(うー…)
足が重たい、って思っちゃった、ぼく。
重たいって言うより、なんだかホントにうっとおしい。
ぼくの足にくっついてる靴が。
学校指定の靴が重たい、ついでにとってもうっとおしい。
バス停から家まで帰る途中の道なんだけれど。
頭の上から照り付けるお日様、それと地面の照り返し。
その両方とでジリジリ焼かれて、足まで重たくなってきた。
同じ制服でも半袖のシャツとか夏物のズボン、それは問題無いけれど。
重たいとまでは思いもしなくて、うっとおしくもないんだけれど。
足元は別で、きっと靴のせい。
学校指定の靴下を履いて、その上に靴。
二重に包まれてしまってる足が暑がってるんだ、窮屈だよ、って。
足に合わない靴じゃないけど、足をすっぽり包んじゃうから。
きっと息が出来ない気分の両足、ぼくの小さなサイズの足。
苦しいよ、って足が言ってる、靴のせいで息が出来ないよ、って。
そんな感じで重い両足、重たい感じがしちゃう足。
早く帰って脱いでしまおう、こんな靴。
家に帰ったら要らないんだから、靴なんかは。
暑い中を歩いて、家まで帰って。
バス停からのちょっぴりの距離を長く感じた、今日の帰り道。
これのせいだ、って靴を脱ぎ捨てた、途端に軽くなった足。
靴はそのまま捨てておきたい気分だけども…。
(でも、お行儀が悪いしね?)
それに足だって軽くなったし、と靴を揃えて置き直した。
端っこの方に。
お客さんが来た時に邪魔になったら駄目だから。
ド真ん中に置いておくものじゃないから、玄関スペースの端っこに。
やっとスッキリしてくれた足。
もう重たいって気分はしなくて、うっとおしくもなくなったから。
次は靴下、って制服を着替えたついでに脱いだ靴下。
新しいのを履く気なんかしない、こんな暑い日は。
もしも夜になって冷えて来たなら、その時に履けばいいんだから。
息が出来るよ、って喜んでる足、それをもう一度包んじゃったら可哀相。
ぼくだって足に「息が出来ないよ」って言われたくないし…。
裸足になったら気持ちいい床、部屋を出て階段をトントンと下りて。
ダイニングでママとおやつを食べてた間も裸足。
食べ終わって部屋に戻っても裸足。
帰り道の重たさが嘘だったみたいに軽い両足、靴が無いだけでこんなに違う。
靴下も少しは悪いだろうけど、重たかった原因は絶対に靴。
だって、家では履かないんだから。
「ただいま」って玄関のドアを開けたら、靴には「さよなら」なんだから。
学校指定の靴は重くはないけれど。
重さを量れば、きっとお洒落な革靴より軽いだろうけれど。
だけどやっぱり、今日みたいな日にはうっとおしい。
サンダルで学校に行ければいいのに、って思っちゃうくらい。
靴よりも遥かに軽いサンダル、それで充分いいのにね、って。
多分、お行儀とか、色々な意味で「駄目だ」って言われるだろうけど。
先生たちが怖い顔して、「サンダルで学校へ来ないように」って叱るだろうけど。
(…家だと脱いでもいいんだけどな…)
そうでなくっちゃ辛すぎる。
今日みたいな日に、重たかった靴を家でまで履いているなんて。
そんなことなんか出来やしないし、耐えられもしない。
此処に生まれて良かったと思う、家では靴を脱いでもいい場所。
遠い遥かな昔の島国、日本の文化を復興させてる、今のぼくが住んでるこの地域に。
地域によっては、家の中でも靴らしいから。
家に帰っても靴を履いてて、せいぜい部屋履きに履き替えるくらい。
そんなの嫌だ、と椅子に座って足をパタパタさせていて。
暑い季節に靴も靴下も要りやしない、って素足をパタパタ、それを見ていて。
(…あれ?)
前のぼくは一度もこんなことをしてはいなかった。
足にはいつでも行儀よく靴、それも靴どころかソルジャーのブーツ。
青の間の外へ出る時はもちろん、青の間でだって。
ハーレイの部屋へ出掛けた時にも、靴を脱いではいなかった。
嘘…、って思わず零れた言葉。
どんな時でも靴だったなんて、と驚いたけれど、本当に、そう。
白いシャングリラは靴を履くのが普通の世界で、誰でも靴を履いていた。
自分の部屋に一人きりの時も、きちんと靴を。
前のハーレイも、ぼくも、もちろん靴を。
脱いだりしないで履いていた靴、前のぼくだとソルジャーのブーツ。
あれはどの辺まであったっけ、って足を眺めてビックリした、ぼく。
玄関で脱いで来た靴なんかより、ずっと上まであった靴。
ピッタリしていたソルジャーのブーツ、前のぼくが脱がなかった靴。
(…脱ごうとも思っていなかったけど…)
履いているのが当然だったし、お風呂の時とか、寝る時だとか。
そういう時しか靴は脱がなくて、いつだって履いているもので。
前のぼくは変とも思っていなくて、うっとおしいとも思ってなくて…。
(あの靴は特別な靴だったけど…)
ソルジャー用にと開発されてて、重いと思ったことは無かった。
うっとおしいとも思わなかった。
だけど、いつでも両足に靴。
足は自由になれはしなくて、裸足になんかはなれなくて。
(…可哀相だった?)
前のぼくの足。
ハーレイもだけど、靴を脱がないのが当たり前だと思われてた足。
今は脱いでもいいけれど。
家に帰ったらポイと脱いでよくて、いくらでも裸足でいられるけれど。
靴下だって脱いでいいけど、前のぼくたちの足は違った。
いつも、いつでも靴の中。
ぼくの足にはソルジャーのブーツ、ハーレイの足にはキャプテンの靴。
青の間でも、ハーレイの部屋の中でも、いつだって、靴。
箱舟なんだと思っていた船、本当に箱舟だった船。
白いシャングリラは前のぼくたちの楽園みたいな船だったけれど。
其処で出来る限りの自由を手に入れて暮らしていたけど、靴に関しては…。
(…自由じゃなかった?)
履いているのが当たり前だった段階で。
脱いでいいですよ、って誰も言わなかった、思いもしなかった段階で。
裸足はこんなに気持ちいいのに、靴を脱いだら足はググンと軽くなるのに。
それを知らずに暮らしたぼくたち、白いシャングリラで暮らしたぼくたち。
靴は脱いでもいいものなんだ、って誰も考えてはいなかったから。
履いているのが当たり前のもので、部屋の中でも履いてて当然だったから。
(…前のぼくの足…)
あんなブーツに包まれたままで、脱いで貰えもしなくって。
どんなに窮屈だっただろう。
我慢強かった足は文句を言わなかったけど、きっと自由になりたかったと思う。
ブーツを脱いで欲しかったと思う、四六時中あんなのを履いていないで。
ちょっとくらい、って思っただろう、ほんの少しでいいから脱いで、って。
今日のぼくの足は文句を言っていたんだから。
足が重たいって、息が出来ないって、せっせと文句。
早く帰って自由にしてよって、この靴を脱いで外に出してよ、って。
前のぼくには無かった自由。
まるで全く気付いていなくて、自由じゃないとも少しも思っていなかったけれど。
(でも、脱げなかった…)
あのブーツは。
足にピッタリくっつくように出来上がっていたソルジャーのブーツ。
学校指定の今の靴より、うんと大袈裟だった白いブーツは。
どうして脱ごうと思わなかったのか、脱ぎたいとも思わなかったのか。
真面目に毎日履いたままでいて、部屋に一人でいる時だって。
ポイと捨てちゃって足をブラブラさせていたって、誰も気付きはしなかったろうに。
せいぜい、夜にハーレイが来た時、顔を顰める程度だったろうに。
(…あれが普通だと思っていたから…)
靴は脱いでもかまわないなんて、ちっとも思っていなかったから。
誰でも自分の部屋の中でも、きちんと靴を履いていたから。
(でも、今は…)
家の中なら脱いでもいい。
「ただいま」って玄関のドアを開けて入ったら、脱いでしまってかまわない靴。
どんなに軽くても、学校指定でも、脱いでもいい靴、叱られない靴。
もしかしなくても、今はとっても自由になったんだろうか、ぼくの足は?
前のぼくの足も、ハーレイの足も、今度はうんと自由だろうか?
(…うん、きっと…)
自由だと思う、だって脱いでもいいんだから。
ハーレイもぼくも、家に入ったら、靴なんか履いていなくてもいい。
ほんの小さなことだけれども、靴を脱いでもいい自由。
家に入ったら、脱いでもいい靴。
ぼくたちは、うんと自由になった。
前のぼくたちが生きた頃より、白いシャングリラの頃よりも自由。
靴は脱いでもいいんだから。
脱いでしまって裸足でいたって、誰も怒りはしないんだから…。
脱いでもいい靴・了
※ブルー君も気付いた、靴を脱いでもいい自由。小さなことでも、考えてみれば幸せです。
前は脱げなかった靴を脱いで裸足で足をパタパタ、今ならではの自由ですよねv