カテゴリー「拍手御礼」の記事一覧
「理不尽だよね…」
ホントのホントに、とブルーがフウと零した溜息。
ハーレイの目の前で、浮かない顔で肩まで落として。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 理不尽って…」
何がだ、とハーレイはテーブルの上を見回した。
少し前に、ブルーの母が運んで来てくれた、午後のお茶。
熱い紅茶がカップに注がれ、ポットにもたっぷり。
ブルーのカップも、ハーレイのカップも、セットの品。
(…紅茶は全く同じだぞ?)
俺だけコーヒーってわけでもないし、とハーレイは悩む。
皿に載せられたケーキにしたって、何処も変わらない。
(お互い、ちょっとは食っちまったから…)
大きさに差が見えるけれども、元は同じな大きさだった。
ハーレイの分だけ大きめだった、ということはない。
なんと言っても、ブルーはケーキや甘いお菓子が大好物。
(たとえ食い切れないにしたって、差があったら、だ…)
機嫌が悪くなるのは確実、だから最初から差はつかない。
ブルーの具合が悪くない限り、いつも大きさは全く同じ。
そういったわけで、見たところ、理不尽な点は無かった。
ブルーが溜息を零す理由も、肩を落としてしまう原因も。
(…弱ったな…)
いったい何が理不尽なんだ、とハーレイには解せない。
ブルーの家に来てからだって、何も起きてはいない筈。
(俺だけ優遇されるようなことは…)
無かったよな、と順に振り返ってみる。
家に着いてブルーの部屋に通され、それから…、と。
午前中に此処で出て来たお茶もお菓子も、ブルーと公平。
昼食は、ブルーの分が少なめだったのだけれど…。
(そいつも、いつもと同じでだな…)
俺と同じな量だった方が理不尽だぞ、とハーレイは思う。
なにしろブルーは食が細くて、少しの量でお腹一杯。
昼食をたっぷり摂ろうものなら、午後のおやつは無理。
(朝飯の時に、お父さんの皿からソーセージを、だ…)
「これも食べろよ」と譲られただけでも苦労するらしい。
たった一本、増えただけなのに。
ハーレイにしてみれば、本当に「たった一本」なのに。
(そんなヤツだし、昼飯は少なくなっていないと…)
逆に困ってしまう筈だが、と謎は深まる。
けれど、昼食の量くらいしか思い付かないものだから…。
「おい。理不尽っていうのは、もしかして、だ…」
昼飯なのか、とハーレイはブルーに問い掛けた。
「俺の方が量が多かったんだが、それなのか?」と。
するとブルーは、「うん…」と小さく頷いた。
「そうなるの、仕方ないけれど…。だってハーレイは…」
ぼくと違って大きいもんね、とブルーは再び溜息をつく。
「大人は身体が大きいんだから、食べられる量も…」と。
「おいおいおい…」
そりゃまあ、俺は大人なんだが、とハーレイは苦笑した。
ブルーの言い分は分かるけれども、指摘したくなる。
「前のお前は…」と、時の彼方でのことを。
「いいか、お前が大人になったところで、大した量は…」
食えんだろうが、とクックッと笑う。
「前のお前も食が細くて、食えなかったぞ」と。
「俺と同じ量の朝飯なんかは、無理だったんだし」と。
そう言ってやると、ブルーは「でも…」と反論して来た。
「それはそうだけど、でも、ハーレイだけ…」
大人だっていうのは、理不尽だよ、と。
こんな差なんかつかなくっても、と頬を膨らませて。
「あのね、ぼくだけチビなんだよ?」
食事も少なくされるくらいの、とブルーは唇を尖らせた。
「ハーレイは、とっくに大人なのに」と、睨み付けて。
「どうしてぼくだけ、まだチビなわけ?」と。
(…そこか…!)
理不尽だと言ってやがるのは、とハーレイも溜息をつく。
「またか」と、「キスが出来ない文句を言う気だ」と。
どうせそうなるに決まっているから、先に口を開いた。
「なるほど、お前も前と同じに大人が良かった、と」
そうなんだな、と確認すると、ブルーは大きく頷く。
「決まってるでしょ、その方が、ずっと…!」
いいんだもの、と言うから、ハーレイは笑って返した。
「そうだな、俺も暇になるしな」と。
「学校でまで、お前と顔を合わせもしないし」と。
仕事帰りにまで寄らなくてよくて、週末だけで、とも。
「ちょ、ちょっと…!」
そうなっちゃうの、とブルーが叫ぶから、ニヤリと笑う。
「当然だろうが」と、「お前は上の学校なんだし」と。
「そうそう会ってはいられないぞ」と。
「困るよ、それは…!」
このままでいい、とブルーは悲鳴を上げ続ける。
「それじゃ、結婚するまで、ずっと離れっ放しだよ」と。
「そんなの嫌だ」と、「チビでなくちゃ困る」と…。
理不尽だよね・了
ホントのホントに、とブルーがフウと零した溜息。
ハーレイの目の前で、浮かない顔で肩まで落として。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ? 理不尽って…」
何がだ、とハーレイはテーブルの上を見回した。
少し前に、ブルーの母が運んで来てくれた、午後のお茶。
熱い紅茶がカップに注がれ、ポットにもたっぷり。
ブルーのカップも、ハーレイのカップも、セットの品。
(…紅茶は全く同じだぞ?)
俺だけコーヒーってわけでもないし、とハーレイは悩む。
皿に載せられたケーキにしたって、何処も変わらない。
(お互い、ちょっとは食っちまったから…)
大きさに差が見えるけれども、元は同じな大きさだった。
ハーレイの分だけ大きめだった、ということはない。
なんと言っても、ブルーはケーキや甘いお菓子が大好物。
(たとえ食い切れないにしたって、差があったら、だ…)
機嫌が悪くなるのは確実、だから最初から差はつかない。
ブルーの具合が悪くない限り、いつも大きさは全く同じ。
そういったわけで、見たところ、理不尽な点は無かった。
ブルーが溜息を零す理由も、肩を落としてしまう原因も。
(…弱ったな…)
いったい何が理不尽なんだ、とハーレイには解せない。
ブルーの家に来てからだって、何も起きてはいない筈。
(俺だけ優遇されるようなことは…)
無かったよな、と順に振り返ってみる。
家に着いてブルーの部屋に通され、それから…、と。
午前中に此処で出て来たお茶もお菓子も、ブルーと公平。
昼食は、ブルーの分が少なめだったのだけれど…。
(そいつも、いつもと同じでだな…)
俺と同じな量だった方が理不尽だぞ、とハーレイは思う。
なにしろブルーは食が細くて、少しの量でお腹一杯。
昼食をたっぷり摂ろうものなら、午後のおやつは無理。
(朝飯の時に、お父さんの皿からソーセージを、だ…)
「これも食べろよ」と譲られただけでも苦労するらしい。
たった一本、増えただけなのに。
ハーレイにしてみれば、本当に「たった一本」なのに。
(そんなヤツだし、昼飯は少なくなっていないと…)
逆に困ってしまう筈だが、と謎は深まる。
けれど、昼食の量くらいしか思い付かないものだから…。
「おい。理不尽っていうのは、もしかして、だ…」
昼飯なのか、とハーレイはブルーに問い掛けた。
「俺の方が量が多かったんだが、それなのか?」と。
するとブルーは、「うん…」と小さく頷いた。
「そうなるの、仕方ないけれど…。だってハーレイは…」
ぼくと違って大きいもんね、とブルーは再び溜息をつく。
「大人は身体が大きいんだから、食べられる量も…」と。
「おいおいおい…」
そりゃまあ、俺は大人なんだが、とハーレイは苦笑した。
ブルーの言い分は分かるけれども、指摘したくなる。
「前のお前は…」と、時の彼方でのことを。
「いいか、お前が大人になったところで、大した量は…」
食えんだろうが、とクックッと笑う。
「前のお前も食が細くて、食えなかったぞ」と。
「俺と同じ量の朝飯なんかは、無理だったんだし」と。
そう言ってやると、ブルーは「でも…」と反論して来た。
「それはそうだけど、でも、ハーレイだけ…」
大人だっていうのは、理不尽だよ、と。
こんな差なんかつかなくっても、と頬を膨らませて。
「あのね、ぼくだけチビなんだよ?」
食事も少なくされるくらいの、とブルーは唇を尖らせた。
「ハーレイは、とっくに大人なのに」と、睨み付けて。
「どうしてぼくだけ、まだチビなわけ?」と。
(…そこか…!)
理不尽だと言ってやがるのは、とハーレイも溜息をつく。
「またか」と、「キスが出来ない文句を言う気だ」と。
どうせそうなるに決まっているから、先に口を開いた。
「なるほど、お前も前と同じに大人が良かった、と」
そうなんだな、と確認すると、ブルーは大きく頷く。
「決まってるでしょ、その方が、ずっと…!」
いいんだもの、と言うから、ハーレイは笑って返した。
「そうだな、俺も暇になるしな」と。
「学校でまで、お前と顔を合わせもしないし」と。
仕事帰りにまで寄らなくてよくて、週末だけで、とも。
「ちょ、ちょっと…!」
そうなっちゃうの、とブルーが叫ぶから、ニヤリと笑う。
「当然だろうが」と、「お前は上の学校なんだし」と。
「そうそう会ってはいられないぞ」と。
「困るよ、それは…!」
このままでいい、とブルーは悲鳴を上げ続ける。
「それじゃ、結婚するまで、ずっと離れっ放しだよ」と。
「そんなの嫌だ」と、「チビでなくちゃ困る」と…。
理不尽だよね・了
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「失敗しちゃった…」
ホントに失敗、とブルーがハーレイの前で零した溜息。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
急にどうした、とハーレイはテーブルの上を見回した。
ブルーのカップも、ケーキ皿の周りも、綺麗なもの。
紅茶の雫もケーキの欠片も、テーブルを汚してはいない。
(そもそも、零していないんだしな?)
行儀よく食べているんだし…、とハーレイには解せない。
いったい何が失敗なのか、ブルーが何をしでかしたのか。
(…今の話ではないんだろうか?)
たった今、思い出したというだけで、と考えてみる。
そういうことなら、有り得ない話ではないだろう。
ハーレイが此処に来るよりも前に、何か失敗したのなら。
(ふうむ…)
こいつは訊いた方が早いな、とブルーに視線を向けた。
それが一番早いだろうし、手助けもしてやれるから。
「失敗って…。お前は何をやらかしたんだ?」
見たところ、何も無いようだが、とテーブルを指差す。
「今の話じゃないのか、それは?」と、真っ直ぐに。
するとブルーは「うん」と頷き、超特大の溜息をついた。
「あのね、ホントに失敗なんだよ…。大失敗で…」
一生ものっていうヤツで…、とブルーの顔色は冴えない。
「もう取り返しがつかないんだよ」と、肩を落として。
「おいおいおい…。一生ものって…」
えらく深刻に聞こえるぞ、とハーレイは瞳を瞬かせた。
大失敗というならともかく、一生ものとは普通ではない。
もっとも、今のブルーは十四歳の少年なのだし…。
(…大人から見りゃ、大したことではなくっても…)
充分、大きな失敗だろうし、一生ものだとも思うだろう。
生きて来た時間が短すぎる分、経験の数も少ないから。
前のブルーの記憶があっても、その点は普通の子と同じ。
物事を深刻に受け止めてしまって、行き詰まって…。
(大失敗だ、と思っちまうんだよな)
きっとそれだ、とハーレイは頭の中で結論付ける。
ブルーにとっては一生もので、困っているに違いないと。
そうと分かれば、此処は大人の出番。
前の生からの恋人としても、手助けをするべきだろう。
ブルーの悩みをしっかりと聞いて、助言をして。
よし、とハーレイは、小さなブルーに問い掛けた。
「一生もので、取り返しがつかない失敗ってヤツだが…」
何をしたんだ、と質問の中身は簡潔にする。
あれこれ回りくどく言うより、単刀直入が子供には大切。
けれど、ブルーは答えないから、具体例を出した。
「お気に入りのカップでも割ったのか?」と。
その手の失敗は、子供には痛い。
幼い頃からずっと一緒の「何か」を壊してしまうのは。
ブルーは「ううん…」と首を横に振り、元気が無い。
「もっと深刻」と、「ホントに一生ものだから」と。
ハーレイは「うーむ…」と唸って、腕組みをした。
この様子では、かなり深刻そうな感じではある。
昨日までに提出予定の宿題を出し忘れたとかではない。
(…参ったな…)
これじゃアドバイスも出来ん、と溜息が出そう。
ブルーを助けてやるべきなのに、自分は何も出来なくて。
「なあ、正直に俺に話してみないか?」
手を貸せるかもしれないぞ、とハーレイは質問を変えた。
ブルーの心に響くようにと、笑みを浮かべて。
「俺は大人な分、お前よりも経験を積んでるしな?」と。
「いいアイデアがあるかもしれん」と、余裕たっぷりに。
するとブルーの表情が変わった。
「ホント? ホントに、手助けしてくれる?」
ぼくの失敗、取り返せるの、とブルーの赤い瞳が揺れる。
「一生ものの大失敗でも、今から挽回出来るかな?」と。
「そうだな、子供のお前には一生ものに思えても、だ…」
大人から見りゃ、そうではないことも、と説明してやる。
「まだ充分にやり直せることも多いんだぞ」と。
「抱え込んでいないで、話してみろ」と、促して。
そうしたら…。
「あのね、ぼくの失敗、ハーレイと再会した時に…」
キスしなかったことなんだよ、とブルーが返した答え。
「あそこでちゃんとキスしていたら、今だって…」
キスは禁止になってないよね、とブルーは微笑むけれど。
「キスしてれば、今も唇にキス…」というのだけれど…。
「馬鹿野郎!」
そいつは失敗したままでいい、とハーレイは叱る。
小さなブルーを鋭く睨んで、厳しい口調で始めた説教。
「お前にはキスは、まだ早いんだ」と。
「失敗したって当然なんだ」と、「挽回は要らん」と…。
失敗しちゃった・了
ホントに失敗、とブルーがハーレイの前で零した溜息。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
急にどうした、とハーレイはテーブルの上を見回した。
ブルーのカップも、ケーキ皿の周りも、綺麗なもの。
紅茶の雫もケーキの欠片も、テーブルを汚してはいない。
(そもそも、零していないんだしな?)
行儀よく食べているんだし…、とハーレイには解せない。
いったい何が失敗なのか、ブルーが何をしでかしたのか。
(…今の話ではないんだろうか?)
たった今、思い出したというだけで、と考えてみる。
そういうことなら、有り得ない話ではないだろう。
ハーレイが此処に来るよりも前に、何か失敗したのなら。
(ふうむ…)
こいつは訊いた方が早いな、とブルーに視線を向けた。
それが一番早いだろうし、手助けもしてやれるから。
「失敗って…。お前は何をやらかしたんだ?」
見たところ、何も無いようだが、とテーブルを指差す。
「今の話じゃないのか、それは?」と、真っ直ぐに。
するとブルーは「うん」と頷き、超特大の溜息をついた。
「あのね、ホントに失敗なんだよ…。大失敗で…」
一生ものっていうヤツで…、とブルーの顔色は冴えない。
「もう取り返しがつかないんだよ」と、肩を落として。
「おいおいおい…。一生ものって…」
えらく深刻に聞こえるぞ、とハーレイは瞳を瞬かせた。
大失敗というならともかく、一生ものとは普通ではない。
もっとも、今のブルーは十四歳の少年なのだし…。
(…大人から見りゃ、大したことではなくっても…)
充分、大きな失敗だろうし、一生ものだとも思うだろう。
生きて来た時間が短すぎる分、経験の数も少ないから。
前のブルーの記憶があっても、その点は普通の子と同じ。
物事を深刻に受け止めてしまって、行き詰まって…。
(大失敗だ、と思っちまうんだよな)
きっとそれだ、とハーレイは頭の中で結論付ける。
ブルーにとっては一生もので、困っているに違いないと。
そうと分かれば、此処は大人の出番。
前の生からの恋人としても、手助けをするべきだろう。
ブルーの悩みをしっかりと聞いて、助言をして。
よし、とハーレイは、小さなブルーに問い掛けた。
「一生もので、取り返しがつかない失敗ってヤツだが…」
何をしたんだ、と質問の中身は簡潔にする。
あれこれ回りくどく言うより、単刀直入が子供には大切。
けれど、ブルーは答えないから、具体例を出した。
「お気に入りのカップでも割ったのか?」と。
その手の失敗は、子供には痛い。
幼い頃からずっと一緒の「何か」を壊してしまうのは。
ブルーは「ううん…」と首を横に振り、元気が無い。
「もっと深刻」と、「ホントに一生ものだから」と。
ハーレイは「うーむ…」と唸って、腕組みをした。
この様子では、かなり深刻そうな感じではある。
昨日までに提出予定の宿題を出し忘れたとかではない。
(…参ったな…)
これじゃアドバイスも出来ん、と溜息が出そう。
ブルーを助けてやるべきなのに、自分は何も出来なくて。
「なあ、正直に俺に話してみないか?」
手を貸せるかもしれないぞ、とハーレイは質問を変えた。
ブルーの心に響くようにと、笑みを浮かべて。
「俺は大人な分、お前よりも経験を積んでるしな?」と。
「いいアイデアがあるかもしれん」と、余裕たっぷりに。
するとブルーの表情が変わった。
「ホント? ホントに、手助けしてくれる?」
ぼくの失敗、取り返せるの、とブルーの赤い瞳が揺れる。
「一生ものの大失敗でも、今から挽回出来るかな?」と。
「そうだな、子供のお前には一生ものに思えても、だ…」
大人から見りゃ、そうではないことも、と説明してやる。
「まだ充分にやり直せることも多いんだぞ」と。
「抱え込んでいないで、話してみろ」と、促して。
そうしたら…。
「あのね、ぼくの失敗、ハーレイと再会した時に…」
キスしなかったことなんだよ、とブルーが返した答え。
「あそこでちゃんとキスしていたら、今だって…」
キスは禁止になってないよね、とブルーは微笑むけれど。
「キスしてれば、今も唇にキス…」というのだけれど…。
「馬鹿野郎!」
そいつは失敗したままでいい、とハーレイは叱る。
小さなブルーを鋭く睨んで、厳しい口調で始めた説教。
「お前にはキスは、まだ早いんだ」と。
「失敗したって当然なんだ」と、「挽回は要らん」と…。
失敗しちゃった・了
「ねえ、ハーレイ。技を磨くのは…」
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
いきなり何だ、とハーレイは目を丸くした。
急に聞かれたのも原因だけれど、それ以上に驚かされた点。
「技を磨く」という言葉。
向かいに座った、十四歳にしかならないブルーとは…。
(あまりにも、結び付かないんだが…!)
まるで全く、と心の中が「?」マークで溢れ返っている。
どう転がったら、ブルーが技を磨こうだなとど思うのか。
磨く必要など思い付かないし、第一、技というもの自体…。
(こいつには無いと思うんだがな?)
前のあいつなら、ともかくとして…、とブルーを見詰めた。
サイオンが不器用な今のブルーに、技があるとは思えない。
身体も弱いし、磨くような技を身につけるのも…。
(およそ無理だった筈なんだが…?)
それとも他の技なのだろうか、体力ではなくて手先とか。
書道の腕前が群を抜くとか、楽器の演奏が上手いとか。
(…そっちなのか?)
考えたことも無かったんだが、と思いながらも問い返した。
「技というのは、身につけている技のことか?」と。
するとブルーは、コクリと大きく頷いた。
「そうだけど…。ハーレイだったら、柔道かな?」
水泳の方もそうかもだけど、とブルーは真剣な瞳で答える。
「そういう技って、磨いていくのが大切だよね?」と。
「ああ、まあ…。それは基本というヤツだよな」
技ってヤツは磨いてこそだ、とハーレイも頷く。
「そいつは、とても大事なことだ」と、大真面目な顔で。
柔道にしても水泳にしても、技は磨いてゆかねばならない。
自分自身を鍛えて、磨いて、上を目指してゆく努力が大切。
「もう、このくらいでいいだろう」では、上には行けない。
行けないどころか、努力をしなくなった途端に…。
(坂を転がり落ちるみたいに、アッと言う間に…)
技は錆び付き、それまでの積み重ねが台無しになる。
だから毎日、せっせと磨いてゆかなくては。
技そのものは繰り出さなくても、土台になっているものを。
長年、柔道と水泳を続けて、部活の指導などもして来た。
その経験を踏まえた上で、ハーレイはブルーに教えてやる。
「いいか、お前が言った通りで、技というのは…」
磨かないと駄目になっちまうんだ、と自分の腕を指差して。
「この腕だって、磨いてやらないと、なまっちまう」と。
「柔道だけじゃなくて、水泳も同じ?」
プールには入っていないでしょ、とブルーは首を傾げた。
「水泳の腕、なまってしまわない?」と。
「そっちの方なら、心配無用だ」
泳がないと駄目ってわけでもない、とハーレイは笑う。
「たまに泳いでやればいいのさ」と、片目を瞑って。
「勘が鈍ってしまわないように、ちゃんと泳いでるぞ」
ジムに出掛けて…、と自慢の腕をポンと叩いてみせる。
「普段、きちんと鍛えているから、出来ることだな」と。
ブルーは「そうなんだ…」と、尊敬の眼差しになった。
「凄いね」と、「それが技を磨くってことなんだ」と。
「そうだぞ、日々の鍛錬ってヤツが大切だ」
どんな技でも磨かないと錆びてしまうしな、と笑んでやる。
「だから、お前も努力しろよ」と、ブルーに向かって。
「お前も技を持っているなら、磨いてこそだ」と。
「ありがとう。ハーレイも、努力してるんだよね?」
毎日、身体を鍛えたりして…、とブルーは瞳を輝かせる。
「だったら、ぼくも頑張らないと」と、嬉しそうに。
「ほほう…。その顔付きだと、お前にも、何か…」
技ってヤツがあるんだな、とハーレイは興味津々で訊いた。
「どんな技だ?」と、「是非とも教えて欲しいもんだ」と。
書道か、はたまた楽器なのかと、ワクワクと心を躍らせて。
ブルーの技は何だろうか、と楽しみに答えを待ったのに…。
「えっとね、ぼくの技なんだけど、磨いてないから…」
錆び付いちゃいそう、とブルーは顔を曇らせて言った。
「このままじゃ、駄目になっちゃうよ」と俯いて。
「そいつはいかんな。此処でサボっていないで、だ…」
早速、磨く努力をしろ、とハーレイは叱咤激励した。
そうしたら…。
「分かった、ハーレイも協力してよ?」
ぼくのキスが下手にならないように、と微笑んだブルー。
「直ぐに練習を始めるから」と、立って、近付いて来て。
「馬鹿野郎!」
そんな技は錆びたままでいいんだ、とハーレイが握った拳。
ブルーの頭を、軽くコツンとやるために。
「今のお前の技じゃないだろ」と、「放っておけ」と…。
技を磨くのは・了
大切だよね、と小さなブルーが投げ掛けた問い。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
いきなり何だ、とハーレイは目を丸くした。
急に聞かれたのも原因だけれど、それ以上に驚かされた点。
「技を磨く」という言葉。
向かいに座った、十四歳にしかならないブルーとは…。
(あまりにも、結び付かないんだが…!)
まるで全く、と心の中が「?」マークで溢れ返っている。
どう転がったら、ブルーが技を磨こうだなとど思うのか。
磨く必要など思い付かないし、第一、技というもの自体…。
(こいつには無いと思うんだがな?)
前のあいつなら、ともかくとして…、とブルーを見詰めた。
サイオンが不器用な今のブルーに、技があるとは思えない。
身体も弱いし、磨くような技を身につけるのも…。
(およそ無理だった筈なんだが…?)
それとも他の技なのだろうか、体力ではなくて手先とか。
書道の腕前が群を抜くとか、楽器の演奏が上手いとか。
(…そっちなのか?)
考えたことも無かったんだが、と思いながらも問い返した。
「技というのは、身につけている技のことか?」と。
するとブルーは、コクリと大きく頷いた。
「そうだけど…。ハーレイだったら、柔道かな?」
水泳の方もそうかもだけど、とブルーは真剣な瞳で答える。
「そういう技って、磨いていくのが大切だよね?」と。
「ああ、まあ…。それは基本というヤツだよな」
技ってヤツは磨いてこそだ、とハーレイも頷く。
「そいつは、とても大事なことだ」と、大真面目な顔で。
柔道にしても水泳にしても、技は磨いてゆかねばならない。
自分自身を鍛えて、磨いて、上を目指してゆく努力が大切。
「もう、このくらいでいいだろう」では、上には行けない。
行けないどころか、努力をしなくなった途端に…。
(坂を転がり落ちるみたいに、アッと言う間に…)
技は錆び付き、それまでの積み重ねが台無しになる。
だから毎日、せっせと磨いてゆかなくては。
技そのものは繰り出さなくても、土台になっているものを。
長年、柔道と水泳を続けて、部活の指導などもして来た。
その経験を踏まえた上で、ハーレイはブルーに教えてやる。
「いいか、お前が言った通りで、技というのは…」
磨かないと駄目になっちまうんだ、と自分の腕を指差して。
「この腕だって、磨いてやらないと、なまっちまう」と。
「柔道だけじゃなくて、水泳も同じ?」
プールには入っていないでしょ、とブルーは首を傾げた。
「水泳の腕、なまってしまわない?」と。
「そっちの方なら、心配無用だ」
泳がないと駄目ってわけでもない、とハーレイは笑う。
「たまに泳いでやればいいのさ」と、片目を瞑って。
「勘が鈍ってしまわないように、ちゃんと泳いでるぞ」
ジムに出掛けて…、と自慢の腕をポンと叩いてみせる。
「普段、きちんと鍛えているから、出来ることだな」と。
ブルーは「そうなんだ…」と、尊敬の眼差しになった。
「凄いね」と、「それが技を磨くってことなんだ」と。
「そうだぞ、日々の鍛錬ってヤツが大切だ」
どんな技でも磨かないと錆びてしまうしな、と笑んでやる。
「だから、お前も努力しろよ」と、ブルーに向かって。
「お前も技を持っているなら、磨いてこそだ」と。
「ありがとう。ハーレイも、努力してるんだよね?」
毎日、身体を鍛えたりして…、とブルーは瞳を輝かせる。
「だったら、ぼくも頑張らないと」と、嬉しそうに。
「ほほう…。その顔付きだと、お前にも、何か…」
技ってヤツがあるんだな、とハーレイは興味津々で訊いた。
「どんな技だ?」と、「是非とも教えて欲しいもんだ」と。
書道か、はたまた楽器なのかと、ワクワクと心を躍らせて。
ブルーの技は何だろうか、と楽しみに答えを待ったのに…。
「えっとね、ぼくの技なんだけど、磨いてないから…」
錆び付いちゃいそう、とブルーは顔を曇らせて言った。
「このままじゃ、駄目になっちゃうよ」と俯いて。
「そいつはいかんな。此処でサボっていないで、だ…」
早速、磨く努力をしろ、とハーレイは叱咤激励した。
そうしたら…。
「分かった、ハーレイも協力してよ?」
ぼくのキスが下手にならないように、と微笑んだブルー。
「直ぐに練習を始めるから」と、立って、近付いて来て。
「馬鹿野郎!」
そんな技は錆びたままでいいんだ、とハーレイが握った拳。
ブルーの頭を、軽くコツンとやるために。
「今のお前の技じゃないだろ」と、「放っておけ」と…。
技を磨くのは・了
「ねえ、ハーレイ。贈り物って…」
受け取らないと失礼になるんだよね、と首を傾げたブルー。
二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
贈り物だって、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
いったい何を言い出すのかと、小さな恋人を観察する。
(…贈り物ってだけでも、充分、唐突過ぎるのに…)
失礼かどうかと訊かれても、と湧き上がる疑問は尽きない。
こういった時のブルーの質問、それは大抵、良くないもの。
何かとんでもない魂胆があって、探るように尋ねて来る。
額面通りに受け取ったならば、馬鹿を見ることが大多数。
(どうせ今日のも、そういうヤツだぞ)
その手に乗るか、と思いながらも、問い返してみる。
「何か贈り物を貰ったのか?」
それとも貰う予定なのか、と赤い瞳を覗き込んだ。
「誕生日には、まだ早すぎるが」と、「何かの礼か?」と。
ブルーが気にする、贈り物のこと。
受け取る話が出て来るからには、心当たりがあるのだろう。
いくら唐突でも、それを言わせた何かがある筈。
そう考えて、質問の意図を探り出そうとしたのだけれど…。
「贈り物なんか貰っていないし、予定も無いよ」
次に貰えるのはクリスマスかな、とブルーは答えた。
クリスマスには、きっと貰える筈、とニッコリと笑む。
「パパとママもくれるし、ハーレイもでしょ?」と。
「俺は、やるとは言っていないが?」
気が早いにも程があるぞ、とハーレイは顔を顰めてみせた。
ブルーに何か贈るにしたって、せいぜい、お菓子。
日持ちするクッキーや焼き菓子の類、そういう程度。
(こいつが、大事に取っておくようなものは…)
誕生日までは贈らないんだ、と決めている。
そうでなくても恋人気取りで、何かと困らされるから。
「えっ、ハーレイは何もくれないの?」
「お前が期待するようなものは、贈らんだろうな」
子供には菓子で充分だ、とハーレイは返してやった。
「靴下を用意しておくんだぞ」と、「入れてやるから」と。
「靴下って…。それに、お菓子って…」
酷い、とブルーが頬を膨らませるから、チャンスと捉えた。
ブルーの質問の意図はともかく、答えは返せる。
ハーレイはブルーを真っ直ぐ見詰めて、こう言った。
「おい、それは失礼っていうモンだろう」
「えっと…?」
何処が、とキョトンとしているブルーに、畳み掛ける。
「お前、自分で言っただろうが。さっき、俺にな」
贈り物を受け取らないと失礼なんだろ、と意地悪く尋ねた。
「そう思ったから訊いたんだろう」と、「違うのか?」と。
ブルーは瞳をパチパチとさせて、渋々といった体で頷いた。
「そうだけど…」と、それは不満そうな顔をして。
「じゃあ、ハーレイがお菓子をくれたら…」
「受け取らないと失礼だよなあ、「ありがとう」って」
喜んで靴下に入れて貰うこった、とハーレイは笑った。
「それがマナーというものなんだぞ、贈り物を貰った時の」
ちゃんと質問にも答えたからな、と腕組みをする。
「どうだ?」と、「これで満足したか?」と。
「…うう…。分かったよ、お菓子でも我慢する…」
失礼になっちゃいけないものね、とブルーは唸った。
「仕方ないや」と、「それが贈り物のマナーなんだし」と。
(…よしよし、これでクリスマスの贈り物も決まったぞ)
美味い菓子でも買ってやるか、とハーレイは心の中で頷く。
何を贈っても、ブルーは受け取るしかない運命。
ブルー自身が蒔いた種だし、自業自得というものだ。
(菓子なら、悩まなくても済むしな)
ついでに文句も言われないし、と喜んでいたら…。
「あのね、ハーレイ。もう一度、確認なんだけど…」
受け取らないと失礼なんだよね、と恋人が念を押して来た。
「でないとマナー違反なんでしょ」と、真剣な顔で。
「そうだとも。お前も言ったし、俺も肯定したからな」
つまらない菓子でも受け取るんだぞ、と重々しく告げる。
「こんなの嫌だ」は通らないぞ、と「分かったな?」と。
そうしたら…。
「なら、ぼくのキスも受け取って!」
ぼくからの贈り物だから、と立ち上がったブルー。
「唇にキスをしてあげるから」と、「動かないでね」と。
「馬鹿野郎!」
礼儀知らずでも俺は構わん、とハーレイが握り締めた拳。
「そういう贈り物は断る」と、「俺は要らん」と。
「くれると言っても、断固拒否する」と、怖い顔で。
「貰うより前に、頭に一発、プレゼントする」と…。
贈り物って・了
受け取らないと失礼になるんだよね、と首を傾げたブルー。
二人きりで過ごす休日の午後に、突然に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「はあ?」
贈り物だって、とハーレイは鳶色の瞳を丸くした。
いったい何を言い出すのかと、小さな恋人を観察する。
(…贈り物ってだけでも、充分、唐突過ぎるのに…)
失礼かどうかと訊かれても、と湧き上がる疑問は尽きない。
こういった時のブルーの質問、それは大抵、良くないもの。
何かとんでもない魂胆があって、探るように尋ねて来る。
額面通りに受け取ったならば、馬鹿を見ることが大多数。
(どうせ今日のも、そういうヤツだぞ)
その手に乗るか、と思いながらも、問い返してみる。
「何か贈り物を貰ったのか?」
それとも貰う予定なのか、と赤い瞳を覗き込んだ。
「誕生日には、まだ早すぎるが」と、「何かの礼か?」と。
ブルーが気にする、贈り物のこと。
受け取る話が出て来るからには、心当たりがあるのだろう。
いくら唐突でも、それを言わせた何かがある筈。
そう考えて、質問の意図を探り出そうとしたのだけれど…。
「贈り物なんか貰っていないし、予定も無いよ」
次に貰えるのはクリスマスかな、とブルーは答えた。
クリスマスには、きっと貰える筈、とニッコリと笑む。
「パパとママもくれるし、ハーレイもでしょ?」と。
「俺は、やるとは言っていないが?」
気が早いにも程があるぞ、とハーレイは顔を顰めてみせた。
ブルーに何か贈るにしたって、せいぜい、お菓子。
日持ちするクッキーや焼き菓子の類、そういう程度。
(こいつが、大事に取っておくようなものは…)
誕生日までは贈らないんだ、と決めている。
そうでなくても恋人気取りで、何かと困らされるから。
「えっ、ハーレイは何もくれないの?」
「お前が期待するようなものは、贈らんだろうな」
子供には菓子で充分だ、とハーレイは返してやった。
「靴下を用意しておくんだぞ」と、「入れてやるから」と。
「靴下って…。それに、お菓子って…」
酷い、とブルーが頬を膨らませるから、チャンスと捉えた。
ブルーの質問の意図はともかく、答えは返せる。
ハーレイはブルーを真っ直ぐ見詰めて、こう言った。
「おい、それは失礼っていうモンだろう」
「えっと…?」
何処が、とキョトンとしているブルーに、畳み掛ける。
「お前、自分で言っただろうが。さっき、俺にな」
贈り物を受け取らないと失礼なんだろ、と意地悪く尋ねた。
「そう思ったから訊いたんだろう」と、「違うのか?」と。
ブルーは瞳をパチパチとさせて、渋々といった体で頷いた。
「そうだけど…」と、それは不満そうな顔をして。
「じゃあ、ハーレイがお菓子をくれたら…」
「受け取らないと失礼だよなあ、「ありがとう」って」
喜んで靴下に入れて貰うこった、とハーレイは笑った。
「それがマナーというものなんだぞ、贈り物を貰った時の」
ちゃんと質問にも答えたからな、と腕組みをする。
「どうだ?」と、「これで満足したか?」と。
「…うう…。分かったよ、お菓子でも我慢する…」
失礼になっちゃいけないものね、とブルーは唸った。
「仕方ないや」と、「それが贈り物のマナーなんだし」と。
(…よしよし、これでクリスマスの贈り物も決まったぞ)
美味い菓子でも買ってやるか、とハーレイは心の中で頷く。
何を贈っても、ブルーは受け取るしかない運命。
ブルー自身が蒔いた種だし、自業自得というものだ。
(菓子なら、悩まなくても済むしな)
ついでに文句も言われないし、と喜んでいたら…。
「あのね、ハーレイ。もう一度、確認なんだけど…」
受け取らないと失礼なんだよね、と恋人が念を押して来た。
「でないとマナー違反なんでしょ」と、真剣な顔で。
「そうだとも。お前も言ったし、俺も肯定したからな」
つまらない菓子でも受け取るんだぞ、と重々しく告げる。
「こんなの嫌だ」は通らないぞ、と「分かったな?」と。
そうしたら…。
「なら、ぼくのキスも受け取って!」
ぼくからの贈り物だから、と立ち上がったブルー。
「唇にキスをしてあげるから」と、「動かないでね」と。
「馬鹿野郎!」
礼儀知らずでも俺は構わん、とハーレイが握り締めた拳。
「そういう贈り物は断る」と、「俺は要らん」と。
「くれると言っても、断固拒否する」と、怖い顔で。
「貰うより前に、頭に一発、プレゼントする」と…。
贈り物って・了
「あのね、ハーレイって…」
狡いんだから、と小さなブルーが少し険しくした瞳。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「狡いって…。俺がか?」
何かしたか、とハーレイはテーブルの上を見回した。
ブルーの母が運んで来た紅茶は、ポットに入って二人分。
それぞれのカップにも注がれていて、砂糖もミルクも…。
(充分だよな?)
おかわりの分もたっぷりあるし、と視線はケーキへ。
こちらは一人分ずつ、お皿に載せてあるけれど…。
(俺のケーキが、ブルーの分よりデカイってことは…)
ないと思うが、と大きさを目だけで比較してみる。
既に胃袋に収まった分も、くっついていると仮定して。
(…大して変わらん筈だがな?)
それにパウンドケーキでもないぞ、と首を捻った。
そうだったならば、「狡い」というのも分かるんだが、と。
ブルーの母が焼くパウンドケーキは、ハーレイの好物。
好き嫌いは無いハーレイだけれど、それとは別。
(俺のおふくろが焼くパウンドケーキと…)
同じ味だからな、と改めて思う、ブルーの母が焼くケーキ。
ブルーもそれを知っているから、母に注文する時もある。
「次の土曜日は、パウンドケーキを焼いてよね」などと。
(…しかしだ、今日は違うケーキで…)
狡いと言われる筋合いは無い、と不思議になる。
いったい何が「狡い」というのか、見当もつかない。
(それとも、俺用にパウンドケーキを注文出来るのに…)
ブルーは注文出来ないからか、と顎に当てた手。
「これがいいな」と、ケーキを注文出来ないとか、と。
けれど、そんなことは無いだろう。
ブルーの両親はブルーに甘いし、小さなブルーは甘え放題。
きっと普段から、あれこれ注文をつけている筈。
「今日のおやつは、これがいいな」と指定して。
学校から帰る時間に焼き上がるように、ケーキやクッキー。
そういう日々に決まっているから、「狡い」などとは…。
(…何処から出て来て、何を指すんだ?)
サッパリ分からん、と考え込んでいたら、ブルーが尋ねた。
「何が狡いか、分かってないの?」
本当に、と赤い瞳が睨んで来る。
「ぼくより先に生まれて来ちゃって、うんと大きくて…」
大人じゃない、とブルーは唇を尖らせた。
「絶対、狡いと思うんだよね」と、「酷いじゃない」と。
「ぼくのことをチビって、馬鹿にしちゃって」と。
プンスカと怒り始めたブルー。
「ハーレイ、ホントに狡いんだから」と、睨みながら。
「あんまりだってば」と、「先回りしちゃうなんて」と。
(…そう言われてもなあ…?)
こればっかりは、とハーレイは溜息をついた。
ハーレイ自身に責任は無いし、どうすることも出来ない話。
いくら「狡い」と責め立てられても、身体も年も…。
(ガキだった頃には、戻せないしな?)
その上、俺がチビになると…、と思った所で気付いたこと。
もちろん自分も困るけれども、ブルーの方も困るのだ、と。
(…よし、それだ!)
それでいくぞ、とブルーと真っ直ぐ向き合った。
「いいか」と、「よく聞いてから、考えろよ?」と。
「要するに、俺が先に生まれたのが狡いんだな?」
そうだろう、と念を押したら、ブルーは大きく頷いた。
「うん、さっきから言ってるじゃない!」
「分かった、俺が悪かった。今度の俺は、大いに狡い」
ズルをしちまって申し訳ない、とブルーに頭を下げる。
「ちゃんと合わせるべきだったよな」と、「前の俺に」と。
「…前のハーレイ?」
なあに、とブルーが瞳を丸くするから、ニッと笑った。
「そのままの意味だ、俺はお前より、ずっと後にだ…」
生まれて来ないと駄目なんだよな、とニヤニヤしてみせる。
「だから、悪いが、もう十年ほど待ってくれ」と。
「いや、もっとかも」と、「前のお前は年寄りだった」と。
なんと言っても前のブルーは、かなり年上だったから…。
「俺が狡いと言うんだったら、お前もきちんと待つんだぞ」
俺が生まれて来るまでな、と言った途端に上がった悲鳴。
「ごめんなさい!」と。
「もう言わないよ」と、「狡くないよ」と。
「今のハーレイは大人でいいよ」と、泣きそうなブルー。
(…勝った!)
今日は勝ったぞ、とハーレイはクックッと笑い始める。
「そうそう毎回、負けてたまるか」と、「大勝利だ」と…。
狡いんだから・了
狡いんだから、と小さなブルーが少し険しくした瞳。
二人きりで過ごす休日の午後に、唐突に。
お茶とお菓子が置かれたテーブル、それを挟んで。
「狡いって…。俺がか?」
何かしたか、とハーレイはテーブルの上を見回した。
ブルーの母が運んで来た紅茶は、ポットに入って二人分。
それぞれのカップにも注がれていて、砂糖もミルクも…。
(充分だよな?)
おかわりの分もたっぷりあるし、と視線はケーキへ。
こちらは一人分ずつ、お皿に載せてあるけれど…。
(俺のケーキが、ブルーの分よりデカイってことは…)
ないと思うが、と大きさを目だけで比較してみる。
既に胃袋に収まった分も、くっついていると仮定して。
(…大して変わらん筈だがな?)
それにパウンドケーキでもないぞ、と首を捻った。
そうだったならば、「狡い」というのも分かるんだが、と。
ブルーの母が焼くパウンドケーキは、ハーレイの好物。
好き嫌いは無いハーレイだけれど、それとは別。
(俺のおふくろが焼くパウンドケーキと…)
同じ味だからな、と改めて思う、ブルーの母が焼くケーキ。
ブルーもそれを知っているから、母に注文する時もある。
「次の土曜日は、パウンドケーキを焼いてよね」などと。
(…しかしだ、今日は違うケーキで…)
狡いと言われる筋合いは無い、と不思議になる。
いったい何が「狡い」というのか、見当もつかない。
(それとも、俺用にパウンドケーキを注文出来るのに…)
ブルーは注文出来ないからか、と顎に当てた手。
「これがいいな」と、ケーキを注文出来ないとか、と。
けれど、そんなことは無いだろう。
ブルーの両親はブルーに甘いし、小さなブルーは甘え放題。
きっと普段から、あれこれ注文をつけている筈。
「今日のおやつは、これがいいな」と指定して。
学校から帰る時間に焼き上がるように、ケーキやクッキー。
そういう日々に決まっているから、「狡い」などとは…。
(…何処から出て来て、何を指すんだ?)
サッパリ分からん、と考え込んでいたら、ブルーが尋ねた。
「何が狡いか、分かってないの?」
本当に、と赤い瞳が睨んで来る。
「ぼくより先に生まれて来ちゃって、うんと大きくて…」
大人じゃない、とブルーは唇を尖らせた。
「絶対、狡いと思うんだよね」と、「酷いじゃない」と。
「ぼくのことをチビって、馬鹿にしちゃって」と。
プンスカと怒り始めたブルー。
「ハーレイ、ホントに狡いんだから」と、睨みながら。
「あんまりだってば」と、「先回りしちゃうなんて」と。
(…そう言われてもなあ…?)
こればっかりは、とハーレイは溜息をついた。
ハーレイ自身に責任は無いし、どうすることも出来ない話。
いくら「狡い」と責め立てられても、身体も年も…。
(ガキだった頃には、戻せないしな?)
その上、俺がチビになると…、と思った所で気付いたこと。
もちろん自分も困るけれども、ブルーの方も困るのだ、と。
(…よし、それだ!)
それでいくぞ、とブルーと真っ直ぐ向き合った。
「いいか」と、「よく聞いてから、考えろよ?」と。
「要するに、俺が先に生まれたのが狡いんだな?」
そうだろう、と念を押したら、ブルーは大きく頷いた。
「うん、さっきから言ってるじゃない!」
「分かった、俺が悪かった。今度の俺は、大いに狡い」
ズルをしちまって申し訳ない、とブルーに頭を下げる。
「ちゃんと合わせるべきだったよな」と、「前の俺に」と。
「…前のハーレイ?」
なあに、とブルーが瞳を丸くするから、ニッと笑った。
「そのままの意味だ、俺はお前より、ずっと後にだ…」
生まれて来ないと駄目なんだよな、とニヤニヤしてみせる。
「だから、悪いが、もう十年ほど待ってくれ」と。
「いや、もっとかも」と、「前のお前は年寄りだった」と。
なんと言っても前のブルーは、かなり年上だったから…。
「俺が狡いと言うんだったら、お前もきちんと待つんだぞ」
俺が生まれて来るまでな、と言った途端に上がった悲鳴。
「ごめんなさい!」と。
「もう言わないよ」と、「狡くないよ」と。
「今のハーレイは大人でいいよ」と、泣きそうなブルー。
(…勝った!)
今日は勝ったぞ、とハーレイはクックッと笑い始める。
「そうそう毎回、負けてたまるか」と、「大勝利だ」と…。
狡いんだから・了
