「すまん、少し外す」
すぐ戻るから、とブルーの部屋から出て行ったハーレイ。
階段を下りてゆく足音がした後、静かになってしまったから。
(ハーレイ、まだかな…?)
一人残されたブルーは部屋の扉をそうっと開けた。
けれども聞こえない、ハーレイの声。母の声もしない。
(…リビングかな?)
リビングに入ってしまったのなら、もう聞こえない。
話の中身が聞こえはしない。
(ちょっと残念…)
何か楽しい計画だったら、コッソリ盗み聞きしたかったのに。
サプライズは無くなってしまうけれども、少しでも早く知りたいのに。
(でも…)
単なる相談事かもしれない。
明日もハーレイは訪ねて来ることに決まっているから、そのことで。
少し遅れるとか、早めに帰るから夕食の支度は要らないだとか。
(遅れるのも、早めの帰りも嫌だな…)
そういう相談ではありませんように、と扉を閉めて祈っていたら。
階段を上がる足音が耳に届いた。
ハーレイの足だと、その足音だと直ぐに分かる音が。
(ママの足音より重いんだよ)
それにゆっくり、と頬が緩んだ。
心なしか母よりもゆっくりに聞こえる、ハーレイが階段を上がる音。
母に案内されて来る時も、そういった風な足音がする。
同じ速さで階段を上がっている筈なのに。
母より遅れてはいないのに。
(もしかして、身体が大きいから?)
そうかもしれない、落ち着いた音だと自分の耳が感じるから。
今だって、そう。
すぐに戻ると言ったからには、ゆっくりと歩く筈がないのに。
(でも…)
もしかしたら、ゆっくり歩くのだろうか?
小さな自分と一緒の時間はつまらないから、わざとゆっくり。
(まさかね…?)
急に心配になって来た。
もしもそうなら、と確かめようと扉を開けたら。
「なんだ、どうした?」
目の前に立っていたハーレイ。
その瞳には「遅くなってすまん」と書いてあったから。
「すまん、待たせたか?」と言われたから。
「ううん、なんでもない…!」
ブルーの心配は吹き飛んだ。
ハーレイがわざと、ゆっくりと歩くわけがない。
こんな笑顔をくれるのだから、すまんと詫びてくれるのだから…。
足音・了