから、ミニサイズの…)
 ソルジャー・ブルーそのものだしな、と頷くしかない。
 モテない方が不思議だけれども、何故、今、言うのか。
(…もしかして、クラスの女の子にでも…)
 告白されているんだろうか、と頭に浮かんだ考え。
 「有り得るよな」と、「でもって、俺に相談なのか?」と。


 そういうことなら、話を聞いてやるべきだろう。
 もちろん、ブルーに新しい恋人なんぞは…。
(ブルーが認める筈もないんだが、認めたとしても…)
 却下だ、却下、と、些か狭量な相談相手だけれど。
 「教師としては、まだ早いとしか言えんしな?」などと。
(まだまだチビだし、恋をするには早いんだ!)
 自分のことは棚に上げるぞ、と腹を括って、向き合った。
 どんな答えが返って来るのか、こちらを見ている恋人に。
「そう訊くってことは、誰かに告白されたのか?」
 お前のクラスの女の子か、とブルーに尋ねる。
 「名前は言わなくてもいいぞ」と、「どうなんだ?」と。
 するとブルーは、「ううん」と首を左右に振った。
「まだだけど…。告白はされていないんだけど…」
「ふうむ…。熱い視線を感じるとかか?」
 気が付くと、視線が追い掛けてるとか、と質問を変える。
 そうでなければ、プレゼントでも置かれていたか、と。


(…女の子ってヤツは、そんな所もあるからなあ…)
 打ち明ける勇気が出て来ないから、見ているだけ。
 傍目にも明らかな恋心なのに、告白出来ずに、遠巻きに。
(ついでに、差出人不明のプレゼントってのも…)
 ありがちだよな、とハーレイ自身にも覚えがある。
 柔道と水泳の選手で鳴らしていた頃、よく貰っていた。
 お菓子や花束、贈り主の名は無いのだけれど…。
(…熱烈なメッセージがくっついていて…)
 俺のファンだと分かるんだよな、と思い出す青春時代。
 チビのブルーにも、その種のファンが出来ただろうか、と。
 けれど、ブルーは「そうじゃなくって…」と瞳を瞬かせた。
 「今じゃなくって、これからのこと」と。
「これから…?」
 よく分からんぞ、と首を捻ったハーレイ。
 いったいどういう話だろうかと、サッパリ謎だ、と。
「分かんない? 今のぼくだよ、モテそうでしょ?」
 育ったらね、とブルーは誇らしげに自分の顔を指差した。
 「だって、ソルジャー・ブルーにそっくりだもの」と。


 否定は出来ない、ブルーの言葉。
 遥かな時の彼方の英雄、ソルジャー・ブルーは大人気。
 写真集が何冊も出ているくらいで、美貌で名高い。
「それはそうだが…。それがどうしたんだ?」
 モテたら、何がどうなるんだ、と分からないブルーの思考。
 どうして自分にそれを訊くのか、その理由さえも。
(…まさかと思うが…)
 コレか、と一つ思い当たったから、顔を顰めた。
「お前なあ…。俺はモテない、と言いたいんだろうが…」
 前の俺はモテなかったんだが、とブルーを軽く睨み付ける。
 「生憎だったな」と、「今度の俺は、モテたんだ」と。
「知ってるよ。ハーレイだって、モテたほどだし…」
 ぼくだと、もっとモテるでしょ、とブルーは笑んだ。
「だからね、浮気しちゃおうかな、って」
「浮気だって!?」
「うん。だって、ハーレイ、うんとケチだし…」
 いつか仕返ししなくっちゃね、とブルーが覗かせた舌。
 ペロリと、悪戯っ子のように。
 「ハーレイ、キスをしてくれないから、お返しにね」と。


そう来たか…!)
 まずいぞ、とハーレイの背に伝う冷汗。
 もしもブルーが本気だったら、いつか大きく育った時に…。
(…俺を放って、大勢の女の子に取り囲まれて…)
 浮気なのか、と思うけれども、どうにもならない。
 唇へのキスは贈れないから、将来、浮気されたとしても…。
(どうにも出来んし、こいつの良心に期待するしか…)
 無いんだよな、と神妙な表情で頭を下げた。
 「浮気は、無しで頼みたいんだが」と。
 「俺にはお前だけしかいないし、浮気は困る」と。
 どうか浮気はしないで欲しいと、「この通りだ」と…。



         モテそうだから・了







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