(嘘みたいだけど…)
夢を見ているみたいだけれど、とブルーは頬をギュッと抓った。
柔らかな頬を。柔らかな手でギュッと。
(やっぱり痛い…)
痛いから夢は見ていない。
抓った頬の手触りは柔らかくて、肌も記憶とは違うのだけれど。
頬を抓ってみた手でさえもが、まるで違っているのだけれど。
それでも見慣れた自分の手で。
確かに自分のものだと分かるし、頬だって。
(でも、子供の手…)
記憶とは違う子供の手。小さくなってしまった両手。
頬の手触りも子供そのもの、肌だって子供。
どこもかしこも子供の自分。十四歳にしかならない小さな子供。
鏡を覗けば小さな自分。其処に映った少年の顔。
(これがぼく…)
知らない顔ではないけれど。
遠い記憶にある顔だけども、またこの顔になるなんて。
ずうっと幼い子供の姿に、小さな身体になっているだなんて。
時が逆さに流れたように。
三百年以上もの時を遡って来たかと思える姿になってしまっているのだけれど。
(三百年より、もっともっと未来…)
時は逆さに流れなかった。
とてつもない時が流れてしまった、知らない間に。
衰えて死の影が差していた身体、それが滅びて無くなってから。
メギドで消えてしまってから。
気付けば自分は地球の上に居て、子供の身体になっていた。
前と全く同じ姿に、少年だった頃の姿に。
(…ぼくは子供で、この星は地球…)
足の下にある地面は丸いことさえ分からないけれど、地球の上。
前の生で焦がれた青い地球の上、新しい身体に生まれて来た。
しかも知らない間に育った、この姿にまで。
前の記憶と綺麗に重なる、前の自分が知る姿にまで。
(ぼくには違いないんだけれど…)
なんという奇跡なのだろう。
失くしてしまった身体の代わりに、前とそっくり変わらない身体。
小さすぎるけれど、子供だけれど。
それでもこれは自分だと分かる、間違いなく自分の身体なのだと。
おまけに地球。
焦がれ続けた地球に生まれた、この姿で。
(ホントのホントに夢みたいだ…)
何度こうして頬を抓ったろう、鏡を覗き込んだろう。
夢ではないかと、儚く消えてしまわないかと。
前の自分が見ている夢かと、怖くなる日もあるけれど…。
(今日は幸せな方なんだよ)
夢みたいだけれど、これが本当。
この幸せが本物なのだと、今日は心が温かい。
ハーレイと過ごしていた日だから。
自分と同じに生まれ変わって来た、ハーレイに抱き締めて貰っていたから。
何度も甘えて、膝に座って、ギュッと抱き付いて幸せだった。
生きているのだと、自分もハーレイも地球に来たのだと。
(うん、夢なんかじゃないんだよ…)
頬を抓ったらちゃんと痛いし、何よりハーレイ。
抱き締めてくれていたハーレイの腕を、身体がちゃんと覚えているから。
(夢じゃなくて、全部ホントのことだよ…)
小さな子供になった自分も、青い地球の上に居ることも。
全てが本当のことなのだと分かる、明日の約束があるのだから。
明日もハーレイが来てくれる。
日曜日だから、今日と同じように。土曜日だった今日と同じように。
明日があるのが本当の証拠、夢ではないという幸せな証拠。
(明日もハーレイと過ごせるんだよ)
夢じゃないから、と眺めたカレンダー。
明日は幸せな日曜日。
ハーレイと二人、この地球で過ごす日曜日。
キスも出来ない小さな身体は、ちょっぴり不満なのだけど。
悲しいけれども、夢のような世界に来たのだから。
我慢しておこう、小さな身体も。
ハーレイに「チビ」と言われ続ける、この小さな手も、柔らかな頬も…。
夢みたいだけど・了
※記憶が戻ったブルー君。こんな日もきっとあるでしょう。
頬っぺたを抓って、ハーレイの腕を思い出して。夢じゃなくって本当だよ、ってv